旅は好きだ。
ユウナ様達一行との旅も悪くなかったが、その道中のほとんどが船旅だったのが惜しい。
旅ってのは、歩くものか運転するものだ。方向を定めてそこに向かって自分の力で進んでいく。
それで得られる充足感や達成感こそが、旅の本質なんだ。
そういう意味では山登りなんかも悪くない。頂上からの景色を目にした時に全てが報われる。…帰りが無ければの話だが。
そして、その充足感には、正しい味わい方という物がある。
それは…星の下でひっそりと飲むコーヒー。中二病の発露だからこそ、男として欠かせない。
これは自分へのご褒美であれば何でもよくて、人によっては煙草だったり夜食や酒だったり小説を読む事だったりする。
ようするにメリハリだ。動と静があればそれで良い。今日の俺達は大変お疲れだなのだ。主に肉体的疲労で。
魔物と戦い、慣れない危険な素材回収業務という重労働。捕獲した魔物の素材のデータを見ては、ほうほうとうなずき、大量に現れた魔物からは、ひぃひぃと逃げのびる。
一喜一憂。起こる事全てに全力の反応を返す俺達を見て、神様は笑ったんだろうな。運命のいたずら。ネタ振りかと思うような出来事で満載な一日だった。
カンカンカン…
今やってるのは、そんな一日の総纏め。テントを張って飯を食って、コーヒーと雑談を楽しんで、寝る。仕事を終えた体を癒すための準備の時間だ。
カンカンカン…
金槌で地面に杭を打ち付ける。一定のリズムで、確実に、テントから伸びた紐の輪と地面をキスさせて、離れないようにさせる。
暗くなった星の夜空。ミヘン街道は吹き抜けの大地だ。風が強い。しっかりと打たないとテントが飛ばされてしまう。
だからこそ、焦らない。じっくりと、柔らかい寝床を作ろう。
ジュージュー…。
焼けるソーセージの匂い。
フライパンから小さく昇る湯気といっしょに風に乗る。土の匂いよりもそれは高音で、空腹の鼻によく抜ける香りだった。
カショカショ…と小さく鳴るのは、肉を転がすヘラが、フライパンに擦れる音。
リュックが後ろで、料理を始めていた。スポーツドリンクの調合も上手かったリュックは、料理もお手の物らしい。
だから分担作業。船旅生活でテントの張り方を知らなかったリュックの寝床の確保が、俺の今やっている作業だった。
悪くない。
仲間と共にいて、静かに流れるこの時間。それは悪くないものになる…はずだった。
「なぁティーダ!俺の分は!あるんだろ!?ケチケチするなよ!」
「そうね。美味しそうだわ…リュックが珍しい保存器具を持ってるから、生物だってこうやって食べれるのね」
こいつらがシャリシャリと俺達より先に張ってやったテントから出て来さえしなければな…!!
「お前ぇらの分はねぇよ!!さっさとテントに戻りやがれ!わざわざ離れた所にテント張ったんだから空気読めよ!」
俺はガインと最後の釘を打ち終わり、完成したテントの足下から立ち上がり叫ぶ。なんでこんな大所帯の旅みたいな雰囲気になってんだよ!?
「い…良いじゃない…。わ、私達、実はちょっと事情があって、お腹空いてるのよ…」
「そ、そうだよ…なぁ?せっかく再会出来た仲間だろう、俺達?そんな水くせぇ事言わずによぉ…」
「ざっけんな!こっちの方が腹ぺこだっつーの!お前ぇらに食わせる銀シャリ(米)はここには無ぇよ!失せな!!」
久しぶりの旅らしい旅。
静かな緩やかな時間を想像して、テンション上がってた俺の空気をぶち壊したこいつらの態度のせいで、俺はまさにオカンムリだった。
こいつら召還士御一行様と俺達の旅のルートは被っていた。
それは別に良い。朝に再会した時は、俺もそりゃ少なからず嬉しかったさ。ワッカとの契約金の受け取りもしたかったしな。
試合に勝った喜びを分かち合って、握手する。お互いの旅の無事を祈り合って、手を振り合う。それ位までならしていいさ。実に美しいやり取りだ。
だが。こいつらは。
「契約金…あぁ…あれはな。えっと、ほら?スタジアムを魔物が襲ったゴタゴタで大会役員も混乱してるみたいでな…その優勝賞金の払いが遅れるらしんだよ…だ、だからー」
などと、事実上の踏み倒し宣言をほざく。更には。
「あのね…私、実はテント張った事ないのよ。前も旅した事あったんだけど、男の人がやってくれていたから…。ワッカは馬鹿だし、アーロンさんには頼れないし…」
「ご…ごめんなさい!わ、わ、わ、私からもお願いします!」
とか、女特有の面倒くささを発揮する、ルー姉さんにユウナ様。先に着替えがしたいらしく、わざわざ俺達より先にテントを張ってやったのだ。
そして極めつけに今の飯をかっさらおうとする乞食のごとく所行…こいつら恥ってものが無ぇのか…。営業スマイルのティーダと呼ばれた俺も流石に怒髪天付く3秒前だ。
ここは一度がつんと言わねばなるまい。
親しき仲にも礼儀あり。今日の失敗を正しく後悔させる為にも俺はそろそろ我慢をやめるべきだ。と言うかその方がこいつらの為だ、この野郎ぉぉお!!
「おい。お前ら!あまりみっともない真似をするな」
そう声高らかに叫んだのは、アーロンだった。街道横の茂みからガサガサと出てくる。
「旅というのは過酷なものだ。背負えるだけに荷物には、他人に助力をできるだけの余裕は詰まっていない。それは俺達も同じだろう。おんぶに抱っこで渡りきれる程、お前達の旅は気楽な物なのか?」
アーロンの口から漏れでたのは、正論。美しいまでに論理立った理屈だった。
まじかよ…このオッサン……輝いてる。輝いてるぞ、オッサン!今最高に格好いいこのオッサンは誰だ?このサングラスの似合うナイスミドルは、本当に俺が知ってるアーロンなのか?
…くそっ!やられたぜ、アーロン!あんた本当に伝説のガードだったんだな!経験者は語るっていう奴か!かーっ!濡れるぜ!
よし!オッサン!あんた好みの幼稚園児を見つけたら、必ず連絡してやるからな!さらさらの髪を撫でるの好きな謎性癖のあんたにはたまんねぇだろ!?
