<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.14609の一覧
[0] やんでれ×ユウナっ![れろ](2009/12/07 07:50)
[1] その2[れろ](2009/12/08 15:44)
[2] そのさん。(ちょい長め)[れろ](2009/12/11 06:08)
[3] そのよん。[れろ](2009/12/12 07:54)
[4] その5。(長め)[れろ](2009/12/12 08:28)
[6] そのろく。[れろ](2009/12/14 06:36)
[8] そのなな(何故か消えていたので、全部書き直して再投稿、実質最新話)[れろ](2013/06/05 16:25)
[9] その八。[れろ](2009/12/20 03:43)
[10] その9[れろ](2013/06/05 21:55)
[11] そのX[れろ](2013/06/09 10:00)
[12] そのXⅠ。[れろ](2013/08/01 10:02)
[13] そのXⅡ[れろ](2013/08/05 10:17)
[14] そのXIII[れろ](2016/05/25 02:00)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[14609] そのXIII
Name: れろ◆2ff90ddc ID:ea4bc91c 前を表示する
Date: 2016/05/25 02:00








チュっ….んっ….チュッ….ッン…..チュプッ…...



_____人には役割があり、役割には仕事がある。

自分の仕事を、顕微鏡で覗いでごらん。

よく見れば「小さな作業の集合体」でしかない事に気づくだろう。

複雑に考える意味は無い。プレッシャーに怯える必要も無い。

君たちは常に、その瞬間瞬間に現れる小さな簡単な作業。それらを一つ一つ丁寧にこなしていくだけで良い。

積み重ねれば、ゴールに必ず届くさ_____。


禿げのおっさん監督の癖に、これだけは良い言葉だったから、たまに思い出す時がある。

パスタを茹でながら、そのソースを作っている時、一見作業自体が二つに分岐されてる様に見えるが、コンロを二つ使っているだけで、やっている事は、常に一つの作業だけ。

ニンニクを切る。油を投入する。ニンニクと鷹の爪を共に炒める。焦げさせない様に目を見張る。

やっている事は一つの作業。物事は細分化して観察すれば、シンプルな作業を数珠繋ぎに紡いでるだけだ。

ブリッツボールしている時も同じだ。
ボールをよく見る。キャッチする。「あんっ….」

顔を上げ、相手チームの動きを見る。ディフェンスの空いたスペースを見つける。そこに向かってダッシュ。もう一度、相手チームの反応を見る….などなど、そういった細かい作業を丁寧にするという考え方が重要だという事だ。「んっ...」

チュっ….んっ….チュッ….ッン…..チュプッ…...


今の状況もそれと同じだ。

唇に唇を合わせるのは、パスボールを投げる様な強めの衝突。だが、傷つけない。コントロールする。相手の反応を見る。潤んだ瞳。ハッと見開かれる。驚きの眼孔の開き方。

現状を把握。唇を奪われた喪失感から、嫌悪感に変化する前の段階。今度は優しく吸う。相手の反応を見る。抵抗をするタイミングを失う。混乱。同時に罪悪感と喪失感を感じているはずだ。ここは攻めない。

目尻から流れ落ちた涙の筋を指でふき取る。優しさをアピール。強引さは出さない。現状を維持。淫靡な音が辺りに響き渡る。行為はゆっくり慎重に。だが、わざとキス音は鳴らす。

『あぁ、今私はこの男(イケメン)と唇を合わせているのだな』という事を、まずは聴覚で心底実感させるのだ。

意識は一つ。思考は一本道。それは相手も同じ事。

一つ一つの俺の動きを、緩慢にする事で、体感時間を遅める。思考を鈍重にさせる。

人間が何かを拒絶する時は、リズムが必要だ。

キッカケという名のリズム三拍子。
1、え、何?
2、私もしかしてキスされてる?犯されてる?
3、キモイ!マジで無理!(パシーン!)の三ターン分の思考が必要である。

キスの瞬間から、0.5秒間がその行間に当たった筈だが、俺の方が一手行動が速い。俺のチェンジ.オブ.ペース(傲慢のシンデレラキスからの緩慢な愛のアダムタッチ~イカ臭いミルフィーユソースフィニッシュ)が先に決まったのだ。

嫌だけど、突き放す程の嫌悪感ではないという心理状態。ここまで来たらもう拒絶はできない。判断が遅れるほど、人間は慣れていき、状況に適応しだす。

そぉら。ならば、そろそろキスの料理の味も分かりだす頃だろう。

花の蜜を吸う様に、女の口端から漏れ出て零れ落ちる唾液を残らず舌腹で舐め拾い、丸めては捏ねて粘度を持った飴細工にしてから、また相手の口内に押し戻し、飲ませる。

脱兎の如く遁走しようとする舌先を畳み込み、絡ませながら、相手の死角から後頭部のリンパ腺を指でぞわりと撫で上げると、女はふあっ。。。と小さく声を上げる。

キスの次は触ります。ですが、変な所はまだ触りませんよ、とアピールする必要がある。ガッツイテナイ俺の意図をしっかりと伝える。
心の準備をさせるのだ。これは相手に対する思いやり。無言のコミュケーションである。つまりは、お流れドサクサセックスという大きな仕事をこなす為の小さな作業をしているに過ぎない。

そう。人には役割があると言ったな。

今、俺は全世界のイケメンのみが許される仕事『傷ついた女を体で慰める崇高な役目』に本物の精を出しそうになりながら精を出しているのだ。


チュっ….んっ….チュッ….ッン…..チュプッ……あんっ...


