エピローグ新暦70年に起こった戦闘機人によるクラナガン郊外破壊活動と地上本部拘置区画襲撃および脱獄、さらに最高評議会三役暗殺を合わせて、スカリエッティ騒乱と呼ぶ。直後にレジアス・ゲイズ少将により、本人と最高評議会三役による違法研究への関与が発表され、時空管理局は未曾有の混乱に陥った。伝説の三提督を中心に組織の浄化を推進しているが、まだまだ安定には程遠い。衰えた求心力を時空管理局が回復し、各世界からの信頼を取り戻すにはまだまだ時間がかかるだろう。――【 新暦72年/地球暦7月 】――あゆの反対を押し切って、はやて、なのは、フェイトの3人が武装隊第四陸士訓練校に入校したのが昨年の10月のこと。エスカレーター式の聖祥大付属校に受験勉強は必要ないし、9月までで部活動なども終わるから。と言うのが3人の主張である。すずか、アリサを加えた5人で協力して成績も維持しているから、問題はない。と言い張った。もちろん、あゆは大反対である。リンディも、あと半年くらい我慢しては?と諭した。ところが意外な反撃を受けて、あゆが白旗を揚げたのだ。はやて曰く「勉学が大事なら、中学に進学するあゆは管理局辞めるんやな?」である。これには、リンディも困惑した。人工リンカーコアは既に量産が始まり、各部隊に配布され出している。それを見越した魔力資質のない者の訓練校受け入れも、72年度から始まるのだ。初めての試みということで、開発者であるあゆ直々に人工リンカーコアの取り扱いについて講義してもらう手筈になっていた。管理局としても、今更あゆを手放せないのだ。3人を入局させないためにあゆが入局したはずなのに、今度はあゆを辞めさせないために3人を入局させなければならなくなったのである。そうして3人が速成コースを卒業したのが昨年12月のこと。そのまま管理局に入局し、それぞれの部署に就いて半年と少しという頃合である。この8月に、クロノとエイミィが結婚することになった。集まれる者だけで集まって、どう祝うか?と相談するために、本局で待ち合わせ。だったのだが……「おお!」私立聖祥大付属中学校の制服の上に水色の白衣をまとったあゆが、わざとらしく頭を抱えた。「12さいのみそらで、おばちゃんになってしまったようなのです」「会うなり何を言い出すかな、あゆちゃんは」「……そうだよ」だって。と、あゆは、なのはとフェイトの間に立つ女の子を指し示す。3歳くらいであろうか。「なのはおねぇちゃんと ふぇいとおねぇちゃんに、こどもが」「なんでそうなるの!?」「ひどいよ……」抗議する2人を無視して、女の子の前でしゃがみこんだあゆが、にっこり。「わたしは、やがみあゆ、なのです。 あなたの おなまえは?」「……ヴィヴィオ」よく言えました。と頭をなでなで。意外と子供には好かれやすいようだ。いや、見掛けは5~6歳だから、警戒されないだけか。それは、初めてなのはとフェイトが同じ任務に就いた時のことだったそうだ。フェイトが師事する執務官が内偵した違法研究所に、強制査察に入ったなのはが所属する武装隊が保護したのがこの子なのだとか。スカリエッティも居なくなり、管理局の支援がなくなっても違法研究の根は絶ち消えないらしい。「ええっと、それでね」なのはがおずおずと差し出したのは、待機状態のレイジングハートである。ところどころヒビが入っていた。「ほほう」ゆらりとあゆが立ち上がる。実は、あゆは未だに嘱託である。失脚した――自ら告発した結果なので正しい表現ではないが――レジアスとの関係が取り沙汰されかねないので、本採用やそれに伴う昇進を辞退したのだ。それに、はやてたちが入局してしまったことで、表向きあゆ本人には管理局に居る理由がなくなった。ここ最近のあゆの口癖は「かんりきょくが きにいらなくなったら、すぐ やめてやるのです」で、対するはやての呟きは「あゆがグレた」である。その代わりにあゆが手に入れたのが、組織の垣根に関わりなくデバイスの修理や改良に口出しできる権利。通称「直しのライセンス」であった。はやて達がどんな部署に行こうと、どんなに散ろうとサポートできるようにしたまでであるが、けっこう行きずりでデバイスを修理して回っているらしい。クラナガンの陸士部隊などでは「任務中にデバイスを破損すると、何処からともなく現れた少女が、護りながらデバイスを修理してくれる」と専らの噂で、なかば都市伝説化している。【青い白衣の少女】で検索すれば、相当数ヒットするだろう。たまたま作戦行動中の部隊に出くわして、デバイスが壊れた術師を護りながら修理したのは1回だけなのだが。そういうわけで、レイジングハートのメンテナンスや修理も、あゆが一手に引き受けているのだ。「かわいそうに、いたかったでしょう」 ≪ No problem.I can manage ≫なのはの手から、いつの間に奪いとったのか、あゆの手のひらの上に赤い宝玉。「【れいじんぐはーと】は、ほんとうに けなげで、いいこなのです」よしよし。と、なでている。診断も兼ねてはいるが、その手つきはやさしい。「ですが、みだりに【りかばりぃ】など つかってはいけませんよ。 しゅうせききょうどを、そこねますからね。 あなたも、なのはおねぇちゃんと、そいとげたいでしょう?」 ≪……≫そう言われると反論できないレイジングハートである。そのね。と後退さるなのはを、あゆが一歩追う。その手に【碧海の図説書】逃げ出したいのは山々だが、なのはは逃げるに逃げられない。あゆを本気で怒らせたら、レイジングハートを封印されてしまうのだ。重篤な状態のデバイスを守るためにデバイスロックの権限を持っているから、あゆに逆らえる魔導師は多くない。「なのはおねぇちゃんは、ちょっと あたまをひやしましょうか」フェイトは、「……見ないほうが、いいよ」とヴィヴィオを目隠ししている。慣れているのだ。と言うか、自らも固くまぶたを下ろしていた。見てると痛みを思い出してしまうからだろう。「に゙ゃっ!」と、悲鳴らしからぬ悲鳴が上がったのは、その直後のことであった。 おわり