せわしなく搬送トラックが走りまわるドッグの中、俺は旅行鞄を床に置き大きく伸びをした。背骨がポキポキといい音を立てる。流石は俺の身体、人間への擬態はこういう細かいところだけ完璧だ。
地球から月面の宇宙港、宇宙港から月面都市、そこからさらにナデシコが現在停泊しているネルガル重工のドッグまでほとんど座りっぱなしだっただけあって、肩や腕は回す度にポキポキと軽快な音を鳴らしてくれる。
まぁ、元の世界ですら最近はバイク移動なので、ああいう座席に座っての長時間の移動ってのは懐かしく感じる。仮にも宇宙旅行のようなものだというのに懐かしい感覚というのはおかしな話だが。
しかし、今回はゆっくりと大気圏を突破しての移動だったので正常な色の地球が見れて少し嬉しかった。やっぱり自力で突破するのと勝手に突破してくれるのでは色々と違って面白い。
「地球は青かったって本当なんだなぁ」
宇宙船の窓から見える地球は青くてとても清廉な光景だった。なにより頬杖ついてジュースをすすりながら見れるというのがいい。機内食もまぁまぁおいしかったし言うこと無しだ。
無駄に速度を出さなければ自力で青い地球を宇宙から眺められるんじゃないか、呼吸も擬態なんだから宇宙空間でジュース飲めるんじゃないとか浅はかな事を考えてはいけない。宇宙旅行の風情を楽しむことが重要なのだから。
窓がある宇宙船で月に行くということで当然お守りとしてコンパスを懐に入れておいた。蓋を開けるともちろんplease save Kugiriの文字が刻まれている。姉さんは同乗していないがこういうのは一番大切な人の名前を刻むものと相場が決まっている。
そもそも俺も姉さんも美鳥も宇宙空間に出ただけで死ぬほど軟な作りはしていないのだが、相手を思いやる気持ちこそが大切なのだ。宇宙の怖さ、一人の人間の弱さ、そして生命の大切さを忘れては生きていけないとかどうとか。おっと、これは次回作の話か。
もっとも、この無駄に技術が発達したスパロボ世界ではデブリで宇宙船が事故るなんてそうそう有り得ない、どちらかといえばデブリよりも木星蜥蜴に気をつけるべきだろう。
「……余裕ありそうですね」
肩や腰などをぐりんぐりん廻して身体を解していると、後ろから声を掛けられた。それなり以上のイケメンだが、今その表情はやたらと不機嫌そうでなおかつ『俺は憂鬱です』と言わんばかりの暗ぁいオーラを漂わせている。
声を掛けた直後に溜息、するとなぜか必要以上に髪の毛が揺れる。ヅラ疑惑の少年、紫雲統夜。現役高校生の典型的な巻き込まれ系主人公だ。
ある日空から降りてきた巨大ロボット、そしてそれに乗っていた謎の美少女達にこれに乗って戦ってくれと懇願される。初めて乗るにも関わらず動かし方の分かるロボットに戸惑いを覚えつつもなんとか街を守り切る。しかしそれは少年の波乱の日々の序章に過ぎなかったのである!
――ぶっちゃけた話、そこらに転がっている王道ロボット物と大差ない展開だ。しかもハーレム要素があるのだから多少の危険は我慢するべきだろう、そういう要素が無い巻き込まれ主人公だって世間には存在するわけであるし。
ついでに参戦作品の中にいる、似たような状況でガンダムに乗り込んだ少年はさんざん利用された揚句にピンクの御姫様の操り人形である。戦後にそれなりのまともな生活が待っているだけまだしも恵まれているといえよう。
「ちょっと休学してバイトするようなもんだと考えれば気が楽になると思うぞ?」
バイト、というよりも契約社員になるわけだが、危険な仕事なだけあって結構いい給料が貰えるのだ。限られた親の遺産で暮らす苦学生紛いの統夜からすれば願っても無い話ではないか。
「俺は、あんた達と違って戦いとは縁の無い普通の学生なんだぞ。バイト感覚で戦争なんて……」
「いや、縁はあるだろ」
「え?」
呆けたような返事をする統夜。こいつは一体何を言っているのかという顔だが心外である。
「空から巨大ロボが降ってきて、それがピンポイントに目の前に着陸、乗ってみたら操縦方法が分かって、しかもそれはお前にしか操縦できない。これで縁が無いなんて言ったらそこらのスーパーロボットのパイロットはみんなロボットとも戦争とも無縁になるぞ?」
「そんな無茶苦茶な理屈でっ――」
「おーい!」
俺の冗談ともとれる屁理屈に反論しようと声を荒げたところで、先にドッグの中に進んでいた甲児が声を上げながらこちらに駆け寄ってきた。後ろにはJヒロイン三人組とマジンガ―ヒロインの弓さやかも居る。
「二人とも何してんだよ、何時の間にかはぐれてたからビックリしたぜ」
「美鳥ちゃんなんて先に行っちゃってるわよ?」
「ああ、悪い悪い」
美鳥は気にすることも無く先に進んでしまっているようだがこれは予定通り。トイレに向かうふりをしてナデシコの内部探索をしている筈だ。大型の相転移エンジンも取り込んで置いて損は無い。
しかしまぁどうせブリッジで合流するから気にすることも無いだろうに、流石は気配りの出来る主人公タイプ。いや間違いなく主人公なんだが。
「あの……」
おどおどとこちらに近寄ってくる金髪ショートの少女――メメメ。ここは流れとして統夜と何を話していたかを聞かれるのか? とはいえそういうのを聞くのは代表格っぽいカティアだと記憶していたんだが……。
「ケーキ、ありますか?」
「…………チョコケーキでいい?」
「わあ、ありがとうございますっ!宇宙港の売店でも車内販売でも売って無くて、わたし――」
――どうにも今回はしょっぱなから派手に関わってしまったので容易に相手の行動が読めない。確かに個性の一つとしてお菓子好きだった気はするが、この段階でここまで甘党だっただろうか。それとも単純に話してみればこんな性格だったというだけか。
我ながら異様に馴染んでいる気がする。これも第一印象を大事にしたお陰だろうか、それとも姉さんのくれた何かのお陰か。
カバンに手を突っ込み、見えない位置でケーキの入った小型のクーラーボックスを生成、宇宙港の売店で貰ったプラスチックのフォーク片手に期待のまなざしを向けるメメメに手渡しながら、現実逃避代わりにトリップ直後のもろもろの出来事の回想を開始した――。
―――――――――――――――――――
空から地上に向けてダイブ、二回目だが今回も空から飛び降りる形で参戦。地上では丁度マジンガーがバッタを一体ロケットパンチで仕留めたところだった。
「美鳥、主人公機が降りてくる」
「おっけー、索敵するよ。――みっけた。良かったねお兄さん、細いのだよ」
リアル系機体のベルゼルートらしい。しかしよかったねとはどういうことか。落下しながら地上のバッタにボウライダーの両腕の砲口を向け、両腕からそれぞれ一発づつ発射。二機のバッタに見事に命中、原形を留めていないジャンクが二つ出来上がり。
これでもトレーニングルームで操縦の練習をしていたのだ。しかも半ば融合しているから余計に思うがまま動く、生身でなくともこの程度は朝飯前。
街から少し離れた位置にふわりと着地、この魔改造ボウライダーはオリジナルとは一味も二味も違う。あの高度から落ちても平気なのはオリジナルには搭載されていない重力制御装置のお陰。多少の飛行程度ならもはやスケールライダーに乗っけてもらう必要も無い。
「ああいう分かりやすいくらいメカメカしいの好きっしょ?ていうか、Jでは一番好きな機体だって言ってたじゃん」
残り一機のバッタに向けてスケールライダーが急降下、ミサイルやレーザーを放――たない。代わりに翼の両端に増設された球体から光刃を展開、地面すれすれを飛び、すれ違いざまに切りつけた。
付けておいてなんだが、人型に変形しない戦闘機に接近戦用の剣とか、余りにも趣味的すぎる武装だ。ブラスレイター世界の技術だけであれをやるのは無理があるかと思っていたのだが、ブラスレイターの具現化能力と連動させているらしい。努力と研究の賜物だとか。
急降下から切りつけのコンボ、もしかしたら初めて会った日にカウンターで叩き切った事を根に持っているのかもしれない。後で何か御機嫌取りでもするべきか。
マジンガーがこちらに何か言おうとこちらに振り向くが無視して学校傍の林の方に両手の銃を向ける。スパロボのお約束が残っているのだ。
空から林の中に七機のバッタが降りて来る。学校から遠い方のバッタに狙いを付け、両手の速射砲から電磁加速された砲弾を乱射。周りの木々を巻き込みながらも三体のバッタを粉々に粉砕。
とりあえずは、こんなものか?主人公くんがピンチになる為の分は残しておかないといけないし。銃口を上に向け、冷却する為に間を置いている振りをしつつベルゼルートの観察。
「お、動いた動いた」
学校の校庭にうずくまっていたベルゼルートが立ちあがり、ブースターを吹かして飛び立とうと試みている。その動作はおっかなびっくりといった具合で見ている方が不安になるふらつき加減だ。
「酔っぱらい運転みたいな感じやね」
美鳥が見たままの感想を言うと同時、加速を制御しきれなかったのか学校隣りの小さなビルに激突する。あのビルの持ち主は災難だな……。
「どっちかって言うと、ブレーキとアクセルを踏み間違えた教習車じゃないか?」
危なっかしい、まぁ覚醒する前の主人公なら仕方ない。最初に普通の一般人ならどうなるかというのを視聴者、プレイヤーに見せつけることで覚醒後の主人公の異常性とかを見せつけるのにとても便利なのである。たぶん。
ビルにのめり込んだベルゼルートにバッタが迫る。危うし主人公!とはならずにミサイルで見事に撃墜した。動きも先ほどまでと比べてまともになってきている。とはいっても初心者が初めてプレイする初代ACよりはまともといった程度でしか無い。
動かし方を覚えた程度ならそんなもんだろう。俺も最初にボウライダーを動かした時は、とか苦労を思い返したいところだが、いかんせんペイルホース感染者は武器の扱いに関してものすごい適応力を発揮してしまうので語るべき苦労が無い。
多分ペイルホースの機能の一つにゼロ魔のガンダールブもどきみたいな機能が存在するのだろう。そうでなければゲルトしかりヘルマンしかりマレクしかり、いきなりあそこまで斧槍やらランスやら鞭やら鎌を上手く扱える筈が無いのだ。
しかも装甲車の外側から片手で融合して運転ができることからわかると思うが、実はまともに操縦桿を動かす必要すらない。IFSと似たようなものだがこちらは機体に触れてさえいればどこからでも操縦できるという見事なチートぶりである。
つらつらとどうでもいいことを考えながらベルゼルートの獅子奮迅の活躍を見学。オルゴンライフルやショートランチャーを振り回しながら必死にバッタをなぎ払う必死な姿には感動すら覚える。学校を背負ってるから危機感も増し増しなんだろうなぁ。
バッタの位置的に市街地寄りに移動していたマジンガ―は手を出せないがアフロダイが挌闘やミサイルなどで一緒に戦っている。主人公の覚醒イベントが終わったので俺と美鳥も援護に加わり一機一機確実に潰し、ほどなくして全てのバッタが撃墜された。
とりあえずバッタはこれで打ち止め、しかし直ぐに市街地方面に機械獣が現れる。Jはこの小出しにしてくる増援が面倒臭くていけない。いっぺんに出てきてくれればマップ兵器でささっと片付けることができるのに。
それにしても、あの出現地点から考えるに間違いなく市街地を破壊しながらやってきている筈なのだが、バッタ退治は片方の機体に任せて市街地に入る前にどうにかできなかったのだろうか。