「あ、アーロンさん…すみません…」
「ご、ごめんなさいアーロンさん。私達たしかに少し図々しかったわね…」
シュンと大人しくなる悪魔二人。親に怒られる子供そのものだ。中々バランス取れてるじゃねぇかこのパーティ。
俺はケケケと内心で舌を出しながら、荷物をテントに持ち込みマットの準備に移った。
リュックの用意してくれたアルベド印のこのマットは優れものだ。こうやって、しぼんだマットの右端の栓をチョイチョイっと捻ってやれば……
キュ…キュ……シュゥゥゥゥゥゥウウウ…
この通り!何もしなくても空気の圧力で勝手に膨らむのです!!こいつは簡単ですよぉ奥さん!!
そして、テントのチャックの開閉確認。中に虫が入り込んでないかチェック。よし、問題無し。俺はバサリとテントから出て、最後にガスランタンに火を灯す。
…ボッ…ォォォォ…
これもさすがのアルベド印。火の付きが簡潔だ。ガスの量の調節つまみも問題なく動く。この揺れる光とガスの音を聞くと落ち着くよな。電池式には風情が足りない。
「あんた、手慣れてるわね…」
「そうっすか?」
俺の動きをじっと観察していたルー姉さん。まぁこれ位ならあのオッサンでもできる些事の手業だ。むしろここまでは基本。応用はここから先の話となる。
「アーロン」
「あぁ。そろそろ言いだす頃だと思っていた」
オッサンはそういってスッと取り出したのは木の釣り竿、二刀流の構え。
やはり。さっき茂みでゴソゴソやってたのはこれ作っていたからの様だ。相変わらず見かけに寄らず芸達者なオッサンだぜ。
「何がいそう?」
「鮎に、イワシに、ニジマスだ」
「おい嘘付くなよ、オッサン」
海水魚が混じってんじゃねぇか。こうやってナチュラルな流れで嘘付く事もたまにしてくるので、注意が必要だ。
「幻光虫の住む川にはこういう事も起きる」
「絶対嘘だろ!それっぽい設定言って騙そうしてんじゃねぇよ!このロリショタコンが!」
「ふっ…そうだな。お前には信じられる筈も無い、か…。だが、本当だ。お前も試してみれば分かる」
そう言ってくっくっくと喉の奥で笑うオッサン。え…?マジなんすか、それ?
「その前に飯は食っておけ。俺は先に行く。準備が出来たら来い」
ガサガサと茂みへとまた消えていくアーロン。もしや、あいつも飯食えなくて自分で釣ろうとしてやがるのか…。
「……ア、アーロンさんとあんたって、どんな関係なの…?」
ルー姉さんは唖然とした表情で俺を見ていた。ワッカもアーロンと俺を交互に指刺す謎のジェスチャーを送ってくる。
「なにって…育ての親っすかね…一般的な言い方したら…」
ちなみに一般的な言い方をしなかったら、居候だ。親父の知り合いだと言って、勝手に俺の家に上がり込んでは住み込んで来たショタコンの変態男とも言える。
「あんた記憶無かったんじゃなかったっけ?」
「色々あるんすよ。でも、シンのせいで記憶が無いってのも本当の話っすよ?」
俺はなんせこの世界の新参者だ。記憶も何も元から無い。嘘はぎりぎりで付いていないと思う。
「それは分かるわよ。今までの会話が演技だった方が逆に怖いわよ」
ルー姉さんはそう言って、くすりと笑った。俺も笑みを返してから立ち上がる。リュックの料理を手伝う事にした。
「どう?リュック?」
「……」(ぷい)
無視。どうやら、まだご機嫌ナナメみたいだ。
リュックとはさっき些細な事で口論していたのだ。風呂に入りたいと言ったリュックをからかった軽口が、何故か逆鱗に触れてしまったようなのだ。時が解決するのを待とう。
俺はリュックの裏に回って、簡単な追加のオカズ作りを始める。うん。今日も良いプリケツだ。
そうこうしている内に飯ごうが炊きあがり、熱くなったそれを持ってテーブルに食器と一緒に並べる。
準備、完了だ。
「いただきます」
「…いただきます」
手を合わせて始まる食事。食器の音がかちゃかちゃと小さな食卓に響く。
「あ、はい。醤油。目玉焼きに」
「…」
「レモン。かける?鶏肉のステーキ」
「…」
「…リュック、美味いよ。これ全部」
「…うん」
よし。ようやく言葉を引き出したか。
それをきっかけにやんわりと場の空気が弛緩したのを肌で感じる。
まったく女って奴は面倒くさい。
こうして畳み掛けるように話しかけたら、治る程度の機嫌のくせに無視まで慣行しやがるんだからな。世の男達はいつもこうして苦労をしているのだ。
「ごくり。ティ…ティーダ…」「お前に食わせる銀シャリは無い。戦時中は芋ばかりだった事を思い出すんだワッカ、あの苦労を思い出したら何だって耐えれるさ」「戦時中っていつだよ!?」
ギャーギャーと耳元で騒ぎ立てるワッカにイライラして俺はつい聞いてしまった。事情を聞いてしまう事で深入りしてしまうのを避けたかったのに。
「だいたい、何でご飯食べれてないんすか?俺達より早くここに着いていたんでしょ?」
そう。ワッカ達の旅は俺達と違って先を急ぐものだ。だから、再会した時もダラダラ一緒にいるより、ここで分かれようと言う話をしたはずだった。
キャンプ地が被ったのは、まぁミヘン街道に手頃な広場がこの辺りしか無かったので仕方ない。
だとしても魔物を特別な方法で狩らないといけない俺達とは違い、こいつらはここは足を止める必要はないものだから、さっさと野営地に入って飯の準備やら何やらをしていたはずだ。
現に俺達がここに到着した時にはもう、これから食べると思われる空の食器が並んでいた。
「…いやー…な?旅が始まる前までは何故かいけると思ってたんだけどな…」
「私たちの中に絶望的なまでに料理できる人がいないのよ…私は少し出来るけど、こんな焚き火で料理するのは勝手が違って………………炭になったわ…(ぼそっ)」
「ふーん」
「薄情な奴だな!ここまで聞いて同情の一つも無いのかよ!?そこの胸肉のステーキを齧り付かせてくれるとかよぉ!」