そうそう。目の前の女の名前は『ルチル』とか言うらしくて、さっきまでアルベド族の機械を使ってシンを倒そうとする謎の会合、通称『ミヘン・セッション』に参加していて、シンと戦っていたらしい。

当然の様にシンに返り討ちにあったらしく、怪我をしていた上に、チョコボまで失ってしまったと言うから、俺が適当に介抱していたのだ。その最中

「くっ!自分はチョコボ騎兵隊の隊長だ。騎士としてっ、命ある限りシンと戦わないといけないっ!」

とか

「くっ、憐れみで優しい言葉などかけるなっ!何人死んだと思っているんだ!」

とか威勢の良い言葉を言っていたけど、ちょっと優しい言葉を掛けながら、押し倒したらこのトロケ顔だ。やっぱり傷ついている女騎士ってのは、どうしようもなくチョロいぜ!エロ漫画どおりだ!ひゃっほう!


チュっ….んっ….チュッ….ッン…..チュプッ……や、やめっ..んっ、あぁっ...


軽い抵抗をされるが無視する。この抵抗は自分に対する言い訳であり、免罪符だ。自分は抵抗したが犯された、という構図が重要だ。女は自分を被害者の立場に置きたがるものだ、甘んじて受け入れよう。

『休んで良いんだ』と唇を離し耳元で囁き、目を見つめてもう一度口付け。これを二三回ループしてればいい。

こういう錯乱してる女と話すときは楽で良い。会話の繋がりとか全て無視していい。

「大丈夫、君のせいじゃない」と「辛かったね」と「今は休んでいいんだ」の三つの言葉を繰り返してたら、イケメンシナジー効果で好感度が軒並み上昇し続けて、速攻でエロい空気が作り上げられる。あとは流れと勢いだ。

俺は、すでにゆっくりと胸をこねくり回しだしている。

露出狂みたいな格好している癖に、意外に初心なのか?今はキスに夢中で、胸に触られている事にすら気づいてない様だ。

もはや時間の問題だ。身体がだんだん暑くなってきたと自覚してきた頃には、俺のフェザータッチで敏感な身体にされちまっていて、もう欲しく欲しくて堪らなくなる様になっていく筈だ。

ふふふふふ、野外かぁ。久しぶりだなぁ。楽しみだなぁ。たまりせんなぁ。なんだか知らんが、ミヘン・セッションとやらありがとう!イヤッフゥ!!







やんでれユウナ13。







「はいっ!皆さんこんにちは!全ての女性の肉バイブ!ティーダでございまーす!!生きている方、いませんかーっ!?」

耳に手を添えて返事を待つ俺。返ってくるのは風の音。静まりかえった海岸には、ノリの良いオーディエンスがいる気配は一切無い。なんだよ!どんな時でも波を忘れないサーファーの一人や二人いないのかよ。寂しいじゃねーか。

「あれあれー!?元気ないなー?お兄さんの元気♂な声、ビンビンに響いてると思うんだけどなぁ。もう一回いくよー?」

「生きている人!いませんかーっ!?」

コツン。と砂浜に横たわっている男の頭が、俺の足に当たる。男はピクリとも動かない。

「ひょうっ!びっくりー、こんな所で寝てたら風邪ひいちゃうぞー?寝酒は体に悪いですよーっと」

俺は寝ている男のポケットに突っ込まれてた、酒瓶を引っ張り出して、一気にあおった。

トロリとした舌触りの芳醇な味わいのした液体は、火の吹いた松明の様な熱のまま胃の中に転がり込んでは、赤く燃え上がった。

恐ろしく度数の高い酒だ。死の恐怖を紛らわせる為に、あえて持ってきたのだろうか。それとも、華々しい勝利を飾った瞬間に味合おうと考えたのか。それならば、こんなにも無念を残して逝くのは勿体無いだろう。

そんなに益体もない事を考えながら、少し男の口にも含ませてやった。えへへ。間接…キスだね?

シンの襲った砂浜の上。自分の身に何が起きたのかもわかっていない様な呆然とした表情を浮かべて、横たわる死体。屍体。肢体。死体の群れ。凄惨たる光景がミヘン街道沿いの海岸に広がっていた。



「どうしよう、ルチル隊長の言ってた事はマジだったのかよ...」


こんな事態は予想していなかったぜ。さすがの俺もちょっぴり良心が痛む。

そういや、急に用事があるって席を外していたリュックから、メールで「少し遅くなりそうだけど、心配いらない。あたしが戻るまでは海岸には近寄らないで」とか書いてあったな。。。

まったく。そんな暇っ子してるタイミングで、明らかに焦燥しきった女が、道端に座っているもんだから、つい駅でゲロ吐いてる飲み帰りのOLを介抱して連れて帰るみたいなノリで、ルチル隊長をルチルチルチルしてしまった。

