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No.14611の一覧
[0] 八神家のそよかぜ【完結済・おまけ投稿】[dragonfly](2011/12/25 02:18)
[1] #1  それは少女たちの出会いなの[dragonfly](2011/12/14 10:34)
[2] #2  名前の意味はそよ風なの[dragonfly](2011/12/14 10:38)
[3] #3  それぞれの胸の光なの[dragonfly](2011/12/14 10:38)
[4] #4  それは早かりし目覚めなの?[dragonfly](2011/12/14 10:38)
[5] #5  わかりきれない気持ちなの?[dragonfly](2011/12/14 10:39)
[6] #5.5 Nain to Boin[おまけ][dragonfly](2013/03/31 13:50)
[7] #6  はじまりは突然になの[dragonfly](2011/12/14 10:38)
[8] #7  街は【瞳】でいっぱいなの?[dragonfly](2011/11/08 09:20)
[9] #7.5 シネマ・アレスタ[突発おまけ][dragonfly](2011/12/14 10:37)
[10] #8  新たなる力、浮上なの?[dragonfly](2011/12/14 10:37)
[11] #9  脅威は追憶の彼方からなの[dragonfly](2013/03/31 13:24)
[12] #10 未完の遺物と現在となの[dragonfly](2013/03/31 13:23)
[13] #11 秘めた決意、隠れた選択なの[dragonfly](2011/12/14 10:36)
[14] #11.5 静夜の捧げ物[IF][dragonfly](2010/02/04 11:30)
[15] #12 それは小さな出会いなの(前編)[dragonfly](2010/04/01 07:23)
[16] #13 それは小さな出会いなの(後編)[dragonfly](2010/06/24 12:21)
[17] #14 招待、そして謝罪なの[dragonfly](2011/12/14 10:35)
[18] #15 なまえをよんで[dragonfly](2011/12/14 10:35)
[19] #16 繕われた過去と現在となの[dragonfly](2010/07/30 09:41)
[20] #17 ここは湯のまち、海鳴温泉なの?[dragonfly](2011/12/14 10:34)
[21] #18 決戦は海の中でなの[dragonfly](2013/03/31 13:39)
[22] #19 夜の終わり、旅の終わり[dragonfly](2011/03/16 05:50)
[23] #19.5 使命の理由[dragonfly](2010/02/04 11:34)
[24] #19.8 集結?[突発おまけ][dragonfly](2010/06/24 12:30)
[25] #20 その日、時空管理局本局[おまけ][dragonfly](2010/06/24 12:29)
[26] 【ネタ】グレアム家の旋風[dragonfly](2010/06/24 12:29)
[27] #66-1 ファースト・ビジット[dragonfly](2010/01/31 19:10)
[28] #66-2 特遮二課[dragonfly](2010/06/24 12:28)
[29] #66-3 Master&Pupil[dragonfly](2010/07/30 09:37)
[30] #66-4 Sisters&Parents[dragonfly](2010/06/24 12:27)
[31] #67-1 魔法の呪文はじゃんけんなの?[dragonfly](2010/06/24 12:26)
[32] #67-2 その日、聖王医療院[dragonfly](2011/03/16 05:44)
[33] #67-3 八神あゆのある1日(前編)[dragonfly](2010/06/24 12:25)
[34] #67-4 八神あゆのある1日(後編)[dragonfly](2010/07/30 09:36)
[35] #67-4.5 ターニング・ポイント[dragonfly](2010/07/30 09:47)
[36] #67-5 管理局は危険がいっぱいなの?[dragonfly](2011/03/16 05:49)
[37] #67-5.5[IF]それは不可思議な出会いなの?[dragonfly](2010/06/24 12:35)
[38] #68-1 バレンタイン・デイ[dragonfly](2011/03/16 05:46)
[39] #68-1.5 泣いた赤鬼、ふたたびなの[dragonfly](2010/02/24 10:52)
[40] #68-2 それは小さな願いなの[dragonfly](2010/02/10 08:54)
[41] #68-2.5 その日、テスタロッサ邸[dragonfly](2010/07/09 12:33)
[42] #68-3 新たなる力、起床なの![dragonfly](2020/08/25 05:09)
