<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.14611の一覧
[0] 八神家のそよかぜ【完結済・おまけ投稿】[dragonfly](2011/12/25 02:18)
[1] #1  それは少女たちの出会いなの[dragonfly](2011/12/14 10:34)
[2] #2  名前の意味はそよ風なの[dragonfly](2011/12/14 10:38)
[3] #3  それぞれの胸の光なの[dragonfly](2011/12/14 10:38)
[4] #4  それは早かりし目覚めなの?[dragonfly](2011/12/14 10:38)
[5] #5  わかりきれない気持ちなの?[dragonfly](2011/12/14 10:39)
[6] #5.5 Nain to Boin[おまけ][dragonfly](2013/03/31 13:50)
[7] #6  はじまりは突然になの[dragonfly](2011/12/14 10:38)
[8] #7  街は【瞳】でいっぱいなの?[dragonfly](2011/11/08 09:20)
[9] #7.5 シネマ・アレスタ[突発おまけ][dragonfly](2011/12/14 10:37)
[10] #8  新たなる力、浮上なの?[dragonfly](2011/12/14 10:37)
[11] #9  脅威は追憶の彼方からなの[dragonfly](2013/03/31 13:24)
[12] #10 未完の遺物と現在となの[dragonfly](2013/03/31 13:23)
[13] #11 秘めた決意、隠れた選択なの[dragonfly](2011/12/14 10:36)
[14] #11.5 静夜の捧げ物[IF][dragonfly](2010/02/04 11:30)
[15] #12 それは小さな出会いなの(前編)[dragonfly](2010/04/01 07:23)
[16] #13 それは小さな出会いなの(後編)[dragonfly](2010/06/24 12:21)
[17] #14 招待、そして謝罪なの[dragonfly](2011/12/14 10:35)
[18] #15 なまえをよんで[dragonfly](2011/12/14 10:35)
[19] #16 繕われた過去と現在となの[dragonfly](2010/07/30 09:41)
[20] #17 ここは湯のまち、海鳴温泉なの?[dragonfly](2011/12/14 10:34)
[21] #18 決戦は海の中でなの[dragonfly](2013/03/31 13:39)
[22] #19 夜の終わり、旅の終わり[dragonfly](2011/03/16 05:50)
[23] #19.5 使命の理由[dragonfly](2010/02/04 11:34)
[24] #19.8 集結?[突発おまけ][dragonfly](2010/06/24 12:30)
[25] #20 その日、時空管理局本局[おまけ][dragonfly](2010/06/24 12:29)
[26] 【ネタ】グレアム家の旋風[dragonfly](2010/06/24 12:29)
[27] #66-1 ファースト・ビジット[dragonfly](2010/01/31 19:10)
[28] #66-2 特遮二課[dragonfly](2010/06/24 12:28)
[29] #66-3 Master&Pupil[dragonfly](2010/07/30 09:37)
[30] #66-4 Sisters&Parents[dragonfly](2010/06/24 12:27)
[31] #67-1 魔法の呪文はじゃんけんなの?[dragonfly](2010/06/24 12:26)
[32] #67-2 その日、聖王医療院[dragonfly](2011/03/16 05:44)
[33] #67-3 八神あゆのある1日(前編)[dragonfly](2010/06/24 12:25)
[34] #67-4 八神あゆのある1日(後編)[dragonfly](2010/07/30 09:36)
[35] #67-4.5 ターニング・ポイント[dragonfly](2010/07/30 09:47)
[36] #67-5 管理局は危険がいっぱいなの?[dragonfly](2011/03/16 05:49)
[37] #67-5.5[IF]それは不可思議な出会いなの?[dragonfly](2010/06/24 12:35)
[38] #68-1 バレンタイン・デイ[dragonfly](2011/03/16 05:46)
[39] #68-1.5 泣いた赤鬼、ふたたびなの[dragonfly](2010/02/24 10:52)
[40] #68-2 それは小さな願いなの[dragonfly](2010/02/10 08:54)
[41] #68-2.5 その日、テスタロッサ邸[dragonfly](2010/07/09 12:33)
[42] #68-3 新たなる力、起床なの![dragonfly](2020/08/25 05:09)
[43] #68-3.4 [IF]第101監視世界の「うだるような暑い」一日【ネタ】[dragonfly](2011/12/14 10:39)
[44] #68-3.5[IF]三人目の使い魔なの!?【ネタ】[dragonfly](2010/06/24 12:20)
[45] #68-4 ファミリーズ[dragonfly](2010/07/09 12:28)
[46] #68-4.5 夜の終わり、夢の終わり【ネタ】[dragonfly](2010/07/30 09:38)
[47] #68-5 涙、ふたりで[dragonfly](2010/07/30 09:40)
[48] #69-1 Book's Strike[dragonfly](2010/07/22 05:00)
[49] #69-2 それは大いなる危機なの?[dragonfly](2010/07/30 09:35)
[50] #69-3 なまえをつけて[dragonfly](2010/07/09 12:27)
[51] #69-4 サモナーズ[dragonfly](2010/07/09 12:27)
[52] #70-1 約束の時へ[dragonfly](2020/09/08 21:26)
[53] #71-1[IF]祝福が芽吹くときなの【ネタ】[dragonfly](2011/10/12 09:59)
[54] #71-2[IF]無限の志望【ネタ】[dragonfly](2011/09/28 10:12)
[55] #71-3[IF]虚空からの翼[dragonfly](2011/08/31 12:26)
[56] #71-4[IF] 千尋の谷へ[dragonfly](2011/08/31 12:25)
[57] #72-1 スタンバイ・レディ[dragonfly](2010/07/30 09:40)
[58] #74-1[IF]Sisters&Sisters【ネタ】[dragonfly](2011/07/27 09:32)
[59] #74-2[IF]ファースト・え~ど【ネタ】[dragonfly](2011/05/25 08:22)
[60] #75-2 機動六課のある試験日[dragonfly](2010/03/06 11:04)
[61] #76-1[IF]ここはゆりかご、発掘前線なの【ネタ】[dragonfly](2010/09/18 08:32)
[62] #76-2 炎と氷[dragonfly](2012/08/21 21:33)
[63] #77-1 それは小さな始まりなの[dragonfly](2010/06/24 12:22)
[64] #78-1[IF]スタンバイ・レティ【ネタ】[dragonfly](2010/10/15 09:30)
[65] #78-2 [IF]タリーア!?もうひとりのベルカ王なの![dragonfly](2011/04/01 10:59)
[66] #78-3 魔法の呪文は250万Kなの?[dragonfly](2011/11/08 09:20)
[67] #78-4 [IF]機動六課のある出動【ネタ】[dragonfly](2011/03/16 05:48)
[68] #79-0.1[IF]アナレタ!?もうひとつの魔法術式なの!【ネタ】[dragonfly](2011/03/16 05:46)
[69] #79-0.2[IF]その月、軌道砲架【ネタ】[dragonfly](2010/08/30 10:39)
[70] #79-0.5[IF]それは武式な出会いなの[dragonfly](2011/08/31 12:25)
[71] #79-1 集結[IF][dragonfly](2010/02/26 10:06)
[72] #79-2[IF]それは覆いある利器なの【ネタ】 おまけのおまけ加筆[dragonfly](2012/02/14 20:48)
[73] #84-1[IF]街はなのはがいっぱいなの【ネタ】[dragonfly](2011/10/12 09:56)
[74] #79-ex [IF]思い出は時の彼方なの(前編)[dragonfly](2012/02/14 20:45)
[75] #79-ex [IF]思い出は時の彼方なの(後編)[dragonfly](2012/02/14 20:46)
[77] エイプリルフール冗談企画[dragonfly](2013/04/01 00:00)
[78] 母の日企画[dragonfly](2013/05/12 11:11)
[79] 独自設定、オリジナル解釈、お遊び設定等【本編補完資料】[dragonfly](2012/08/21 21:32)
[80] 七夕企画 #18 決戦は天の川でなの【ルート分岐】[dragonfly](2013/07/07 11:27)
[81] あゆの騎士服[dragonfly](2020/09/08 21:30)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[14611] #79-ex [IF]思い出は時の彼方なの(前編)
Name: dragonfly◆23bee39b ID:309fc8f8 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/02/14 20:45
――【 新暦75年/地球暦5月 】――