ちなみにルチル隊長は木陰でお寝んね中だ。俺の巧みなボールハンドリング(意味深)に着いていけなったらしく、合体直前に昇天失神。

ドクターストップで未遂に終わりかけたが、幸いレフェリーはいない。タオルが投げ込まれる事も、テンカウントダウンの無いリングでは、タップ以外の敗北は許されない。不屈の精神で、顔面にポリマー噴射することで、抜いた槍の矛先を納めてきた。まったくテクニシャン過ぎるのも考えものだが、今はそんな事はどうでもよろしい。


「これがシンの真の力なのか。。。」


言ってみただけだけど、寒い。この状況でこんな阿呆な言葉しか弾き出さない低脳さ加減を生きとし生ける者に、徹頭徹尾謝罪したい気持ちすらでてくる。

やっぱり、人が死ぬ時って奴は、思ってたよりも呆気ない。世界の裏側で誰が死のうか関係ない様に、無感動だ。

しかも、こいつらは、シンに傷一つすら負わす事もできずに、死んだんだろう?結果として、何一つを成し遂げる事無く命を無駄に散らした。結果を見れば、同情の余地があまり無さそうだ。

それでも戦線に向かう過程には十人十色な想いがあったんだろう。やれシンの恐怖に怯える家族のためだとか。やれシンに殺された親族の仇だとか。村を壊された復讐だとかさ。

もしかしたら、惚れた女を振り向かせる為なんていう下心を持って来ていた奴も中にはいたかもしれない。死に場所を求めてただけのキチガイ野郎が、こんな大勢いた筈がないんだ。

そもそもだ。『ミヘン・セッション』なんていう大層な名前を付けた事がそもそもの原因なんじゃないだろうか。

そんなカッコイイ作戦名なんか付いてるから、勘違いしちまうんだ。俺達男って生き物はナルシストでバカなんだよ。


シンに戦いを挑む。今回はアルベド族の機械っていう切り札が、確かな勝算が其処にある。

そこまで分かれば、自分の命をチップとしてテーブルに載せる口実になる。自分が主人公になれる舞台がそこにある訳だからな。

努力もいらない。才能もいらない。積み重ねた経験は無く、守るべきものが無い若者はごまんといる。参加権は無謀を勇気と履き違える頭の足りなさだけ。

若ければ若いほど、自分の承認欲求を満足させる機会に対して貪欲だ。ふっと湧き出た英雄になれる機会に無節操かつ無頓着に飛びつくってもんだ。

だって、見ろよ。俺と同じ位の年齢の男ばっかりだろう?逃げ腰の入ったオッサンくらい年の人間は、殆どいやしない。何時の世も戦争で死ぬのは、若い男の仕事ってか?


「あー、もう...やってらんねぇ..」


シンドいんだよ、そういうノリ。暑苦しい。そういう面倒なノリをたしなめる奴等、俺達バカな男を止める大人は、本当にいなかったのかよ。

俺はこの世界では新人で異邦人だけどよ、シンとガチンコで戦うのはヤバイって考えるまでも無く分かる。ありゃ正真正銘の怪物だ。詰まる所人智を超えている。

あんな怪物と、どうしても事を構えないといけないってなら、それは戦争しか無い。

つまり人類VSシンの構図だ。今回のように、アルベド族といくばくかの若者VSシンであっては戦う意味がない。総力戦以外で、シンと戦うっていう選択肢はありえない。そんな半端な戦力で叶う相手じゃない。

アレは獰猛で残酷で非道で人を人と思わず、努力とか勇気とかそういう青臭え代物を鼻で嘲笑するのが大好きな頭のネジの緩んだ人非人なんだよ、昔から。


そうだろう______クソ親父。


忌々しい髭面の顔面が脳裏に掠めた瞬間、ザッと砂を掻き分け歩いてくる足音が鳴る。


「ここで何をしている」

あぁもう、うるせぇな、いつもこのオッサンは。いつも狙った様なタイミングで現れやがって。

俺は背後に立っているであろうアーロンに目もくれずに、海を見つめたままグイッと酒瓶を傾けた。酒自体が熱を持ち、感情を持ち、俺の苛立ちを音叉の様に増幅させている。そんな錯覚。くそ、俺はなんで苛ついてるんだ。


「….ジェクトはお前を待っている」


なに言ってるんだ、このオッサンは。どう見ても、あの怪物はもう一仕事終えて海に帰って鼻歌交じりに一杯引っ掛けてるタイミングだろうが。

「お前に殺されたがっている。ジェクトは自分がもう化け物だという事をお前に伝えようとしているんだ」

はいはい無視だ、無視無視。論外です。仮にも親が子に何かを伝えようとして、大量殺人現場見せるってどうよ?クレイジー過ぎるだろ。メキシコ生まれの親子でもそんな事しねぇぞ。

