――【 新暦74年/地球暦3月 】――『参ります。ルベライト』バインドは囮。本命は、『アクセルっシュート!』ヴォルケンリッターは、一騎当千の騎士たちである。癒しと補助を本領とするシャマルですら、管理局全体から見れば上から数えたほうが早いほどの戦闘力を持つ。そのため管理局は、彼女たちをなるべくバラバラに配置してきた。その方がヴォルケンリッターの能力を効率よく活用できると考えていたのだ。『ディバイ~ン・バスター!』砲撃は壁。退路を断って、『パイロ……シューター』確かに通常時、分散された彼女たちはそれぞれの持ち場で活躍した。しかし、大規模な緊急時。例えば、71年の空港火災事件でその場に駆けつけられたのは、地理的にも管轄的にも権限的にも、烈火の将シグナムだけであった。彼女は現場指揮官の1人として、また破壊消防の担い手として力を発揮したが、では彼女の能力が十全に発揮されたか?と問えば疑問が残ったのだ。もし、その場にヴォルケンリッター5人が揃っていれば、シグナム単独での活躍の5倍以上の成果が期待できたのではないか?と。『全力全開!スターライト!……』収束砲撃は誘い。先手を取ろうとした相手にカウンター、『パイロブラスト』それを実証するために、様々な組み合わせで模擬戦が行われていたりするのである。「参ったなぁ。結構自信ついてきてたのに」「全くです。貴女とのタッグでここまで遅れをとるとは」さて、高町なのは教導官と、その幼き頃を写し取った高町さいせ教導官補――管理局では姉妹と認識されている2人――が対峙しているのは「ひかりかがやくひとかげ」である。シルエットから若い女性だと伺えるが、全身から光を発していて正体不明。とは云え、ラツマピックを使うまでもなかろう。「私とて、1体1では負けなしの、ベルカの騎士の一員だ」背中から翼を生やす飛行魔法の使い手は限られている上に、それが2対となれば該当するのは1人しか居ない。「同数の戦いで遅れを取るわけにはいかない」リィンフォースである。「相手が誰であろうとも」『ですよ』と付け加える声。リィンフォースが光り輝いているのは、エスタとユニゾンしているからだ。共鳴して増幅し続ける魔力を、防護膜代わりに展開していた。「では、今度はこちらから行くとしよう」闇よここに。との詠唱で、リィンフォースの周囲に魔力球が6つ。ふよふよと展開していく。『これがわたしたちの、ぜんりょくぜんかいですぅ』身構えるなのは達に向けて、光り輝く指先が突きつけられた。「響け!ハウリングスフィア・ジェノサイドシフト」時間差をつけて叩きつけられる魔力砲撃が、2重に張られたラウンドシールドを揺るがす。「任せて。さいせちゃんは……」自分ひとりで防ぎきれると踏んだなのはは、攻撃を引き受けつつパートナーにアイコンタクト……しようとして目を見開いた。光り輝く人影が、高町さいせにシャイニングウィザード――リィンフォースは女性体なので、できればシャイニングマーガと表記したいところである。尤も、彼女は魔導師と云うよりは騎士であり、騎士であると云うよりは融合騎なので、順当な表記はおそらく……シャイニングユニゾンデバイス――を叩き込んだところだったからだ。砲撃中は足が止まるものだと、思い込みがあったのだろう。慌ててラウンドシールドを2重展開しようとしたなのはは、しかしためらってしまった。リィンフォースがそう狙って、さいせをなのはの方へ吹っ飛ばしたから。「そん……な」さいせの体を受け止めようとしたなのはが同じように魔力付与打撃を喰らったのは、6発目の魔力砲撃がラウンドシールドを砕くのと同時であった。「この翼、折れようとも」 『とんでみせる。ですぅ』こののち、なのははブラスタービットを開発するのだが、それは余談である。**さて、この模擬戦を見ていて溜息をついた者がいた。八神あゆである。魔力素が見えるという絶大的なアドバンテージを持つあゆにとって、魔力砲撃はそれほど脅威ではなかった。あらかじめ弾道を視ることができるし、前振りに使われるバインドにもまず掛からない。しかしながら、今のように5発以上ほぼ同時に撃たれるとなると話は別だ。1発目を避けたところを囲むように3発撃たれ、逃げ場がなくなったところで止めを刺されるだろう。射撃魔法と違って物理法則への依存が少ない砲撃魔法は、いなすと云うことができない。あゆの魔力量では碌に防御もできずに一撃必倒確実である。リィンフォースに出来る事なら、ほかの魔導師でも不可能ではあるまい。実際、なのはあたりは何とかしてしまいそうだ。