「太陽は赤い蟹だと仰ったのは、何処の世界の芸術家さん。だったでしょうか?」


朝はガサガサと這い登り、透明な液体の中を泳いで。

昼にツメを伸ばして、盛んに獲物を突つき回すのだそうです。


しかも此の世界のカニさんは、

「つがいと来てます。暑苦しいコトこの上ないですね」

このバカップルどもめ。早く夕方になって、血を流しながら沈めばいいのに。リア充爆発しろ、なのです。

ああっ! だからと言って南風雲なんかと組んでヤコブのハシゴを下ろさなくたっていいんです。Powを奉じた憶えなんかありませんよ。

ええい、止しなさい。鬱陶しいですね。ハエ雲だけに。


……ふう。

こんな茹だるような暑い日(dog days)は空調の効いたアジトの底で、ウェイリング・ウォール相手に壁紙でも張ってるのが吉でしょう。基地だけに。

今度、ローラ・アシュレイ・ウィルクスにでも行きましょうか。今すぐ風と共に去りたい気分、なのです。


まあ、暑いのは真っ赤なカニカップル達のせいばかりではありません。


視線を戻せば……、


囂々と、焔が逆巻いてます。

滅々と、灼き尽くしていきます。



それでもまだ、地下に到る洞窟にすら辿り着いてません。

こんなことなら、攻城弓の研究でもしておけばよかった。なのです。

ゆっくりとコーヒーで一服、できたでしょうから。


  ……バリスタ違いですか。そうですか。



それにしても、燃え盛る炎を指して『紅蓮』などと言い始めたのは、誰なんでしょうね?

「大毘婆沙論に於ける、八寒地獄の第七。
 或いは長阿含経の十寒地獄中の第十、閻浮提の下にある八大熱地獄の隣り。
 ……だった筈、なのですが」

不完全な戦闘機人化の結果ながら、この舌下神経は回復しました。

なのに……、よく回る舌に気を取られて思い起こすのが、手術台の無影灯の光ではなく、湯煙の向こうの記憶なのは、何故なのでしょう?




