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No.14434の一覧
[0] 【ネタ・習作・処女作】原作知識持ちチート主人公で多重クロスなトリップを【とりあえず完結】[ここち](2016/12/07 00:03)
[1] 第一話「田舎暮らしと姉弟」[ここち](2009/12/02 07:07)
[2] 第二話「異世界と魔法使い」[ここち](2009/12/07 01:05)
[3] 第三話「未来独逸と悪魔憑き」[ここち](2009/12/18 10:52)
[4] 第四話「独逸の休日と姉もどき」[ここち](2009/12/18 12:36)
[5] 第五話「帰還までの日々と諸々」[ここち](2009/12/25 06:08)
[6] 第六話「故郷と姉弟」[ここち](2009/12/29 22:45)
[7] 第七話「トリップ再開と日記帳」[ここち](2010/01/15 17:49)
[8] 第八話「宇宙戦艦と雇われロボット軍団」[ここち](2010/01/29 06:07)
[9] 第九話「地上と悪魔の細胞」[ここち](2010/02/03 06:54)
[10] 第十話「悪魔の機械と格闘技」[ここち](2011/02/04 20:31)
[11] 第十一話「人質と電子レンジ」[ここち](2010/02/26 13:00)
[12] 第十二話「月の騎士と予知能力」[ここち](2010/03/12 06:51)
[13] 第十三話「アンチボディと黄色軍」[ここち](2010/03/22 12:28)
[14] 第十四話「時間移動と暗躍」[ここち](2010/04/02 08:01)
[15] 第十五話「C武器とマップ兵器」[ここち](2010/04/16 06:28)
[16] 第十六話「雪山と人情」[ここち](2010/04/23 17:06)
[17] 第十七話「凶兆と休養」[ここち](2010/04/23 17:05)
[18] 第十八話「月の軍勢とお別れ」[ここち](2010/05/01 04:41)
[19] 第十九話「フューリーと影」[ここち](2010/05/11 08:55)
[20] 第二十話「操り人形と準備期間」[ここち](2010/05/24 01:13)
[21] 第二十一話「月の悪魔と死者の軍団」[ここち](2011/02/04 20:38)
[22] 第二十二話「正義のロボット軍団と外道無双」[ここち](2010/06/25 00:53)
[23] 第二十三話「私達の平穏と何処かに居るあなた」[ここち](2011/02/04 20:43)
[24] 付録「第二部までのオリキャラとオリ機体設定まとめ」[ここち](2010/08/14 03:06)
[25] 付録「第二部で設定に変更のある原作キャラと機体設定まとめ」[ここち](2010/07/03 13:06)
[26] 第二十四話「正道では無い物と邪道の者」[ここち](2010/07/02 09:14)
[27] 第二十五話「鍛冶と剣の術」[ここち](2010/07/09 18:06)
[28] 第二十六話「火星と外道」[ここち](2010/07/09 18:08)
[29] 第二十七話「遺跡とパンツ」[ここち](2010/07/19 14:03)
[30] 第二十八話「補正とお土産」[ここち](2011/02/04 20:44)
[31] 第二十九話「京の都と大鬼神」[ここち](2013/09/21 14:28)
[32] 第三十話「新たなトリップと救済計画」[ここち](2010/08/27 11:36)
[33] 第三十一話「装甲教師と鉄仮面生徒」[ここち](2010/09/03 19:22)
[34] 第三十二話「現状確認と超善行」[ここち](2010/09/25 09:51)
[35] 第三十三話「早朝電波とがっかりレース」[ここち](2010/09/25 11:06)
[36] 第三十四話「蜘蛛の御尻と魔改造」[ここち](2011/02/04 21:28)
[37] 第三十五話「救済と善悪相殺」[ここち](2010/10/22 11:14)
[38] 第三十六話「古本屋の邪神と長旅の始まり」[ここち](2010/11/18 05:27)
[39] 第三十七話「大混沌時代と大学生」[ここち](2012/12/08 21:22)
[40] 第三十八話「鉄屑の人形と未到達の英雄」[ここち](2011/01/23 15:38)
[41] 第三十九話「ドーナツ屋と魔導書」[ここち](2012/12/08 21:22)
[42] 第四十話「魔を断ちきれない剣と南極大決戦」[ここち](2012/12/08 21:25)
[43] 第四十一話「初逆行と既読スキップ」[ここち](2011/01/21 01:00)
[44] 第四十二話「研究と停滞」[ここち](2011/02/04 23:48)
[45] 第四十三話「息抜きと非生産的な日常」[ここち](2012/12/08 21:25)
[46] 第四十四話「機械の神と地球が燃え尽きる日」[ここち](2011/03/04 01:14)
[47] 第四十五話「続くループと増える回数」[ここち](2012/12/08 21:26)
[48] 第四十六話「拾い者と外来者」[ここち](2012/12/08 21:27)
[49] 第四十七話「居候と一週間」[ここち](2011/04/19 20:16)
[50] 第四十八話「暴君と新しい日常」[ここち](2013/09/21 14:30)
[51] 第四十九話「日ノ本と臍魔術師」[ここち](2011/05/18 22:20)
[52] 第五十話「大導師とはじめて物語」[ここち](2011/06/04 12:39)
[53] 第五十一話「入社と足踏みな時間」[ここち](2012/12/08 21:29)
[54] 第五十二話「策謀と姉弟ポーカー」[ここち](2012/12/08 21:31)
[55] 第五十三話「恋慕と凌辱」[ここち](2012/12/08 21:31)
[56] 第五十四話「進化と馴れ」[ここち](2011/07/31 02:35)
[57] 第五十五話「看病と休業」[ここち](2011/07/30 09:05)
[58] 第五十六話「ラーメンと風神少女」[ここち](2012/12/08 21:33)
[59] 第五十七話「空腹と後輩」[ここち](2012/12/08 21:35)
[60] 第五十八話「カバディと栄養」[ここち](2012/12/08 21:36)
[61] 第五十九話「女学生と魔導書」[ここち](2012/12/08 21:37)
[62] 第六十話「定期収入と修行」[ここち](2011/10/30 00:25)
[63] 第六十一話「蜘蛛男と作為的ご都合主義」[ここち](2012/12/08 21:39)
[64] 第六十二話「ゼリー祭りと蝙蝠野郎」[ここち](2011/11/18 01:17)
[65] 第六十三話「二刀流と恥女」[ここち](2012/12/08 21:41)
[66] 第六十四話「リゾートと酔っ払い」[ここち](2011/12/29 04:21)
[67] 第六十五話「デートと八百長」[ここち](2012/01/19 22:39)
[68] 第六十六話「メランコリックとステージエフェクト」[ここち](2012/03/25 10:11)
[69] 第六十七話「説得と迎撃」[ここち](2012/04/17 22:19)
[70] 第六十八話「さよならとおやすみ」[ここち](2013/09/21 14:32)
[71] 第六十九話「パーティーと急変」[ここち](2013/09/21 14:33)
[72] 第七十話「見えない混沌とそこにある混沌」[ここち](2012/05/26 23:24)
[73] 第七十一話「邪神と裏切り」[ここち](2012/06/23 05:36)
[74] 第七十二話「地球誕生と海産邪神上陸」[ここち](2012/08/15 02:52)
[75] 第七十三話「古代地球史と狩猟生活」[ここち](2012/09/06 23:07)
[76] 第七十四話「覇道鋼造と空打ちマッチポンプ」[ここち](2012/09/27 00:11)
[77] 第七十五話「内心の疑問と自己完結」[ここち](2012/10/29 19:42)
[78] 第七十六話「告白とわたしとあなたの関係性」[ここち](2012/10/29 19:51)
[79] 第七十七話「馴染みのあなたとわたしの故郷」[ここち](2012/11/05 03:02)
[80] 四方山話「転生と拳法と育てゲー」[ここち](2012/12/20 02:07)
[81] 第七十八話「模型と正しい科学技術」[ここち](2012/12/20 02:10)
[82] 第七十九話「基礎学習と仮想敵」[ここち](2013/02/17 09:37)
[83] 第八十話「目覚めの兆しと遭遇戦」[ここち](2013/02/17 11:09)
[84] 第八十一話「押し付けの好意と真の異能」[ここち](2013/05/06 03:59)
[85] 第八十二話「結婚式と恋愛の才能」[ここち](2013/06/20 02:26)
[86] 第八十三話「改竄強化と後悔の先の道」[ここち](2013/09/21 14:40)
[87] 第八十四話「真のスペシャルとおとめ座の流星」[ここち](2014/02/27 03:09)
[88] 第八十五話「先を行く者と未来の話」[ここち](2015/10/31 04:50)
[89] 第八十六話「新たな地平とそれでも続く小旅行」[ここち](2016/12/06 23:57)
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[14434] 第五十八話「カバディと栄養」
Name: ここち◆92520f4f ID:190f86b3 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/12/08 21:36
「で、ティベリウス様。もうそろそろ素材は集まりそうですか?」

