――【 新暦71年/地球暦4月 】――「剣の騎士、シグナムが魂、炎の魔剣レヴァンティン」すでにボーゲンフォルムであったレヴァンティンの魔力弦を再び引いて、カートリッジロード。「番えるは、焔の矢」 ≪ Brandpfeil ≫燃え盛る矢じりを持つ、火矢だ。「喰らえ、ヒクイドリ!」向けられる先にもまた、炎、炎、炎。火炎うずまく臨海第8空港。 ≪ Erloschen Kasuar ≫一瞬で滑走路を横切った火の鳥が、管制塔近辺に渦巻く火勢を喰らっていった。炎とは、100以上もの化学反応の連鎖である。燃え広がる過程で様々な燃焼サイクルを確立するため、大規模な火災に発展した場合、それを消し止めるのは容易ではない。可燃物や酸素の除去、温度を下げたり、連鎖反応を抑制したりすることが困難になるからだ。しかしながら魔法のある世界なら、第5の消火法があった。燃焼反応の連鎖に、魔法の炎で割り込みをかけて支配下に置く――今まさにシグナムが実演して見せた――制御消火法である。「以火制炎、烈火の前に炎なし」一見、炎と炎が相討ったようにも見えることから、相殺消火法と呼ばれたりもするらしい。ターミナルを挟んだ反対側の現場でも、そうとは知らず烈火の剣精が同じような消火法を披露しているだろう。「お見事っすね、姐さん」ヴァイスの構えるストームレイダーから、魔法弾が3点射2連。こちらは普通に氷結魔法だ。「私だけでは焼け石に水だがな」シグナムが、レヴァンティンのカートリッジを詰めなおしたその時である。 『こちら特別救助隊02、瓦礫向こうから声がした。確認頼む』要救助者発見の報が入ったのは。 『こちら指揮車08、位置を確認した。迂回路なし。瓦礫の除去は可能か?』 『やっている。音響データ解析頼む』アクティブソナーよろしく、一撃当てて瓦礫の厚さ、強度、突破にかかる時間を計ろうというのだろう。破壊音が続く。その音を聴くやいなや、シグナムは念話波帯に割り込んだ。「こちら1039-01、その位置なら救助可能だ」 『特別救助隊02、支援を待……本当ですか?』シグナムは地上で消火に当たっている。地下の現場に駆けつけられるとは思われずに、聞き返された。「事実だ」一旦レヴァンティンに排莢させ、色違いのカートリッジを籠めなおす。特定魔力素を予め蓄積しておく、オプティマムカートリッジであろう。『こちら特別救助隊02、正式な支援要請が必要なら手続きを開始するが?』シグナムの割り込みは越権行為だ。しかし、救助隊員が応えた。それは、即座に波及する。『了解しました。指揮車08より1039-01に支援を要請します。 要救助者1名、解析データはデバイスのほうに?』頼む。と返答したシグナムが振り向くのは、伏射姿勢のまま氷結魔法を唱えるヴァイスである。「しばらく、此処を任せる」「任されました」とスコープから目を離さずさらに3点射を繰り出したヴァイスが、ふと手を止めた。「お嬢ちゃんのアレ、使わせてみていいっスか?」「アレか?雀の涙ほども役に立つとは思えんが……、まあやってみろ」「了解っス」飛び立つシグナムを見送ることなく、ヴァイスは再び氷結魔法を唱える。『こちら1039-02より、各位へ。 おふだカートリッジの使用許可が出た。魔力回復の合い間に使うと効果的らしい。上手く使ってみせろ』 『了解』人工リンカーコアの配布も、ミッド式デバイスへのカートリッジシステム搭載も始まっているが、その絶対数はまだ少ない。そこであゆが開発しているのが、しおり型カートリッジの廉価量産版、おふだカートリッジである。通常型はおろか、しおり型カートリッジにすら及ばぬ程度の僅かな魔力含有量ながら、どんなスタイルのデバイスでも貼り付けるだけで魔力供給を行えるとあって、一部で期待されているのだ。専用パーツの組み込みなどが不要な点もあって、さまざまな部隊で試験運用が行われつつあった。さて、ほどなく空港上空を占位したシグナムである。手には、大弓形態のままのレヴァンティン。ただし魔力弦は張られていない。「いくぞ、レヴァンティン」 ≪ Jawohl ≫一振りで峰をひるがえすと、内張りで空気を裂くように急降下。シグナムそのものが鏑矢になったかのごとく、ターミナルビルめがけて。「捕えよ、かわせみ」 ≪ Eisvogel ≫重力加速度が充分に乗った分速88マイルで、シグナムが火箭となって消えた。……空港上空、管制塔を挟んで反対側にその姿が。瞬間移動?いいや、次元間跳躍である。一時的に別次元に変位することで、障害物や危険地帯を無効化したのだ。