****




「ぶしのなさけ、なのです」

恩に着るよ。と異界のフェレットが、よりいっそう小さくなるように身を丸めた時である。

「あゆさん。よろしいですか?」

ほとんど毛玉と化したユーノを背後に庇う形になったあゆに、月村忍が声をかけたのは。

展望風呂から少し離れたこの一角には――無心で花崗岩になりきっているユーノを除けば――、2人しか居ない。

その機会を窺っていた。……と見るのは、穿ち過ぎか。

「なんでしょう?」と小首をかしげるあゆが、あまりにもあどけなく見えて、どうにも忍はその愁眉を開けない。


「……」

何度かの逡巡のあと、弱々しい微笑と共に、ようやく口を開く。

「……例の組織のことで、判らないことがありまして。
 おそらく、ランク付けだとは思われるのですけれど……“S”とか“A”、あるいは“B”や“C”と云った符牒をご存じではないでしょうか?」

月村忍の語るところによると、暗殺者養成施設から押収された資料の中、子供達のカルテにそれぞれアルファベット1文字が書き殴ってあったのだそうだ。
問い質そうにも、生きて捕えた教官たちは大抵下っ端で、書面に手書きされるような非正規の情報などは知らないと嘯いてるらしい――もちろん、自爆テロで使い捨てられる身に過ぎなかった少女が教わろうはずもない――。

しかしあゆは偶然にも、診察中の医師の呟きを憶えていた。

そこから類推できることは、ある。


「ちなみに、わたしの【かるて】には?」

疑問形でありながら、それは単なる確認だ。

いや、そうであって欲しくないとの、願望だったか。


「……」

問われた忍にとって【49-12-54】のカルテ内容は、わざわざ思い出そうとするまでもないシロモノである。
下手に見せないほうがいいだろうと現物は持ってきてないが、「成長ホルモン分泌系破壊時に舌下神経系損傷。要廃棄処分」なんて記述、忘れようがなかった。

「……あゆさんのカルテには、“B”と書かれてました」

あゆとて、もちろんそれだけでは確定できない。

「13の【かるて】、ありましたか?」

それは1度だけ臨時講師に来た、現役No.1スナイパーの番号である。「俺もここで育った」と言っていた。

なんでもこの世界にはジンクスがあって、2と13の数字を背負ったモノは成功する――ちなみに007は乾坤一擲とか背水の陣とか身投げ同然などを示す数字なので、名乗りたがる酔狂者が少ない――のだとか。


「たしか……、」

訊かれるとは思ってなかった数十期前の情報を、しかし忍は憶えていた。

       「……“A”だったかと」


……

そうか……、そうかそうか。

そういうことだったか。と、あゆは得心したのだろう。

能面のように表情筋から力が奪われていくさまを、月村忍はただ見ていることしかできなかった。

「“えす”は おそらく【すまーと ぼむ】という いみ、かと。
 【てろ】などで、こうりつてきな ばしょで じばくできるだけの はんだんのうりょくが ある。と、みなされた こ なのです」

え!? と驚く忍をよそに、あゆはいっそ淡々と。

「【らんく】としては、うえから2ばんめ、ですか」

いや、それがなけなしの感情でも、消さなければ、封じ込めておかねば、耐えられなかったのではないか。


「“えー”は、きっと【あさしん】という いみ。
 あらゆるものを りようし、もくてきをたっせいして、かえってこれると みこまれた こ たち」

カルテに書き込まれた符牒はすなわち、子供たちの能力を見越した上で行われたであろう、使い道の選定――これから屠殺する牛がどれほど美味いかと、食べる前に、やれA-4だ。いやB-5だ。などとランク付けしているようなモノ――だったのだ。


もちろん、目指すべきは生きて還って来て何度でも使える暗殺者、符牒Aことアサシンである。
しかし、そこまで育つのは精々全体の数パーセント。四捨五入どころか二捨三入でも危うい数値で、1人も残らないことだって珍しく、ない。

全く無意味に野垂れ死ぬ前に、せめて自爆テロなどで使い潰すのが慈悲。と云う、度し難く、救いようのない世界の話であった。


「“びー”は【ぶーびー とらっぷ】という いみ、でしょう。
 もくひょうのしゅういに ふりまいて、もちかえらせることで、ないつうさせたり、はかいこうさくをさせたりする こ なのです。
 じりきでは、ごくひりに せんにゅうできない れべる と、いうことなのです」

あゆは今、はっきりと悟ったのだ。
自爆テロで使い棄てられたであろう落ちこぼれとは云え、仮にも暗殺者教育を施されていた自分が何故、はやてのことを無警戒に受け入れられたのか。
どうしてああも素直に、庇護下に入ったのか。

なんてことはない。
好意を向けてくれたものに好意を返すよう、マインドセットされていたのだ。


あゆが殺戮機械として中途半端だから、人として残されたものがまだあったから、はやてを好きになれたのではない。

あゆが自爆テロ要員として仕上げの段階に入っていたから、好意や興味を向けた者に従うようプログラミングされていたから。……だったのだ。


待って! と声を上げかけた忍をやんわりと身振りで制して、しかし、あゆは笑顔。

明らかに作っていると、まるわかりで。


「“しー”は、たぶん【ちぇいさー】といういみ、なのです」

乳白色ににごった湯の下で、あゆはその脇腹をつねっていた。
脚にはもう感覚がないから、ふとももに爪を立てても意味がない。

「はんだんりょくが ほとんどなくて、しじされたものを おいかけるのみ。
 ほとんど【はっしんき】あつかい。
 あるいは、【じらいげん】などを ただ つっきるためにつかわれる こ なのです」