今日は講義が午後からなので、俺は朝も早い時間から夢幻心母へと足を運んでいた。
この場合に言う『足を運ぶ』は俺が夢幻心母に移動するという意味だけではなく、文字通りの意味も含んでいる。
今の俺の目の前には、俺が運んできた『人間の脚』を手に取り、度々角度を変えてはうっとりとした恍惚の笑みを浮かべたティベリウスが居た。
因みにこの根元から切断された人間の──もっと言えば女性の脚、数日前に回収して鞄内部の亜空間にいれておいたもの。
元々期限が決まっていた訳でも無く、時間がある時で良いと言われていたものなのだが、丁度良い機会なのでついでに渡しに来たのだ。

「そうですねぇ、ここらが妥協点かな~なんて、思っても良いとは思うんですけど」

この間延びした喋り方をするのがTSしたティベリウス。
見た目は首や口の端、眼の上などにフランケンシュタインの怪物の如く刻まれた縫合跡と、側頭部に生えた電極を気にしなければ、見た目は何処にでも居る金髪おでこ美少女だろう。
先行入力で言っておくが、このティベリウスも根っこの所では元のティベリウスと何一つ変わっていない。
当ティベリウスはデモベ登場キャラクターです。
実在するチャンピオンの系列雑誌、赤い実験場、トラウマ製造グロ漫画とは一切関係ありません。

「綺麗な脚ですし、できれば左右揃いなら嬉しかったですね」

ただこのティベリウス、TSしていない普段のティベリウスに比べて、人の役に立ちたい、という気持ちがあるという美点がある。
基本的に、自分をより美しくする為に美しい女性の死体を収集して改造したり、医学的な研究が無い時は若いイケメンを部屋に引っ張り込んでしけこんだり(男が部屋から出て来れたという証言が取れた事はない)しているのだが、人の役に立とうという気持ちは紛れも無い本物なのだとか。
当然、ティベリウスの私室とこの実験室が隠し通路で繋がっているのも、グロテスクな変化を遂げた元人間っぽいクリーチャーの標本が飾られているのも、全ては医学のハッテン♂、もとい発展の為であるからして、全く問題はないのである。

「すみませんねぇ。何分、発見した時点で利用できそうなパーツがそれ位しか無いありさまでして」

俺がさっき渡したのは、回収部隊にうっかり殺害されてしまった女性の破片だ。
違法性が無い訳ではないが、別に俺が人を殺して死体をばらして利用した訳では無い。
TS大十字に似て見栄えが良い脚線美ながら、サイズ的に現状のティベリウスボディに見事にマッチする軽量二脚。
これはティベリウスに献上して機嫌を取るのにベストな素材だろう。

「いえいえお気になさらず、文句を言うなら実行部隊の人達に言わないと……っと」

ぼろ、と、渡された脚を持っていた腕が縫合痕から千切れ落ちる。

「そろそろ換え時なんじゃないですか?」

見た目こそ赤い実験場のあの人だが、TSティベリウスの身体はこれで固定されている訳では無い。
ティベリウスの本体はあくまでも魔導書である為、その時の気分気分で肉体を乗り換えたりは朝飯前。
俺が来る前は医学も糞も無いような、あほっぽい喋り方の褐色少女姿だったらしいのだが、古過ぎる死体がベースになっている為首の保持力が弱く、男性との性交中に首が『もろっ』と取れてしまう事件が頻発していたらしい。

今現在のモデルは、ティベリウスのネクロマンサーとしての実力を最大限に発揮し、なおかつアヌスの生物兵器的な物の研究成果も織り交ぜた最高傑作なのだとか。
ただ、TSティベリウスは同じボディを使用する中でも若干のモデルチェンジを繰り返す為、肉体の末端部分は純粋に浚ってきた人間の死体の継ぎ接ぎのまま。

その為に、先の拉致部隊が大活躍中なのだ。
何を隠そう、あの拉致部隊の方々はティベリウスの薫陶(と調整)を受けている。
『位階を上げてあげる代わりに、ちょっと頼まれて貰えなぁイ?』
と言われ、伸び悩んでいた彼女達はホイホイと受け入れてしまったのだ。
ティベリウスのとても人には言えない様な人体改造術の恩恵を預かったお陰で、週ごとの拉致ノルマを五割も増して、しかしそれでもまだ拉致部隊の方々には余裕がある。
当然、その改造手術の反動で拉致部隊の方々の寿命は残り数十年から数年程に縮んでしまったが、彼女達はその事に気付いていない。
まぁ、俺の知る限り一部の連中を除いてこの世界の魔術師なんて生き急いでナンボ、みたいなところもあるし、説明する必要性も感じられないのだが。

ともかく、元の拉致部隊から素質のある者、なおかつティベリウスの誘いに乗った者が組んだ新たなチームは驚異的なスピードでノルマをこなしている。
そして浚われた市民の中で、美しいパーツのある女性はばらされて優先的にティベリウスの新パーツに。
それ以外の男性、さして美しいパーツを持たない女性などは、そのまま実験材料や儀式の生贄などにつかわれたりする。
最終的に被害者の肉体や魂は毛筋一本までブラックロッジ内部で消費される。
日々魔術の研鑽が行われているこのブラックロッジにおいて、人間の肉体や魂は不足する事はあっても余る事など有り得ない。
証拠が残ら無いので行方不明事件以上には発展し難い上に、浚った人間は欠片も無駄にならない。
実にエコロジーだ。
残念な事に、俺は人間程度なら大概自給自足できるので、その優れたシステムの恩恵にあずかる事はできないのだが。

「アアン、もう、結構気に入ってたのにィ。卓也ちゃん、そっちから予備の腕取ってくれるぅ?」

少しだけ素の口調が出てきたティベリウス。
なぜ命令されなければいけないのか分からなかったが、別にそれほど面倒な作業という訳でも無いので素直に従っておく。

「どれです?」

そっち、と言われた先には大きな棚が幾つもあり、保存用の怪しげな液体に付け込まれた人体の各部パーツが並べられている。
腕も足も肝臓も子宮も心臓も目玉もいっしょくたにされ、時たま同じパーツが延々並び続けている箇所も見受けられるが、特に規則性は見受けられない。
乱雑な並べ方だが、こういうのは並べた人間なりの理屈で並べられている場合が多いので、素直にティベリウスに聞いてみる事に。

「赤の棚の上から三列目の右から八番目かぁ、下から四列目の右から五番目ぇ」

言われ、とりあえず赤い棚に近づく。
この棚は奥行きが広く、一段一段の高さもまちまちだ。
最初に手を触れたケースから、接続部分がグロいポコペン人スーツに、鈴なりになった人間の下半身、首から上が美少女の巨大芋虫、まともな眼球、眼球、眼球、眼球眼球眼球……、
あった。

「ていうかこれ、やっぱり適当に並べてますよね」

あの眼球とか、大量に手に入った時に適当に並べておきました感が酷過ぎる。
せめて予備パーツと研究用の標本は分けて入れておくべきだと思うのだが。
この下半身とか、切っても切っても身体の一部が生えてくる患者の標本だし、眼は明らかに変異し過ぎて視力が消滅してるのも混ざってるし。

「アタシは覚えてるからいいのよぉ。ここの造りが違うしネ☆」

ここ、と言いつつ、ティベリウスはもげていない方の手で自らのこめかみをコンコンと叩いた。

「なるほど……、でも、多分中身は空っぽですよね」

男性の時とは違い、このTSティベリウスは外観にとことんこだわるタイプだ。
なので、必要無いと思った内部パーツはあっさりと取り外して、外から見える部分の維持にのみ魔術の業を費やしているのである。
当然、思考するのは魔導書に移植されたティベリウスの魂である為、脳味噌は真っ先に取り出して捨てられている。

「あぁら、言うじゃなぁい? ──アナタもなってみたいのかしら」

腕のもげた白衣の袖から、これまでの周のティベリウスの使用していた物と同じタイプの鉤爪が覗く。
当然、本気では無い。逆十字の連中の怒り具合はそこら辺凄く分かり易い。
威嚇として武器を出したならその時点でこちらを攻撃する意図はまだない。
本気でムカついた時は、武器を見せるよりも早く相手を殺すつもりで攻撃するのが逆十字の怒り方。
口より先に行動が彼等(今は彼女らだが)のスタイルだが、『ぶっ殺した』とも言わない。
頭に浮かんだ時既に行動は終了している。というよりむしろ『あれ?こいつ勝手に死んでるじゃん』みたいなノリだ。
まぁ同格の魔術師や厄介な怪異相手であれば、もう少し真面目にやるのだろうけど。

「勘弁して下さいな。軽口一つで刳り貫かれてたら、頭が幾つあっても足りませんよ」

肩をすくめてそう返す。
するとティベリウスは鉤爪が生えた腕を振り、俺の首に触れるか触れないか程度の位置で止まる。
……これで『ティベリウスの腕が一瞬ぶれ、次の瞬間には俺の首に』みたいな速度だったら格好いいシーンだったのだろうが、超光速戦闘対応の俺の動体視力からすると、どうにも恰好が付かないというか。

