身体が不自然に圧迫される感覚に、起き上がること無く、薄く瞼を開けた。
うっすらと開いたカーテンの外は濃紺の空と黒い森。
体内時計を確認すれば、時刻は午前三時。
畑に行くまでにもう一時間は眠れる、というか、もう一時間すれば完全に覚醒するように設定していた筈なのだが、設定を間違えたか。
瞼を閉じ、布団をかぶり直して瞼を閉じる。
「────て」
再び、厚さとそれなりの重さを兼ね備えた布団越しに身体を押される感触。
ボリュームを抑えられた声と共に繰り返し押されるのを感じて、ようやく俺は、誰かが俺を起こそうとしているのだと気が付いた。
睡眠は必要ないが、微睡みを娯楽の一種だ。
娯楽は邪魔されながら続けられるものでもないし、続けても気分のいいものではない。
こんな時間に起こそうとした下手人の顔を確認する為に、瞼を開ける。
暗い部屋の中、俺の入っている布団を揺さぶっていたのは、薄いクリーム色をした肩にかかる長さの癖毛をシュシュで纏めた女性────シュブさん。
俺と同年代か少し上程度の年齢に見えるその人は、少し重装備過ぎではないかと思えるほどの防寒着を着こみ、小さなバックパックを背負っている。
「あ、やっと起きた」
「やっと起きた、じゃありませんよ……。今何時だと思ってるんですか……」
少しだけ眉間に皺を寄せて不機嫌そうな表情のシュブさんに、布団から起き上がり目を擦りながら負けじと少し不機嫌さを滲ませて言い返してみる。
家に尋ねてきて、そのまま部屋に通していけない間柄というわけでもないが、この時間帯に唐突にやってくるのは如何なものだろうか。
だが、シュブさんはまるで一方的に俺が悪いとでも言わんばかりに、少しだけ肩を怒らせて怯みもしない。
「約束すっぽかして寝てる方がおかしいんだって」
「約束?」
はて、今日は何か約束を入れていただろうか。
脳内スケジュール表によれば、今日は一切待ち合わせや遊びに行く約束も入っていないのだが。
「忘れちゃったの? 流星群が極大だから、早めに行って天体観測しようって言ったの。そりゃ結構早めの時間だけど、指定したのはそっちなんだし、忘れるなんて酷いよ」
「…………あー」
言われてみれば、そんな約束を入れていた気もするが……。
「それ、来月じゃありませんでしたっけ?」
「え」
脳内スケジュール表だけでなく、カレンダーに目をやって確認。
一枚に二月ずつ日付が載っている大判の壁掛けカレンダーには、丁度一月後に赤丸と共に『流星群・天体観測』と丁寧にメモされている。
デモンベイン世界で原始地球から現代に戻るまでに何度か見た大規模な流星群。
あそこまで派手では無いにしても、せっかくだから一番派手に見える日に一緒に見に行こうと約束したのだ。
俺の視線を追ったシュブさんもそれに気づいたのか、シュブさんは怒らせていた肩を下げ、その雰囲気もしぼんでいく。
心なしか、認識阻害の掛けられた触手もしなびてしまった気がする。
「ご、ごめん……なんか、気が逸っちゃって」
「ん……まぁ、よくあると思いますよ。────俺は間違えませんけど」
「酷っ!」
目を×にするように瞑ったシュブさんのリアクションは、勢いがありながら時間帯に気を配った静かな音量で行われた。
「……なんでしたら、今から見に行きます?」
なんとなく口にしてみた提案に、シュブさんは一瞬だけフリーズして、それからしどろもどろになりながら答える。
「え、いやでも、来月でしょ?」
「まぁ、極大になる日に見に行かなけりゃならん決まりが有るわけでもないですし、いいんじゃないですか?」
何もない時でも、夜空を一晩眺め続ければ意外と流れ星は見つかるものだ。
流星群が近づいてきているとなれば、極大になるひと月前でも多少は多めに目撃できるかもしれない。
「でも、美鳥も起きてるかわかんないし」
「どうせあいつはこの時間、余裕で起きてネトゲしてるかアングラサイトで煽り合いしてますから、呼べば直ぐ準備して出られるでしょうよ」
2ちゃんねると書いてアングラサイトと読むと情緒不安定なニュータイプっぽくていいのだと美鳥は言っていたが、それだけの理由で掃除機戦争に加わるのは如何なものだろう。
まぁ、シュブさんと行くと言ったら『あたしもー! あたしも行くかんねー!』と言っていたし、誘わない理由もない。
姉さんが『その時間じゃ見ながら眠っちゃうかもだし、お友達と一緒に行ってらっしゃい』と不参加なのは残念だが、偶にはこういう集まり方をするのも悪くないだろう。
「じゃあ、お願いしても、いいかな」
俺の提案を、シュブさんははにかみながら指先と触手先をもじもじと合わせつつ承諾した。
最初に流星群の接近をニュースサイトで見つけたのは俺だが、一番楽しみにしていたのはシュブさんだ。
やはり、シュブ=ニグラスの故郷が宇宙の何処にも存在しないこの世界であっても、宇宙に関わりのあるものはシュブさんの琴線に触れるものがあるのだろう。
申し訳なさそうな表情二割、心底嬉しそうな表情八割のシュブさんを微笑ましく思いながら、布団から完全に起き上がる。
「そんじゃ、ちょっと美鳥呼んで、それから適当に見晴らしが良い場所にでも行きましょうか」
確か、一山越えた辺にハンググライダーの発着場があった筈だ。
隣町とは反対側の、うちの村に似た集落を見晴らせるあそこなら、良い感じのスポットになる。
日が登ってきたら日の出が拝めて、雲が出ていれば雲海を楽しむこともできる。
姉さんが起きる前に戻るにしても、ポットに温かいお茶を入れていくくらいはしたほうがいいだろう。
そう考えながら、俺は自室から廊下へのドアを開け────
―――――――――――――――――――
きっちりと、時間通りに目を覚ました。
時刻は午前四時半。
畑に行って、朝一番の農作業を始める時間だ。
カーテンの外の空は、うっすらと白み始めた藍色に、所々を覆い隠す灰色の雲。
天体観測をするには微妙な天気だ。
「……」
むくりと布団から起き上がり、カレンダーを確認する。
来月のカレンダーにはJAの人の来訪予定日と、直売所の当番の日とバイトの日などにチェックが入っている。
天体観測などというおしゃれイベントは記されていない。
正直なところを言えば、天体観測なんてのは、わざわざ予定を立ててするようなことでもないと思っている。
星なんて物は、ふらりと夜中に出歩いた時に空を見上げてしまえばいくらでも見られるのだ。
古いバンプのCDを発掘した時に衝動的に望遠鏡を担いで外に出ることがないとは言わないが。
「んー……」
伸びをして、勢い良く飛び起きる。
雨が降りだしたら面倒だし、人目がない内にさっさと作業を終わらせてしまおう。
畳んでおいた野良作業用の服に着替えて、足音を殺し、長靴を履いて玄関の外に出る。
顔を叩く早朝の冷えた空気に、もう冬がそこまでやってきているのを肌で実感する。
「……ふぅ」
腹一杯に冷えた空気を吸い込み、程よく体温を調節。
秋の虫も鳴かなくなるこの時期、町の喧騒などありえないような土地だけあって、新聞配達のスーパーカブのエンジン音ははっきりと耳に届く。
