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No.14609の一覧
[0] やんでれ×ユウナっ![れろ](2009/12/07 07:50)
[1] その2[れろ](2009/12/08 15:44)
[2] そのさん。(ちょい長め)[れろ](2009/12/11 06:08)
[3] そのよん。[れろ](2009/12/12 07:54)
[4] その5。(長め)[れろ](2009/12/12 08:28)
[6] そのろく。[れろ](2009/12/14 06:36)
[8] そのなな(何故か消えていたので、全部書き直して再投稿、実質最新話)[れろ](2013/06/05 16:25)
[9] その八。[れろ](2009/12/20 03:43)
[10] その9[れろ](2013/06/05 21:55)
[11] そのX[れろ](2013/06/09 10:00)
[12] そのXⅠ。[れろ](2013/08/01 10:02)
[13] そのXⅡ[れろ](2013/08/05 10:17)
[14] そのXIII[れろ](2016/05/25 02:00)
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[14609] その9
Name: れろ◆e4a4d4a0 ID:ba5a869b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/06/05 21:55
まえがき
もし、以前からこの小説を見ていた方は、そのなな、を読んでから読み進んでください。消えてたのに気づいて、最近全部書き直したため、エピソードが増えています。























「それじゃ用意はいいな?この円より肘が出たら負け。手首の巻き込みも禁止だ」

「分かってるっすよ」

「さっさと始めろよ。この糞生意気なガキの腕…試合前ににへし折ってやる!」

「よーし、OKだ。力を抜いて。行くぞ……Ready…」






__________GO!!

















やんでれ×ユウナっ!

そのQ















____アームレスリング_____



腕相撲とも呼ばれるその競技は古来から、漢と漢の一騎打ち、手を組み合ったお互いの腕力の強さを天秤にかけて勝負する無血決闘方法である。

そんなような事を、きっとどこかの偉い人が言っていると思う。



「んっ!」
         ビシィッ!
「おらぁっ!」



俺の目の前にいる下品な赤髪のこいつ…たしか名前はピックス…あれグラーブ…ん?ピクルス…?そんな感じの奴で、とにかくキーリカ寺院で初めて会った時から気にくわねぇ野郎だった。主に顔が。


今は副将戦。


我らがビサイド・オーラカと、こいつらルカ・ゴワーズとのブリッツ大会の前夜、前哨戦の真っ最中な訳だ。


「やっちまえ!」「おい、ビクスン!腕へし折るんじゃなかったのか!」


HAHAHA!と胡散くせぇ下衆な笑い声とヤジが飛び交う中、俺らは船の中の廊下にリングを敷いていた。

『一体…どうしてこんなことになってるの?』と、冷めた熱視線を飛ばしてくるルー姉さんに、その隣でおたおたと動揺しながらも、目線はしっかりこちらのまま観戦しているユウナ様。リュックに至っては最前線でガン見だ。

リュックはともかく、集中しているこっちの気も知らず野次馬の間を陣取って、視界の端にちらちらと入ってくる二人の様子は、そう。あれだ。


小学校の体育の時間。連れにパンツ下ろされて露になった男子の股間。キャーッ早く隠してよと、目の所だけ少し隙間を空けた手で顔を覆う女子。阿鼻叫喚となるグラウンド。

その後ろの方で、我関せずといった顔してる癖に、実はじっくりねっとり観察している女子達。そんな感じだ。本当は興味津々なのが隠れていない。


「おいてめぇ…よそ見してる余裕あんのかよ…」グググ…

「あぁん…そういうのは、お前が近距離ドアップで見て耐えられるような顔になってから吐けよ、ピクルス…」ググ…

「てめぇ…!その名で俺を呼びやがったな…」ググ…!

「…ハンバーガーの隙間に入るしか能がないオカマきゅうり野郎が、人間の言葉喋ってんじゃねえよ…お前が近くにいると、添加物くせえんだよ…」ググッ…!

「お前…殺す!ぜってえ殺す!」

肩をいきらせて、ぐっと更に前傾姿勢になるピクルス。これは向こうの反則だ。腰が少し椅子から浮いている。

俺はレフェリーを見た。が、しらんぷりされる。くそ、やはりこいつ。ゴワーズびいきか。


「てめぇ…そっちの肩怪我してるんだろ…今に…血吹きだせせてやるからな…」

「ん?なんか言った?もう一回言って。吹きだせせて、って何?私ピクルス語よく分かんない」

「こぉんのクソ餓鬼がぁあああ!」グッ…!!






___今___!

「っ!」




ガンッ!相手の甲を叩き付けるように、一気に押し返して勝負を決める。そして。


「死ねよてめぇ!」___当然殴り掛かってくるこいつを___「まーまー!落ち着けれーって」ワッカが止める、までがビサイド・オーラカ初の作戦行動である。


「離せごらっ!こいつ一生試合でれねぇ体に…」「おい…こいつも召還士のガードだぞ?殴っていいのか?うん?」ボソッ。

続けて更に、ぼそぼそとピクルスに耳打ちをするワッカ。


たぶん打ち合わせ通りなら、大会前の選手規定で暴力沙汰を起こしたらヤバい的な何かを絶賛吹き込んでいるのだろう。俺がガードっていう体は勿論嘘だ。

大口あけて叫んだりして、歯を食いしばらねぇから負け星つくんだぞ、ピクルス。お前は持久戦になれば多分俺より強かったはずなのに。

トラッシュトークは戦術の一種。

…と言えば聞こえは良いが、実際あそこまでの誹謗中傷は、普通にテクニカルファゥルか、レッドカードものだ。つーか、その前に名誉毀損で訴えられたら負ける。




まぁ、とにかく勝った。




だから次。「頼むぜ、ワッカ」大将にタッチだ。












______ウリャァ!____グアァ!!












一瞬だった。さすがワッカ。だてにガードやってねえな。相手の腕は今後ガラスの腕となったことだろう。





















_____________________________________










二勝四敗。



試合には負けたが、勝負には勝ったなと勝手に確信しながら、俺は船のデッキに出ていた。ビサイド・オーラカの面子も全員そこにいた。


「あっ」「ティーダさん!」「監督!」「ティーダ!」「ティーダっ!」


オーラカの面々がこちらに駆け寄ってくる。

「すいません…俺ら…ゴワーズの連中にあっさり負けちゃって…」

揃いも揃って、申し訳なさそうな顔を浮かべるダット。レッティ。ボッツ。ジャッシュにキッパ。俺らはみんなと肩を組んで、円陣の隊形を取るよう施した。落ちていたブリッツボールを中央に添えて。

「気にする事無いっすよ。元はと言えば俺があいつら煽ったからだし、ダットもキッパもあいつらが卑怯な手使わなかったらこっちが勝ってたっすよ」

『『ティーダ(監督)さぁん…』』

涙目でハモリやがった。

オーラカの面々は皆性格良いが、なんというか闘争心が少ないというか、ぶっちゃけ鈍感だと思う。

やはりチーム内に流れるこの緩い空気、これがそもそも連敗続きの要因、チームの癌となっている気がする。俺はチームの監督として、これをまずは正さないといけないと確信していた。