ティベリウスは鉤爪で俺の首筋をつぅ、となぞり薄皮一枚ほどを切り裂いて、腕を下ろした。

「随分余裕があるのねぇ」

先端が薄く血に染まった鉤爪で口元を隠しながら、不満そうな表情で呟くティベリウス。
ティベリウス的には生意気言った新人の恐怖に歪んだ顔とか見て満足したかったのだろうけど、それは出来ない。
ティベリウスはTSしても基本的には弩Sの弩変態なので、怯えた表情で命乞いなんてした日には変に興奮し始めてしまう。
拷問しながら解剖しつつ恐怖に歪む顔とか悲鳴とか楽しみつつ、なおかつ生命の危機からエレクチオンした相手のイチモツで自分だけ満足し、中に挿入されたモノの硬度が無くなったら殺すとか、どうせそんなオチが待っているに決まっているのだ。

俺には分かる。何しろ俺はティベリウスと累計で二百年近い付き合いがあるのだ。
世に二次創作数あれど、俺程長々とティベリウスの性癖に付き合い続けたトリッパーもそうそう居まい。両手の指で足りる数しか居ないだろう。
今の俺には、ティベリウスの性癖だけで一冊ハードカバーの分厚い研究書が書けるレベルで詳しいという自負がある。価格は千五百円ぐらいが妥当か。ハードカバーにしては安いが需要を考えるとそんなもんだろう。
それを踏まえた上で、俺はティベリウスの言葉に肩を軽く竦めて応えた。

「ティベリウス様は逆十字ですから、いざとなれば抵抗するだけ無駄でしょう?」

「ふぅん……」

ティベリウスの俺へ向けられた視線が、どこか探る様な物へと変わる。
よくよく考えればティベリウスは魂が主体の、言わばスビリチュアルな存在だ。
何時ぞやのオーガニック的な感覚(意味はいまいち分からなかったが)の持ち主達と同じように、こちらの違和感を感じ取る能力に長けているのかもしれない。
そういう感覚は、男性よりも女性の方が優れているって言われているし。サクラ大戦とかで。

何?その割にマギウス姫さんは弱かった?
俺よ、そういう時は逆に考えるんだ。
『碌に魔術の修業をした事も無いくせに、魔導書のサポートを得ただけで逆十字を撃破できるだけのポテンシャルを持っていた』
と考えるんだ。
そう考えると覇道瑠璃マジチート。

そんなくだらない事を考えていたら、ティベリウスが不満そうな表情を消した。
いや、消したのでは無い。これは表情を切り替え、次の表情が出るまでの間の中間の顔なのだ。
人間の知覚能力では、魔術師レベルまで上げてもそうそう分からないかもしれないが、俺には分かる。
これは、魂を魔導書に封入しているティベリウスならではの現象で、この時空に存在する死体をベースに作られた肉体を、別の時空に存在する魔導書が操るが為に生じるラグなのだ。
そんな一ミリ秒にも満たない待機状態を経て、ティベリウスの表情が変化を始める。
新たに顔に現れた表情は、薄い笑み。

「アナタ、面白いわねぇ」

浮かべた笑みは、美少女然とした造形の顔(あちこちの継ぎ目や側頭部のごっつい電極、更に金髪を考慮しても間違いなく美少女だろう)に良く似合う愛らしい笑みだ。
が、俺にはその笑顔と重なって、喜色を現す黄緑色の面が見えてしまう。
そう、あれは何度か一緒に大十字とくっ付いたメイドを浚いに行く時に手伝わされた時、大十字をべこべこに叩き潰した上でメイドを目の前で掻っ攫って行った後。
既に服の破れかけたメイドを見つめている時と似た雰囲気が漂っている。

「そうですか? 自分では面白みの無い、真面目腐った人間だと思うのですが」

「ふふふ、今のは冗談だと思うから聞き流してあげるわ」

聞き流される事になった。何故だ。
手にティベリウスの予備のパーツが入った瓶を持ったまま突っ立っていたら、再びティベリウスが此方の顔に向けて手を伸ばしてきた。
もげていない方の、白く細く、しなやかな指で、顎の輪郭をなぞる様に触れられる。
耽美系のアクションだが、────残念、防腐剤の匂いがするのでイマイチムーディーとは言い難い。
このティベリウスはこんなんで男を普通に落とせるのだから、普段は余程雰囲気作りが得意なのだろう。

「何か困った事があったら言いなさいな。アナタは色々と役に立つし、一回だけなら手伝ってア・ゲ・ル」

思ったよりもまともな発言。
今から一晩付き合いなさいとか、この周入ってから聞いた評判だとありえそうだと思ったんだけど。

「一晩くらいなら付き合ってあげてもいいわよぉ? ホホホホホホホ!」

訂正、やっぱり下世話な話だったらしい。さすが、性別変わっても軸がぶれない。
もげていない手に持った取れた腕の手の甲を口元に当て、突きぬける様な声で高笑いを発するティベリウス。
素の喋り丸出しだと、やっぱり外見との違和感が半端無い。
まぁ、敬語とか丁寧語キャラは俺含め大量に居るし、これ位突き抜けてくれていた方が飽きずにいるには好都合か。
ともかく、何を頼むかは建前上は俺に決める権利があるようなので、何か思い付いたら頼む事にしよう。

―――――――――――――――――――

◎月▲日(この周のアーカムシティは)

『ああかむっ!とか呼んでやった方がいい雰囲気な気がするのは何故だろうか』
『まぁ【ああかむ】でググるとエロゲメーカーがトップに躍り出るのは羞恥の事実(誤字に非ず)な訳だが、それを考慮しても間違いなくこの周のこの街はエロゲギャルゲ臭が漂っている様な気がするのだ』
『別に街全体の男女比率が変わっている訳では無いのだが、どうにも普段の生活でよく女性と出会う気がする』
『そんな謎を解明する為、明日も俺はミスカトニック大学で講義を受けるのであった』

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

昼休み。
学食にはいかず、グラウンドの見える三階の講義室で弁当をつつく。

「お兄さん、この生姜焼き一枚とその卵焼き一つトレードしない?」

「流石は俺の妹(的な立ち位置に存在するサポートAI万能ボディ付き)、目の付けどころがシャープだな」

美鳥が目を付けた卵焼き、実は卵を使用していない。
むしろ卵どころか天然由来の成分を一切使用せず、徹底して合成素材のみでされている超科学的卵焼きなのだ。

合成食料と言えば、とあるエロゲメーカーが一切完全新作を出さなくなるきっかけになった某ミリタリ風SFロボエロゲに出てくる物が最近では有名どころだろうか。
あの世界の合成食料と言えば、平和な世界での食事に慣れている人間からすると不味くて不味くて仕方が無いようなどうしようもない出来で有名だ。
だが、この合成卵焼きはそうではない。
並みの人間では通常の卵焼きと食べ比べても違和感を感じないどころか、こちらの方が美味しいと感じる事すらある程に味が良い。

そんな美味しい合成卵焼きではあるが製造工程は科学的極まりなく、ヤマザキのパン工場の従業員ですら顔色を失う程の科学物質のオンパレード。
あらゆる化学物質をふんだんに盛り込み、とても料理しているとは思えない製造法で作られたこの合成卵焼き。
使用されている化学物質はそれぞれ単品ではあらゆる生物にとって致死性の劇薬。
奇跡の様なバランスで様々な劇物が組み合わさり偽卵焼きと化すまでの工程は、正に人類の知恵が生み出した芸術の一つと言えるだろう。

当然、科学物質大好きッ娘である美鳥からすれば、口にした瞬間脳汁垂れまくりの極上品という訳だ。

「でもこれ、結構手間かけてるからな。そのオニオンリングもよこせ」

「へへへっ、このオニオンリングに施された巧妙なイカリング偽装を見破るとは、流石あたしのお兄さんだぜ」

因みにこのオニオンリング、イカリングに少年時代の初恋の思い出を呼び起こされる人間を落胆させる為だけにイカリングに偽装されており、味自体は極々普通のオニオンリングだ。
つまり、美鳥の料理の腕が素直に出ているので、普通に美味しい。

互いの取引の品を相手の弁当に移し替え、窓の外を見る。
グラウンドでは汗臭いガチムチな男たちがアメフトなどで暑苦しい汗をかく光景はなく、ラクロスやら何やら、なんというか……

「あれだ、華やいで見えるな」

「この光景に馴れたら、元のミスカトニックのグラウンドは見れたもんじゃなくなっちゃうよね」

少し前に日記に書いた疑問が少しだけ解決した気がする。
なんというかこの世界、TSすると同時に全面に露出する人間の男女比率にも変化が起きている感じがするのだ。
一部を除くニトロプラス作品が背負う業として、何故か男キャラが目立つというものがある。
これにより、その世界の男女比率が大体一対一であったとしても、ストーリー上で露出するキャラの男女比率が七対三程に感じる様になってしまうのだ。
……まぁ、ニトロ作品は男キャラが多い、という印象自体こじつけ臭くもあるのだが、少なくとも通常のエロゲギャルゲに比べて男が多いのは確実だろう。