「あなたたち、聞こえる?どこの所属なの?味方と思っていいの?」
市街防衛のシステムに首を捻っていると通信が入った。アニメやゲームでみると絵柄があれだから分かりにくいが中々の美人。これがマジンガ―Zのヒロイン『弓さやか』か。健康的で溌剌とした印象の少女だ。
「あたしらは善意のボランティアってとこかなー」
「移動中に街がバッタに襲われてるのが見えたからな。とりあえずあの機械獣どもを倒すまでは付き合うつもりだ」
「ありがてぇ! そっちのはどうだ?」
うお、すげぇ形のヘルメット!画面に映るイッツジャパニメーションって感じのヘルメットを被った濃い顔の少年が映る。マジンガ―Zの主人公にしてパイロット『兜甲児』だろう。なんかもう、もみあげのあたりから特に濃いダイナミックオーラが溢れているから見間違いようが無い。
同時にベルゼルートの方にも回線を開いているのか、俺達では無い方にも問いかけを放つ。こっちも繋いでみるか、確か、ここをこうして……。できた、画面端に赤毛のイケメンと同じく赤毛の美少女が映る。
「あ、え、いや、俺は……」
こちらのかなり戸惑っている赤毛の少年がこの作品世界『スーパーロボット大戦J』の中の主人公である『紫雲統夜』で、
「とりあえず、敵じゃないのは確かね」
こっちの髪型が九十年代の深夜アニメか八十年代のラノベみたいになってるのがヒロインの一人『フェステニア・ミューズ』だ。こいつらはまぁ、特にこれといった印象は無い。しかし予知紛いのことができるサイトロンは面倒臭そうだと思う。
対策はぼちぼち考えるとして、今はとりあえず機械獣退治を終わらせないとな。先行する美鳥のスケールライダーを追いながら、速射砲の照準を機械獣に合わせた。
―――――――――――――――――――
機械獣を恙無く倒した俺達は、そのまま流されるように光子力研究所にホイホイと付いて行ったのであった。
しかし俺はミーティングルームについて行かず、とある人の執務室を訪ねていた。因みに主人公チームの方には美鳥がくっついて行っている。
「これ、つまらないものですが皆さんで召し上がって下さい」
「これはどうもご丁寧に」
白衣のナイスミドルに菓子の入った紙の箱を手渡す。光子力研究所の偉い人こと弓教授だ。ここまで来たからにはこの人に会っておくのが礼儀というものだろう。
因みに売店の類は無いかと探してみたのだが、噂に聞く『パリンと割れるバリアせんべい』は見付からなかった。都市伝説の類だったのだろうか、一箱姉さんにお土産として買っておこうと思っていたのだが、残念だ。
「ところで君たちは偶然通りかかったと聞くが、どこに向かっていたのかね?」
「それには深い事情がありまして、聞いて貰えます?」
あちらの主人公達にくっついて行ってもいいのだが、ここに来るまでにボウライダーの中で確認した姉さん作の行動予定表ではこのように動いた方がすんなりと話が進むと書かれていた。
これで失敗したら目も当てられないが、最悪砂漠の虎相手にゲリラでもしていれば話の途中からでも合流することは可能なのだ。とにかくやってみよう。
「実は俺達……」
―――――――――――――――――――
俺の説明はいたって簡単、単純に火星に向かう戦艦がネルガル重工で完成し、その乗組員を探しているとの情報を聞いて、兄妹で戦力として自分たちを売り込みに行こうとしていたと言うありきたりなもの。
しかし簡単には話は進まない。強化改造が施されているとはいえ、オリジナルとほとんど操縦系統は変わっていないスケールライダーとボウライダー、光子力研究所に運び込まれた二機を弓教授はチェックしていたのである。
「あの機体の操縦系統は、パイロットの身体に改造が必要になるようなものだね?」
「はい。俺も美鳥も機体に合わせて身体を弄ってあります」
「その手術は何処で?」
「以前生活していた施設では全員が手術を受けていました」
こういったやり取りのあと、弓教授は顎に手をあてて考え込んでいる。IFSなんて手軽で便利なものが存在する世界であんな外科改造手術が必要な機体、まともな奴ならば作らないし使わない。
メモに書かれていた設定だと、こっちでの俺と美鳥の両親はずいぶん前に死去して家族は兄妹二人だけ、何らかの研究所を兼ねた孤児院のような施設に預けられて暮らしていたが研究所が潰れ、それ以降は出所不明の機体を駆使して各地で傭兵として働いていた、という一昔前のラノベじみたもの。
そしてこの設定は少し調査すれば数分で調べがつくようになっているとか。おそらく弓教授は俺達が何処かの非合法な兵器の研究所に預けられ、研究所が潰れるどさくさで機体を持ち出し、戦闘能力を生かしてこれまで生活してきた実験体とでも推測しているのだろう。
なるほど、これは便利だ。あの二機の構造を理解できる人が見れば勝手に勘違いして俺達に同情的になり、軍に捕まって実験動物扱いされないように、どこか都合のいい場所に俺達を勝手に誘導してくれるという訳だ。
そして俺達が向かおうとしていた場所は御誂え向き、ただで保護を申し込むのでは無く、木製蜥蜴と戦える戦力、傭兵として。これにスパロボ補正も組み合わされば間違いなくナデシコと合流できる。
流石姉さん、主人公達と一旦離れて教授にだけ説明しなさいというのも、兜甲児や弓さやかに気を使わせない為に別に話したと考えさせることで相手の中のこちらの好感度も上がって二度お得ということか。奥が深い。
「そうだね、この研究所にも協力要請の打診が来ている。甲児君やさやかから聞いた話では十分に戦えるようではあるし、私の方から連絡を入れておこう」
「ありがとうございます」
頭を下げる。いや、本当に感謝しているんだ。うまいこと勘違いしてくれたことにも、見ず知らずの相手の為に手を尽くしてくれるお人よしなところにも。なんだかカタギの人を騙すチンピラ臭い思考だが構わない、たまにはこういう捻くれた考え方をするのもいい経験だろう。
さて、これで間違いなく主人公組みと行動を共にすることになるだろうが、こうなるとミーティングルームの方が気になってくる。美鳥が変な事を言い出していなければいいのだが……。
―――――――――――――――――――
アドバンスのBGMは『て』と『れ』が一番発音的に近い。音質低いとか安っぽいとか言われてもこの中途半端なレトロさがいい味を出してる。
んー、でも流石に周回重ね過ぎて機体に改造の余地がない。なんつーか、作業ゲーになっちまうっつうか。ちょっと戻ってカルビさんルートでやり直そうかなぁ。
ミーティングルームでソファに腰かけたあたしは、ヒロイン三人娘の身の上話を聞き流しながらヘッドホンを付けてDSで遊んでいた。いや、途中までは真面目に聞いてたんだけど、別にゲームで手に入らない情報とかは無い風だったからつい。
ちなみに一応来客ということでジュースは出たけどお菓子の類は出なかった、ま、お菓子を摘まみながら和気あいあいと話すような内容でも無いから別におかしくはない。
そろそろ身の上話も終わったかな? ヘッドホンを外してDSの電源を落とし鞄に入れ、テーブルに置いておいたジュースを一口。でもここでは特に話すことも無いんだよなー、暇だなー構って欲しいなー。
因みに誰もあたしの話題には触れてくれない、場馴れしているように見せちゃったから、傭兵の類だとでも思われてんのかね。そういう設定みたいだけどさ。
「私たち以外にベルゼルートを動かせるのが、ううん、あれをちゃんと扱えるのがあなただけ、あなたと私たちだけだから……」
「だからそれは何でなんだよ!なんでそんなわけのわからない連中のいざこざや、あんなロボットの話に、俺が出てくるんだ!なんで俺が関わりあいにならなきゃいけないんだよ!?」
「いや状況的に見てすげー運命的じゃん、手伝ってやればー?あと、声でか過ぎ、金髪のが怯えてるよ?」
「そうだぜ、女の子相手にそんなにどなるなよ」
「そうよ、男らしくないわ」
グリニャン仮面の中の人の電波セリフに反応し、あーだこーだと喚く紫雲統夜――名前長い、以下あたしの心の中ではヅラってことで――に一言投げかけた。往生際の悪いやつ、厨二病患者なら表面上は拒んだり苦悩したりしながらも内心ではウヒウヒ猿みたいに喜びながら進んで飛び込んでくる世界だっつうのに。
親の遺産で一人暮らしってのが仇になってるよな、堅実派つうかなんつうか。もっと若さを爆発させるべきじゃない?ほら、若さはプラズマって言うし。流石に古いか、こりゃお姉さんの記憶だな。あたしまだ生まれたてだし。
とにかくもっと無軌道な若さを発揮して欲しい。せっかくだから喚き散らすだけじゃなくて大人しそうな金髪を押し倒しちゃうとかさぁ。そしたら監視カメラハッキングして録画してウヒヒぼろ儲けだよまいったね。
「あんたたちは黙っていてくれ、俺は、こいつらのせいで……」
「そんなこと――」
「つか、もしあそこでこいつらが降りてこなかったらどうなってたと思うよ?恩を感じこそすれ、文句を言うのはおかしいんとおもうなー」
あの距離だと間違いなくマジンガ―は間に合わなかったし、アフロダイじゃバッタも一撃で倒しきれなかった。ベルゼルートがいなければバッタのミサイルで学校ごと潰されて終わりだった可能性だって高い。物語上の演出にそういう突っ込み入れるのは野暮だけどさ。
あ、さりげなく薬用石鹸のセリフ潰しちった。でもまぁいいか、どうせこいつ主人公だし、どう転んでも巻き込まれるっしょ。もうどうにでもなぁれ♪
でも三人娘を弁護してる内容だからか僅かな期待の視線を感じる。おっとりした金髪から特にキラキラした眼差しが!こっちみんな。融ける。
「それについては感謝してるさ。でも、これからも戦い続けろなんて無茶苦茶だろ。せめて俺でなきゃいけない理由を聞かなきゃ、納得できるもんじゃないんだよ」
「それも正論っちゃ正論やね。ま、ここで喚いたってどうなるもんでも無いんだしさ、大人しく教授を待っとくのが正解じゃない?」
言いきって、残っていたジュースを飲み干し、頭の後ろで手を組んでテーブルの上にドカッと脚を乗せ寛ぐ。ヅラは口を閉ざし、グリニャンは黙って何かを考え込んでいる。アンテナが立ってないから電波を受信できていないと見た。
電波はその内なりを顰めるけど、好感度上げないとお姉さんキャラにならねーってのは致命的な欠点だよな。途中で口調も変になるし。幸い機体はベルゼルートだし、その内好感度は嫌でも上がっていくだろ。機体との相性も抜群だし。
ダイナミック出身の二人組は不思議そうな顔であたしを見ている。堂々とし過ぎるあたしの態度に恐れをなしたのかな?かな?変な追及が無いのでなんでもいいや。
ちなみにあたしにセリフを遮られた石鹸は、何か言おうとしても上手く理由としてくみたてられないからか、不完全燃焼といった表情で引っこんでいる。やっぱり勢いが命のキャラを止めちゃだめやね。
「お疲れさま、そっちも大丈夫だったみたいね」
「兜、そいつらか。例の連中は」
微妙に静まり返った室内にドアの開く未来的な音が響き、部屋の中に二人の男女が入ってきた。エキゾチックな褐色の肌の美女と精悍な顔つきのいかつい男だ。
えーっと、なんとかジュンと剣鉄也、だよね。プロの方はあまりにも有名だけど、もう片方はあんまり印象に残らないなぁ。なんか、ゲームではずっと二軍だった気がする。機体の名前も思い出せない。
クリア直前のデータが残ってるから見れば分かるんだけど、ここでDS取り出すのもなんか不自然だよね、まぁ合流は後だから気にする必要は無い、かな?
