フェイト・テスタロッサの新しい習慣は、朝に次元通信をすることである。「もう、起きないと、ダメだよ……」テーブルの上で開かれた空間モニターの中にアリシア。にゃむにゃむと目元をこすっている。「……フェイトおねえちゃん……、おはよう」フェイトは、あゆが勝手に姉呼ばわりしたことを今更くつがえしようがなくて、本当に姉ということになっていた。「おはよう、アリシア」妹がきっちり目を覚ましたのを確認して、「それじゃあ」と通信を終わる。「もっと色々話さな」などと、はやてが焚きつけてはいるのだが、「今は、これで……」とフェイトは満足そう。****八神家に、家族が増えた。フェイトとアルフが下宿することになったのだ。「あんなに おこったということは、じかくがあったのでは ないですか?」その言葉は、なぜか吹き替えられなかった。アリシアには聞こえなかったようだが、フェイトの耳は捉えた。「何をしに来たの……」プレシアの横に立ち、フェイトはあゆを睨む。「……あゆ、貴女には感謝している。 でも、母さんに仇なすなら、赦さない」「消えなさい。もう貴女に用はないわ」すげないプレシアの言葉にも、フェイトは怯まない。親子というものはそう単純なものではないと知っている今、重要なのは自分がどう思っているか、自分がどう感じているかだ。一歩、前へ歩み出る。「私は、貴女を護る。 私が貴女の娘だからじゃない。貴女が私の母さんだから」フェイトの背後で、息を呑む気配。「どんなカタチででも私を産んでくれた。私を育ててくれた。 だから……」プレシアのそらした視線の先に、アリシア。心配そうにこちらを見ていた。「すっかりアリシアを手懐けてしまったようね」話しを逸らしたように見えるのは、プレシアの抵抗だろうか。間近のフェイト、遠目に見えるアリシアと往復した視線は、最後に鋭くあゆに。「私のアリシアを人質にとるなんて、本当に容赦のない子ね」「ひとじちとは、ひとぎきのわるい。 わたしにとっては おともだちで、ふぇいとおねぇちゃんにとっては いもうと、なのですよ」ふん。と鼻を鳴らしたプレシアが、フェイトのほうへ視線を寄越す。フェイトに、ではなく、あくまでフェイトのほうへ。「貴女はどう?アリシアのこと」「え……?」まさかそんなことを訊かれるとは思っていなかったのだろう。フェイトがあたふたと。「……その、よく解かりません。 よく解かりませんけれど、あの……、可愛いかと……」そう。と視線を落としたプレシアがテーブルの象嵌を目で追う。行き着いたのは「翠屋」と書かれた紙箱。残り少ないシュークリーム。「……正直、どうしていいか判らないわ。 貴女にぶつけた言葉は今でも私の本音で、偽りのない気持ち」ぷれしあ。と咎めだてしようとしたあゆを手振りでとどめ、プレシアは額を押さえた。「でも、嬉しそうに貴女に懐いてるアリシアを見ていると、それも良いかと思ってしまう」自分と、リニスと、アリシアで過ごした日々を思い出してか、その視線はあゆの座る椅子に。「……今は無理。だから時間を頂戴」搾り出すような声音はかすかに震えて、プレシアの葛藤を僅かに垣間見せるか。「そういうことならば、しばらくふぇいとおねぇちゃんを おあずかりしましょう。 さいわい、きゃくまは あいているのです」事後承諾になるが、はやては反対すまい。「ありしあちゃんには、……そうですね。 ふぇいとおねぇちゃんは、たびのとちゅうでうけた しごとが のこっているので、しばらくかえれない。とでも ごまかしましょうか」リンカーコアからの魔力の蒐集の件があるので、あながち嘘でもないところが悪辣というか、考えた人間の性格が知れるというか。「フェイト……、ご……………」呑み込まれた言葉は、とうぜん聞こえない。しかし、届くものはある。「母さん。 ……気にして、ませんから」まだ、そう呼んでくれるのね。とプレシアは顔を伏せた。