このデモベ世界は元からギャルゲ的な物を目指した作品である為か、一応女性の出番が多い。
が、ライバルキャラ達、ぶっちゃけて言えば逆十字とかのせいで男女比率はやはりアレな事になってしまっている。
このTS周まで、自宅とミスカトニック大学とバイト先、ブラックロッジの間を行き来する生活を送っていた俺の体験談なので間違いない。

大学は何故か男が多く、女性が目立たない。
ブラックロッジは男性社員が無駄に多い。
そう考えると、シュブさんの居るニグラス亭は自宅以外ではかなり爽やかな安らぎのスペースだったのではないだろうか。閑話休題。

そこで、TSである。
世界中の人間がTSしたこの世界、今まで俺が感じていた男臭さは全て反転し、逆に百合百合しさすら感じる程に女性が目立つ。
普通に考えて男女比率が変わらないのであれば、グラウンドにはTSした元女のラグビー部員♂達が居てもおかしくはない筈なのだが、そこら辺は世界の修正力というか。

「趣味か」

「千歳さん、やるぅ」

TSする周があるからには、こういう華やかなイベントも欲しいと考えるのが千歳さんなりの粋なのかもしれない。
まぁ、千歳さんの総作へかける想いは非常に捻くれているので、思わぬ落とし穴があるのかもしれないが。

そんな事を考えながら、改めて弁当に視線を落とす。
今日は姉さんがおねむであったため、俺と美鳥はそれぞれ思い思いの材料を使用し、自前の弁当を仕上げてきた。

弁当の形式は極々有り触れた家庭的なものだ。

まず、メインのおかずとして、俺は焼き鮭と茄子のベーコン巻き。美鳥は豚の生姜焼きとフライの盛り合わせ。
メインが二品と盛り過ぎな気もするが、一つ一つのサイズは知れているので何も問題はない。
焼き鮭はやや塩気強めで、ベーコン巻きは茄子の歯ごたえを残しつつベーコンにこんがりと焼き目を付けてある。
美鳥の生姜焼きはタレがこってりとしており、生姜の繊維質も多い。脂多めの部位。
フライの盛り合わせは、オニオンリングと白身魚のフライ。少なくとも貰ったオニオンリングはカラッと揚がっている。

次に付け合わせとして、双方の弁当には胡瓜の浅漬けが入っている。
浸かり具合は極浅で、ほんのり塩気を感じる程度。
どちらかと言えば水分を補給する時か、口の中をリセットしたい時用。
更にプチトマトが二つ。これは彩りの意味合いが大きく、食べる分には完全に水分用と割り切り入れている。

更に野菜枠としてきんぴらごぼうを入れてある。
普段食べるきんぴらごぼうは大きめのカットで食感を楽しむタイプのものだが、弁当に入れる時は火を通す時間を考えて極細使用。ピリ辛な味付けだ。

忘れてならない卵枠だが、俺が合成卵焼きであるのとは対照的に、美鳥はシンプルなゆで卵である。
卵焼きはおかずとして機能しない(特に今回の偽卵焼きは甘めにしてあるので、どちらかといえばデザートに近い物として分類される)が、ゆで卵のご飯との相性は中々に優れていると言わざるを得ない。
卵は俺のと違い通常の卵だが、こちらは遺伝子組換えしかしていない何の変哲もない卵。
黄身の味が濃く、白身はあらゆる調味料とマッチする。

そして、弁当箱の半分程を占める白米。
美鳥はご飯の中心に焼き明太子を乗せているが、俺は細切りにされた昆布の佃煮である。
焼き明太子は通常の生食用の明太子を焼いたもので、佃煮は日本のスーパーなら何処に行っても見つけられるような既存の品。

店売りの弁当に比べて大雑把な造りだが、自分で食べるならこんなものだろう。
野菜が少なめになってしまうのはご愛敬。
容量が限られた弁当で完全な栄養バランスはとり難いものなのだ。

現時点で俺の卵焼き二切れ程が美鳥の弁当に行き、美鳥の生姜焼きの小さめの一枚とオニオンリングの中心近くが俺の弁当に来ている。
ややバランスが悪く感じたので、茄子のベーコン巻きも一本美鳥に弁当に乗せてやる事にした。

「いいの?」

美鳥が首をかしげた。

「おう」

頷く。

「おぉー」

美鳥が嬉しそうに手をたたき拍手。
そのまま俺も手を合わせる。

「いただきます」

「ますます」

美鳥と共に、弁当に向けて頂きますの挨拶。
窓の外からは、グラウンドを駆け回る運動部の声が聞こえる。
いい感じの昼食のBGMだ。

「そういや、ティべさんまた手術したんだって?」

「腕が取れ掛けてたからな」

間に雑談を挟みつつ、まずは付け合わせのきんぴらから箸を付ける。
食事の作法に拘るタイプでは無いのだが、今日は西洋スタイルだ。
今日はメインの出来に自信がある。じっくりと味わいたい。

「腕だけ? 顔変えたりはしてないの?」

「腕だけだな、手術手伝ったから間違いないぞ」

きんぴらは……、うん、成功。
細切りながら食感を残すのに成功している。味付けも出しゃばらない範囲でピリ辛、ご飯を適度に進めてくれる。

「そっかー、あの顔で通してくれればいいのにね」

「まだ逆十字半分しか見れて無いものな」

カリグラの少女形態を含めれば過半数見た事になるのだが。
俺の言葉に、美鳥が何かを思い出した風に声を上げた。

「あ、でもこないだティトゥスっぽいの見たよ」

「マジで?」

基本的にこの周、美鳥の方が狙われる事が少なく、夢幻心母を探検しやすい。
女性優位という訳でも無いのだが、女所帯っぽくなってしまっているので、男はけっこう悪目立ちしてしまうのだ。
今のところ、ブラックロッジ内部で安心して付き合えるのがかぜぽと改造人間素体だけってのは考えものである。
タカリグラさんは俺の方から避けてるし、少女カリグラは会う度に『製作段階では、ヒロインの一人になる可能性もあったのだぞ……』とか何とかで辛気臭い。知らんがな。

「どんなだった? 俺正直ニトロで女侍とかあんまり思いつきたくないんだけど」

戒厳とかならいいのだが、村正辺りから持って来られると少し飽き飽きというか。
ティトゥスの没個性っぷりから考えて盗賊の頭とかありえそうだ。

美鳥は俺の問いに、プチトマトを持った箸をくるくる回しながら少しだけ考え込む。

「んー、なんていうか──深編笠被ってた」

「……虚無僧?」

女性かどうかすら確認し難そうだが、別におかしな事では無い。
一時期の虚無僧は日本全国を自由に往来する自由を与えられており、魔術師が全国で修業をするにはもってこいだろう。
また、普化宗の僧となれば刑を免れる事から多くの罪を犯した武士が虚無僧の格好をしていた事は余りにも有名だ。
この時代よりも半世紀ほど前に普化宗は廃止され、虚無僧は僧としての資格を失い様々な利点を失っているが、特権を抜きにした虚無僧行脚自体は復活している。
既に生活スタイルの一部にまで馴染んだ虚無僧スタイルを続けている武者崩れが居てもおかしくはない。

「いや、服は普通の和服。それも着流しじゃなくてちゃんとしたやつね」

「ふむぅ、じゃあれか、顔に傷がある系の人か」

「脛に傷があるのかも」

「ブラックロッジでそうじゃない奴なんて居るのか?」

「あたしらが言えた義理じゃないね」

「まぁなぁ」

そもそもTS後の姿がニトロ作品から来ているという確証も無い訳で。
そうなると、顔を隠した別の会社の女性キャラか、元ネタとは全く関係無い理由で顔を隠しているか、普通に元ネタも何も無いありふれたTSであるかのどれかになる。

「ま、どんな理由があれ、ベースになってるのがティトゥスじゃ取り込む意味もそんなに無いんだけどな」

昆布の佃煮と共にご飯を一塊口の中に放り込む。
ティトゥスとの接触はこれまでの周でも殆ど無かったが、これ以降もする必要性を感じられない。
四本腕とか、原作でも大十字が言っていた通り、剣術じゃあ奇襲程度にしか使えない。
剣術というものはそもそも人間の身体で操る事を想定して造られている。
四本腕である事の利点など、手数が増えるだけで剣術とは全く関係無い。
手を増やした処で剣の射程が伸びる訳でも無いし、手数が欲しければ触手でも生やせばいいのだ。

で、旨味になりそうなのは剣術だけなのだが、ティトゥスは俺が生成した蘊奥にあっさりと足止めされている。
この時点で俺からティトゥスへの興味は限りなくゼロに近づけられ、取り込む必要を欠片も感じられなくなっているのだ。
まぁ、魔導書にはもう少し役に立つ記述が載っている可能性もあると言えばあるので、機会があれば取り込んでもいいとは思っているのだが。