「あ、鉄也さんたちも戻ってたのか」
「あの程度の機械獣ごときに手こずるグレートじゃない。それにしても……」
ヅラと三人娘、そしてあたしを見て、フン、と鼻息。
「兜と一緒に木星トカゲや機械獣を倒したのが、こんなやつらとはな」
プロのセリフにヅラがどこか不満そうな顔をするが特に反論はしない。まぁ、別にパイロットとしての誇りとかそんなのがあるわけでも無いだろうし、こんな奴呼ばわりが気に食わなかったってだけか。
でも、あたしは反論した方がいいのかな。でもそこまでこだわりがある訳でも無いし、いやいやお兄さんを馬鹿にされたようなもんだから多少は気にした方がいいのかな?あ、ここにお兄さん居ないや。ならいいかな。
続いてまたもドアが開き、白衣のひげ――弓教授が入ってきた。その後ろにはお兄さんも――居ない。
「あ、お父さま」
そうお父さま、出番が少ないけど弓さやかのパパさん。じゃなくて、お兄さん、どこ?
「やはり連合軍と東アジア共和国政府の双方から、彼らに関する問い合わせと、引き渡し要請がきているそうだ。いずれはここへも直接踏み込んでくるだろう」
「だと思ったぜ。あのままだったら軍に追いかけられてたな」
「それで甲児くん、さやか。少しは事情を聞かせて貰ったのかね」
その後、事情の説明が終わってもお兄さんはあらわれませんでしたとさ。なにやってんのさ、お兄さん……。
―――――――――――――――――――
光子力研究所の廊下を歩き、案内の矢印に従いながらミーティングルームに向かう。
「いやっは、こりゃこりゃまたまた」
途中で窓の外をマジンガーZ似の機体が飛んでたからもしやと思ったが、まさか本当にグレートだとは。これも日頃の行いが良すぎるからだな。トイレと偽って別行動をとらせて貰って正解だった。こんな早くにグレートの複製を作れるようになるなんて幸運にも程がある。
格納庫の場所は来る時にボウライダーを入れたから当然知っていたし、監視カメラの類もうまいこと誤魔化せた。人に見られても認識阻害の魔法で『居ても不自然ではない』と思わせたから問題なし。
ああでも、遅れた理由とかどうしよう。弓教授にはトイレがどこにあるかわからなかったとか道に迷ったとか言っておけばいいとして、美鳥は怒ってそうだ。甘いものでご機嫌取りしとくか。
監視カメラが周りに無いのを確認して、大きめのケーキを箱ごと複製する。ついでにプチケーキが入った箱も複製、こっちは美鳥にやる分とは別の特別仕様。これが後々利いてくるといいな。
「どうも、遅れて申し訳ありません。話合いは終わりましたか?」
ミーティングルームに入ると、なにやら暗い雰囲気、多分BGMで言えば東方不敗が死んだ時とか、そういう悲しい雰囲気の場面で流れる曲が似合う空気だ。
追い詰められた雰囲気の主人公君が部屋中の人間に見つめられている。これはプレッシャーがかかる。ちなみに教師が学生を職員室に呼び出して指導するのもこれと同じようにプレッシャーをかける為だとか。
つまりこいつは今まさに周りに味方が一人もいない訳で、しかもうろ覚えの原作知識では鉄也やジュンやらに戻っても軍に拘束されてしまうので元の生活にはどちらにしろ戻れないと説き伏せられたところだろう。
「あ、お兄さん!」
テーブルに足を乗せつつ居心地の悪そうな顔でストローを咥えていた美鳥が、ぱぁ、っと笑顔になりこちらにてててっと駆け寄ってきた。こいつもこうしていれば小動物属性臭いんだけどなぁ。
そんな事を考えていると、速度を落とさず俺のみぞおち目掛けて頭からダイブ、しかし遅い、俺に当てたければせめて新幹線程度の速度は欲しい。突撃してきた美鳥を片手でキャッチ、そしてアイアンクローで持ち上げる。
「ぎゃぁ割れる。お兄さん、ちょっと遅すぎだよ。どこいってたん?」
ギリギリと頭を掴まれ持ち上げられつつも自然な態度で聞いてくる美鳥、痛覚切りやがったなコイツ。つまらないので地面に下ろす。
「ちょっと道に迷ってな。で、そこの少年少女らもナデシコ行きで?」
「あ、あぁ、まぁそんなところで決まりそうだけどな。それよりその箱は何が入ってるんだ?」
甲児が戸惑いながらも返事をしてくる。遅れてきていきなり妹(という設定にしてある)とこんな状態では戸惑いもするだろうが、そこはなんとかスルーしてくれるようだ。
「いやなに、みんな頭使って話し合っているだろうと思いまして、糖分の補給を」
テーブルの上に片手に持っていた箱を置き開け、ケーキを取り出した。空気をひたすら読まずに動いているお陰でみんなの注目は惹けた。
喜んで食べる人も居れば警戒して食べない偉大な勇者もいるが、なにも全員が食べてくれる必要は無い。ちらりと視線を三人娘に向けると、目の前に出されたケーキに最初は恐る恐るといった様子だったが、一度口にしてからは美味しそうに食べてくれている。三人の前にだけさりげなく置かれたプチケーキも。
やはり美少女には笑顔が似合う、甘いものは心の隙間を埋めてくれるって誰かが言ってたがこれが正にそれだな。などという善意でこんなことをしている訳では無い。
うん、そう、『計画通り……!』なんだ。済まない、仏の顔もって言うしね。謝って許して貰おうとも思っていない。
でもその不思議ナノマシン配合ケーキを食べたからには、君たちはきっとどの世界の技術でもそうとわからないだろう巧妙な『思考誘導』を受け続けてくれると思う。
殺伐とした世界観でありながらどこか生ぬるいこのスパロボ世界の中で、そういう処置を施されてしまう犠牲者であって欲しい。そう思って、そのケーキを君たちの前に置いたんだ。
じゃあ、原作沿いの旅を始めようか。
―――――――――――――――――――
回想終了。そう、そういえばそうだ。はいはいメメメが原作以上に甘味好きになったのも恐らく洗脳の副作用ですよ。文字通りの自業自得ですよ俺が悪うございました。
俺の横でケーキを食べながら歩いているメメメを横目でちらりと見つつ自己嫌悪に陥る。いやでも、必要な処置だったし仕方ないといえば仕方ない。
問題となるのはサイトロンが見せるビジョンだ。もし将来的に俺が主人公チームに何らかの害を与えるビジョンが見えて、それを密告されたりすると全て信じるかどうかは別として警戒されて融合捕食がやりにくくなる。
まずはこれを防ぐ為に三人娘の思考を弄って、俺や美鳥に対して警戒心を抱きにくく、それでいて馴れやすくする必要があった。それなりに親しくなっておけばそういうビジョンが見えても何かの間違いだと考えてくれる筈。
三人娘に投与されたナノマシンは初期は直接脳の信号を弄って思考をそういった方向に誘導するが、徐々に脳細胞を直接作り替え、プラス評価を強く印象に残し、マイナス評価を忘れやすくする都合の良い物にしてしまう。
そしてもう一つ。光子力研究所で取り込んだは良いものの上手く動かせないと感じたベルゼルートを動かすためには、今の段階では唯一サイトロンに適応している実験体である三人娘の身体の構造を調べる必要があった。
脳以外の部位にも散らばっているナノマシンが、ベルゼルート操縦時の三人娘の身体を分析し、サイトロンコントロールに必要な要素を俺に伝えてくれるという寸法なのだ。
よくよく考えなくても悪魔の所業だろうがそんな事はどうでもいい。ここで問題にしているのは何故このメメメだけにこんなにも変な副作用が出ているのかということだ。
これは美鳥から聞いた話なのだが、メメメが他の二人に物欲しそうな視線を送り、二人の分のケーキを少づつ分けて貰っていたという。
多分、というか間違いなくこれが原因の一つだとは思う。やっぱり動物実験で犬と熊に使っただけなのにいきなり人間に使うもんじゃないか。
たしか、保健所で貰って来た人間不信の犬に投与してみた時はナノマシンの数が多すぎて、餌やって頭撫でただけでとんでもない忠犬になって、次に近所の森の熊で試した時は少ない数のナノマシンを段階的に投与していって、金太郎ごっこができるようになるのに一月掛かった。
今回は早めに懐かせたかったから中間くらいの量にしたんだが、まさか他の人の分まで食べるとは思わなかった。二人から半分ずつ分けて貰ったと考えても今メメメの体内に存在するナノマシンの量は単純に二倍、警戒心はほぼ0と言っていいレベルまで下がっているだろう。
逆に盛られたナノマシンの量が少ない二人は馴れるとまではいかないが、普通に仲間の一人として接して来る程度だ。あ、そう考えると元の量からして多すぎたのか?