「ぷれしあさん。 わたしが おねぇちゃんにおそわったことを、あなたにも おしえてさしあげるのです」プレシアは顔を上げないが、耳は傾けているだろう。「じぶんをすきになれなくては、ひとをすきにはなれない。なのです」先ほどまでの話の流れと合わせて遠回しに、プレシアが嫌っているのはフェイトではなく、フェイトを作り出してしまった自分自身だろう。と言っているのだ。フェイトを産み出してしまったこと自体がアリシアを見限ったことになるとプレシアは気付いているだろうが、あゆは敢えて言及しなかった。そこまで追い詰める必要はなさそうだし、追い詰めすぎて自暴自棄になられても困る。「まずは、じぶんをすきになること。 わたしは、そのことについてだけは せんぱいのようなので、えらそうに いわせてもらうのです」ザフィーラに抱えあげてもらいながら、あゆは遠目に見えるはやてに視線をやった。自分でも出来てないことを賢しげに言う。と、当の本人はさらに自分のことが嫌いになったようだが。****「フェイトぉ。アリシア、起きたのかい?」「うん」転がるようにリビングに駆け込んできたのは、オレンジ色の仔犬である。八神家にはすでにザフィーラが居ることを考慮して、アルフが仔犬フォームを開発したのだ。「みんな準備はじめてるよ!フェイトも早くぅ!」「今、いくよ」フェイトのリンカーコアからの魔力蒐集を行ったのは、一昨日の晩だった。当然しばらくは安静。……の筈なのだが、今から皆でお出かけである。なのはが、温泉旅行に誘ってくれたのだ。****「ひっ!」と、息を呑む音を、ザフィーラは自分の左肩付近に聞いた。温泉宿に車イスは持っていけないから、あゆを抱きかかえたところだったのだ。見れば、自分以外のヴォルケンリッターの面々が緊張している。『例の屋敷の連中だ』なるほど、ワゴンの運転席から降りてきた男、かなりできる。と値踏みしたザフィーラは、『そいつもすごいけど、そいつじゃねー』とヴィータにつっこまれた。『リムジンの2列目の窓際の男性と、その隣りの女性。 さらに後ろの乗用車の運転席の女性。その3人です。ですが……』『ああ…』シャマルの言葉を引き取って、シグナムは固唾を呑んだようだ。『さらに、今ワゴンから降りてきた男。そのワゴンの中の女。リムジンの中に、もう一人か?』『はい』実力差はあるだろうが、かなりの使い手が6人も来た。しかもそのうち3人とは因縁がある。ザフィーラには、これを単なる偶然とは言い切れなかった。『………………………………………………………………………』八神家を代表してシャマルが挨拶をしているが、内心の動揺が無言の念話で伝わってくるようだ。「では、子供たちはあちらのリムジンへ」と促すと、車イスの女の子と金髪の女の子がそちらに向かった。しかし、赤い髪の女の子と、特に小柄な女の子を抱きかかえた男性は動かない。「おや?その子、随分と顔色が悪いようですが、大丈夫ですか?」「ん、ああ」と、これは女の子を抱きかかえた男性。「お嬢ちゃん、だいじょうぶかい?」声をかけても、女の子はこちらを向かない。その視線はさっきからずっとある一点を、どうやらバニングスさんのリムジンに乗る自分の息子に向けられているようだった。そこに篭められた恐怖と忌避は、かつて荒事に身を染めていた自分には見憶えがありすぎた。「いったいこの子に何をしたんだ」と内心で、喫茶店「翠屋」店主にして地元少年サッカーチーム監督兼オーナー、永全不動八門一派・御神真刀流小太刀二刀術正当継承者である高町士郎37歳既婚――未だに熱愛真っ最中――3児のパパは、自分の息子を糾弾していた。「貴方がたは一体、何者なのだ」今まで口を開いてなかった鴇色の髪の女性の言葉に、士郎は我に返る。見た目には穏やかな微笑を浮かべているが、士郎には臨戦体勢であると丸判りだ。