村のある盆地に響く、ブポポポと間抜けなエンジン音をBGMに、畑への道程を歩く。
遠く、烟る山を眺めながら、夢はなんで中途半端な所で途切れがちなのだろう、と、そんなことをぼんやりと考えた。
―――――――――――――――――――
……………………
…………
……
デモンベイン世界から帰還して、早いもので、一ヶ月の時が経過していた。
最近は不思議と実入りのあるトリップを挟むこともなく、我が家は平穏な日々を謳歌している。
あれだけの長い年月をトリップ先で過ごしておきながら、戻ってきたら直ぐに元の生活に戻れてしまうのだから、やはりトリッパーというのは不思議な生態をしていると思う。
とみに、何事もなかったかのように振る舞うお兄さんを見ていると、サポートキャラであるあたしなどは、自分の役割などを見直すと共にそんなことを考えてしまう次第なのだ。
―――――――――――――――――――
昼を少し過ぎた頃、お兄さんはふらりと隣町に出かけてしまった。
頑丈なコートを着込んでいったから、多分電車は使わずに山を越えていくのだろう。
電車で二時間でも、あたしたちにとっては徒歩数分の道程でしか無い。
もちろん、人目がない、もしくは人目を上手く避けられる事が大前提なのだけども。
時間潰しとしての外出なら、無為な時間を過ごせる電車を使う筈だし、何かはっきりとした目的の品があるんだろう。
荷物持ちをするのがいやなので、お兄さんに付いて行かずに、家でのんびりと過ごすことにした。
朝方は少し黒い雲が出ていた空も、今時間になれば洗濯物を干すのに十分な晴天に変わっていた。
今日はバイトもなく、新しい本の入荷もないので雑貨店に行ってもすることがない。
この時間にログインしてもネトゲには碌な人間は居ないだろうし、掲示板も似たようなものだ。
あたしの目の前には暇な時間が築地のマグロの如く大量に横たえられていると言ってもいい。
そしてそれは、洗濯物を干して、一通り家の掃除をした後でもまるで減ったような気がしない程には有り余っている。
閉めた窓から差し込む日の光の下でクッションを枕に丸まり、ぼうっと空を眺める。
今からでもお兄さんを追いかけようかな、などと思いもするのだけれど、どうにも気乗りしない。
お菓子でも作ればいい感じに時間も潰れていいかな、という考えが浮かんだ。
浮かんだだけで実行するとは限らないわけだけど。
結局、冷蔵庫に向かうどころか立ち上がりもせず、ぐったりと窓際の畳の上で空を眺め続けることにした。
「なー……」
脱力のままに唸り、太陽に焦点を合わせる。
今日は太陽の黒点がよく見える……気がする。多分。
そもそも太陽の黒点観察とかあんまりしないし、比較材料がない。
明日からも暇なら観察日記をつけてみようか。
明日どころか、夕ごはんになる頃には忘れていそうだけども。
《メールを受信しました》
「ん?」
PS2の九龍のロムからH.A.N.Tの音声データをぶっこ抜いて作ったメール着信音が響く。
差出人はお兄さん。
タイトル『出先で際どいスカート見かけたから送っとく』
……先の展開が予測できるけど、添付された写真を開く。
「なるほど確かにパンチラ……、ってドムじゃねーか!」
半ば予測通りのドムのあおり写真。
あ、でもグロウスバイルだ。かっこいい。
背景から見て隣町のアーケードの模型屋の店内、誰かの改造品だろう。
プラ板を使ったっぽい大剣も重量感があって中々によろしいんじゃないだろうか。
そしてスカートもデザイン的に大胆なスリットが入っていると言えなくもない辺が小憎らしい。
「…………超平気そうじゃん」
携帯を畳み、懐に仕舞い込みながら、安心する。
どうやら、あたしの考えは杞憂に終わってしまったらしい。
同時に疑問にも思う。
流石に、あそこまで何事も無く、何の代わりもなく振る舞えているのは、少し不自然じゃないだろうか。
あそこまで入れ込んだ相手を殺されて、仇も討てずに帰ってきてしまって、人間はあそこまで平静で居られるのだろうか。
「これだから人間ってやつは……」
難解で困る。
それとも、トリッパーの脳味噌とか心とかが特別製なだけなのか。
どっちにしても、お兄さんも、そしてもちろん、あんな真似をしたお姉さんも、あたしを見習ってもう少しシンプルに生きてみるべきではないだろうか。
「……寝よ」
玄関の鍵は閉めてあるし、不審者が来たら流石に気がつく。
あと二時間もすれば、お姉さんも昼寝から起きるだろう。
お兄さんが帰ってくるのは夜になるだろうし、この機会に色々と聞いて、疑問を晴らしてしまうのも悪くないだろう。
そんな事を考えながら、あたしは二時間ほどの休眠状態へと移行した──。
―――――――――――――――――――
……………………
…………
……
山を抜け、全身に付着した枯葉や小さな虫を払い落とし、口の中に入った砂などの異物を吐き出しながら悪態を吐く。
「あー……、酷い目にあった」
元の世界に帰ってからここ最近は溜まっていた農作業やらの処理にかかりきりだった。
お陰で、こうして元の世界でもありえないではない程度に抑えた超人アクションをするのは久しぶりだったのだが、どうにも勘が鈍っているというか。
トリップ先と同じ感覚で動こうとすると、動きのキレ具合に大きな差異が出てしまう。
まぁ、元の世界じゃ、能力に制限が掛かるから当然といえば当然なのだが。
お陰で、すっかり元の世界の枯葉や砂や虫の味を思い出させてもらう羽目になってしまった。
とまれ、電車移動なら二時間掛かる道程を、山中の木々を飛び移りながらの移動にするだけで数分に短縮する事ができるのだから上々だろう。
能力の制限がきつすぎてトリップ前とあまりタイムが変わらなかったが、まぁ、そこは次のトリップの課題にしておく。
樹の枝に引っかかっても破れない頑丈なコートを脱ぎ、鞄の中に詰め込む。
膨らんだ鞄を数度叩き、内部でコートを異空間に収納。
これで、適度に買った品を鞄に詰め込む事ができる。
流石に、買ったものを直後に手放している姿を見られるとマズイからな。
さて、まずは……。
「ゲオ行くかぁ」
予約していた新作を受け取りに行かなければ。
それから模型屋までは規定のコースかな。
―――――――――――――――――――
何処から何処までが故郷かと言われると困るが、俺にとってこの電車で約二時間の隣町は十分にホームグラウンドだ。
ゆっくりと見て回るのは久しぶりだが、多少閉店した店などが見えるだけで、立ち並ぶ店のラインナップはそう代わり映えしない。
大型の量販店が無いとは言わないが、それが出来たのも何年も前で、今残っている店は何処も何かしらの工夫を重ねて生き残っている猛者揃い。
ゲオでスパロボの新作を購入した俺が次に立ち寄った模型店もそんな強豪店の一つだ。
ショッピングモール内の玩具屋では扱わないような、痒い所に手が届く商品のラインナップ。