「でも、聞いてほしいっす!このままじゃあいつらとブリッツの試合に入っても勝てない。間違いないっす」

『えぇ!?そんなぁ!!』

ダットの悲鳴と同時にきっちり一斉に残念そうな顔をこちらに向ける面々に、俺は若干引きながらも、負けじと全員をガン見した。

「原因はみんなが、あいつらに対してビビってる事」

俺はキツく責めるような視線でみんなをギロリと見回した。顔が順々に伏せられる。

「それ。それだよ。今も皆俺のこと怖いって思って目を逸らしたでしょ。怯えちゃ駄目だ、俺にも。あいつらにも」

『うっ…。』

「みんな顔上げて。胸を張って。深呼吸。ほら、吸ってー」

吐いてー、と皆で深呼吸する。

一回。二回。三回とそれを繰り返した。みんなが落ち着きを取り戻すまで。そして「なぁ、みんな」


「悔しくねぇの?」


ブスリと刺す。言いたい事は端的に。言葉は長くすると説得力が落ちる。

『…っ!』

問題はイメージ力不足。オーラカには「試合に勝つ」というイメージが存在しないこと。


「舐められてるよ俺たち?」


負けっぱなしでいることに慣れている。馬鹿にされる痛みに鈍くなっている。

だから俺は強く皆に言葉の針を刺していく。踏みつけられすぎて分厚くなった負け犬の皮、その奥に届かせるために。


「ワッカはこれでブリッツ引退だ。最後まで負け試合で」

『…』

悔しそうな顔。歯がゆそうな顔。何かを思い出しているのか、少し泣きそうな顔もあった。


だけど、誰一人として「どうでもよさそうな顔」はしていなかった。


勝つというイメージは無いかもしれない。だけど、明日の試合を最後に、ワッカがいなくなる事に対しては、明らかにみんなはイメージを持っているようだった。

「それでいいの?答えて」

グッ…っと、ジャッシュから背中に回された手に力が篭る。それを受けて俺は前に一歩進んで更に円陣の輪を小さく、体同士をくっつけるような距離にする。

『…っくねぇっす!』

最初に声を上げたのはボッツだった。呼吸が荒い。じっとこちらを見る目には光が灯っていた。

『よくない!』『ワッカさんには、恩があるんだ!』『そうだ!俺は小さい時からずっとワッカさんとブリッツやってきたんだぞ!』『俺だって!』

ボッツに続いて、みんなのボルテージがヒートアップしていく。灯がともる。だけど、まだだ。このみんな気持ちはまだ闘争心には繋がらない。

「そうだ。いいはずない。負け試合で終わらせていいはずないんだ」

『そうだ!』

「だったら、どうすればいいの?」


『…あ、相手にビビらない!』ダットが

『…シュートを打つ!点を入れる!』ボッツが。

『ゴッ!ゴワーズを倒す!』ジャッシュが。

『勝つ!試合に勝つ!』キッパが。

『クリスタルカップを島に!ワッカさんに渡すんだ!』レッティが。

「そうだ勝つんだ!勝てば負け試合じゃない!」俺も叫ぶ。お互いの手を外し腰を上げて、拳を中央に、ブリッルボールの上に差し出す。みんなの拳が中央に集まる。「本当に勝ちたいか!」

『勝ちたい!!』

「だったら!」バンッ!とボールを俺は真上に蹴り上げ、集めたみんなの拳をはじき飛ばす。ここで___決める!
















「俺と勝負だ!」











『おぉおおーーー!………おぉ?』





















____その時__________________沈黙が、訪れた。












やめろ。やめてくれ。


みんな、そんな「え、なんでそういう流れになるの?」って目を俺に向けないでくれ。空気壊したのは謝るから。

「あ、あのさぁ。ほら。俺らなんだかんだで合同で練習できなかったじゃん。そんな状態で勝とうだなんて言っても現実味ないし…。ほら、だからその、とにかくお互いの事をまずは知ることから始めようっていう、そういうの…とか…ほら…あるじゃん」

しどろもどろに俺はそう言った。

みんなを鼓舞するとか、そういう柄じゃないことをしようとしたのが裏目に出たかもしれない。

くそが!そもそも俺はそんな熱血キャラじゃなくて、どっちかというとロジカルな戦法を元にして試合するタイプなんだよ!ベッドの上以外の技術を俺に求めるなよ!そういうのはあの先細りチン●ポ頭の役目だろ!!



『や、やろうぜ!』


ん?



『あ、あぁ!俺もあんたとは一度やってみたいと思ってたんだ!』

『俺も!俺もだ!あの島に来た時に見せたシュート!俺が止めてやる!』

『よろしくお願いします!胸を借りるっす!』



口々にみんなの顔にガキみたいに楽しそうな顔が広がっていく。

そこには、今から起こる事を想像してワクワクしているような、さっきまでの負け犬の顔でも、力の入りすぎたギラついた顔でもない、そんな「良い顔」した奴らがそこにいた。

だったら。やる事は一つだった。


「ワッカ!!出てこいよ!」


デッキの後ろ。船長室の横の柱の影から飛び出た、赤茶色のトサカに俺は声を投げる。

「お、おう!なんだぁ…バレてたのか」『ワッカさん!?』

驚愕の表情を浮かべるオーラカ面子。こいつら…マジで気づいてなかったのか…。

「バレバレだっつーの。変に空気読まなくても良かったのに」

「いやぁ…あの空気で俺がのこのこ出ていくってーのは…」おずおずと。頭をかきながら姿を現せたワッカに、それに集まるオーラカの面子。

『お、俺ら!やるっすよ!勝つっす!』『あぁ!ゴワーズなんて蹴散らせてやる!』『見ててください!ワッカさん!』『今回は絶対勝つ!』

「あぁ、そうだな!負けっぱなしってーのじゃ、終われねぇよな!そうだろみんな!」『おおおおおぉぉぉお!!』

よく見たら、さっきのやり取りの煽りを受けてたのか、拳を上げるワッカの目にはじわりと光るものがった。…涙もろい奴め。


「じゃあ、やるぞ!ワッカと俺!さっきの腕相撲の勝者チームと、お前ら負け犬チームで勝負だ!」


ダンッとボールを足で踏みつけて相手チームを、挑発する。『ま、負け犬って…!』


そう。トラッシュトークは戦術の一部だ。


「2対5だ。こっちはキーパーも無し。これで負けてちゃお話にならないっすよ」


相手に怯えず、自分を鼓舞して、相手を威嚇する技術。


「あーあー悔しいっすか?24連敗中の負けっぱなしチームにそんなプライドあるの?言っとくけど、俺は元最強チームのエース。シーズンMVP選手っすよ」


『そんなもの知るか!そこまで言われて黙っていられるかよ!』


敵を倒す為の技術。





「だったら、勝ってみせるっすよ。今、ここで」





ルカ・ゴワーズに勝つ戦術になるんだ。








_______________________________________












ピッ…ピッ…ピッーー!!





__「さ、38対36っ!えっと!ま、負け犬さんチームの勝利ですっ!」___おおおおおおおぉおぉぉぉおお!!





いつのまにか増えまくっていた野次馬の歓声があがり、勝負の決着が告げられる。


『ま、負け犬さんチームってのはひどいよぉ…ユウナちゃん…』「えっ!あっ!ご、ごめんなさい!同じチーム同士の戦いだから、ビサイド・オーラカって呼ぶのも変だし!ティ、ティーダ君がそう言ってたから!」


責めるような、拗ねるような、そんな情けない顔を浮かべたダットのツッコミに慌てるユウナ様。

それを受けてまたドッとみんなの中に笑いの輪が広がっていく。

その輪を俺は「……ハッ……ハッ……」

地面に横たわって見る事しかできなかった。屍同然の状態だ。たぶん死ぬ一歩手前の顔をしているはずだ。


「ティ…ティーダ…俺に勝利の味を味あわせてくれるっていう流れ…じゃなかったのか…」


ずるずる、と這いつくばってこっちにやってくるゾンビこと、ワッカ。恨みがましい視線を受けて「…そ…そんな余裕ないっすよ…」

そう俺は言ったが、事実、試合が始まってからしばらくは俺の独壇場だった。

俺のドリブルは取れない。パスはカットされる。キーパーのいないゴールにシュートを打っても後ろから飛び込んできた俺にインターセプトされる。船のデッキの狭さが逆に俺に地の利を与えていた。

