輝くトラペゾヘドロンを、ニャルさんに挿入する方法、か。
なるほど、それは酷い難題かもしれない。
しいて言うなら、大導師を黒髪の東洋人風に仕立て上げ、声帯を弄り犬型神姫っぽくすればニャルさんの方からウェルカムしてくるという天の声も聞こえるのだが……。
大導師はグリリバのお気に入り、声優が代わることはありえないだろう。
「ふむ」
さっきは思わず間抜け面を晒してしまったが、ぶっちゃけトラペゾの覚醒は積み重ねではなく確率の要素が殆どである。
そして、いつの間に召喚のコツを取得したのかは知らないが、大十字はともかく大導師は替えの効かない黒の王なのだ。
最終的には確実にトラペゾを召喚できる位置に存在するのだ。驚くには値しない。
値しないが……。
「そうですね。とりあえず残り時間一杯使って、大導師殿の身体と魔力のチェックを行いましょう。何しろ事が事ですからね。もしかしたら大導師の肉体に何かしらの細工が施されている可能性も否定できません」
そう言いながら、俺はポケットから一つの包みを取り出し、大導師に差し出した。
両端で捻られたそれは、一見して飴玉を包んでいるようにしか見えない。
「これは?」
「科学的に正しく、少し体に良い効果もある、決してどこもおかしなところなど無い体調観測用ナノマシン集合体です」
しかも脳波コントロールできる。
この手段だけは何年たっても変わる気がしない。
「ふむ……飴にしか見えぬが」
「飴で包んでありますので」
バター、生クリームを砂糖と水飴と共にコトコト根気よく煮詰め、BB弾程度のサイズのナノマシン集合体を核にして冷やし固めた一品である。
隠し味の塩一摘みのお陰で、味の方はかなり再現されていると思う。
熱で溶けた飴で包んで大丈夫なのかって?
ぶっちゃけナノマシンそれ自体が俺と同じ程度の防御性能を誇るので、今のところトラペゾか最上位の邪神の攻撃でも食らわない限り問題なく稼働するのだ。
「そうか、大儀である」
そして何一つ疑うこと無く包みから取り出した琥珀色の物体を口の中に入れる。
暫しの間、玉座の間に大導師の口の中で糖衣と歯がぶつかり合うころころという音だけが響き続ける。
「これは……」
「甘くてクリーミーで、それこそが、大導師が特別であるという証なのです。あ、舐めきる前に飲み下して頂いてよろしいですか」
特別っていうか、なにげにナノマシンだと知らせた上で躊躇なく口に入れたのは大導師が初めてじゃないだろうか。
大概は黙って食事に混ぜるのに、たまげたなぁ。
「スケジュールを考えれば、この周ではこれが精一杯でしょう。あ、データ採取の為に頭の天辺から爪先まで全身にナノマシンが行き渡りますが、害は無いのでご安心を」
「わかっている。……貴公が、今更余を害することなど、あるまい?」
大導師の少し心配そうな口調。
おおお、大分前の全員ホモな陰秘学科のトラウマが……、やめろ大十字、その距離に来るなら最低限TSしてくれ。
くそっ、シュリュズベリィ先生が筋肉質なゼミ生を個室に連れ込むシーンを目撃してしまった。中から濃厚な呻き声が……!
トラウマをえぐられ、俺の攻撃力ががくっと下がった。
冗談はともかく、大導師は同意を求めてきているようだ。
まったく、大導師は心配性だな。
「勿論ですとも、大導師殿。我ら兄妹が大導師殿に害を成す理由など一つとして存在しないのですから」
邪神補正で死にたくても死なせて貰えない様な相手に無意味に戦いを挑む程馬鹿でもない。
無限コンティニュー可能な奴相手に戦いを挑むほど精神を病んではいないつもりだ。
それに、別に害を成さなくても、欲しいものは採らせてくれるんだし。
そういった意味で言えば、大導師との関係は原作キャラ相手としては、過去に無いほどに平和的な関係だと言えるだろう。
「そうか……そうか……うむ」
大導師は俺の言葉を聞いた後、珍しく大仰な素振りで何度も頷いてみせた後、カリスマを取り繕った。
幾多ものループを越え、大導師の信頼を勝ち取ってきたのだ。
万が一俺達と大導師が敵対するとしたら、それは致命的なまでの意見の食い違いが生じた時だろう。
―――――――――――――――――――
……………………
…………
……
さて、例年通り大導師が猫駆除されて爆死するシーンを華麗に観察し、
「ねんがんの 大導師の死体を てにいれたぞ!」
ところ変わって、セラエノ大図書館の視聴覚室。
鬼械神のコックピットの中で死んだにしては綺麗な大導師の死体を前に、俺は両手を挙げて快哉を上げる。
そんな俺の目の前で、姉さんが痛ましげな表情でハンカチを目に当てていた。
「卓也ちゃんもとうとうネクロフィリアに目覚めちゃったかー……でも安心して、きっとお姉ちゃんが更正してあげるからね!」
「とうとうって何さ、とうとうって」
決意を新たにした表情で両腕でグッとガッツポーズを取る姉さんに軽く手の甲で突っ込みを入れ、改めて大導師の死体に目を向ける。
鬼械神の爆発に巻き込まれたにも関わらず、その死体は異様なまでに元の形状を留めている。
体内に散らしたナノマシンが宿主の生命以外の部分を徹底的に保護し、更に生体活動の停止を確認した時点でエセルドレーダの目を魔力混じりの爆炎で潰し、鬼械神経由でこちらに転送したのが大きいだろう。
「でも死体を取り込んだからって、そう簡単に手に入るものなのかな」
美鳥の疑わしげな声に、姉さんが肩を竦めて応える。
「そこら辺は、千歳の設定次第ね」
少なくとも、大導師のモデルから考えてエジプト神話における魂の解釈くらいは入れていてくれてもいい筈だ。
古代史とか宇宙とか絡ませた設定の厨二と言えば、エジプト神話要素は欠かせない。
問題は、エジプト的な要素が含まれたとして、肉体とカーだけで召喚に必要な要素は足りるのか、という事だろう。
そんな真似ができるなら最初からニャルさんがやっているとも言えるし、別段大導師以外にそれをやらせる必要もないと言えばそれまでの話な訳で。
「無理なら無理でループ抜けた後に完全版を召喚できる大十字九郎を食べればいいんだし、気楽にやりましょ?」
「それもそっか。よっしゃお兄さん! 取り込む前に大導師の死体で一発芸大会やろうぜ!」
「それは気楽にやりすぎだ」
「■■■■■!」
と、三人で騒いでいたら、司書の三角錐に怒られてしまった。
流石セラエノ大図書館、騒いでいる連中に注意する委員長タイプが実は一番騒がしいというテンプレをここまで自然に再現するとは。
―――――――――――――――――――
……………………
…………
……
大導師のカミングアウトから暫しの時が流れた。
ぶっちゃけ死体を取り込んで最適化するのに時間がかかった訳だが、これには実は数十周くらいしかかかっていない。
大導師が神と人間のハーフである事を考えれば驚異的な短さでもあるが、これはこちらの度重なるバージョンアップと、母親の方を事前に取り込んで完全に最適化していたからこそとも言えるだろう。
今周は、目覚めて直ぐに大導師に原因を調査中であることを使い魔を差し向けて伝えた上で、ニャルさんの捜索を行なっている。
実際、アーカムに限らず、ニャルさんの端末は数多く存在する。
正確に計測した事は無いが、人間に限って考えても、一つの小さな町を虱潰しに探していけば二三人は居る筈だ。
