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No.14434の一覧
[0] 【ネタ・習作・処女作】原作知識持ちチート主人公で多重クロスなトリップを【とりあえず完結】[ここち](2016/12/07 00:03)
[1] 第一話「田舎暮らしと姉弟」[ここち](2009/12/02 07:07)
[2] 第二話「異世界と魔法使い」[ここち](2009/12/07 01:05)
[3] 第三話「未来独逸と悪魔憑き」[ここち](2009/12/18 10:52)
[4] 第四話「独逸の休日と姉もどき」[ここち](2009/12/18 12:36)
[5] 第五話「帰還までの日々と諸々」[ここち](2009/12/25 06:08)
[6] 第六話「故郷と姉弟」[ここち](2009/12/29 22:45)
[7] 第七話「トリップ再開と日記帳」[ここち](2010/01/15 17:49)
[8] 第八話「宇宙戦艦と雇われロボット軍団」[ここち](2010/01/29 06:07)
[9] 第九話「地上と悪魔の細胞」[ここち](2010/02/03 06:54)
[10] 第十話「悪魔の機械と格闘技」[ここち](2011/02/04 20:31)
[11] 第十一話「人質と電子レンジ」[ここち](2010/02/26 13:00)
[12] 第十二話「月の騎士と予知能力」[ここち](2010/03/12 06:51)
[13] 第十三話「アンチボディと黄色軍」[ここち](2010/03/22 12:28)
[14] 第十四話「時間移動と暗躍」[ここち](2010/04/02 08:01)
[15] 第十五話「C武器とマップ兵器」[ここち](2010/04/16 06:28)
[16] 第十六話「雪山と人情」[ここち](2010/04/23 17:06)
[17] 第十七話「凶兆と休養」[ここち](2010/04/23 17:05)
[18] 第十八話「月の軍勢とお別れ」[ここち](2010/05/01 04:41)
[19] 第十九話「フューリーと影」[ここち](2010/05/11 08:55)
[20] 第二十話「操り人形と準備期間」[ここち](2010/05/24 01:13)
[21] 第二十一話「月の悪魔と死者の軍団」[ここち](2011/02/04 20:38)
[22] 第二十二話「正義のロボット軍団と外道無双」[ここち](2010/06/25 00:53)
[23] 第二十三話「私達の平穏と何処かに居るあなた」[ここち](2011/02/04 20:43)
[24] 付録「第二部までのオリキャラとオリ機体設定まとめ」[ここち](2010/08/14 03:06)
[25] 付録「第二部で設定に変更のある原作キャラと機体設定まとめ」[ここち](2010/07/03 13:06)
[26] 第二十四話「正道では無い物と邪道の者」[ここち](2010/07/02 09:14)
[27] 第二十五話「鍛冶と剣の術」[ここち](2010/07/09 18:06)
[28] 第二十六話「火星と外道」[ここち](2010/07/09 18:08)
[29] 第二十七話「遺跡とパンツ」[ここち](2010/07/19 14:03)
[30] 第二十八話「補正とお土産」[ここち](2011/02/04 20:44)
[31] 第二十九話「京の都と大鬼神」[ここち](2013/09/21 14:28)
[32] 第三十話「新たなトリップと救済計画」[ここち](2010/08/27 11:36)
[33] 第三十一話「装甲教師と鉄仮面生徒」[ここち](2010/09/03 19:22)
[34] 第三十二話「現状確認と超善行」[ここち](2010/09/25 09:51)
[35] 第三十三話「早朝電波とがっかりレース」[ここち](2010/09/25 11:06)
[36] 第三十四話「蜘蛛の御尻と魔改造」[ここち](2011/02/04 21:28)
[37] 第三十五話「救済と善悪相殺」[ここち](2010/10/22 11:14)
[38] 第三十六話「古本屋の邪神と長旅の始まり」[ここち](2010/11/18 05:27)
[39] 第三十七話「大混沌時代と大学生」[ここち](2012/12/08 21:22)
[40] 第三十八話「鉄屑の人形と未到達の英雄」[ここち](2011/01/23 15:38)
[41] 第三十九話「ドーナツ屋と魔導書」[ここち](2012/12/08 21:22)
[42] 第四十話「魔を断ちきれない剣と南極大決戦」[ここち](2012/12/08 21:25)
[43] 第四十一話「初逆行と既読スキップ」[ここち](2011/01/21 01:00)
[44] 第四十二話「研究と停滞」[ここち](2011/02/04 23:48)
[45] 第四十三話「息抜きと非生産的な日常」[ここち](2012/12/08 21:25)
[46] 第四十四話「機械の神と地球が燃え尽きる日」[ここち](2011/03/04 01:14)
[47] 第四十五話「続くループと増える回数」[ここち](2012/12/08 21:26)
[48] 第四十六話「拾い者と外来者」[ここち](2012/12/08 21:27)
[49] 第四十七話「居候と一週間」[ここち](2011/04/19 20:16)
[50] 第四十八話「暴君と新しい日常」[ここち](2013/09/21 14:30)
[51] 第四十九話「日ノ本と臍魔術師」[ここち](2011/05/18 22:20)
[52] 第五十話「大導師とはじめて物語」[ここち](2011/06/04 12:39)
[53] 第五十一話「入社と足踏みな時間」[ここち](2012/12/08 21:29)
[54] 第五十二話「策謀と姉弟ポーカー」[ここち](2012/12/08 21:31)
[55] 第五十三話「恋慕と凌辱」[ここち](2012/12/08 21:31)
[56] 第五十四話「進化と馴れ」[ここち](2011/07/31 02:35)
[57] 第五十五話「看病と休業」[ここち](2011/07/30 09:05)
[58] 第五十六話「ラーメンと風神少女」[ここち](2012/12/08 21:33)
[59] 第五十七話「空腹と後輩」[ここち](2012/12/08 21:35)
[60] 第五十八話「カバディと栄養」[ここち](2012/12/08 21:36)
[61] 第五十九話「女学生と魔導書」[ここち](2012/12/08 21:37)
[62] 第六十話「定期収入と修行」[ここち](2011/10/30 00:25)
[63] 第六十一話「蜘蛛男と作為的ご都合主義」[ここち](2012/12/08 21:39)
[64] 第六十二話「ゼリー祭りと蝙蝠野郎」[ここち](2011/11/18 01:17)
[65] 第六十三話「二刀流と恥女」[ここち](2012/12/08 21:41)
[66] 第六十四話「リゾートと酔っ払い」[ここち](2011/12/29 04:21)
[67] 第六十五話「デートと八百長」[ここち](2012/01/19 22:39)
[68] 第六十六話「メランコリックとステージエフェクト」[ここち](2012/03/25 10:11)
[69] 第六十七話「説得と迎撃」[ここち](2012/04/17 22:19)
[70] 第六十八話「さよならとおやすみ」[ここち](2013/09/21 14:32)
[71] 第六十九話「パーティーと急変」[ここち](2013/09/21 14:33)
[72] 第七十話「見えない混沌とそこにある混沌」[ここち](2012/05/26 23:24)
[73] 第七十一話「邪神と裏切り」[ここち](2012/06/23 05:36)
[74] 第七十二話「地球誕生と海産邪神上陸」[ここち](2012/08/15 02:52)
[75] 第七十三話「古代地球史と狩猟生活」[ここち](2012/09/06 23:07)
[76] 第七十四話「覇道鋼造と空打ちマッチポンプ」[ここち](2012/09/27 00:11)
[77] 第七十五話「内心の疑問と自己完結」[ここち](2012/10/29 19:42)
[78] 第七十六話「告白とわたしとあなたの関係性」[ここち](2012/10/29 19:51)
[79] 第七十七話「馴染みのあなたとわたしの故郷」[ここち](2012/11/05 03:02)
[80] 四方山話「転生と拳法と育てゲー」[ここち](2012/12/20 02:07)
[81] 第七十八話「模型と正しい科学技術」[ここち](2012/12/20 02:10)
[82] 第七十九話「基礎学習と仮想敵」[ここち](2013/02/17 09:37)
[83] 第八十話「目覚めの兆しと遭遇戦」[ここち](2013/02/17 11:09)
[84] 第八十一話「押し付けの好意と真の異能」[ここち](2013/05/06 03:59)
[85] 第八十二話「結婚式と恋愛の才能」[ここち](2013/06/20 02:26)
[86] 第八十三話「改竄強化と後悔の先の道」[ここち](2013/09/21 14:40)
[87] 第八十四話「真のスペシャルとおとめ座の流星」[ここち](2014/02/27 03:09)
[88] 第八十五話「先を行く者と未来の話」[ここち](2015/10/31 04:50)
[89] 第八十六話「新たな地平とそれでも続く小旅行」[ここち](2016/12/06 23:57)
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[14434] 第八十二話「結婚式と恋愛の才能」
Name: ここち◆92520f4f ID:d3c2e39a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/06/20 02:26
「エロ本ください」

正午を少し過ぎ、客も一時的に捌ける空白の時間。
その声は店内に流れる有線放送の音楽を掻き消す事無く、しかし、不思議と店内全てに聞こえる、良く通る声だった。

「え、あ……はい?」

思わず聞き返した店員の対応を責める事はできないだろう。
電子媒体が主流になったこのご時世でもなお廃れる事無く生き残り続けている、手に取れる実物を専門に扱う書店。
店員も厳正な審査で選ばれる訳でなく、店主の個人的な繋がりで採用が决定されるような小さな店だ。
ご多分に漏れず、不幸にも今日のこの日に店番を任されていた店員もそんな縁故採用の一人。
店主の娘の友人で、変に化粧っ気も強くなく、ぎこちなくはあるが真面目に応対ができるというだけの極一般的な女学生。
どの本棚にどのジャンルの本があるか案内する程度ならできるし、年齢制限のある性的な書籍を購入する青少年に変な表情を向けない程度の気遣いもできる。
だが、彼女が店主から渡された客への接客マニュアルには、こんな事態への対処法は載せられていなかった。
当然といえば当然の事で、マニュアルに不備があった訳でもなければ、店主の思慮が足りていなかった訳でもない。

店員の少女にも、これが挙動不審な不審者の言葉であればまだしも変質者への対応を行うだけの度胸はあった。
ややマニッシュながらお美しい顔立ちと、機能性に優れつつも凹凸のメリハリの有る身体を持つ少女は、痴漢などへの対応でそういった相手には慣れている。
だが、

「今月のオススメエロ本ください」

(注文が増えた!?)

レジの前に立つ青年は、少し目つきが鋭い事を除けば、不審な所は何一つ無い。
服装もこざっぱりとしたもので、それこそ大学の構内を普通に友人たちと談笑しながら歩いていてもおかしくない風体。
それでいて言葉の内容はともかく、言い方自体は一切の後ろめたさも恥じらいも無い、爽やかさすら感じさせてくる。
まるで、こちらが躊躇い聞き返している事のほうが不自然であるかのように思える程の潔さ。

「え、ええと、こちらが今月の新刊となっておりますが……」

ぎこちない笑みを取り繕い、どうにか対応を再開。
PDAを操作し、成年向け書籍の新刊の一覧を画面に表示する。
販売状況も表示されており、どれが売れ筋で人気があるか、という事までひと目で分かる。
しかし、青年はそんな店員の努力をばっさりと切り捨てた。

「いえ、新刊に限らず既刊含めて、世間の評判ではなく、あくまでも店員さんのオススメでお願いします。あ、ジャンルは黒髪巨乳姉系で」

店員の背筋に冷や汗が伝う。
不味い、聞き返す度に注文が多く、いや、激しくなっている。
そして注文内容だ。
そもそもこの本屋でバイトを初めてから今まで、成人向け書籍や雑誌のジャンルには一切の興味が無かったから、専門的な事はわからない。
だが、『黒髪』で『巨乳』というストレートな単語だけははっきりと理解できる。

(黒髪で、巨乳)

カウンターの中で半歩後ずさる。
身体を庇うように隠さなかったのは最後の一線とでも言うべき店員としての礼儀を守ったからか。
店員である彼女の見た目は、ウェーブの激しいショートの黒髪に、平均値と比べれば間違い無く豊満であると言える胸部。

(え、これ、セクハラ、だよね)

自意識過剰と言うには余りにも直接的に思えてならなかった。
友人同士のコネで採用される個人経営のこの書店は、それほど広いスペースを持っていない。
ましてや成人向けコーナーは、間違って子供が入り込まないような(あるいはこっそり入り込んだ子供の羞恥心を和らげるため)奥まったスペースに纏められている。
小さな店の、更に奥のスペースに纏められるだけの量しか存在しない成人向け──エロ本を、自分で探さずに、探しているジャンルと一致する外見的特徴を持つ店員に探させる。
しかも、オススメ、と来た。
確かに、書籍ではない、成人向け雑誌程度ならば内容も確認できてしまう。
本のオススメを店員に聞く、というのも中々無い話だが、要点はそこではない。

条件をほぼ満たした店員が探す、という事は。
つまり、自分に似た女性達が淫らな行いをしている本を、一冊一冊検分し、探し当てなければならない。
そしてそれは、外からは視線が届かない、店の奥まったスペースで行われる。
何も起きず、無事に(店員である少女の精神的疲労や羞恥心は勘定から外すものとする)この客の注文どおりの品を選び終える事ができるだろうか。

店員の少女は思考する。
自分が品を探している間、この男は何をしているつもりだろうか。
このカウンターの前で突っ立って待っている?
それともやはり、自分の後ろに着いて、店の奥にやって来るのか。
客の姿を隠してプライバシーを守る『18歳未満立ち入り禁止』の文字が入ったカーテンの向こうに。

(やだ、それは、駄目……!)