ただ、真っ向から立ち向かう必要がなければいなせると判断したため、とくに構えたりはしない。「いや、一介の喫茶店の店主なんですけどね」この女性の態度といい、あの女の子の様子といい、何らかの因縁。ないしは行き違いがあるのだろうと推量する。こういう時に過敏に反応してはいけないと、優れた政治家を間近に見てきた士郎は知っていた。****「いや、濡れ衣が晴れてよかった」「すまなかった。赦してもらえると嬉しい」「ごめんなさい。なのです」高町恭也は、生きた心地がしなかった。いきなり父親に呼び出されてワゴンの後部座席に放り込まれ、走り出した車内で「お前、一体あの子に何をしたんだ」と、詰問されたのだから。対面式の後部座席には、2列目にストロベリーブロンドの女性。3列目にはハニーブロンドの女性とアッシュブロンドの男性が居て、恭也を睨んでいた。男性に抱きかかえられた少女は、まるで深夜にホッケーマスクの怪人にでも出遭ったかのような「恐い、けど目を離すのはもっと恐い」と言わんばかりの視線で恭也の一挙手一投足を見張っている。一度咳払いをしたときなど、こぼれ落ちるんじゃないかというほど目を見開いて、がたがたと震えだす有様だった。一緒についてきてくれた最愛の女性でさえ、この状況に「恭也、一体何をしたんですか?」と言わんばかりの視線を隣りから送ってくる始末だ。父親が運転中で、眼前に居ないことが唯一の救いだった。「身に憶えがない」とは言うものの、少女の恐怖は本物で、言えば言うほど疑いが増えかねない。いや、事実増えたし。一体どうすればいいんだ。と内心のみならず頭を抱えた恭也が無実の弁明を許されたきっかけは、他ならぬその少女だった。「……わたしも、ころしにきたのですか?」全てを諦めきった。と言わんばかりの表情は、その年頃の女の子が浮かべていいものではないだろう。瞳に、まったく光が映りこんでいない。「どうして俺が、君を殺さなくてはならないんだい?」さっきの、たった一言で喉を渇したか、少女が固唾を飲む。「あなたは、わたしのどうきを、きょうかんたちを ころしたのです。 にげのびたわたしを、しまつしに きたのでは ないのですか?」「君の同期と、教官を?」少女が何を言っているのか、理解したのは隣りに座っていた恋人だった。「あなた。もしかして、暗殺者として養成されていた子?」そう言われて恭也も思い出す。今年、まだ梅が咲くか咲かないかという頃合に、子供を集めて暗殺者として養成していた施設を潰したのだ。そこから先の、話は早かった。施設を潰し、抵抗する者の中には死んだ者も居るが、少なくとも子供は全員無事に保護したことを伝えたのだ。「もちろん、君を殺すつもりもないよ」「そうなの……ですか」そうして冒頭の、無罪宣告となるのであった。「わたしは、いきていて いいのですね?」「むろんだ」と、応えたのは少女を膝に乗せた男性で、「むざむざと殺させたりなどするものか」とは目の前の女性だ。そういえば、お互いに自己紹介も済ませてない。「わたしが、おねぇちゃんのやくに たっているから?」と、それは小さな呟きだったが、ハニーブロンドの女性はゲンコツを落とした。「わたしたちは家族でしょう」…はい。と頷いた少女が、すぅ。と深く息を吸う。その湿った音はもちろん前兆で、頬を伝った涙はあれよあれよという間に量を増し、それはもうぼろぼろと流れ落ちた。なのに少女は、一切声をあげない。「ああっ!ごめんなさい、そんなに痛かったですか?」慌てて少女の頭をなでる女性に、かぶりを振ってみせている。「わたしは、いまが おわるとおもいました。 おねぇちゃんとの、 ざふぃーらにぃさまとの、 しゃまるねぇさまとの、 しぐなむねぇさまとの、 びぃーたおねぇちゃんとの、いまが」目前の女性の眉根が微妙に寄ったところからすると、もしかしてこの人がヴィータさんなのだろうか?「おわってしまうとおもって、はじめて おわってほしくないとおもったのです。 