プラモ改造用のパーツなども取り扱っており、多少こなれたモデラーは最終的に全員こちらに流れてくることになる。
稼働フィギュアの類も多種取り揃えていながら、商品が日焼けしない絶妙な店内配置には匠の粋な心配りが感じられる。
何故かレジの下にはトンファーや警棒まで展示されており、痒いところを通り越して何処に手を伸ばしたいかわからなくなる時もある。偶に売れているだけに特にそう感じる。
「てんちょ、前に頼んでたブツを」
そう言うと、寡黙な壮年の店長がこくりと頷き、後ろの棚から茶色い紙袋を取り出し、レジの上に丁寧に中身を広げた。
中から出てきた品を手に取り、袋の上からさり気なく商品内部の透視を行い念入りに確認する。
品が間違いないのはもちろん、安く卸される粗悪品でもない。
「パーフェクトです。では、支払いを……」
財布を取り出し料金を支払えば取引完了、というところで、背後から平手で狙われているのを察知。
俺の角度からはショーケースの反射を使っても背後が見えないはずなので、甘んじて受ける。
「よっ!」
べし、と、わりと硬い音が響いて、背中に小さな衝撃が走った。
「っ、て、~~~っ!」
背後から、痛みを堪える声にならない呻き声が聞こえ始めた。
とりあえず、気にせずに支払いを済ませる。
店長も俺の背後のことには一切触れず、料金と共に渡したポイントカードにスタンプを押している。
おお、そういえばこれで20ポイントか。五百円割だ。
目的の品は手に入ったが、ついでに何か一品追加で買うのもいいかもしれない。
確か、AOZ系が安くなって無かったかな……。
「って、おいこら! 徹底的にスルーか!?」
横にスライドしてガンプラのコーナーに移動しようとした所で、背を叩こうとした下手人に呼び止められた。
ああ、どうしよう、ちょっと無視したい。
しかし、久しぶりに会った友人を無碍にするのもどうか。
他の場所で、まともな呼び止め方をしてくればもうちょいスムーズに再開の挨拶を交わせたというのに、面倒な奴め。
振り返り、懐かしい友人の怒り顔を見ながら、これ見よがしに溜息を吐く。
「……そういう、唐突で嫌にハイテンションで力を込めすぎる部分がギロチン落とされた原因だと思わない?」
「クビじゃねーよ休暇だよ! クソッ、久々の故郷だってのにこの扱い!」
平日昼間で、店内に人気は少ないにしても人目はある。
だというのに、葉山くんは子供のように地団駄を踏んで悔しがっている。
これでそれなりの企業では期待のホープ扱いされているというのだから、人間というのはわからないものである。
「はぁ……はぁ……、まぁ、それはいいさ、この扱いは意外としっくりくる。とまれ、久しぶりだな鳴無」
「ああ、うん、葉山くんもおひさ」
さり気なく性癖カミングアウトを行いつつ、呼吸を整えて何事もなかったかのように仕切り直した。
この何処にでも居そうな、肉が少なく骨っぽいシルエットの男。
高校の頃に知り合い、今でもメールやチャットなどでのやり取りを行なっている、俺の数少ない友人の一人だ。
「なんというか、相変わらずいい空気吸ってるようで何よりだよ」
「できる男だからな。適応力だってそれなりにあるもんさ」
言いながら、僅かに上を向き、自分の顔を見上げるアングルを強要する角度を取りつつ、親指でビシィ、と自分の事を指さす葉山くん。
確かにこいつ、適応力と精神防御力は無駄に高い。
雑な扱い方をされれば『不憫キャラ的に美味しい』と喜び、過酷な試練を与えられれば『リアクション芸に磨きが掛かる』と喜び、放置すれば『この冷え冷えとした空気、なんだか気持ちいい……』とうっとりする。
まぁ、なんだ、つまりはそんな感じのやつだ。
今現在はシステムエンジニアとか、そっち方面の仕事に付いている筈だが、結局磨いた芸は何処で生かしたのだろうか。
「つか、その鞄何が入ってんだ? めちゃめちゃ硬かったぞ」
「硬いのは鞄。中身にダメージが入んないようにVPS装甲編みにしてあるんだよ。だからゆっくり動かす分には柔らかいけど勢い良く押すと圧力を感知して内部を守るように骨格を形成してだな」
割と事実なのだが、俺の説明は冗句と取られたのか、はいはいという呆れの表情と掌を振るジェスチャーだけで遮られてしまった。
「妄想乙。んで? 結局何買った?」
「ブキヤのMSG、新作出たから店長にキープ頼んどいたんだ」
武器のバリエーションに限るとはいえ、最近のリアル等身プラモでバネやモーターを仕込んだりする辺はけっこう意欲的だ。
HGにもMGにも神姫にも無理なく合わせられるサイズだから個人的にはいい買い物だと思うのだが。
「なんだ、つまらん。盛って削らない用のパテとか、エロフィギュアとかでも買やぁいいのに」
しかし葉山君はお気に召さなかったのか、拍子抜けしたといった風だ。
「聞いておいてそれか……あと、エロフィギュアなら自作した方が早い。改造ガンプラなんかだと、まだ学べる部分が沢山あるんだけどな」
「貴様いつの間にそんな業を……!」
そんな風に、ショーケースに飾られたこの店の常連であるモデラー達の作品を鑑賞しつつ不毛な会話を続けていたら、一時間程度で店から追い出された。
まぁ、割引券に期限は無いから、別に構わないと言えば構わないのだが、少し時間をロスしてしまったか。
店を追い出される原因となった野郎はそのまま手荷物を抱えて帰っていってしまった。
どうやら一緒に帰省していた親戚のガキにプレゼントするプラモ(安売りしていたMGジム)を購入する為に寄った店で見かけたから声をかけただけで、さしたる用事は無かったらしい。
まぁ、久しぶりに顔を見れたのは嬉しかったので、よしとする。
そのまましばし歩き続ける。
道中にはこの地区の避難場所にも指定されている大きな公園があり、幼稚園にも通っていないだろう小さなガキを連れた奥サマ方が中身の無いスカスカした井戸端会議を繰り広げている。
平和な光景だが、ガキの方は我関せずと手元の3DSに齧り付いている。
子供をしつけられない親がどうこう、などという話を最近は良く聞くが、しつけはできなくても我慢させることだけは可能らしい。
さて、まだ日が高いが、次は何処に行くか。
村に戻るまでの道順に従って行けば、バッティングセンター、古本屋にゲームショップ、少し遠くに映画館、と言った並びだが……。
ここはあえて横道に入って、如何にも趣味人がやってますよ、という雰囲気ダダ漏れの小さな雑貨屋へ突入。
木造建築の、物置2つ分程度の大きさの店舗の中には所狭しとアクセサリーや実用性に乏しいキッチン用品などが置いてある。
目を引くのはお洒落なシュガーポットだが、輸入品なのかやたらと高い。
壁際に大量に並ぶパワーストーンの方はお値段据え置き、安く手に入るグレードの低い石を加工したものだろう。
大粒で色も透き通っているものは、分子構造が整いすぎている。人工的に作られた石を使っているようだ。
どちらかと言えばこちらが主戦力の商品と見える。
一つ、姉さんの誕生石のネックレスでも買っていくか?