しかしこの即効性、場合によってはいきなり好感度マックスな感じにもできてしまうかもしれない。まさに悪魔の発明、ニコポや撫でポの比では無い。脳に直接作用するナノマシンポとか生々しすぎて発禁ものだ。
このトリップが終わったらせめてサルかチンパンジーで実験を再開しよう。そんな事を考えながら、コンバトラーチームと話し込んでいる甲児達に合流すべく脚を動かし続けた。
―――――――――――――――――――
○月×日(無人兵器からビームの雨時々ミサイル、しかし全てDFを抜けられない程度の威力)
『ナデシコに乗り込んでから暫らく経ち、そろそろ火星に到着するかしないというほど地球から遠ざかると、流石に姉さんが恋しくなってきた。荷物の中に仕込んでおいたアルバムを見ようと思い立ち鞄の中を漁っていたらこの日記帳を発見したので航海日誌というものを書いてみる』
『地球圏を脱出する際に軍の追撃を受け、初の宇宙戦闘の実戦を体験したが、トレーニングルームで散々練習したので全く問題は無かった』
『とはいえ、そんなことはこのロボの操縦にかけては天才揃いと言ってもいいスーパーロボット軍団では自慢にもならない。軍の人達だって訓練を積んだプロフェッショナルだろうにあっさりと倒せてしまったのは機体の性能差か指揮官の有能さか。まぁそもそも指揮らしい指揮は受けていないのだけども』
『そういえばその時にふと気付いたのだが、軍のデルフィニウム、そしてこのナデシコに搭載されているエステバリスにも使われているIFSがあれば馬鹿正直にナチュラル用OSを組む必要は無いのでは無かろうか』
『とりあえず投薬やらなにやらで神経加速するよりは、注射一本で思い通りに動かせるようになるIFSの方が格段に優れている筈だ。三馬鹿なんて作ってる暇があればIFSでMSを動かせるようにすればいいと思うのだが、そこのところには俺の計り知れない何かが働いているのかもしれない』
『暮らしてみて実感が沸いてくるスパロボ世界のちぐはぐさ。ゲームで見ている分には面白いが、実際に暮らしてみるとそこら辺の矛盾というものには胸がもやもやとしていけない』
『そんな気分になってしまった時にはボウライダーのコックピットでみんなと一緒にシミュレーションだ。最近は主人公君、いや統夜も積極的にベルゼルートの扱い方を知るために積極的に動いているようで、飯時や非常識な時間帯でなければ大概は相手を見つけることができる』
『そういえば統夜が積極的に訓練を積むようになる少し前に、なにやら落ち込んでいるメメメを廊下で見かけたので、例によって例の如く拾ってお菓子を与えて元気づけてみたのだが、なにやらその事に関してカティアとテニア、そして統夜に感謝されてしまった』
『人から感謝されるのは悪くないのだが、別に善意のボランティアでやった訳ではないので少し困る。俺が三人娘に投与した洗脳・観測ナノマシン、メメメは特に量が多く、詳細なデータを得ることができるので度々データを回収する為にはこういう気配りだって必要なのだ』
『実験用のマウスだってかわいがってやった方がいい結果を残してくれると樹教授も言っている。いや、ここまで露骨な表現だとなにやら不穏当な話をしているように思えてしまう。なにかもっと柔らかい言い方は無いものだろうか』
『では、そろそろ火星に到着する頃合いだろうし、ここらで筆を置いてボウライダーとスケールライダーの調整をしにいこうと思う。機会があったらパラディンもさりげなく作って置いておきたいものだ』
―――――――――――――――――――
ナデシコ格納庫、俺は美鳥と共にボウライダーとスケールライダーの調整を行っている。スケールライダーの調整は終わったのであとは俺のボウライダーの調整だけだ。
「オルゴンエクストラクターは?」
「データが少ない、予備の動力程度にしかならん。あと、サイトロンとの繋がり方がいまいちわからん、暫くはただのお守りだな。そっちは?」
「あたしもダメ、サイトロンってのは何となく掴めて来たんだけどね。まぁ今のところはこんなもんじゃね?」
「仕方ないね……」
調整と言っても普通に計器の調子を見たり内部部品のチェックをする訳では無い、俺がコックピットに乗り込み装甲に包まれた中身の機械部分全てに融合、内部の機械部品に破損があれば破損パーツを取り込み正常なパーツを複製して置き換えるというやり方だ。
ウリバタケさんら整備班の方々には極めて高度なセルフチェック機能があるからあまり弄らなくていいと伝えてあるが、なにやら逆に興味を持たれてしまっている気がする。世の中とはままならない。
実際、あまり中身を覗かれるのは困るのだ。この強化ボウライダー、外見こそ変わっていないが、最初に積み込んだ時とは別モノになってしまっている。
構造材はすでに粗方超合金ニューZに差し替えてあるし、ブラスレイター世界の反重力推進装置を、複製できるようになったエステバリスやナデシコのものを参考に強化、次いで大気圏外での戦闘時に使う為に超小型で高性能になった相転移エンジンを搭載。スケールライダーも似たような改造を施されている。
改造しすぎな気もするが、これでもかなり自重したつもりだ。もし誰の目も気にする必要が無いなら、ボウライダーは両手の速射砲からグラビティブラストを連射しながらディストーションフィールドを張りつつ突撃して超電磁スピンで敵戦艦のどてっぱらに風穴を開ける超兵器になっている所だ。スケールライダーが人型に変形してピンポイントディストーションフィールドパンチを繰り出すのは言うまでも無い。
「ま、外から見た変化は無い訳で、そうそうバレるもんでもないっしょ」
「でもこないだウリバタケさんに突っ込まれたぞ。『被弾した時の破損が減ってるが、なんか改造でもしてんのか?』って」
どうせなら俺にも一枚噛ませろよ、とも言っていたが丁重にお断りした。それはもうお断りの途中で宙返りするほど徹底的にお断りだ。ナデシコ原作のエクスバリスの二の舞にはなりたくない。
あの手のマッドが開発した超兵器は必ずどこかで故障するんだ。西博士とかも技術はすごいが決して自分の機体を弄らせたい相手では無いだろう。流石にウリバタケさんを西博士と同列に扱うには違う気もするが、単なる比喩表現だから深く考えてはいけない。
でもフィールドランサーとかは上手くいってるから、細かい物なら任せてみるのもイイかもしれない。パラディンでも渡してみれば面白いものを作ってくれそうだ。
全てのチェックが終わったのでボウライダーのコックピットから出て格納庫を見渡す。明らかにエステバリスを整備することを念頭に置いている格納庫だが、どういう訳か20メートル程度のマジンガ―もキッチリ収まっている。コンバトラーは流石に合体前の状態だが、それでも狭く感じない。
ナデシコ世界でなくスパロボ世界なので大きな機体も積み込めるようにオリジナルのナデシコよりも広めにスペースをとっている可能性もあるが、ゼオライマーとか来たらどうなってしまうんだろうか。あ、でも分離できるんだよな。50メートルを半分だからマジンガ―より少し大きい程度。意外と入らないでも無いのかもしれない。
ボウライダーの頭部から飛び降り格納庫から出て、廊下を美鳥と並んで歩く。しかし、日記も今日の分は書いてしまったし整備も終った。
「あー、整備終わったからもう本気でやることが無い。暇だ」
姉さんのアルバムも一気に全て見直してしまうのは勿体ない。レクリエーション施設でなんか無いかなぁ。考えていると美鳥に上着の裾を引っ張られた。
「じゃ、食堂に飯でも食いに行かない?」
食堂かぁ、それも悪くないけど。
「意外とここの自販機の照り焼きバーガーが美味くてなぁ」
自販機販売なのにモス並の美味しさ。いや、マックも好きだけど、高級感があるというかなんというか。
元の世界のパーキングエリアとかに置いてある食い物系の自販機のような、微妙にしょんぼりする微妙な出来のものではない。あれとはものが違うのだ。気にならない訳が無い。
「お兄さん、意外とジャンクフード好きだよね。普段は超自然食の割に」
「普段は自然食だからこそだと思うぞ。何だかんだで食事とる回数は食堂のが多いし」
実家だとジャンクフード食べに行くにも電車で二時間以上掛かるから、ここまでお手軽に食べれるとついつい手が自販機に伸びてしまうのだが、パイロット同士の付き合いで訓練後に一緒に食事をとる機会が多いので自然と食堂に行く回数は多い。
まぁ、飯時だからそれなりに人がいるだろうし、世間話でもして時間を潰すのが吉か。
―――――――――――――――――――
でんっ、とテーブルの上に器を乗せる。今日はなんだか麺類な気分だったのでトッピングで様々なバリエーションが楽しめる温かい蕎麦にしてみたのだ。蕎麦の上にはあぶらげにワカメに卵に山菜にコロッケに天ぷら各種にその他諸々、とりあえず食いたい物を片っ端から盛って貰った。
盛って貰う時に揚げ物系を後から乗せて貰う事により、汁の中に沈んでしっとりと味がしみ込む部分と、汁の上にはみ出して汁気を吸わずにサクサクのままの部分の両方が残り、揚げ物を倍楽しむことが可能となる。
「うわっ、なんだそれ……」
「うわっ!なにそれかっこいい!」
「かけそばのトッピングほぼ全部載せ。いやー、多目にトッピング頼んだら何品かおまけしてくれてな」
トッピング増し増しの蕎麦を見て、統夜とテニアが発音は同じなのに全くニュアンスの異なる『うわっ』という言葉を同時に口にした。前者は明らかに乗せ過ぎで無茶苦茶な食い合わせに引き、後者は一つの器にこれでもかと乗せられた数々のオカズに興味津津である。
普通はこんな食い方はしないからリアクションとしては統夜の方が正しいのだが、テニアのリアクションは羨望の眼差しと併せて心地いい。別に受け狙いでやった訳では無いがそれはそれこれはこれ。
しかしこれはオカズがかさばり過ぎて蕎麦までが遠いという欠点もある。早く蕎麦に到達しないとグニョグニョにのびてしまい勿体ない。一部オカズを先に食べ、蕎麦を取り出す隙間を空けなければならない。
手始めにワカメの上に配置されてコロッケの征伐にかかる。噛んだ瞬間にザクッという音をたてるコロッケ、ザクッザクッといい歯ごたえの衣と、中のジャガイモやひき肉、コーンなどを使ったシンプルな味の具が汁気にマッチしてとてもいい。