わたしは、いまがしあわせなのだと、しったのです」拭うことも知らないのか、ぼろぼろと涙を流したままで少女が、ひたと恭也を見る。「このかたが、わたしにいまを くれて。このかたが、わたしにみらいまで くれたのです」ありがとうございました。と頭を下げた少女が再び顔を上げたとき、恭也は初めてこの少女の年齢相応の笑顔を見たのだった。****最近お風呂が好きなのは、湯船の中なら脚の不自由さを気にせずにすむからか。と、あゆは自己完結した。こういった広い露天風呂だから実感したことだが。湯船の向こう岸でなのはたちと姦しいはやても、ふだんより羽目を外しているように見受けられる。さきほどまでは、お姉様方たちへの過剰なスキンシップに勤しんでいたし。「ゆーのさん、ゆざめしますよ?」にごり湯の湯面の下で日課のマッサージをしながら、あゆは視線だけを向ける。「うん、ありがとう。 でも……あの、話しかけないで。そっとしておいてくれると嬉しい」あゆの背後、岩陰にフェレットの姿があった。「わたしに、ともだちにうそをつけと?」その視線の先に、金髪の少女。なのはの友達――紹介されて、今ではあゆの友達でもあったが――であるアリサ・バニングスは、フェレットの姿を探しているようだ。「あの……、僕も友達だよね? お願いだから匿ってよ」「たしかに、どうじょうのよちは あるのです」ざぶざぶとアリサに洗われるユーノの隣で、あゆもなのはたちに磨き上げられたのだ。気持ちは解かる。「ぶしのなさけ、なのです」恩に着るよ。とユーノは、よりいっそう小さくなるよう身を丸めるのであった。「恭也が泣かした女の子って、この子かしら」「ええ。ひどい話です」と、笑ったのは月村忍である。判っててこう云うやり取りをするあたり、この未来の嫁姑の息は今からぴったりのようだ。そういえば、たしか……。と、あゆは推量する。「なのはおねぇちゃんの、おねぇさん。なのですか?」「あら♪」「ん?…ああ」そうよお。と、湯を掻き分けてきた女性が、あゆを抱きしめる。「……、桃子さん」シャレになってませんよ。と苦笑しながらの忍の突っ込みは、桃子の胸の中に埋もれたあゆには届かなかっただろう。「あゆちゃんね?なのはのお友達の」「はい、なのです」やさしく引き剥がして、湯温が上がるような温かい笑み。「プロフィトロールを、その意味も含めてリクエストしてくれた人は初めてね」昔を思い出して、少し嬉しかったかなぁ。と桃子。「それに、おかげでプロフィトロールにどんな意味があるのかって、なのはが興味を持ってくれて、それがきっかけで色んなお話ができたわ」ありがとうね。と手を握りしめる桃子に、あゆは応えを返せない。「今度はなのは伝てではなくて、直接お店に来て頂戴ね」はい。と応えるあゆを置いて、「それじゃ、またね」と桃子は湯煙に消える。……「結局訂正されませんでした。桃子さん」いえいえ、プロフィトロールの話が出た時点で気付いてますとも。****「あれが、ほうげきまほう。なのですか」見上げる夜空を、桜色の光が切り裂いた。先ほどまで射撃魔法で牽制していたヴィータを拘束魔法で捕え、なのはが砲撃魔法に切り替えたところだった。「びぃーたおねぇちゃん、だいじょうぶでしょうか? ちょくげきしていたように、みえましたが」「高町の魔力は物凄いが、それだけで遅れをとるようなベルカの騎士ではない。 距離もあるし、ああ見えてヴィータの守りは堅い」はやてを抱きかかえたシグナムが、「それに」と続ける。「受けて見せたのは最初だけ、手応えありと思わせておいて」 ≪ Raketenform ≫あそこだ。とザフィーラが指差してみせた先に、紅の鉄騎の姿。自分の身の丈ほども直径のある砲撃に、張り付くようにして加速していた。「ラケーテンっ」ハンマーヘッドにスパイクとメインスラスターを備え、炎を曳いて突き進む姿はまさしくロケット。