「ジェクトは、孤独だ。言葉をもう持っていない。それ故の行動だ」

「はっ」いるんだよねー、こういうのが。物言わぬ人間の想いを自己都合で解釈してついつい美化しちゃう奴が。あのクソ親父が、そんな殊勝なタマかよ。

「シンはジェクトだ。だがアレにはもう人としての意思は普段は無い。怪物としての習性に自分の思いをかろうじて忍び込ませてる様な状態で、かろうじて存在している」

「うるせぇなぁ。なんでか分かんねーけど、今機嫌悪いんだよ。クソ親父の話なんかするんじゃねぇよ。酒がまずくなる」

ぐいっと瓶をあおり、喉でわざとらしく濁音を鳴らしながら酒を飲み下していく。お前の話なんか知るか。どうでもいい。オヤジの事なんて俺は一切興味が無い。それはきっとオヤジも同じ事だ。

「まだ認める気が無いのか。俺の言葉に嘘はない。本当は気付いているのだろう」

気付いてるだろうだって?まるで俺が本当は何もかも分かっている癖に、そこからあえて目を背けてる。「逃げてる」みたいな言い方じゃねーか。

「はっ。仮にあんたの言葉が本当だったとしても、俺にできる事はねーよ。あんたがガードなんだろ?しかも、伝説級の人物で、旅だって一回クリアしてて、今再プレイだ。無敵だろ。俺の出る幕がどこにあるのよ?意味わかんねー」

そうだ。そもそもシンは召喚士にしか倒せない。俺が出しゃばる機会は、本当に何も無いのだ。精々邪魔にならない様に隅っこにお行儀良く固まる位しか思いつかない。

「あぁ。シンは召喚士の究極召喚でしか倒せない。俺の時も、そうだった」

「だろー?だったらそれで何を俺にさせたいんだよ。ブリッツボールしか能の無い俺にあんたは何を求めてる訳?」

いや、もう一つベットの上の才能があった。この技術だけでも、俺は性の殿堂カブキ街で王者にすらなれるだろう。王者どころか、この俺の編み出した技術の数々を民に伝えれば、もはや性の伝承者として神殿が建つレベルだ。

性世界の救世主の階段を掛け登れるはずであり、もうその存在は高尚すぎていっそ近づきがたい位の存在な訳で、つまりは神「ぶはっ!」何考えてるんだ俺。酔いが回ってる。意味もなく足元がガクガクする。

「お前に行動を求めてるのは俺ではない。ジェクトだ。あいつの想いを汲んでやれ」

「仮にそうだったとしても、クソ親父が俺の想いを汲んでくれた事は無い。おあいこってやつだろ?」

「そんな単純な話では無い」

頭がぐつぐつしている。俺をそんな目で見るな。そんな聞き分けの無い子供を見る様な目で、見るな。

どう考えても、俺が正しい。

「うるさいな。いい加減しつこいって」

「…ならば、せめて今はユウナの助けになってやれ。あの娘の心をお前が支えるんだ」

「うるせぇって言ってるんだよっ!!!」

ブンッと投げたオッサンの眉間目掛けた酒瓶スローイングも狙いを大きくはずれ奥の岩場にあたって粉砕される。

ガラスの割れる高い音が余計に頭に響いて、腹が立つ。イライラする。なんだ、それ。なに言ってるんだ、このオッサンは。

「それがいずれ、ジェクトもお前も救う事になる」

「知った風な口聞いて悦に入ってるんじゃねーぞヒゲ!どいつもこいつもユウナを助けろ、支えろだって!?責任転嫁しようとしてんじゃねーよ!

「それが、お前の役割だ。お前にしか出来ない事なんだ」

「知るかよ!むかつくんだよ!頭のここがムズムズするんだよ!俺に何させてぇってんだ!?親父がシンになった!でも俺には倒す術が無い!だから知った所でどうしようもねぇ!それでいいじゃねーか!」

アーロンの胸ぐらを掴みかかって叫ぶ。この髭面を一発ぶん殴らねぇと収まりが付かない。いつもいつも上から目線でむかつくんだよ!

その時だった。



《____ギエエエエエエエエエエエエ!!!》



魔物の声が上がる。海岸中に響き渡る大物の気配。濃厚な死の匂いが海岸の岩場上、テントの残骸近くから放射される。シンのこけらだ。ユウナ様のいたテントの近く。

「敵だ。いくぞ」

「行くわけねぇだろ!」

アーロンは先に一目散に魔物に向かって駆けていく。遠ざかる背中。大剣を担いだ赤い外套を横目に見る。振り上げた拳はもう届かない。

「くそっ…なんなんだよ、畜生…!」

どいつも、こいつも勝手な事ばっかり言いやがって。何度もいうか、俺はこの世界の異邦人なんだ。

客とまでは言わないが、右も左も分からないルーキーに、この世界の進路に関わっている暇なんかはない。自分の事で手一杯だ。

今は、俺の身分をはっきりさせるための活動、リュックと一緒にアルベド族の仕事をこなして、後ろ盾に使えるコネクション作るっていう、ブリッツ界に舞い戻る為の前準備。それに集中していれば良い。他の事なんか知るかよ!