悲しくないかと言われれば、そのとおりだと答えるしかないだろう。
狂おしくないかと問われれば、そのとおりだと泣き叫んだだろう。

今も、脇腹の痛みがなければ、涙を堪えきれたかどうか。




それでも、それでもだ。

人体というものに多少の理解を持つあゆは、――条件反射程度ならまだしも――ヒトの感情や行動様式などを固定し続けることが難しいことを知っている。
薬物で維持していたなら、とっくに代謝できているだろうことを感じてはいた。


だから、だからである。

はじまりこそ薬のせい、ブレインウォッシュのせい、マインドセットのせいだとしても、今は違う。

今はもう違うと、信じられるのである。信じるしか、ないのである。


大事なのは今。
そしてこれからだと、小太刀二刀流の剣士にさっき教えられたばかりではないか。

未来を貰ったばっかりではないか。


「ごめんなさい。
 すいてい できるのは、それくらい、なのです」

先に謝られてしまっては、月村忍に出来ることは殆どない。せめて、と湯を掻き分け、あゆに寄り添おうとした時だった。

「恭也が泣かした女の子って、この子かしら」と、湯煙に人影が増えたのは。




*****




ふ、と意識が引き戻されたのは、過去の湯煙が、目前の硝煙と重なったから。なのでしょうね。

視界内を覆い尽くすのは、泥沼に根を張って艶やかに花開いた、紅蓮の地獄。なのです。


しかしながら、諸経に於ける紅蓮地獄と云うのは、

「そこに落ちれば『酷寒ノアマリ皮膚ガ裂ケ血ハ凍リ、咲キ乱レルコト蓮ノ華ガ如シ』でしたか」

こほんと、握りこぶしの中に、咳払いを捕えます。

「なのに、【紅蓮】が炎を指すようになるとは、生者必滅、会者定離。盛者必衰、有為転変。諸行無常に色即是空。
 なにより、月日は百代の過客。なのでしょうね」


  ……ああ、どうにも独り言が多い。なのです。

それはきっと、改造手術を受け、戦闘機人として目覚めたあの時から。なのでしょう。


「・報告
   操主,ロプノール
   このシャッターで,最後.M-1」

灼き裂いてきた障害の最後のひとつが、炎と化して燃えたマリアージュ達の熱気の向こうに。

「ご苦労様。
 下達。
  その扉を撃ち破ったのち、貴女達はサーバールームに直行してデータの保全に務めなさい。
  そこには、冥王を目覚めさせうる情報があるはず。ロプノール」

「・報告
   理解した.
   -・-・ --・-  -・-・ --・-
 ・報告
   全個体に下達しました.
 ・通達
   命令遂行準備
    左腕,武装化
     形態,滑腔砲
     弾種,徹甲焼夷弾.M-1」

それは、マリアージュの組織液を凝固した砲弾。なのです。

金属はおろかセラミクス類まで灼き尽くす体組織の正体が、一種のバクテリアだと知ったときの驚きを、誰が解かってくれるでしょう?

「・通達
   体表,装甲化
   形態,対マリアージェン・フレア.M-LⅣ」

「・通達
   M-LⅣに同期開始.
   体表,装甲化
   形態,対マリアージェン・フレア.M-CⅧ」

司令官たるM-1の左右1歩前に進み出たのは、ミツバチさん達に喩えるなら働き蜂にあたるM-LⅣとM-CⅧでした。

どうやら体表を装甲化して、炎とか衝撃波、爆風からの盾になってくれるらしい、なのです。


「・具申
   御自身でも,防御を.M-1」

マリアージュ達は群体同然の軍隊なので、個体単位で情報を発信した場合は特定の為に識別番号を名乗って終了宣言とします。
軍隊などの通信で「送レ」とか「over」などと使うようなものでしょうか?