「おや、同士鳴無ではないか」
ふと、声を掛けられる。
店内には俺以外に客は居なかった筈だし、センサーにも店番の女の反応しか無い。
だが、俺をその名で呼ぶのは……。
「同士鈴木?」
「そうとも。君の数少ない真の理解者だよ。私の真の理解者君」
この絶賛厨二病患い中臭い芝居がかった喋りは、近親道の同士である鈴木さん。
声の発信源はレジの向こう。安楽椅子に座って文庫本を読んでいる店番の女性店員。
よくよく見てみれば、鉛筆のように細長いシルエットに、秀才っぽい知的な顔つきは確かに俺の記憶にある鈴木さんだ。
追加装備であるフレームの太いメガネのお陰で見逃してしまっていた。
「あれ、県外に引っ越したんじゃ。確か就職に成功したとかで」
「辞めて戻ってきたんだ。言ってなかったかな」
「聞いてないし……。ていうか、辞めた? このご時世に?」
「このご時世だけど、セクハラ・パワハラもうざったかったし、やっぱりアニウム無しの生活は私には厳しくてね。今じゃ気楽なフリーター生活さ」
口の端を片方だけ釣り上げたニヒルな笑みでそんなことを断言する鈴木さん。
さらっと架空元素を必須栄養素のように表現する程度にはダメなやつだが、その思い切りの良さは話していて気持ちがいい。
「で、何かお求めかな? 愛しの姉上への贈り物なら、この無駄にアンティークなランタンとかがお勧めだけれど」
鈴木さんがいっそ清々しいまでの営業用笑顔で手に取ったのは、確かに古めかしいデザインのランタン。
デザイン的に十九世紀後半から二十世紀序盤辺りの品だろうか。
「一応聞くけど、値段は?」
「八万九千円のところを、今なら五万二千円でご提供だ。新型ハード一台分も値引きするなんて、お買い得だろ?」
素材はそれほど年経たものではない、多分、つい最近、ああいうデザインで新規に作られた製品なのだろう。
お高いが詐欺というわけではなく、作りの精緻さから適正な値段だとわかる。
適正な値段だからといって、それを買う理由にはならないのだが。
「うん、しいて言えば味噌汁で顔洗って出直してみたらどうかなとか思う」
真顔で拒否してやると、そりゃそうか、と言いながら困り顔で文庫の背を額に当てた。
「採用された時に趣味でやっているとは聞いたけど、ここまで売るつもりのない値段設定だと潰れやしないかと本気で心配になることがあるよ」
「やっぱ流行ってないのか?」
「やっぱり、というのは否定したいけど、今日は君が最初の客さ」
※時刻は午後三時を回っております。
まぁ、こういう趣味の店だし、昼から開店だとすればそれほど酷いことには……。
が、俺のそんな仮定を、鈴木さんは肩をすくめながら一瞬で破壊してみせた。
「朝九時開店で、都合六時間も篭りきりで居た所に昔なじみが現れたんだ。声も掛けたくなるだろ?」
「Oh……」
なんというか、夢もキボーもありゃしないというか。
お前ら少しはファンシーに目を向けてやれよ。俺は向けないけど。
というか、店主は何処で何をしているのだろうか。
もう一度店内を見回し、商品のラインナップを確認する。
輸入モノっぽいシュガーポットやランタンなどの大物を除いた、主力っぽいパワーストーンのアクセサリー。
これらのアクセは、ほぼ間違いなく手作りだろう。
言葉を濁して良い方向にフィルタをかけて言えば、少し大雑把な作りは人の手による温かみを感じるし、石以外のパーツの加工に結構なばらつきがあるのだって、ナンバーワンよりオンリーワン的な思いが込められていて──
駄目だ。ちょっと弁護しきれないからはっきり言おう。
ここは恐らく、商売っ気など欠片もない、本気の趣味の店だ。
きっとこの趣味の店の店主は、店番をバイトに任せて、自分はひたすら作品作りに没頭する腹積もりなのだ。
まぁ、お陰で鈴木さんは実質レジに座って本を読んでいるだけで金が手に入るような楽な仕事にありつけているのだから、一概に悪いとは言えないが……。
「バイトの日は、いつも?」
恐る恐る尋ねると、未だ手に持っていた文庫本をカウンターの上に置いて一度天を仰ぎ、ゆっくりと顔を下げていった。
「……正直、デジャブを感じる程だよ。また客が来なかった、とか、レジから見える光景が一切変わっていないな、とか」
通夜のような鎮痛な面持ちで、頷いているのか俯いているのかすらわからない。
そのまま、どこか諦めた風な表情で、枝の形が残った格子でデコレーションされた窓から外に遠い視線を向ける。
「それでも偶に、本っっっっ当に極々稀に、客が来るっちゃあ来るから、『皿から皿に豆を移す作業』みたいな事にはなってない、筈、たぶん……」
鈴木さんのここまで虚ろな表情を見たのは何時以来だろうか。
確か、彼女のお兄さんに好きな人が出来たという相談を受けた時もこんな表情をしていたような。
しかもこの人、クールそうな印象とは裏腹に、割と寂しがり屋であることも有名である。
……うん、まぁ、他にフォローできる奴、ここに居ないし、仕方ないか。
「時間有る奴とか限定になるけど、連絡しとくわ。ほら、買うか買わないかはともかく、冷やかしに来る程度の連中なら増えるだろうし、そうすりゃ、少なくとも働いてる気分は味わえるだろう、うん」
俺も行く、とは言わない。
というか、正直ここに来る理由が殆ど見当たらない。
そう頻繁に来たくなる品ぞろえでもないし、流石に冷やかしですらない、バイト店員の暇つぶしのお喋りの為だけに来るのもどうかと思うし。
などと、この小さな雑貨屋の優先順位を滅多に行かないバッティングセンターの一つ上辺にランクインさせながら言い訳じみた事を考えていると、鈴木さんがこちらに訝しげな視線を向け始めた。
「……偽物? まさか私の身体に欲情して──しかしこのシスコンオーラは……」
「聞こえてる、聞こえてるから」
「安心してくれ、一応聞こえるように言ったつもりだ」
「おい」
俺はいったいどういう評価を受けていたのか。
半眼で睨みつけるも、鈴木さんは怯むでも訂正するでもなく、自分の顎に手を当て、考えこむようなポーズと平行してまじまじと俺を見ながら更に言葉を続けた。
「なんと言えばいいのかな。こういう時、昔の君だったらと考えると、どうしてもね。違和感がある」
「俺、そこまで薄情だったか? 一応、トラブルがあった時なんかは、都合が付く限り手を貸してただろ」
「悪く言えば、トラブルに発展するまでは放置していただろう。この程度の事なら『大変だねぇ』で済ませていたと思うけど……何か、あったのかな?」
何かあったか。
確かに、未だに鈴木さんとの交流は浅くとはいえ続いているが、日常で起きた全ての事を報告しあっているわけでもない。
軽く、最近の双方の兄姉との関係を報告しあったり、面白げなラノベや正直ラノベに分類された方が自然なのでは無いか、というような一般小説などをネタに軽く雑談する程度だ。
そんな話ばかりだったから鈴木さんの退社も知らなかった訳だし、そもそもよく考えたら、俺だって仕事上の愚痴(精々がJAとの繋ぎを行なっている年寄りが農薬の購入ノルマについてうるさいとか、その程度のものだが)だのなんだのに関しては話題に上げた記憶が無い。
だから、何かがあったかと聞かれれば、何もない、なんてことは絶対にありえない。
鈴木さんが仕事を辞めてフリーターになったことと比べて、大きなことか小さなことかは判らないが。
「……さぁ? でもまぁ、友人は大切に、とか、そういう風に考え直す機会には、多少なりとも恵まれた、かな?」
「ふむ……」
呟きながら考えこむ姿は、すっと鼻筋が通った細面と、そこに掛かったセルフレームメガネも相まって様になって見える。
一見して如何にも才女といった風だが、これでも『昨日兄さんが風呂に入っている間に家探ししたら、妹系AVが一本増えていてね……増えていてね! だからほら! ほら! 羨ましがってくれて構わないのだよ!?』などとセルフバーニングするのだから人間はわからない。