[43] #68-3.4 [IF]第101監視世界の「うだるような暑い」一日【ネタ】[dragonfly](2011/12/14 10:39)
[44] #68-3.5[IF]三人目の使い魔なの!?【ネタ】[dragonfly](2010/06/24 12:20)
[45] #68-4 ファミリーズ[dragonfly](2010/07/09 12:28)
[46] #68-4.5 夜の終わり、夢の終わり【ネタ】[dragonfly](2010/07/30 09:38)
[47] #68-5 涙、ふたりで[dragonfly](2010/07/30 09:40)
[48] #69-1 Book's Strike[dragonfly](2010/07/22 05:00)
[49] #69-2 それは大いなる危機なの?[dragonfly](2010/07/30 09:35)
[50] #69-3 なまえをつけて[dragonfly](2010/07/09 12:27)
[51] #69-4 サモナーズ[dragonfly](2010/07/09 12:27)
[52] #70-1 約束の時へ[dragonfly](2020/09/08 21:26)
[53] #71-1[IF]祝福が芽吹くときなの【ネタ】[dragonfly](2011/10/12 09:59)
[54] #71-2[IF]無限の志望【ネタ】[dragonfly](2011/09/28 10:12)
[55] #71-3[IF]虚空からの翼[dragonfly](2011/08/31 12:26)
[56] #71-4[IF] 千尋の谷へ[dragonfly](2011/08/31 12:25)
[57] #72-1 スタンバイ・レディ[dragonfly](2010/07/30 09:40)
[58] #74-1[IF]Sisters&Sisters【ネタ】[dragonfly](2011/07/27 09:32)
[59] #74-2[IF]ファースト・え~ど【ネタ】[dragonfly](2011/05/25 08:22)
[60] #75-2 機動六課のある試験日[dragonfly](2010/03/06 11:04)
[61] #76-1[IF]ここはゆりかご、発掘前線なの【ネタ】[dragonfly](2010/09/18 08:32)
[62] #76-2 炎と氷[dragonfly](2012/08/21 21:33)
[63] #77-1 それは小さな始まりなの[dragonfly](2010/06/24 12:22)
[64] #78-1[IF]スタンバイ・レティ【ネタ】[dragonfly](2010/10/15 09:30)
[65] #78-2 [IF]タリーア!?もうひとりのベルカ王なの![dragonfly](2011/04/01 10:59)
[66] #78-3 魔法の呪文は250万Kなの?[dragonfly](2011/11/08 09:20)
[67] #78-4 [IF]機動六課のある出動【ネタ】[dragonfly](2011/03/16 05:48)
[68] #79-0.1[IF]アナレタ!?もうひとつの魔法術式なの!【ネタ】[dragonfly](2011/03/16 05:46)
[69] #79-0.2[IF]その月、軌道砲架【ネタ】[dragonfly](2010/08/30 10:39)
[70] #79-0.5[IF]それは武式な出会いなの[dragonfly](2011/08/31 12:25)
[71] #79-1 集結[IF][dragonfly](2010/02/26 10:06)
[72] #79-2[IF]それは覆いある利器なの【ネタ】 おまけのおまけ加筆[dragonfly](2012/02/14 20:48)
[73] #84-1[IF]街はなのはがいっぱいなの【ネタ】[dragonfly](2011/10/12 09:56)
[74] #79-ex [IF]思い出は時の彼方なの(前編)[dragonfly](2012/02/14 20:45)
[75] #79-ex [IF]思い出は時の彼方なの(後編)[dragonfly](2012/02/14 20:46)
[77] エイプリルフール冗談企画[dragonfly](2013/04/01 00:00)
[78] 母の日企画[dragonfly](2013/05/12 11:11)
[79] 独自設定、オリジナル解釈、お遊び設定等【本編補完資料】[dragonfly](2012/08/21 21:32)
[80] 七夕企画 #18 決戦は天の川でなの【ルート分岐】[dragonfly](2013/07/07 11:27)
[81] あゆの騎士服[dragonfly](2020/09/08 21:30)
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[14611] #79-1 集結[IF]
Name: dragonfly◆23bee39b ID:d314d7ca 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/02/26 10:06