リバウンドを支配して、体にすら触れさせないフットワークを持って相手を幻惑し、俺はシュートをボコスカと決めていく。

オーラカの連中は、その間でも絶えずトラッシュトークを仕掛けまくる俺に業を煮やして、全員で一斉に飛びかかる体当たりで対抗しようと試みた。

それでも俺は止らない。そんな付け焼き刃で俺に対抗するには足りなかった。

体同士のわずかな隙間を見つけては、俺はダックインでそこを突破していく。オーラカの連中の目には早々と諦めの表情が浮かびだしていた。この時、点差は12対0。


頃合いだと思った。


俺はあえて凡ミスを多くする。そしてオーラカチームにボールを回して点を取らせた。

この時、ワッカはワッカで相当なタフネスディフェンスを見せたが多勢に無勢。レッティを中心としてパスを細かく回され、ワッカは振り回されるばかりだった。

点差が詰め寄り、もうオーラカからは、さっきまでの諦めの顔は消えていた。

押せ押せの空気がオーラカの周りに汗臭さと共に充満していた。やれば、できる。勝てるんだ、という希望をオーラカは見つけたんだ。

俺は再度、突き放しに掛かった。

「あ、靴ひも解けていたんっすね!どおりでさっきから!うっかり、うっかり」えぇえええっていう顔がオーラカに、浮かんでいた。

明らかに動きが復活したと言わんばかりに続けざまに点を決めていく俺。だが、もうオーラカには諦めるという選択肢が無かった。勝ちたい。勝つ、そんな意気込みがこちらにまで濃厚な汗のスメルと共に伝わってきていた。

そしてこの時オーラカは、初めて俺のドリブルを止めることに成功する。

ここぞというタイミングで、一人ずつ順々にタイミングをずらしてスライディングすることで、俺はシュートどころか、ボールをキープする事さえ難しくなってきていたのだ。ワッカにパスを回すことで、得点力はがくっと落ちた。

ワッカも結構強いシュートを撃つのだが、いかんせんノーコンで。キッパの真正面だったり、枠をこえていくものばかりだった。ワッカはディフェンス向きの人間だったのだ。


やはり、俺がやるしかなかった。


封印されしあの技。糞親父の冠をつけたシュートを自己流アレンジした、強烈なシュートを決める。

ジェクトシュート改の前振りに使う高等テク(ダメージトラップ)という技。相手にボールをわざとぶつけて、返るボールの軌道を計算、ハンドリングさせてからドリブルやシュートに繋げる、その技が種火だった。

俺のボールを顔面に受けたボッツとレッティは負傷。鼻血を出すという事態に陥った。そう。問題はここからだった。


「ごめんごめーん。でも反則じゃないっすからね!全員鼻血ブーになるまでどんどん使っていくっす!」そんな俺の挑発に『ティーダァアア!』完全に乗っかったオーラカの逆襲が始まる。


『せぇぇぇぇいやああああ!!』『おらぁ!このナメた真似するんじゃねえぞ外人風情がぁあ!』『もう一生そのキン●玉使えないようにしてやるっすよぉお!』


完全に俺のトークが伝染していた。


俺のドリブルへの当たりからは怪我させないようにという気遣いが消え、「レッティ!俺に回せ!」と気弱なジャッシュからも声も出るようになって、自分が決めるという意思の元にフットワークも格段に良くなった。

「おい!声が足りねーぞぉ!」ワッカが相手チームを鼓舞するような寝返りもあったが、もうその必要もないほど皆、夢中だった。

ブリッツでここまでお互いぼこすか点を入れ合う状態になるのは普通ないが、今回はみんなにシュートを打つ。点を入れる。というう意識を植え付けたかったので、俺は一人この試合の成功を確信していた。

だが、試合の勝敗は別だった。

俺は別に勝てとは言ったけど、勝たせようと最後まで仕組むつもりは無かった。負けるのが、嫌いだからだ。

そう思って俺は再度ジェクトシュート改。後方からのスフィアシュートを解禁。強行突破に出た。そこからは、もう言わずもがな。

点の入れ合い、シーソーゲームへと場の流れは移行していた。俺が決めたら、あっちも決める。俺がカットをしたら、あいつらも全力で俺を止めにかかってきた。

最後は気持ち。

その言葉が現すように、スタミナの限界まで来た勝負だった。俺の誤算は、オーラカの持つ本当の武器を知らなかったこと。

そう。オーラカには無駄に体力の底があったのだ。ワッカが今までどんな練習方法をしていたのか知らないが、はっきり言ってここまとは到底思えず、見くびっていた。

「おい!おめぇら!もっと走れ!とにかく動け!」とワッカが激を飛ばすごとに活力が戻ってくるような、そんな錯覚。

俺も体力には自信があったんだけど、一人で動き回っていたツケが終盤に一気に襲いかかってきていた。終止自慢のシュートまでもキッパに止められ、もうオーラカゾンビを止める手だては無く___



ピッ…ピッ…ピッーーーーー!!



試合終了。屍と化した今に至るという訳だ。







_____なんだよ!ガッツあるじゃん!オーラカ!_____

___金髪のあいつ!___なんだよオーラカの隠し球かよ!____あんなシュート見た事ねぇ!_____

____こいつは、まじで分からなくなってきたぜ!_____俺、明日みんなに自慢しよう!____


やいのやいのと熱気の冷めやまない野次馬。この感じは久しぶりだった。

こっちの世界に来て、なんやかんやで溜まっていた鬱憤が一気にはじけて。解放された。そんな感じだった。




ブリッツがあって、それに熱狂する奴らがいる。

それなら俺にとっては、ザナルカンドもこっちの世界も、ほとんど変わらない世界だ。




そう、思ったからだ。




ピトッ…「ヒョウッ!」

そんな試合後の特有の余韻に浸ってた時。いきなり、ヒヤリとした感触を頬に当てられる。


「おつかぁーーれっっ!キミ!ホントの本当にエースだったんだね!」


「あぁ…なんだリュックか…」

俺はそう言って「なんだとはなんだよー!せっかくわざわざキンッキンに冷やしたボトルあげてるのにぃ!!」ボトルを受け取り、すぐさま口をつけた。運動後にいきなり冷たいもの飲むのは…とかそんなのもう知らん。


______ん???


ゴクッ…ゴクッ…うまっ


「スピラでこんな冷たい飲み物飲めるなんて、ものすぅーっごく!珍しいんだからね!ちょっとは感謝してくれてもいいじゃん!」


ゴクッ…ゴクッ…マジうまっ…!


「あー!またそうやって無視するー!キミ、ちょっと最近私に対しての扱い雑すぎー!レディーに対する態度じゃないよー!」


ゴクッ…ゴクッ…激うまっ!!!


「ぶー!もう、ぜっったい!冷やしてあげもしないし、持ってきてあげもしないぃ!イーっだ!」



ぶはっ…。ハーッ。



「……飲む?」



俺はストローをリュックに差し伸ばした。


「ふぇ…?」


「つーか飲んで。これ今すぐ」


「え、えぇ!?だ、だってキミ今っ!くち着けてっ!」


「コレマジデウマイ。オレコンナノハジメテ。オドロキ」


思わず言葉がアニキ状態だ。それほどにこのドリンクはウマかった。

ザナルカンド時代。

俺はCMのモデルや『あの有名ブリッツ選手の飲んでるドリンクは!?』的な企画に登用される事も多かった。

その関係で俺は、今まで数々のスポーツドリンクを飲んできていたのだった。中には発売前やお蔵入れとなったドリンクを飲んで感想を聞かせる仕事や、疲労回復に効く新成分を入れたドリンクの効果実験にも参加したこともある。

やがて俺は成分表示にも着目、その上での味比べが自身の趣味と化し、まずいドリンクの宣伝には、にべもなく断るようなレベルに達していた。

「こんな糞ドリンク宣伝したら、俺のイメージが落ちるわぁ!!」っと企画書の並んだテーブルをひっくり返したこともある。

そんな俺の噂はいつしか業界に広まり。

一口飲めば、売れるか否か。

二口飲めば、ドリンクの成分表示が。

三口飲めば、ドリンクに合うデザインからCM絵コンテが。

そしてこいつが四口飲めばもうそれは一種の宣伝効果があるとまで言われ、ピッチ上のスポーツドリンクソムリエという異名を雑誌に載せた俺の舌が告げる。これは…素晴らしい(beautiful…)

もう言葉はいらない。もはやスポーツドリンクというジャンルをはるかに上回ったドリンク。

この感動を早く伝えたくて、俺はリュックの口内に手慣れた動作でストローをくわえさせ「そ、そ、それはちょーっとさすがのリュックちゃんも、恥ずかし…っンんんんっ!!」中身をピュッピュッさせる。


「コレ、どウやって。作っタのリュック様。どうか。ドウカ教えて欲シイ」


もはや、カルチャーショック。ヤック・デカルチャーだ。

俺は原人状態の人間が、いきなりヤマダーン電気に並ぶ家電製品に出会ってしまったような錯覚に陥りながら「んんんっ!んむぅぅっ!!」口内発射を続けた。



「んんぅうう!!…ぶはっ!も、もー!いきなりなにすんのさー!」パシャ!