「ワッカ。そのまま肉に手を付けたら容赦なく通報するぜ…。はぁ。まぁ大丈夫でしょ…。オッサン…アーロンが魚釣ってくれる可能性がまだあるよ。それか非常食ないの?」
「あんなんで腹膨れるかよぉ!?もう昼には食っちまったよ!」
馬鹿だこいつら。
「これが、召還士様を守るガードの方達とはねぇ…戦闘以外の事もできるようになった方がいいっすよ」
「耳に痛いわね…」
はぁ。一斉に溜め息をつく俺達。こいつらこんなんで明日からの旅大丈夫なのか…ユウナ様も腹ペこ…って、あれ?そういやユウナ様は________
ゾクリ。
バッッと振り返る俺。視線の方向は背後の緑の茂み。…遠くに乱雑に点在した小さな木がそこにあるだけだった。
「(気のせいか…)」
何かいたような気がしたのだけど…ウサギでもいたのだろうか。まぁ、いい。「ワッカ。そう言えばユウナ様は?」
「ユウナか?さっきまでテントでマットを膨らませようと、フーフー息を入れてたんだけど…あれ?どこ行ったんだ?小便か?」
こいつ、マジで一回殴った方がいいな。どこの世界に飯食ってる奴の隣でそんな下の話をする奴がある。しかもデリカシーも皆無だ。
「…ちょっと、私探しに行ってくるわ」
ルー姉さんはそう言って立ち上がる。
多分、昨日の試合前の一件でも思い出したのだろう。ユウナ様を一人にさせると危ないと考えたようだ。そして俺は食物を狙う人間が一人減って安心していた。
そういえば何故か俺達に会った時、ユウナ様は既にぐずぐずに泣いていた気がする。
多分アーロンが加入するのがよっぽど嫌だったんだろう。そうだよな、あんなむさ苦しい中年の加入を喜ぶ女の子はいないよな。
まぁ、明日の旅立ちの時にでも一言声を掛けてやろう。うちのオッサンが世話になるのだ。召還士の旅は過酷らしいし、激励しておいてもいいだろう。
「なぁ…ティーダ…ティーダさぁん…」
もぐもぐ。無視だ。無視。もぐもぐ。
やんでれ×ユウナっ!(Lv1)
そのXⅡ
アーロンさんに言われた言葉が私の中で反響していた。
「下手に取り繕うな。自分の心に素直になれ。」
頭を撫でて優しく言われた言葉は、私の心の穴の空いた部分にすっと染み渡っていった。
召還獣は、すぐに心がブレてしまう私のような狭い心を、きっと住みづらい家だと思ってるはずだ。
今日、ミヘン街道で初めて私は召還獣同士で戦った。相手はベルゲミーネさんという妙齢の女性召還士で、私の実力では遠く及ばない実力を見せつけられた。
召還獣は、私が魔物と戦ったり旅の道中で色んな経験をする事で、その強さを増していく。
ベルゲミーネさんの召還獣は強くて格好よくて、私の呼んだ召還獣とは明らかにその力強さにおいて別物だった。
強くなりたい。私はもっと強くならないといけない。
人間としての器が、戦闘能力にここまで関係してくる召還士という職業は、もしかたら私には向いていないかもしれない。
物知らずの世間知らず。今日だって、そう。外で寝るなんていう初めての体験をする事に少しだけのワクワクと怯えを覚えてしまうような、子供っぽい私では召還獣も呆れてしまうだろう。
でもかと言って、諦めたくない。
みんなが安心して笑える毎日の為に、私は止まってはいけないんだ。成長する必要があるなら成長する努力をしないといけないんだ。
泣き言を言うのはそれからなんだ。きっと。
この中で一番の年長者で、お父さんの旅を共にして、その本当の召還士の姿を目にして来たアーロンさん。
伝説のガードと呼ばれているほどの人の言葉には、きっと私を成長させる真実が詰まってるはずなんだ。
私は不器用だから、アーロンさんの言葉に必死になって付いて行こうと思う。
…スチャ!
自分の心に素直になる。
それを考えると、私の心には絶対に無視できない、今とても大きな、大きくなっていく存在がある。
ティーダ君…。
彼の存在が、私の心の中にある。まるで檻から飛び出そうとするライオンのように心の中で暴れているのが分かる。
手の付けようが無いんだ。私は恐る恐るそれに触れようとするけど、あまりに大暴れするものだからすぐに手を引っ込めるばかり。遠くから見守る事しかできない。
でも…そんな彼は、ただ見守るだけでもすごく楽しいんだ。
「ティーダ君ってば…ふふ。美味しそうに食べてるなぁ」
もぐもぐ。って感じ。ワッカさんに取られないように慌てて口に詰め込むもんだから、もうホッペタがリスみたいに膨らんでいるよ?
ご飯粒も付いてるし…ふふ。もうだらしないなぁ。私の手が届いたら取ってあげるのになぁ。そしたらパクって食べてあげちゃって…もう!なに考えてるの私!
バッ!
「!?」
突然振り返るティーダ君。さっと反射的に木の陰に隠れてる私。
び、びっくりしたぁ…なんだろう。虫でも首筋にいたのかな?
彼の首筋。日中、真夏の陽光にあてられて真っ黒に焼けた彼の首筋に一筋の汗が流れてる。それを私は綺麗だと感じた。
夏を具現化したような彼から生まれた雫なのだから、虫さんも蜜のように吸い寄せられてしまうのも仕方ないよね。うんうん。気持ち分かるなぁ。