考え込んでいた時間は十秒かそこらだろうか、訝しげな表情は消え、何かを含む様な、しかしはっきりと面白がっていると分かる左右非対称の笑みが浮かんでいた。
兄以外の、彼女が有効的に接する友人たちに極稀に向ける、キャラ付けの為に鏡を見ながら練習したらしい、某自動的な方を参考にした決め顔である。
「まぁ、悪くない変化じゃないかな」
動機がイマイチ決まらない、ヲタ臭いものであるにも関わらず、似合っているから質が悪い。
その表情に、きっちりと本物の感情を乗せられる程度には馴染んでいるところもだ。
「自分じゃイマイチわからんけど、そういうもん?」
「ああ。それに面白くもある。前に君が姉上と結ばれたと聞いた時は『完成した』と思ったものだけど。……君や私のような畸人にも、その先でまだ変化がある。それはとても素晴らしいことさ、きっと、私や君が思う以上にね」
見た目と仕草だけはクールな友人は、さり気なく俺まで畸人扱いしつつ、嬉しそうにそんな事を言うのであった。
―――――――――――――――――――
……………………
…………
……
「お兄さんがリア充してる予感……!」
直感的に危機感を募らせながらスリープ状態から目覚めると、日はすっかり暮れていた。
この時期は極端に暗くなるのが早い。これなら、もう少し早めに起きるように設定すればよかったかもしれない。
家の中の生体反応を探ると、お姉さんは覚醒状態で、部屋で寛いでいることがわかった。
台所にはお味噌汁、いや、けんちん汁の入った鍋が蓋をしてコンロの上に置いてある。
夕飯の準備はそれだけ。
手抜きか何かだろうか、あたしのそれは完全な趣味になるけど、お兄さんの人間性とお姉さんの生命維持には必要なものなのに、今日は妙に質素過ぎる。
それとも具沢山のけんちん汁だから、おかずは少なくていいよね、みたいな感じで直前にちょっと作る予定なのか。
その事も含めて尋ねるため、お姉さんの部屋へ。
適度に掃除された廊下は、靴下で歩くとつるつると滑って奇妙な気分になる。
家の中でなら素足の方がいいのだけど、家に居る間は感覚も極めて人間に近い形で固定させられているので、冷たい。
足音無く廊下を歩き、姉さんの部屋へ。
「お姉さん、今いい?」
軽くノックしながら尋ねる。
自家発電中というわけではないだろうから返事を待たずに開けても問題ないのだけど、一応、念のため。
「うん、開いてるから入っちゃって」
許可が降りたので、戸を開けて部屋の中に入る。
お姉さんは口元に小さく笑みを浮かべながら、机の上に開いた古めかしい本を眺めていた。
装丁からして、本と言うよりは日記か、アルバムだろうか。
興味を引かれない訳ではないけど、まずは夕飯の話だ。
「夕飯の準備しなくていいの? 決めかねてるってんなら、あたしが適当に決めて作っちゃうけど」
冷蔵庫の中身は、多くもなく少なくもなく。
魚は切れているが豚肉のブロックが適度なサイズにカットされた状態で冷凍庫の中で回答される日を待っている。
お兄さんの帰宅に合わせて作るにしても、下ごしらえをしておく程度のことは可能だろう。
「さっき卓也ちゃんから電話があってね? 街で物産展やってて、鮭を丸々一匹衝動買いしちゃったんだって」
「一匹ぃ?」
それはまた、剛毅な話だ。
お兄さんのことだし、イクラとセットになっているものを見つけて、ついつい、といったところだろう。
秋鮭に、イクラ。
これを買わずに居られる日本人がどれだけ居るのだろうか。
いや、意外といるだろうけど、お兄さんは買わずには居られないタイプに分類される。
「なので、夕飯のメインは卓也ちゃんが鮭持ってきてから作ります。……卓也ちゃんが」
「それくらいはしないとね……」
まぁ、派手な買い物ではあるけど、小分けにして食べると考えれば、実質それほど金額の大きな買い物ではない。
お姉さんに後々やんわりと注意されて終わりだろう。
と、会話が途切れる。
しまった、飯の心配から、本当に聞きたいことに話がつながらない。
良く考えなくても分かりそうなことなのに、まいったな。
無意識にプレッシャーを感じて、質問できない方向に持って行ってしまっていたのだろうか。
とはいえ、聞かないままでいるのも気持ちが悪い。
どうにかして、話の導入になるような何かを見つけなければ。
「そういえば、何読んでたの?」
あたしはとっさに、お姉さんが机の上に広げ続けている本に目を付けた。
お兄さんとお姉さんが二人きりになってからのアルバムならあたしも見たことが何度かあるが、あれはそういうものでは無い気がする。
なんというか……そう、最近扱われた形跡が無いように見える。
お兄さんとお姉さんの両親の写真が残されていた、とかだろうか。
「んー? ふふ、これはねぇ……お姉ちゃんが、まだ小さかった頃に、トリップ先で取った写真」
「は…………?」
思わず、間抜けな声を出してしまった。
それは、流石に予想外過ぎる。
「お姉さん、んなもん取ってあったんだ」
「意外?」
「正直ね。だってお姉さん、お兄さんにも言ってたじゃん。『トリップ先の連中には、もう何も期待してないの』とかなんとか」
そもそも、お兄さんの割り切りだって、そんなお姉さんの薫陶を受けてのものだ。
トリップ先の事情は、トリップから戻るのに必要な部分、自分の力になる部分にだけ積極的に関わって、それ以外の、ストーリー改変だの、原作キャラとの交流だの、フラグだの、救済だのは完全な余録、おまけに過ぎない。
当然、トリップ先の人間に気を使う必要はない。
力がない間は反感を買わないように、力を付けてからも、優先順位はまず自分の不利益にならないように、深く交わらず、上っ面だけ取り繕っての交流でいい。
トリップ先の出来事だの、キャラの事情だのは二の次三の次四の次、むしろ気にかける必要無いよね? こっちの目的果たすのが最優先で、踏み台上等、餌上等。
もちろん、この理屈はお兄さんに有利に働いたし、文句を言う筋合いは無い。
むしろ、お兄さんを生存させる上で、初っ端のトリップからこういう思想を植えつけたのはとても良い判断だと思う。
思うけど……思うだけに、解せない。
「どうでもいいんなら、そういうものは捨てちまうもんじゃね?」
仮に、どうでもいいというのが嘘で、トリップ先の存在との絆とかを認めていたとしたら、説明が付かない。
あの時、あのタイミングで、あんな真似をした説明が……
―――――――――――――――――――
……………………
…………
……
消滅した。
端的に表現すれば、卓也に理解できたのはそこまでだ。
自分の身体が、無限螺旋で蓄えた力が、身体を構成していたこの宇宙で手に入れた何もかもが消失してしまっている。
魔術師としての力、機械巨神としての力、ナイアルラトホテップとしての力、────シュブ=ニグラスとしての力。
それら全てが、今の今まであの忌々しい、憎き魔を断つ剣相手に振るっていた力が、消えた。
後に残ったのは、無限螺旋以前に手に入れた力のみ。
周囲には大気こそ無いものの、空間と時間が存在し、エーテルに似た宇宙を満たすエネルギーと、強い力の脈動を感じる。
だが、それは消失感の後に初めて感知することができたもの。
自分を含め、無限螺旋の、字祷子宇宙の全てが消失した感触を否定するものではない。
「 、づ げ 、 」
不思議と消失を免れていた、機械巨神のパーツとして組み込まれていた次元連結システム含む幾つかの字祷子宇宙外物質を中心に、肉体を再構成する。
ナイアルラトホテップを取り込む事により実現していた虚数からの復元も使えない。
ただ、一時しのぎとして、ありあわせの部品で肉体を作り上げる。
組み上げられたのは、生身の肉体に近い生態コアを持つ黒いボウライダー。
メイオウ攻撃、重力加速速射砲、超電磁電動鋸。
今や蟷螂の斧にも劣る瓦落多と化した武装を構えながら卓也は思考を走らせた。
思い出すのは、手に入れたナイアルラトホテップ含む、無限螺旋で手に入れた力だ。
字祷子宇宙の全てが消失し、肉体も能力も失ったとしても、卓也の、トリッパーの力に影響はない。