ブラックロッジに行くだけでも既に一人見つけることができるし、アーカムレベルの大都市ともなれば、住民の十人に一人は知り合いにニャルさんの端末が混じっているのだから、その見つけ安さはかなりのものだろう。
そう、端末を見つけることはとても簡単だ。
簡単なのだが……
「ニャルさん、ちょっといいですか」
俺の呼びかけに、白い体毛、猫にも似たフォルムの、ぬいぐるみの様な生物が振り返る。
その瞳は、ニャルさんの端末に相応しい燃えるような紅い眼──
「君は……魔法少女でも無いのに、ボクの姿が見えるのかい?」
とはいかず、その紅い瞳に対して得られる印象はルビーの様な、宇宙的悪意など欠片も、いや、感情による揺らぎなど一切感じられない無機質なものでしかない。
路地裏の中央を歩いていた白い獣──QBはくるりと軽く身を翻し塀の上に駆け上ると、その無機質な瞳をこちらに向け、口も動かさずに問いを発した。
「まぁ、別に男に見られても嬉しくもなんとも無いんだけど……。ところで君、悩みを抱えている女の子を知らないかい?」
「生憎と手持ちを切らせてまして。……好きなんですか?」
突如として奇妙な事を口走りはじめたQBに対し、念のため確認の質問を行う。
「勿論さ! ローティーンの女の子は世界の宝だからね!」
先ほどまでの無機質な固定された笑い顔ではない、目をへの字にした満面の笑みで清々しいまでに断言するQB。
あ、間違いない。
このQBはダメな方のQBだ。
「そうですか……。ああ、手持ちはありませんけど、ここから少し行ったところにある教会にそんな感じの女の子が居ましたよ。自分に自身が持てないとかどうとかで、男の子二人にいじわるされて」
「ちょっとその雄餓鬼去勢してくる」
平坦な口調でそれだけ告げて駈け出したQB。
ちょっと紳士過ぎるが、異常を来したQBとしては大人しい方だろう。
どうせ返り討ちにあってケーキの材料にされるのがオチだし、シスターに警戒を促す必要もないか。
彼の後ろ姿を暫く見送った後、俺は次の目的地へと足を運んだ。
―――――――――――――――――――
先の路地裏から少し離れた場所に位置する小道に、こじんまりとした佇まいの古本屋が存在する。
名前も無いような、本当に古本を買って売るだけが仕事の様な店構えだ。
この古ぼけすぎて文字も読めないような看板、蔦の生えたレンガの壁。
いやぁ、ノスタルジックで、実にいい造りですね。
なんかこう、黄金時代のジャンプのバックナンバーとか、ドカベン柔道編が載ってるチャンピオンのバックナンバーとかが置いて有りそうな。
「このワゴンに積まれた少し前のベストセラー、堪らん」
砂埃を被って掃除すらされていない投げ売りワゴンに並んだ背表紙を指先で撫で、入り口のドアを押して入店する。
入店した客が目にするのは、のっけから客の侵入を拒むように目の前に屹立する巨大な本棚の側面と、そこに貼られた、数年前に印刷されたと思しき古本屋連合加盟店を示す張り紙。
棚と棚の間には更に横積みにされたハードカバーが山と積まれており、店内の移動を著しく妨害している。
奥手にレジがあり、この店の構造からして手前の本の万引きに関しては酷く手薄なのだが、そもそも余所に持って行って金になるような本は手前には置いていないのだろう。
背表紙を見れば捨て値同然の値段が貼られ、物によっては鉛筆で雑に値段が書かれたものまである。
表紙が外された文庫もこの辺に並べられているし、明らかに十年単位で誰の手も触れていないだろうものばかりだ。
勿論、高尚すぎるのではなく、あまりに興味を惹かないタイトル揃いであるが故なのだが。
入口側に値段の低い物が並んでいる事を除けば、本の並びは適当極まりない。
作家別という訳でもなく、当然出版社別でもないし、作品名ごとに並べられている訳でもない。
しいて言うなら、奥に行くほど面白そうな本が並べられている、というところだろうか。
更に、体格の良い白人からすれば少し腰を低くしなければ目に入らないような微妙な高さにこそ面白い本が並んでいる気がする。
「おや、この店に客とは珍しい」
唐突に上から折笠声が聞こえてきた。
見上げれば、高い脚立の上で叩きを手に古本の埃落としを行なっている、胸元の大きく開いたスーツを『着ていない』、黒髪に赤目のグラマラスな女性。
但し、妖艶と言うには少しばかり雰囲気がさっぱりし過ぎている。
そもそも、服装からしてそこら辺の店で買えるようなカジュアルな服装に、古書店店員として標準的なエプロンを付けているのだからお察しだろう。
シャツとエプロンを仕上げる胸の山脈は立派だが、服装は全体的にフリーサイズの安物をチョイスしているのか、身体のシルエットを隠す方向に設定されているようだ。
「ナイアさん?」
「っと? 何処かで会ったことがあったかな。ごめんね、あまり人の顔を覚えるのは得意じゃなくって」
脚立を下りながら、申し訳なさそうに言うナイアさん。
その表情には一切の含みが感じられない。
脚立を下り終え、横積みにされた本と本棚の僅かな隙間に降り立ったナイアさんは、両手を広げて全身で歓迎の意を示している。
「とはいえ、久しぶりのお客様だ。探しものがあるのなら幾らでも手伝わせて貰うよ。まぁ、本当は店長が探してくれれば一番早いんだけど」
そもそもこの店の店長でも無いらしい。
それでも俺は念のため、確認の言葉を口にする。
「この店に、魔導書の類は置いて有りませんか?」
この俺の言葉に、ナイアさん(バイト)は少し驚きの表情を浮かべた後、誰かが居るわけでもないのに周囲を見回してから、こちらの耳元に口を寄せた。
「……ここだけの話、そういう本でめぼしいのは、全部覇道財閥が買い占めちゃってて、市場には滅多に出回らないんだ。これ、表で大きな声で言っちゃいけないよ」
「なるほど……。助言、ありがとうございます」
謝辞の言葉を述べると、ナイアさんはこちらの耳元から顔を離し、先ほどまでと同じく満面の営業スマイルを浮かべた。
「代わりと言っちゃなんだけど、数年前に潰れた会社から出版された金枝篇の初版があるんだ。良かったら一冊買っていくかい?」
「ああ、一巻だけ大量に残ってるんですね、分かります」
全部読み切る根気を持てる人が中々居ない宇宙英雄シリーズ的な。
ナイアさんは俺の言葉にがっくりと肩を落とす。
「そうなんだよねぇ、分冊で売ったりするからこんなことに……。でもほら、こういう小さな古本屋だと、下手に買取拒否して客を店から遠ざける訳にもいかないだろう? ここは、美人のお姉さんを助けると思ってさ」
「そうですね、じゃあ、先ほどの助言のお礼という事で、一冊頂いてきます」
「優しいねぇ……買取十%アップサービス券をプレゼントしよう」
リピーター狙いじゃないですかやだー。
別に古本売る予定ないからいいんだけどな。
俺は、押し付けられた割には意外と高かった金枝篇の一巻を手に、古本屋を後にした。
―――――――――――――――――――
その後、先ほどの古本屋のバイトナイアさんと双子の姉妹であるらしい占い師のナイアさんに占ってもらった。
割高な料金で当たってるんだか当たってないんだかあやふやな結果を教えてもらい、そのまま表通りの公園へ。