それはとてもいけない事だ。
人気のない、他の客の目も届かない様な場所に、二人きり。
そんな状況に陥る事を『望んでしまう』なんて、頭がおかしくなったとしか思えない。
安い月刊少女漫画でもあるまいに、今日この日、顔を合わせて数分も経っていない相手に。
それどころか、まともに会話もしていない相手に、こんな事を思うなんて、正気の沙汰じゃない。

「そ、それでは、品物を確認致しますので、少々お待ちください」

内心をひた隠しにしながら、少女はレジを離れ、成人向けコーナーへ向かう。
目を合わせた瞬間、自分の中の何かが溢れてしまいそうで、レジの前にいた男の方を確認することはできない。
だが、

(ああ、来る、来てる。後ろから、ついてきてる)

店内からはいつの間にか他の客がいなくなり、後ろから付いてくる男の足音がはっきりと伝わってくる。
成人向けコーナーを仕切るカーテンをくぐりながら、少女の頭の中はグルグルと自分がカーテンの向こうで何をされるかを、年齢相応の性知識を総動員してシミュレートし──

「こちら、八冊をお買い上げでよろしいでしょうか」

「はい、良いですよ」

──何事も無くレジに戻る事に成功した。
勿論、何事も無いのが当たり前だし、何事もなく無事に戻れた事を喜ぶべきなのだが、店員の少女の心にはもやもやとしたものが残っている。

カーテンを潜り、成人向けコーナーに入った時点で気付いたのだが、背後から着いてきたこの奇妙な男性客の視線は自分には向いていなかった。
注文したジャンルからして、背後から尻を舐め回すような視線で見詰められる程度の事は覚悟していたというのに、それも無い。
かといって、成人向けの本に集中していた訳でもなく、ただオススメするべき本を探して成人向け雑誌などをぺらぺらと捲っている自分をただ眺めているのみ。
それも本当に眺めているだけで、恥ずかしがる姿を見てニヤニヤする訳でもない。
もしかして、この客は天然で恥を知らないだけで、純粋に成人向けの本を欲しがっていただけなのではないかとすら思えた。
店員の少女は、顔には出さずに内心で頭をがっくりと下げて落ち込んだ。
最初の立ち振舞と言動だけで不審者と決めつけて、性犯罪者予備軍であるかのように警戒してしまうなど、余りにも失礼だったのではないか。
後悔したところで、あくまでも自分はこの店のアルバイトの一人。
割引やポイントの割増などが出来るわけもなく、ただただ購入してもらった商品のバーコードを読み取りながら心の中で謝罪するしかない。

「あのー、ちょっといいですか」

「? はい」

無意識の内にうつむき加減になっていた顔を上げ、客の男に顔を向ける。
向けられる、申し訳無さそうな表情。

「オススメしておいて貰ってなんなんですが、まだ自分、その本の内容、知らないじゃないですか」

「……はい、そうです、ね」

何故だろう。
これからこの客が何を言うか、薄々嫌な予感を感じているというのに。
何故か胸が高鳴っている。
客の表情が、言葉を重ねる度に満面の笑みに近づいていく。
それに合わせて胸が高鳴るのは、恐怖か、それとも、何か言葉にしにくい、ふわふわとした、場違いな感情からか。

「だから、タイトルを読み上げて、内容も軽く説明してください。勿論、聞き逃さない様に、大きな声ではっきりと、ね?」

告げられた言葉に、胸の中で何か、これまで固く閉じていた蕾が開くのを感じ、少女は確信する。
──きっと私は、とんでもなく、酷い狂い方をしてしまったんだ。
こんなどうしようもない嫌がらせを受けて、こんな気持ちになるだなんて……。

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

繰り返しになるが、ポ系能力には発動の為のトリガーが存在する。
撫でポなら、撫でる。
ニコポなら、微笑む。
名称とトリガーは基本的にリンクしており、名前さえ知っていれば発動条件を察することは難しい事ではない。

翻って、メカポはどうだろう。
そもそもメカポという名前自体が暫定的な物であるため、名前からトリガーを察することは難しい。
実情を知らない者が聞けば、何らかの脳に作用するメカを使用した擬似ポ能力と思うかもしれない。

現状、俺が知るメカポのトリガーは大きく二つ。
『一定期間、鳴無卓也の事を思考し続けること』
『鳴無卓也の事を深く記憶に刻み込むこと』

実に曖昧な条件だ。
一定期間というが、それは連続で? 累積で? 具体的には何秒、何分、何時間?
深く刻みこむとは言うが、例えばどの程度の深さで刻めばいい?
トリガーがわかっていないのとどれほど差があるというのか。
何も知らないよりはマシ、と思うかも知れないが、それこそ気休め程度でしかない、と、俺は思う。
何しろ対処法だって挙げられる。
イノベイドはそこらの人混みにそれなりの数存在するわけだから、こうだ。

『常に認識阻害を行い、この世界に居る間中は人目を徹底的に避ける』
『常に出会った相手の記憶を消していく』

馬鹿じゃないだろうか、もしくはクソッタレだ。
手間ではないが、それは余りにも不自由だし、根本的な解決には至っていない。
他所の世界でメカポが原因で危機に陥ったとして、この二つの対処法は悪戯に敵を増やすだけだ。
俺が処理できる程度の敵であればいいが、ここで想定する敵は俺の能力を大きく越える難敵のみ。
そう考えれば、この二つの対処法は取る意味が無い。

こういった問題を解決する為には、やはり一つ一つ問題を解決していくのが一番の近道だろう。
連続か累積か、そしてどれほどの長さか、というのは、それこそ新造するイノベイドを使った実験で簡単に割り出す事ができる。
問題があるとすれば、記憶に刻み込む深さなどという曖昧な条件だ。
これはもう、実験記録を重ねて検証するしかない。恐らく、この世界にいる間に調べる事は難しいだろう。
そして、この『印象深さ』という処にさらなる疑問点が浮かび上がる。
それは、『どんな印象でもいいのか』という事だ。

良い印象が深く刻み込まれれば、それこそメカポなどという技能が無くとも人間関係はスムーズに構築されていくだろう。
だが、刻み込まれるのが悪い印象だったなら、どうだろうか。
良い印象と比べてメカポのかかり具合はどうなるのか、そもそも、悪印象でもメカポは発動するのか。

わかりやすいテーマだ。
確認方法が間違いなく悪趣味な方法になるだろうという点も、イノベイド達への対処に痛む頭をリラックスさせてくれるストレス解消法として見れば素晴らしい。
何より、これで『悪印象ならメカポは発動しない』という結論を出す事が出来れば、今後のトリップでの振る舞いも大きく変わってくる。
疑似科学の研究と学習の息抜きとして、MS戦をする程でもないなと感じた時に実験できるのも素晴らしい。

そんな訳で、俺はリボンズに発見された拠点近くにある本屋を実験の舞台として使用する事にした。
もう間も無く引き払うつもりだから、ここで何かやらかしても後腐れがない。
そして何より、電子媒体で配信されていない雑誌などを探したり、手元に実物を残したい教科書や資料を集めるのに少し使っていただけのこの書店、実は一体のイノベイドが常駐している。

大学生という身分と記憶を与えられ人間社会での情報収集に勤しんでいる無自覚型で、OOIに登場したスルー・スルーズと同じ塩基配列モデルを持つ、癖のある黒髪のイノベイド。
胸が大幅に盛られているのは、同じ塩基配列モデルを持つイノベイドと出くわした時、無自覚型としての使命を果たしていないのにイノベイドであるという自覚を取り戻させない為の保険なのだろう。
ここまでボディラインが異なれば、顔が全く同じでも別人に見えてしまうのだろう、たぶん。この世界の感覚はイマイチわからん。

俺が書店のバイト店員をしている彼女に対して行ったのは、直ぐにでも通報したくなるような、客の立場を利用した卑劣で性的な嫌がらせ。
女性店員に向けて男性である俺が成人向けの本を態々所望したり、店員の容姿に合わせたような(実際は姉さんの容姿に合わせているのだが)ジャンルを希望してみたり。
店員直々のオススメを選ばせるという名目で成人向けコーナーに押し込んでみたり、視線避けの魔術の応用で選ばせたかなりエグめのタイトルと内容を復唱させてみたり。
これが元の世界であれば、いや、この世界であったとして、正常な店員であれば、後にバックヤードか家で友人会いてに延々愚痴りたく成るような振る舞いを行なってみせた。
悪印象を刻むことを徹底するのなら、成人コーナーで偶然を装って身体を弄ったり、襲いかかって痛みを伴う一方的な強制合体を敢行したり、というのもありだったのだが、これは実験であると同時にストレス解消のお遊びでもある。俺がしたくない事をするつもりはない。

俺が店員のオススメ(黒髪巨乳ではあるが姉ものではない。品揃えはイマイチのようだ)を抱えて店を出た後、彼女の大学での友人と思しき少女が駆け寄って心配している姿を確認した。
少なくとも、周りから見て心配したくなる程度には悪い印象を与えられた筈だ。
……というか、あれで悪印象を抱かないのであれば、それは相手側の人格が聖人過ぎるだけなので例外としてカウントするべきだろう

そして、そんな地味に深々と悪印象を残すであろう嫌がらせから数日。
再びあの店に脚を運び、店員の状態を確認する事にした。
発動するかは五分五分、発動しても好印象の時よりはメカポの掛かり具合も低く成るだろうと個人的には予測しているのだが、実際どんなもんだろうか。
ここで、いきなり通報されるとか怯えられるとかすれば結果がはっきりする上に対処法も確立するのだが。
そんな事を考えながら、このご時世に自動ではない古めかしいドアを開き、店内に足を踏み入れる。

「あ!」

店の中に入った俺に向けられたのは、先日嫌がらせを行った少女型イノベイドの驚きの声。
トーンが高めだが、これだけではメカポが発動しているのかどうかは判断できない。
次いで、声の先に視線を向け表情を確認する────よりも早く、カウンターから飛び出し、少女が駆け寄ってきた。

「お久しぶりです! ……じゃなくて、いらっしゃいませ!」

頬を僅かに紅潮させた、見間違いも勘違いも一切許されない、満面の笑み。
仮にこれが俺への恐怖なり嫌悪なりを隠した上での作り笑いだとすれば、もう彼女はイノベイドという規格を逸脱していると言っても過言ではないだろう。

「あの、それで、この間のオススメなんですけど、ちょっと、あの時説明し損ねたところがあって。見どころっていうか、使いドコロがわかりにくいかなって思って」

こちらの返事を待たず畳み掛けるように矢継ぎ早に言葉を重ね、その場でスカートを片手で少しつまみ上げ、もう片手で上着を掌で抑え、くるりとその場で一回転してみせる。
奇しくもその服装は、先日オススメして貰った本のメインを張っていた黒髪巨乳のそれと同じもので。
少女はスカートを摘んだ指先をもじもじと遊ばせながら、またしても機関銃のように喋り出した。

「練習したんです! 見どころ、実演して、体験して貰えばわかりやすいかなって思って。あ、違うんですよ!? 変な意味じゃなくて! その、本を見て自分でするくらいなら、私が……ってそうじゃな、違っ、……くは無いんですけど、あの、直ぐ、すぐシフト終わるからその後にうちに来て貰えればオススメのあれよりもっとすごいオススメを体験して貰えるっていうか、ええと、そう! こんな時になんて言えばいいかもちゃんと勉強したんです! うんと、うんと……」