取り込んだ力は、字祷子宇宙の法則をそのまま扱うのではなく、一度卓也の内部で機能の一部として再現されるものだ。
故に────
「 、づあぁっ!」
字祷子宇宙以外の肉体で再構成された卓也の記憶を最小単位として、ナイアルラトホテップと全く同じ機能を発揮する字祷子宇宙以外の法則を用いて、手に入れた力を取り戻す。
宇宙が消失する直前までの機械巨神としての姿を取り戻し、周囲を見回す。
全知覚能力を用いて敵の姿を求める。
既に展開していた内部宇宙を破られ、泥沼の殴り合いを繰り広げていた卓也とデモンベイン。
声を出せる機能を取り戻してしまえば、感情はたちまち声となり迸る。
「何処だ! 何処に逃げ────!?」
剥き出しの感情のままに叫び、周囲の光景に唖然とする。
……何も、無い。
宇宙はある。空間も時間もあり、星々も存在している。
だが、無い。
あの宇宙をあの宇宙足らしめていた粒子『字祷子』が一切感じられない。
「あ──────」
そして、見つけてしまう。
始まりの、まず、最初にある邪神。
幾柱もの邪神を従者として従え、ただ自らにとって心地良い音色を奏でさせながら、何を考えるでもなく眠り、深い、深い夢を見続ける白痴の神。
宇宙の中心であり、かつての宇宙の生みの親……、宇宙そのもの。
『字祷子宇宙が存在している限り、決して観測できない』筈の、魔王──アザトースの姿を。
「いやー、ごめんねぇ卓也ちゃん。お姉ちゃん、ちょっとトチっちゃってぇ」
呆然とアザトースを凝視したまま固まっている卓也に、場違いな声が掛けられる。
先程までの闘争とも、この邪神達の王が眠る無限の宇宙の中心にも似つかわしくない、底抜けに明るく、脳天気で、軽い口調。
声のする方を向くと、そこには見慣れた姿があった。
機械巨神と化した卓也の目線よりもほんの少し高い位置で、宙に浮かべたクッションに座り、申し訳なさそうに眦を下げ、しかし、それ以外の表情を表すパーツでヘラヘラと笑っている、鳴無句刻。
「『うっかり、不幸な事故で』ねぇ、アザトース、目覚めさせちゃったぁ……ごめーん、ね?」
ぺろりと唇の間から少しだけ舌を出し、菜箸を握った手で軽く拳を握り、自らの頭をコツンと叩きながらの、誠意など欠片も見せるつもりもない、ポーズだけの謝罪。
『うっかり』
『不幸な事故で』
そのようなことが、全くありえないとはいえない。
トラペゾヘドロンに封印されているとはいえ、封印の中で目覚めない、という保証はどこにもない。
無限に積み重ねた宇宙の亡骸をもって封印に成功してはいるものの、その封印はあくまでも邪神達を閉じ込めておく為のものであり、アザトースの眠りと目覚めには一切関係していない。
故に、何らかの原因で、アザトースが目覚めたとして、天文学的な確率ではあるが、不思議ではない。
「…………姉さん、その菜箸は?」
だが、そうではないことを、卓也は確信していた。
句刻がこれ見よがしに見せつける、魔法の杖と化した菜箸。
何故、この状況で魔法の杖などを手にしているのか。
何故、目覚めの可能性が限りなく低いアザトースが目覚めているのか。
消される事もなく態とらしく残留させられている、魔力の残滓。
「ほら、もうあの状態だと、千日手で終わらないでしょ? だから、無限螺旋をクリアしたご褒美として、あのデモンベインを潰して食べさせてあげようと思ってたんだけどね?」
菜箸を鞄の中に収め、照れの混じった笑みで、
「……ぜぇんぶ、夢オチにしちゃったら面白いかなぁ、なんて思っちゃってぇ、つい『ザキ』と『ザメハ』を間違えちゃったの」
特大の嘘を吐く。
一切の悪気も悪意も無い、まるで、事前に知らせていた夕飯のメニューをこっそり変更した事を告げるように。
「…………」
宇宙に満ちる暗黒物質が、エーテルが震える。
句刻を見上げる機械巨神──卓也から漏れる感情の震えが伝播しているのだ。
そして、それに気付かない句刻ではない。
それがどういった感情による震えなのか知りながら、句刻は意に介さない。
いや、意に介さないどころの話ではない。
にこにこ、にこにこと笑いながら、波立つ感情を、煽る。
「でも、別に構わないよね。だってほら、今無くなったものは、全部、一つ残らず、なぁんの価値もない、目が覚めたら忘れちゃう、ただの下らない幻だったんだもの!」
衝撃。
揺らいでいた感情が爆発する事で生まれた、指向性のない破壊力。
それは、今まで卓也が取り込んできたあらゆる力に似て、しかし、もっと原始的で、根源的な力。
暗黒物質でも、エーテルでも、空間でも、時間でも、宇宙でもない、あらゆる概念を内包する世界ですら、この波動を受けるには足りない。
最も頑強で、決して崩れ去ることのない、鳴無姉弟がトリップしている最も外側の大枠『千歳・アルベルトが放棄したデモンベイン二次創作世界』が震え、軋み、悲鳴を上げている。
クッションに座っていた句刻が、崩壊を初めて荒れ狂い出したエーテル風に靡く髪を手で抑え──その手に、一筋の紅い線が走った。
殺意ではない、害意でもない、無秩序で不均一で混沌とした『怒り』の感情が、緩く、しかし、確実に句刻に焦点を合わせようとしている。
その発信源である卓也──機械巨神は、そのボディに非効率的な破壊兵器を無数に展開し、
「…………ああ、そう」
ゆっくりと、句刻からアザトースへと向き直る。
遅れて、句刻に向けられていた怒りの感情もアザトースへと向き直り、確かな害意へと変化していく。
大きい意味での世界を震わせていた破壊の波動は、今や全てが機械巨神のボディの中で完結している。
収まったわけではない。飲み込み、押さえ込んでいる。
言うべきこと、言いたいことと共に。
「それなら、幻じゃない、この世界で、一番確かな力を、手に入れないと」
感情の震えを飲み込み抑えながら、機械巨神が進む。
その背に向けて、ニコニコとした態とらしい笑みを消し、口の端を僅かに釣り上げた句刻が、試すような口調で声を掛けた。
「そうね。……手伝い、欲しい?」
「いらない。すぐ終わるから、姉さんは黙って見てて」
突き放す様な言葉と共に、武装を最適化し、加速。
世界の揺らぎに、微睡みから再び叩き起こされ荒れ狂うアザトースに向けて、不意を突くことも柵を弄する事もなく、真っ向から攻撃を開始した。
―――――――――――――――――――
……………………
…………
……
正直な話、生きた心地がしなかった。
お兄さんとお姉さんが本当の意味で不仲になった時、あたしの存在意義は失われてしまう。
そうでなくても、あたし個人の感情でも、お兄さんとお姉さんが喧嘩している場面なんて見たくもない。
まぁ、こっちの世界に戻ると同時に感情への補正が切れたのか、お兄さんもなんであそこまで激情していたかわからない、みたいな感覚になって、喧嘩とかにはならなかったけど。
「お姉さんが、お兄さんを態と怒らせようとした、ってのは分かる。あの世界限定の補正ブーストじゃない、お兄さんそのものの力を引き出そうとした。でしょ?」
確かに、あの時お兄さんから吹き出した力は、戦力として考えれば魅力的だ。
でも、そんなものは、元のこの世界にまで引き摺る二人の中に悪影響を残してまで引き出す必要なんて無い。
お兄さんが自力でお姉さんに追いつくまでは、あたしを捨て駒として扱ったり、最悪の場合、お姉さんを頼りにしてしまえばいい。
生きてトリップ先から戻り、この世界で生きていくことが至上なら、トリップ先での恥なんて掻き捨てだ。
はっきり言えば、あたしは少し怒っている。
もう少しやり方があったんじゃないか、と。
怖いからお姉さんにもお兄さんにも直接は言わないけど。
「んー、まぁ、力を引き出す、って効果も期待できたわよね」
「それ以外に、どんな理由であんな真似ができんのさ。それに、そういう理由でお兄さんとシュブさんに絆を結ばせたんなら、お姉さんがそういうものを大事に持ってる理由にはならないじゃん」