俺はまっすぐ公園の一角、噴水から少し離れた日当たりの良い場所に構えられた移動屋台へと近づき、迷いなく店員に話しかける。
「フレンチクルーラー一つお願いします」
「すみません、それ、来月からなんですよ」
即座に新原さんが答えた。
俺は二秒ほど思考を空回りさせた後、ちょいちょいと手招きをして、新原さんを屋台の外に呼び出す。
新原さんは可愛らしく小首をかしげ、しかし他に客が居ないためか素直に移動屋台の戸を開けこちらに近づいてくる。
手を伸ばせば届く距離の新原さん。
俺はすかさずアームロックを極めた。
「このフレンチクルーラー一つ、お願いします」
「ら、来月からぁぁぁぁぁっ! あ、痛い、痛い痛いこれほんとに痛いです卓也さん。もっと、もっと優しく! ちょ、折れ、折れちゃいますからぁあ!」
―――――――――――――――――――
「もう、酷いですよ卓也さん……フレンチクルーラーは来月からだって言ってるじゃないですか」
腕を解放され、眉根を寄せ頬を膨らませながら、改めて注文した通常のチョコドーナツを揚げる新原さん。
手慣れた手付き、長いことドーナツを作り続けているのだろうと一目で理解できる。
ただ、この新原さんのドーナツを作る際の手付きは、そう、雑だ。
効率も良いし、出来上がったドーナツがまずくなる訳でもないのだが、とかく雑なのだ。
「そうですね、先月と先々月にも言われた気がしますよ。『それ、来月からなんですよ』って」
当然、先々月の来月は先月だし、先月の来月は今月。
きっと俺は来月も同じやりとりをするはめになるのだろう。
俯くと土が見えた。
午前中の通り雨で土は水を吸い泥になっていた。
「もう……もう半年もフレンチクルーラーを口にしていない……」
フレンチクルーラーを、というかドーナツを食べていないせいか、ここ最近お通じが凄く良い。
基本形態を人間で固定している事もあって、食事内容で多少の体調の差が出てくる。
繊維質もクソもない、体に悪いものは美味しいの法則に則った甘味の一つである、糖分と熱量補給以外では健康面でクソ程の役にも立たなさそうな嗜好品であるドーナツ。
その最たるモノであるフレンチクルーラー……。
「俺は……死ぬ、のか? こんな、ミスドで買い物をしてもポイントが付かない世界で……」
本当なら、本当なら大きいポンデライオンぬいぐるみが日本の総人口を遥かに上回る数手に入る程にドーナツを買い込んできたというのに。
正直ミスドグループから優待券が送られてきてもおかしくない程につぎ込んだというのに。
こんな所で!
「もう、そんな事言わないでくださいよ。ほら」
そう言いながら新原さんは、屋台から出てきて袋を手渡してきた。
茶色いそっけない紙袋に、ワンポイントのポンデライオンマーク。
この紙袋も新原さんのお手製である。
「私、フレンチクルーラーはまだ上手く作れないけど、新しい種類を作れるようになったんです。試食ってことで一つサービスしておきましたから」
「サービスって……」
差し出された紙袋を受け取り、袋を開けて中身を確認する。
イーストシェルのエンゼルクリーム、オールドファッションハニー、イーストリングシュガーレイズド、チョコレート二つ、ダブルチョコレート二つ。ここまでは俺の注文通り。
そして最後、新原さんのサービスで入れられた新製品──
「甘いものは、心の隙間を埋めてくれるんですよ。だから、元気出してください」
──エンゼルフレンチ。
発条仕掛けのおもちゃの様に一瞬で顔を上げ、新原さんの顔を見る。
そこには、なにやら格好いい台詞を噛まずに言い切り、内心で『決まった──!』とか思っていそうな新原さんの笑顔。
その、天使と見まごうほどの笑みに対し、今俺が抱いている感情を言語化し、腹の底から力を入れて叫んだ。
「先にクルーラー作れよ!」
―――――――――――――――――――
……………………
…………
……
まぁ、新原さんがフレンチクルーラーを作れないのはニャルさん状態じゃないせいなんだが。
それが運転時と独立稼動時の違いだって説明を受けてる数少ない個体だったし、事前にフレンチクルーラーを作れないのは確認できてたし。
それから、俺は延々と思いつく限りのニャルさんの端末を当って行った。
教会に行って、ナイ神父相手に信仰の尊さを語り合ったり。
日本の迅速高校で飛び道具を持たない生徒会役員相手にひたすら飛び道具で応対したり。
メロン畑でV字の男にメロンの育成で注意するべき点を教えたり。
自衛隊で自ら最終兵器の素体に志願した少女を問いただす為に自爆寸前でボコボコにして、勢いでうっかり破壊してしまったり。
嘔吐物博士の作った岩場の隠れ家で宇宙的脅威や地球最強戦士の細胞から創りだされた窮極の人造人間を問答無用で抹消したり。
こちらが発して居ない筈の妖気やら魔力やら気やらオーガニックエナジーや呪力や放射線を敏感に感じ取ってきた半人半妖の女剣士を面倒くさくなってルルイエで眠るクトゥルーの口の中に直接ワープさせたり……。
そして、出た結論がある。
ニャルさんが居ない。
少なくとも俺の知る限りのニャルさんの端末は全て独立状態で稼働し、ニャルさんとして暗躍している個体は一つとして存在していない。
「もう、ニャルさんがまた顔出すまで待つしかないんじゃないかな」
完全にやる気を無くし、フローリングの上で寝転がりながら、PSPでデウス・マキナVSデウス・マキナNEXTをプレイする美鳥。
ガンダムVSガンダムをベースにしながら、度重なるループの間に追加し続けたパッチによりもはや既存の鬼械神の挙動、性能、操者の癖などを完全再現することが可能になった、まさに僕らが望んだバージョンの機神飛翔である。
「いや、俺はそれでも問題無いんだが」
ソファに座り、足元で寝転がっている美鳥を足の裏でごろごろと転がす。
うゅぇぇと奇声を発しながらもされるがままになっている美鳥
「大導師がなぁ……、精神的に、ちょっとヤバイ」
大導師もループ組の一人ではあるが、俺達とはループするまでのスパンが違いすぎる。
俺達が二年と少しでループするのに対し、大導師は軽く半世紀程の間隔でループしているのだ。
それだけならまだいい。その長い時間を『自由に』過ごせるのであれば。
繰り返すまでの時間が長いという事は、それだけ揺らぎも大きく、見るべきものも多く存在するだろう。
だが、大導師の辿れる道筋は決まっている。
その生まれと死を因果に刻まれた大導師は、どんな方向性で生きていても最終的には人を集めてブラックロッジを設立しなければならない運命にあり、長い期間の殆どをそれに費やさなければならないのだ。
多少の差異はあれど、ほぼ同じ道筋を延々繰り返し生き続ける。
それを、一つの星が生まれてから死ぬまでの時間の倍以上繰り返す。
その果てに、ようやくたどり着いたトラペゾヘドロンを上手く使えない(と思い込んでいる)事により生じる焦燥。
「放っておきゃいいじゃん。結局脇で好き勝手してただけだけど、少なくとも契約は完了してんだし」
……確かに、心情的な部分はともかくとして、実利を考えれば大導師は放置でも何ら問題はない。
ブラックロッジ側で習熟可能な技能はこれまでのループで全て一定以上に達し、もはやブラックロッジに居る意味すら無い。
しかもバックアップにはニャルさんが付いているのだ。