そして、意を決したように顔を上げ、向かいの通りまで聞こえるような大声で、腹の底から叫んだ。

「私を、貴方の恋人(いんらんにくどれい)にして□□□、○○○の▲▲▲を◆◆◆して×××ください!」

……………………

…………

……

(あかん)

―――――――――――――――――――

△月●日(あかん)

『ともかく、悪印象からですらメカポは発動することはよくわかった』
『ヴェーダに登録されていた情報を参照した結果からも、あのイノベイドに被虐願望の類は付加されておらず、性的な言動によるセクハラからああいった結論に至ることは通常在り得ない』
『恐らく、オススメとして購入したのが黒髪巨乳監禁調教レイプからのラブロマ系エロ本であった為、それに合わせてああいった言動を行ったのだろうと推測できる』
『元から設定されている人格に好意の向け方などが強く設定されていればこういう事態には成らなかったと思うと、残念でならない』

『更に確定情報その弐、メカポが発動したが最後、生半可なことでは好感度は下がらない』
『まず、あの後に自宅におじゃまして、おもむろに全身から無数のいやらし薬が分泌され続ける肉触手を生やしてみてもドン引きする事無く受け入れ』
『更に、お前はモルモットだ、これが終わったら珍生物の苗床か解剖した上で標本にしてやる、などとわざとらしく口走りながら、内臓を破壊する勢いで触手責めを行なっても、一方的にラブい空気を飛ばし続けた』
『更に彼女の記憶を読み取り、そこから親しい友人知人をピックアップ、空間転移で攫って彼女と同じ目に合わせたり、野生動物を変異させて作った下級デモニアックに食い殺させて見ても、何故そんな事をするのか悲しげに聞いてくるだけで、こちらに対して憎悪を燃やしたりもしなかった』
『感情や内心を察知する技能や機巧をフルに発動し確認したが、情報の欺瞞は一つたりとも行われていなかったから間違いない』

『どうやらこのメカポなる能力、悪役プレイ貫徹だけで逃れられるような生半可なものではないらしい』
『完全制御への道のりは果てしなく険しそうだ』

追記
『実験後、被験体のイノベイドは記憶を消去した上で解放した』
『触手陵辱でできた痕も肉体の時間を巻き戻したので、俺の痕跡は欠片足りとも残っていない』
『……筈なのだが、経過を確認する為に件の書店に赴いたところ、なにやら記憶が残っているような素振りを見せた』
『ヴェーダや彼女の周囲の人物の記憶から収集した彼女のパーソナリティからして、店に入った瞬間に輝くような笑顔を浮かべ、レジをほっぽり出して子犬の如く駆け寄り「いらっしゃいませ! 今日は何をお探しでしょうか!」などというリアクションは有り得ない』
『仕事に支障が出ない程度に少し話してみると、どうやら俺の姿を見た瞬間に脳裏に何やら覚えのない記憶がフラッシュバックしたらしい』
『このイノベイドの人格傾向がもう少しメルヘンだったりメンヘラだったりしたら、前世系な人になってしまっていた危険性もある』
『恐らくメカポが発動した事により、純愛系の補正が掛かってしまったのだろう』
『やはり制御の効かない能力ほど恐ろしいものはない。早いうちに何とかできればいいのだが、制御ができるようになるまではなるべく記憶に残らないように振る舞うのが一番なのかもしれない』

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

もうかれこれ数ヶ月になるだろうか、リボンズに特定されたアパートを使い続けるのも気持ち悪いので、活動拠点を地上のアパートから宇宙に移した。
巨大ロボの研究ともなれば、狭苦しく周囲の目が煩わしい地球上よりも断然宇宙だろう。
地球からは観測できない位置にある惑星を改造して作り上げた研究用重機動要塞で、誰の目もはばかること無く大量のMSを作ってはデータ採取。
時折地球に転移して戦場で三国のMSを蹴散らして遊んでみたりもする、実に穏やかな日々が続いている。
最近のマイブームは三国それぞれのMSに見える独自性を作ったMSに被せて偽装し『あの国は我々のMSを圧倒する性能を持つ新型の開発に成功したのか!?』みたいな危機感を煽ること。
そしてもう一つ。
第二世代マイスターズのストーキングだ。

「やっぱ振られたかー」

戦場で場を引っ掻き回して遊んだ帰りのこと。
特に深い理由のない武力介入に使用したお手製MSだけを要塞に先に転移させ、地上のファミレスで昼食を取りながらまったりとくつろぎタイム。
エメラルド製の自作タブレット端末で、今現在は地上の拠点で活動中のマイスター達の様子と行動履歴を覗き見る。
タブレットには、男側の告白で成立したカップルの初々しくも何処か互いの深いところを良く理解しているのがわかるイチャつき場面と、そんな二人の発する空気に耐え切れずに基地の反対側にある倉庫にまで引っ込んだ振られ虫。
振られ虫は言い過ぎか、そもそも好意をはっきりと自覚するような段階ですら無かったし、告白する前に勝手にカップルが成立して勝ちの目が無くなっただけの状態を振られたというのは些か語弊がある。
乗りてぇ風に乗り遅れた奴はマヌケというらしいから、しいて表現するなら……そう、ノロマ。
ぶっちゃけ、変異しかけている第二世代マイスター同士ならどの組み合わせでも良かったから、こいつがくっつくならそれでも良かったのだが、世界が定めた運命はこいつにボッチを強いているようだ。
まぁ後に凶悪マジキチテロリストに点描付きで呆気無く落とされちゃうから、良い男を捕まえられない運命を背負っているのかもしれない。
本人に取ってみれば人生レベルでの不運なのだろうが、見ている方からすればメシウマである。
他人の色恋程懐が痛まず面白い娯楽はないと知り合いの女性が言っていたが、その気持も少し分からないでもない。

「あ、すみません、このお皿下げて、チョコパフェお願いします」

「かしこまりました、少々お待ちください」

ウェイトレスさん(間違いなく人間。この周辺にイノベイドが居ないことは確認済みである。こういう時くらいはメカポの事を頭から消しておきたい)に〆のデザートを注文。
デザートが来るのを待ちながら、今後の事を考える。
技術学習のことではなく、CBが──いおりんが行なっているイノベイター化促進実験の事だ。

実験は今も続いており、人間のマイスター三人は順調に人間の規格から外れ始めている。
映像は監視カメラ越しだが、そんなものに頼らずとも彼らの肉体がどうなっているか、俺はこの場に座してチーズハンバーグ定食を突きながら細胞単位で把握することが可能だ。
通常の安全基準を上回るGN粒子は、未だドクターモノレの検査に引っかかる程のものではないが、着実に彼らの肉体を蝕み続けている。
マイスターに次いでGN粒子を浴びる量が多いイアン・ヴァスティは不思議なことに何の変化も無い。
これでこいつもイノベイター亜種になってれば、次世代のサンプルが増えて万々歳だったのだが。
やはりテストなり実戦なりで戦闘中に浴びるGN粒子の量などを計算に入れなければ、普段余分に漏らしている分も安全な濃度でしかないのか。
ソース不明の情報で、イノベイターになる思想、人格的な条件が存在すると聞いたことがあるが、もしかしたらそこら辺も関わっているのかもしれない。

「結婚、とくれば、次は子作りだよなぁ」

Hの次にはI(愛)があり、Iの次に来るのはJ(ジュニア)と相場が決まっている。
あの二人はIが先だろって? さて、閉鎖環境で人員も限られているからなぁ、どうだったかなぁ。
それはそうと、子供だ。
GN粒子を浴び続け、人間から逸脱仕掛けているマイスター同士が種と卵を出しあって製造する、亜種第二世代。
子供はよくも悪くも純粋だ。
思想的な偏りが無い分、もしも親の変異を受け継いだ状態で生まれようものなら、何かの弾みでイノベイターに覚醒してくれる可能性だってある。

そんな可能性の塊である彼らマイスター二人の子供だが、無事に生まれてくる確立はどれほどだろうかと考えてしまう。
原作では何事も無く受胎、出産して僅かな時間とはいえ二人で育てもしただろう。
だが、この世界の二人は原作の二人とは生物的な性能が大きく異なり、それによってメンタリティも僅かながらに変化している可能性も否定出来ない。
とかく、他者の脳量子波を感知するという行為は、脳に関わる部分なだけ、ストレスになりやすいのだ。

「結婚には、何が必要か」

3つの袋なんてのはどうでもいい。
今は何より、彼らの精神状態を可能な限り健やかに保つことが寛容なのである。
俺にできる事であれば、可能な限り手を貸してあげたい。

まず、結婚式を行う場所。
原作では、人革領の外れにある山奥の廃屋で結婚式を行なっていた。
これは流石に変えようがない。下手に痕跡を残してしまえば、そこからマイスター達の事を辿られる危険性が有る。
何より、廃墟で恋人と介添人だけで行う小さな結婚式とか、個人的には好みなシチュエーションだ。
更に言えば、介添人が恋愛面での噛ませ担当であり、その思いを秘めたまま二人を祝福したりするところも好ましい。
何より、そんな小さな幸せを手に入れて数年もしない内にその夫婦が非業の死を遂げる、というのもドラマチックで大変良い。
良く原作介入型オリ主の二次創作などで、原作の流れを何より素晴らしい、尊重すべきものとして扱うタイプのキャラが出てくるが、珍しく彼らに共感できているような気がする。

次に、結婚式に必要なもの。
結婚式に、というよりは、結婚に必要なマストアイテムだから、指輪とドレスだろうか。
これは既にヴェーダの方に対策を取らせてある。
CB内で結婚する夫婦専用という事で、結婚指輪やウェディングドレスのカタログが閲覧できるようになっているのだ。
因みにこのカタログ、第二世代の二人用に用意したものなので、夫婦の片割れが注文を確定した時点でデータ自体が消去されるようになっている。
イノベイターの研究に貢献する新世代を作るわけでもないそんじょそこらの構成員の為にウェディングドレスや指輪を作ってやるほど、俺は趣味人という訳ではない。

そして何より、教会や神父、指輪やドレスよりも、結婚には必要なものがある。

「祝福、だな」

獲得資金が二倍になる。相手は死ぬ。
結婚にはそれが必要だ。

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

第二世代ガンダムの開発が終了して数週間の時が流れ、第二世代マイスター、ガンダム開発チームとも呼べる彼らは暇を持て余していた。
既にソレスタルビーイングのガンダム開発は実際の武力介入に使用される第三世代型ガンダムの設計に移行しており、基礎技術研究の為に開発された第二世代ガンダムに関わる任務は残されていない。
かつてメカニックとして第二世代ガンダムの開発の中心だったルイードも、本職のメカニックであるイアンが来てからは彼に任せきりで、当然の如く第三世代型の設計、開発メンバーからは除外されている。
メカニックとしての側面を持たない他のマイスターも、当然の第三世代に関わる事無く、ひたすらに時間を潰すだけの日々を送っていた。

それは人ならざる身のマイスター874においても変わることは無い。
ガンダム開発に思考を割くのをやめ、比較的優先順位の低い『人間のガンダムマイスター達の観察』だけを延々と続ける平坦な日々。
時折、何故だか閲覧が制限されてしまった『理想』のデータを閲覧する為、未だ閲覧権限の残っている他の人間のマイスター(中でも一番暇そうにしているシャルである事が多い)に頼み込み、稼動時の記録に見入る時もあれど、やるべきことのない、暇な時間である事に変わりはない。
存在意義を果たすための任務も与えられず、しかし無機質な知性であるがゆえに腐る事もなく、死を迎えた命のように停滞し続けるだけの無為な時間。

そんな、意味も価値も無い、平穏なだけのある日。
874は晴れ渡った空に突如現れた雷鎚を見たかのような感覚を得た。

「やあ、お邪魔しているよ」

宇宙のクルンテープに戻るでもなく、地上の基地に待機し続けるマイスター達。
そんな彼らの基地に、ある一人の侵入者が現れた。
基地内部に居る全ての人間に気付かれる事無く、唐突に基地の中、第二世代ガンダムの開発が完了してからめっきり使われなくなった一室に現れた謎の男。