一気にコロッケ終了、コロッケの下に隠れていたワカメを少し掻き分け、蕎麦と一緒にズゾゾッと一気に啜って食べる。少し柔らかめの麺だが、それをワカメの歯ごたえが補ってくれる。このワカメ、多分乾燥じゃないな。どうやって保存してるんだろう。
どんなトッピングの組み合わせでも美味しく頂けるように蕎麦の茹で具合や汁の濃さも調整されているのかもしれない。箸が進む、これは直感に従って正解だった。
しばらく食べているとごくりと生唾を飲む音が耳に届く。顔を上げるとテニアが厨房の方へ駆け出して行く姿が。
「わたしも蕎麦注文してくる!」
なんて単純な奴だ。こういう奴はグルメリポート番組とか見ると番組終了後にすぐに似たようなものを近所の店に探しに行くんだよな。近所にその店があるなんて状況だったらすぐにでも脚を運んで同じメニューを頼んでみたり。
厨房へと走る後姿を呆れた顔で見送った統夜が、ふと何かに気付いたようにこちらを向いた。
「美鳥ちゃんは一緒じゃないんですか?」
「ん?美鳥が気になるのか。なんだ惚れたか?ロリコンとは頂けないな」
「違う!そうじゃなくて、大体いつも一緒に居るでしょう?さっきも入ってくるまでは一緒だったし」
「いっつもいっつもひっついてる訳でも無いけどな。美鳥はあっちで遊んでるよ」
食堂の一角、やけにどたばたと騒がしいスペースを指差す。先に飯を食べ終わっていたコンバトラーチームが駄弁っていたのだが、それを見た美鳥が、ちょっと確かめたいことがあると向っていったのだ。
「ほーらほら関西人、この匂いがダメなんだろ~?」
「ぬわ臭っ!納豆こっちに近づけんのやめぇ!ちょ、ま、ホンマに勘弁してや美鳥ちゃん!」
美鳥が納豆を掻き混ぜながらコンバトラーチームの十三を追いかけまわして遊んでいる。やはり昔の作品のキャラはコミカルな追いかけっこが様になる。絵柄――もとい人柄の問題だろうか。
しかし遊ぶのは構わないが、追いついたらどうするつもりなのか。無理やり食べさせるのか?まさかぶっかけるとかはあるまい、十三の納豆ぶっかけ画像とか誰が得をするっていうんだ……。
因みに豹馬はそれを見て助けに入るどころか指を指して腹を抱えて笑っている。薄情なのではなく信頼しあっているとかそういう解釈でいいんだろう。
「あれ、止めなくていいんですか?」
向かいの席で月見うどんをすすっていた統夜が俺に遠慮がちに聞いてきた。カティアは統夜の隣でごくごくありふれた定食を食べている。そういえばこいつだけ食べ物ネタを持っていないな、実は味音痴とかあったらキャラとして美味しいのに。
テニアはまだ戻って来ない、蕎麦に何をどれだけ乗っけるか迷っているのだろう。基本この二人が統夜の両脇を固めている。両手に花と言う人も居るだろうが、逆に身近に同性が少ないと不安を覚える年頃でもあるらしく、度々甲児やら豹馬を誘っている。
まぁ、大体の場合において甲児はガールフレンドであるさやかと一緒に食べているので、女だけに囲まれているのとはまた違った居心地の悪さを感じるだろうが何事も妥協は必要だ。
そういった訳で、殆ど気がねなく飯を一緒にできるのがコンバトラーチームか俺と美鳥だということらしい。そうでなければ一人で食べるかだが、流石にそこまでさびしい選択肢は選ばないのが主人公らしさと言えるだろう。
今回は食堂に入った時点で先に注文を決めていた統夜達に見つかり同席しないかと誘われた、というのが今回のあらすじ。それなりに混み合っていたので席を取っておいて貰ったのだが、美鳥の席は無駄になりそうだ。
「いいんじゃないか?ああやってコミュニケーションをとってれば仲間意識が芽生えてくだろうし」
というか、関西人が本当に納豆を嫌いかどうか試したいとかどうとか言っていたが、実際に近づけてみるとその嫌がりようが面白過ぎたというのがあの追いかけっこの原因だろう。リアクション能力の高さが仇となった瞬間である。
身体能力的に美鳥もトンでもになっているから捕まえられない訳は無いし、今はどのタイミングで捕まえるのが面白いか考えながら追い詰めて遊んでいる、ネズミを弄る猫のような状態だ。どうせ十三のリアクションに飽きるか捕まえるかすれば戻ってくるだろうし気にする必要も無い。
「美鳥ちゃんって納豆食べれるんですね。わたし、ああいうネバネバしたのダメだから――」
隣の席でケーキ各種を美味しそうにぱくついていたメメメがずれた発言を――
「ちょっと待った、飯それだけ?」
「そうですよ?」
『それがどうかしました?』とでも言いそうな顔。メメメから視線を外し統夜を、続けてカティアを見る。二人ともから視線を逸らされた。
「ちゃんとご飯を食べるように言ったけど……」
「甘いものを大量に食べないと最近は暴れ出しそうな勢いで……」
気不味そうな表情で言い訳?をする二人。いや、別に責めてるわけじゃないんだが。というか、これももしかすると洗脳の副作用かもしれないと考えれば責める筋合いはない訳だし。
不思議そうな顔でやり取りを眺めていたメメメに、通じるかどうかはわからないが説得を試みる。糖尿になって出撃できなくなりましたとかなったらデータを取ることが難しくなってしまうしな。
「メルアちゃん、普通のご飯は食べないのか?」
「いいんです。女の子は甘い砂糖で出来てるからお菓子だけで生きていけるんです」
なんというファンシーな言い訳。ついこの間まで月で実験体やってたのになんでそんな言い回しを知っているんだ。
「そう美鳥ちゃんに教えて貰いました」
統夜とカティアの視線が一斉に俺に向く。すかさず視線を明後日の方角に逸らし回避。連帯責任というか、保護者である俺の責任になるかそうか。いや大丈夫、まだ逆転のチャンスはある、慎重になれ俺。LP三倍差の状態から逆転でアチーブメントを狙うんだ。
「そうか、じゃあ、ここで食べれるならもうお菓子あげなくてもいいね?」
「え…………?」
かしゃん、という音を立ててメメメの手からフォークが落ちる。その音は喧噪に包まれた食堂の中であるにも関わらず不思議と耳に大きく響いた。
青ざめた顔を通り越して顔面蒼白のメメメが、しばしの沈黙を経てゆっくりと口を開く。
「え、え?なんでですか?だって、卓也さんのお菓子、ケーキとかチョコとか、他にもいっぱい、まだ教えて貰っただけの食べたことのないお菓子もあるのに、そんな……」
焦点の合っていない瞳、視線は不安定に揺れ、唇は震え言葉も途切れ途切れ。心なしか肩も小刻みに震えているような。うむ、見事に洗脳の効果が表れ過ぎているな。
ナデシコに乗ってから毎日15時程に定期的にお菓子で餌付けを行っていたおかげで、俺の出すお菓子に特に強い依存症を起こしている。しかしいくらなんでもこれは行き過ぎだ、絶対にその内アップデート用のナノマシンを作ろう。
「ここで食べれるなら俺が作る必要は無いよね?それに、おやつってちゃんとご飯食べて、それで物足りなかった時に食べるものだし。ちゃんとご飯食べないなら要らないと思うなぁ」
「食べます!ちゃんと普通のご飯も食べますから、だから、だから……!」
じわりとメメメの目が潤む。統夜とカティアからの視線に批難するような感情が混じりだしているし、そろそろ〆に入ろう。
涙目のメメメに猫撫で声で優しく語りかける。表情も意識して極力優しそうな、慈悲に溢れる教会の牧師のように。或いは上手く契約を取り付けることに成功した詐欺師のように。
「よしよし、泣かない泣かない。これからもお菓子あげるから、ちゃんとご飯の時間には普通の食事をとるんだよ? 」
「は、はい!」
涙をぬぐいながら力強く頷くメメメ。ここですかさず言う事を聞いたご褒美をあげることでスムーズにマッチポンプが成立。マッチポンプで合ってるのかこれ?まあいい、ポケットから飴を取り出しメメメの前に差し出す。
「良い子だ。さぁ、ご褒美に飴ちゃんをあげよう」
「はい!あー……ん、おいひいれす……♪」
口を開けて待つメメメの口に直接飴を放り込む。口に入った飴を蕩ける様なうっとりした表情で舐め回すメメメ。着々と警戒心は解かれていっている。
これにて一件コンプリート。反省したメメメはこれからちゃんとしたバランスのとれた食事を取るようになるだろう。しかし、統夜とカティア、そして何時の間にか遠巻きにこちらを窺っていたギャラリーからの視線はなんだか納得できてなさそうな微妙な視線だった。
―――――――――――――――――――
○月■日(晴天なり、多分後からグラドスが降るでしょう)
『何事も無く、とは行かなかったが火星に無事到着。少し前に木星蜥蜴の無人兵器が襲って来たが、まぁここまでは相手も様子見のようなものなので楽勝だった』
『少し前にブリッジでこの星は狙われている発言を聞いた。ロリウェー、行き先はロリウェー、遥か彼方のイエスロリコン、ノータッチ。ロリロリ煩い奴らだ、ボウライダーの荷電粒子砲でなぎ払ってやろうか』
『火星編はここからが本番と言える。これから戦うことになるグラドスについてだが、ここはまぁ細かく言及する必要は無いだろう。自宅のトレーニングルームで飽きるほど相手にしたし、比較的すばしっこい相手だが捉えきれないほど速いという訳でも無い』
『本題に入ろう。生き残りを探しにこれからユートピアコロニーへ向かう所だが、グラドスが攻めてくる前にそこで手に入れておきたいものが存在する。この火星でしか手に入らないものだ』
『後々不必要になるものではあるが、どうせすぐ壊れて無くなってしまうモノ、資源は有効に活用しなければいけない。無駄にしない心がけが大事だとルーが、ルーがやれって、俺は、俺は悪くねぇ!とか書いておくと後々精神的に成長できたりするかもしれない』
―――――――――――――――――――
明かりの少ない地下シェルター、その中でも特に暗い、コンテナの陰になっているスペースに耳障りな異音が響いている。何かを舐め啜りしゃぶり、ゆっくりと噛み砕くような捕食音。締め付け貫き、ごりごりと磨り潰す尋常為らざる非日常の音。
ずるり、ぐち、ぎちぎち、ぎちぎち、ず、ず、こり、ぽき、ぐじゅぅ
久しぶりに聞くこの音、そういえばこういう触手として真っ当な使い方をする機会はあまり無かったな。