仮に擦り切れて絶望したとして、トラペゾヘドロンを砕き、神のおわす真の宇宙が解放されるまで、大導師が精神的死を迎える事はありえない。
そも、原作では大導師は絶望の底に居る。
それは、俺達が居なくても、大導師を絶望させるだけの何かがニャルさんの手によって用意されているという事に他ならない。
無限螺旋の何処かで、大導師は確実に『絶対ナイアルラトホテップになんて負けたりしない!』から『ナイアルラトホテップには勝てなかったよ…』の流れを辿るはめになる。
つまり、俺や美鳥が態々ニャルさんと大導師のバトルをセッティングしてやる必要など無い。という、理屈だ。
しかし、
「ほら、今後のループ暇になる可能性とか考えれば、これも暇つぶしの一種だろ? 立つ鳥後を濁さずって言うし」
仮にブラックロッジ側での活動を続けるとして、俺にはもう得るものは殆ど何もない。
だというのに大導師との繋がりを残しておいたら、またぞろ大導師に手を貸すように頼まれて、何の益もないルーチンワークを始める事になるだろう。
だから、今後の周で大導師が俺達に接触を図ろうと思わなくなるような状態に持って行きたい。
それも、可能な限り穏便な手段で。
「だから、トラペゾ召喚まで見守っていたアフターケアとしてニャルさんを大導師の目の前に持ってきて大きな恩を売って、これ以降無闇にこちらを手駒として使おうと思わなくなるような感じにしたい」
ここらで思いっきり裏切って大導師が『こいつらは絶対に味方に引き込みたくない! 関わりたくもない!』とか思わせるのでもいいのだが、無闇に多方面にケンカを売るのは本意ではない。
無限螺旋の残り時間はひたすら世界を巡りながらの自習と修行にしたいので、戦っても訓練にならない程度の敵は作りたくない。
「ってもさぁ、ニャルさんがこの周で端末──化身を使ってるとは限らない訳でしょ、あー、そこそこ、脇腹の辺強く踏んぷぎゅる」
脇腹を踏まれながらリラックスしていた美鳥の肋骨の隙間に足刀を突き込みながら頷く。
「まぁな。仮に何かの化身になってたとして、それが地球上に存在しているとは限らないだろうし」
フォーク使いの少年とセラエノ図書館に訪れていたりする事も無限螺旋ではままある展開である。
まぁ、図書館の方には顔見知りの司書さんに電話をして確認したから、あそこに居ないのは確実なんだが。
だが、探索範囲を地球外、太陽系外にまで広げるとなると、途端に面倒くさくなる。
何しろ範囲が桁違いであるし、今のところ、その化身がニャルさん降臨状態なのかどうなのかは会話の中から類推するしかない。
そんな手間を掛けていたらまた次の周に移行してしまうし、そうなれば探索もはじめからやり直しだ。
二年と少しという範囲で行うには、太陽系外でのニャルさん探索は余りにも規模が大きすぎる。
「えふっ、えふっ……ニャルさんが完全に隠れようと思ったら、それこそ同じような位階の神の力を借りるとかしか思いつかないしねぇ」
咳き込み、PSPで遊びながらというやる気なさげな状態ながらも案を挙げる美鳥。
肺の空気を全て吐き出させられても一切プレイングに影響を出さない根性は流石だ。
しかもアンブロシウスの下位互換のロードビヤーキーの更に機能制限版でライフル通常射撃縛りとかマゾ過ぎる。
それはともかく、
「ナイアルラトホテップに匹敵する位階の神ねぇ……」
シュブさんの元カノとかとコネクションが残っていれば話は簡単だったのだろうが、あれは大分前に何故か俺に敗北宣言をして宇宙の何処かに旅立っていったし。
『あの人の心の中に、もう私の居場所が無いってわかっちゃったから……』
とか言われても、何がなんだかさっぱり解らない。
ああいう自分酔い運転中の連中はどうしてどいつもこいつも主語を意図的に抜いた発言ばかりなのか。
「話は聞かせて貰った! まずは朝ごはんちょうだい!」
ガラガラと居間のドアを開けて乱入する、枕を小脇に抱えた寝間着姿の姉さん。
連続十四時間睡眠を取ったお陰であろうか、寝起きであるにも関わらず、意識はハッキリと覚醒しているようだ。
「もう昼なんだけど……何か代案があるの? あと目玉焼きと塩ジャケのどっちがいい?」
「シュブちゃんよ、シュブちゃんに聞けば九割解決するわ。もちろん目玉焼き半熟にウインナーは二本でお願いね」
ウインナーは……チョッパーさんとこが休みだからカーティス肉店のしか無かった気がする。
あそこは少し癖があって朝食べるには向いてないんだよな……。
しかしなるほど、シュブさんか。
確かに、何故か食堂の主人とは思えないほどのクトゥルフ神話技能持ちだけど、まさか都合よくニャルさんの案件を解決できる技術まで備えていたとは……。
シュブさんマジリスペクトだな。
今なら言える。
シュブさんの足なら二時間掛けて舐め回してもいい。
爪先から太腿の付け根まで微に入り細にねっちょりと舐め回しても文句はないレベルだ。
何なら爪とムダ毛の処理をしても構わない。
コンビニで買った爪切りとネルガル製レーザー脱毛器俺フルカスタムの力を見せてやるぜ。
「そうねぇ……たぶんちょっと込み入った話になると思うから、今日の夕方からバイトで入れてもらって、その後の時間で相談してみるといいかも」
姉さんの提案に、天井を見上げて思考する。
確かに長話する時は閉店後の方が都合がいいし、営業中は何処に誰の耳があるかわかったもんじゃないし、それが妥当な線かな。
「んー、それじゃ、遅くなりそうだったらメール入れておくから、その時は夕飯先に食べちゃっててよ」
丁度、前に教えてもらった羊毛細工で良い感じのが出来たし、見せるついでに何気なく話を振ってみよう。
そんな事を思いながら、美鳥から足を離し、卵を産む寸前のシャンタク鳥を召喚しに屋上へと向かった。
―――――――――――――――――――
……………………
…………
……
閉店後、
明日の仕込みを終え、俺はニグラス亭の奥、シュブさんの生活スペースに招かれていた。
やはりというかなんというか、シュブさんの手が空くまで手伝っていたらすっかり遅い時間になってしまった。
レースのカーテンの向こうはとっぷりと夜の帳が落ち、月の光を打ち消すほどの強い街の灯が、アーカムの街に昼間とは異なる活気を与えている。
姉さんに遅くなる旨のメールを入れ、俺はシュブさんの自室で食事を頂き、食後の茶を楽しんでいた。
強化ガラスを天板にしたテーブルの上には俺とシュブさんのカップと茶菓子の入った器、そして幾つかの小さな羊毛細工が乗せられている。
「────、────」
羊毛細工の一つを手に取ったシュブさんは、煽りで羊毛細工を見つめる。
片目を瞑り、ピンと立てた人差し指をくるくる回しながら羊毛細工の細部に言及するシュブさん。
「あ、やっぱりそう思います? 元のデザインを踏襲すると、ちょっと輪郭が間抜けで……」
後頭部を掻きながら、少しシュブさんから視線を逸らしつつ言い訳をする。
シュブさんの行った指摘は至極真っ当なものであった。
素人が作るのであれば使用する色も単色の方が簡単でいいのだろうが、白一色のペンギンというのは如何に精巧な造りにした所で見た目の印象が弱い。
元々がほぼペンギンをスケールアップしただけの様なシルエットであるため、こうして飾り物サイズにしてしまうと着色の手間を省いた手抜きペンギンにしか見えないのだ。