彼はそうこうしている内に食事を終えて、ひまわりの種を口一杯に頬張ったシマリスみたいな顔のまま、立ち上がって何処かに向かって歩き出した。どこに行くんだろう…この双眼鏡ってもっと倍率上がらないのかな?あっ…!分かった!アーロンさんの所に行くんだね!なんだか育ての親ってさっき小さく聞こえた気がするし、きっと仲良しさんなんだね!もう…最初からそう言ってくれれば良かったのになぁ。アーロンさんと深い関係っていう事は、私のお父さんとも凄く縁が深い訳だから、私とも関係があるよね!そうだね、こんな所でも繋がっているんだなぁ、君と。これって正しくエボンの神のお導きだよねっ。すごいすごい!私たちの出会いって最初から決められてたものだったりするのかな?ううん、きっとそうだよ!だって、そうじゃないと私に乱暴しようとしてきた男の子達からも助からなかっただろうし、シンに吹き飛ばされて海に私が落ちちゃった時も、もしかしたら死んじゃってたかもしれないんだもん。きっと、神様が私たちを巡り会わせてくれたんだよ!こんなにも運が良いのは、お父さんが善行を積んでくれたお陰かな?それともお父さんが星の海から見守ってて、私に贈り物をくれたのかな?そうだとしたら、お父さんは彼と私の事を知ってて巡り合わせを仕組んでくれたって訳で…。えっ!?本当!?駄目だよお父さん、私は召還士で彼はブリッツボールの選手なんだから…あぁぁ…でもでも。お父さんの意思がそこにあるなら、無下にはできないよね。とにかくこれからも…その宜しくね、ティーダ君。旅の行き道は被ってるとはいえ、私達が寺院に行ってる間に彼は進んじゃうだろうし、彼が魔物を狩るのに手間取って旅が遅れちゃったら、今度は私達が彼が置いて行っちゃうのかな?他にも私が道行く人達に拝まれちゃって、足を止めないといけない時に置いてかれちゃうかもしれない。うぅぅ…難しいなぁ。お父さんの希望なんだからそれに答えないとだよね。あっそっか!彼と一緒に行動する事でもしかしたら、私の心が成長するとしたら、それはきっと旅の進行に不可欠な事だよね!きっと、そう言えばルールーも分かってくれる…よね?あぁ無理かなぁ…。突然そんな事言いだしても変だよね。やっぱり、私からお願いしてみようかな。彼に私のガードになってくださいって…。ガード。私を守る騎士の職業。いつだって私の事を一番に考えてくれて、私とどこに行くのも一緒…あれ?それって!あわわ!恥ずかしくてそんな事言えないよぉ!うぅ…でも彼は特別なお仕事があるみたいだし、私が急に言いだしても困るよね。せめて彼の仕事が終わってからなら…。でもアルベド族の服を着て変装してる彼は、もう有名人だ。そんな人を私が独り占めしていいのかな…迷惑だよね…。でも!私だって仮にも召還士、少しくらいの地位なら…あれ?でもリュックはどうなるんだろう。そもそも何で一緒に彼と一緒にいるんだろう。しまった、朝に会った時説明されたはずなのに…泣いてたからよく聞こえてなかったよぉ…。私のバカ。魔物を狩る特別な方法でお仕事までなのは良いとして…たしか彼…そうだ!今お家も戸籍も無くて困ってたから、それが揃うまではリュックと一緒に仕事をするんだって言ってた!大丈夫なのかなぁ…心配だよぉ…お家が無いのってきっと不安だよね。私が協力できる事があったら協力させてくれないかなぁ?そうでもしないと恩返しにならないよね。あっ!彼、川辺に着いたみたい!進む私の足にかかる茂みも、だんだん湿り気を帯びたそれに変わりだしている。うぅ、声をかけていいのかな?アーロンさんとやっぱり仲良さそう…。私もあんな風に楽しそうにお喋りしたいな…。リュックはさっき喧嘩してたみたいで、ほとんど喋ってなかったね。いいなぁ、私だったら絶対そんな風に喧嘩したりなんかしないよ。リュックはちょっと贅沢さんだよ、ずるいよ。一緒にご飯食べるなんてそんなの羨ましいよ…。あっ!魚!釣れたんだ!やっぱり彼は凄い!きっとお魚さんからも好かれてるんだね!アーロンさんちょっと悔しそう…ふふ。まるで本当の親子みたい。私もあの輪の中にいれてくれないかなぁ…あれ?そうだよ!アーロンさんともお話したいし、二人とも私は顔見知り以上の関係なんだから、今がチャンスだよ!行かないと…もう心臓止まってよぉ…顔も熱いし…なんでこうなっちゃうのかなぁ。でも勇気を出さないと!召還士としての成長がかかってるんだもんね!が、がんばる!
「はぁ…すぅ…はぁ…行くぞぉ…」
「…。」
「深呼吸して…双眼鏡は大事にしまって…」
「…。」
「じゃあ。キマリ。行ってくるね。ちょっと遅くなるかもだから、休んでて大丈夫だからね?」
「…。」
タタタッ…。
「…。」
「…。」
「…。」
「キマリは…何も見ていない」
_____________________________________
「釣れねぇな」「あぁ…」
ピチピチと跳ねるイワシを横目に俺は呟いた。
この一匹が釣れて以降、またボウズの気配が濃厚に漂って来ていた。
昔は元々釣りはそんなに好きではなかった俺だが、アーロンに釣りの仕方を仕込まれて以来は、まぁそれなりに楽しめる位の遊戯と化していた。
今だって、文句こそ言うが、こうして動きのない釣り竿を見つめてぼーっとし続ける事を俺は辞めようとは思っていない。
これは勝負なのだ。アーロンと俺との。魚と俺との命とプライドをかけたバトル。そこに乳臭い女子供が入ってくる余地はない。
この一時では明鏡止水。揺れの無い心が求められる。
動揺や雑念は糸を伝染し魚に、奴らに伝わる。気取られるのだ、人間の欲望とは匂いがするものだから。
だから、最近抜いてないなー、とか。ザナルカンドでのセフレ達の地雷を予想外に処理できたから、これからが楽しみだなーとか考えてはいけないのだ。
そもそも俺は、自分で自分を慰める等の愚行を自ら禁止した、生粋の種付けマシンとしての自覚と誇りを持ってる。負けてなるものか…。核爆発を防ぐ三ヶ条とは、エロは見ざる、聞かざる、近寄らずだ。
妄想等というシャドーボクシングで、貴重な白き弾丸(セイクリッドバレット)を消費してはならない。イケメンの持つDNAは人類の持つ財産でありそれを守る義務がある。よってRTよろしく、拡散するべきが使命であり死命なのである。リングを前にした減量中のボクサーと同じだ。
だから幾ら…ピクッ…俺が16歳と言う…ピクッ…体を持て余す年頃だとしても…ピクッ…お魚さんなんかには負けないんだからぁぁぁ…!「引いてるぞ、おい」
「おっし!来たぁ!フィィィィッシュ!」バシャァ!