あぁあぁぁぁぁぁぁあ!!!こぼれたああああああああああ!!(某マクズナルドCMの少年風)



「あー!服にかかっちゃたぁ…!こんなのいつでも作れるんだから…そんなガッツかないでよぉ…」


まじで!?


「リュック!それ本当か!」

「うん…私がさっき、果実とか色んなドリンクとかをちょちょちょいーって混ぜ合わせて急速冷凍しただけなんだから、別にすぐ作れるよぉ…あぁあーびしょびしよだぁ…」



なん…だと…。



リュックはどうやらこの味合いをすぐ作れるらしい。

それだけでも素晴らしいのに、舌で見た所、成分もほぼ理想的だ。ドリンクは冷やしすぎたら、逆に風味が壊れるのが常だが…これは違う…!こ、こいつは…金の匂いがプンプンするぜ…!


「リュック、服の事はごめんって!でも俺興奮しちゃってさぁ!これ自分で作れるとかすっげー!マジすっげーっす!まじリスペクトっす!」


俺はリュックの肩を持って、リュックの首ががくがくぶんぶんになるほど振り回す。

「わっ!たっ!たっ!そんなにぃ!驚く!ことぉ!?」

「あぁ!お前本当にすげーよ!リュックはスポーツドリンク界の革命児!ピッチに舞い降りた天使っすよ!」


全部本音。まじで全部本音だった。


「べ、べつに、そんなたいした事してないじゃん…ティーダは私を…大げさに褒め過ぎだよぉ……」


覗き込んだリュックの顔は真っ赤に紅潮していて。

肩を掴まれて逃げれないのか俺に呆れて観念してるのか。顔だけそっぽを向いて「もう…ばか」と消えいりそうな声で俺を責めていた。


「と、とにかくっ!今はこんな遊んでる場合じゃないでしょ!作り方なら後で教えてあげるから、勝ったオーラカの皆に何か言ってあげなよ!監督なんでしょ!」


ほら!とリュックが顔を向けた方向には、ワッカを先頭としたオーラカの面子がいやに無表情でこっちを見ていた。何故か壁に穴があいてるのが気になった。










「おめぇら…妙に仲いいよなぁ…」                                   

                                                       『やっぱり、キンタマ潰しとくべきだったっす』
見ると、ワッカはにやぁっと嫌らしい笑みを浮かべてそう言った。

「さぁてはお前らアレかぁ…うん?どうなんだ、ティーダァ」

にやけ顔の口が更に横に広がる。ワッカは下愚た笑いを浮かべながら、俺とリュックを交互に眺める。そして、止まる。

また交互に眺めて…止まる。

うん?どうした、ワッカ。そんな目見開いて。「お前ら…」

ワッカの様子はがなにやらおかしかった。わなわなと肩を震わすような様子で_____「お前らまさか…






「まさか!!あの時言ってた兄弟か!?」























はい…?






             ______________「今、記憶を少し取り戻した」
                            「ああ、病気の母さんとそれを支える父さんの姿・・・・俺は帰らないといけないみたいだ」
                           「親父と母親・・・・」  
その時、脳裏に電流が走った。          これ→「妹もいた。金髪で目の綺麗な奴だ。年も近くてそれで、それで、俺は誕生日プレゼントを買いに街まで・・・・・・うっ頭が!!」
                            「大丈夫か!?無理に思い出さなくていい!ゆっくりでいいんだ」
                            「・・・・ああ、ワッカ。そうだな。ありがとう」
                            「ああ、俺もこんな話を振っちまって悪かった。旅には命がかかってるんだもんな・・・お前一人の体じゃないのに」
                            「いや、いいんだ。嬉しかったよ、誘ってくれて・・・」
                          「ああ。お前には助けられっぱなしなんだ。俺達で今度はお前もお前の家族もシンから守ってみせる」
                            「・・・・・・サンキュ」








あーーーー。あれか!!!!!風呂の時の会話!!




「お、お、お、おまえらああぁあぁあ!!よかったなぁあああ!!」




ぶわっ。とした勢いでワッカの目から涙が溢れた。

ざぁざぁとさざめ泣くワッカに俺とリュックは二人まとめて、その臭い胸板に押しつけられる。「おぉお!よぉかったなぁああ!!再会できたのかぁあ!!」


「むー!むぅぅううう!!」


(ちょ、ちょっと!どういうこと!?ティーダ!説・明・して!)

(頼むから話合わせてくれ!俺とお前は兄弟っていう設定だ!)                        『なんだ、兄弟だったんすか。壁埋めてくるっす』『待て、俺も手伝うぜ』

(はぁぁぁ?!ちょっと、それどーゆーこと!?)

(風呂の時、石投げてたお前見てただろう!?あのときお前と俺は兄弟となったんだ!妹よ!)

(意・味・わかんないっ!)

(無理矢理ガードにされない為についた方便っすよ!頼むって、なんでも言う事聞くから!嘘がバレたら無理矢理ガードにされかねん!)

(なにそれー!どういうことなのさー!もー!あとで絶ッッ対!ちゃんと説明してもらうんだからね!!)



10秒ほどワッカに抱擁された俺たち。

ワッカもようやく落ち着いたらしく俺たちを解放した。



「おめぇら…はやく言えよぉ…隠す事ねぇじゃねぇか…」



「い、いやー…その…たははー。なんだか気恥ずかしくって…」

ワッカの涙目の責めに耐えきれず、先に口を開いたのはリュックだった。

この瞬間、ワッカの中で俺×リュック=仲良し兄弟という方程式が完成してしまった。もう後にはひけない…突っ走れ!!

「いやさ!俺も言おうかなーとは思ってたんだよ!ほんとに!」

「みずくせぇなぁ…こんにゃろめっ!」

「はははっ!ワッカやめろって!まさかこいつの事思い出した翌日、同じ宿から出てくるなんてまさか夢にも思わなくてさぁ!よくよく考えたら身内を改めて紹介するのってのも何か恥ずかしいだろ?」

「俺は恥ずかしくなかったがな!まぁ俺も兄弟持ちだ!気持ちも分からんでもねぇ!っくーー!こいつはエボンの神のお導きだなぁ!」

運が向いてきている証拠だぁ!と豪快に笑い出すワッカ。

ワッカにはもともと仲の良い弟がいたらしく、そういう家族系の話に滅法弱いみたいだ。

ここまで信じ込まれると少し俺の小指ほどの良心が痛む節もあるが…ひとまずはルカに着くまでバレなければそれでいい。悪気はなかったんだ、許せワッカ!任せろ…キッチリ騙し通してやるからな!!

俺は、ワッカにリュックの真実を告げるという選択肢を思考を司る神経からおもいっきり遠投した。

もし嘘がバレて兄弟じゃなかったらなんなんだと追求されたら、リュックがアルベド族だとばれてしまう。それはそれで、ルー姉さんに燃やされる。三すくみの関係だ。

ちらり、とデッキの先端で事の様子を見ていたルー姉さんの方を、俺は見た。


___アイ・コンタクト。


それは一流の人間同士が行う作戦開始の合図。

オペレーション名。「あいつの信じた嘘はルカまで真実(Never ending lie /優しい嘘よ。今、真実の風となれ)』__阿吽の呼吸、誰も傷つく事のない優しい口裏合わせが、そこにある。


そしてルー姉さんの合図は____!