「SEEDとのクロス、再開するといいのにね」

「そうだな、本当にそう」

ぶっちゃけ、ティトゥスに期待している事はそれ位だ。いや、期待するなら作者さんにするべきなんだろうけど。
故郷のガンダムクロスオーバーSSに思いをはせながら、プチトマトを連続で口の中に入れる。
思ったよりも付け合わせの味のバランスが取れていたので、プチトマトは障害にしかならないのでここで使い切る。

胡瓜の浅漬ときんぴらでご飯を消費しつつ、窓の外に視線を向ける。
グラウンドで無闇に元気に運動している女学生たち。
その中に、最近馴染の顔を見つけた。

「あれ、大十字か?」

「うそ、どこどこ?」

「あれだ、あれ」

俺が箸で指した先では、大十字を含む二年生の男女が入り乱れて──カバディをしている。
そんな光景を見た美鳥は、どこか感心したような表情を浮かべている。

「昼休みにまで特訓とか、この周の大十字は努力家なタイプの大十字なのかな?」

「いやいや、動きは結構緩めだし、あくまでも食後の運動じゃないか?」

陰秘学科に所属し、フィールドワークにも出掛ける体育会系気味の学生は、多くの場合カバディを訓練に取り入れる。
カバディの特殊なルールで鍛えられる部分が、長期のフィールドワークでは御馴染のダンジョンアタックでは非常に役に立つ。

例えば攻撃者(アンティ)を複数の守護者(レイダー)に取り囲まれるという状況は、常に人数を確実にそろえられるわけでは無く、
あえて敵地に乗り込まなければならない遺跡探索者でもある陰秘学科の学生達にとっては馴染まなければならない状況に酷似している。
点を取る工程もまたしかり。アンティがレイダーを触って自陣に戻れば一点というのは、敵に必殺の一撃を叩き込み、他の敵に袋叩きにされる前に味方の多いスポットに逃げ帰ったり、
もしくは自分が敵を誘い出す囮となり敵を自陣近くにおびき寄せ、味方全員で確実に撃破する行為に似ている。
レイダーにタッチされてアウトになり、アンティが次にレイダーをタッチするまでは行動不可というのも、
敵が人質を取れる程度に知能の発達した相手だった場合を想定していると考えれば不自然な所は無い。
アンティが『カバディカバディ』と連呼しなければいけないのも、魔術の詠唱や味方への指示の応答を行いながら動く為の訓練になり、
更には相手の拠点に有毒ガスが充満している時に呼吸を可能な限り少なくする訓練になる。
このように、カバディは集団戦闘における基本を学び、それに必要な体力を鍛えるには最適なスポーツなのだ。
……というのを、俺と美鳥が二年に上がる頃に単独で調査に出て行方不明になる予定の講師が言っていた気がする。

「お、大十字がアンティになるね」

「……うん、やっぱり大十字の動きは他の連中より頭一つ抜けてるな」

基本的に、大十字九郎のスペックは、彼(今は彼女だが)がこの世界の主人公である事を抜きにしてもかなり高い。
肉体派文科系という呼び名は決して蔑称ではなく、運動能力と思考能力のどちらにも優れている事を示す尊称なのだ。
伊達にループが始まる前に流しの魔術師なんてやっていた訳では無い、という事だろう。

「でも、ローライズジーンズは運動に向かないと思うんだが」

なんでこう、アーカムシティの連中はスタイリッシュな服装しかできないのか。
もしも俺に元の世界と行き来する能力があれば、今直ぐにでもファッションセンターしまむらに向かい、独特の奇妙な柄の入ったTシャツとかを買ってきてやるというのに……!
ああ、そういえば持ってきた荷物の中に、福袋に入ってたけどダサ過ぎて着れなかったしまむらのジャケットがあった気がする。今度おみまいしてやろう。

「違う、違うんだよお兄さん……」

俺の言葉に、しかし美鳥は悲しそうな表情で頭を振る。

「あれは、ワンサイズ小さくした方が安いから、だから大十字は……」

泣きそうな表情で言葉を詰まらせた美鳥の頭に手を乗せ、ポンポンと叩いて宥める。
人を哀れと見下す事で自らの優位性を再確認し、その上で格上の人間目線で格下の相手を憐れんで悲しむという娯楽を会得するとは、美鳥も成長したものである。

「そうか。……そうか」

大十字も、大変なんだな。
だが、さりげなく俺の弁当からメインを取ろうと近付いていた美鳥の箸は見逃せない。
美鳥の日緋色金製の箸を、俺のオリハルコン製の箸が半ば程でつまみ、そのまま捻子切る。

「あたしの棒が、お兄さんの棒に!」

「グロ注意な感じに聞こえるな」

ヌードフェンシングとか特命係長的な意味で。
ともかく、何故か常よりも貧乏な感じの大十字ではあるが、それで基礎スペックが落ちている訳でも無く、動きにくい服装でも十全にその実力を発揮できている。
カバディカバディと呟きながら、躍動感あふれるステップでレイダー達の守備を抜き自陣と敵陣を往復し点を稼ぐ様は見事としか言いようがない。
これこそが、大学で魔術師としての英才教育を受け続けている時点での大十字の実力なのである。

ただ、

「あ、倒れた」

腹ごなしとは、須らく腹を満たせる程度に食事が取れている人間が行うべき行動であるという事を、大十字は何よりも先に学ぶべきだろう。
電池切れを起こした玩具もしくは、いきなりコンセントを抜かれた家電の様にぷつりと動きを止め、顔面からグラウンドへと倒れこむ大十字。
周囲の連中は慌てる事も無く試合を中断、担架に乗せて大十字を保健室へと運んで行く。
ミスカトニック大学陰秘学科のカバディは、その試合の苛烈さからこういった退場者も珍しくはない。
まぁ、大十字の様に空腹で倒れる者は極々僅か(むしろそんなの大十字しか居ないが)なのだが。

「同じ倒れるのでも、前のめりか」

口の箸が吊りあがっているのが分かる。
TSしようと、嫌味なエリートになろうと、神経質になろうと、大十字の根っこの部分は変わらない。

「後で見舞いにでも行く?」

「飯食い終ってからな」

どうせ点滴で栄養補給とか受けてるだろうけど、何か栄養になるものでも持って行ってやろう。
運ばれていく大十字を見下ろしながら、俺はオニオンリングへと箸を伸ばすのであった。

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

ゆらゆら、ゆらゆら、ゆらゆら。
どこか定まらない私の意識は、何時のものとも、誰のものとも付かない、夢とも現とも言い切れない、そんな光景を眺めている。

それは、私によく似た男の人生。
私と同じようにほんの少しのオカルト趣味だけを武器に、たった一人でアーカムに渡った男。
私と同じようにミスカトニックに入学し、私と同じように勉学に励み、私と同じように、世界の裏の姿を垣間見て──
でも、その男は、壁にぶつからなかった。
自分と同年代で、それなのに自分よりもずっと強い、そんな馬鹿げた連中になんて、出会う事も無く。

そんな中、男は一組の兄妹に出会った。
それはミスカトニックに入学して三年目の時かもしれないし、二年に上がって直ぐだったかもしれない。
何時、彼等に出会ったのか。
そんな、簡単に分かりそうな事だけは、あやふやなまま。

『初めまして、先輩』

『先輩、図書館ですか? 付き合いますよ』

『先輩落ち付いて、発泡スチロールは食べ物じゃありません』

『先輩、誘拐は犯罪です。自首してください』

男と男女の平穏で奇妙な──一部過激で奇抜な日々。
その中に覚える、奇妙なデジャヴ。

────ああ、そうか。

立場の全く異なる彼等の視線。
そこに込められた気易い感情は、性別すら異なる自分に向けられた物と、なんら──

―――――――――――――――――――

「ははらあいおあ」

何事かを口にしながら、私は目を覚ました。
夢というのは不思議なもので、眼を覚ましても鮮明に覚えている時もあれば、欠片も内容を思い出せない時もある。
多分、私は夢をみていたのだろう。起きぬけに何かを口にしてしまうような夢を。

「……もぐ」

口に咥えた何かを咀嚼し、私のぼやけた思考が少しだけ鮮明になった。
起きぬけに何か言葉を口にしようとしていた私は、無意識のうちに何か食べ物を口にしていたらしい。

「半覚醒状態でも喰らい付いてくるとか、すげぇハングリー精神だな」

ハングリー精神を持っているんじゃなくて、極普通にハングリーなだけだ。
口に食べ物を銜えたままである為にそんな事も言えない私は、声のする方に視線を向けた。
ベッドから背を浮かせ、半ば起き上がった状態の私に呆れた様な視線を向ける、吊り目気味の少女。