ピチピチッ…!と跳ねるのはまたもやイワシだ。いい加減信じよう。川なのに…。この世界は根本的に間違っている。
「ふん…この量では全員食わせるには足りんな。続けるぞ」「いいから、オッサンも釣れよ」
そう言って、また釣り竿を握る俺…あぶねぇ。もう三秒遅かったら、違う釣り竿をフィッシュする所だったぜ…オッサンの横でそうなったら目も当てられん。賢者として俺は突発的にリストカットをする事だろう。
「お前達の旅の行き先は」「ん?あぁ…とりあえずアルベド族のホームまで旅する。マカラーニャの森でちょっと足止め食らうだろうけどな」
そうか。と言ってオッサンは、黙って釣り竿を持ち続けている。見慣れた姿だ。旅慣れしたオッサンには、この時間は別段興奮する事もないんだろう。
「…マカラーニャの森まで行くのか」
「あぁ、そうだけど…なんかあるのか?」
「まぁな…。森に着いたら連絡しろ。見せたいものがある」
「…なんだよ、それ?」
「ふっ…今は言えんな」
「なんだよ…それ…」
出たよ。オッサン特有のカッコ付けの隠し事。どうせたいした秘密でも無いくせに、こうやって思わせぶりな事を言うのだ。まったく秘密のある男が格好いいっていう教育でも受けていた世代なのかね。
「ふっ…そう拗ねるな。別段お前に被害がある訳でもない…。だが、そこまで行く予定があるなら少し教えておく事がある」
オッサンはそう言って、釣り竿を地面に置き。腰に差した大剣を取り出した。「虎徹と言う」
「今朝、お前が相対していた狼の様な魔物の他に、殻を被った丸い魔物がいただろう?」
「あれか。オッサンが走り込んで来てそのまま切った奴な。余計なお世話だっつーの」
オッサンは今朝、俺達を見つけるなり走り込んで来て、俺の後ろにいた小さな魔物を切って俺にドヤ顔を向けていたのだった。多分その時に切られた魔物の事だろう。
「あれは鎧持ちと呼ばれるタイプの魔物でな…お前ら二人では、あの魔物とはまともにやっては埒があかん」
「…なんでだよ」
「非力だからだ。片手で持った剣では、奴のような魔物の装甲は貫けん」
オッサンはそう言って笑った。ぴくりと引かれた釣り竿を見逃す事なく釣り上げる。ニジマスだ。くそ、中々でかいじゃねぇか。
「お前の戦い方も間違いではない。このまま足回りの速度を生かして魔物と戦えば良い。鎧持ちと会った時は迷わず逃げろ」
オッサンは釣り竿をまた地面に戻して、地面に腰を下ろす。「逃げるって訳にもいかないんだよ。仕事だからな」「ふっ…一度痛い目に会わねば覚えんか…」
「別にたいした事じゃねぇだろ。殻の隙間狙えば良いだけの話なんだろ?」「全身が鎧の場合もある。すぐにでもそういった魔物は出てくるぞ」
「…どうしたら良い?」「ふっ…最初からそう素直に訊ねろ。と言っても、対抗策らしい物はない。お前次第だ」「なんだよ、それ!?勿体ぶって対策ねぇのかよ!?」
このオッサンはこういう所が面倒くせぇ!くそ!その髭剃るぞ!朝起きたらツルツルのテカテカにしてやんぞ、おい!
「…だったら、あの魔物と相対した時は剣を両手に持ち変えろ。断ち切るのでは無く、叩き切れ。足を止めて体重を剣に載せろ」
「そんな事して、カウンター入れられた時どうするんだよ…怪我しちゃうだろ…」
「だから言っただろう。逃げろと。臆するのなら戦う魔物は選べ」「選べって言ってもなぁ…」
「…斬鎧と言う。更に堅い装甲を切る時は、斬鉄と呼ぶ」
キィィィンと音を鳴らし、剣の先で石をなぞるオッサン。…あ、竿引いてる。…気づいたか。オッサンの二匹目だ。追いつかれた。
「斬鎧はお前なら、覚悟次第ではできるだろう。コツは『切れる』と、信じきる事だ。反撃を予想して、逃げの形を取った足取りではいつまでたっても切れんぞ」
「簡単に言いやがって…いーよ別に。俺は剣士になるつもりは無いから」
「ふっ…まぁ他に方法が無い訳でもないがな。お前の剣は水の結晶。フラタニティだったな」「それが何だよ?」
「最後の剣。斬魔だ。これは修練を積んで覚える系統の技では無い。剣とその使い手に魔物の血がこびりついていく事で、存在そのものが魔を切る事に特化されていく」
「はぁ?オカルトかよ」「ふっ…そうかもしれんな。俺自身、自覚は無い。切るごとに魔物の体から放出される幻光虫を吸収しているなど、俄には信じがたい」
アーロンはそう笑って、剣を下ろした。虎徹という中二ネームの剣は、確かに禍々しい鈍い光を放ってる…ような気がする。
「お前が、この先何匹の魔物を切るかは分からんが、そういった物はあるらしい。可能性があるとしたら、それだろうな」
「ねーよ。無い無い。そういう都合良いオカルトは俺は信じない主義なの。どーせ使い手自身が強くなったのを剣のお陰と勘違いしてるか、商人が中古品売りつける時に考えたセールストークってオチでしょ」
「くっくっく…まぁそう言うな。その剣は水だ。幻光虫を過分に含んだ水を持って鍛えられた剣。軽く。そして折れぬ。剣は消耗品で、基本的にはいつかは折れる物だからな。斬魔があるとしても、それに至る前に剣が先に根を上げるのが普通だが、それは違う」
「そして…美しい。血を吸うほどその剣は透明度を増していく等という逸話持ちだ。皆蔵に大事に仕舞うからな、現存する数は極端に少なく、レア物だぞ」
「…ふーん」
だったら、金に困ったら売っぱらってしまおう。ワッカは弟の使っていた剣だと言っていたが、契約金が払えないと言うのならば仕方ない。鬼の心でこれを質に入れて金に換えよう。
「…魔物との戦いは何が起こるか分からん。油断するな」「分かってるっつーの…」
_____ちゃぽん。
そう最後に言って、俺達はまた竿を投げ直して、釣りに戻る。ったく。回りくどいんだよ。最初からそれが言いたかっただけのくせに。
ガサッ…
「あ…あの…」
「ん?」
「お、お、お話してもいい…かな?」
茂みから出て来たのはユウナ様だった。挙動不審なおずおずとした様子で、俺達の後ろに現れた。
「あぁ、ユウナ様か。アーロンに話?こっちに座ったらいいよ」
ポンポンと俺とアーロンの間の空間を叩く俺。むさくるしいオッサンより美少女が隣にいた方が良い。「お、お邪魔します…」そう言って座るユウナ様。
「ユウナ様も大変だな。こんなオッサンと旅しないといけないだなんて。このオッサンは特殊性癖だから大丈夫だと思うけど変な事したら容赦なく通報して良いからな」
「そ、そんな事ないよ!アーロンさんが着いて来てくれるなんてすっごく光栄な事だよ!アーロンさんと君のお父さんと私のお父さん…シンを倒した伝説の三人組なんて言われてるんだから…」
「げぇ…クソ親父…。こっちでも、そんな事言われてるのかよ…」「くくっ…」
俺のげんなりした声を聞いた、アーロンが一人で吹き出している。すかしてる癖によく笑うオッサンだ。
「ジェクトさんにティーダ君…アーロンさんは、ザナルカンドから来たんだよね…?い、一緒に住んでいたの?」
「そんな訳あるかよ!オッサン二人とか拷問かよ!恐ろしい事言うな、ユウナ様は!」
「ご、ごめんなさい…!私、ちょっとよく分かってなくて…」「あぁいいっすよ。今の怒った訳じゃなくて、ツッコミっす」
アーロンはにやにやと笑いながら。ユウナ様は真っ赤な顔で俺を見ていた。なんだってんだ…。
「…アーロンがやってきたのは9年前。クソ親父が消えたのは10年前。入れ替わりになったんだよ、オッサン同士のトレードとか誰が得…って、ユウナ様。ザナルカンドの話信じてたんすね」
俺はよく考えたら、ユウナ様がすんなり俺の話をすんなり信じていた事に驚いた。
この前のビサイド島でのお祭りの日の夜。ユウナ様がバカ三人組に襲われかけた後に俺達は少しだけ二人きりになる時間があった。
流石にあんな事があった状況の後で下ネタで場を繋ぐ訳にいかず、間が持たなかった俺は、少し俺はザナルカンドの話をしてみたのだった。
ユウナ様はザナルカンドの話を驚いて聞いていた。ジェクトという男がザナルカンドから来た。そしてお父さんのガードになった、と、そう言っていた。
俺もその時は人違いとか思っていたけど、根っこの所ではそれを信じていた。確信に変わったのはアーロンを見つけた瞬間だったけど、こんな話を信じる輩はその当事者くらいなものだろうと思っていたのだ。
それなのにユウナ様がその話を覚えていて、しかも信じきってるのはどうも俺にはピンと来なかったのだ。
この話はルー姉さんもワッカも知らないはずで。リュックも、ザナルカンドの話は半信半疑と言った所だろう。
「もちろんだよ…。ザナルカンドから君とジェクトさんがやって来たのは、きっと…その運命みたいなもので…その…私と君が会ったのだって…その…」
だんだんと語尾に行くにつれ、声を弱めて行くユウナ様の言葉は途中からはもう聞こえていなかった。
が、ユウナ様から見たら運命的な何かが、ザナルカンドと俺らを繋げていると考えているらしいのは分かった。…神への信仰心が根付いている国はこういう突拍子も無い話も信じれるものなのかね。
「まぁ…とにかくそういう事っぽいすね。別にザナルカンドがあるからと言っても貿易できる訳でも無いから、あんまり関係ないっすけどね…別に戻る気もないっすし」
「え?」
と、ユウナ様はきょとんとした顔を上げた。なんか、俺可笑しい事言ったっすか?