「あんたバカ?」




よーーーし!!オッケー!!思ったより怒ってない!!

あれは、もう勝手にしなさい。と言わんばかりの視線だ。人間「こいつはもう仕方ない」って呆れられてからが本当の乞食になれる本番だって、隣の屋根のない家のじいちゃんが言ってたよ!



「ビサイド・オーラカァアアアア!!!!」



ワッカが燃えるような咆哮をあげる。もう俺は流れに身を任せることに決めて、拳を共に突き上げる。

「今晩俺たちは、一つの奇跡を目撃した!これは、かくっっじつに!俺たちに運が向いてきている証拠だぁ!明日もこの流れは続く!そうだろ!みんな!」

『おおおおおおおぉおぉおぉぉおお!!!』

「いくぞぉぉおお!優勝だ!優勝だ!優勝優勝優勝だ!!」

『優勝だ!優勝だ!優勝優勝優勝だ!!!!』

ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!



と、俺らは拳を高く上げ、いつまでも空まで打ち上げるような歓声をみんなで上げていた。


















_______________________________________________________________



















私が彼に話しかけに行こうと決心をしたのは、ルールーが眠りに着いた後だった。













ルールーが起きちゃわないように、私は船室を音を立てないように、そっと忍び出た。

きしむ廊下をスカートを軽く持ち上げて、私はゆっくりと摺り足で歩いていく。


キィ…キィ…


と、それでも小さく鳴る廊下さんを、私は恨みがましい視線で見つめながら船の甲板へと進む。私は、彼があそこにいる事を、なんとなく予想していたのだ。


ティーダ君。


ブリッツボールのすっっごく上手い人。


そして…とっても不思議な人。


私の彼に対する印象はまるで蜃気楼のように、もやもやと姿を変えていく。一日…ううん。数分ごとに、彼は私に新しい何かを見せつけてくる。


「まったくアイツは…本当に何しでかすか分からない奴ね」


さっき寝る前にそう呟いていたルールー。

私も…そう思う。彼はなんてゆうのかな、その、すごく形の掴めない人。



「でも、今日のオーラカの一件を見るとあいつは…そうね。月並みな言い方しか思いつかないけど…ビッグになる器ってあぁいう奴の事を……ごめん。ユウナ。今の忘れて」


あの、いつも理路整然としているルールーに、そんな言葉を言わせちゃう彼は、きっと私だけじゃなくて、他の人にとっても特別な人なんだと思う。



キィ…キィ…。



つかみ所の無い人っていう言葉は、たぶんどちらかと言うと悪口に使われる事の方が多いと思うんだ。

それは、何を考えてるのか分からなくて、気味が悪いっていう意味だったりして、人との関わりを遠ざけるような言葉だからだ。


でも、彼は違う。


むしろみんなを惹きつけるような感じで…うーん…なんて言うんだろうな、何が違うのかとは、私には上手く言えないけど、とにかく…絶対ちがうのっ。



キィ…キィ…。



…そんな彼は、きっとこの先にいる。


私が彼と出会った日の夜。


村でのお祭りが終わって、静かで、寝ぼけ眼みたいにとろんとした月明かりのしたで見た彼の姿が、ふと目に浮かんでくる。

きっと今日も。

まるで遊んでる子供みたいに、一人でブリッツボールを蹴ってるんだよね。



…私、多分変な子だよね。


まだ、私が彼と出会って三日目。

ほんとなら、君のこと、まだ私は全然なんにも知らなくて。そのはずで。

こんな、キミの事を知った風に思っていいはず、ないのにね。





キィー…パタン。




デッキに出た。今夜は、まんまるな満月だ。

髪を揺らす生温い風。私は海風が好きだった。きっとこの風は、すごく遠い場所から運ばれてくるもので。

もしかしたら、この世界に私の全く知らない土地があって、そんな所から運ばれてきた匂いなのかもしれない。

そんな想像をするのが、私の密かな楽しみなんだ。


ポンッ…ポンッ…


「あ…」


いた。


彼はやっぱり甲板にいた。ボールをなんて言うんだっけ、たしか…そうだ。リフティング。彼は、それをしていた。

きっと、この時間は彼にとって毎日の日課のようなものなんだ。たぶん…私が寝る前にこっそりスフィアに日記をつけてる時間と似ているんだと思う。

なんだか一日の終わりにやらないと落ち着かない事。そんなのってあるよね。ふふ。なんだか、ちょっと親近感感じちゃうな。



ポンッ…ポンッ…



でも。そうだとしたらこの時間は、もしかしたらあんまり邪魔したらいけない時間なのかも…。

私はそんな事を考えてしまって。いつまでたっても柱の側から彼を見つめるばかりで、なかなか出て行くタイミングを見つけることができなかった。



ポンッ…ポンッ…ぱしっ。


しばらくそうしていると、彼がリフティングを止めた。い、今なら、大丈夫かな…?


「おい、出てこいよ。いるんだろ」


__心臓を鷲掴みにされた。


え?え?私、そんなにバレバレだったのかな?ちゃんと、うまく音出さないようにしてたのに…。どうしよう、どうしよう。

じーっとこっそり覗いてたとか、絶対変な子だと思われちゃうよね…あぁぁ、もう…わたしのバカ!




『う、うっす!』



え、あれ?



東側の船長室の影にいた私の反対側。船の西側から、ビサイド・オーラカのみんながぞろぞろと出てきていた。え、えぇ!?みんな隠れてたの?それじゃぁバレちゃうよ、みんな…。