ワンポイントで紅い目も入れているのだが、それでも補え切れない程の驚きの白さ。
「こっちのデフォルメ姉さんとかはしっかり出来たんだけど、難しいものです」
机の上に乗せた、雑多に造られた羊毛細工の中で一際精密に色分けされた一体を手に取る。
本当は五頭身くらいにしたかったのだけど、羊毛の質を考えるとどうしても二頭身から三頭身が限度になってしまう。
まぁ、ねんどろいど風姉さんも可愛いから良いっちゃいいんだが。
……しかし、この頭身であるにも関わらず、スカートであればついつい中身を覗いてしまうのは何故なのだろうか。
我が身の本能は言わば擬態でしか無いというのに。
日替わりで普通に姉さんの下着も洗っているというのに、本人の身に付けたものでない、自立稼働する訳でもないぬいぐるみのものですら俺を惑わす。
まったく、この魔性のひらひらときたら……。
「──」
ため息を吐かれてしまった。
見ればシュブさんはテーブルに肘を突き、羊毛細工を持っていない方の手でこめかみを抑えている。
「っと、失礼。どうも姉さんが可愛すぎて脳が不具合を起こしてしまったようです」
俺の謝罪に顔を起こして、しょうがないなぁと呆れるように苦笑するシュブさん。
「────、──────」
うん、いつも不具合起こしてるとか、それは流石に言って良い事と悪い事が──待てよ?
不具合を起こしているというから聞こえが悪いのであるからして、そう、もうちょっと言葉選びに気をつければ……。
「そう、何しろ俺は、姉さんへの愛に狂うバーサーカー……」
親指と人差指を顎の先に添えながら、ここ数万ループの中でも一番のキメ角度を向ける。
「……………………」
「ごめんなさいちょうしにのりました。だからその白い目を止めて下さいお願いします」
やだ恥ずかしい……。思わず両手で顔を覆ってしまう。
ていうかシュブさんがこちらに向ける視線が今までに感じたことが無い程に白い。
無言の中にも、何か言いたいわけではないというかもう言う気すら失せてる感がありありと現れている。
この無言をあえて言語化するのであれば『うわあ……』の五文字(三点リーダ含む)だろうか。
俺が仮にも成人したいい年の男だったからよかったものを、この視線を思春期の内に浴びていたらトラウマでひきこもりになりかねない。
「──、──……」
「ええ、もうほんとに返す言葉もありませぬ……」
呆れ顔を経て、少しだけ真面目な顔で説教を始めるシュブさんを正面に、足を組み直して正座の姿勢。
テーブルをどかし、同じく正座で膝を向きあわせ、人差し指を立てて、シュブさんは言う。
今の台詞には多少なりとも恥じらいを感じないと社会で生活できない。
二十を過ぎて『愛に狂うバーサーカー』はありえない。
もう少し落ち着いた言動をした方がいい。
などなど、懇懇と恥じらいと年齢と言動についての説教を受けること三十分。
よくもまぁここまで説教が長続きするものである。
いや、この三十分の説教で一度も話題がループしていないあたり、確実に俺の方にこそ原因があるのだが。
「──、──────?」
「む、それは」
何故それほどまでに落ち着きが無いか、と言われると、答えに困る。
落ち着きが無いと言ってもアルバイト中はきっちり仕事をこなしているし、業務に支障をきたしたことはないし。
しいて挙げるとすれば……、
「……シュブさんと一緒に居ると、つい気が緩んでしまって」
「?」
不思議そうな顔で首を傾げるシュブさん。
いや、俺の内心もそんな感じだ。
不思議な事にシュブさんと一緒に居ると、家で姉さんや美鳥と一緒に居る時程では無いにしろ、素に近い状態で居られるというか。
敬語を除けば……そう、高校時代の友人らと語らっていた時と似ているような似ていないような。
懐かしいな、放課後の教室、運動部の連中の威勢のいい掛け声をBGMに、姉さんの事や鈴木さんのお兄さんの事を語り合った日々。
鈴木さんがお兄さんの部屋のゴミ箱から丸まったティッシュを回収する話は、とてもスペクタクルでファンタスティックだったなぁ。
まさか、その現場を兄に見せるところまで含めて計算通りとか胸が熱くなるな、胸焼けで。
「──、──」
と、俺自身よくわかっていないという事を察してくれたのか、シュブさんのほうから引き下がってくれた。
足も崩していいらしいが、別に正座でも苦にはならないのでそのままの姿勢を保つ。
さて、そろそろいい時間だし、いい加減お開きに──
「あ、そうだ」
やべぇ、すっかり本題を忘れてた。
これを聞かなければ今日ここに残った意味が四割ほど無くなってしまう。
「シュブさん、たなびたいことがあるんだ、ちょっと」
「──、──?」
「一度でいいから、ナイアルラトホテップが隠れているところを」
「────?」
「憧れてるん……いや、嘘です。実は……」
―――――――――――――――――――
……………………
…………
……
「というわけでして」
「──」
腕を組んで仰け反りながら鷹揚に頷くシュブさん。
だいたいわかってくれたらしい。
現実ではかくかくしかじかまるまるうまうまとはいかないが、誠心誠意懇切丁寧に説明すれば言いたいことの七割程度は伝わるものだ。
「────、──?」
「そりゃ勿論試しましたよ。……神性の召喚は一番の苦手分野なんで、成功してるかは知りませんが」
そも原典でのニャルラトホテプとの接触の魔術にした所で成功率が高い魔術という訳ではない。
それこそ、ニャルさんを信奉する邪教徒どもの司祭が新たに任命された時などに現れる程度。
基本的にこの手合いの魔術は、召喚される側に受けるか受けないかの権利がある。
ニャルさんが本気でこちらの召喚、もしくは接触を拒否してしまえばそれでおしまいなのである。
シュブさんは、俺の肯定に暫し目を伏せる。
「……──」
目を伏せたままのシュブさんが問う。
どうやってナイアルラトホテップとの接触を試みたか。
何故、シュブさんはそんなことを聞くのだろう。
「そりゃ、《ナイアルラトホテップとの接触》はネクロノミコンに載ってますし」
「────いよ」
シュブさんが、瞼を開く。
「──っていない」
紡がれる言葉は、今こそ俺の耳朶にハッキリと言語化されて到達した。
「現存する全てのネクロノミコンの何処にも、《ナイアルラトホテップとの接触》なんていう魔術は存在しない」
その一言を、ゆっくりと咀嚼し、飲み下し、身体に染み込ませる。
食物が体内に栄養素として取り込まれるのと同じく、ゆっくりとした理解が追いつくと同時──、
ぞわり、と、背筋に怖気が走る。
視線が、真っ直ぐに俺を射抜く。
まるで、その先にある、俺の奥底に隠された何かを睨みつけるように。
「卓也、君(きみ)は────『どんな魔導書からその知識を手に入れた』?」
言われ、初めて気付く。
俺の記憶では、確かにナイアルラトホテップとの接触の魔術を行使したと記憶している。
内容も当然ソラで読み上げることができるし、必要な機材さえあれば直ぐにでも発動する事ができるだろう。
だが、どれだけ記憶を掘り返しても、その記録が存在しない。
俺は何時、『魔導書に記された《ナイアルラトホテップとの接触》の記述』を目にした?