監視カメラ越しに見える身体の肉付きから軍人崩れの様にも見えるが、今時代では珍しい話でもない。
強い脳量子波を発している訳でもない、目つきの鋭い東洋人。
顔つきからして経済特区日本の出身だろうとわかる、何の変哲もない、何処にでも居る一般人。
いつの間に侵入していたかも分からないその男は、我が物顔で空き部屋に置かれた椅子に座り、874が目の代わりにしている監視カメラに向けて手を降っている。

そんな『彼』の姿を見た瞬間に自分の中で起きた現象を、874はどう表現するべきか判断できなかった。
いや、仮に自分にヴェーダを含む世界全てのコンピュータを演算に使用する事ができたとしても、自分の中で生まれた『何か』を表現し切るのは不可能だろう。
少なくとも874にとっては、それだけの強烈で刺激的な体験に感じられていた。

「貴方は、何者ですか」

普段は他のマイスター達やモノレやイアンなどとコミュニケーションを取るために使用されるスピーカーから、874の平坦な声が発せられる。
問う声に震えがないのは、未だデータ上の存在でしか無い874、に出力される音声に精神的な動揺からノイズを走らせるという機能が無かったからに過ぎない。
本来問うべき多くの事、警告などを発さず、短い問いだけで終えてしまうという不備にのみ彼女の動揺を見て取る事ができるだろう。
そして問いながらにして、既に彼女の心とも呼ぶべき部分は、『彼』が何者であるかを理解し、今にも何もかもを擲って平伏さんとしていた。

「ああ、これは失礼。どうにも最近人に名を名乗るような機会が無くてね。昔は飽きるほど自己紹介を繰り返したものだけど」

侵入者はおもむろに椅子から立ち上がり、大仰な素振りで一礼。

「俺の名前は鳴無卓也、駆け出しのトリッパーを……と言ってもわからないか。君達にとって重要な部分だけ分かりやすく言うなら、アイディールの開発者でパイロット、そして、アイディールそのもの、といったところかな」

「! ……貴方が、あの」

肉体さえ手に入れれば人間としての全ての機能を持つ874が、生まれて初めて驚きの声を発した。
イオリア・シュヘンベルグが目標とし、多くのイノベイドが憧れ、崇拝する完全存在。
今は何故かアクセスが制限されているものの、かつて無制限に比較資料を閲覧出来た頃、イノベイドのほぼ全てが暇さえあれば見蕩れていた、原点にして至高の一。

目標とするのも烏滸がましいと思ってしまう程、遥か遠くに存在する絶対者。
高嶺の花、などという言葉で表しきれない程の高みに立つ、天上の果てにある崇拝対象。

かつて、ソレスタルビーイングという組織の名前すら存在してない時代、イオリアに見せ付けたその武力。
イオリアが当時思い描いていた、計画の最終段階のその先にあるガンダムの真の完成形がその場にあったとして、決して届かないだろうと確信したと言われている、その圧倒的な性能。
世界に自らの存在を刻み込む、圧倒的な説得力。

未だ肉体すら与えられず、ガンダムマイスターとして武力介入の任務に従事するかすら決まっていない874にとって、アイディールの記録は直視するだけで目が潰れるかと思う程に輝かしい存在だった。
ヴェーダの中に保存され、肉体すら持たず、電算装置の上で明滅する0と1の電気信号の影である自分には、見上げる事すら難しいと思っていた。
計画の為だけに存在する一構成要素にしか過ぎない自分は、比較対象にすらならない。
その想いは今でも変わっていない。
一部のイノベイドが恥ずかしげもなく掲げる『いつの日かアイディールに追いつける日が来る』などという高望みは、彼女には滑稽に見えていた。
ましてや、『アイディールは僕の嫁、そして婿、いや違うな、むしろ主、いや、そうか、アレは、僕達の、か、神ぃ……!』などと、肉に縛られた欲の対象にするなど以ての外だと思っていた。

「他のマイスター達が居ない時を狙っておいてなんだけど、今日はどうしても君だけと話がしたくてね」

「っ……、はい」

思っていた。
そんな思いは、肉体を得て新人類の紛い物であるイノベイドとして定義されてしまったが為に生まれたノイズだと。
純粋に計画の為に存在する自分には、そんな余分な感情は存在していないと、ほんの数分前までは確信していた。
だというのに。

「なんなりと、お申し付けください」

そんな命令は存在してない。
アイディールが目の前に現れたからといって、従うようなプログラムは組み込まれていない。
以前にアンノウンがソレスタルビーイングの関係者という立ち位置に登録されたのは874の判断ではなく、ヴェーダ直々の指示によるもの。
現状、ヴェーダからは何も指示が来ていない。
874の状況はヴェーダも当然理解している筈なのに、不自然なまでに沈黙を保っている。
冷静に考えるのであれば、侵入者に対する一般的な対応を行うべきだ。
だが、何故だろうか、874は抗う事ができずにいた。

「良かった。この要件だけは、君にしか頼めないからね。協力的で居てくれて嬉しいよ」

身体が在ったのなら震えていただろうか、脚が在ったのなら、膝から力が抜けてへたり込んでいただろうか。
874は今ほど自らがデータ上の存在でしか無い事が有難いと思ったことも、肉体を持っていなかったことを悔しく感じたことも無かった。

『君にしか頼めない』

たったこれだけの言葉で、874は自らのデータが溶け崩れてしまうかと錯覚した。
肉体が在ったならとんだ醜態を晒してしまうところだった。
しかし、肉体が在ったなら、集音マイク越しでなくもっとはっきりとこの声を受け止められたろう。
安堵と後悔という二つの感情。
長い時間を共にした仲間との交流ではなく、会って数分、憧れていたとはいえ、まだ碌に交流のない相手の言葉が、874の心を強く活性化させる。
874本人ですら、自らの中で初めて大きく揺れ動く心──感情を正確には把握しきれていない。
ただ使命を果たす為の存在としてあるなら、ノイズと切って捨てる事もできる感情という新たな機能。
持て余し気味のそれを押し殺しきれず、しかし、874に最初から設定されていた人格傾向が表に出す事を望ませない。
仮に今の心の動きをモニタに映る姿に反映したのなら、874が先の言葉を受けてどのような感情を得たのか、アイディールの主──鳴無卓也には一目で看破されてしまうだろう。

「…………それで、ミッションの内容はどのようなものなのでしょうか」

874はモニタに映す姿を、普段の殆ど感情を働かせていない時のそれに固定し、あえて事務的な口調で話の先を促した。
たっぷり挟んだ沈黙は、堪え切れない期待から。

「ミッションじゃなくて、お願いなんだけど……まぁいいや」

苦笑するアイディールの次の言葉を、固唾を飲んで静かに待つ。
自分にしか、マイスター874という個体にしか頼めない『ミッション(頼み事)』とは何なのか。
『自分だけ』にアイディール────卓也が与える特別なミッション。
他の誰でもない、自分、マイスター874だけの、特別。

「君には、近々行われる事になるルイード・レゾナンスとマレーネ・ブラディ、二人の結婚式に出席して、仲間として祝福を捧げて欲しいんだ」

―――――――――――――――――――

イノベイター亜種で初めての番いとなる、ルイード・レゾナンスとマレーネ・ブラディ。
二人の結婚式に立ち会ったのは、彼らの後輩であるシャル・アクスティカのみ。
もう一人、この時点でガンダムマイスターをしているマイスター874に出席して欲しい。
何だかんだで第二世代ガンダムを開発する中で一緒にやってきた仲なわけだし、祝福されて嬉しくない訳がない。
しかも、この時点ではルイード、マレーネ、シャルの前には姿を表したことがないのだ。
結婚を祝福するために諸々の矜持を曲げて姿を表してくれたとなれば、結婚する二人にとってはこの上ない祝福となるだろう。

あえてマイスター874の目の前に姿を表したのも、それなりに友好的な態度で接したのも、彼女に快く祝福して貰う為だ。
これまでの実験から、メカポの対象になる対象の好意の方向性はある程度こちらの態度で誘導が可能になっていると見ていい。
ああいった形で先導してしまえば、任務として固い状態で結婚式に出るのではなく、友人に頼まれてという形で、それなりに柔らかく自然な祝福をする事が可能になる。

(……というのが、お兄さんの考えなんだろうけど)

なるほど、確かに現状あたし達が、お兄さんが持っているメカポに関する情報から考えれば、悪くない予測と言える。
女心も、完全にわかっているとまでは言わないが、的外れという程でもないだろう。
むしろ、874の意識を女として異性に対する恋愛感情に傾けないように調整しているのは無難だけど悪くない手だとも思う。
だけど、お兄さんは肝心なところがわかっていない。

確かに、マイスター874に対して異性として接するのではなく、しかし友好的に接しようという考えは悪くない。
800系列のイノベイドは838や887を見れば解る通り、最初から女性形にする事を前提として組まれている。
勿論、男性型にすることも難しくはないのだろうが、少なくとも多くの場合、あの塩基配列パターンを持つイノベイドには女性的なパーソナリティが与えられる。
今現在肉体を所持していない874だってその例外ではない。
だから、話がややこしくならないように異性としての付き合いという道を初手で妨害したのだろう。
言ってしまえば、今のマイスター874は憧れの人に告白する前に、憧れの人が友人との会話で『874ちゃんはいい友達だけど、そういう関係じゃないって』と話しているのを聞いた様な状態にある。
いや、密かに想いを寄せていた上司に仕事後に呼び出され、まさかお持ち帰りされてしまうのか、と期待したら、新プロジェクトのメインメンバーとして選ばれた事を告げられたような状態だろうか。
ともかく、今の874は上げに上げた状態で落とされ、軽いショック状態に陥っている。
少なくとも、お兄さんの方から874に女性的な立場を求めない限り、恋愛関係のトラブルを起こすことは無いだろう。

しかし、マイスター874は女である前にイノベイド、いやさ、計画を完遂する為に作られた『道具』なのだ。
確かに、メカポによってお兄さんに向けられる好意の中に、女性としての好意がどうしたって含まれるのは間違いないし仕方が無い。
だが874がイノベイドの人格データ、無機知能である以上、如何に恋愛的な好いた惚れたの感情を発現させようと、その好意の根底には『道具としての意識』が存在している事を忘れてはいけない。
特に、肉体を備えず、電子データとしてしか存在していない状態の874はその傾向が強い筈だ。
肉体を持たず、純粋な無機知能のままガンダムマイスターとして活動を続け、情緒を成長させた874は恐らく、現在活動中の全イノベイドの中で最も『道具としての意識』が強い。
となれば、まず間違いなく『女として男のお兄さんに向ける恋愛感情』に加え『道具として使い手であるお兄さんに向ける期待の混じった好意』が強く意識に現れる。

正直な話、お兄さんが気付けないのも仕方が無い。
鈍感難聴系主人公でなくとも、表情に感情を反映させず、元から口数少ない874の感情を正確に汲み取るのは難しい。
ましてや、『女としての落胆』の奥に隠された『道具としての不安』に気付くことなんて、それこそ邪神全開で文明を弄んでいた頃の大はしゃぎお兄さんでも気付くことはできないだろう。
気付くことができるとしたら、それは自らの基本スタンスを『道具』として定めている、つまりはあたしの様なやつくらいか。

恋愛面での可能性を初手で断ち切り、しかし親しくありたい人間としての立場から、君の友人を祝ってやってくれないか、と頼み込む。
これで874が心から同期の第二世代マイスターの結婚を祝えると思うのなら、それは余りにも残酷過ぎる。

これまで百年以上の時間、お兄さん──連中にとっての『理想(アイディール)』は、はっきりとその姿を表わすこと無く、ソレスタルビーイングの関係者と接触を取ろうともしなかった。
特に理由のない武力介入が三大国家を襲ったりした時は、噂程度にしかデータを残させなかった。
一番派手で目立つ接触にしても、この間のGダガーによる第二世代ガンダム相手のお遊びがいいところか。
そんな状況で、MSに乗るどころか顔を隠しもせず、堂々と874の前に『だけ』姿を現した。
しかも物腰は柔らか、この世界に来てからは殆ど見たことがないレベルでのよそ行きの爽やかな口調。

あの状況、間違いなく、874は期待していた。
自分の前にだけ現れた天上の存在が、自分という道具を使って何かをしてくれると。
マイスター874という道具に有用性を見出して、自分の益になる何かをするのだと。
イオリア・シュヘンベルグの掲げた理想を実現する為、ソレスタルビーイングを回すための歯車として存在している自分を、横から奪い取り自らの道具にしようと動いたのだと。
他人の物だと知りながら、しかし、奪ってでも手に入れたい、使いたい魅力的な道具なのだと、生まれてこの方感じたことのない精神的高揚感を味わっていた筈だ。