無理してあれに対抗する手段を編み出すくらいなら、むしろなのは達のパワーアップを支援して自分の出番が来ないように務めたほうがマシだろうとあゆは、前線メンバーとして戦うことを諦めたのであった。 おわりと云うわけで当作最強ユニットは「グリッターリィン」でした。エスタが姉妹機であることがここに繋がってくるわけなんですが、StS篇で使い道があるわけも無くお蔵入りに。さらにアギトも加えてバーニングなトリプルユニゾンも視野にはあったんですが、レアスキル複合同様、姉妹機だからこそ許される裏技であるべきだろうということでそちらは完全なお蔵入りに。いずれにせよ原作における「なのは撃墜事件」に相当するイベントの相手として、あゆが前線に出ることを諦める出来事としてアイデアだけはあったものの、サブタイトルが思いつかずに手付かずのままでした(苦笑)当作の設定的に「星光の殲滅者って、なのはの妹だと思われてんじゃね?」と思い至り、ようやく陽の目を見ることになりました。と言うか、お蔵入りネタは大抵サブタイトルを思いついた順に発表していたり(苦笑)****おまけ『往生しいやぁぁぁっ!』友禅めいた絢爛な装束をまとって、少女が空を駆ける。短めの杖に、山吹色の魔力刃。『後悔なさってよ!』迎え撃つのは、中世の姫君が着ていそうなコトアルディに身を包んだ少女。近代ベルカ式なのだろう、構えるのはポールスピアだ。「おお、結構やるなぁ」始まった格闘戦に感心しているのは、仮設された観覧席に座る八神はやてである。仕事中に寄ったらしく、管理局の制服姿。「そうでしょう。 【いであしーど】か の、しゅせきと じせき ですから」隣に収まったあゆは、まるで自分が褒められたかのように笑顔だ。こちらは中学の制服の上に白衣。第3陸士訓練校には、【卒業演習】と呼ばれる独自の伝統がある。卒業式前後の休暇中に、訓練生たちが自主的に模擬戦を行うのだ。ただし、思い出作りと余興を兼ねて、奇抜なアイデアを盛り込む。たとえば団体球技の試合形式にしたり、バラエティ番組のゲーム風にしたりする。いま行われているような演劇仕立ても少なくない。もちろん正式な行事ではないのだが、将来の部下の実力を見ようと足を運ぶ局員が引きもきらなかった。特に今日は、2年前に新設されたイデアシード科1期生の演目とあって、注目度が高いようだ。「ほなら、シーマ役の子ぉが首席なん?」「はい、なのです」手元にポップアップされた空間モニターに、訓練生の一覧が上がってきた。その先頭に『モトコ・スパイク』との名を見出して、はやては唸る。「先天魔力は計測も難しかったやろうに、今では飛行魔法を使いこなすかぁ」やるなぁモトコちゃん。との呟きに、あゆは目をぱちくりとさせた。はやての勘違いに気付いたのだろう。「もとこ くんれんせいは、おとこのこですよ」第35管理世界は、日本やハンガリーと同じく【姓・名】表記であるから、モトコの方が苗字である。「えぇ!あないに別嬪さんやのに!?」「おねえさんに、そっくりなんですよねぇ」『あたいのシマで、でかいツラすんじゃないよ!』演習場隅の天幕から現れたのは、旗袍姿の少女だ。長杖を振り上げて、魔力弾を連射しだす。「まさか他の子も男の子なんて言わんよな?」「ああ、それはない。なのです」キャストを決める際に、純粋に実力順で割り振ったという話を聞いている。発案者の狙いがあざとすぎて、あゆは信じていないが。後は何人か女の子が男装しているくらいと聞いて、はやてが胸をなでおろす。「ほうかぁ、それ聞いて安心したわ。 あの別嬪さんたちがみな男の子やったら、女の子のアイデンティティが崩壊してまうところや」舞台代わりの演習場では、各所からそれぞれの勢力の下っ端役が現れて、三つ巴の混戦へと発展していた。今回イデアシード科の訓練生が選んだ演目は、魔導を極めた少女たちの血を血で洗う抗争を描いた映画シリーズ【極導の女たち】である。 おわり観劇というお題を戴いていましたので、何かいい演目はないかと考えていました。最初は普通に「クラナガンで上演されている【演出に魔法を用いた舞台劇】を見に行く」という風にネタを膨らませていたのですが、それだけでは話にふくらみが出ないのでお蔵入りに。学園祭とか学芸会なら「観覧者は劇そのものが目当てでないぶんリアクションが引き出せるのでは」と考えたのですが、地球で魔法はご法度なので演目の面白みが減ります。そもそも学芸会というネタは別作品でやったことがあるので、単なる焼きなおしになる可能性が大でした。と云うわけで、クラナガンにおける学園祭風のイベントとして【卒業演習】なるシロモノを捏造してみました(笑)