「え…君は…その、ザナルカンドに戻りたいって…その…思わないの?だって故郷なんだよね?」
なるほど。郷愁の念、か。
分からないでも無いが、俺は何度も言う訳ではないが、刹那快楽守護者のバカだと自覚している。ブリッツボールがあって、世界の半分が女なら特に問題ない。
ブリッツドームも破壊され、考え無しに抱いた女達の地雷原と化していたザナルカンドに戻るよりは、こっちの世界に引っ越しした方が遥かに俺にメリットがある。
「思わないっすね。嫌な思い出ばかりの土地だし、アーロンが目立ってるお陰で、向こう程こっちは親父は有名じゃないみたいっすしね。比べられなくなってせいせいする位っすよ」
故郷を何とも思わない薄情者だが、俺っていう人間はそんなもの。自分さえ良ければそれで良いのだ。人間、自分がクズだと分かってからが楽になるんすよ!
「そ、そうなんだ。凄いなぁ…私は、そんな風になれないよ…」
ユウナ様はそう言ってうつむいた。俺はそれを見て、どうしようもない違和感を感じた。
「いやいやそれは違うっすよ、ユウナ様。ここは尊敬するべきポイントじゃなくて、むしろ俺を軽蔑する所っす」「え?」
「故郷を思う気持ちの何が悪いんすか。俺がちょっと特殊なだけで、ユウナ様が俺と比べて凹むポイントでは断じて無いっすよ」
俺はユウナ様の好感度を稼ぐ必要が無いから、自分の心に素直に答えた。いつもの俺ならここで、ビサイド村の事を思うユウナ様を慰めるポイントだが、それをしなかった。
「俺の話をちょっとするとっすね…俺、親父が嫌いなんすよ。傲慢でいつも上から目線で…俺と同じブリッツの有名選手だったからいつも比べられて…目の上のたんこぶだったっつーか…」
「そう…だったの?ジェクトさん…いつも優しかったけど…」「外面は良いんすよ…まぁ、今となっては母親の方が嫌いなんすけどね」
アーロンは眉をしかめて川を見ている。
オッサンにも思う所はあるのだろう。流石に両親を貶すっていう行為は世間受けは良くない。俺はこの話を止めるべきだった。けど。
「母親は弱かった。親父が行方不明になったら、そのまま弱って消えて行くみたいに逝っちまったっす…人の事勝手に生んだくせに…。結局母親としてじゃなく女としての顔しか持ってなかったんすよ…あの人は」
けど、俺の舌は止まらなかった。ユウナ様が俺にとって身の回りの人間じゃない事が、逆に俺の口を軽くさせた。縁が深いと逆にこういう話はできない気がした。
「それに比べたら…あくまで、それに比べたらっすけど。まだ親父の方がマシだったっすよ。酒びたりの割には仕事は出来たし、俺に手を上げる事だけはしなかったっすね」
「そうなんだ…ジェクトさんはザナルカンドに帰りたいって…。ガキに…ティーダ君にまだブリッツを仕込んでないって、てっぺんからの眺めをまだ見せてないって…いつも言ってた…」
「それ本当っすか…?あいつ、自分の立場の事、見殺し塔のてっぺんの眺めだとかナルシスト全開の発言してたっすけど」
見殺し塔ってのは、あいつが言うには『競争を勝ち抜いた塔』だと言う。…要するに、皆が蹴落とし合ってるのを上から眺めるて話だろう。
それがてっぺんからの景色からだというならとんでもなく下らないもので、俺にブリッツを仕込む事で見せたかった景色とやらがそれだったとしたら、もっと下らない。
俺と親父は違う。
根本的な所で。選手として違うのだ。チームメイトに対する考え方も。ブリッツに掛ける思いも。何もかもが逆だった。
俺は水が好きで、仲間が必要で、泳ぐのが好きだった。
親父は水が嫌いで、仲間が邪魔で、泳ぐのが面倒臭かった。
あいつは才能だけがあって、俺にはそこに努力もあった。なにもかもが逆なのに、息子ってだけで同列に比べられる事がたまらなく腹が立ったんだ。
「もう俺は…あんたを超えてるっつーの…」
「え?」「ごめん、独り言。まぁそんなんで、親父の話はここまでっす!」
見るとアーロンがまたも喉の奥で笑っている。しかも今度は表情まで出ているくらいだ。くっそ!聞こえてたのかよ!