――【 新暦79年/地球暦9月 】――



その日、首都クラナガンは闇に閉ざされた。

雲霞のごとく押し寄せたガジェットドローンⅡ型と翼を持つ傀儡兵が、青空を奪ったのだ。いったい何万機あるのか、何万体いるのか、クラナガン野鳥の会が総出でも数えきれないだろう。

地上には、クラナガンを囲むように十重二十重とガジェットドローンⅠ型、Ⅲ型、Ⅳ型がひしめいている。剣や槍を構えた傀儡兵や大砲を背負った傀儡兵の姿もあった。Ⅳ型のカマが、機体によってはショベルやツルハシ、はてはハンマーやクレーンになっているのは、何か意味があるのか。

率いているのは、12人の戦闘機人。クラナガンを中心に、その12方位をそれぞれ占めている。

不安におののくクラナガンの市民は、時ならぬ金属の黒雲に隠された直上上空に浮かぶ岩塊が【時の庭園】と呼ばれていたことを知らないだろう。


『くっくっく……。ひゃ~はっはっはっはっはっはっは!』

唐突に現れたのは、空間モニター。

クラナガン全域に大小いくつも展開されたその画面に、笑いを堪えきれない男の姿。

ジェイル・スカリエッティだ。

『こういう時は何て言えばいいのかね?
 やはり、ただいま。かな?』

何が可笑しいのか、また笑い出す。

『いやいや、失敬失敬。嬉しくてね、笑いが止まらないんだ』

また笑い出した。お目付け役のウーノが傍に居ないから、歯止めが効かないのかもしれない。

『さて、クラナガンの市民諸君』

笑いすぎで苦しそうな呼吸を無理矢理抑え、スカリエッティがずいっと画面に迫った。

『僕はジェイル・スカリエッティという者だ。
 4年前に点火するつもりでいた花火を、9年前に試し撃ちした花火を、今度こそ打ち上げに、帰ってきたよ!』

くっくっく、あ~はっはっはっは。と、まだ笑い足りないらしい。

『さあ、楽しいお祭りの始まりだ』と、スカリエッティが指を鳴らそうとした、その時だ。


    ≪ Gefangnis der Magie ≫

その音声は、首都クラナガン全域に、いや惑星全土に響き渡った。もし衛星軌道に誰か居れば、惑星全体が封鎖領域に囲まれたのを見ただろう。

ガジェットドローンも傀儡兵も戦闘機人も、もちろん【時の庭園】も、位相をずらされ、惑星全土の写し影と共に、魔力が切り取る幻影の空間に押し込められた。

封時結界だと!?と周囲を見渡したスカリエッティの目に映るのは、降りそそぐ数え切れない流星群。

まるで豪雨が障子紙を破るように、あれほど居たガジェットと傀儡兵が撃ち滅ぼされていく。

「なんだ?何が起こっている?」

振り仰いでも、その流星群の出所を見定めることができない。

『広域次元犯罪者ジェイル・スカリエッティ。貴方を、逮捕します』

【時の庭園】の最奥、玉座の間に立つスカリエッティの目前に、空間モニター。映るのは、ショートカット姿も凛々しい女性士官だ。

「管理局か!」

ついにこの時が来たかと、八神はやての感慨は深い。



****



それは9年前。新暦で70年の、地球では1月のことだった。

3日間、学校に行く以外はずっと家にいたあゆが、はやての前でかしこまったのは、一片の通信文がS2Uに届いた後であった。

「おねぇちゃん。たいせつなごようじができたので、しばらく おでかけしてきます」

いつ かえってこれるか わかりませんので、いっておきます。と頭を下げたあゆは、「いままで おせわになりました。ごおんは いっしょう わすれません。ありがとうございました」と言い放ったのだ。

止める暇もあらばこそ、その場で魔法陣を展開して転移してしまった。寝ていたエスタを、【碧海の図説書】ごと置き去りにして。

その時のあゆの表情を、はやては一生忘れないだろう。


**


チンクを退けた後であゆが送信した通信文を受けとったのは、ヴェロッサ・アコース査察官であった。

 ―― 下記の場所にて、貴殿の能力の行使を請う。
    1分1秒を争う。仔細は後ほど。 八神あゆ ――

その舌ったらずな口調とは正反対な堅苦しい文面に面食らったものの、ヴェロッサは指定された座標へ向かった。酔狂や冗談でこんな真似をする子ではないと知っているし、連絡をとったクロノからも従うよう要請されたからだ。なんでも、ヴェロッサに協力して欲しい旨、通信が来ていたらしい。