「ひほひ」

「ん」

口に何か──おそらく焼きそばパン──を銜えている為に酷く曖昧な発音になってしまっている私の呼びかけに、美鳥は軽く手を上げて応える。
美鳥がなぜかにやにやと嫌らしい表情を浮かべているが、その理由が分からない。
とにかく口の中に入っている焼きそばパンを、慌てず騒がず、じっくりとよく噛んでしっかり味わいながら片付けようとして、
……私は、銜えている焼きそばパンが、何か細い糸で括られている事に、ここでようやく気付く事が出来た。
私は咀嚼を止める事なく、これまた視線だけで糸が何処から垂れているのかを辿る。
視線は赤い紅ショウガの乗った焼きそばパンから糸へ、糸は当然の様に上から垂れ下がっていて、私の視線はよくしなる先の尖った棒の先端へと到達した。
糸の長さは、一メートルと少しくらい。
糸の出所である棒──釣り竿の根元に向けて視線を動かす。
釣り竿は私の寝ているベッドの頭の方へと続いており、普通の釣り竿の半分程の長さしか無く、

「おはようございます先輩」

目覚めて直ぐ見るにふさわしい程に、無駄に朗らかな笑みを浮かべた、小憎らしい男の顔。
鳴無卓也が、焼きそばパンの吊るされた釣り竿を手に、目覚めの挨拶を掛けてきた。

その事実に私は一瞬だけ『この状態からどのようにして先輩としての威厳を保つか』という思考を巡らせ──

「おふぁほふ」

──諦める。
将棋で例えるなら、自分は香車に飛車角そして歩が全てない初期配置、卓也は歩が全部飛車になっている様な。
当然の如く私は後手。ルールがどうとか勝負がどうとか以前に、完全に詰んでいる状態だ。

空腹ではしゃいでぶっ倒れて、運び込まれた保健室で見舞いに来た後輩に餌付けされる。
ミスカトニックの歴史は長い。たまにはそんな学年首席の先輩が居ても良い。
きっと人生とはそんなもの。
私の人生は特に。

頬を、熱い物が伝う。

(嗚呼、焼きそばパンが、さっきまでより、少しだけしょっぱい……)

それでも、私は焼きそばパンを食べる事を止めない。
食べる事は生きる事だ。
ただでさえ運動で塩分が身体の外に排出されているのだから、回収できる分は回収しておきたい。
ああ、こうして今日もまた後輩に食事をたかっている。
いや、むしろ餌付けされている。こいつら風に言うとEDUKEされてしまっている。
惨めだ。私はなんてダメな先輩なんだろうか。

「むぐむぐ」

自棄酒、は、酒呑まないし。
自棄食いでもしたい所だ。

「んっく……、卓也、美鳥」

情けない自分をなじりながらも、身体は貪欲に焼きそばパンを貪り、喰らい尽くす。
口元の食べカスを袖で拭き取りながら、後輩二人に改まった表情で向き直る。

「あー?」

「なんでしょうか」

「おかわり」

焼きそばパンを失い空しく宙に揺れる糸の輪に指をひっかけ、くいくいと引っ張りながら催促。
恥知らずと思われるかもしれないが、はっきり言おう。
栄養補給の為なら、人は容易くプライドを捨てる事ができる……!
というか、私のプライドがズタズタなのはほぼこいつらのせいと言っても過言では無いので、これ位はしてもらっても良いかなと思う次第だ。

私の発言に、卓也と美鳥は顔を見合わせる。
まぁ、この状況であからさまに追加を頼むのはこれが初めてだから、戸惑うのも仕方が無いのかもしれない。

「焼きそばパンは無いけど、こしあんのパックならあるぜ?」

卓也と視線を外し、美鳥はおもむろに懐から黒いペースト状の物が詰まった袋を取り出した。

「あいにく、二つしかないけど」

「いや、十分だ。ありがとう」

受け取りながら、思う。
……こいつは何を思ってこしあんを二つも懐に忍ばせていたのだろう。
しかし、あんこだ。
甘いものは大好きなのでどんとこいなのだが、流石にこの袋に穴を空け、こしあんだけをちゅうちゅう吸い出すのは酷じゃあ無いだろうか。
そう思っていると、釣り竿を手放した卓也が懐から茶色いブロック状の何かを取り出し、おもむろに私に向かってさし出してきた。
微かな湯気と共に、ほのかに香ばしい匂いがする。

「こちらは焼き立ての食パン一斤しかありませんが、これで足りますか?」

「十分さ。でもな」

「はい?」

「そろそろ突っ込んで良いか?」

「普通に駄目ー☆」

美鳥に封殺された。
イラっとくる言い方だったが、ここは堪えておく。

「そっか」

何しろ、ここはミスカトニック大学。
懐にあんこや焼き立て食パンを入れるくらいどって事は無い。
教授からして、露出の多いひらひらした服装の爺を連れていると噂されているんだ。
懐に何か入れていた程度なら、

「後で覚えてろよ」

もう私は自分を誤魔化せない。
カロリーに不自由しなくなったら突っ込む事にしよう。

「ぼそっとそういう事呟くの止めてくださいよ」

「ちょっと怖いぜ?」

「あ、わりぃ。本音だけど口に出しちゃまずかったよな」

嫌そうな顔をした二人に謝りつつ、食パンに指を付き立て切れ目を入れていく。
後はこの中にこしあんを突っ込めばあんぱんの完成だが……。物足りない。
作業を中断し、あんぱん作成作業を微妙な表情で見守っていた二人に訊ねる。

「なぁ、私の鞄知らないか?」

「ああ、知ってる知ってる。カッコいいよな」

「あれ何処のメーカーでしたっけ」

「そうじゃなくて」

まさかここでボケられるとは思わなかった。
因みに、鞄自体は何の変哲も無いショルダーバックで、メーカーはそこらじゃ見かけない様なマイナーなメーカーだ。
あの鞄は母さんが生前使っていたものだし、案外倒産しているのかもしれない。

「冗談ですよ」

言いつつ、卓也は椅子の下に手を伸ばし、私の鞄を差し出した。

「チームの連中が一緒に持ってきてくれてたから、後でお礼言っといた方がいいぜ」

「いや、あいつらに試合誘われてなきゃ、そもそもこんな事態にならなかったんだけどな」

美鳥への反論を込めた私の言葉に、卓也は呆れの表情。

「カバディは栄養失調の時にやっていいスポーツじゃありませんよ?」

「仕方ないだろ、助っ人で食券一週間分なんて言われたら」

勿論、この場で言う一週間分とは常人の一週間分の事だ。
私なら三週間は持つ。
ていうか、あんな風に昼休みの他の連中と遊んだりなんて、少し前は考えられなかった。
勉強を教えたり講義でフォローしたりはしても、それ以外で付き合える連中とかは殆ど居なかったし。
別に落ちぶれた訳でも無い、けど、

(なんか私、大学生してんなぁ)

こういう風に振舞えるのも、悪くないかもしれない。
そんな事を思いながら、鞄から今日の昼食の余りを取り出し、蓋を開け、付属のナイフで食パンの切れ目の中に塗りたくっていく。

「……ハハッ」

美鳥がこれまで一度も聞いた事の無いような乾いた笑い声を挙げ、

「……」

卓也も同じく、これまで一度も見た事の無いような渋面で閉口している。
なんだろう。この雰囲気は少し食べ辛い。

「ええっと、普通、だよな? あんバターぱん」

恐る恐るの問いかけに、美鳥は顔の半分だけの笑い顔で答えた。

「うん、美味いよなー。あたしはマーガリン派だけど」

今の美鳥の言葉は何処か乾いている気がする。
白々しいというか、なんというか、ここではない何処かに向けているというか。

「いや、先輩、そうじゃなくてですね」

「うん?」

首をかしげていると、卓也は私の顔を見、何かを思い悩むかの様に身体を捻り、苦しそうに思考を巡らせる。
やがて、認めたくない事実を認めた様な、何かを決意した表情で私の眼を真っ直ぐに見詰めてきた。

「これは、有り得ないと思うんですが。…………昼食ですか?」

言いながら、卓也は私の弁当箱──特売で安売りしていた五百グラムバターの箱を指差す。

「ああ、安くていいよな。カロリー高いし」

ほんのり塩気があるのも良い。他の調味料の節約にもなる。
金が入って暫くはトーストに塗って食べられる。
トーストを高いと感じ始めたら、肉屋で貰った屑肉を焼いて食える。
屋台で土下座交渉してタダ同然で譲って貰った屑野菜につけてもおいしい。
野草に付けても悪くないと思う。
猫、タヌキ、イタチ、ネズミ、アブラゼミ、ザリガニ。どうにかなる。むしろ意外と行ける。
メインの食材がどうにもならなかった時、そこにご飯と醤油がある物と想定して、エア・バター・ライス。涙で塩気が増す。心は死ぬ。
でも、そのカロリーのお陰で生きて居られる。
人が生きる為に糧を求めるのは天然自然の理であり、何ら天に恥じる行いではない。
そう思えば、これも悪くない弁当じゃないか。

「人にたかるのを勧めたくはないのですが、シスター・リューカに御馳走して貰っては?」

「そうしたいのはやまやまなんだけど」

シスター・リューカは、近所の教会で孤児院を営みながら生活している、黒髪の清楚な女性だ。
模型の飛行機やハーモニカなどなど、清貧を良しとするシスターにしてはやたら趣味が多く、料理のバリエーションも豊富である。
以前行き倒れていた所を助けて貰って以来、食事や生活に困った時などに助けて貰っているんだが……。