「アーロン!ぼさっとしてねぇでさっさと釣れよ!ガードになったんだから、ユウナ様の腹の虫からも守ってやれよ!」
「え、えぇ!?そんなお腹鳴ってないよぉ!」「くっくっく…あぁ…召還士様はどうやら空腹のようだ…早く飯にしよう…」「アーロンさんまでぇ!」
どうにも上機嫌そうなオッサンと俺は釣り竿を握り直した。
ユウナ様はやっぱり真っ赤な顔で俺達を責めるような目つきで見ていた。ユウナ様には悪いが話の流れは変えれたみたいだった。珍しく自分語りしたもんで居心地悪かったんだ、こういうバカなノリの方が俺には好ましい。
俺はただ馬鹿みたいに笑っていられればそれで良いんだ。クソ親父がシンになろうが、そんな事、理由も何もどうでもいい話なんだよ。
「ユウナ様もちょっとやってみる?釣り竿持って、ぼーっとしてるだけでいいからさ」「え、えぇ?私!?」「大丈夫だって!ほら持って持って」
ユウナ様の手を取って釣り竿を任せるが、ユウナ様の手をぷるぷると震えるばかり。…釣りには向いてないタイプか…。
「ユウナ様。落ち着いて。魚逃げちゃうよ、それじゃ」「だ、だってぇ…」「こうだよ。こう」
俺はユウナ様の後ろから、釣り竿に手を回して竿を落ち着けた。肘に当たる豊満なおっぱいの感触だけで満足せず、こっそり股間を背中に刷り付ける事も忘れない…てへへ。イケメンって便利だよね。
「あぅ…あぅ…」ユウナ様は気づいてるのか気づいてないのか分かんない顔でただただうつむいていた。うむ。初心な反応で可愛らしいじゃないか。
「ユウナ様どったの?」「えぇ!?いや、何でもないよ!うん!全然なんでもないんだから!」「そう?顔赤いけど、熱とか無いよね?大丈夫?」
ここで満足して引くのは素人のやる事。俺が何かしてる事を気付いていないっていう設定ならば、気にしてる風に振る舞ってはならない。
痴漢も上級者になると、自らの存在をアピールしつつ尚かつ畳み掛ける事で逆に相手を混乱させる事で…何言ってるんだ俺。そんな訳ねぇだろ、普通に捕まるわ。これは単純にイケメンがする痴漢は常に合意の元になるという話だ。
「そっか。無理しちゃ駄目だよ?ユウナ様は大事な体なんだから」「え?えぇ!?だ、だ、だ、大事!?って耳ぃ…!」
俺は耳元でふぅと囁くようにユウナ様に問いかける。調子に乗れる時は乗った方がいい。ユウナ様に後から嫌われようが俺には関係ない上に、いい加減このおっぱいを楽しむくらいの役得はあってしかる物だ。けしからん一品を持ちやがって!こっちは我慢の限界なんだよ!今をときめく16歳舐めんな!
「ユウナ様はね、ちょっと溜め込みすぎなんだよ。(胸を)みんなの為に頑張るのも必要だけど、人間なんだから肩肘ばっか張ってると疲れちゃうよ。ほら、力抜いて。魚逃げちゃうよ?」ふぅっ「ひゃ…ぁぁ…」
あくまで釣りの話に持って行く。背中に擦り付けた本命から気をそらす上級テクニックだから素人にはおすすめしない。一般人ならばここで御用になる。
「ほら、ビンビンになってる…。釣り竿の扱いはこう。そう…うん、いいよ…」「耳…みみぃ…」
よし、ユウナ様は耳の方にしか気がいってない。同時に攻めるポイントは多い方がいい…って、むしろここまで露骨にやったり言ってるのに、色々気づかないユウナ様はちょっとアレな子だと思う。
「おい。いい加減にしろ」むさくるしい声がするが無視だ。「魔物だ。来るぞ。」このオッサンの事だから嘘だろう____ん?
______ガサガサガサッ!<ギエエエエエエエエエエ!!>
耳をつんざくような叫び声____マジかよ!クソが!もう少しで魔弾解放できたのに!くそがぁあああ!!どうしてくれるんだごらぁ!!
「鎧持ちか…実戦講座だな…まずは見てろ」ダッ…
そう言って、駆け出すアーロン。対する魔物は…でかい…!しかも鎧持ちって言ったか!?あのオッサン!「ふん!!」
ズバッ!と太刀を振り下ろしたオッサン。<ギエエエエエエエエエエ!!>叫ぶ魔物はまだ息がある____!腕が振り上げられる___あぶねぇ!!「むん!」
キィン!とはじかれた魔物の腕。切り返したオッサンの太刀が、魔物の長い腕をはじき飛ばした。
「こんな所だ。やってみろ」
オッサンは一端下がって、下がったグラサンを上げながら、俺の隣で太刀を背中に悠々と余裕げに背負い直すポーズを取った。…もう何も言うまい。これは病気なんだ…。
「やってみろって言われてもなぁ…っと!おらぁ!」
ブンッと派手なアドレスと共に繰り出されたテレフォンパンチをかわして、俺は魔物に切り掛かる____キィン!「まじかよっ!?」
弾かれたのは俺の剣。皮膚の堅さに剣の勢いが負けて、逆にこちらが体制を崩す_____まずっ!<ギエエエエエエエエエエ!!>
__________ドォォォォォオオオン!!
上から振り下ろさた魔物の拳。それが俺の頭に届く前に、魔物の顔面に特大な火球が襲った。___召還獣か!!
「彼に手を出すのは…許しません!」
ユウナ様の口元には髪の毛が一束。乱れた髪の毛のままそこに立っていた。「ティーダ!持ち替えろ!」「…!」
斬鎧。そうか、オッサンは言っていたな。_____『臆するのなら戦う魔物は選べ』
そうだ。確かに言ってはいた。だけど、言うのは簡単だけどやるのは難しい訳で俺には_____『なんだ?こんな事もできねぇのか?ジェクト様の息子のくせに』
_____________!!?<ギエエエエエエエエエエ!!>
ドォォン!!
くそが!危ねぇ!!当たる所だった!魔物はまだ変わらず俺を狙っていた。イフリート兄さんの方がどう考えても目立つんだからそっちを狙えよ!!「この野郎!」
キィン!!とまた弾かれる剣。__なんでだ!両手で持ったっつーの!!??「まだだ!来るぞ!」___後ろからゴチャゴチャと!!
…ドォォン!!
飛び込み前転。そこから再び立つ。どうやらターゲットは俺らしい!くそが!弱そうな奴から狙うんじゃねぇよ!知性でもあんのかこいつ!!
腹立つ!むかつく!頭に来る!何なんだってんだ!くそが!アーロンも俺に何させたいんだ!俺はブリッツ選手であって剣士じゃねぇって言ってるだろ!