ですから、さきほどから発言の最後に付け加わっているM-1だのM-LⅣだのは、本人のこと。なのです。

「回付。
 身に染みてるわ。ロプノール」

このことに気付かないと、マリアージュ達と正しく意思疎通できないので要注意です。



「・通達
   秒読み,カウント5.M-1」

戦闘機人化を受けて、手に入れたインヒューレントスキル。

     「ザンク」

そもそも魔力素を支配できた此の身に授かったのは、自らのリンカーコアを自在に偏歪させる能力でした。

    「カトーレ」

魔力光は変えられないのに、放つ魔力素の癖だけは変調させられるインヒューレントスキル。

   「ドロワ」

何の役にも立たないIS。でした。

  「ヴール」

しかしそれは、使い方次第でマリアージュをも従わせ得る力、だったのです。

 「アヴィンス」

ガレア神代語のカウントダウンを合図に対閃光防御、対ショック防御を施します。

「デール ファイエーム.M-1」

発射~命中~炸裂~燃焼の過程を見たりなどしません。



……

「・報告
   操主,ロプノール
    目標の破壊完了.
 ・要求
   戦闘評価を.M-1」

真っ赤に灼け落ちた隔壁も、それで最後かと思うと、口の端が吊り上るのを抑えられなくなりそうです。

「下達。
 ミッション・コンプリート。オールオーバー。
 このお祭りも、現時点を以ってお開き。
 貴女達は今後、貴女達の主のためだけに踊りなさい。ロプノール」

「・報告
  操主,ロプノール ……」

……その行動がシナプスに1対1で結節していると思われるマリアージュが言い澱むだなんて、随分と珍しいものを見ました。

「 お言葉を,お借りします.
  御武運を.M-1」

喩え虫でも――越冬するなど長命のモノなどが稀に――親身になって世話した飼い主を見分けることがあると、いいます。

作戦行動能力は昆虫並みと云われる彼女達にも、心ぐらいは在ったのかも、しれないのですね。

「訓令。
 お互い様に、ね。ロプノール」

「・報告
   操主,ロプノール
   了解.M-XⅢ,5,廿伍,Ⅸ,LⅣ,7,世弐,MXⅡ,CDⅧ……」と我先に、マリアージュ達が破孔めがけて殺到していきます。

……あんなに渦巻いて、コリオリフォースが発生しなければいいのですが。






「やあ、ひさしぶり。ヤガミアユ」

跡形も無く灼け溶けた隔壁の向こうに、ドクター・スカリエッティ。

「いや今は、彷徨える魔杖機師、フライングマイスターと呼ぶべきかな?」

ラボの中央に立って、歓迎していると言わんばかりに両腕を開いておられます。

マリアージュ達は指示した通りに彼を無視し、此処を素通りして、更に地下のメインフレームを押さえに行ったのでしょう。

「今はロプノールと名乗っているのは、ご存知のよう。なのですね」

この名を悪名にするわけにはいきませんから、日陰道を歩く身になって以来、偽名は欠かせません。

ウインクはなぜか得意だったので「スティングレイ・プレリュード」とか、見掛けがほとんど変わらないので「レトルト・エージレス」とか、菊かダリアにしか見えない緑の薔薇に肖って「ロサ・キネンシス・ヴィリディフロラ」とか、イチゴを逆さまにしたような赤い実を黒く熟れさせる「ロサ・ガリカ・オフィキナリス」とか、特に意味は無かったのですが「メイクイーン・メークイン・メインクーン」などなど、多岐に渡ります。

昔の名前で出ていません。なのです。

その偽名の数だけ、世界を渡り歩いてきた。と言い換えてもいいでしょうね。

特遮二課と学校と悪巧みの三足のワラジは、パンプスなんか目じゃないほど大変でしたが。


「お前! 戦闘機人にして貰った恩も忘れて、ラボをこんなにしやがって」

割って入ってきたのは案の定、潜行能力をもつセインさんでした。

この人が此処に還って来れるのは、想定の範囲内。なのです。

ウーノさんは勿論最初から居られましたが、三歩下がってドクターの影を踏まず。なお方ですし。


それにしても、セインさん。恩…… ですか?

「そうそう、アユ君と初めて会ったときは、いきなり戦闘機人にしてくれと頼まれて面食らったなぁ」

くっくっく、は~っはっはっはと、ドクターは何時も心底楽しそうにお笑いになられますね。

「さもしい願いでした。なのです」

「それは悲しいな。戦闘機人の産みの親としては」

「出来損ないのクセに」

そう、出来損ない。成り損ない。欠陥品。失敗作。なのです。

予め機械を受け入れ得る素体として産み出されなかったこの体はドクターの腕を以ってしても「戦闘機」人にはなりきれず、そう、云わば「実験機」人と化したのでした。


  ……中途半端な戦闘機人化が、心身ともにどれほど苦しいか。

セインさん。貴方に理解しては貰えない。でしょうね。


ですから、恩など感じよう筈も莫いのです。


  ……尤も、恨みだって在りはしませんが。


「ちくしょー ……」

先ほどから左腕を庇っているのは、きっと其処を損傷しているから。でしょう。

進路上で襲いかかってきた戦闘機人のお姉様方は足留め、乃至は行動不能にしてきましたから。

「……マリアージュなんて、あんな非道なモン使いやがって」

負け惜しみですね? 判ります。

「戦闘機人のお姉様方。
 貴女達はヒト、なのでしょう?
 なら、なぜ成長してないのですか。
 貴女達は行動のオプションや動作の最適解をコンバートしあっているだけで、ちっとも成長していない。
 無駄を省くと嘯いて、自ら経験しない」