そうしてヴェロッサが発見したのは、床に打ち棄てられた3つの脳髄であった。自分の能力を使えと言われた意味を正確に把握したヴェロッサが保存処置を施し、【記憶捜査】でその中身を読み解くのに2日かかったという。



本局の転送ポートを降りたあゆを出迎えたのは、クロノとリンディである。連れて行かれた会議室で行われた密談の内容をはやてが知るのは、新暦で74年のことである。



****



「遺失物管理部、機動六課。ですか?」

「ええ。貴女はご自分の部隊を欲してましたね?」

はやての目の前には、伝説と謳われる3人の提督が居並んでいた。さらにはカリム、クロノ、リンディ、ロウランの姿もある。

「はい」と慎重に、はやては頷いた。


最高評議会三役の遺体から回収された記憶と、八神あゆの証言――S2Uの記録を含む――と、聖王教会騎士カリム・グラシアの希少技能【プロフェーティン・シュリフテン】でもたらされた預言詩から、ジェイル・スカリエッティの帰還は必至と予測された。

それに対抗するために、管理局海陸空の垣根はおろか、聖王教会まで加わって結成されたのがスカリエッティ対策タスクフォースだ。

その中枢を担うのが、新暦75年に設立された遺失物管理部機動六課である。バックアップを含め常駐12人ほどの小さな部隊で、通常任務はその名称どおりロストロギアの捜索、確保。しかしながら、いざスカリエッティが現れたときには、各部隊から人員を召集してタスクフォースを形成する。

出動根拠はあくまでロストロギアの確保、その不正使用者の拘束で、参集するのは善意の協力者とされることになる、書類上に名の載らない編成であった。


***


くっくっく。とスカリエッティが体を折る。

「なるほどなるほど、歓迎の準備は万端というワケだ。嬉しいねぇ。
 けれど、僕の娘たちは無傷だし、ドローンも傀儡兵もまだまだある」

『ディバイ~ン・バスター!』

それは始まりの合図であり、しかも終わりの鐘でもあった。

空を貫く桜色の砲撃に、撃墜されたのはディエチ。イノーメスカノンを構える暇もなかった。



「今度は引き分けとはいかんぞ」

「ああ、望むところだ」

チンクの前に立ちはだかったのは、ゼスト。



「IS発動、ライドインパルス」

「……スピードなら負けない」

常人の目には留まらぬ戦いに、トーレとフェイトが突入する。



「私から逃げられるとは思わないことです」

「えっとぉ…」

封鎖領域のせいで、何処にも潜れない。

ヴィンデルシャフトを構えたシャッハの前で、ホールドアップするセイン。



「はじめまして、ね。ノーヴェちゃん」

「アンタ、誰だよ!」

「貴女のお母さん。かしらね」

にっこりと微笑むクイントの前で、ノーヴェは困惑するばかり。



「この子たちの眼を騙せるように、なったのかしら」

「ふふん♪同じ手が通用すると思われては心外ですわ。ISシルバーカーテン」

しかし、メガネを投げ捨てたクアットロの目に映ったのは、まるで砲撃魔法のように迫る羽虫の群れだった。

「うそぉん」



「直接戦闘力を持たない貴女が前線に出てくるとはね。
 貴女を確保すれば、最低でもスカリエッティの企みは全て白日のものだ。拘束させてもらいますよ、お嬢さん」

「…」

直援に付いていたⅣ型すべてを長距離からの狙撃で墜とされたウーノの前に、ヴェロッサが進み出る。



「あなたを、逮捕します」

いきなり目前に突き出された槍状のデバイスに、ドゥーエは手も足もでない。エリオの接近に気付けなかった上に、リーチ差がありすぎて反撃の糸口がつかめないのだ。下がろうとしたドゥーエを、銀鎖が縛る。