《____ギエエエエエエエエエエエエ!!!》


視界の端で、アーロンが魔物と戦いだした。横目で攻防を傍観しながら俺は、違う男の死体からまた酒瓶を抜き取り、一気に飲みくだす。それを繰り返した。

シンのこけらが、アーロンに甲殻に包まれた腕を振り下げ、アーロンが片手で持った剣でそれを撃ち落とす。やっぱりあのオッサン強ぇな。シンを倒した英雄一団様ってのは、全員こんな感じだったのかな。

ユウナ様も、この旅が終わる頃にはあんな風に戦えれる様になっているのだろうか。ワッカやルー姉さんが、そんな感じに戦える様になるのは、なんとなく予想できるけど、ユウナ様の凛々しいお姿ってのはピンと来ない。

確かにユウナ様の召喚獣は凄いけどな。でも、ザナルカンドをあんな風に一息でぶっ壊したリヴァイアサンみたいな奴に勝てる位の強さを手に入れる事は出来るのか、はなはだ疑問だ。

旅ってのは、人を心身共に強くするものなのかもしれないが、召喚士が旅をするだけで世界の脅威である怪物を倒せる様になるのだったら、この世界の価値はなんなんだろうか。

召喚士ってのは勇者の職業で、魔王を倒すのは勇者補正が無いと無理って事なのかよ。ぶっ壊れてるな。しかも魔王は復活するからイタチごっこな訳だ。

倒したら100年の平和が訪れるってならともかく、ユウナ様の親父さんがシンを倒して、その娘がまたシンを倒そうってしてる辺り、魔王復活のサイクルも相当に短い。

次こそは復活しないかもしれない。そうでも考えないとやってられないよな。俺だったら絶対ふてくされてる。召喚士の家系に生まれようが知ったこっちゃないって感じで、絶対バックレてるな。

そう考えると、やっぱりユウナ様って結構凄いな。あんな豆腐メンタルっぽい感じなのに、そんな儚い希望に全力一点掛けできるのか。皆のために、ただその一心で。


《____ギエエエエエエエエエエエエ!!!》


アーロンとシンのコケラの攻防は、拮抗している。おっさんの剣は重いけど、小回りがきかない。相手はデカブツだけど、リーチが長いから懐になかなか入れさせてもらえない。そんな感じだ。

アーロンも歳だな。俺だったらいっつか前に華麗に避けて、あの目に剣を突き刺す自信がある。オヤジでも、それくらい軽くやってのけるだろうなって「はははそりゃないぜ!オヤジはもうシンなんだから共食いになっちまう!」

だめだ、ツボに入った。やっぱり酒のせいで笑いの沸点が低い。しかも変な想像が脳裏に駆け巡る。ユウナ様が、アーロンがシンに食われる。オヤジに食われる。飴玉みたいにペロリと丸呑みされて、消化されて、排出されて、海に帰る。

養分になって、栄養になって、シンのコケラとしてまた生を受ける。化け物になった自分の身体に見ても、ユウナ様は何も思わない。人類を滅ぼさずにはいられない、そんな闘争本能に身を任せる。

あんな女の子が。あんないっつも泣く一歩手前の顔をした、気弱な女が。人を殺す。俺のオヤジを殺そうとして失敗する。なんだ、それ。なんだよ、それ。おかしいだろ。どういう事だよ。

怪物がオヤジで、オヤジは人を殺しまくってて、俺はその息子で、アーロンにザナルカンドから連れてこられて、ユウナ様は召喚士で、オヤジを殺す修行の旅をしていて、それでそれで。


《____ギエエエエエエエエエエエエ!!!》

「ぐぅっ!!」

オッさんと海老と蟹の中間みたいな魔物が鍔迫り合う。アーロンの足がにわかに地中に沈みこみ、肩の筋肉がびくびくと隆起してるのが見える。力比べの構図。

ハサミでガッチリ剣を掴まれて、力を受け流せない。あのくそでかい化け物と正面から力比べってやっぱりオッさんも化け物だよなぁ。

「ぐぅぅっ…!」


オッさんの呻き声が海岸に響き渡り、場が硬直する。オッさんはカウンターを入れる一瞬を狙ってるのだろう。押し勝つ気か、それともあえて力を抜いて型を崩し後の先を取り、一気に離脱するのか、「かっ!はっ…!」

アーロンが苦しそうな声が上げた。あの似合わないサングラスを地面に落とし、脂汗を浮かべていた。シンのこけらに上から押さえつけられた剣を震わせてで耐えている___俺が今まで見たことの無い様な、必死な表情で。

「……おいおい」

嘘だろ?
押されてる?あのアーロンが?あのドンクセェ魔物相手に?って、いやいや、そんな訳ねぇだろ。伝説のガードとか言われてるんだろ?ガキの頃何度も不意打ちで殴りかかっても指先一つで綺麗にすかしやがあの化け物ヒゲが?ありえねぇよ。

「…グゥアアア…!」「はっ!…かっ…!」


「そんな姿、俺に見せてるんじゃねぇよ…」

あのオッさんは機会を伺ってるだけ。馬鹿みたいに真正面で受けて立ってるのは、それだけ自信があるから。そうに決まってる。

「アーロンさん!大丈夫ですか!?」

テントの残骸から飛び出してきたのはユウナ様。露出していた部分に折れた木でも突き刺さっただろうか。肩から血が流れている。杖を地面に立てながら、ふらふらとした千鳥足で出てきては召喚の印を結び出す。

ユウナ様の足元に黄金色に輝く陣が形成される。印の形はイフリート。地面を割って登ってきたイフリートに命令を出そうとしたその瞬間。

フッ

陣が消える。イフリートの皮膚が蒸発するかの宙に散り、存在が消えていく。

失敗したのか?ここで、このタイミングで?