__
______
___________
______
__




複数の視線を感じて、カマかけた俺の言葉に応じて出てきたのは、ワッカ以外のオーラカメンバーだった。


「ワッカと同じ場所に隠れてたら、そりゃバレるっすよ。つーか、そもそも大の男が揃いも揃って人の練習風景覗いてるなんて。趣味、わるいっすよ」


『ご、ごめんなさいっす』『俺たち、なんだか眠れなくて…』


「試合前の緊張?誰だってそうなるっす。早めに慣れといた方がいいっすよ」

俺が船室から出る頃には、ワッカは屍のように眠っていた。

あれもビビリな所あるから、試合前夜に寝れないタイプだと思うが、今日の試合の疲れで、もうこのまま朝まで昇天しているだろう。


『でも、何かしていないと不安で…明日がワッカさんの最後の試合だと思うと…』


レッティはぐっと握りこぶしを作って、微かに震えるそれをじっと見つめた。


「…まったく、オーラカの先輩たちは、肝っ玉が小さいっすねー」


『めんぼくない…』『すまん…』


口々にそう言って情けない顔を浮かべるオーラカ面子。今まで負けてきたトラウマが相当根が深いものなんだろう。




負けるのに慣れてしまうくらい今まで負けてきて。でも今回は絶対勝ちたい理由があって。かといって、今から何もできなくて。

そんな行き場のない気持ちでみんな一杯なんだろう。



「…みんな。こっちに来て座って」ドシッ。



俺はそれを見て、しばらく眠るのは諦めた。

これも監督を引き受けた範疇だ。そう思って、床に置いたボールに腰を据えて、話をすることにした。

オーラカメンバーも俺の前を囲んで、輪になって座る。



「今日、俺たち、試合をしたっすよね?もう、クタクタになるまで」


俺はエースであってリーダーじゃなかったから、こうやって頼られるのは、あまり慣れていない。

だから一体なにから話そうか。精神論?戦術?それともまずは普通に世間話?そんな風に迷ったけど、まずは今日の試合の話をしようと思った。



「…楽しかったすよね」



俺は今日の試合の風景を脳裏に描きながら、尻に敷いたボールを手に取って、床にどっしり腰を下ろした。



『お、おう!』『熱い…戦いだった!』『俺もあんな感覚…ほんとうに久しぶりだったっす』



オーラカのみんなはさっきの試合を思い出して、なんだかお互いの顔を見て、うなずき合っていた。

コートの狭さが、シュートのチャンスを増やし、得点するという快感を皆味わったのだろう。みんなの顔には自信のようなものが見え隠れしていた。
                                             

「今日、シュート自分が何本打って、何本点を入れたか分かってる人!はい!」


俺はぴっと手を挙げながら、学校の先生のような口調で今日の試合のデータを聞いた。すると、


『お、俺!外しまくったから何本打ったかは覚えてないけど、たしかに!8点入れたぞ!』


ボッツが、そう言って胸を張り。


『俺は!たしか21本打って、その内10点入れた!』


レッティが、目を輝かせながら手を挙げる。


『俺は6本っす!でも打ったのは全部入れたぜ!』『僕は…残りの点数全部っす!』


気弱なジャッシュも、少し引っ込み思案のダットも、同じように手を挙げて、俺に笑顔を向けた。



「点を入れる気分は?」『『『最高!』』「いい返事っす!」


声を揃えてそう言う皆の表情は生き生きとしていて、思いつきだったけど、俺は今日の試合をやっておいて良かった、と率直に思った。

この様子なら、今言っても平気かな。




「これは明日のミーティングに言おうと思ってたっすけどね…


明日の試合は今日くらいみんなシュートを打ってもらうっすよ!」





『『ええ!?』』

驚愕の表情。オーラカの面子に動揺が広がる。




『そんな!むやみに打っても絶対入らないっすよ!』『そうだ!それはいくらなんでも無茶苦茶…!』

口々に、みんなの間に当然生まれる疑問と不満。当然だけど、俺の言おうとしている事はまだ伝わっていなかった。



「そうはならないっす!」

一際大きく声上げる。

「なぜなら明日のゴールは二つに増えるんっすよ!」

驚天動地。そんな、天地がひっくり返っても起こらないような、無茶苦茶な事を俺は自信満々な顔を浮かべて、みんなに告げた。



『は、はぁ!?ど、どういうことだ!?』『全く意味がわかんねぇぞ!』『説明してほしいっす!』

勿論今から説明する。うまく例えようとして、はぐらかすような言い方をしてしまったかな、とも思う。



「明日、ただみんなはハーフコートラインまで来て、ボールが奪われそうになったらシュートを打てばいい。」

「いつものゴールと…そして俺に向かってっす!!」



びしっと親指を自分の胸にさして、高らかに宣言する。



『お前一体なに言って…』


「俺の体はゴールの的としてが小さいっすよね」


『ま、まぁお前をゴールに見立てるっていう、そのまんまの意味でとらえるんならな。』


レッティが太い眉毛をひそめながら俺を見る。これから俺が言おうとしている事は、自分でもかなり怪しく思える与太話だ。だけど、


「でも、俺は動く的なんっすよ。どんなに先輩達が加減無し、コントロール無視のノーコンシュート打っても追いつくような高速自動追尾機能つきの」


『んな無茶苦茶な…』


明日。ルカ・ゴワーズ並びに、他の列強チームに勝つ為には、この方法が最善なのだ。



「キッパ。俺の今日のデータ教えてくれる?後方で見てたから全部とは言わないでも、だいたい分かるっしょ?」


俺はここで今までほとんど黙っていたキッパに話をふる。キーパーのポジションのキッパには、試合前に多少データの集計をお願いしていたのだ。


「…きょ、今日ティーダさんは32本打って、30点入れたっす」

「パスカット率、シュートのインターセプト率は6割ちょいで」

「全体のボール支配率に至っては7割、リバウンド率は8割に近いっす」


キッパは、突然の事でちょっと焦ったような顔をして、俺のデータを読み上げる。高いボール支配率とリバウンド率は、この船の甲板という狭いフィールドだからできた数字だった。



『す、すげぇ…!』『改めて聞くと…おまえほんとに化け物だな』『しかも…2対5だろ…』


ざわめきの広がるオーラカメンバーに俺は意地悪い笑顔を向けた。「ね。俺、結構やるっしょ」


『結構どころじゃねぇよ!』『スピラの大陸中探したってお前みてぇな野郎いねぇよ!』『そうっすよ!もうなんか存在自体がずるいっすよ!』


BOOOoo!とまるでスタンドから飛んでくるヤジのようなテンションで俺は責めたてられた。でも俺はこんな程度では、へこたれず。


「まぁ、これでもエースっすからね!」


いつもの。決め台詞を。そして


『ちくしょー…』『もう…なんか悔しさ通り越して、いっそ感動しちまうよ』『ちょっとティーダさんは異常っすよ』






「その俺が、明日は仲間なんっすよ?」





と、自信過剰な男をあえて演出するようなキザな台詞を目の前で吐いてみせる。『『あ…』』とポカンとみんなが口をあける。


「先輩達は俺というゴールにシュートを打つだけ」


「それはブリッツ的にはロングパスっていう奴っすけど。パスとして考えると俺の進行ルートだったり、タイミングやコントロールを気にして、みんな本気でボール投げれないっしょ?」


「それで生まれる威力のないパスボール。言っちゃ悪いですけど、先輩達の肩じゃルカ・ゴワーズが相手の場合、カットされるんすよ」


『むぅ…』『う、うぅ確かに今までぜんぜんパスが通らなくて…それで…』『監督…言葉が…痛い所にびしばし入ってますって…』


「先輩達は明日ボールを俺に絶対肩で投げない。(パス)をしない。俺へボール回す時は、全部足で蹴ってもらう、つまり(シュート)するんっすよ」


ようやく俺の言わんとしている事が伝わってきたようだった。

本来、ブリッツでは基本的にパスは肩で投げるものとされてる。足で蹴った場合と手で投げた場合とじゃ、コントロールは段違いの上、味方もその速度のボールが取れなくなるミスの可能性が高いからだ。

でも、それは『こっちの世界』での話だ。

俺がザナルカンド・エイブスに在籍していた時、リーグ上位選手はこの方法を普通に戦術として取り入れていたのだ。名前もあって(フット・トゥー・フット)呼び辛いから、(スクリューパス)とも呼ばれていた。

フィジカルに優れた選手に渡すパスとして極めて有効な手段とされ、一世を風靡したが、いったん警戒・対策されるとインターセプトされる確立も高いという話で、みんなここぞという時しか使っていなかった。

でもワッカに聞いた所、こっちの世界ではまだ、浸透していない方法だったようだった。警戒さえされていないならば、この戦術がゴワーズを破る突破口となると感じていた。



『でも、そんなことしたら、おまえ…!俺ノーコンだからどこ飛んでいくか分かりゃしねえぞ!』

レッティが焦った顔で俺を見る。

「だーいじょうぶっす!俺から動いて追いつくんで」

それに俺は胸を叩いて答える。



『でも…そんなの聞いた事ないし…練習してないのに、できるかどうか…』『そうっすよぉ…ティーダさぁん…やめましょうよぉ…』

ジャッシュとダット、いっつも不安そうな顔浮かべる組には

『今日の感じで、シュートしてくれたら大丈夫っすよ!明日明るくなったら、ちょっと海もぐって練習する時間もとりますっし』

安心させるように言い聞かせる。でも、二人の顔色は優れなかった。




『そんな馬鹿な。シュートボールの速度に人間が泳いで追いつけるわけ…』

まだ不安なのか、それでも食らいつくボッツ。

「みんな、このまま普通にやったら、負けちゃうんだよ。今回は俺が監督なんだからお願いだから、言う事聞いてほしいっす」

俺は、伝家の宝刀である監督権限をここぞとばかりに掲げる。だけど、それが失敗だったのか。



『横暴だ!』『そうっすよ!』『監督の言う事でも聞けない事もあるっす!』『明日はワッカさんの引退試合なんだぞ!』



みんなの不満が、徐々に膨れ上がっていた。俺を入れた即席チームだからこそ生まれる不和がここぞとばかりに表出した。

信頼が足りない。今日の事で、俺のことを皆に完全に認めさせることができたと考えていたが、甘かった。

選手としての俺はともかく。こういった戦術を、取り入れる監督としての役目をうけもつにはそれなりの時間が必要だったのかもしれない。


「みんな、そんなに難しい事言ってる訳じゃないんすよ…今回は」








『で…できるかも…しれない』










……キッパ?