「逃がしません」

振り向いた先に、若草色の騎士服をひるがえしたシャマルが居た。



事前に判っていた情報を元に、対策できたのはここまでだ。確認できた12人の戦闘機人のうち、能力不明の4人に対しては遊撃に置いたメンバーがそれぞれで対処する。



「縛れ、鋼の軛。でりゃあああ!」
「ストラグルバインド!」

オットーの不幸は、自分以上の結界の使い手2人と出会ってしまったことだろう。科白を話す暇もない。



「戦闘機人にしては悪くないセンス。
 だが、融合騎と共に在るベルカの騎士に戦いを挑むには」

  『猛れ、炎熱!烈火刃!』

その双剣を灼き斬られ、ディードが墜ちる。

「まったく足りん!」



「ラケーテンハンマーを受け止めやがるかよ」

「攻守翔、三拍子揃った自慢のライディングボードっスよ。そう簡単には破れないっス」

ぎりぎりと押し込まれるスパイクを、3重のライディングボードでウェンディが防ぐ。

「やるぞ、ちびリィン!」

『ちゃんと、なまえでよぶです!』

文句は言いつつも、ユニゾンに遅滞はない。

「リミットブレイク!」

「ええ!ドリルっスか!?」

ツェアシュテールングスフォルムに変わったグラーフアイゼンに、ウェンディの悲鳴。

違うな。と、ヴィータがにやり。

「こいつぁアルキメディアン・スクリューだ。
 いくぞ、ツェアシュテールングス!ハンマー!!」



「ISスローターアームズ」

「素直な戦い方で助かる。
 僕の弟子は一筋縄ではいかなくてね。苦労したもんだ」

飛来したブーメランブレードを凍てつかせ、クロノがデュランダルをセッテに突きつけた。



「……僕の娘たちが。
 しかし、何故このタイミングを」

次々に拘束される戦闘機人たちを目の当たりにして、すとんとスカリエッティの身体が玉座に落ちた。

『ろしあんてぃーを1ぱい。じゃむでもなく、まーまれーどでもなく、はちみつで』

よろよろと顔を上げた先に、新たな空間モニター。

『あらゆる ようさいを むりょくかする、まほうのじゅもん。なのです』

もちろん嘘である。

【時の庭園】には、シャマルが施した仕掛けが残されていた。大魔導師プレシア・テスタロッサですら気付けなかったジュエルシードの遺失術式が。

「君か、ヤガミ・アユ」

水色の白衣姿の、あゆ。

『ごぶさた、なのです。どくたー』

「ちっとも変わらないね、君は」

実はそうでもない。身長は23.74ミリも伸びたし、今では胸部装甲もたいへん充実している。

『どくたーこそ、おかわりないようで、なにより。なのです。
 しかし、それもこれも、どくたーのおかえりが はやすぎたから、なのです』

「そうかい?おかしいな?きっちり90年待ったんだけど」

もちろん、クラナガンと地球では9年しか経っていない。

『どくたーが すまわれていたわくせいの、こうてんしゅうきを、おききしても?』

「ん?ああ、クラナガン単位系で426時間だったかな」

クラナガン単位系の1時間は、地球の125分ほどである。

地球時間に換算して37日ほど、地球やクラナガンが1年経つ間に10年過ぎる計算だ。

約束を守ったと、評価していいのだろうか?