「大事にしてる訳じゃないんだけど……うぅん、なんて言えばいいのかしら」
中ほどまで開かれていたアルバムをぺらぺらと捲りながら、お姉さんは少し考えこむようにして唸る。
開かれては閉じられていくページには、写真や日記の他にも、様々な物が挟まれていた。
髪をとめるためのどこにでもあるようなリボン、地球上には存在しない花で作られた押し花、二次元化され収納された玩具っぽいデザインの宝石。
七十年代八十年代を想起させる派手にウェーブの掛かったボリュームのある髪の少女達と泣き笑いの表情の小さなお姉さんが写った写真と共に綴じられた、互いの友情と再会を誓う寄せ書き。
それらを一つ一つ確認するお姉さんの表情は……なんと表現するのが正しいのか、複雑な感情が込められている気がする。
確かなのは、そのどれもが手元にある物品を見ているのではなく、それらを通して思い出される、お姉さんの過去を見ているのだろうという事。
「卓也ちゃんにもね、そういうものを『大事にしたことがある』っていう、経験が必要なのよ」
「経験?」
「そう、経験。トリップ先で、トリップ先の人達と一緒に冒険したり、遊んだりして、苦楽を乗り越えて、同じ感情を共有して『ああ、この人との絆は一生消えるものが無いだろう』とか、そういうとびきり青臭いのが」
言いながら、アルバムから一枚の写真を取り出す。
写っているのは、今のお姉さんが使うトリップ服に良く似て、でも、ちょっとデザインセンスが古めかしい魔法少女服を着たお姉さん。
満面の笑顔で、同じような年頃の、如何にも少女漫画の主人公っぽい女の子と手をつないで並び、カメラに向けてピースサインを送っている。
二人を囲むように並んでいるのも、如何にも少女漫画の登場人物っぽい美男美女やマスコット達。
背景は、どこかファンタジーな世界のお城だろうか。
「確かにトリップ先にあるものなんて、この世界のものと比べたら下水のヘドロほどにも価値がないわ。でもね、普通はそう思うまでに、彼等の事を大切に思う時期が確実にある」
告げるお姉さんの言葉。
そこに込められた力の強さに、写真を見つめる視線に込められた、あたしもお兄さんも見たことのない『過去』を思う感情に、あたしは口を噤むしかない。
「普通なら、大切に思って、友達になって、『また何時か』って、再会の約束をして……また、自分を知らない、彼等に出会う。大切に仕舞っていた想いを、穢して、擦り減らす」
視線に込められた感情は、同一の別人であるという裏切りに対する怒りでもない、トリッパーである自らへの諦めでも、トリップという仕組みそのものへの憎悪でもない。
「口で説明してもいいんだけど、『知っている』のと『経験がある』のでは、大きく違うしね。まぁ、もう純粋な原作キャラだと『代えが効く』って思っちゃうだろうし、『代えが効かない』相手を用意するのは手間だったけど……いざという時に、これが原因で不覚を取るよりは、ね」
プラスにも、マイナスにも向かない、強く、研ぎ澄まされた、意志。
もはや決して揺らぐことはないのだろうと、見た瞬間に理解できる心の在り方。
意志の在り方は『これは、こういうものだ』という、確信。
「……トリップ先が不完全でも、トリップ先で出会った相手が不完全だろうと、私たちは、相手に情を抱くことができて、共感することもできる。共に泣いて、共に笑って、一緒に遊んで、背中を預けて、信頼して、友達になることだってできる」
お姉さんは言葉を切り、手の中の写真に火を付けた。
「──それを理解した上で、躊躇なく利用し、食い物にできる。それが私達のトリッパーの、有るべき姿よ」
手の中で写真が一枚灰になるのを見届けて、お姉さんはしっかりとあたしの方に振り返っる。
「あの時、卓也ちゃんは確かに怒ってみせた。……代えの効かない相手だけど、トリップ先のキャラを貶されてね」
その表情は、晴れ晴れとした笑顔。
「ひとまずはこれで良いわ。シュブちゃんは綺麗な思い出になっちゃうにしても、トリップ先での人間関係に執着を一度持てたなら、何時か、何度でも代えが効く相手と仲良くなる。それを乗り越えた時、卓也ちゃんは初めて『私』と同じステージに立てるの。……ふふ、楽しみでしょ?」
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……………………
…………
……
「まいったな」
北海道物産展で鮭一匹を衝動買いしてしまった後、添え物になりそうな出来合いの漬物などを物色している間に、すっかり日が落ちてしまった。
この町は街灯が多く、夜に開いている店も多いからまだ明るいが、村に帰ったら月明かりだけが頼りだろう。
光が無い程度で足元が見えなくなるような視力はしていないが、流石に遅くなりすぎたかもしれない。
大型スーパーのある区域から暫く歩き、町の外れ、村との間にある山々の近くに辿り着く。
周囲に人が居ないのは確認済みであるため、パンパンになった鞄を申し訳程度に開けて、そこに異空間の入り口を作り、コートを取り出して雑に羽織る。
自動で前のボタンが咬み合って装着完了、森の中に飛び込む。
森の中に入り、完全に人目が無くなったのを確認し、一気に木の上に飛び、更に木から木へと飛び移る。
行きの道程で元の世界での加減を思い出した為、樹の枝に無駄にぶつかる事もしない。
時折山が途切れ、広々とした田園地帯に出る時は、周囲の光を屈折させて本格的に姿を消し、走る。
本格的に遅くなるといけないので、少しだけ速度を上げる。
時折出てしまいそうになる衝撃波をちょっとした体裁きで打ち消しながら暫く走り続けると、一際大きく、深い緑に覆われた御山が見えた。
少し蹴り足を強めに、反動で木を砕かない様にしながら、大きく跳ぶ。
滞空中、山の中から手を振る影が見えた。
ナノポマシンを投与した熊だ。
何やら大きな獲物を引き摺って、巣穴に持ち帰る途中なのだろう。
冬眠に向けてカロリーを蓄えるというのであれば、後で鮭の複製をくれてやろうか。
そんな事を考えている間に、山の頂上、一番高い場所に生えた木の天辺が近付いて来た。
体重を変化させ、木を揺らすこと無く着地。
「んー……」
見上げる空が近い。
星が思ったよりも見えないのは、今日が満月だからだろう。
大きな大きなお月様が、山々と、その間に隠れるように存在する俺の村を照らしている。
ポツポツと存在する民家の灯り、既に営業時間が終了した郵便局の前の灯りに、交番の灯り。
街灯の本数は、改めて数えてみると驚くほど少ない。少しケチりすぎではないだろうか。
田舎独特の閉鎖環境が生み出す妙な力関係のコミュニティなどは存在しないにしても、一端の文明人が暮らすには、少しばかり辺鄙過ぎる土地だ。
「でも、いい村でしょう? ここが、俺の育った村、俺の故郷です」
いろいろ整理するのに、ひと月も待たせてしまって、ごめんなさい。
今日一日で、俺が主に活動する場所は一通り回ってみました。
多分、今、一緒にこの光景を見て、この冷たい風を感じている、という事になるんでしょうか。
昼に食べたチャーハンはどうでした? 姉さんの手料理は、結構気にいっていましたよね。
「今日の夕飯、鮭を使って、俺がメインを作る事になったんです。多分、姉さんも美鳥も手伝ってはくれないんですよね。だから」
一緒に帰って、一緒に料理を作って、それから、俺と、みんなと一緒に、ご飯を食べましょう。
二人で、同じ場所で。
「なーんて」
返事は期待していません。
多分、今日が終われば、こんな事も考えません。
あなたはもう、考えないし、喋りもしない。
だから俺も、あなたを意識しないし、語りかけもしません
何しろあなたは、もう、俺の一部、──俺のものです。
何もかも、俺に選択権があります。
だから、暫くお付き合いください。
俺があなたを忘れるまで。
誰の夢でも、幻でもない、この世界で。
おしまい
―――――――――――――――――――
完結です。
完結ですよ猿渡さん!