俺の中には間違いなく、『魔導書から《ナイアルラトホテップとの接触》を学習した』という記憶が存在するというのに!
「あ……、う、え……?」
意識が濁る。
纏まらない思考、記憶の矛盾。
遠くに聞こえていたアーカムの喧騒が水に浸したように篭り、壁に掛けられた時計の音だけくっきりと耳に残る。
ちくたく ちくたく
みにみいかん んいちすと てにくらなか
どこだ、
俺は、どこで、記述を、
《刷り込まれた?》
「お、れは」
何時、何処で、どれだけ、
《中身を書き換えられた?》
俺は
おれの形を保てているのか?
「あ……」
くんちのなみいみみ んちとなもちつなみに
ちくたく ちくたく
時計の絡繰の音がやけに大きい。
微小機械の塊の筈の頭がやけに冷たく、重い。
シュブさんの目を見ていたのに、目の前に床が迫っている。
複雑な文様の、山羊の毛のキリム。
目に映るそれらの光景すら、薄ら暗くなって──
「……大丈夫」
身体を、暖かい感触が包み込んだ。
優しい声が耳朶を打ち、崩れかけていた形が組み直される。
「君は、君──」
不確かな形が、外からの肯定で『鳴無卓也』としての型を確定させていく。
でも、形に確信を取り戻すにつれて、シュブさんの言葉はハッキリと認識できなくなりつつある。
俺はそれを『勿体無い』事だと思うが、同時に、仕方がないのだとも理解してしまっている。
「保──るよ。もう何年も、──事を見──ている──から──たしが──」
わたしがきみをしっている。
だから、安心してくれていい。
耳元でそう続けられた言葉は、とても頼もしいものだと、そう感じた。
―――――――――――――――――――
完全に落ち着きを取り戻した時、
「────?」
シュブさんの言葉は、またしても曖昧なニュアンスでしか聞こえなくなっていた。
みっともない姿を見せてしまったという感情はあるが、それよりも。
「改めて、お願いがあります」
正座の姿勢から、指先まで伸ばした掌を地面に添え、腕を八の字に開き、額を地面に押し付ける。
「シュブさんの智慧をお借りしたい。食堂の主人としてではなく、雇い主としてでなく、魔導に関わる貴女の智慧を」
「────」
地面の額を擦りつける体勢では、頭上のシュブさんの表情など見えるはずもない。
そして、この姿勢──土下座の意味の一つに、無防備な首筋を晒すと同時に、相手の反応を伺わない、欲しないというものがある。
今の俺は、教えを『請う』側。
しかも、ただただ請うだけで、何かの代償を払える身ではない。
だが、それでも、俺はシュブさんに教えを請わなければならない。
もはや、大導師に斬らせるなどというのは理由の一割にも一分にも一厘にも届かない。
「──?」
何故、と問われる。
何故、か。
姉さんを一人にしないためにも、死ぬわけにはいかない。
そう答えるべきだろうか。
確かに、かつてはそれが理由であった。
完全消滅の危機を、姉さんと共に居られなくなるという事実を否定する為に覆したあの予定調和の様に。
今でもそれは大きな理由だ。俺の中の大きな部分を占めるだろう。
だが──、
「恥を偲んで申し上げれば、俺は、消えたくないのです」
恐らくは、それこそが最も本質に近い理由だろう。
思えば、初めて俺の機能が解放されたのも、人間としての俺が生命の危機に晒された時だった。
確かに、俺はもはや人間である前に姉さんの弟であるような、人間としての定義すら満たせないような存在だ。
細胞の一欠からすら蘇り、時に無数に存在し、思考を分割する。
魂の形を取ってみても、悪魔、ラダム、アンチボディ、金神、機械巨神などと融合した今では、人のそれとは似ても似つかぬモノへと変質してしまっている。
それでも俺は、姉さんの弟であり続ける事が出来ている。
しかし、今回はそうもいかない。
何かを取り込んでの意図的な変化ではなく、俺の観測できる範囲の外からの、直接的な『俺の情報書き換え』では。
肉体にも魂にも一定の基準点の存在しない俺を俺足らしめている部分を書き換えられる存在は、即ち『俺を消滅させる』事のできる存在に他ならない。
「放置することはできないのです、『俺』を脅かす存在を。何卒──」
俺を脅かす存在──ナイアルラトホテップと接触を図り、大導師とぶつけなければならない。
それこそが唯一、この最悪な状態から抜け出す手段であるが故に。
「────」
「は」
許されるがまま面を上げる。
目の前には、土下座をする前と変わらぬ、背筋の伸びた正座でこちらを見据えるシュブさん。
「──────────。────」
『あれと接触する必要は無い』
『何故なら──』
「──────」
俺の胸に、人差し指を押し付け、シュブさんは言った。
『君の敵は遥か昔から、常に君の傍にいたのだから』
と。
―――――――――――――――――――
○月☓日(予定は未定)
『例えば一昔前に存在した、開設予定でスペースだけを作られていたホームページのコンテンツの如く』
『もしくは、大まかな部分しか作られておらず、話を作る上でのアドリブには対応していないストーリーのプロットの様に』
『予定通りとは言えないような状況は当たり前に存在し、得てしてその状況は避けて通ることの出来ないものであり』
『物事は予定通りに進まないという予定調和だけが確実に存在しているのだろう』
『最初の予定ではこんな筈では無かった』
『大導師の本懐を遂げさせてやり、俺達と大導師の契約を完遂して縁を切ることだけを考えていればよかった筈なのに』
『無限螺旋の仕掛け人直々の加護がある大導師』
『無限螺旋の仕掛け人であり、ゲームキーパーであるナイアルラトホテップ』
『この二人はシステム上、現状では完全に殺害する手段が一つとして存在しない』
『そんな一人と一柱の戦いに、俺だけが存在(いのち)を掛け金に介入しなければならない』
『既に大導師には予定を伝えてある』
『門の向こう、大十字を早々に撃退し、現代の地球からでも向かうことのできる場所で落ち合い、そこで大導師の願いを叶える』
『輝くトラペゾヘドロンを突き立てるために、ナイアルラトホテップを召喚する』
『勝てば文字通り、命も存在も失い完全な素寒貧』
『だが、もしも、もしもこの賭けに勝つことができたとしたのなら』
『オール・オア・ナッシングというやつだ』
『所詮、この身は全知にも全能にも遥かに届かぬ神ならぬ身』
『精々、健闘と先見に期待させて貰おう』
―――――――――――――――――――
……………………
…………
……
古代遺跡の様な、しかし地球のそれとは比べ物に成らないほど突き詰められ、幾何学の枠からもはみ出した建築学によって建立された、奇怪なフォルムの高層建築物が並び立つ。
背にはコウモリに似た皮膜の翼を生やした人形生物が飛び交う夜空には、地上の高層建築に似た空中建築物が無数に浮遊している。
その空中建築物を巻き込みながら、此度のデモンベインが時空の奔流に飲み込まれ、消え失せていく。