「待ち構えていたということは、お互い様でいいんだろう?」

まあ、予想の範囲内である。あゆは軽く眉を上げることで答えた。

それで?と促すスカリエッティ。まさか、ただ旧交を温めるためだけに出張ってきたわけではあるまいと。

『ええ。どくたーに、きんじょうげいかを ごしょうかいしようと おもいまして』

すっと、空間モニター前から退くあゆの向こうに、玉座に収まる10歳ほどの少女の姿があった。

『げいか。どくたーに、おことばをたまわりますよう』

深く頭を垂れるあゆに、ヴィヴィオは困惑顔。

『やめてよ、あゆお姉ちゃん』

『いけません、げいか。やがみと、およびすて くださいますよう』

できるわけがない。小さい頃から、なにかとお世話になっているのだ。なにより、なのはママを魔導書で小突くような相手である。

『おや、どくたー。
 とうだいの せいおうげいかの おんまえですよ。ずがたかいのです』

先ほどからの遣り取りに呆然としていたスカリエッティが、ようやく事態を理解した。先ほどの流星群の出所が、どこか。

「ゆりかごか!」

振り仰いだ先に空間モニターが現れるが、衛星軌道まで捉えられるはずもない。ただ天空を映すのみ。

そうかそうか。とスカリエッティは愉快そう。

「聖王の器ができていたか。
 そして、レリックウェポンにしたか、ヤガミアユ」

『しっけいな。
 そんなまねなどしなくても、ほんにんに じかくがあるなら ゆりかごは こたえてくれます』

スカリエッティが【レリック】をいくつ確保しているかは知らないが、何十個もあるような物が【王の印】であるわけがない。

ゆりかごを起動できたことでヴィヴィオは、非公開ながら聖王として教会から認定されていた。成人を待って正式に公表する手筈になっている。

教会の騎士見習いでもあるあゆが、公式の場でへりくだるのは当然なのだ。けしてヴィヴィオをからかっているわけではない。

そうか。と、やけに徒労感を滲ませてスカリエッティが座りなおした。

「せっかくだ。ヤガミ・アユ。
 僕も、君に紹介したい者が居るんだよ」

不審げに眉を上げたあゆに、にやりとスカリエッティ。

「君の遺伝情報と身体データから生み出した、僕の13番目の娘」

玉座の影から進み出た小さなシルエットが、スカリエッティの差し上げた右腕の下に収まる。

「こうなるはずだった、君の姿。
 無音の暗殺者、トレーディチだよ」

それは、まさしく養成所時代のあゆの姿であった。54であった頃の、八神あゆの姿であった。



『ほほう』

その声音に、傍に居たヴィヴィオはおろか、【碧海の図説書】で叩かれたことのある者全てが後退った。

『どくたーは、わたしに、いもうとを くださると』

なるほど、そういうことでしたか。と、あゆは内心で納得する。科学者としてはこれ以上なく尊敬しているのに、スカリエッティに対して踏み込みきれない隔意の理由が判ったのだ。

『その いもうとに、すうじの おなまえを くださったと』

これはぜひ、おれいをせねば。と振り返ったあゆは、笑顔である。

『せいおうげいか。ほうげきのきょかを、たまわりますよう』

うんうんと、ヴィヴィオは何度も首肯した。何でも言うこときくから、その笑顔でこっち向くの止めて欲しい。

明らかに越権行為なのだが、誰も咎めようとしないのは何故か。

『こんなこともあろうかと、しゅほうに ひさっしょうせっていを くみこんでおいてよかった、なのです』

ゆりかごが、ロストロギア指定されないための処置であったはずだが。

『しんぱいごむよう、なのです。どくたー。
 なのはおねぇちゃんの ほうげきにくらべたら、ぜんぜん いたくありませんから』

クラナガンの一角から上がった非難を華麗にスルーして、あゆが出来たばかりの妹に視線を移した。

『おねぇちゃんが、めを さまさせてあげますね。いたいのすこし、がまんするのですよ』

直後、衛星軌道から撃ち下ろされた虹色の砲撃が【時の庭園】を包み込んだ。


雉も鳴かずば撃たれまいに。




****




――【 新暦70年/地球暦1月 】――



ずいぶんと大仰な言葉を残して八神宅から姿を消したあゆが帰ってきたのは、その日の晩遅くのことであった。


逮捕拘留を覚悟していたのに、これ以上混乱の種を増やしたくない管理局側の思惑――三提督の温情もあろうが――によりクロノの保護観察下で一時帰宅を許されてしまったのだ。超法規的措置にいい顔をしなかったあゆだが、公にすればはやてに累が及びかねないと言われては引き下がるほかはない。いずれ正式に処遇が決まるだろうが、まずは帰ってきたのである。



「失礼するぞ」

「あゆっ!」

クロノに引き立てられるようにしてリビングに現れたあゆにかけられたのは、いつになく厳しい口調のはやての声。ずいぶんと喉が嗄れているようだ。

「この子は!」

どたどたとらしからぬ慌しさで駆け寄ってくる気配に、あゆは身を硬くするのだが。

「あんな言葉を残して消えてしまいよってからに!うちがどれだけ心配したか、解かっとんのか!?」

ぎゅっと、抱きしめられた。とっくに涸れてたであろう滴が、ぽたりと。


「……おねぇちゃん、……ごめんなさい」

ほんまにこの子は。と嘆息を呑み下して、はやては少し力を抜く。

「ほんで、いったい何ごとなん?きちんと説明してくれるんやろな?」

それが……。と、あゆからクロノに受け渡される視線。

「悪いが、現状では話すわけにいかないんだ」

「それはつまり、それだけ大層なことをしでかした。って解釈してええんか?」

「まあ、そうだな」

そうか。と、はやてがこぶしを固めた。


はやてが落とした初めてのゲンコツに、――すでにクロノとリンディから一発ずつ貰っていた――あゆは悶絶したという。




                     「八神家のそよかぜStS?篇」BAD END 完


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