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No.1460の一覧
[0] Air Magic[拝戸](2006/11/26 00:40)
[1] Re:Air Magic[拝戸](2007/01/05 02:17)
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[1460] Air Magic
Name: 拝戸 次を表示する
Date: 2006/11/26 00:40
煙の臭いがする。
何だ?と思って僕は走って村に戻った。
村に戻った僕の眼に入ってきたのは、業火に見舞われる僕の村。
戦う人、燃えて異臭を放つ人、村から逃げ出そうとする人。
様々な人が、炎の間から垣間見える。
けど、逃げ出すことは出来ない。
強大な結界が張られているから。
その結界に近づこうものなら、消えない業火に焼かれて炭になってしまう。
それでも、そこから逃げ出そうと炎に身を投じる者は後を絶たなかった。

十メートルほど離れていても、身を焦がすような熱さを感じた。
周りを見ると人々が集まってきている。
多分、立ち上る煙を見て来たのだろう。
その中には水の術を使える者もいたけど、炎の結界を破ることが出来ない。
結界に行きつく前に蒸発する。
その様子を見ていた僕は、恐くなってその場から逃げ出してしまった。
村の中に、友達や家族が居たにも関わらず。
だから僕は僕が嫌いだ。
自分の命を失いたくないがために逃げた僕が嫌いだ。




「お客様、朝でございます」

「………」




浴衣姿の女性が、にこやかに襖を開ける。
広さ十二畳ぐらいの部屋。
その中心に敷いてある布団からは返事が無い。
女性はスススと、すり足でそこに近づくと、細い腕を伸ばして起きろと催促する。
それでも、一向に起きる気配は無い。
最初は笑顔で温厚だった女性も、表情は次第に怒りに変わっていく。




「お・きゃ・く・さ・ま!!」

「……ん?」




布団を剥ぎ取られて、ようやく目を覚ます。
目を覚ました男は、ぼさぼさになっている長髪を手くしで軽く梳く。
そして、まだ眠たいといった様子で目元を擦りながらもその場に立ち上がった。




「朝食?」

「お客様のお泊まりは二泊三日でございましたよね?
 今日はその三日目で、我が宿屋は宿泊明けの日は朝食は出ませんが」

「おぉ、確かそうだったな」




男はポンと手を叩くと、さっさと部屋から出て行く。
その後ろでは、男を起しに来た女性が布団を畳んでいた。
が、部屋の隅にポツンと置かれているものに気が付くと、急いで男の後を追う。




「お客様、番号札を忘れてますよ!」

「あぁ、これはついうっかり…ありがとう」




かまぼこ板程の大きさの木の札を受け取ると、銭を勘定するために受付に移動する。
先程受け取った番号札を受付嬢に手渡した。




「えぇっと……六番…梧桐晴一郎様でよろしですか?」

「はい」

「料金はこちらの方になります」




梧桐は紙に書かれた金額を確認すると、懐の中から小袋を取り出す。
そして、金額分の銭を支払った。

宿を後にする梧桐の後ろでは、女将と数人の女性が頭を下げて見送りをしている。
梧桐は振り返ると、自分も少しお辞儀をした。

朝風によって、梧桐の長髪がなびく。
朝の光を一身に感じながら、散歩気分で山のふもとまで来た彼は近くの木の下に腰を下ろした。
見上げる空は青く澄んでいて、雲ひとつない快晴。
しかし、そんな空を見る梧桐の顔は曇っていた。




「キャアァァァァ!!」

「ん?」




朝の日差しを浴びて、ウトウトしていた梧桐を邪魔するように悲鳴が上る。
まだ朝も早く、ひと通りの少ない山のふもと。
ひと通りが少ないが故にココまで来たのだが、面倒ごとが転がり込んできてしまった。
面倒ごとが嫌いな性分の梧桐は、寝たふりをしてやり過ごそうとした。
が、厄介ごとは他人も平然と巻き込むわけで。
悲鳴を上げた主だと思われる女性が、寝ている梧桐の頬を思いっきり引っ叩く。




「起きてください!」

「痛っ!?な、何を……」

「助けてください!!変な人に追われてるんです」

「へ、変な人?」




叩かれた頬を擦りながら、梧桐は上体を起す。
涙目の、黒髪が肩ぐらいの長さまである女性が眼に入った。
とりあえずは誰に追われているのだろうかと思い、彼女の後方を見据える。
そこには、笠を被った鎧を着た武者三人が。
よく見るとその鎧もボロボロで、戦で逃げたか負けたかして宛てのなくなった者だろう。
梧桐はそう思った。




「変な人って…彼らのこと?」

「は、はい」

「へぇ」




右手で顎を擦る梧桐の後ろから、ふわっと風が通り抜ける。
笠の顎紐が止められていない武者達のそれが舞う。
それによって、その者達の顔が露になった。
目玉はえぐれ、皮膚はただれ、髪もボロボロに抜け落ちている。




「おいおい…」

「助けて!あいつら逃げても逃げても追ってくるの」

「…では、僕達も逃げましょうか」




梧桐はニコリと笑うと、女性の手を掴んで走り出す。
その突然の動作にこけそうにもたつきながらも、体制を整える。




「に、逃げるって、戦わないんですか?」

「ええ、あんなの相手にどう戦えと?」

「確かにそうだけど・・・」




女性は不満そうな表情を浮かべながらも、梧桐の後ろについていく。
チラッと振り返ると、武者達が追いかけてきている。
しかしその足取りは遅く、容易に逃げ切ることが出来た。