「あ、ぁあぁあぁぁ、ぎ、ひ、ゃ、らぁ……」
やはり触手を使う以上は生き物を捕食するのが一番自然だと思うんだがどうだろう。だってほら、こんなによだれやらなにやらよくわからない液体やらを垂れ流しつつ喜んでくれてるし。
全身の細胞への融合同化なんて本来常人ならショック死しかねない痛みが伴うものなのだが、脳味噌に先に少し細い触手を指して感覚を変換している為、ショック死しないが気が狂いそうなほどの他の感覚を得ているはずだ。
どんな感覚かはご想像にお任せする。ただ、この人はこれから俺に取り込まれてこの世から消えてしまう訳であるからして、最後にいい思いをさせる程度の仏心は備えていると言っておく。
「――っ――!ご、お――ほぉぉ――♪」
「良かったなーあんた、これで目出度く地球にいけるよ。他の人に内緒で抜け駆けした甲斐があるってもんじゃない?まぁ地球に行くって言ってもお兄さんの一部に還元されてだけどね」
触手と半ば融合し始めている獲物の肩を叩きながら美鳥が笑顔で話しかける。あ、馬鹿、今下手に刺激を与えるとまずいんだって。
肩を叩かれた相手が身体をぶるりと震わせた。俺は素早く触手を突き刺した獲物の口に柔らかい触手をねじ込む。
「ん、ンんnんnhs2<*`-!”#――――!」
獲物は触手に口をふさがれたままくぐもった言葉になっていない叫び声を上げ、ぐりんと白目を剥いて気絶してしまった。
「感覚が過敏になってるから触るなって言っといたろ?」
「この場合『触るな』は『触れ』じゃね?ていうか、そろそろ引き上げないと怪しまれるよ流石に。他のみんなが近づいてきてるし、そろそろ退散しなきゃ」
美鳥の言葉を受け急いで触手から獲物を取り込む。衣服の類も丸ごと取り込んでしまったが別に支障はない。触手を格納して何食わぬ顔で他の連中と合流した。
「すまん、こっちは駄目だった。そっちはどうだった?」
「そっちもだめだったか……」
合流したアキトや甲児、豹馬などに嘘の報告。やはり他の場所では地球に帰りたがっている人間は見つけられなかったらしい。さっきの人を見つけられたのは幸運だった。
「せっかく火星まで助けに来たってのにこれじゃなぁ」
「木星トカゲだってなんとかできるって言っても信じてくれないし……」
「なーに、実際に目の前で倒して見せれば気が変わるさ」
「うんうん」
見事なプラス思考だ。厳しい戦争の中で心を病まないままでいる為にはこれくらい楽天的な方がいいのだろう。適当に相槌を打ちながらナデシコへ戻る為に各々の機体に搭乗する。
イネスさんをナデシコに迎える傍ら、みんなでナデシコに乗りたがっている人が居ないか探していたのだが、俺と美鳥は運良く周りの空気を読まずにナデシコに乗りたがっている若い女性を見つけることができた。
しかし流石に自分だけがここから出て生き残りたいなどと他の大多数の前で言えるほど肝は太く無かったようで、俺と美鳥を人気のない場所に連れ込みこう言った。
『こんな侵略者に溢れた危険な星に居られないわ、私一人でも地球に帰らせて貰うわよ!』
見事な死亡フラグである。当然の事ながら罠であり、この女性は既に俺の腹の中。A級ジャンパーの生体データを俺に提供してこの世を去った名も知らぬ女性には感謝してもしきれない。
そもそもナデシコに乗りたがっている人を探しに行くというのも適当に火星生まれ火星育ちで、なおかつこの後ナデシコのディストーションフィールドに押しつぶされる人を適当に取り込んで置く為だったのだ。
一人でもナデシコに乗りたがっている人が居るならとりあえず先にその人だけでも連れてくるべきだ。そんな俺の言い訳的発言を聞きつけた一部連中が勝手についてきた時は焦ったが、どうにかこうにか上手いこと他の連中と離れて行動できた。
まさか連中も自分たちが助けようとしたその一人が、自分たちの仲間に食べられてしまったとは到底考えもつくまい。そうしてナデシコに戻りグラドスとの戦闘が開始され、ここは押しつぶされて証拠は残らない。
これでいざという時の回避方法が手に入った。俺の身体が生き物として判断されるか無機物として判断されるかわからなかったので、念のために居なくなっても誰も気付かないA級ジャンパーを取り込んでおこうという計画は何の問題も無く成功したことになる。
スイーツ(笑)とかつけてしまいたくなるほど呆気なく成功してしまった。俺か美鳥の精神コマンドに幸運が無いのが不思議な位だ。後々手痛いしっぺ返しを食らわないか少し不安になるが、今からそんなことを気にしても仕方ない。
あとはCCが必要だけど、これはその内ナデシコに持ち込まれるからどうとでもなるかな。いざとなればチューリップの破片を回収して使うのもありかもしれない。確か人工のCCと違ってオリジナルのチューリップは使っても無くならないんだっけ?どっちにしても複製を作れるから心配する必要は無いか。
―――――――――――――――――――
△月◆日(ザフトが降ってくる予定だけど、できれば遅れてきて欲しいなぁ)
『地下シェルターに隠れていたA級ジャンパーをこっそり取り込み、何食わぬ顔でナデシコに戻った。艦長に地下の施設ごと証拠隠滅を行って貰い、そのままグラドス軍との戦闘に突入。なんだかんだでチューリップの中に逃げ込み、提督と山田を生贄に捧げて見事に地球圏への生還を果たした』
『山田の仏壇――を作るのは面倒なので遺影――を飾ろうにも写真が無いので黙祷を捧げておいた。奴が生きるか死ぬかはこれからの主人公のルート選択次第だが、正直催眠術なり洗脳なりで主人公の行動を制御する気まんまんな俺が居る限り山田との再会はありえないだろう』
『山田は話してみればいいやつだった。奴が死ぬまでに、次郎という名前をジローと呼ぶと左右非対称ヒーローみたいでカッコいいという事に気付かせてやれなかったことだけが悔やまれる』
『まぁ逆にそこだけしか悔やむ場所が無かったとも言える。さらば山田、お前のことは忘れない』
『精一杯故人を偲んだ処で現在の状況だが、俺たちは今回初の接近遭遇となるラダムを見事退け、Dボウイのヌードを拝み、ナデシコはヘリオポリスに半舷上陸中した。俺と美鳥は待機組ということで残念ながら居残りで留守番だ』
『もしも俺が、せめて美鳥が最初の上陸組だったらばブラスレイターに変身して正体を隠して、そこら中を破壊して軍事施設を何としても見つけ出し、建造中のアストレイシリーズを全機複製できるように取り込んで、それでいてロウ達にも渡るようにオリジナルは残してこっそり帰ってきてホクホク顔でコレクションにしていたのは確定的に明らか』
『どうせバスターだのストライクだのは勝手に自軍に入ってくるのでその時取り込めばいいとして、記念すべきアストレイシリーズ最初の機体だし、能力の向上とかそんなのを抜きにしても欲しかった』
『欲しかったが、わざわざぬけ出してまでそんな真似をするのはリスクが高い――ああ、集団生活のなんと煩わしいことか!いちいち怪しまれないようにと行動に気をつけなければならないというのは中々にストレスが溜まる』
『交代まで待てば行けるんじゃないかなどと考えてはいけない、空気を読まないザフトが攻めてくるお陰で前半の待機組は船を下りて買い物をする暇もない』
『人様に迷惑をかけるなとは言わないが、せめて俺に迷惑をかけるのだけはやめてほしいものだ』
―――――――――――――――――――
「っと。こんなもんか」
日記帳を閉じてペンを置き、脇に置いておいた缶のお茶を一口。ホットのものだった筈だが、日記を書くのに時間をかけ過ぎたせいですっかり冷めてしまっている。
手を発熱させて温め直す。これは下手をすれば高温に缶が耐えきれず融けてしまうのだが、絶妙な手加減で熱さ60℃程度に調節完了。何故俺の精神コマンドにてかげんが無いのか理解できない程の見事な手並み。Jにてかげんの精神コマンドが存在しないのが主な原因か。それしか無いか原因。
そういえば精神コマンドを使うほど手こずる事が無いので今のところ気になってはいないのだが、こちらに来て最初に覚えた精神コマンドが『愛』で、次いで覚えたのが『覚醒』というのはどうなんだろう。
まるで俺の人生を現しているような分かりやすいラインナップではあるのだが、現状の最大SP量を考えるとここぞという時にしか使えないのが難点か。早く非常食を手に入れて複製できるようにしたいものだ。
お茶を手にぼーっとしているとコミュニケに着信、モニタを付けると煮え切らない景気の悪い表情の統夜の顔が映った。
「なんか用事か?俺は今暇で暇で仕方ないからどんな用事でも大歓迎だぞ」
「いや、俺、ここで降りるから、挨拶くらいはしていこうかって。……色々と、お世話になりました」
そういえばここで降りようとしてたんだっけか。しかしわざわざ俺のところにまで挨拶にくるとは律儀な奴。こいつとの付き合いって訓練とその後の飯と、あとはメメメの餌付けの時に一緒に居た位か?
「んー、気にすんな。仲間が助け合うのは当然なんだし。船降りても元気でな」
俺のセリフを聞いて意外そうな顔をする統夜。
「止めないんですね。卓也さんは」
「意外か?」
「メルアと仲が良いみたいじゃないですか。てっきり引き留めに加わるんじゃないかって」
どうせ降りる前に戦闘に巻き込まれる運命だから止める必要が無いだけなんだが。
「俺が止める必要は無いな。どうせ三人から引き留め喰らってたんだろ?なんとか撒いたところだろうけど、どうせ降りる寸前にまた引き止められるぞ」
「……俺だって、なんとかしてやりたいとは思ってるんですよ。でも――」
言葉を途切れさせ沈黙する統夜。二週間程度の付き合いとはいえ、もう無関係とは思え無くなってるってこの間三人娘にも言ってたし、色々複雑なんだろう。
「まぁ、まだ降りるまでもうちょい時間があるんだからゆっくり考えればいい。契約の解除とかもまだなんだろ?」
「そう、ですね。なんだかすいません、湿っぽくなって。じゃあ、お元気で」
「ん、じゃ、『またな』」
通信を切る。持ちっぱなしだったお茶の残りを飲み干して缶を握りつぶし、ビー玉サイズまで丸めてごみ箱に放り込み、掌を見る。見つめる掌からじわじわとクリスタル状のボックスがせり出してきた。