「ああ、また山篭りですか」

「そうなんだよ、ガキどもも一緒に連れてっちまったから、教会にも入れなくて、こんな具合な訳だ」

「勝手に教会に入るのは不法侵入だけどなー」

シスター・リューカの一際目立つ特徴として、趣味の空手がある。
小さな頃から習い事で修業を繰り返し、今では通信教育空手十段だとか自称していた覚えがある。
通信教育で十段まで段位を上げられるのかとか、シスターで空手ってどうなんだとか思う事は多々あるけれど、その実力は確かだ。
街の公園に遊びに行ってヤクザ達に誘拐されそうになった子供達を、単身ヤクザの事務所に乗り込んで大立ち回りを演じて連れ帰ってきた武勇伝は今でも語り草である。
まぁ、アーカムシティを守る黒い天使も空手を使うし、以外とアーカムシティでは空手はメジャーなスポーツなのかもしれない。

「小さい内から筋肉付けると、背が伸びなくなるって言うけど、大丈夫なんですかね」

「んー、リューカさんは『子供たちには身体の動かし方を教えてるだけ』とか言ってたから、大丈夫なんじゃないか?」

「あたし、あの孤児院のガキどもがスーパーのガラスを姿見にして、ボディビルなポーズ取ってるの見たよ」

「あ、それは俺も見た。だから心配して『ナイスバルク! ナイスカット!』と声をかけてやったんだが、あいつら照れ笑いと返礼のポージングしかしなくてなぁ」

「完全に手遅れじゃねぇか」

そんなこんなで会話を楽しんでいる内に、遂に『大十字特製・食パン丸ごと一斤あんバターパン』が完成した。
こんな事を言うと馬鹿だと思われるかもしれないけど、私だってやはり甘い物には目が無い。
このどこから齧り付けばいいか迷ってしまう素晴らしいあんバターパンの姿には感動を覚えてしまっても仕方が無いと思う。
だが、齧りつく前に。
パンを提供してくれた卓也と、餡を提供してくれた美鳥、そして、バターを提供してくれた何処の出身とも分からない牛の事を思いながら、手を合わせる。

「いただきます」

―――――――――――――――――――

「もっふもっふもっふもっふもっふもふもふもふもふ」

ベッドに座ったまま幸せそうにパンに顔を埋め、端から綺麗に食パンを胃に収めていく大十字。
明らかに餡もバターも無い部分が大半なのだが、時折パンを乗り越えて垣間見えるその表情は幸せそのもの。
ギャルゲ的に言えばスタッフロールが流れ終わった後にこの笑顔が大写しで写って、右下辺りに『fin』とかつけられても違和感が浮かばない程の素晴らしい笑み。
とてもこんな雑な料理に出していい顔ではない。

【美鳥、なんでこの大十字はこんなに欠食気味なんだ?】

正面から見ると殆ど食パンマン状態の大十字を眺めながら、通信で美鳥に問いかける。
常の大十字も結構金回りに不自由していたが、それでも最低限文化的な生活は送っていた筈だ。
それでも金が足りない場合はアルバイトをしていたし、これほど不自然に飯に困る事はそうそう有り得なかった。
一度、調子に乗って車を買って最後(門の向こうに行く前)までローンを支払い続け、貧乏探偵バージョンもかくやという貧窮ぶりを見せた大十字も居たには居たが……。

【女の子って、男と比べて普通に生活してても金が必要になるもんなんだってさ】

【はぐらかさずにそこんとこkwsk】

【生理用品、スキンケアにボディケア用品、化粧品、おしゃれ、細かく分けてったらそれこそ切りがないよ。身支度に時間掛かるからバイトの時間もなかなか取れないし、短期の肉体労働はこの時代男性向けばっかりだしね】

「なるほど」

俺も、昔は姉さんに買い出しを頼まれていたからよく分かる。
特に生理用品は消耗品だし、化粧品は安物をそろえても無駄に高くつく。
ここが元の世界なら、時代的に百円ショップなどが存在するのだが、この時代にはそれすら無い。
化粧品、生理用品、スキンケア用品をこの時代の適正価格で揃えると、その値段は馬鹿にならない。
衣服は古着で済ませるにしても、御洒落に気を使うなら最終的には値段も張ってしまう。

……恐らく、既に故人であるこの世界の覇道鋼造は、目の前のTS大十字に送る資金の設定を自分と同じにしてしまったのだろう。
男の一人暮らしが最低限送れる生活費では、女性が女性らしい生活を送るのには不足なのである。
これでTS大十字が喪女だったりすればどうにかなったのかもしれない。
が、残念な事にTS大十字は少しだけ見栄っ張りだったりする。
メイクも薄目のナチュラルメイクだがほぼ毎日欠かさないし、服装は相変わらずそれ何処で売ってんのと聞きたくなる様な御洒落服。

「もふ?」

パンから口を離さず、大十字は視線だけを俺に向け首を傾げる。
俺の『なるほど』に反応し、どうかしたのかと問いたいのだろうけど、そのアクションはあざとい。
女性の嗜みが三大欲求でも生死に即座に繋がる食欲を無視してまで満たすべき要綱なのかは置いておくとして、大十字の困窮の理由は理解できた。

「先輩」

「んぅ?」

丁度食パン一斤を半分食べ終え、頬袋の中にパンを入れたまま鞄の中から水筒を取り出している大十字に向け、俺は一つの質問をする。

「月の終わりになると、やっぱり食料関係で苦しくなりますよね」

「おう。終りっていうか、金が入ってから半月もすれば道草の準備を始めるぞ」

言うまでも無いが、ここで言う道草とは道路やアパートの脇にたまに生えている食べられる野草採取の意味を持つスラングである。
因みに、アーカムシティの様な都会に生えている野草はかなり車の排ガスなどの成分を吸収している為、決して健康に良いとは言えない感じなので、素人は決して真似をしてはいけない。
どうしても野草が食べたいなら、郊外の車通りの少ない山道にまで出てから採取する事をお勧めする。閑話休題。

とまれ、半月で資金が切れるのは流石に予想外だったが、それなら心おきなく提案する事が出来る。

「実はうち、家庭菜園で野菜(遺伝子組み換え済み)を作っているのですが、三人家族だとどうしても食べきれなくて余してしまうんですよ」

「!」

「落ち着け」

ガタっ、と音を立ててベッドから半立ちになる大十字とそれを片腕で抑える美鳥。

「家庭菜園っても、やっぱり肥料とか何やらで結構金を積んでるんで、ただ捨ててしまうのは」

台詞の途中で、がっしと手を掴まれる。
見れば大十字はベッドの上で膝立ちになり、美鳥の静止すら押し切って此方に手を伸ばしていた。
大十字の手は、大学の実戦民族学の講義やなにやらのお陰か、所々小さな傷が見え、年頃の女性にしては少し節くれ立っている。
が、生来の骨格や筋肉の付き方からか、全体的にはしなやかで、あくまでも女性である事を主張している様にも感じる手だ。

「ありがとう……、ありがとう……!」

「コングラッチュレーション、コングラッチュレーション、食糧供給源確保、コングラッチュレーション……」

大十字の視界の外で黒服を着てサングラスを掛けた数人の美鳥が祝福する。
これ、誰かに見られたらどう言い訳するんだろうか。
そんな事を思いながら、俺の手を固く握りしめる大十字の手を解くのであった。

―――――――――――――――――――

○月∇日(月日は第一宇宙速度で流れ)

『大十字とアルアジフの出会いの大体半年くらい前だろうか』
『実験野菜の余りを渡すという契約は今も続いている』
『契約、なんて言っても、俺は一方的に大十字に野菜を渡しているだけなので殆ど得をしていない』

『が、契約は契約だ。最初期に取り込んだものだが、俺は悪魔も合計で数十匹ほど(バラバラ死体なので正確な数は不明)取り込んでいる』
『ネギま世界の悪魔にそういう設定が存在するか不明な上、設定があったとしても生かされるような世界ではないにしても、俺の中の悪魔のイメージは契約厳守』
『当然、契約したらしたで契約後にどうやって裏を掻くか、契約内容の隙の突き方なども考えているが、そもそも契約自体稀なので趣味も同然の思考遊びでしかない』

『俺はあくまでも貧困にあえぐ先輩を助ける一後輩として野菜を提供している訳だが、それでも、日常生活で接点が出来ると会話の機会は増える』
『特に大十字に渡す野菜類なんてのは家では食べる気にならない様な特殊系統ばかりなので、調理法の話などで盛り上がる事は多い』
『やはり家で食べる気がしない様な気難しい野菜達ばかりなので、大十字も捌くまでにそれなりに苦労する事が多いと言っていた』