デモンベインの中の九郎とアルにとっては訳がわからないだろう。
マスターテリオンとの、地球の命運を賭けた戦いを、知覚することすらできない攻撃によって強制終了させられたのだから。
コックピットの中身を晒される程のダメージを受け、アルアジフは時空間の渦へと流されていく
仮に、千八百年代終盤の地球に辿り着く前に体勢を立て直したとしても、もはやデモンベインは戦うことはできないだろう。
大十字九郎は人間の魔術師としては天才の部類に分けられるが……それでも、魔導書のサポートも無しに鬼械神を操ることができる程の位階ではない。
この周の大十字九郎もまた、人の窮極、善の極致にたどり着くことは出来なかった。
大十字九郎の戦いは終わり、これからは次の大十字九郎を育てるための覇道鋼造の孤独な戦いが始まる。
無限螺旋の始まりと終わりに位置するこの狂った時空の流れで、再びデモンベインが戦うのは先の話。
断末魔の悲鳴も、相棒を失った戦士の哀哭も響くことなく、デモンベインと英雄の残骸が時の狭間に堕ちていく。
その姿を、地上の高層建築物の中でも一際荘厳で巨大な建築物──セラエノ大図書館の屋上から見送る姿が存在した。
黒鋼を鎧う、灼眼の鬼械神。
静かに佇むその鬼械神の手の中には、おぞましいまでの魔力の残滓を漂わせる、玩具のように『ちゃち』な造りの拳銃。
空間を突き破り現れたデモンベインを撃ち抜いたのは、この鬼械神の仕業であった。
「……本当に、容赦のない。貴公にとって、あれもまた長き付き合いの一人であろうに」
デモンベインが完全に消え失せると同時に、宙から染み出すようにリベル・レギスが姿を現す。
圧倒的な威圧感を纏うその姿からは、一切の消耗を感じることができない。
このセラエノ大図書館に現れる前にデモンベインと数合剣を合わせただけのリベル・レギスは、ほぼ万全の状態と言ってもいい。
黒鋼の鬼械神──アイオーンが、手にした拳銃を投げ捨てながら、欠ける所のないリベル・レギスを見上げる。
「別々の大十字九郎と二年少しの付き合いを何度も繰り返しているだけですよ」
アイオーンのコックピットが開き、中から招喚者である卓也が姿を現す。
その表情は、今まさに大学の先輩を不意打ちで撃ち落とし、地球の命運を断ち切った人間のそれとは思えぬほどに平静であった。
「今回はそれほど深い交流があった訳ではありません。どうせ次の大十字九郎が生まれるまで死にはしないんですから、手心を加える言われはありません」
「なるほど、道理だ」
リベル・レギスの中でマスターテリオンはくすりと笑う。
主に笑みを齎す存在に僅かな嫉妬を覚えるエセルドレーダは、その和やかな空気に力尽くで割り込んだ。
「それで、『方法』を見つけたという話はどうした」
「妹御も居ないようだが……」
リベル・レギスのカメラアイを通じてアイオーンのコックピットの中を覗き見ても、鳴無美鳥の姿は存在しない。
代わりに、卓也の持つ魔力の波が酷く穏やかで、まるで同レベルの魔術師が丸々制御を受け持っているようでもあった。
「美鳥はお気になさらず。俺たちにとっては、これが正真正銘の全力全開ですので」
「なるほど」
その一言でマスターテリオンは追求を終える。
数億の時を共に重ねた相手に対する絶大な信頼。
それが、相手の隠し事を態々暴き立てずとも良いと判断させていた。
「鳴無……!」
リベル・レギスのコックピットの中で怒気が膨れ上がる。
常人であれば魂が凍えるような威圧を受けながら、卓也はおざなりに応答する。
「ああ、はいはい。勿論用意は出来てますよ。『俺の方は』ね」
そこまで口にして、卓也はリベル・レギスに、その仮想コックピットの中のマスターテリオンへと、まっすぐに視線を向けた。
「大導師殿に、あらかじめ言っておかなければなりません」
平静な、緊張も何もない、しかし感情の浮かんでいない訳ではない表情。
それは、どこか大導師を試しているような色を浮かべていた。
「今さっき、俺はデモンベインをこの時空の乱流から弾き飛ばしました。……今から、その流れの中に、デモンベインの代替としてナイアルラトホテップを組み込みます」
卓也の言葉に、マスターテリオンが頷く。
「あらゆる時間と空間を飛び越え蹂躙し、あらゆる世界と時間を喰らい犯し尽くす。この流れの中に押し込む事で、余がトラペゾヘドロンを打ち込むチャンスを作り出す、という手はずであったな」
「はい。逃げ場のないリングに大導師殿と邪神を詰め込むだけで、倒せるか否か、当てられるか否かは全て大導師殿のがんばり次第という事になります」
肯定する卓也の言葉を鼻で笑い掛け、エセルドレーダは寸前で止める。
無責任な話に聞こえるが、邪神を逃げられない決闘場に押し込めるというだけでも望外の奇跡だ。笑う事ができるほど容易い事ではない。
マスターテリオンの成長する姿を誰よりも近くで見続けていたエセルドレーダだからこそ、誰かの得た確かな結果を笑う事はない。
だが、それだけではない。
卓也の言葉には、まだ続きがあった。
「そしてもう一つ。これから、大導師は想像もつかなかった事が起こるかもしれませんが、決して取り乱さず、速やかに目的を達成して下さい」
念を押すようにそう言いながら、卓也が、その手の中に魔導書を招喚する。
手の平から溢れ出す粒子が結合し、一冊の魔導書を形作る。
その魔導書の名を、『ネクロノミコン新訳文庫版』という。
『本来この世界に存在し得ない魔導書』であり、『この世界に来る前から』鳴無拓也が所持し、幾度もの改訂と加筆を繰り返しながらも使用し続けている魔導書である。
その有り得ざる魔導書に、初めて、『積み重ねた年月に相応しい魔力』が注ぎ込まれていく。
魔導書が『精霊を形作るのに足る程の魔力』が。
「それだけ、それだけが」
星の光のような、燃え盛る火の粉のような、まるでこの世界を形作る字祷子のような。
しかし、それらとは決定的に存在を異にする、人の持ち得る言葉では表現し尽くせない、あらゆる要素を備えた煌きが、解けて結び直される魔導書から溢れ出す。
「俺が大導師殿に望む、唯一の願いです」
──現れた精霊は、やはり、人の言葉で名状する事が出来ぬ、異形であった。
あえて形容するのであれば、人や生物、無生物のパーツを無理矢理にシャッフルして作られた、蠕動する肉の塊。
白人の、黄色人の、黒人の、大人の、子供の、男の、女の、犬の、猫の、ネズミの、ミミズの、龍の、蛆の、玩具の時計の、巨大な計算機の、蒸気機関の、
手が、足が、胸が、尾が、骨が、肉が、髪が、肌が、角が、シャフトが、ゼンマイが、ギアが、バネが、
てんでんばらばらに、無秩序に接ぎ合わされて作られた、混沌の精霊。
「マギウススタイル」
主の──『宿主』の声に応えるように、その意をあざ笑うように、精霊が動き出す。
とても動くことの出来ないであろうその塊は、驚くべき速さで宿主に這い寄り、その肉体を丸呑みする。