テッカマンの変身に必要なシステムボックス、Dボウイがナデシコに回収された時にさりげなく取り込んで複製したものだ。ボックスを掌で弄びつつ、なんとはなしに呟く。
「どこに行っても逃げようなんて無いんだけどな。そういう運命だし」
せめてカルビさんルートなら戦いには巻き込まれなかっただろうけど、そんなもしもの話をしても意味は無い。サイトロンコントロールもまだ習得し終えて無いし、せいぜい死なないようにフォローに回っておこう。
警報が鳴り響く、ザフトがようやくやってきたか。このまま運良く俺も上陸できないかなーとか密かに考えていたが、来てしまったならしょうがない、ジンを蜂の巣にしてストレス発散でもしようか。
―――――――――――――――――――
重斬刀を構え斬りかかろうとするザフトのジンに、マジンガーが両腕を向けた。熱い叫び声がスピーカーから響き、兜甲児の意思が恐るべき攻撃力を持って表現される。
「ロォケットパァーンチ!」
マッハ1.5で飛ぶ超合金Z製の拳を正面からまともに喰らい、胴体に風穴を空けられ爆発するジン。一般兵の量産型MSがスーパーロボットに立ち向かうなんて自殺行為なんだが、どうにも恐れを知らなさ過ぎる。
向こうでは倍以上も大きさの違うコンバトラーに果敢にも立ち向かう数機のジン。無反動砲や粒子砲で一斉攻撃を仕掛けているが、コンバトラーはほとんど無傷、反撃でVレーザーやヨーヨーを喰らって見るも無残な残骸に変えられて行く。
SPTやエステバリスなどの体格でMSに劣る小型機体はある程度まとまって行動し、互いに互いを援護しつつ的確に敵を撃墜している。この辺は見事な連携だ。
美鳥の駆るスケールライダーも、何故か弾切れしないミサイルやバルカン、レーザーをばら撒きながら敵陣を掻き廻し、運良く弾幕を掻い潜って来た機体も光刃で斬り飛ばし、縦横無尽に暴れまわっている。
「俺も気合い入れるか」
ボウライダーを地面から数メートル浮かばせ、滑るように移動しつつ両腕の速射砲から砲弾をばら撒く。超音速の砲弾に全身を食い破られ、穴だらけのスクラップと化す進路上の無数のジン。
遠距離では狙い撃ちにされると思ったのか、一機のジンが片手で突撃機銃を乱射しながら重斬刀を構え、激突しかねない勢いで突撃してくる。しかし、ジンの機銃程度ではこの強化ボウライダーに元から備え付けてあるバリアすら抜けない。
迫るジンを真っ向から受け止める為に速射砲を放り捨て、スクラップと化したジンの上に一旦着地。腕部に折りたたまれて格納されていたブレードを取り出し、頭上から振り下ろされた重斬刀へと叩きつける。
重量差、体格の違いで押しつぶしにかかるジンだが、内部フレームもしなやかかつ頑強になるように手を加えられたこの強化ボウライダーはビクともしない。ガワはほとんどボウライダーと変わらないが、馬力だってもうスーパーロボット同然なのだ、MS相手にパワー負けはありえない。片手のブレードで重斬刀を抑えながら、もう片方の手からボウライダー用に大型化したレーザーダガーを展開、コックピットを貫く。
パイロットを失ったジンがぐったりと動きを止める。それをレーザーダガーで貫いたまま片手だけで持ち上げ、レーダーを確認、背後から接近するジンが二機、速射砲を拾うのも面倒だしこのまま接近戦で押し通ってみるか。切れ味を増す為にブレード表面に超電磁フィールドを展開、レーザーダガーは使わないので消しておく。
先行している方のジンに、持ち上げていたジンを投げつける。MS丸一機分の質量をぶつけられたたらを踏むジン。反重力推進装置に背中のブースターも併用して高速で懐に潜り込み、股下からブレードで切り上げ、投げつけたジャンクごと真っ二つに切断。
ブレードに張られた超電磁フィールドが敵の装甲の分子構造を分解することにより、どんな固い装甲も豆腐を切るように切断することができる。ナデシコにはまだ乗っていない方の超電磁ロボの必殺技、これを使う為だけにブラスレ世界でICBM相手に追いかけっこしたと言っても過言では無い。
真っ二つになったMS二機が至近距離で爆発するが、バリアと超合金ニューZ製の装甲のお陰で傷一つ付かない。と、爆炎に呑まれた俺のボウライダーに止めを刺そうとしたのか、目の前にはもう一機、先ほど後ろから迫っていたジンの片割れが無反動砲を構えている。
発射、迫る砲弾、当たってもダメージはほとんど無いが喰らってやる義理も無い。空中に跳んで回避、そのまま前方に宙返りして接近、ジンの一つ目頭を踏みつぶし、更にそこを足場にして最初に速射砲を捨てた位置まで跳躍、着地。
カメラアイを潰されたジンを放置してブレードを格納、速射砲を拾う。ああもう、もしも人目が無いところでの戦いなら捨てた速射砲なんて拾わずにそのまま複製を作り出して使うのに。面倒ったらありゃしない。
頭を潰されふらついているジンに砲口を向けトリガーを引く。引きっぱなしで暫く放置するとジンは影も形も無くなり、跡には細切れの金属片が大量に散らばっているだけ。
やはりスカッと爽快な威力だが、いかんせん的が脆過ぎる。この『強化ボウライダー・J本編男主人公ルート六話までの技術ちょこっと反映バージョン』の速射砲は、毎分6000発の超合金ニューZ製の砲弾を吐き出す電磁力速射砲。給弾は俺がひたすら複製して行い、弾頭は回収して再利用されると厄介なので数分で塵になるように設定している。
この破壊力を向けるに相応しい、逞しく強靭な敵は何時現れるのか。少なくともあと数話は時間が必要になることだろう。出てこなければ弾頭を代えて威力を下げるとかしないとつまらないかもしれない。
手加減具合について考えていると、ベルゼルートから通信が入った。ほっとした顔の統夜とカティアの顔が映る。
「すいません、助かりました」
「あん?」
ベルゼルートの方をボウライダーのカメラアイで確認すると、俺の目の前に居たジンほどでは無いが、穴だらけになって爆発したと思われるジンの残骸。どうやら目の前に居たジンを貫通した砲弾が、ベルゼルートに接近していたジンに直撃していたらしい。
いかんいかん、どうにも流れ弾を気にせず戦う癖が抜けていないらしい。今回は偶然味方への援護になったからいいが、レーダー見つつ射線を気にして戦わなきゃだめだな。今後の課題にしよう。
「ああ、気にせん気にせん。どうせ暫くは一緒に戦うんだしな」
「そうですね。暫くは……」
「統夜……」
暫くは一緒=まだベルゼルートに乗り続けなければならないという結論を改めて他人の口から聞き、自分で決心して乗っているにも関わらず思わず暗くなる統夜と、申し訳なさそうな顔をするカティア。
さて、これでこっち側の敵は全部片付いたかな。コロニー内だから荷電粒子砲は自重したが、これだけやれれば充分だろう。作戦終了を告げるしまじろう声の指示に従い、俺は悠々とナデシコへと帰還した。
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△月◆日追記
『ヘリオポリスオワタ。貴重なアストレイが……!』
『思わず『……!』をきっちり書いてしまうほど力が籠った嘆きだと思って欲しい。おのれザフト、許さない、絶対に許さないよ!』
『次回遭遇時は一切の自重を捨ててじわじわとなぶり殺しにしてくれる。もう改造に使った資材の出所とかはその辺の廃材を使ったとでも言っておこう。ザフトが相手ならば多連装グラビティブラストを使わざるを得ない』
『奴らの顔が驚愕と恐怖に醜くゆがむ様が目に浮かぶようだ。とかなんとか妄想していたら少し落ち着いてきた。文章を書く行為には精神を鎮静化させる作用があると思う。流石に多連装は無いわ、機動要塞でも作るつもりか俺は』
『どうでもいいことだが、今さっきエールストライクがコロニーの脱出艇を持ってナデシコにやってきて、その時にこっそり取り込んだので複製できるようになった事を記しておく。後でデブリから資材を回収する作業の時にアークエンジェルにも行けるはずだから、他のストライカーパックと、あとはアークエンジェルの陽電子破城砲もコピーしたいと思う』
『あぁ、アストレイくるか?とか思ってたのになぁ。なんかもうがっくり来たから今日はもうこれ書いたら寝ようと』
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宇宙空間、使えない大型のデブリを手で払いのけるコンバトラー。豹馬の気分を現しているのか、その動きもどこか嫌気がさしているような荒い動きだ。
「宇宙のゴミ溜まりって聞いたけど、ホントにゴミばっかりだな」
「特に木星トカゲとの戦闘が始まってからは、戦艦や戦闘機の残骸も流れてきますし、噂では破壊されたコロニーの一部もあるそうですよ」
「やれやれ、宇宙でゴミさらいかよ」
どいつもこいつも戦闘とかだと割とプラス思考なのにこういう地味な作業だと愚痴愚痴言いだす。戦うんでは無いのだからして、人死にとか考えずに動かせるんだからもう少し明るく行くべきじゃないか?
まぁ、ひたすらゴミを掻きわけて使える資材が無いかチェックするだけの作業というのは戦闘に比べて非常に地味な作業だからテンションが上がらないか。
「馬っ鹿だなぁお前ら、ゴミさらいじゃなくて、た・か・ら・さ・が・し・♪」
スケールライダーが二本の脚でコンテナを掴み、こちらにゆっくりと投げつけ、またデブリの中へ戻って行く。この世界に来て初めてスケールライダーの脚が役に立つ場面だからか妙に張りきっているなアイツ。
俺達は現在、崩壊したヘリオポリスを離れ、物資の積み込みも中途半端なまま出向したアークエンジェルの為にデブリ帯で撃破された戦艦や破壊されたコロニーの残骸を漁り、使えそうな物資弾薬の入ったコンテナを探している。
そんなもんが都合よく流れているものなのかと最初は疑ったが、所々焦げたりゆがんだりはしているものの、ある程度中身が無事なコンテナはそれなりに残っているようだ。ジャンク屋が繁盛する訳である。
そういえばこの世界のジャンク屋、絶対木星トカゲの戦艦とか無人兵器のジャンク回収してるんだろうな。MSの携帯式ローエングリンランチャーとか作れる連中だし、絶対モビルスーツ用のグラビティブラストとか携帯式ディストーションフィールド発生装置とか作ってるんじゃないか?