『俺…昨日見たんだ』




『俺、昨日船酔いしてて、シンが出たときちょうど船のデッキにいたんだ』




『ティーダさんが、ユウナ様を海の中潜って助けてるところ見た。ホントに、本当にすげえ速かった。側にいて逃げる途中のイルカと多分同じくらい』



『だから…そんなティーダさんなら、みんなが思いっきりシュート打っても…今日のゴール枠の広さくらいな範囲だったら、追いつけるかも』






______キッパ。お前、このタイミングでよく言ってくれたな。






『そ、そういえば昨日、あの時の海の状況ちらっと見たけど、あのワッカさんでも、ほとんど動けてない中、こいつだけ動けてたな』

『お、俺もそこは見たっす!』

『じ、実は俺も』

『ティ、ティーダ!そういや、お前水中での60w泳、何秒とかわかるか?』

「えーと、たしか…自己ベストは、4,52…だったっすね?」

『4秒台ぃいいいいい!!??』『おまっ!俺の陸上より2秒もはええじゃねぇか!』

「そうっすよ。今日は外の陸上デッキだっただったから、分からなかったと思うっすけど、俺実は、水の中の方が速いんっすよ」

『はぁぁあああああ!?』

「信じらんないなら、今海に潜ってタイム計っても構わないっすよ?」




オーラカメンバー全員が俺に向かって、まじかよこいつ…、という顔を向けてくる。

だけど、本当に俺が嘘言ってるのかと、疑ってる様子はなかった。




『おまえ…生まれてくる生物間違ってるって…』『そうっすよ…速すぎてもはや監督キモイっす…』『魚の生まれ変わりって言われても信じまいそうだ…』『同感…』




そんな呆れにも似た、表情が広がっていき、硬直していた場の雰囲気が弛緩していく。

いまなら、俺の言葉がみんなに届くと思った。「みんな、もっとこっちに来て」











「明日の俺は、みんなの右足、そのものだ」



「明日の俺はボール持ったら、絶対ゴールを決めるから」



「だから。みんな、俺になんとしても、ボールを回してくれ」



「責任はとれないっすけど、俺、全力で皆のボール拾うから」


「だから…『分かった!わーかったよ!!』


オーラカの中では一番パスの上手く、コートの中央配置の司令塔、ミッドフィルダーであるレッティが、そう声をあげる。

『俺が良い所でボールを持ったら、お前には俺のノーコンシュートをくれてやる。でも俺がドフリーでお前があんまりにも近い所にいたりした時とか、他の仲間にパスする時はいつも通りだ。それでいいんだろ?』

「あぁっ!もちろんオッケーっす!俺も必ずしも相手のゴール付近にいるって事はないっすしね!その辺は臨機応変っす!」

『ま、まぁそれなら』『ど…どうせこのままやっても、ゴワーズ相手には勝てないっすからね』『お、俺も!ボールとったら監督に蹴るっす!』

ようやく。ようやく、まるで交渉のようなミーティングが終わりを告げようとしていた。

「うっす!!任せるっすよ!明日の早朝!今度は海で練習するっすから!寝坊はなしっすよ!」

『おいおい!走ってる船から海潜ったら、そのまま置いてかれちまうぞ』「追いつくっす!」『無茶言うな!こんにゃろう!』「もう…だったら、朝はデッキで練習。ルカの近く海辺に来た瞬間、全員海に飛び込むっすよ。試合まで時間ないっすからね」

『まじかよぉ…』『もう…俺明日は死ぬ覚悟決めるっす…』『俺の監督がこんなに横暴すぎるわけがない』









『…。』






「キッパ。今日なにもできなかったとか思ってるでしょ」


話がついたところで、俺は最後にキッパに声をかけた。


『え、ティーダさん…』

「最後の俺のシュート。コース威力も良かったのに、あれは完全に止めたっすよね。

『あれは…ただの偶然で』

「俺が全力で撃ったシュートっす。偶然なんかで止めれるはずないっすよ」

『え…』

「だから、自信もっていいっすよ」

そう、俺はキッパを過小評価していない。

近距離からの俺のシュートにもビビる事もしなければ、俺のシュートをとる事を最後まで諦めることもしなかったたキッパは、落ち着いて回りを見る事を覚えたら、良いキーパーになるとふんでいた。



「大丈夫っすよ」


俺はキッパのでかい体に肩を載せた。



「たとえ明日、どんなにシュートを打たれてもゴール決められても。」



不安そうなキッパ。今日の試合で、自信がついた皆とは対照的に、自信を奪われたかもしれない。

でもキッパ。今日俺のシュートを何本も受けたお前だから、信じてくれるよな?





俺は顔を覗き込んで、肩を叩く。





「俺が全部取り返してやるからな」






だから。キッパ。安心しろよ。





『ティ、ティーダさぁん…(きゅん)』

















__________________________________________






















か…かんぜんに、出ていくタイミング逃しちゃったよぉ…。


彼は、最後にキッパさんと肩を組んでちょっとだけおしゃべりした後、すぐあくびをしながら船室へと戻っていってしまった。


「わたし…タイミングわるいなぁ…」


はぁ。と思わず出ちゃう溜め息。


「…やっぱりキミはすごいね…」

さっきのビサイド・オーラカの様子を見て私は思った。

なんだか比べちゃうよ。

私だったら、みんなをあんな風にまとめあげる事なんて、できないよ。

キーリカ寺院で、ドナさんに言われたこと。

「あらあらーお付きの人達がなんとも一杯で…。そんな様子じゃ、この子、なーんにもできない子になっちゃうんじゃない?」

あの時は、私はムキになって反抗したような事を言っちゃたけど…本当に、よく考えたら私は皆に頼りっぱなしだ。


いつも私を大事にしてくれるワッカさん。


小さなころから側にいてくれたキマリ。


まるで本当の妹みたいに扱ってくれて、私が間違っていた時には優しく叱ってくれるルールー。


そして…今日も。昨日もその前も助けてくれたキミ。


キーリカ寺院でイフリート様を前にして、召還獣になってもらうお願いの何時間もお祈りを捧げていた時。

彼が言っていたように、私は心のどこかで、このまま契約できなかった時の事を考えていた。

もし、ここで契約できずに、私に召還士の才能が本当に無いっていう分かったら、一体どうなるんだろう?

ワッカさんは、悲しむかもしれない。オハランド様…お父さんの事をすごく尊敬していてくれてたから、すごく期待も大きかっただろうし。

でも、最後はきっと、安心したような顔をして「ユウナが、こうして農作業してるの見るのも悪くないな」なんて事を言ってくれるんだ。

キマリは、なにも言わずにいつものぶすっとした顔で、きっといつものように、私の近くに着いてくれてる。

ルールーもそう。私が召還士になると言ったとき、一番心配して、反対してくれたのは、ルールーだから。

きっと「ユウナ。たとえ召還士じゃなくなっても、あんたは私の妹だからね」そんな言葉を掛けてくれるんだろうな。

そんな想像。その想像は優しすぎて。

そんな優しいみんなの笑顔が簡単に想像できてしまうから。私は、迷ってしまったんだ。

イフリート様。イフリート様。どうか、私に力をお与えください。

そんな言葉を心の中で唱えていたくせに、私はその力を欲しがるのを怖いと思ってしまった。

そんなの…契約できなくて、当たり前だよね。


でも、そんな時、声が聞こえたんだ。君の声が。


「ユウナ様。聞こえるか?」って、いつもとおりの…君の声。


ティーダ君。彼のしてくれた話は、やっぱりブリッツボールの話で。ゴール前の恐怖感とか、やった事ない私にはそういうのはわからなかったけど。




「俺がボールを蹴り続けた時間。それだけは俺を裏切らない。だから信じるんだ」

「たとえ俺が何考えてようが、俺の体はボールを目の前にしたら言うこと聞かない」ってさ」

「ユウナも同じ・・・・なのかもしれないよ?」




今までやってきていた事。

悩んで。悩んで。召還士になるって決めて。

それに向かって、毎日のお祈りと心と体を鍛えてきた。

その時間はなんだったの?諦めちゃっていいの?