『最近の大十字のお気に入りの野菜は大豆モドキらしい』
『畑の肉とも言われる事の多い大豆だが、この大豆モドキは見た目こそ色の悪い大豆だが、豆の代わりに文字通りの肉が詰め込まれている』
『元になるDNAパターンは、ティベリウスさんの所に飾られていた標本から拝借している』
『食べた量よりも明らかに多い質量の肉腫が身体から生えてくる患者(もう標本だが)から採取したDNAを解析し、大豆やラダム樹その他諸々の素材と幾度も混ぜ合わせ掛け合せ、遂に産まれた奇跡の作物だ』
『大十字はこれを定期的に栽培してくれればキスくらいしてやるぜとか言っていたが、別に必要でないので丁重にお断りの舞をしておいた』
『しかし、大豆と人肉とラダム樹の合成生物(分類としては植物とも動物とも言い切れない感じになってしまっている)が好物とか、今回の大十字は随分と猟奇的な味覚をしている』
『美人なら猟奇的でもいいなんてのは一部の特殊な性癖の持ち主達の間でしか通じない』
『俺は大十字との付き合い方を考え直す必要があるのかもしれない』

―――――――――――――――――――

「なるほど、今度の大十字九郎は、人肉嗜食であったか」

夢幻心母中枢、玉座の間にて。
タカリグラさんがアーカムを離れているという情報をラーメン三杯と引き換えにかぜぽから手に入れた俺は、久しぶりに大導師との謁見を行っていた。
因みに、今日はあくまでも謁見であり、お茶会の様な雰囲気にはなっていない。
割と真面目な話なので、お菓子でも食べながら、という風にはいかないからだ。

そんな訳で手土産はお付きのエセルドレーダ♂に渡してある。
手渡すまでに、

・エセルドレーダの顔が紅潮し苦しそうだった。
・エセルドレーダの腰の後ろ辺りからモーター音が聞こえた。
・手土産を渡す際にモーター音が強くなり、エセルドレーダが数度身体を痙攣させ、表情を蕩けさせていた。
・エセルドレーダのスカートの一部分が可愛らしく隆起していて、先端は濡れていた。
・栗の花臭かった。
・大導師は俺が以前にプレゼントした大人のおもちゃを気に入ってくれたのか、遠隔操作用のリモコンをニヤニヤしながら弄っていた。

などというアクシデントがあるにはあったが、それは夢幻心母ではあちこちで行われているインモラルイベントなので気にしないでおく事にする。
……元の世界に帰ってから、ショタがコスプレしたエセルドレーダのアヘ顔画像とか、ネットにアップしたら祭り起きるかな。

「ええ、一般的な魔術師では珍しくも無いと思うのですが、大十字の様なタイプの魔術師にしては珍しいですよね」

ぐすぐすと涙目でスカートの中にティッシュを突っ込んでいるエセルドレーダに密かに集音マイクと高感度カメラを向け続ける美鳥を横目に見ながら、まずは相談の前の軽い雑談。
これまでの大十字に渡した作物や、それを食べた大十字の感想、普段の大十字がどのように過ごしているかから始まり、最近の大十字の食事の方向性の話になった。
やはり、TSしても大導師殿は大十字にご執心である。
ガチレズの匂いがする!
同性愛者とか非生産的なので軽蔑しますが、良い歳した大人なので態度には出しません。

「ふむ、食人と言えばティトゥスだが──、いや、そうか、そうだったな」

屍食経典儀の主である魔術師の名前を呟き、何事か思い出した素振りをして、一人で納得する大導師。

「魔術でなく、個人的な嗜好の一種であれば、常とさして変わりはあるまい」

「そうですね。蓼喰う虫も好き好きと言いますし」

まぁ、ティトゥスの四本腕への肉体改造魔術にしても、途中でカニバーな要素が入っているのだろうが、この場で言及する程繰り返し食人行為を繰り返しているにしては地味過ぎる。
話題に出すまでも無いと考えたのだろう。

「して、大導師殿。そろそろ例の物がアーカムシティに訪れる頃と思うのですが」

例の物とは勿論、ネクロノミコンの源書であるアル・アジフの事だ。
ブラックロッジに入ってからは、大十字を精神的に追い詰める事以外、ずっと非干渉で貫いてきたのだが、せっかくの千周程ぶりの入社である。
大導師の方から何か提案があれば、無理の無い程度に引き受けてもいいと思っているのだが。

「ふむ」

思案顔の大導師。
手の中のリモコンをカチャカチャ弄りながら、しばし唐突にその場で膝から崩れたエセルドレーダを眺め、

「貴公は、今周は何もしなくとも良い」

虚ろな瞳のエセルドレーダが半開きになった口から涎を垂らし始めると同時、大導師は俺に向き直り、そう告げる。

「いいんですか? そりゃ、常の周に比べれば選択肢は少し減ってますけど、くっつけようと思えばくっつけられますよ?」

攻略不能になったのと言えば、ライカとリューガが立場を入れ替えて、TS周なのに神父でなくシスターのままの教会ルートだけ。
しかもこれは俺ではどうにもならないルートなので、実質以前までと変わらない数のルートが存在しているのだ。
なんだろう。大導師は、俺が居なかったここ千周程で、もう大十字を追い詰める必要もなくなる程に強化されているのだろうか。
ぱっと見ただけだと、まだ少なくともトラペゾ召喚が出来るほどではないと思うのだが……。

「貴公も、元を正せば大十字九郎の後輩としての時間も長かった事であろう」

「どっちかって言えば、大十字の後輩ってより、ミスカトニックの学生って気分の方が強くはあったんですけどね」

「ならば、なおさらだ」

俺の反駁に、大導師はその美貌に魅力的な笑みを浮かべる。

「そうだな、逆にこの周では、大十字九郎の味方として動いてみよ」

「その過程で、他の社員や逆十字と相対した場合は?」

「貴公ならばどうとでも出来るだろう?」

つまり、どうとでもしていい訳だ。
そういう事なら話は早い。
正体を隠しつつ、光に陰に主人公をサポートするサブキャラ枠ってのは、一度やってみたかったんだ。

「では、今周は出社している時以外は大十字九郎の後輩として振舞う、という事で。それでは、また次の謁見の時に」

「貴公の働き、楽しみにしている」

背を向け、美鳥を引っ張りながら去る俺の背に、大導師の面白がる様な声が掛けられた。
折角雇い主に期待されているのだから、不自然でないレベルに抑えて万全のサポートをしよう。





つづく
―――――――――――――――――――

延々本編ストーリー前の流れを描き続けるとか気が滅入るので、時をふっ飛ばす。
現時点ではまだ普通の美少女に見えるティベリウスの初登場と、例によって例の如くな餌付けタイム&家庭菜園の野菜お裾分けな腹ペコ大十字な第五十八話をお届けしました。

ここで自問自答。
Q,ティベリウスさんが思ったよりもまともだ……。
A,いいのかい? まだティベリウスさんは服を着ているのに、何のギミックも無いだなんて考えて。
Q,ティベリウスさんの口調、元ネタと大分違わないか?
A,そもそもティベリウスさんはTSしても殆どキャラが変わっていない。何故なら本体は常のループと同じく魔導書に融合した魂だからだ。
肉体面で見ても、ゾンビ化させて操る肉体は脳味噌を摘出されている。
その為、旧ボディのあほっぽい喋りもフランケンな現ボディ時の医学の発展の為に的思想や口調は、全てティベリウスさんの『男好きのする魅力的な女性とはどういうものか』という試行錯誤の為のロールプレイでしかない。
という、演技しながらだから口調がぶれても問題無い設定が詰め込まれている訳です。
Q,ティトゥスはどうしてしまったの?
A,正体を隠したいらしいです。明かせるかは展開次第。
Q,大十字の夢、RS?
A,第三次大戦だ。
Q,大十字が貧乏探偵ばりに貧乏なのは?
A,女性って何かと必要になってきますから、金がかかりそうですよねって話だった訳です。
Q,エセルになんて真似を。脈絡が無いじゃないか。
A,だって、『今日という日を明日にする事さえ、欲望だ』なんて言うから……。
A2,例えるならそう、『エセルみるく』とでも名付けるべきでしょうか、ハッビバースデー!!

そんな訳で、次回にはTS大十字とTSアルアジフが出会うといいなと願っています。
ていうか原作沿いでも十分イベントは起こせる(というか、やりたいイベントは原作に沿わせて進めれば特に問題なく書ける)と思うので、次回は無理矢理にでもアルアジフとの邂逅をやらせます。
原作と変わらない戦闘シーン諸々は飛ばしてくと思うので、そこんとこヨロシクお願いします。
ショタ瑠璃は次回か次々回辺りに出せればいいかなぁ。

それでは、今回の後書きもここまで。
誤字脱字の指摘、分かり難い文章の改善案、設定の矛盾、一行の文字数などのアドバイス全般、そしてなにより、このSSを読んでみての感想、心よりお待ちしております。








この国でも結構あるんですよ。大人の女性がいたいけな少年に手を出す事件。
つまり幼女に手を出すから犯罪なんじゃなくて、児童に手を出すから犯罪なんですね。
で、なんでしたっけ、空からショタが降ってきたから、引き取って同棲する?
ははは、こやつめ、ははは


次回、第五十九話

『児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律を遵守せよ』

大十字先輩、ちょっと署でお話しましょう。カツ丼くらいなら奢りますから。


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