見ると、ユウナ様は腰を落としペタリと地面に座り込んでいた。目線の先、ユウナ様の膝下には死体。1人の男の亡骸。

「…さん。…なんで…」

何かを呟いてるユウナ様。まさか、知り合いか?

「ユウナ離れてろ!」

叫ぶアーロンの声は届かない。ユウナ様の意識はまだ目の前の男に囚われている。

助けに来た癖にあれではかえって足手まといだ。なにしてんだよ。どいつもこいつも。アホくせぇ。踊る阿呆に見る阿呆。その辺転がってる死体だってカラカラ笑い出すぜ。

この状況で突っ立って見てるだけのNO,1アホは俺だが、本来ガードでもない俺は傍観者でいいだろう?

たかがシンのこけら。シンの身体の欠片。自然と出てくる垢みたいなものだ。難なく倒して当たり前だ。召喚時一行ってのは勇者パーティなんだ。強い武器と強い仲間がいて、シンっていう化け物魔王を倒す存在なんだよ。ストーリーラインが世界を救う話ならば、俺は村人Aであればいい。死体になりたくないから、隅っこで震えて見てるんだ。それでいい。それでいいんだよ。


なのに


なんで


俺は剣を今握った?


やめろ。振りかぶるな。


考えなしに動くな。後悔するのは分かってるんだ。
 

走るなよ。叫ぶなよ。関っちゃいけないんだ。


止まれよ。俺の身体。




---------



「キマリ!」

キマリが雄叫びを上げながら我先にと駆け出した。それに私は追従した。武器である人形が無いのが心細いが、そんな事を言ってる場合では無い。

ユウナが、アーロンさんが危ない。

アーロンさんが魔物と正面で戦ってるおかげで、ユウナの元に攻撃は届いていない。

ユウナは戦闘の場からルッツの身体を離そうとしてるようで、意識の無いルッツを肩に担ごうとしているが、うまくいってない様子だ。

「ユウナ!ルッツの事は…っ!」

言葉に詰まった。今は放っておけとでも口走るつもりだったのだろうか、私は今。自分でも出来なそうな事をユウナには強要するの?


「キマリ!お願い!魔物は私が…!」


堪らずキマリに声をかけた。縋る様な気持ちだったが、キマリの耳には届かなかった。「ヴォォォオ!!」ユウナの肩から血が出てるのを見て、逆上して歯止めが効いていない。キマリは槍を振り上げて魔物の腹に突き立てていた。

「ゥヴォォ!」

何度も槍を突き立てるキマリに対して、無反応のシンのこけら。魔物の固い甲殻にキマリの槍は阻まれていた。

「キマリ…お前にはまだ、この外殻を破れん…!ユウナをっ…!」

アーロンさんが魔物と睨みあっているお陰で、後ろのユウナにはまだ注意が向いてない。
今しかない。頼れる人はいない。私がやらないと。

「ユウナ!一緒に担ぎ上げるよ!?良いね?」

私はユウナに駆け寄ると、耳元であえて大きな声を張り上げた。

私の名前を弱々しく呼ぶユウナ。目尻には安堵の潤いが見て取れる。

ユウナの片口の傷は思ったより深かった。血をかなり失っている。顔色も蒼白で、思考が来ていない様なピントの合わない目線。明らかにまずい様子だ。先にユウナを下がらせるべき?

「う、うん!ルッツさん!もう大丈夫だよ!ルールーが来てくれた!今助けるからね!」

意識が朦朧としている様子のユウナだったが、ルッツを助けるという強い意志で固まっているのが見て取れた。まずはルッツをここから運ばない限りはユウナはテコでも動かなさそうだ。私は覚悟を決めて、ルッツの左手を掴んでは引っ張り上げ左肩を担ぎ上げた。

ユウナと歩幅を合わせて一歩、また一歩と足を進める。ルッツの身体から滴る血が背後に道を作る。生暖かく伝わる熱からはルッツの生死は判断できない。これだけ身体を寄せれば判断できるかとも思ったが、意外な程に分からない。

正直に言うと、ルッツの生死を確認するのが怖かった。同時に、チャップを思い出すのも怖かった。

仮に既にルッツが死んでいると分かった時。「死体を助ける行為に意味は無い」とユウナに言わねばならない。それも嫌だった。

合理的な判断をする大人の顔をしたナニカになりたくなかったのだろうか?最近の私は、そんな子供っぽい想いを抱きやすくなっている気がする。だとしたら理由は、キッカケはなんだろう。

__そんな取り留めもない事を考えながらの鈍重な行進だった。

今日一日で血を見過ぎた。先程まで話していた人達の命が目の前で花火の様に消えていく、シンの残したこの海岸のモノクロームな光景に現実感が持てなかったのだ。

場違いなほどに、気が抜けていて惚けていて___詰まる所、私は、どうしようもなく、油断していたのだ。



ドッ!!