ここで視線をずらします。

「獲得形質を遺伝しない生命の選択を無視しておいて、この程度のモノが貴方の仰る生命の可能性ですか? ドクター?」

気に障ったのでしょう。歪めるようにして鼻をお鳴らしに。

「それで、今日は何か用かい?」

話を、お逸らしになりましたか。……まあ、望むところです。

「たいした案件ではありません。
 まずは先の共闘での、結果報告を」

「そう言えば君は、作戦完了直後に此処に来てくれなかったんだったね」

戦闘機人のお姉様方が揃い踏みしている時に、のこのこと出向いてきたりはしません。
敵の溢を避け、散を討つのが常道。なのですから。

「ええ。
 少し、試してみたいことが在りましたので」

「ほう?
 最高評議会の連中を持っていってしまった。その釈明を聞かせてくれるのかな?」

釈明。と云う言い回しが気に障りましたが、ここは素直に「はい」と。

そうして、格納領域から――室内に置くゴミ箱程度の大きさの――ガラスシリンダーを取り出しました。

中に在るのは勿論、評議長「の脳髄」なのです。

「生きて……、居るようだね」

ドクターの視線が、シリンダーの外周にガムテープで貼り付けられたプラスチックケース入りの、装置に。

「もちろん。なのです」

金魚鉢に設えるエアポンプみたいな安っぽい外装ですが、中身は此れ以上無いほど確りとした生体機能代行装置なのです。
どんな天邪鬼でも生き永らえさせてしまう、【パーヴェクト】な逸品なのですよ。


「それで、『試してみたいこと』と言うのを、訊かせて貰っても?」

もう、お解かりでしょうに。
やはり、それでも問い質したくなりますか。貴方はやはり求道者、探求者ですね、ドクター。

「ええ、つまり」と、専用の空間モニターを立ち上げます。


表示されるのは、
        【SOUND ONLY】
                    と、だけ。


そうして聴こえてくるのは、

『 …………光在れ。……光在れ。……光在れ。……光在れ。……光在れ。 ……光在れ。……光在れ。……光在れ。……光在れ。……光 在れ。……光在れ。……光在れ。…光在れ。光在れ。…… …光在れ。…光在れ。……光在れ。……光在れ。……光在れ。……光在 れ。……光在れ。……光在れ。……光在れ。……光在れ。……光在れ。…………光在れ 。……光在れ。………光在 れ。… …光在れ。……光在れ。……光在れ。……光在れ。……光在れ。光在れ。 ……光在れ。……光在れ。……光在れ。……光在れ。……光在れ。…… ……光在れ。… …光在れ。……光在れ。…光在れ。……光在れ。…光在れ。……光在れ。……光在れ。……光在れ。光在れ。……光在れ。……光在れ。……光在れ。……光在れ光在れ。………光 在れ。… … 光在 れ。……光在れ。…光在れ……光在れ。 …光在れ。……光在れ。……光在れ。……光在れ。… 光在 れ 。 ……光在れ。……光在れ。……光在れ。… …光 在れ。…光在 れ。…光在れ 。…… 光在れ。… …光在れ。 ……光 在れ。 …光在れ。 光在れ。……光在れ。……光 在れ。……光在 れ。…………光在れ。 ……光在れ。……光在れ。……光在れ。……光在れ。……光在れ。』

呪詛? ……いいえ、「蠱毒」ですね。「孤独」なのです。

それにしても、

『欲するのは光、ですか』

『光在れ……。光在れ……。光在れ……。光在れ……。 光在れ……。光在れ……。光 在れ……。光在れ……。光在れ……。光在れ……。光在 れ……。光在れ…… 。光在れ……。 光在れ……。光在れ ……。光在れ… …。光在れ……。ひ ……か …り・あ … れ……?
 ……い …ま・の・ は ……?』

『光ではなくて、失礼しました。
 どうぞ、ごゆるりとお寛ぎ下さい』

空間モニターを閉ざそうとしたのですが、

『待てっ!』

『……待て?』

『! 待ってくれ! いや、待って下さい! お待ち下さい!
 お願いです! 此処から、此処から出して下さい! 一刻も早く!
 嫌だ。いやだ。イヤだ。此処は嫌だ。
 早く、速く、疾く、はやくハヤクhayaku!
 後生だ! 今すぐ此処から出してくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!』

目も耳も口も無く。内臓感覚はおろか、本来、脳の一部であるはずの神経組織まで失って、ヒトは、何処まで耐えられるのでしょうね?

在るのに莫い。そんな偽りの「無」に、生命は慣れ得るのでしょうか?

『出してあげたいのは山々ですが、そこから出したら貴方が死んでしまう。なのです。
 無益な殺生は、どうかお赦し下さい。
 それに、不興を買うのを覚悟でドクター・スカリエッティの復讐から庇ってあげたのです。いのちをだいじに。
 貴方達が苦労して世界を統治していた期間と見合う位には、隠居生活をお愉しみになるのが宜しいかと。
 それでは御機嫌よう』

『待て、待て!待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!
 待ってくれ待ってくれ待ってくれぇぇぇぇぇぇえええええっ!
 何でもする。命だって差 …し ……出 … ……す? そうだ! 儂を殺してくれ! 今すぐ縊ってくれ。頼む。死なせて。息の根を止めて! お慈悲を! ああ、いっそ壊して。……ああ、此処には何も莫い。光も闇も、無ですらも。死なんか跡形も、莫い。无い。亡い。ナニモナイ。
 嫌だ。いやだ、イヤだ。此処だけは嫌だ! 地獄に、煉獄に、辺獄に、今すぐ送ってくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえッ!』