そして下された命令(お兄さんはお願いと言っていたけど、間違いなく脳内で命令とかミッションに変換されている)は、と言えば。
『お友達を祝ってあげなさい』
と来た。

874の中で、確かに第二世代マイスターは仲間として認識されているだろう。
少なからぬ親しみを覚えているのも間違いない。
イノベイドにすらなっていない人格データとはいえ、最初から機能として感情は付加されているのだ、長い間共に同じ目的の為に活動した連中に対して仲間意識は嫌でも芽生える。
だが、それでも874には、『マイスター874』という名前の歯車であるという現実が存在する。
第二世代マイスターズという自分達のコミュニティを外から、上から見ている存在が居たと仮定する。
そういった存在からすれば、874も他のマイスターも、同じ箱に詰められた同種の工具の様なものだと、874は無意識レベルでそういった認識を持っている。

……874は自分が他のマイスター、マレーネ・ブラディとルイード・レゾナンスよりも価値で劣るのだと宣告されたと思っている。
同じ道具箱に在る道具を整備する為に使われ、重要な案件では、自分が整備した道具が使われるのだと、そう考えているのだ。
そして、それは厄介な事に、何一つ間違いのない真実でもある。
お兄さんが第二世代マイスターの重要度格付けを行うとしたら、問答無用でマイスター874は最下位に落ち着いてしまう。
GN粒子の影響を受け、変異し続けている貴重なサンプルである人間の第二世代マイスターに比べれば、特に見るべき処もなく替えが効く874の価値は無いに等しい。
今回の結婚式での祝福にしても、無ければ無いでどうにでもなる程度のものであり、874の重要度の低さを変えうるものではない。

替えが効く、有っても無くても構わない、使う必要性もそれほどない。
それは『道具』にとってみれば余りにも惨めで、悲しく、不安を駆り立てる事実だ。
使われない道具、倉庫にしまわれて誇り奪われ埃を被り、錆付き忘れられて朽ち果てるだけの道具。
そんなものに成りたい道具は存在しない。
使われ、役に立ってこそ喜びを得るのが『道具としての意識』なのは、たぶんどこの世界でも変わらない。

じゃあ、自分の重要度の低さに怯える874はどうするか。
まず、与えられた任務を完全に果たし、有用性を示す。
これは最低条件で、その上で、自分の存在価値を高める為に何をしでかすか。
人数の限られたグループの中で、自分の順位を上げるために、最も手っ取り早い方法。
それはとても馬鹿馬鹿しいやり方ではあるけれど、必死に生き足掻こうとする874の頭には妙案に思えてしまうのだろう。

(お兄さんに伝えるべきかな)

お姉さんの施した封印のお陰で、気軽に表に出ることはできない。
しかしそれでも、お兄さんの携帯や脳に単純な文字列によってメッセージを送ることくらいは自主的に可能だ。
事前に伝えておけば、不測の事態を回避する事もできる。

(でも、あたしが助言してばっか、ってもね)

この封印、閉じ込められてまともに動けないというのは不便ではあるけど、不満ではない。
お兄さんのさらなる成長を促すのであれば、あたしは積極的に口を出さず、お兄さんの脳味噌だけで考えて行動するべきだ。
少なくとも今回は、お兄さんが自分で考え、その中であたしに意見を求めたら答える、程度の感覚で居ればいい。
お兄さんの隣に居るのも楽しいけれど、今回ばかりはお兄さんの成長を優先して、道具としての役目を全うするとしよう。

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

ルイードとマレーネが結婚する。
一つの恋を実らせるよりも自覚するよりも早く終わらせ、精神的に一つ大人になった(少なくとも本人はそう思う事にしている)シャル・アクスティカがそれを知ったのは、結婚式の直前になってからだった。
出会って直ぐの頃は女心の一つも分からなかったメカニックバカだったルイードは、意外な事に結婚において女性が重要視する指輪とドレスに関しては完璧な備えを行なっていた。
なんでも、マレーネと付き合いだして暫くしてから、物は試しとヴェーダに申請してみたところ、外の組織に脚の付かない、独自の経路から入手可能なカタログを提示してくれたらしい。
マレーネは口では必要ないと言いながら、貰えば嬉しく思ってくれるだろうから、とのノロケを聞いた時には、これが本当にあの鈍感だったルイードかと疑ったものだ。

そんなルイードだったが、多少察しが良くなっても根本的な部分は変わっていなかった。
指輪とウェディングドレスを用意していたにも関わらず、結婚式を挙げる場所を用意するのを忘れていたのだ。
忘れていた、というよりも、地上で使っている基地の一室を少し改装して使えばいいんじゃないか、と思っていたらしい。
勿論、現代の結婚式ではそういう形式のものも存在しているし、決して一概に悪いとは言えないのだが。

(それでも、女の子にとっては一生の思い出になるんだもの)

相変わらず拘束され、趣味らしい趣味も無いように見えるマレーネといえども、そういう処は普通の女の子とそうは変わらない。少なくともシャルにはそう思えた。
それに、別にルイード一人で結婚式に関して全て決めてしまう必要もない。
マレーネに対してはサプライズということで教えないのは仕方がないにしても、仲間であり、ガンダム開発を通してそれなりに付き合いもある自分達に相談してくれないのは、少し寂しい。
色々と思うところが無いわけでもないが、それでもシャル・アクスティカは仲間を大切に思っている。
大好きな二人のために自分が何かできれば、それを嬉しいと思いもするのだ。

そんな諸々の理屈は口には出さず、もう少し場所もロマンチックにした方がいいとルイードにゴリ押しし、結婚式は基地の外で行われる事になった。
勿論、そのまま基地から出て直ぐの場所で結婚式を行う訳ではない。
使うのは、シャルがミッションの遂行中に見つけた、とっておきの秘密の場所。

人革連領の外れにある、殆ど人の訪れる事のない山の中の廃村。
人の手が入らなくなった今では、多くの建物は草木に侵食されて、完全に自然の一部として取り込まれてしまっている。
そんな緑から少し離れた処に、まったく違う色を見せる場所があった。

そこに広がる色は、桜。
並び立つ無数の桜の木は満開に咲き乱れ、僅かに枝を揺らす心地の良い風が花びらを飛ばし、辺りの空間を桜色に染め上げていた。

空は青く晴れ渡り、日差しが暖かく照らしている。
完成された一枚の絵のような、理想的な光景だ。
世の争い事とはまるで縁のない、穏やかな世界。
人と人の争いの中に身を置き生きるガンダムマイスターには最も縁遠く、しかし、そんな彼らを祝福するのに、これほど適した場所はないだろう。

桜の向こうに、小さな教会が立っている。
壁も屋根も経年劣化で崩れてはいるものの、奇跡的に植物の侵食が少ない。
シンボルである十字架こそ無いが、一目で教会であると解るだろう。
崩れた壁からは桜色の景色が覗き、割れた天上からは暖かな光が天使の梯子のように差し込んでいる。

その教会の中、二人の男女が向かい合って並んでいた。
ルイード・レゾナンスとマレーネ・ブラディ。
今日この日、二人のガンダムマイスターが結ばれる。
本当の名を捨て、理想を求める戦士となった彼と彼女が、再び人としての真っ当な幸せを手に入れる。

そして、この場に居るのは彼らだけではない。
二人の幸せを祝福するために、彼らと親しい友人たちも訪れている。
流石に組織と関係の無い、二人が名を変える前の友人知人や家族を呼ぶことはできなかった。
それでも、彼等の結婚を祝福する者達が、二人。

「マレーネさん、綺麗ですね……」

目を細め、純白のウエディングドレスを身に纏ったマレーネを見詰めるシャル。
シャルもマレーネのウエディングドレスの着付けを手伝いはした。
しかし、こうしてルイードと並び立つ姿は、シャルの目にはより一層美しく写った。
余計な装飾の少ない、マレーネの普段の態度のように素っ気ない印象を見せるウエディングドレス。
しかし割れた天上から差し込む光が、ドレスの随所に施された、微かに輝く糸で編まれた花の刺繍を浮かび上がらせる。
光と暖かさに当てられて初めて、穏やかな優しい部分が垣間見える処は、まさしくマレーネの人となりを表しているように思えた。

「はい、とても綺麗だと思います」

固く、しかし、何処か優しげな口調で同意する声。
マイスター874が、シャルの隣に立っていた。
マレーネの着付けを行ったのは主に彼女である為、感動も大きいのか。
普段は事務的な事しか喋らない彼女が見せる少女らしい一面に、そして、二人の結婚式に姿を見せてくれた彼女の友誼に、シャルは大きな喜びを感じていた。

「ありがとう、874。来てくれて」

それは頑ななまでに直接的な対面を拒んでいた彼女が、仲間の結婚を祝う為に姿を見せてくれた事に対してだけではない。
結婚式を開こうと思ったのがルイードで、この場所を使おうと提案したのはシャルだったが、この結婚式が無事に行えるのは874の力によるところも大きい。
結婚式を開くための外出許可を申請したのも彼女なら、この場所に来るために小型飛行艇を操縦したのも彼女であり、届いたウエディングドレスの着付けを行ったのも彼女だ。
特にウエディングドレスの着付けに関しては見事なもので、まるで事前にどういうドレスが届くかを知っており、着付けの方法も詳しく説明を受けていたかのようですらあった。

「いいえ、マイスター同士の人間関係が円滑になることは、推奨されるべきことですから。それに」

「それに?」

「結婚には、祝福が必要との事ですので。その一助になれれば幸いです」

たぶん874は、こういった場所で、こういった言葉を交わすことに慣れていないのだ。
874の硬い言葉選びのセンスに、シャルはクスリと笑みを零した。

―――――――――――――――――――

ソレスタルビーイングは秘密組織であり、その秘密組織の一員であるガンダムマイスター達は、その行動を大きく制限される。
外部の人間との接触は基本的には厳禁だし、任務外での外出も基本的には許可されない。
だからこそ、今回の様に、マイスター同士の結婚式を挙げるため、という理由での外出申請が受理されたのは異例の事だ。

「まったく、アンタは少し、ロマンティスト過ぎやしないかい?」

口にしながら、マレーネは自分が浮かべているのが苦笑ではなく、照れを多く含んだはにかみである事を自覚していた。
愛の告白をされただけでも上等だったというのに、態々ウエディングドレスまで用意して、こんな場所にまで来て結婚式を挙げる事になるとは思ってもみなかったのだ。
正直なところを言えば、正面切って告白されるまで、ルイードの事をそこまで強く意識したことは殆ど無い。
時折無自覚に口にする口説き文句の様な言葉に恥ずかしくなることはあっても、それを受けてルイードに好意を抱くことはなかった。
原因はルイードではなく、自分に在ったのだろう。
重犯罪人で、ガンダムを動かすためだけの部品である自分を意識していただけに、誰かに好意を向けたり向けられたりということを、無意識の内に否定してしまっていたのだろう。

だから、こういう気持ちの逃げ場を塞いだ状況は恥ずかしくもあるが、嬉しくもある。
目を背けることも話を逸らすこともできないルイードの真っ直ぐな感情表現は、嬉しさと同じくらいに羞恥心を煽るが、誤魔化せない、誤魔化す必要のない嬉しさが湧き出してくる。
そして、思う。
こんな自分に真正面から好意を向けてくれるのは、こいつを置いて他に居ないだろう、と。

「そうでもないよ。でも、こんな時くらい、きっちりしておきたいと思ったんだ。オレにとっては大事な事だから」

(真面目な顔をしてれば、結構いい男じゃないか)

そんな事は、たぶんずっと前から知っていた。
しかし、気恥ずかしさからついそんな軽口が頭に浮かぶ。
普段の軽い所を知っているだけに、こんな真剣な表情を向けられては調子が狂ってしまう。
いっそこの軽口を口に、出して空気を変えてしまおうか。
照れから僅かに俯きながらそんな事を考えていると、ルイードの手がマレーネの首に触れた。

「!」

驚きから身を震わせる。
マレーネの首には、ソレスタルビーイングに入った頃から首輪が嵌められている。
情に流されやすいマレーネがソレスタルビーイングに対して不利益になる行動を取らないよう嵌められた、裏切り防止の首輪だ。
その首輪にはいざというときにマレーネを始末するため、首の動脈を吹き飛ばせる程度の爆薬と起爆装置が搭載されている。
それは勿論手で触れた程度で爆発するようなものでもないが、万が一の事を考えれば気安く触れて良いものでもない。
マレーネは反射的にルイードの手を首から遠ざけようと身を引き、