____『そのシュートってのは…こうやって打つんです…よっと!!』
…ドォォン!!「ティーダ君!」「ユウナ!ここにいろ!」「でも!」「黙って見ていろ!」
なんでこんな時にあいつの事なんて思い出すんだよ!くそ!あいつは_______『ジェクトの剣だ』『親父の!?ばっちぃの持たせんな!』
…ドォォン!!「…っ!イフリートッ!」「黙ってティーダを見ていろと言った!ユウナ!」
止めんなよ!助けろよ!この野郎!俺一人で対処しろって言うのかよ!?なにが実戦講座だ!!____『斬鎧はお前なら、覚悟次第ではできるだろう』
…ドォォン!!「でも!彼が!」「…どうせこの先も魔物は出てくる…こいつ位対処できんとどうにもならん。しかもあの魔物、チョコボを食うと街道の人間が言っていたあいつだろう…ここで見逃す訳にもいかん」
正義感ぶっこぎやがって!だったらオッサンが倒せばいいだろ!俺に回してるんじゃねぇ!____…ドォォン!!
ごろごろごろっ!…ドォォン!ドン!ドォン!
這いつくばって避ける。体を転がしてから、もう一度立ち上がる。とにかく足だ。足を付けないと____「ティーダ!『横』だ!」__やべっ!!
「ごふっ!」<ギエエエエエエエエエエ!!>____ドォン!!
____いってぇ…!腹吹き飛ぶかと思った…!剣を割り込ませなかったらマジでやばかったての…!あぁ!もう!!またかよ!…ドォン!
_______『…てっぺんからの眺めをまだ見せてないって…いつも言ってた…』
うるせぇんだよ、さっきから!!クソ親父も!アーロンも!俺に何を求めてるんだよ!ただのガキだろ!俺なんか!!<ギエエエエエエエエエエ!!>「うるせぇよ!」
キィン!!
ほら見ろ!できやしねぇ!!何が覚悟次第で出来るだ!こんなんいきなりできる訳ねぇだろ!___キィン!キィン!…ドォン!!
<ギエエエエエエエエエエ!!>
切れろ!___キィン!
切れろ!___キィン!!
切れろぉおお!!___ギィィン!!____ドォォン!!「もう限界です!!」「無理か…!」
無理か!じゃねぇ!!今更信じるのやめてんじゃねぇよ!!あんたにだけはそんな事言われたくねぇんだよ!!___ギィィン!!
<ギエエエエエエエエエエ!!>
振り上げられた拳。狙いは肩。動作は見え見え!遅いんだよ!!力ばっかりありやがって!!___ガリガリガリッ!!「…!刃走り…!流したらそのまま次だ!」
「ああぁぁあ!」___ザシュッ!!
部分的には柔らかい___!間接部か!!<ギエエエエエエエエエエ!!>
怪我の箇所を庇うような動き___。垂れ下がった頭がこちらに向く…!舐めてんのか!!同じ生き物なんだ!切れねぇ訳ねぇだろ!!
「コツは切れる!体重は載せる!」___ギィィン!!___「嘘つきぃ!!」「もっと踏み込め!!小僧!!逃げるな!!」
「あぁああああああ!!!もう!!!」___ギィィン!!___ギィィン!!___ギィィン!!___ザシュッ!「!?」「ティーダ君!?そのまま!」
<ギエエエエエエエエエエ!!>____ドォン!!
「このっ!!叩き切ったらぁあああ!!くんちくしょぉおおおおおおおおおお!!」____ブンッ!!________
_____<ギエエエエエエエエエエエェェェェ…!!>______どぉぉぉおぉぉぉん…。
「はぁっ!はぁっ!はっ!はっ…」ツンツン…ツンツン…
「…もう死んでいる。幻光虫が見えないのかお前は…」
「見えてるよ!ビビってんだよ!確認なんだよ!」
はぁ…。はぁ…。くそっ…。結局、このオッサンの言う通りになっちまった…くそっ…。なんなんだよ、才能ありすぎだっっつーの俺…。
「怪我はどうだ?」「問題ねぇっつーの!アーロン!あんたさっき一瞬諦めただろ!」「…一瞬だ…」「一瞬で十分だ!信じるなら信じろや!くそが!親父にできて俺にできねぇ訳ねぇだろ!…ってか!その前に援護くらいはしろよ!!まずはノーマークで切らせろよ!」
ユウナ様は、目尻に涙を浮かべたぼけっとした顔のまま。こっちを見ていた。
「よかった…よかったよぉ…」こんな調子だがユウナ様の方がよっぽど役に立ってくれた。
「ふん…まぁ今回は合格だな」「ちげぇよ!そうじゃねぇだろ!そこは地べたに頭をこすりつけて、ごめんね、だろうがよ!可愛く言ってみやがれこの野郎!ケツから刺してやっからよぉ!」
ふふふ、あははっとついに笑い出すユウナ様。笑ってんじゃねぇ!ユウナ様も間違っている!そこは、股を開いて、惚れたわ!Fuckme!だ!このド天然巨乳が!プリンプリンにしてやんぞ!
「…たくっ!もう帰ろうぜ!皆そろそろ腹空かせてるって!」
「ふっ…そう言えばそうだな…ユウナ。魚はお前とルールーと言う娘で食うが良い。俺はもう少し釣っていく」
「え?そんなアーロンさんも…」「ユウナ様!いーってこんな奴!焼いて上げるから、さっさと食って寝ようぜ!」「え?あ?ティ、ティーダ君っ!?」「ほら!行くっすよ!」
…タタタッ…がさがさがさ…
「…ふっ」
________ちゃぽん。
「…やはり…親子だな…」
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パチパチ…
「おー、焼けて来た焼けて来た…」
「なぁティーダ…これもうイケルんじゃね?いって良いよな!?な!?」
「ワッカは後。男の子でしょ?アーロンが釣ってくるまで待ってなって…」
「そんな殺生な!!」「俺に頼むより、二人に頼んだら?ほら。ユウナ様とルー姉さんはもう準備万端みたいだけど」「それも殺生なぁ!」「知るかよ…」
「ティーダ!あんたよくやってくれたわね!」「わ…わたしも流石にお腹減った…かな…」
「ティーダァ!!」「知らねーって言ってんだろ!!」
わいわい。やいのやいの。ガヤガヤ…。
「……ふん。」
「…なんなのさ…ティーダの奴…」
「……ユウナ…ばっかり…」
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あとがき
今回はここまでです!最近ティーダを格好付けさせすぎましたから、今回くず成分多めです!笑
みなさん感想本当ありがとうございました!元気がもらえて書くモチベーションに繋がります!!
次がようやくシーモア降臨かな?今まで遠くで見るだけでしたが、ようやく絡ませられますね!!
生存報告に関しては、よっぽど期間が空きそうだったらやろうと思います!みなさんアドバイスありがとうございました!待ってくださる人達の為にもできるだけ定期的に更新できるように頑張ります!
ユウナもリュックもそろそろアクセル駆け出しました!旅の設定も二人の妙な設定も増えだしましたので、これらを上手い事使って何とか転がせたらいいなと思います!
それでは次回!登場キャラが一気に増えるかもで心配ですががんばります!