「ふむふむ、なるほど。なのです。
 適宜に希望を恵んでやった方が、永く正気を保ちそう。なのです。
 下手に物狂いに陥られても興醒めですから、独り寝の寂しい夜の話し相手にはいいかもしれません。
 すなわち、アメとムチ。……いえ、パンとサーカス。ですか? 流石は評議長、人民統治の妙法を心得ていらっしゃる」

もう必要が無いので、こちら側からの入力は落としましょう。

『どうか、どうかどうか死を死を、死を! この牢獄に破滅を! この心に終焉を この身に死を! ああっ、なんと甘美な言葉の響き、「死」! そは永劫の救済、「死」! あらゆる呪詛から解き放つ自由の翼「死」! いかなる苦痛をも消し去る究極の癒し、「死」! 死よ、死よ、気ままな羽撃きよ、この指止まれ。 死を忘れるな、死を忘れるな、メメント・モリ。 讃えよ、讃えよ、王も乞食も男も女も老いも若きも強きも弱きも、ヒト皆あまねく死ぬ。死こそ万民の公正明大なる支配者なり。讃えよ、讃えよ。死を措いて讃えざるべきは莫し。神すら死の前にはひれ伏さん。我こそは忠盲なる死の崇拝者なり。
 だ か ら 、』

死なせてくれぇ……。との哀願を、断ち切ります。


「存在が亡くなって、あらゆる懊悩から解き放たれるのが死。なのです」

どんな苦しみからでも、必ず逃れられる末期の場所。しかし、踏み込んだが最後、戻ること能わぬアリ地獄。

それが死、なのです。

行きはよいよい、帰りは怖い。怖いながらも通りゃんせ、通りゃんせ。なのです。


「消滅を許さず、苦痛すら与えられぬ永劫の飢餓地獄。死すら希う無限回廊……」

この人たちには、グレアム提督の計画を陰ながら支援、推進していた虞れがありました。
でなければ、いくら提督とは云え、無限書庫の情報を、あのリンディお母さんやクロノお兄ちゃんから長年に渡って隠し通せるとは思えません。

また、逆に、【闇の書】対策に有益な情報はグレアム提督にさえ渡らぬよう細工されていたのではないかと疑っています。
もし、その事実を知っていれば、永久凍結ごときで封印なんてその場凌ぎを、あのロマンスグレーの小父様が断行するとは考え難かった。なのです。

もし最高評議会達が、お姉ちゃんを害そうとしたり利用しようとしてそうしてたのであれば、それだけでこいつらは、誅すべき罪人でした。
1度殺した程度では、とても飽き足りません。生かし尽くして差し上げます。七生報酷。なのです。

ですから、

「……死刑以上。オーバーキルと、名付けました」


「ヤガミアユ。……君こそが恐怖だ」

それまで呼吸すら忘れていたらしいドクターが、ぽつりと。

「これは命への冒涜だ」

半面を掌で覆い、わなわなと打ち震えておられます。

「僕ですらこんな仕打ち、考えたこともない」


本当ですか?
死ですら生温い苦痛を与えようとか、死を願うほどの責め苦を味わわせようとか、思っていたのではないですか?

そもそも、永劫を生き得る戦闘機人が、あの評議長達とは違うと、ドクターは断言できますか?

「では、襲撃のさなか、最終目的たる最高評議会メンバーを匿ったことへの釈明に、足りましたでしょうか?」

「足りるどころじゃない。
 哀れすぎて、お釣りが出る。
 君流に言うなら、充分以上。オーバーオーダーだ」

可哀相に。と、意外にもドクターはどうやら本気で同情されておられるよう。なのです。
そうと知れば、親同然たる最高評議会の面々も草葉の陰で……、失敬、培養液の中でお慶びのことでしょう。

「僕の娘達を傷つけた事、ラボを破壊し尽くした事は、問わない。水に流そう。
 むしろ、何か他に対価を払ってもいい。
 彼らを、解放してやっては呉れないかね」

「恨みは、もう無いと?」

「お陰様で、とは言わないよ」

アレに同情しなければ、ヒトではない。との呟きは、聞かなかったことにして差し上げます。
商人とは違って、寿命の在る悪魔ではないので、なんでもかんでも言質を取ったりはしません。


さて、ドクターのお墨付きも出たことですし、本題に入りましょうか。

「それでは、そうですね。
 先ほどの続きを、要求いたします。
 ……そう。ただの【犯罪者同士の縄張り争い】ですけれど」

「お前!」

言葉の意味を察したのでしょう。

セインさんが殴りかかって来ます。が、

「お忘れですか、セイン。
 貴女の中にあるレリックが、誰の手に依って調整されたかを」

エナジー供給を断たれたセインさんが、たちまちもんどりうって転びます。

「今の貴女方は、このロプノールの作品でもある。なのです」

おっと。

今のは、足蹴にしたわけじゃありませんよ? 貴女の体を止めようとして、つい足が出てしまったダケ。条件反射、なのです。……本当ですよ?