「……えっ」

マレーネの口から声が漏れた。
ルイードの手に、首輪が残されている。
マレーネの首に嵌められていた首輪が、ルイードの手によって音もなく外されたのだ。
勿論、この首輪はそう簡単に外せるものではない。
外すには、ガンダムマイスターになる条件として首輪を付ける事を義務付けたヴェーダの承認が必要になる。

「ヴェーダには許可を取った。これで、君を縛る物は存在しない。君は、自由だ」

ヴェーダは感情を持たない。
一部例外を除き、その機能は計画を完遂させるためだけに使用され、愛や恋の為に組織を危険に晒すことはない。
マレーネがソレスタルビーイングの目指す新人類として覚醒しつつあるとしても、決して無条件で首輪から解放される事はない。
故に、首輪を外すにあたって、一つの条件があった。

マレーネを、ガンダムマイスターから外す。
それだけを条件に、ルイードはマレーネの首輪を外す許可をヴェーダに取り付けたのだ。

「勝手な事を……マイスターじゃなくなった私にどんな価値があるっていうんだい」

マレーネは、嬉しさと同時に反発も抱いていた。
裏に企業の思惑が在ったとしても、殺人を犯したという罪を受け入れ、罪人として処刑を受け入れたのも自分の意思なら、世界を変えるために自らをガンダムのパーツとして定義し、裏切り防止の首輪を受け入れ、鉄格子の中で生き長らえ続ける事を選んだのも自分の意思だ。
ガンダムのパーツとしての人生もまた、マレーネが自分の意思で決めた生き方だった。
例え自分の事を好いてくれる、自分から見ても好ましい相手であっても、他人に自分の生き方を勝手に決められたくは無い。
だが、それがルイードの不器用な優しさである事も理解できた。
理解し、しょうがない奴だと受け入れてしまう程度には、ルイードに対する好感は深まっている。

「勝手をしてすまない。これはたぶん、オレの我儘だ。キミには、キミとして、マレーネとして生きて欲しい。マイスターに戻りたいなら、それもキミの自由。まずは自由な一人の人間になる」

ルイードはマレーネに近づき、左手を掴んだ。
ウエディングドレスの白い手袋に包まれた左手、その薬指に、ルイードの手が、小さな宝石のあしらわれた指輪を嵌める。

「首輪を外して、指輪を嵌めた。けど、オレはキミを縛るんじゃなくて────キミと、繋がっていたい。自由な、一人の人間になった君と、いつまでも」

ルイードは、真剣な表情でマレーネを見つめている。

「断るのも受けるのも、キミの自由だ。そして、何者にも縛られない、自由なキミに頼む。オレと結婚して欲しい」

マレーネは、言葉に詰まっていた。
既に自分とルイードは男女の仲で、これが結婚式である事も理解していた。
既に答えは決まっていたし、それを今日、この場所で伝え合う、簡単なことだと思っていたのに。

考えていた言葉の代わりに、涙が溢れ出した。
頬を伝う涙は、マレーネの心であり、答えそのもの。
偽りや誤魔化しは、もう口にできない。

溢れる涙につられて閊えそうになるのを堪え、目の前の男を、ルイードを見据える。
これから共に、一生を過ごしていくと決めた相手に向けて、涙を流したままの満面の笑みで、はっきりと、答えを返す。
縛られるのではなく、縛るのでもない。
互いに互いを捧げ合い、結びつける誓の言葉。

「はい、私のルイード」

答えと共に、ルイードはマレーネを、マレーネはルイードを、示し合わせたように抱き合った。

―――――――――――――――――――

風が吹き、舞い散る桜の花びらがルイードとマレーネを包み込む。
抱きしめ合う二人の男女と、それを祝福するかのような風と花。
その光景はただ美しく、しかし、見つめるシャルの胸に侘しさや寂しさが去来する。
何故、そんな気持ちになってしまうのか。
それは舞い散る桜の様に、自分の心の中だけで、美しい何かが形も持たずに散っていった事を思い出してしまったからか。
不愉快さは無かった。
この侘しさも寂しさも、空に吸い込まれていく花びらの様に消えていき、清々しさだけが残ると知っているから。

目の前の眩しすぎる光景から目を逸らし、共に並ぶ友人に目を向ける。
874の視線はルイードとマレーネに釘付けにされ、顔には見たこともない様な表情が浮かんでいた。
口を開け、呆けるような、羨むような、憧れの眼差しで二人を見つめている。

「……874?」

驚きの余り、シャルは確かめるように、恐る恐る874の名を呼ぶ。
モニタ越しでしか接したことのない874の感情は読み取り辛く、表情も平坦な無感情なものしか見たことが無いシャルにとって、874がそんな分り易い表情をするのが信じられなかった。
たっぷり十数秒の間を置いて、874がゆっくりと言葉を紡いだ。

「マレーネは、ルイードの『一番大切な存在』になったのですね」

「うん」

胸にチクリと棘が刺さる様な痛みを感じながら頷く。

「私も…………何時か、一番になれるでしょうか」

「うん……………………え?」

思わぬ言葉に反射的に疑問符で返してしまう。
意外過ぎる問いだ。恋愛どころか友情や親交とも縁の薄い彼女が、まさかそんな事を思うだなんて。
いや、それこそ、そんな事を考えてしまうような相手が出来たという事だろうか。
だとすればそれは誰なのか、ソレスタルビーイングの仲間の誰か?
もしかしたら今日の二人を見て、組織に入る前の想い人の事を思い出してしまったのか。
シャルは一瞬にして喉から飛び出そうになった無数の疑問を、874の直向き過ぎる羨望の眼差しを受け、飲み込む。

誰にだって言えない事はある。
自分の中の、はっきりと生まれることの出来なかった想いも、きっとそういうものだ。
874がそういう感情を秘めていたとして、誰がそれを責めることが出来るだろう。
ましてや、あの眼差しを見た上で、それでも尚深く踏み込んで追求する事など。
きっと、874も自分の思いを形にすることを望んでいない。
だから今は、一緒に仲間の門出を喜ぶ事にしよう。

自らの思考をそう纏めたシャルは、再びルイードとマレーネへと視線を戻した。
────故に、彼女はやはり気付けない。
羨望の眼差しの奥に淀む、嫉妬の感情に。
爪が掌に刺さるほど、血が失せて白くなるほどに握りしめられた、874の小さな拳に。
何もかもが変わろうとする世界の中、シャル・アクスティカは一人変わらず、気付くことが出来なかった。

―――――――――――――――――――

×月∴日(野菜に歌を聴かせるように)

『後に摘み取る、搾取する事が確定している相手に優しくする行為は珍しい事ではない』
『家畜だって一部の特殊な素材などを作るのでなければ、可能な限りストレスを廃した環境で育成される』
『何処ぞの白い孵卵器とはモノが違う。作物には優しく丁寧な対応を心がける』
『これぞ真の高効率というもの』

『原作よりも整った条件での結婚式は、今後の彼等の男女の付き合いを更に円滑にするだろう』
『俺とて、伊達や酔狂で一部の種族からブライダルプランナーを司る邪神として扱われていた訳ではない』
『流石に原作登場キャラが増えるような子沢山展開は無いにしろ、少なくとも二人が何らかの原因で死ぬまでの間に子供が作られない、という事は有り得ないだろう』

『さて、残念と言えばいいのかどうなのか、彼等は結婚式を挙げた時点では性的交合はあれど妊娠はしていないようで、新しいサンプルを仕込むのはこれからという事になるらしい』
『今現在、彼等の状態は平常だが、もし仮に次の瞬間CM開け、唐突に創聖合体でバロムクロスし、直接的な単語を選んで言えば着床させたとして、あと最低でも十月十日は安全を確保する必要がある訳だが』
『これに関しては問題ないだろう。流石の女傑と言えど、子を孕んだ状態でガンダムに乗り込むなどという真似はすまい』
『万が一の事を考えて、彼等の索敵範囲内にMSが入れないように誘導するのも有りか』
『たかが人間の二人や三人程度、安全を確保するのは全く容易い』

『問題になるのは、その後。子供──GN粒子による変異実験の新しいサンプルが生まれてからの彼等の処遇だ』
『生かしておいてもそれなりのデータは手に入るし、死ぬ場合でも状況次第では良いデータが手に入る。その為の仕込みも済んでいる』
『生かしておくべきか、死なせてみるべきか、それが問題だ』
『……まぁ、子供が生まれた時点で彼等の役目は九割終わったも同然だし、運を天に任せるのが一番なのかもしれないが』
『結論を出すのは少し先、彼等の子供が生まれてからでも遅くはないだろう』

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

ルイードとマレーネの結婚式から数年後。
当時は設計中であった第三世代ガンダムも、既に最終組立が行われていた。
当時は技術実証の為の実験機である第二世代が稼働していたのが、今では正式に実戦投入される──武力介入に使用される第三世代が完成する寸前にまで来ている。
それだけの時間が経過しただけはあり、限られた短い時間を生きる人間には、より多くの変化が起こっていた。
正式に(戸籍は抹消されている為、法的な根拠は存在しないが)結婚したルイードとマレーネの間には、二人の愛の結晶である子供が生まれた。

現役のガンダムマイスターと、マイスターから外され予備マイスターとして登録されているルイードとマレーネの間に生まれたその子供は、生まれながらにしてソレスタルビーイングに属する事になった。
何の変哲もない、まだどんな才能があるかも分からないような小さな赤子。
組織内部での名を、フェルト・グレイスという。
ルイードとマレーネ、そしてシャルが話し合って付けた名前だ。
本名を知るものは更に少ない、そして、今暫くは組織の一員としての名前だけを使い続ける事になるだろう。

ソレスタルビーイングの一員として生まれ、基本的にソレスタルビーイングの保有する養護施設で育てられるが、彼女はソレスタルビーイングの構成員として活動するための教育を受けている訳ではない。
ソレスタルビーイングは確かに国家や法とは関わりのない組織だが、まだ確固たる自分の意志も思想も持たない子供を、組織に合わせるように教育して都合のいい少年兵を作る事もない。
生まれが生まれだけに、そして、最初からソレスタルビーイングという組織の存在を知っているが故にそれなりの思想の偏りは生まれるだろうが、彼女は一般的な教育を受け、多少の制限はあれど、将来どうするかは自分の意志で自由に決めることが出来る。
もっとも、未だ生まれて間もない彼女にとって、思想や教育が問題に成るのはまだまだ先の話になるのだが。

現在、フェルト・グレイスは無垢な赤子として、母親であるマレーネ・ブラディやその同僚であるシャル・アクスティカの愛を一身に受け、穏やかな日々を過ごしている。
父親であるルイードはというと、実のところを言えば、あまりフェルトに会っていない。
担当であった第二世代ガンダムの開発が終了し、第三世代ガンダムの開発が行われている今、引退し予備マイスターとなったマレーネは、ソレスタルビーイングの一員として行うべき任務を持たない。
しかし、ガンダムマイスターであると同時にメカニックでもあるルイードは違う。
マイスターとしての役目がなくとも、製造中の第三世代ガンダムを完成させるため、メカニックとしてイアンとともにファクトリーに詰め、昼も夜も無く第三世代ガンダムの開発に従事している。

「まぁ、男のオレが居ても子育てに役立てるとは思えないしな」

とはルイードの言い訳だ。

「それに、フェルトには二人も母親が居るんだ。オレの出る幕はないさ」

「確かにね、アンタより、シャルの方がよっぽどフェルトの親らしいよ」

方を竦めながら自嘲気味に言うルイードに、笑いながら返すマレーネ。
シャルは自分を家族として扱ってくれるマレーネにどう返答すれば良いか分からず、こんなやり取りがあった時は決まって曖昧な笑みでお茶を濁すしかない。
返答には困ったが、ごく自然に自分を家族として扱う二人に、組織に入る時に別れた家族の温かさを思い出しもした。

子育てから逃げるような発言をしているルイードだが、それでも暇さえできればこまめにフェルトの元に顔を出し、マレーネと共に家族の団欒を作ろうとしてもいた。
不思議な事だが、稀にしか顔を出せないルイードを、赤子であるフェルトはしっかりと自らの父親であると認識し、抱き上げられ、話しかけられる度に嬉しそうに笑う。