という音がした。音の発生源は自分の脇腹。ボキッ!という嫌な音が胸骨を通して喉から湧き出た。口元から温かい赤い液体が溢れ、世界がぐるりと回転する。

砂埃が立っていた。視界には赤と黒の星が軌跡が散らばり、チカチカと明滅している。頭の中に自分の血が大量にドクドクと流れこんでいくのを体内の音として感じる。

何を考えればいいのか分からない。先程までのまとまらない思考は、全て胡散して砂の中に取りこぼした。砂漠の中に零れ落とした数多の言葉の中に、ユウナは?という言葉が一瞬見つけたが、その言葉が現実のどこにも繋がらない。行動に移せない。

「ユウナ」

だから、浮かんだ疑問は無意味な声になった。視線を彷徨わせる。赤黒く染まった視界の中に、倒れたユウナとルッツを見つけた。砂の中に頭から突っ込んでる。気を失ってる?

「ユウナ!ルー!」

ワッカの声がどこからか聞こえてきた。次の意識のつなぎ目には、いつの間にか肩を抱かれいた。丸太の様に太いワッカの腕に妙に安心してしまう。

「グゥオオオオオオ!!!」

キマリの怒声が海岸に響き渡った。振りかぶった槍をシンのコケラの顔面に投げる。咆哮と共に視認できないほどの速度で宙に放たれた槍は初めて魔物に痛撃を与えた。血塗れの槍が抉り取ったのは左目。

魔物の口から耳をつんざく様な悲鳴があがり、怒り狂って振り回した尻尾にキマリは弾かれ、吹き飛ぶ事およそ20m、岩壁に叩きつけられたキマリは意識を失った。

一矢報いたもと言える状況、更なる追撃の一手は誰にも担えなかった。力比べの拘束から逃れたアーロンさんは、砂中に沈んだユウナの頭を片手で引っ張り出すと、気道を確保して背中を叩き、砂を吐き出させていた。ユウナの口から湿り気を帯びた土が、血と混じり飛び出てくるが、ユウナの意識は戻ってきていない。

「ワッカ!!ユウナを!」

ワッカはやるべき事をすぐに理解し、同時に後悔した。攻撃を受けたのは確かに私だが本当に命の危機があるのはユウナだった。ガードとしての本分を忘れていた自分を叱責する様にワッカは私から離れ、走り出した。

その後ろ姿に、私はなんで一瞬の制止の声を掛けれなかったのだろうか。

<ギギャアァァアーー!!>

自身の命の危機を悟ったのか、シンのコケラは突如全身を発光させて咆哮を上げた。固い甲殻の奥関節の隙間から漏れ出す蒼い光は怒りを表し、手負いの獅子と化した魔物は続々と増える敵対者の侵入を嫌ったのか、鞭の様に大きくしならせた尻尾の先端をワッカへと向け、ビクビクと震える。


この魔物が攻撃に入る予備動作はこの場では見逃された。

ワッカの目には、ユウナしか見えていない。ユウナの危機かつ妄信しているアーロンさんの命令である事もワッカの視界を狭めている。ワッカには攻撃は避けれない。無防備なワッカの背中にあのサソリの様な魔物の尻尾を突き刺さる。一切の温情もなく、命を刈り取る。

その未来を数瞬先の未来として幻視した。

振り下ろされる魔物の尾がワッカの背中を抉り掠めていく。鮮血の花が咲く。尾はまっすぐとワッカの背中の中心に向けて射出されていく中、

金色が私の横を疾風の様に通り過ぎた。

剣が振るわれる。ティーダの剣が魔物の尾を叩き、ワッカの無防備な背中に向かっていた尾の軌道が変わる。ワッカの脇腹を抉り取り、鮮血が飛び散り、転がりながら倒れこむ。

「っ!…ティーダ!来い!」

ティーダはそのま走り抜けていく。向かう先。声を上げたアーロンさんの元。一瞬の視線交差。アーロンさんは剣の胴体をティーダに向ける。ティーダは剣に向かい、迷うことなく足を掛ける。

足場だ。ティーダはアーロンさんの剣を踏みしめ、跳んだ。


うあぁああぁああっ!!


_______________




叫んでいた。気づいたら魔物は目と鼻の先の距離な訳で、俺は魔物の目に剣を突き刺していた。

                      どうしてこんな事になっている。


ギャアァァア!!

奪ったのは右の目。手に伝わるのは柔らかい眼球の更に奥、何処ぞの名前も分からない肉の感触。右の手を捻り上げ、それを掻き分ける。左目にはキマリの投げた槍が未だ深々と突き刺さっている。狂ったように叫ぶ魔物。生命の危機に瀕した緊急信号代わりの発光現象は今や最高潮を迎えている。

                       どうしてこんな場所に俺はいる。

思考は停止。疑問を持ってしまった。自分のこの舞台での存在理由を模索しだす。心と今が乖離しているのにも変わらず、俺の手は休まず力を込める。行儀の悪い左足は左目に刺さったキマリの槍の先端に金槌の様に踵を落としていた。

ギャアァァア!!