私の中で、そんな言葉が、ふっと浮かんだ。

無駄になんてしたくない。

みんなを守りたい。その気持ちを私は、私は無駄にしたくない。

だから、お願い。



そう思ったとき、イフリート様は答えてくれた。

それぞれの寺院の召還の間には、かならず固有の質問が削り込まれている。

『汝、何故願う』

ちょっと特別な言葉だから、翻訳が難しいんだけど、イフリート様の召還の間にはそう削り込まれていた。

私は、答えを自分の中の答えを見つけた瞬間だったから、きっとイフリート様には全部お見通しだったんだろうな。


「…。」


もっと…いろいろ知らなくちゃ。

召還士は、年老いていた方が良いって言われてる。

きっとそれは、心の強さだったり、経験の量だったりで、私は、まだまだ他の召還士に比べたら若輩者だ。

それのせいにする訳じゃないけど、私はきっと力が不足しているんだ。心も。体も。

この先の旅で、私は本当に、全ての召還獣に認められるほど、強くなれるのかな?

自分を成長させる、そんな機会って、あるのかな…?




「今考えても…仕方…ないよね」





ギギッ…。

私は立ちすぎて棒にようになっていた足を動かして、船室に戻ろうと振り返る。


その時、頭の上から。


ヒュッ…タンッ!




「やっ!ユウナ!なにしてんの?」




目の前に、リュックが落ちてきた。


「え?え?」


「こんな夜更かししてぇー。わるい子だっ!」


「リュ、リュック。ずっと船長室の上にいたの?」


リュックはかわいらしい、ちょっといたずらっ子っぽい笑顔で私の顔を覗き込んでくる。


「そだよー。オーラカのみんな!気合いムンムンッて、感じだったよね」


そだよー。って…。そ、そっか。リュックも、さっきの皆を見てたんだね…。


「あいつ、結構勘がいいよねー。『出てこいよ、いるんだろ』とか言われた時、心臓ドキーーッ!てなったよね」


リュックがあいつと言ったのは、たぶんティーダ君のこと。リュックは声を低くして彼の声真似をしながら、一度飛び跳ねた。


「そ、そうだよね!わたしも!『人の練習風景覗くなんて、趣味わるいっすよ』とか言われちゃった時、隠れてぺこぺこ頭さげちゃったよぉ。」


あの時、私はオーラカのみんなが怒られてるのを見て、なんかすごく申し訳ない気持ちで、そんなことをしていた。


「あははー。ユウナらしいなぁ。変わってないね」


リュックとは幼い時に会っていた私のことをよく覚えていてくれたのだ。

もちろん、私もよくおぼえている。積み木遊びもしたし、一緒におままごともしたよね。

あの時は、お昼間にやっていた番組を真似してて。たしか、旦那さんの帰りを待つ妻と、夫の愛人が鉢合わせするなんていう変な話だったかな?ふふっ、懐かしいなぁ。


「ところで、ユウナ。これ、飲んでくれる?」


私がちょっと昔の思いでひたっていた時、リュックからひょいっとドリンクボトルを渡される。


「もう一つ新しいドリンク作ったから、あいつに試飲させようと思ったんだけど…タイミング逃しちゃってさぁ…。だから、温くなっちゃったけど、ユウナにあげる!」


たしか、これ、さっきリュックが彼に。試合後にコートで倒れていた、ティーダ君に飲ませていたスポーツドリンクのボトルと同じものだった。

ティーダ君と…ふたり一緒に飲んでいたボトルだった。


「洗わずに、返してくれてもいいから!それじゃ!また明日ね!リュックちゃんは良い子なので、そろそろ寝まーす!」


おやすみー!と元気よくそう言ってリュックは、タタタッと船室の方へと戻っていってしまう。「あっ!リュック!」


私は何故か、リュックを呼びとめてしまった。

あれ?おかしいな。思い出話をしたかったのもあるけど、そんな急ぐ話じゃないし、だいたいもう夜も遅かった。

私は自分で呼んだくせに、なんでリュック止めたのか、自分でもよく分からなかった。


「んー?どったの?」


だからなのかな。


「ティ、ティーダ君と…兄弟って…どういうこと…かな」


そんな、よく分からないことを、聞いてしまった。

ほんとは。本当はその話は、ルールーから聞いていたのに。



『あいつ。ワッカの前ではティーダとリュックは兄弟…そういうことにしておけば、リュックがアルベド族ってバレないってさ。多分そういうことね』

『はぁ…嘘つくにしても、何も兄弟っていう設定にしなくていいじゃないの…ボロがでたら、痛いわよ。馬鹿なオママゴトだけど。今更仕方ないわ』

『だからユウナ。あんたもよろしくね』




そうやって聞かされていた。

なのに今、私は再びリュックにそれを問いただそうしている。





「わわっわわー!ユウナ聞いてたの!そっか、そうだよね。ば、バッカだよねー!あいつさぁ!ワッカの前では私、妹になりきってくれーって!とか、自分で嘘ついたくせに、私まで巻き込むんだからさー!」


リュックは、あたわたと手をぶんぶんよ振りながら、そう言った。

ルールーに聞いた通り、答えは予想していたものと、おなじはずだった。


「あいつってほんとバカだよねー!ユ、ユウナも巻き込まれると面倒だから、あいつにあんまり近付かないほうがいいよ!わたしなんて、何回あいつに振り回されてるか!くそー!ティーダめ!」


リュックは、船室の方角に向かって、パンチをしていた。船室のオレンジのライトに顔が照らされて、顔が赤くなってるよう見えた。


「まぁ、とにかく今更言っても仕方ないしね…じゃ、ユウナもそういう事で!」


今度こそ、おやすみー!そう言って、リュックの背中が、船室へと消えていく。






ザザーン。



静かな、波の音がきこえる。


取り残されたのは、私と、転がったブリッツボールと、スポーツドリンク。






「んっ…」




最後にストローをくわえて、一口。ボトルに入った、ドリンクを飲んでみた。










「…ホントだ……おいしい…」













私は、ストローを見ながら、そう呟いた。




























あとがき





みなさんにいただいた感想を見ていたら、覚えていてくれる人が大半で、なかには新規の方までもいました。

感無量です。一度放棄した筆者としては本当に頭が上がりません。

とにかく、更新したくせに話が進んでいない!では、待っててくださった方たちに申し訳ないので、急いで書き上げました!



今回の話の主役はビサイド・オーラカ!キャラの喋りとか細かい所が思い出せなかったので、若干原作の設定と違って違和感を感じたら、申し訳ありません(汗

ユウナとリュックも短いですが初めて会話させることができて、一安心です。

どっちをヒイキするっていうのも、書き出した当初は考えていなかったですが、なんだかリュックの方が活躍していますね。

リュック派かユウナ派か?と昔聞いたのがなんだか懐かしいです。

今はリュック派が多いですけど、きっともし全員魅力的に書けてれば話が進むに連れて、ユウナ派とかルールー派とかも拮抗するはずですよね。

いちご100パーセント方式ではありませんが…ヒロインは誰にするべきか悩みます。

とにかくFFX自体が、ひさしぶりすぎて、なんか細かいネタとか思い出せませんね。

最低でも攻略本のアルティマニアを買うか、プレイしなおしたいのですが、なかなか…。

よかったら皆さん、細かい原作ネタ(アルベド語辞典)(こんなアイテムあるから、野宿とかもこうしてるんじゃね?)とか、なんでも構わないので、よかったら筆者に話のネタをくだされば幸いです

それではまた次回!











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