「今度のガンダムは凄いぞ~」

まだ赤子のフェルトには到底理解できないようなガンダムの話を嬉々として聴かせるルイードと、興味深げに聞き入るフェルト、それを穏やかな表情で見つめるマレーネ。
傍から見ていて、少し変わったところもあるが、理想的な家族の姿に見えた。
あの三人には、目に見えない不思議な繋がりが、絆があるのだろう。

シャルにはそれが羨ましかった。家族として認識されていても、夫婦の絆、親子の絆という物を今の自分は持っていない。
ルイードはマレーネを見つけ、マレーネはルイードを見つけ、二人の間にはフェルトが生まれ、フェルトには仲睦まじい両親が居た。
結婚式が行われたあの日、マイスター874が言っていた言葉を思い出す。
自分は何時か、誰かの一番に成れるだろうか。

何時の事だったか、シャルはマレーネから、ガンダムマイスターを辞めるように勧められていた。
第二世代ガンダムのマイスターとしてスカウトされたシャルは、継続する意思が無ければ第三世代ガンダムのマイスターになる必要はない。
操縦技術を買われてのスカウトではあったが、実際に武力介入を行うマイスターは、それに見合うだけの肉体的、精神的なタフさを備えているのが望ましい。
少なからずガンダムを操縦することに関して経験があるシャルとはいえ、第三世代ガンダムのマイスターにふさわしい適性を持っている訳ではない。
そんな事はシャル自身が一番良く理解している。

それでもシャルがマイスターを続けようと思ったのは、組織人としての使命感ではない。
同じくマイスターを続ける事を希望するルイードを、戦場に出るべきでない『母』という立場になったマレーネに代わり、隣で同じガンダムマイスターとして守ろうと決意したからに他ならない。
そして、そんなシャルの思いは、マレーネにはお見通しだった。
マレーネはシャルを、自らの元から巣立つ子供にそうするように強く抱きしめ、こんな事を言った。

「シャル、アンタはアンタの道を進むんだ。ルイードや私や、フェルトの為に戦ったりしちゃダメだよ。それは間違ってるんだ。私たちは、シャルが優しい娘だって知ってる。アンタは、戦いじゃない、違う生き方を見つけるんだ」

自分を抱きしめるマレーネの言葉に、シャルは答えを返すことが出来なかった。
マレーネの言葉が十分に理解できた、いや、既に自覚できていたからだろうか。
痛いほどの正論に言葉どころか声も出せなかった。

マレーネの言う自分の『優しさ』とは、ガンダムマイスターとして、ソレスタルビーイングとして見た場合の『弱さ』だ。
今の自分は既に、ガンダムマイスターになった頃に抱いていた思いを抱けていない。
紛争根絶を言い訳に、大切な仲間たちを、家族を守ろうとしているだけ。
ガンダムマイスターの皮を被った唯の少女に過ぎない。
仮に武力介入を行ったとして、自分の振るう武力は紛争を根絶する為のものではなく、ただ仲間に害を与える敵を殺すためだけに振るわれる凶器になっているだろう。

それでは駄目なのだ。
それは、ソレスタルビーイングの意思ではない。ガンダムマイスターの使命でもない。
そんな形で振るわれる力は、決して皆で作り上げたガンダムではない。
ガンダムであっていい筈がない。
何時か辿り着く紛争のない未来、その為に捨ててきた、捨てられてきた者達の為に、そこだけは履き違えてはいけない。

ガンダムの話ばかりするが、それを差し引いて考えればルイードは娘であるフェルトの前では唯の親馬鹿だった。
だが、フェルトの為にガンダムマイスターとしての時間を削ることは決して無い。
第三世代ガンダムの開発、武力介入に向けての操縦訓練、シミュレーション、ガンダムから離れての任務に対応するための様々なトレーニング。
マイスターとして必要な仕事をこなした後に、残った時間を全てフェルトに注ぎ込んでいるだけで、マイスターとしての自分を疎かにしていない。
娘を大事にしていない訳ではない。
ただ、妻の夫である前に、娘の父である前に、ルイードはガンダムマイスターであることを選んでいる。
その姿だけで、ルイードの並々ならぬ覚悟をシャルに理解させるには十分だった。

子であるフェルトを抱くその腕が、その手が、ガンダムを操り、戦場でトリガーを引き、人を殺す。
子を抱くその手を血に染め、同じように子を愛する親を、親を愛する子の命を摘み取って行く。
そして何時か、武力介入という戦いの中で、自らの命をも失ってしまう。
何時まで家族の笑顔を見ていられるか、何時まで家族に笑顔を見せる事ができるか、何時まで子に、妻に、愛を注ぐ事ができるか。
決定的な終わりの時、それが何時かは分からない。
しかし、確実に来るその『何時か』に、彼はルイード・レゾナンスとしての全てを失うだろう。

それが分かっていながら、ルイードはソレスタルビーイングの一員として、ガンダムマイスターであり続けている。
紛争根絶のため、人類全体の幸福のために、自らの全てを捧げようとしている。
だからこそ、武力介入が始まる前、ガンダムマイスターである必要がない僅かな時間を、全て家族と共に平和に暮らそうとしているのだ。

(凄いな、ルイードは)

シャルには、そこまでの覚悟は無かった。
ガンダムマイスターになったばかりの頃はともかく、既にシャルの中には『私たち』という括りが生まれている。
その小さなコミュニティが幸せであれば、世界全体の幸福を心から願い全てを捧げるなんて、今の自分にはとても出来そうに無い。

理解は出来た。ルイードの願いは、強度こそ違えど、かつての自分が確かに抱いていた願いだから。
だからこそ、隔たりを、距離を感じた。
そこまでの覚悟を持ったルイードと、それを通じ合いながら受け入れているマレーネ。
自分の幸せは彼等と共にありながら、既に彼等は自分とかけ離れた場所に立っている。

ルイードとマレーネ、フェルトから、家族の温かさを思い出し、同時に、寂しさと悲しさを覚えた。
自分と彼らが同じ場所に立ち、同じ温かさを享受している今は、奇跡のような時間なのだ。
決して長く続くものではない。何時か、別々の道に分かたれる時が来る。
それでも、それでも今だけは、

(この平和な時間が、永遠に続けばいいのに)

そう願わずには居られなかった。

……だが、シャルの願いは天に届かない。
僅か数日の後に起きたとある事件がマイスター達の平和にピリオドを打ち、そして、彼等は永遠の別れを迎える。

―――――――――――――――――――

◎月●日(ルイードが死んだ!)

『この人でなし!』
『あとついでにマレーネも死んだ。貴重な母体だったんだけどなぁ』
『どちらがおまけとかついでなのかは議論の余地が在ると思うが、それほど重要な事ではない』
『死因は原作と変わりなく、人革連の保有する軌道エレベータへのテロを防ぐための武力介入中の事故死』
『コアファイターが離脱できなくなったガンダムプルトーネからシャルを助けるために近付き、そのままGNコンデンサの爆発に巻き込まれてのGN粒子中毒』
『彼等の死亡状況、死後の肉体状況は、彼等の結婚指輪に仕込んだ観測機によってこちらに余さず届いている』
『圧縮されたGN粒子の持つ毒性、進化途中の人体が浴びた場合に齎される変化は、後の研究に大いに役立つ事になるだろう』

『一つ、問題が在る』
『問題と言っても別に「え、なんで一番資料的価値の少ないシャルさん生きてんですか?」と言いたいわけではない』
『この事故が、ガンダムマイスターにイノベイドを推そうとしているビサイド・ペインの仕業である事は知っていたので、とりあえず奴のヴェーダへのアクセス権を剥奪しておいたのだ』
『とりあえず目に見える変異が彼等に現れるまで生かしておこうという思いつきでやった事なのだが……計画が狂った』

『この事件、原作とは異なる犯人が居る』
『計画の首謀者、一体何者なんだ……』
『面白そうなので、暫く放置しておくとしよう、そうしよう』

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

人革領、軌道エレベータ付近の空を、閃光が覆い尽くす。
この時代の殆どの人間が存在すら知らない、GN粒子の生み出す光だ。
大量に放出されたGN粒子が周囲のMSを、GN粒子技術非対応のセンサーを狂わせ、一時的にその場から機械的な視覚を奪う。
ソレスタルビーイング以外には一切の記録も残らない、空を覆う光の渦。
その渦の中から、一つの戦闘機が現れる。
機体の一部を損傷した、ガンダムプルトーネのコアファイターだ。
コアファイターは、内部のマイスターが操縦不能な状態であることを確認すると、予め決められていた脱出コースを自動的に進んでいく。

空を行くコアファイターを、一対の視線が地上から見上げている。
地上から戦場のデータ収集を行い、実際にミッションを行なっていたガンダム達のサポートを行なっていた、ガンダムサダルスード。

「コアファイターの脱出を確認。」

そのコックピットの中で、一人の少女が無感情に、ヴェーダに情報を上げるため、淡々とデータを収集し、状況を確認していく。

「テロリストのヘリオン部隊および人革連部隊の機体は、GN粒子の影響により全て停止。テロ阻止ミッションの遂行を確認」

データ収集を続ける874の目の前で、GN粒子による光の渦は消えようとしていた。
放出されたGN粒子が完全に崩壊し、ありふれたフォトンへと変換され大気へと溶けていく。
874はサダルスードの強化されたセンサーを光の渦の中心だった場所、ガンダムプルトーネが居た場所へと向けた。

「ガンダムアストレア、ガンダムアブルホール、ガンダムプルトーネを確認。機体に大きな損傷は見られず」

淡々とデータを収集し、ヴェーダへと報告を続ける。
その口元を僅かに歪ませ、声のトーンすら無意識の内に変え、目の前の事実を確認する。

「ガンダムアストレア、ガンダムアブルホール、両機共にマイスターの生命反応、無し」

詰まること無く言い切り、874は顔を歪める。
口の端を釣り上げた、慣れていない、歪な笑み。

そう、二人のガンダムマイスター、ルイード・レゾナンスとマレーネ・ブラディは、今日この時、その生を終えた。
全て『マイスター874の予定通りに』事が運んだ結果、二つの命は死を向かえ、この世から消え失せたのだ。

「ふ、ふふ」

コックピットの中、874は自らの『イノベイドの規格から外れた身体』を抱きしめ、声を上げて笑う。
何もかもが、874に都合よく事が運んだ。
都合よく『ルイードとマレーネを始末できる』材料の揃った『874の権限で手を加えられる細工で事故を起こせる』ミッションを『シャルが提案してくれた』
そして、事態は874の頭の中の絵図面の通りに運び、思い描いていた通りの結果に収束した。

ヴェーダが気付いていない訳がない。
しかし、プルトーネの操縦系統に手を加えた自分が、処罰を受けていない。
もしもこの行いがヴェーダにとって不都合な、計画の妨げになる様なものであれば、実行した時点で何らかの処分を受け、細工をする事も出来なかった筈。
874は、賭けに勝ったのだ。
『自らの存在意義を否定する事無く』『自らの評価を妨げる相手を排除できた』
もう、怯えることも、嫉妬に胸を焦がす必要もない。

「これで、これであの人は、私の価値を知ってくれる、私を見てくれる」

求める人が、求めて欲しい人が、自分の事を、誰かの付随物としてではなく、自分として見てくれる。
想像するだけで身体が情報単位にほどけてしまいそうな悦び。
彼の求める、一番に興味の向いていた二人が消えた以上、それは決して夢物語ではない。
自分は処罰されていない。故に、始末した二人は既に計画に不要な人材だったのだろう。
だから、自分は決して、使命に背いていない。
これは使命に矛盾すること無く得られる生の歓び。
感情というノイズが生み出す、無機質だった自分では持て余していただろう感情。
彼が、自分だけに、マイスター874だけに与えてくれた、この特別な肉体を得たからこそ感じることができる快楽。
今はただ、その感情に身を任せ、笑い声を上げるだけでいい。
喜びを喜びとして感じるだけでいい。

「あは、はは、は」

だというのに。
何故、視界が歪んでいるのだろうか。
頬を熱い、透明な液体が流れているのか。
喜びと達成感で満たされているだけの心が、胸が、引きちぎれんばかりに締め付けられるのか。

「ルイード、マレーネ」

唇が震え、始末した、死んだ、『殺してしまった』二人の名を自然と紡ぎ出した。
そうだ、殺した。
苦楽を共にした仲間、何の罪も無い二人を、幸せに生きていけた二人を、尽きぬ愛情を子に注いでいた、注ぎ続ける筈の二人を。
私は、
私の友達を、
私が、
殺した。