梧桐は、息を切らせながら土手の草むらに寝転がった。
横には先程の女性が座っている。
彼女も息を切らせてはいるが、梧桐ほどではない。




「あれって、式神だよね?」

「…はい」




返事を聞いた梧桐は、だるそうに溜め息をつく。
式神に追いかけられていたということは、すなわち陰陽師に追われていたという事。
このご時世、権勢を振るう陰陽師に目を付けられたら表立って生活は出来ない。
頭が痛くなるのを感じつつ、この女性に関わったことを梧桐は後悔した。
が、後悔した所で何も始まらない。
とりあえずは、追いかけられていた理由を聞いてみる。
すると、「…分からない」と一言。
だったら、と梧桐はその場から立ち上がる。




「僕はこの件には関係してなかったと言う事で、一つよろしく」

「え?」




立ち去ろうとする梧桐を、驚いたような顔で見る。
だが、梧桐は特に気にした様子も無く家路を歩いていく。
すると突然、彼の足元の地面がモコモコと盛り上がった。
梧桐は後ろに飛んで、その様を見つめる。
地面の中からは、先程の式神が現れた。




「勘弁してくれよ!」




梧桐は、家路とは正反対の方向へ走り出す。
武者達の足が遅いことは分かっている。
だから少し余裕を持って走ったが、次の瞬間、梧桐の頬ギリギリを槍の一撃が。
振り返ってみれば、武者達は梧桐と同じほどのスピードで追いかけて来ている。
驚いた梧桐は、全速力で駆け抜ける。
そしてまた振り返ってみると槍が届かないほどの距離は開いたが、それから差が広がらない。
広がらない所か、疲労が溜まっていき、その差は縮まっていく一方だ。
縮まって縮まって、武者達の攻撃範囲内に入ると槍撃が飛んでくる。
しかし、その攻撃もかするばかりで何故か梧桐には当たらない。
そうして服がボロボロになった所で、梧桐の視界に一人の短髪の男の姿が眼に入った。




「ぐはっ…はぁ、と、鳥飼殿…たす、助け……」

「…伏せろ」




その言葉と同時に、梧桐はその場に転げる。
鳥飼は腰に差している日本刀に手をそえ、目にも止まらぬ速さで刀を抜いて一歩踏み出す。
すると武者達の首は血を吹きながら地に落ち、胴も落ちた。
しかし梧桐がそこへ目をやったときには、数枚の切れた紙切れだけが残っていた。
血によって、地面も汚れてはいない。




「はぁ…はぁ…た、助かったよ。ありがとう」

「梧桐殿、陰陽師と喧嘩でもしてるのか?」

「僕が厄介事が嫌いなことは、鳥飼殿もよく知っているでしょう?」




とりあえずこれまでの経緯を鳥飼に教える。
そして、教え終わった所で先程の女性が現れた。
まるで説明が終えるのを待っていたかのように。




「…あの落ち武者達ってキミの式神でしょ?」

「…違うわよ」

「違わないだろ。僕がキミとの関わりを嫌がった瞬間に僕を追ってきた。
 今まで追っていたキミには目もくれずにね。
 一体僕に何の恨みがあってあんなことをしたんだい?」




梧桐は、やれやれと草むらの上に腰を下ろす。
その隣に鳥飼も腰を下ろしたが、あの女性は座ろうとしない。
緊張の糸がピンと張り詰めた。
鳥飼は、いつでも戦えるよう腰に差している刀に手を掛けている。




「ちょ、ちょっと…何も危害を加えるつもりなんてないわよ。
 私の式神達も、ちゃんとアナタへの当たらないように攻撃してたでしょ」

「…梧桐殿、容易に信用してはいけない」

「分かってますよ。で、僕に何の用があるんですか?」




キッと睨むように女性の顔を見た。
しかし怯む様子は無く、苦笑いをしながら口を開いた。




「えぇっと、ちょっとアナタの力を試してたの。
 風の術を操ると言われてきた、梧桐一族生き残りのあなたの力をね」

「ふむ、なるほど」

「でも結局、分からずじまい」

「そんなことなら、回りくどい事をしなくても言って下されば見せますよ」




梧桐は少しぎこちなく笑うと、印を結ぶ。
すると突然、少し強い風が吹き、木々が揺れた。
女性はその様を、「おぉ」と感服したように見つめる。
だが梧桐は、気まずそうな雰囲気をかもし出していた。




「すごい、やっぱり梧桐一族の力は本物のようね」

「いや、あの…今の強風が僕の出来る精一杯の術です」

「え?」

「かまいたちだとか、大嵐を起すだのとかは出来ません。
 多分、才能とかそういうのがないのでしょうね」




苦笑いを浮かべながら、梧桐はその場から立ち上がる。
「術者を探してるなら他を当たってください」と女性に伝えると、鳥飼と共に家路を歩く。
取り残された女性は、呆然と空を見つめていた。




後書き

指摘ありがとうございます。
何で一人称の所間違えたんだろう^^;
修正しました。


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