「────ッ、卓也!」
マスターテリオンが叫ぶ。
取り乱し、常の余裕などかなぐり捨てて取り乱すマスターテリオン。
それほどまでに、その精霊の行いは異常であった。
いや、多少なりとも魔導に通ずる者であれば、誰しもが気付いただろう。
あれは、同意の下に融合しているのではなく、主の意思に反して、その肉体を乗っ取ろうとしている事に。
リベル・レギスが、今にも食い殺されんとする卓也へと手を伸ばす。
しかし、そのリベル・レギスへと、卓也が手のひらを突き出した。
静止を促す動き。
マスターテリオンにはそう見えた。
あの状態でも意識を保ったままの卓也が、何らかの意図を持って行なっているのだと。
億年の時を超え共闘する仲であるからこその信頼。
だが──
「マスター!」
エセルドレーダの叫びと共に、リベル・レギスが体勢を崩す。
動揺するマスターテリオンから、エセルドレーダが無理矢理にリベル・レギスの制御を奪ったのだ。
そして、体勢を崩し高度を下げるリベル・レギスの頭上、僅か数メートルの位置を、眼球を焼く輝きが通り抜ける。
喰らえば鬼械神の守りすら貫通し、術者を焼き尽くすであろう『神威を帯びた』『ガンマ線レーザー』
《輝くトラペゾヘドロンを招喚できるまでに至ったのに、やっぱりエセルドレーダが居ないとダメなんだなぁ、君は》
人の、卓也の声帯を利用して発されるその声は、もはや元の持ち主のそれとはかけ離れ、人の声ですら無い。
言葉そのものが世界へと常に影響を与え、容易く世界を書き換える『神の言葉』
ゆらり、と、混沌の精霊に包まれていた卓也の躰が、揺らめく。
人としてのシルエットを失わず、しかし、特定の誰かの輪郭を形作らない。
「貴様は……貴様は!」
「お前は……!」
マスターテリオンとエセルドレーだが絶句する。
今や鳴無卓也の魔力は完全に消え失せ、目の前の存在もまた、その姿を人の枠から完全に逸脱している。
マスターテリオンは、エセルドレーダは、その存在が如何なるものかを知っている。
討たねばならぬ敵であり、それは、卓也によってこの場に招き寄せられる筈であったものだ。
《さぁ、さぁさぁ大導師殿、ここからは、君のリクエストの通り、卓也くんの『代わりに』僕が相手をしてあげるよ! ここからは──》
銀髪の少女であり、黒髪の女性であり、黒人の親父であり、
男のようでもあり、女のようでもあり、その顔に顔は無く、ただ揺蕩うだけの混沌に、灼(も)える様に揺らめく真紅の三眼。
混沌が意思を持ったかのように決められた姿を持たない、曰く、全ての外なる神の意思と心そのものである──
《僕が、このストーリーの主役だからね!》
這いよる混沌、ナイアルラトホテップ。
全ての元凶である無貌の神が、一人の魔術師の肉を元に、この世界へと姿を現した。
続く
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第七十話をもって『原作知識持ちチート主人公で多重クロスなトリップを』は完結!
次回からは新連載、『原作知識持ち外なる神で多重クロスなトリップを』が始まります。
お楽しみに。
という冗談の部分を強調したかったのに、前半のナイアルラトホテップ探索に文章量を取られてそこらへんの印象が薄くなった第七十話をお届けしました。
正直、この展開もどうしてこういう事態になったかもこの後の展開も、既に完全な形で予想してる人もいっぱい居ると思うんですけどねー。
このSSの感想欄がそういう部分へと言及する空気じゃなくて助かりました。
まあ、書かれたからって路線を変更することなんて有り得ないんですが。
展開予想されたからって話の筋を変更できるアドリブ力がある作者さんは羨ましいのです。
入り方を思いつかなかったので、唐突に自問自答コーナー。
Q,前半の、ニャルさんっぽくないニャルさん達は何よ?
A,ニャルさんの意識が載っていない端末、つまりアンチクロスで地球皇帝してる時のアウグストゥスに相当する仮想人格だと思って頂ければ正解です。
あと、見目がいい端末は与えられた立場にこだわらなくても活動できるんだけど、そうするといざという時に使えないので、こんな感じに性格が設定されていたりする。
QB(非キリコ)→理由を変えてひたすら魔術師の素養の高い少女たちに執着している。
ナイアさん→軽いビブリオマニアで服装も野暮ったく、古本屋勤めに割と執着する。
新原さん→先祖代々ドーナツ屋で、あのドーナツを公園で死ぬまで売り続けていたい。
Q,シュブさんが喋ってるだと……?
A,え、今までも喋ってましたよね。初登場時のセリフは如何にも使い捨てヒロインっぽいチョロ系で……。
というのは置いておくとして、ある程度の条件が揃えば言語化されたシュブさんの台詞が聞けます。一番早いのはレベルを上げて魂で聞く。
一人称をボクとわたしのどちらにするかで二日程悩んだのはいい思い出。
Q,なんで主人公ナイアルラトホテップになってまうん?
A,元から大差ないですし、自然とこうなったんじゃないでしょうか。トリッパーなんて全員タチの悪い外なる神みたいなものですし。
というのはともかくとして、一応理由とかもあります。どうやって、にも、どうして、にも。
答え合わせは次の話でニャルさんが華麗に蹂躙しながら説明してくれると思います。
十三キロや。
因みに、デモンベインを開幕激流葬した辺りの会話を良く見ると、次回の展開の一部が凄くわかりやすく透けて見えてしまいます。
できれば、露骨に感想で次回の展開を予知したりしないで貰えると嬉しいような悲しいような。
展開予想されすぎると出しにくいってのは勿論あるんですが、逆にストーリーに一切触れられないとそれはそれで悲しいというか……。
『このSSそういう話じゃねぇから!』とか言われると言い返せないんですが。
でもほら、せっかくデモベ世界編はラブコメで行く事が確定した訳ですし。
わかりますよね? このもやっとした期待というかなんというか。
シリアスとか誰も望んでねぇから! とか言われても、自分はそういう話も書いてみたいのです。
次回は戦闘シーンとニャルさんの解説メインで短めになると思いますが、それでも余り早くは投稿できないと思うので気長にお待ちください。
何をやりたい、何処につなげる、ってのは出来てるんですけど、そこにたどり着くまでの文章を必要量ひねり出すのが困難なモノでして……。
一応、七十一話でブラックロッジ編、というかゲーム本編時間軸編は終了って事になりますし、短すぎるのも見栄えが悪いですしね。
そんな訳で、今回もここまで。
当SSでは引き続き、誤字脱字の指摘、簡単にできる文章の改善方法、矛盾点へのツッコミ、その他もろもろのアドバイス、アクションパートをACEのスタッフがリメイクした機神飛翔のPSP移植、そして、このSSを読んでみての感想を心よりお待ちしております。