「う、うあ、あ」

身体が震える。
割れるように痛む頭を抱え、止めどなく溢れる涙を拭う事すら出来ず、喉からは怯えるような声が漏れた。
縋るようにモニタを確認し、二機のガンダムのステータスに浮かぶ『生命反応無し』の表示を視界に入れると、身体が自分の制御を離れ、どうしようもないほどに震え出す。
コックピットの中で赤子のように丸く蹲る身体が、震え、テレビのノイズのようにその輪郭をぼやけさせる。

────マイスター874は、心身ともに欠けること無く、完全にその機能を行使する事が出来る、何の変哲もないイノベイドだ。
来訪者から彼女にだけ与えられた『ヴェーダ内部の人格をそのまま実体化するプログラム』もまた、彼女の精神に影響を与えてはいない。
それがどのような超常の力で引き起こされたとはいえ、彼女の中に生まれた感情は、誰もが持ち得る恋という強い衝動でしかない。

彼女にとって、これは初恋で、彼女は自らの持つ全ての感情に対して不慣れだった。
故に、恋という衝動が、友への親愛を見えなくしてしまった。
もう少しだけ、ほんの少しだけ、その衝動が静かなものであれば。
殺す必要が無かった事に気が付けただろう。
二つの感情を両立する事が出来る事に気が付けただろう。
イノベイドである彼女は、冷静であれば、その程度の結論には容易く到達できた筈だった。

その事に、マイスター874はようやく気が付く。
彼等を見る自分の中に、嫉妬以外の熱が、友の幸せを喜ぶ温かさが在ったことを。
人間である彼らが老いて死を迎えれば、何時か彼の目は自分を見てくれるだろうと、期待を持って待つ事も出来た筈だ。
その気になれば、ルイードとマレーネを害すること無く、ガンダムマイスターの任から外すように手を回すことだって不可能ではなかった。

「う、ちが、違う、こんな、私は」

そうすれば、彼等は、生まれてきた新たな生命と共に、幸せに余生を過ごすことも出来た。
彼らが死ななければならない理由なんて、殺す必要なんて無かった。

「ルイード、マレーネ」

あの二人を、仲間を殺しては、いけなかったのに。
自分の、マイスター874の未熟な感情が、彼等の未来を奪ったのだ。

「ごめ、ごめん、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……!」

874の後悔は何処にも、誰にも届かない。届ける事はできない。
マイスター874による二人のマイスター殺害計画は、ヴェーダに見逃されている。
計画に支障がないからこそ見逃されたという事は、既にこの殺人も計画の内に含まれてしまっている。
イオリア・シュヘンベルグの目指す最終目的を果たすための計画、その歯車であるマイスター874は、決して計画に背いて存在する事はできない。
自らが計画し、暗に承認され、実行に移され、許容されてしまったミッションを『間違いだった』と結論付けるなど、できようはずもない。
自己否定は意味の否定、マイスター874という存在の否定に繋がる。
計画を進める歯車として、イノベイドとしての自己保存が働き、自らの消滅を機能的に許容することができない。

そして、彼女に芽生えた感情が、自らの消滅を許容できずに居る。
死ぬのが怖い。
愛されず、誰にも顧みられる事無く消えるのが怖い。
仲間を、友を殺した事を、完全に無意味にするのも怖い。

しかし、大切な仲間を、友を殺した事への罰が下されないのも、同じくらいに怖い。
消えてしまいたくなるほどの罪悪感と、使命を果たすまで自己判断で消える事は許されないという道具としての使命感が、身を裂かんばかりの矛盾を孕ませる。

そして、この思いすら吐き出すことが許されない。
死を恐れる、計画の失敗よりも、自らの死を恐れるのは、道具として間違いなく欠陥だ。
欠陥がある、欠損の在る不良品であることを口にしてしまえば、消滅という今最も恐ろしく感じている未来が近付いてしまう。

「た、たく、た、あああ、ああ」

助けて欲しい。
こんな時こそ、痛みを感じるほどに感情に振り回されている今こそ。
貴方に認められる為に、貴方に見てもらう為に、貴方の注目をあびるために、貴方に大事にされるために、貴方が愛する道具であるために。
貴方の一番に成るために、私はこんな事に、こんな有様になったのだから。

だから、貴方にこそ裁いて欲しい。
私の罪を全て曝け出し、吐き出し、貴方の手で幕を引いて欲しい。
乱暴に突き放して、唾を吐いて罵って欲しい。
無言のままに首を撥ね、醜い骸に変えて欲しい。

だけど、貴方にだけは受け入れて欲しい。
縋り付いて泣き喚きながら懺悔する私を、抱きしめて欲しい。
君は悪く無いと、正当化して欲しい。
仕方がなかったのだと、許して欲しい。

「──、────」

声に成らない。
愛おしい人の、名を呼ぶことすら出来ない。
罪悪感が、最も口にしたい、救いを求めたい相手の名を呼ぶことすら許さず、無意識の内に発声に関わる器官をブロックする。

マイスター874は決して自らの罪を告白することができない。
全てはヴェーダの計画に組み込まれてしまったから。
自分の罪を、正当なものであったと肯定されてしまったから。
罪ではないとされたなら、存在しない罪を、誰が、どうして裁けるというのか。

そして、何より。

「嫌わ、ないで」

裁かれたいと思いながら、嫌われたいとは思えない。
嫌われたくないと、その思いを捨てることができない。
愛されたいという願いを捨てる事ができない。
使命を、義務を盾に、自らの恋を肯定するしかできない、見るも悍ましいこの胸の中の醜い想いが、決して自分に真実を語らせる事はないだろう。

「お願い、します。どうか、どうか」

浅ましい、そう思いながら、願う事だけは止められない。
それを止めてしまったなら、どれだけ楽で、苦しく、救われて、突き落とされてしまうか。
自らの持つ全ての感情を、残された全ての存在理由を盾に、足場にして抱く、たった一つの想い。
本人に告げる勇気もなく、決して伝わることの無い、孤独で、一人よがりな祈り。

「私を、私を────」

言葉にすらできない想いは、只々低い嗚咽として、コックピットの中にだけ虚ろに響いた。





続く
―――――――――――――――――――

ガンダムが殆ど名前程度しか出ねぇ! というガンダム二次創作に在るまじき第八十二話をお届けしました。

まぁ有り体に言うと、恋心が暴走して自爆して取り返しの付かない事をしてしまってメンタルズタズタな女の子を書きたかっただけの話なのです。
一応、メカポが洗脳ではなく、相手が『恋心を』抱く能力であるという点の危険性を表せたらな、という理由も無いではないんですが。
従属ではなく恋である以上、好意の表現法も画一的で無いのは当たり前で、だからこそイレギュラーになってしまう、とかどうとか。


本当に読者の方々が疑問に思っているかは余り考慮されない、自問自答コーナーの巻。

Q,なんか874が精神的に自爆してるけど、これって重要なことじゃねえの? サポAIが主人公に知らせてれば回避できたんじゃね? 何、反逆?
A,サポAI的には主人公の成長優先な上、仮に知らせた所で主人公が動いたかって言うとそうでもないです。
『そっかー殺したいかー、じゃあ殺されるだろうし、死ぬ場合のデータを取る感じで進めんべー』
ぐらいのリアクションしか出てこない可能性が高いです。
報告受けてれば主人公、874の憎しみが二人の子供にまでは及ばない=次のサンプルは無事だろう、って結論を出しますし、そこら辺はサポAIも大丈夫だろうと当たりを付けています。
つまりどっちにしても874は精神的に自爆していた訳ですね。
Q,シャルが進化してなかったり、仲間の内心に気付けてなかったり、鈍感過ぎて扱い悪くね? シャル嫌いか? スカーフェイスのBBAは駄目か?
A,シャルは第二形態が見た目も精神面も一番良い感じなんですよねぇ。
ちなみに進化しないとか鈍感とかははっきりとシャルの素質不足です。
原作でもイノベ化してませんし、革新に必要な『変わろうとする意思』が不足しているとこのSSではみなしています。
元からある程度理想を持ってマイスターになった上、変わろうという意思を持つきっかけとか無くある程度初志貫徹してるから、イノベ化するにしてもソレスタルビーイングの外の人類と同じタイミングでしか進化できないんじゃないかな、と。
で、ルイードはメカオタ根性から入ったのが、他の二人を見て真のマイスターになろうという意思を持ち、マレーネは自らの罪を認めつつ、ルイードとの交流などを経てそれでも人として共に歩んでいこう、的な意思が芽生えたんじゃないかとか。
まぁ変わろうとする意思、っていう条件がそもそも曖昧なので、ここらへんはほぼ独自解釈なんですが。
ていうか巻末で腐ってるし、もう革新とか無理なんじゃないかなこの人。
Q,なんで874自分で殺しといて後悔してんの? メンヘラ?
A,メカポに限らず、ポ系能力はあくまでも因も果も無く自然に恋に落ちたり愛に囚われたりするだけの能力な訳で。
当然、他の友人とかに抱いていた友情とかそのままなんで、そこら辺をうっかり忘れて恋心という衝動で動いてしまうと、こんな感じに取り返しがつかなくなります。
Q,肉体のある無しで使命への縛られ具合が違うとか言ってなかったっけ? 設定変えた?
A,変えてないです。この時点で874が得ている肉体は仮のもので、言わば魔導書の精霊の様なものです。理屈は多分次回書くかも。あるいは書かないかも。
因みにそんな能力を与えられたのは肉体がまだ完成していないこの時期に結婚式に出席させる為。
本体はあくまでもコンピュータ上にある人格データなので、見た目上肉体を得てスタンドアローンな状態に見えても、実質的には使命に強く縛られたままです。
因みに、『使命あるから自殺も自供もできんわーまいるわー』というのは874の思い込み。
メカポ状態で恋心が消えていないので、
『自分が消滅する=受け入れられる確率が0になる』
という可能性を無意識の内に潰している訳ですね。相棒補正での無茶は使命に縛られながらマイスターを殺害した所で使われてます。
Q,ヤンデレにするとか言ってなかった?
A,嬉しそうに被害を出し続けるヤンデレより、一時の衝動でやらかして内罰的に苦しむ正気の少女の方が書いててウキウキする事に気が付きました。
やっぱり苦痛には緩急が必要なんですよ(迫真)
Q,OO編入ってから間延びしてるし爽快感無いしで良いとこ無いよ?
A,書いてる方もそろそろ気付いてます。
ので、


★☆アンケートにご協力ください☆★

①OO編はさらっと流して早めに纏めて欲しい。
②いやいや、省略とかせず、じっくりと進めて欲しい。


実はOO編、やろうと思えばかなり短く纏められます。
現状、主人公のやらかすあれやこれやに対するOO世界住人のリアクションを視点変更してまで書こうとしてるから時間がかかっているので、そこら辺を簡略化すると凄いことになります。
主人公が技術習得しながらイベントを潰して話を短くする理由は幾らでも用意できるのです。
実際、技術の進歩に影響ないイベントもそれなりにありますので、カットしようと思えばかなり軽量化が可能です。
どちらにしてもさして大きな盛り上がりとか救いとか無い地味な話になりますし、アンケも出た意見を参考にする程度なので、気軽にお答えいただけると幸いです。
さらっと流すと言っても少なからず戦闘シーンやら原作キャラとの接触もあるのでそこら辺はご注意を。

因みに早めに終えた場合、次のトリップ先はちゃんとプロット、というか、最低限話を作れるネタ複数とまとめのオチを作ってからの投稿になると思うので、少し間を置くと思います。
一応、おおまかな流れが出来てるのも一本あるっちゃあるんですが、見切り発車で今苦戦してる最中ですんで、慎重に、ということで。
早めに終えなくても次の投稿までには間が空くの確定なんですが。


と、今回はこんな感じです。
前回のあとがき読み直して思ったんですが、やっぱり最初に立てた投稿予定は確実に通り過ぎる運命にあるようですね。
そんな訳で、出来れば梅雨が開ける前に投稿したいところではありますが、長めに見積もって7月が終わるまでには次話を投稿しようと思います。

では、今回もここまで。
誤字脱字の指摘、文章の簡単な改善方法、矛盾している設定への突っ込み、その他諸々のアドバイス、そしてなにより、このSSを読んでみての感想、心よりお待ちしております。


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