まるで雷鳴の轟き。痛みという情報を乗せた電流。ショートした乱雑なノイズは、そのまま悲鳴に変わった。鼓膜を鉤爪で引っ掻く様な金切り声に、俺は正気を取り戻した。戦う理由がない事に今頃気付く。

「ルー姉さん起きろ!!カミナリ打って!!キマリの槍だ!!」

退け。降りろ。もういい。元より俺には動機が無い。こいつを殺す意味が無い。剣を取ったのは、気まぐれだ。気まぐれに命を掛けてたら幾つ命があっても足りはしない。この魔物の額の上っていう最上級のデッドゾーンから、一目散に走り抜ける。

そう思って、地上を見下ろした。脇腹のいかれたルー姉さん、血の砂を吐き出したユウナ様。ワッカは言うまでもなくヤバイ。血だらけで蹲ってる。アルベド族の仲間が死んだせいか、遠くには怒りで、泣きながら走ってくるリュックがチラリと見えたところで、再びジェットコースターの様に揺れる足場。俺は何処に飛びおればいい。この地獄のどこに逃げればいい。視界に飛び込んでるのは海岸に横たわる死屍累々。そいつらは、揃いも揃って俺を見ている。親父に、シンに殺された奴らが、こっちを見ている。

       俺をそんな目で見るな。  
 
頭が沸騰しそうだ。いい加減にしろ。どいつもこいつも恨みがましい目で見やがって。筋違いだ。俺じゃない。お前らを殺ったのはクソ親父であって、俺じゃない。

「リュックは爆弾!!全部投げこめ!」

挑んだお前らの自業自得だ。霊魂になってまで一丁前に人を憎んでんじゃねぇ。死んだんだろお前ら。なら立ち上がるな。こっちを見んな。黄泉路に迷うくらいなら最初から覚悟なく死んでんじゃねぇ!

<キキギャアァァア!!!>「お前もうるっせぇんだよ!!!」

クソックソックソックソッ!!!!糞がっ!!
剣を引き抜き、もう一度。差し込む。ルー姉さんの落とした雷で焼け焦げたキマリの槍を引き抜き、差し込む。差し込む差し込む差し込む。魔物の血がリットル単位で顔面に噴き出しかかるが気にしない。断末魔の雄叫びを耳元であげられても気にならない。ルー姉さんのカミナリが真横に落ちたから、耳の鼓膜が破れたんだろう。何も聞こえない。

「なんなんだってんだよぉおお!!どいつこいつもさぁああ!!」

「お…ティー…ダ!!!」

オッさんが何か言ってる。オッさんはいつの間に取り付いたのか、魔物の背に乗って俺と同じ様に剣を突き立てていた。グラサン無いこのオッサンの顔なんて見るの何年振りだ。寝る時ですら外さねぇからな。ははっ。表情ダダ漏れじゃねぇか。なに焦ってやがるんだよ。大丈夫だよ、もうあと一押しじゃねぇか。危ねぇ事なんかねぇよ。剣を引き抜いては、差し込む。この繰り返しだ。

「あぁぁああ!!」

「お…ダ!!…やめ…!」

繰り返し。差し込む。繰り返し。差し込む。繰り返し。差し込む。

「ィーダ…!も…この…!」

ピストン運動は元より大得意なんだよ。ハハッほら、見ろよ俺の手さばきを。惚れ惚れするだろ?痙攣してるぜ、こいつ。ピクピク動いてやがる。どんな生物だろうが昇天する時ってのは痙攣するんだな、新発見だ。はははっ。

「もういい。やめろ」

声が聞こえる。しかも囁き声だ。なんでだ。聞こえないはずなのに聞こえる。それどういう事だ。神のお告げかな?キモいオッサンの声に似ている気がするから、全力で無視したい。ついでに俺の手が掴まれてる。ってか関節極められてる。なんでさ。

「お前は毎度毎度見て分からんのか。死体を荒らすな。この阿呆」

オッサンの囁き声が聞こえる。吐息の水分で耳が湿るくらい距離から、暑苦しいお告げが聞こえる。鼓膜がまだ少し残ってたのだろうか。

「もういいんだ」

そうか。もう良いのか。休んで良いのか?俺は、もう、休んでいいらしいのだが、どうなんだ「いるんだろ、そこに」お前だよ、そこの紫フード被ったガキんちょ。お前、俺の事ずっと見てたんだろ?アーロンの言葉だけじゃ信用ならん。本当にもういいのか。おい、笑ってんじゃねぇ。こら。



「よくやった」



まぁいいか。

オッサンが珍しく褒めてるんだ。 

多分なんとかなってんだろ。

最低限、クソ親父のひねり出した糞の尻拭いはしたんだ。

仕上げに、ユウナ様が異界送りしてくれりゃあとは万事オーケーのはずだよな。




「あぁぁああぁぁあ…!!!」





だから

もういいだろ



休んでも

いいよな



























































前を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.02254581451416