「創造主に逆らい得る訳、ないでしょう」

これは、ドクターに宛てた皮肉でもあります。


さて、セインさんが人質として役に立つかは未知数ですが、そろそろドクターに引導を……

「そこまでやっ!」

「おねぇ……」

……ちゃん。と、最後まで言い切るワケにはいきませんでした。
ここでお姉ちゃんに情を残していることが知れたら、また在りもせぬ罪科を着せられてしまうでしょう。

「やっぱり……。
 次元間テロリスト、フロンテラ・カデット・ロプノールは、あゆ、あんたやったんやな」

手始めに第97管理外世界で暗躍していたある組織を、その隠れ蓑たる企業グループごと葬り去って以来、此の身はお尋ね者。なのです。

「……」

しかし、肯定も否定もしません。

肯定すれば無用なモノが動き出しかねませんし、否定すれば嘘になります。

「……あゆ」

直援なのでしょう。

狼形態の、ザフィーラ兄様。

「……」

その上に浮いているのはツヴァイと言いましたか、小さな小さな融合騎でした。

シグナム姉様とヴィータお姉ちゃん、それにリィン姉様は……?

ああ、捨て奸に置いて来たマリアージュ達――【損傷して機能不全を起こしても、指一本でも稼動可能なら自爆は控えて出来ることを遂行せよ】と、訓示を垂れてありましたから――の掃討。でしたか。


戦闘機人になって良かったことの一つが、魔力素を見通せる範囲が幾らか拡がったコト。なのです。

レリックの分だけ魔力量が増えて、底上げされているのでしょう。


それにしても、救けた筈の戦闘機人にまで襲い掛かられて、3人とも難儀なことですね。


それはともかく、

「時空管理局、八神捜査官とE-SWATの方々ですか」

探知圏内に居られませんが、フルバックにはシャマル姉様。なのでしょうね。

「役務ご苦労様、なのです」

スカリエッティ対策チーム(Enforcement to anti-Scaglietti Warning and Arrestment Team)は、ほぼ八神家だけで構成された部隊だったはず。なのです。

「しかし、Dr.ジェイル・スカリエッティはこちらの獲物。
 『司法に横取りされた』ならばともかく、『司法に売った』などと後ろ指差されては裏街道を歩けなくなるので、お渡しするわけには参りません」

増援は来ないか、来ても少数です。大部隊では間に合わないでしょうしね。

拙速を尊ぶ。
そう判断したからこそ3人だけで強襲してきたのでしょうが、マリアージュだけがこちらの手札だと思われるのは心外です。

「なぎ」

「……呼んだ? ……」

足元に濃ゆく映る影から湧き出た戦闘機人に、

「ええ。
 ちょっとそこまで、おつかいをお願い」

標的を指し示して見せます。

「可愛い可愛いお人形さんを、此処までご案内して」

もちろん、指で指したりはしません。飽くまでエレガントに、手のひら全体を使って。

『小さな融合騎が、比較的弱い。脅威度評定B。捉えて、盾に取ります。
 主とユニゾンさせると手に負えない。留意して』

「……了解……」

「あゆ、そっくりや……。
 その なぎ? って子、あゆの血縁なん?」

ほなら、その子はうちにとっても家族で、八が「こう見えて、意外と口うるさい子でして」お姉ちゃんの口から離れようとした言葉を、遮ります。

「なので、Naggyと名づけました」

もちろん違います。
Naggyというミッドチルダ語に、偶然「口やかましい」という意味があっただけ。

「私の情報から作られた、単なる戦闘機人。なのです」

なぎこと、元ナンバーズ13番【無音の暗殺者 トレーディチ】は、その数字に踊らされたかのように、ドクターを裏切りました。
そうして何を思ったのか付いてきて、色々と手伝ってくれてたのです。

妹のようなもの、と言っていいでしょう。今、わざわざ口にするようなコトではありませんが。

再び床下へと消えたなぎを警戒して、お姉ちゃん達が防禦フィールドを纏いました。

おそらく、セインさんのディープダイバーのようなISと判断されたのでしょう。

しかし、甘い。

ディープダイバーに見えるよう、「床や壁から消えてみせなさい」と指示していただけ。なのです。


――魔力素を支配できた此の身を映したかのようになぎは、反魔力素を視ることができます。反魔力素を従えることができます。反魔法すら少し使えます。

     【反魔力素を支配する】

それは即ち、反魔力素の世界たる【虚数空間】を渡れる。と云うことなのです――


そうして、その手の内に融合騎の小さな体を捉えました。瞬時にその場を離脱、この背後へと戻ってきます。


「あゆちゃん! なんでですか!」

リィン姉様と違って、そのユニゾンデバイスとは碌に面識がありません。

しかしながら、その馴れ馴れしさが何故か心地よい。むしろ、却って嬉しい。なのです。

「小さな融合騎さん。
 そんなことを貴女に語って、なんになるでしょう」

アーキテクチュアの構築までは、参画していました。だから貴女とはきっと、気が合うでしょうにね。

「フリーズ! なのです」

お姉ちゃんの傍に居るザフィーラ兄様はもちろん、圏外だからと云ってシャマル姉様には油断がなりません。

【旅の鏡】なんか使われては、元も子もない……などと警戒を高めた、その時でした。

 ≪ Eisvogel ≫

大弓形態のレヴァンティンを逆手に構えたシグナム姉様が、忽然と突進してきたのは。




                     後編に つづく







この作品を読んで下さっている皆様に、メリークリスマス。

       ……イヴのうちに投稿するはずだったんですが orz


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.039628982543945