作業用のキメラとか、バッタの残骸流用してディストーションフィールドとか使えそう。掘削の効率が格段に上がっている可能性だってある。そういえばナデシコ原作だとドリル付きの無人兵器が火星に居たな。
ああ気になる。レッドアストレイが光電球の代わりにディストーションフィールドパンチとか使う可能性があるんじゃないかと思うだけでジャンク屋に合流したくなってくる。
しかしそんな欲望を無理やり押さえてゴミさらい。今は趣味より実益を優先、全て終わった後に観光で再びこの世界に訪れることも出来ないでは無いだろうし。
「ぱっと見この辺はジャンク屋どももまだ手を出して無いみたいだしな。アークエンジェルに積み込む物資に弾薬程度ならすぐ集まるだろ。なんかに使えそうなパーツを探す暇は充分ありそうだ」
このデブリ帯で木星トカゲの残骸を発見して流用したとか言っておけば、ボウライダーがグラビティブラストを撃ってもディストーションフィールドを張っても言い訳はできるしね。
投げ渡されたコンテナを持っていた他のコンテナにワイヤーで括りつけ一纏めに。今回はデブリの中から資材を回収するだけの任務なので速射砲は持ってきていない。
大きな塊になったコンテナをコンバトラーに押し付け、ボウライダーもデブリの中に突っ込ませコンテナを探しに行く。それっぽい残骸とかも拾っておいて、あとで改造資材の出所の言い訳にしよう。
「鳴無兄妹ほどプラスには考えられんが、これも仕事のうちさ。割り切って働こうじゃないか」
アカツキがエステバリス以上に大きいコンテナを押して運びながら話を纏め、メビウス・ゼロにコンテナを括りつけた。
「そっちまで手伝わせちまって悪いな。なにせ人型の方がこういうのは効率いいからさ、助かるよ」
だからIFSを使えば人型でも簡単に動かせるだろうが、とは誰一人言わない。なにこれこわい。暗黙の了解でもあるのか?恐ろしい世界の修正力を感じる。
でもどちらかといえばガンポッドをマニュピレーターにしてブラディシージとかやるのがお似合いだとは思う。そうすれば荷物も運べて便利だし。いいことづくめでなないか。
「でも、あんまりいい気持ちしませんね。撃沈された戦艦に乗ってたコンテナだって考えると……」
「……そうね」
レーダーにせわしなく動き回るベルゼルートのマーカー、なんだかんだ言いつつも手を休めないあたりは真面目だ。いい気持ちはしなくても戦闘よりはマシだと考えているんだろう。
「でも仕方ないだろ?足りないもんばっかなんだからさ」
「弾薬残したまま死ぬのは無念だろうし、拾って使い切ってやるのが供養になるだろうよ。そうでもしないと……」
「化けて出るわね、軍人たちの怨霊が」
俺が途中で切ったセリフをイズミさんが引き継ぐ。ああ、こういう話題だとナデシコ勢のラブご飯なノリの掛け合いが始まるんだよなぁ。人が何週間姉さん断ちしてると思ってるんだ全く。
テンカワを中心としたナデシコ勢の騒ぎを聞き流し、俺は溜息を付きながらコンテナを探す。こりゃテンション下がるわ……。
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△月○日(アークエンジェル限定でブーイングの嵐、後、ラダム獣も来るでしょう)
『そんなこんなでブリッツ対策を怠ったアークエンジェルは、人質を使って見事に窮地を脱した訳だけども、今回はこれと言って書くことは無い』
『ブリッツといえば、ミラコロが恐ろしくなるのはゴールドフレームに腕が移植されてからだと思うのだがどうだろうか、ブリッツは回想の度に爆発してるイメージしか湧かないし』
『ミラコロ展開中は見つけることが出来ないが、そもそもブリッツの武装だと今の半分スーパーロボットと化しているボウライダーをどうこうすることが出来ないので驚異足り得ない』
『この世界だとニコル、どう足掻いても死ぬ、よね?ニコルはともかくとして爆発の時に残らなかったブリッツのもう片方の腕の事、時々でいいから、思い出してください』
『今日はこの辺で日記を書く作業は終わりにしておく。この時期はやることが無くて暇で仕方ない。次に取り込みたいのはラダムのテッカマンとゼオライマーなのだが、待ち遠しい、待ち遠しい。とても待ち遠しいので後でDボウイの見舞いにでも行こうと思う』
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「何を書いてたんですか?」
俺が日記帳を閉じようとすると、後ろからメメメが肩越しに首を出して覗こうとしていた。先ほど日記を書いている途中、突然部屋にやってきてそのままベッドに腰掛け、部屋に置いてあった月面都市の観光案内を特集している雑誌(当然お土産に最適なお菓子を売っている店も特集されている)を読んでいたのだ。
用事があって来たのかどうなのかはわからないが、机に向って何事かしている俺を見て声をかけるのを遠慮していたのだろう。ポヤポヤしているようで空気を読む力はあるらしい。
「よ、読めません……」
空気ではなく日記の事だろう。姉さんの不思議力(ふしぎぢから)によって俺、姉さん、美鳥にしか内容は理解できないのだ。覗かれても暗号解読機にかけられても安心の便利アイテム。人に見られたら、覗かれても大丈夫なように暗号で書いているとでも言っておけば言い訳になる。
「暗号で書いてあるだけで中身は普通の日記だよ。ていうか、暇なのか?統夜ん処に居なくていいのか?」
「統夜さんはカティアちゃんを乗せて他のみんなとアークエンジェルに行っちゃいました。お姫様を逃がすらしいです」
ああ、そんなイベントあったな。美鳥にばっかりやらせてないで俺もJ再プレイするべきか。どうでもいいイベントはとことん忘れてるし。
「つまりあれか」
「はい、おやつを貰いに」
本能直結である。こいつがお菓子好きなのって確か昔に父や母にお菓子を貰った時の記憶を思い出すからとかそんなんじゃなかったか?これじゃただの糖分中毒患者だ。杉田声のメメメとか誰得だ。
まぁ、それだけの理由でコックピットまでお菓子を持ち込む訳は無いだろうし、やっぱり最初に甘党であるという個性ありきなんだろう。父母を思い出すってことはそれだけ頻繁にお菓子を貰っていたなんだろうし。
まぁ、この戦争が終わるまで、最低でもサイトロンコントロールをどうにかできるデータが集まるまで健康でサブパイやってて貰えるなら、後は糖尿だろうとなんだろうとなって貰って構わないがな。
「犬や猫じゃないんだから……」
「わんわんにゃー!ってやったらお菓子くれます?」
手を猫手にして万歳しながら笑顔で奇声を発するメメメ。人間の尊厳をどこに捨ててきた。洗脳の方向性がおかしなことになってる。なんか、これは流石にヤバいんじゃないか?こんな状態でサブパイとか勤まるのか?
「いい、いいから。お菓子やるからそういうのは止め、な?」
部屋の隅に設置した鍵付き冷蔵庫から、あらかじめ複製しておいたチョコレートケーキを取り出し切り分ける。俺の分とメメメの分で二切れ、残りを冷蔵庫に戻そうとするとメメメが残念そうに残りのケーキを目で追う。
二切れで一切れづつと言っても一ホールを四等分した上での二切れ、普通はこれで十分腹が膨れる量の筈、筈なんだが、あれは切り分けた分より残りの半分を食べたいって顔だな。
チョコレートケーキが好きだとは言っていたが、まさかここまでとは。これ、そんなに量食えるもんじゃないよなぁ。甘いものが好きと言ってもそう毎日毎日食べてれば飽きると思うのだが。
俺はチョコレートケーキよりも断然イチゴのミルフィーユが好きだ。丁寧に積み重ねられた層を崩して食べるのは贅沢な感じがして大変よろしい。どうせケーキ食うなら『贅沢してる!』って感じを出したいのだ。
因みに次点はミルクレープ、これも理由は似たようなもの。でもこっちはナイフやフォークで層を切断する時の感触も楽しい。偶に一枚一枚はがして食べることもあるが、層を貫く快感を選ぶか薄いものをぺりぺり剥がしていくフェチズムを取るかの違いでしか無い。
そんな事を話しつつ、それは味の好みじゃないですよねなどと冷静な突っ込みをメメメに入れられているとコミュニケに着信、モニタを付けると金髪のイケメン、ノアルの旦那だ。
「はーいもしもし、どうかしましたか?」
「今いいか?いいな?今すぐメディカルルームにミドリを引き取りに来てくれ。保護者なんだろ?」
「唐突ですね、なんかやらかしましたかい?」
「あー、なんつったら良いのか、まぁ見れば分かる」
俺の問いに微妙な表情をし、しばし考え込んでからコミュニケを操作、モニタにメディカルルーム内の様子が映し出される。
「医務室ってのは、誰にも邪魔されず、自由で、なんというか救われてなきゃあダメなんだ。清潔で静かで豊かで……って聞いてるかー?」
「がああああ!」
半裸のDボウイを美鳥がアームロックで押さえている。しかし凄い叫びだなDボウイ、マイクが壊れるから叫ばないで欲しい。コミュニケって壊れたら修理に金掛かるか分かんないんだから。
というか、どういう状況なんだこれは。Dボウイがようやく目を覚ましたってのは分かるんだが。何故押さえつけてるのか、何故アームロックなのか。孤独のグルメごっこがやりたいだけかもしれないが。
もうひとつモニタが開いて、こちらには困惑顔のアキさんとシモーヌが。
「眠っていた彼、起きあがると同時に美鳥ちゃんを羽交い絞めにして『おかしな真似をしたらこいつを殺す』とか言ってたんだけど……」
「腕からすり抜けたミドリに逆に腕をとられてあんな状態ってワケ。まだ怪我人だからそろそろ放してやった方がいいでしょうし、早く迎えに来てあげて」
アンナの身代わりって訳か。そういえばあいつ、姉さんから52の関節技と48の殺人技を習おうとしてたな。しかもあいつ自身は間接とか人体構造も割と自由に作りかえられるのでホールドし辛く、相手に一方的に技を掛けられる。
そんな訳で、超身体能力とか抜きにしても、システムボックスを取りあげられて変身できないテッカマンなら軽くあしらえる程度には戦えるのだ。
「はいはい、じゃ、すぐ行きますよ」
通信を切り立ちあがる。Dボウイとの仲は微妙になりそうだな、この接触の仕方だと第一印象最悪だろ……。
「あ、ちょっと待ってください、わたしも行きます」
「急がなくていいよ。多少遅れても問題ないだろうし」
急いでチョコレートケーキを食べようとするメメメを脇目に見つつ、味方テッカマンとどうやって友好関係を築いて行こうか頭を悩ませるのであった。
続く
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主人公は機械相手にベルリンの赤い雨を使いますがサポAIは投げ、間接が肉弾戦のメイン、必殺技は人間ヘリコプターと宇宙旅行とアームロック。とかいう設定は欠片もありません。後々殺人技も関節技も出てきません。一切引っ張りません。
なんか微妙に文字数が伸びたので一旦切ります。20000字程度が適度で読みやすいってSSFAQ板で言ってたので基本10000字から30000字程度で纏めて行く方針で。
テックシステム解明まで行けませんでしたね。しかも今回は場面も飛ばし飛ばし、一つ一つの場面も長さにばらつきがあるわなにやで反省するべき点が多い。あとこれ手なづけたんじゃなくて洗脳ですね。でも馴れはしたから二つ目標達成。
因みに日記形式を所々挟んでいる所は時間が大幅に吹き飛んでいると考えてください。これも分かりにくいですよね、どうにかしたい処なのでアドバイス募集してます。
とりあえずスパロボ編では要らないエピソード、戦闘シーンも極力カット、主人公やサポAIが関わらない場面はササッと飛ばして進めます。それでも三話内には纏まらないかも。やはり50話オーバーの長編を題材にするのは難しい。
というか、ゲームを舞台にすると小説やらアニメを舞台にした時と違って、あの場面どうだったかな、あのキャラどんな口調だったかなとか疑問に思った時に素早く探せないのが難点ですね。プレイ画面を動画で記録できれば一番簡単なんですが。
今回のセルフ突っ込みコーナーはお休み。弓教授馬鹿にし過ぎ、そんなんで騙されないよ!とか、なんで洗脳したの?とか、なんだよ原作キャラとしっぽりする気まんまんじゃないか!とか、原作ヒロイン寝盗りとか何考えてんの?とか、原作キャラと馴れ合い過ぎじゃない?とか、強化ボウライダーと強化スケールライダーってオリジナルと比べて何がどんだけ違うの?とか、そういった疑問質問を潰さない方が感想とか増えるかな、とかさもしい考えが浮かんだので。
あ、ここまで書いて思い出したのですが、ブラスレ編終わるまでの主人公のスペックとか設定とか書くとか言ってましたが、止めました。設定の羅列読んでも面白くないでしょう?
どうせ能力なんて『超電磁フィールドが使えるから原理的に超電磁斬りもできるよな、タキオン粒子制御してるならクロックアップもできるよな』なんていう拡大解釈ありありな曖昧なものばかりだから書くだけ無駄ですしね。
そんな作品でもよければ、作品を読んでみての感想、諸々の誤字脱字の指摘、この文分かりづらいからこうしたらいいよ、一行は何文字くらいで改行したほうがいいよ、みたいなアドバイス待ってます。どしどしお寄せください。
次回予告(予定)
主人公、早くテックセットがしたい!
主人公、流派東方不敗を教わりたい!
みどりちゃん、おふろでみくちゃんにいたずら!
の三本を未定。遅筆だからゆっくりお待ち下さい。