途中で切ってこのSS読むの止めた人かなり居るけど、それもこれもひっくるめて七十七話ことデモンベイン編最終話エピローグをお届けしました。
デモンベインのデの字くらいしか出てない様なエンディングだったけど、そこはそれ、全ては一炊の夢、という事で。
そんな訳で完結時恒例のぶっちゃけタイム。
デモベ編ではっきり決まってたのは、
・アザトース目覚めさせてエンド。
これだけっ!
あとはふわふわっとしたアイディアが順不同で箇条書きされていただけと言ってもいいです。
シュブさんがメインに添えられたのは運命ではないのです。
感想で多少なりリアクションあったから、じゃあちょっとずつ反応見て昇格させてくかー、程度のものだったのです。
姉の目論見も『キャラを大切だと思う気持ちを植え付ける』ではなく、『飽きるほど繰り返し自分を成長させた世界が三文字の呪文で消え失せるショッギョムッジョを感じさせる』というものでした。
まぁそれでわかったのは、このSSみたいなのでオリ話を延々やると、どんどこ人が離れていくというわかりきった現実なのですが。
でも、それはいいんです。
ぶっちゃけ書いてる方は楽しかったので。
SSは、作者が書きたい時に書きたいように書くのが一番だと聞いております。
で、それに読者の方々が運良く適合できればみんな幸せだよね、というもので。
ちなみに掲示板に投稿する条件である向上心はもちろんあります。
SSの話の方向性は絶対に変わらないというだけで、文章とか話の構成とかについてのアドバイスは超欲しいです。
超欲しいです。
ちなみに、書くと書きをカタカナに変換してはいけません。それでも意味が通ってしまいますので。
以下、最近自分でもちょっと雑じゃね、と思わないでもない自問自答コーナー。
Q,冒頭のシュブさんは何? 実体化できるの?
A,普通に主人公の夢です。
生きたまま完全に取り込まれているので、実体化などできようはずもありません。
Q,そういえば前回、取り込んだ直後に戦闘したけど、最適化の設定はお悔やみ申しあげます?
A,死んでねーです。その設定は意味が殆ど無いにしても一応生きてます。
これは、シュブさんが取り込まれながら、積極的に主人公の身体に自分を合わせていたから、主人公の側で最適化をする必要が殆ど無かった、という事になります。
なので、そのあたりの設定を考慮すると、最適化されきっていない、シュブさんの主人公への気持ちの残滓くらいは残っている可能性が無いとも言い切れません。
あると言わないのは、そんな設定を残しておいたとしても今後使う機会は訪れなさそうだから。
Q,結局、姉は何を狙っていたの?
A,デモンベイン世界にしたのは純粋に力を上げるのに無限螺旋が最適だから。
で、そこで偶然ヒロインのなりそこないを見つけたのが今回の計画の始まり。
普通のトリッパーなら、トリップ先の人間と友誼を交わしたりして、そこから徐々に絶望していく事で精神的な隙がなくなっていく訳ですが、主人公はその工程を飛ばしてしまっている。
これでは、何かの拍子にトリップ先の存在に情が湧いた時、その感情をコントロールしきれずに死んでしまう危険性がある。
じゃあ、主人公と親しくなりやすいヒロインのなりそこないを再利用して、まずはトリップ先の存在にも情が湧くのだという事を教えておこう!
裏切られて絶望して精神的に強くなるのはそのうちでいいよね。
そんな感じ。
Q,なんか、元の世界での友人とか出たけど……。新キャラ?
A,ゲスト、超スポット参戦。設定すら超曖昧。今回の話し用に即興で作ったレベル。
元の世界に戻った、夢から覚めて現実に戻った、という部分を具体的な形で示す為の小道具です。
あと、トリッパーとして主人公代行をした時の友人への態度と、元の世界の素の主人公の友人への態度を比較するためでもあったりします。
これ以上レギュラーキャラ増やしても回しきれません。
Q,なんか主人公が虚空に語りかけてるんだけど……。
A,まぁ一応、一緒に故郷を見て、一緒に遊んで、一緒に御飯を食べる約束は果たしたよー、という、主人公の感傷。
暫くしてから思い出すと布団の上で頭抱えてゴロゴロするかもしれない。
そんなこんなで、長々と続いたデモンベイン編もこれにて終了。
久々の設定纏めーとか思ったんですが、正直、自分も書きたいことを書き終えて、そろそろデモベに関わらない別の話を書きたいので、パス。
デモベ編を振り返って『ここってどんな設定になってたんよ』みたいな疑問があったら感想板に質問として書き込んで頂ければ。
次回のトリップ先は一応決まっていますが、投稿するのは少し間を置いてからになります。
一応人気かつメジャーなタイトルなので、しっかり原作を見なおして、設定集読んで、ネタ作って、話の大筋考えて、オチ考えてからでないと反応が怖いので。
まぁ落ちなしで好き勝手やって帰るブラスレ編方式のエンディングも偶には悪くないと思うのですが。
ちなみに、もう反応返してくれる読者は殆ど居ないだろとか、そういう寂しいツッコミは勘弁してくださいね。
そんな訳で、今回もここまで。
誤字脱字の指摘、文章の簡単な改善方法、矛盾している設定への突っ込み、その他諸々のアドバイス、
そしてなにより、このSSを読んでみての感想、心よりお待ちしております。