「うおおおぉ!」 ≪ RoundShield ≫レイジングハートによって、とっさに張られた桜色の防護陣は、「ハンマー!」しかし、ラケーテンフォルムのスパイクの前に砕け散る。「ど~だ、見たか砲撃バカめ!狙い撃ちだ!」そのまま、なのはの構えるレイジングハートをも貫くかに思えたグラーフアイゼンは、『そこまでだ』シグナムの宣言に、軌道を捻じ曲げて空を斬った。「1対1なら負けなしのベルカの騎士っちゅうんは、口だけやないなぁ」「はい。あるじはやて」ここから距離はあるが、シャマルが展開している空間モニターのおかげで詳細までばっちりだ。突進力を遠心力に変換して1回転したヴィータが、にやり。「これで、あたいの3戦3勝だな。 ハーケンダックのシングル、ワッフルコーンで。忘れんなよ」「うぅ~」なのはが恨み目がましくヴィータを睨んでるが、眉がハの字になっていてむしろ可愛らしい。【時の庭園】から帰って来たのち――フェイトとアルフを預かるようになってから――、なのはやフェイトとヴォルケンリッターで模擬戦をするようになった。上には上がいることを知り、より強くなることを願ったフェイトが、ヴォルケンリッターに弟子入りしたのだ。その指導の一環として行われている。なのはは当初フェイトへの付き合い程度で参加していたようだが、模擬戦でヴィータにあっさり負けてから熱心になった。意外と負けず嫌いらしい。「シグナム……」「テスタロッサ、お前はここに何をしに来たのだ」上目遣いに見上げてくるフェイトをばっさり斬って捨て、シグナムはシャマルに撤収を促す。リンカーコアから蒐集したばかりのフェイトは、魔法行使はおろか運動もさせられない。「リンカーコアが癒えたら、いくらでもしごいてやる。 まずはここの温泉で英気を養うことに専念しろ」「はい……」フェイトの模擬戦の相手を務めるのは、もっぱらシグナムだ。実体剣と魔力刃では体捌きからして別物だが、その戦闘スタイルは似ている。「ぜぇ~ったい!目に物見せてあげるんだから!」「はっはっは!期待してるぜ、高町なのは」降りてきた2人が、それぞれにバリアジャケットと騎士服を解除して浴衣姿に戻った。問題は、なのはである。ヴォルケンリッターには、砲撃魔法の使い手が居ない。古代ベルカ式の傾向としてそもそも少ないのだが、なのはを指導できる人材が居ないのだ。攻守補とバランスに秀でたヴィータが、近接戦闘に持ち込もうとする仮想敵役として模擬戦を。ジュエルシードの術式を背景にシャマルが魔法へのアドバイスを。接近された時のしのぎ方をザフィーラが教えているが、充分とは言えない。砲撃魔導師を相手にしたときの叩き合いを経験させておきたいと、シグナムは考えていた。自分と似たタイプの敵を相手にするときは、似ているがゆえに単なる資質勝負、魔力勝負に陥りやすい。なのはは稀にみる才能の持ち主だが、それだけで生き残れるほど戦場は甘くはないのだ。いずれにせよ、まずは天敵である機動系近接魔導師への対策である。先に相手を見つけること、そこから相手を近づけさせないこと、できるだけ相手の動きを止めることを前提に現状の戦法があるが、ヴィータと渡り合うには練度も経験も足りない。これが相性最悪のシグナムであれば瞬殺であっただろう。それでも、間断なく砲撃できるよう術式の改良を進めてはいるが。「ユーノ。周囲の状況に問題がなければ結界を解いてくれ」「わかった」シグナムの指示でユーノが結界を解き、全員で渡り廊下を離れへと向かう。いきなり模擬戦をしたいと言い出したなのはのために、露天風呂を口実に抜け出してきたのだ。……しかし、 「寝付かれナいのか?うチのヴィータもそうラしくてな、露天風呂でも行かなイカ?」 「ハイ。しぐなむSAN。ゼヒ、イキマショウ」示し合わせて行われた三文芝居を思い出すたびに、はやては笑いがこみ上げてくるのだった。