もし世界を俯瞰して観られる者がいたのなら、カワセミやカツオドリが水中に飛び込んで魚を捕える突入採餌を想起しただろう。それを裏付けるかのように、閉じた弓弭の間に魔力障壁の多面体。全方位型のパンツァーヒンダネスが。「……え?」その中に、少女の姿。燃料も酸素も熱もなしに魔法で発火、燃焼を維持するのは、質量操作の一種である。炎熱の変換資質を持つシグナムは当然、偏向擬似質量創出技術で決してヴィータに劣らない。その応用で、慣性制御にも長けた。音速を超えて飛び込んで、対象物に瑕一つつけず掻っ攫うことも、可能。「怪我はないか?」「……はい」救助した少女をさりげなくお姫様抱っこしながら、シグナムが翔んだ。「こちら1039-01。要救助者、確保。名前は……」「フランセス・たま・プリンス。11才になります」先天魔力ゼロにして陸士訓練校に挑む少女が1人、増えた瞬間だった。 おわり当作でも臨海第8空港火災は起こるわけですが、3人娘は入局前、クイント生存でナカジマ姉妹が出くわす可能性も限りなく低く、イベント性は皆無でした。ナカジマ姉妹の代わりに救助された少女が居たことにすればお話になるかもと、シグナムの魔改造案その2・その3を投入してみました。シグナムの魔改造案は大抵、弓矢か鳥からの連想が多いです。因みにこの捕獲保護魔法は、あゆ悪人ルート時に、マリアージュ軍団の只中からイクスを保護するために使われる予定でした。なお、チラッと出てきた救助隊員は実はヴォルツで、お陰でコールサインに苦労することに。8年以内に司令になれて当時は前線メンバーだったというのを、どう評価したものかと。****おまけ「♪ひぐまっ、ひ~ぐま、ご~っど ひぐま!」ここで合いの手――拍手を2回――入れてください。「♪ひぐまっ、ひ~ぐま、ご~っど ひぐま!」もう1度、拍手を2回。「♪ひぐまっ、ひ~ぐま、ご~っど ひぐま!」パパン、と。「♪ひぐまっ、ひ~ぐま、ご~っど ひぐま!」これで最後、拍手を2回お願いします。が~ったぁいだ~♪と、あゆは湯の沸き立つビーカーの中に酸化第二鉄を落とし込んだ。アルコールランプに蓋を被せ、三脚からビーカーを下ろしたあゆは、試薬ビンからリン酸一水素二ナトリウムを薬さじで2杯掻き出した。あとは、火傷に気をつけてふうふうと冷ましながら飲むだけである。自身を一応の科学者の端くれだと認識しているあゆは、インスタントコーヒーの瓶には酸化第二鉄、砂糖の瓶にはリン酸一水素二ナトリウムとラベルを貼るのだ。ほかに薬品類のほとんどない特遮二課で、どれだけの意味があるのかは判らないが。ちなみに唄っていたのは、再放送中のアニメ「熊中大帝ゴッドヒグマ」の主題歌である。ツキノワグマ、ホッキョクグマ、ジャイアントパンダが合体する正義のヒグマが、シャケの密猟者などと戦う勧善懲悪の貴種流離譚であった。それらは、さておき。今あゆが主に開発しているのは、魔力変換資質を擬似的に再現する特殊カートリッジ【エンチャントカートリッジ】である。だが、これが容易ではない。仮にもレアスキルなのだから、当然だが。そこであゆが目をつけたのが、おふだカートリッジである。しおり型よりさらに簡便に作成される紙製カートリッジを試作に使うことで、開発サイクルを短縮しようというのだ。遺伝の実験で、エンドウマメよりショウジョウバエを、さらにはファージなどを使うようなものか。今もまた1枚の紙片が、インテグレータにセットされた。こうして翌年に完成するのが、魔力弾なら1発、付与攻撃なら1撃だけ変換する【インスタントエンチャントカートリッジ】、あゆ呼ぶところの【なんちゃってエンチャントカートリッジ】略して【ナンちゃんとカートリッジ】である。「♪まにっきゅあ、まにっきゅあ」身の回りをシンプルに捨て置いているあゆに、音楽プレーヤーの類いを所持するという発想はない。その代わり。と云うわけではないが、興が乗るとなにかしら口ずさんだりしているようだ。「♪ま~にっきゅっあ、ま~にっきゅっあ」今度は、絶賛放映中のアニメシリーズ「2人はマニキュア~maniac@cureless」らしい。救いようのない重度のマニア2人が毎回「ざけんな!」と一般人に怒鳴られるまでのいきさつを描いた迷作である。「♪ま~っくす ばと~」おっと、違った。始まったばかりの第2期「2人はマニキュア MAX罵倒」だったらしい。 おわりやっぱり小ネタ集になった…orzパロディネタはやりすぎると笑えなくなることが多いので、お蔵入りが多いです。