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No.14434の一覧
[0] 【ネタ・習作・処女作】原作知識持ちチート主人公で多重クロスなトリップを【とりあえず完結】[ここち](2016/12/07 00:03)
[1] 第一話「田舎暮らしと姉弟」[ここち](2009/12/02 07:07)
[2] 第二話「異世界と魔法使い」[ここち](2009/12/07 01:05)
[3] 第三話「未来独逸と悪魔憑き」[ここち](2009/12/18 10:52)
[4] 第四話「独逸の休日と姉もどき」[ここち](2009/12/18 12:36)
[5] 第五話「帰還までの日々と諸々」[ここち](2009/12/25 06:08)
[6] 第六話「故郷と姉弟」[ここち](2009/12/29 22:45)
[7] 第七話「トリップ再開と日記帳」[ここち](2010/01/15 17:49)
[8] 第八話「宇宙戦艦と雇われロボット軍団」[ここち](2010/01/29 06:07)
[9] 第九話「地上と悪魔の細胞」[ここち](2010/02/03 06:54)
[10] 第十話「悪魔の機械と格闘技」[ここち](2011/02/04 20:31)
[11] 第十一話「人質と電子レンジ」[ここち](2010/02/26 13:00)
[12] 第十二話「月の騎士と予知能力」[ここち](2010/03/12 06:51)
[13] 第十三話「アンチボディと黄色軍」[ここち](2010/03/22 12:28)
[14] 第十四話「時間移動と暗躍」[ここち](2010/04/02 08:01)
[15] 第十五話「C武器とマップ兵器」[ここち](2010/04/16 06:28)
[16] 第十六話「雪山と人情」[ここち](2010/04/23 17:06)
[17] 第十七話「凶兆と休養」[ここち](2010/04/23 17:05)
[18] 第十八話「月の軍勢とお別れ」[ここち](2010/05/01 04:41)
[19] 第十九話「フューリーと影」[ここち](2010/05/11 08:55)
[20] 第二十話「操り人形と準備期間」[ここち](2010/05/24 01:13)
[21] 第二十一話「月の悪魔と死者の軍団」[ここち](2011/02/04 20:38)
[22] 第二十二話「正義のロボット軍団と外道無双」[ここち](2010/06/25 00:53)
[23] 第二十三話「私達の平穏と何処かに居るあなた」[ここち](2011/02/04 20:43)
[24] 付録「第二部までのオリキャラとオリ機体設定まとめ」[ここち](2010/08/14 03:06)
[25] 付録「第二部で設定に変更のある原作キャラと機体設定まとめ」[ここち](2010/07/03 13:06)
[26] 第二十四話「正道では無い物と邪道の者」[ここち](2010/07/02 09:14)
[27] 第二十五話「鍛冶と剣の術」[ここち](2010/07/09 18:06)
[28] 第二十六話「火星と外道」[ここち](2010/07/09 18:08)
[29] 第二十七話「遺跡とパンツ」[ここち](2010/07/19 14:03)
[30] 第二十八話「補正とお土産」[ここち](2011/02/04 20:44)
[31] 第二十九話「京の都と大鬼神」[ここち](2013/09/21 14:28)
[32] 第三十話「新たなトリップと救済計画」[ここち](2010/08/27 11:36)
[33] 第三十一話「装甲教師と鉄仮面生徒」[ここち](2010/09/03 19:22)
[34] 第三十二話「現状確認と超善行」[ここち](2010/09/25 09:51)
[35] 第三十三話「早朝電波とがっかりレース」[ここち](2010/09/25 11:06)
[36] 第三十四話「蜘蛛の御尻と魔改造」[ここち](2011/02/04 21:28)
[37] 第三十五話「救済と善悪相殺」[ここち](2010/10/22 11:14)
[38] 第三十六話「古本屋の邪神と長旅の始まり」[ここち](2010/11/18 05:27)
[39] 第三十七話「大混沌時代と大学生」[ここち](2012/12/08 21:22)
[40] 第三十八話「鉄屑の人形と未到達の英雄」[ここち](2011/01/23 15:38)
[41] 第三十九話「ドーナツ屋と魔導書」[ここち](2012/12/08 21:22)
[42] 第四十話「魔を断ちきれない剣と南極大決戦」[ここち](2012/12/08 21:25)
[43] 第四十一話「初逆行と既読スキップ」[ここち](2011/01/21 01:00)
[44] 第四十二話「研究と停滞」[ここち](2011/02/04 23:48)
[45] 第四十三話「息抜きと非生産的な日常」[ここち](2012/12/08 21:25)
[46] 第四十四話「機械の神と地球が燃え尽きる日」[ここち](2011/03/04 01:14)
[47] 第四十五話「続くループと増える回数」[ここち](2012/12/08 21:26)
[48] 第四十六話「拾い者と外来者」[ここち](2012/12/08 21:27)
[49] 第四十七話「居候と一週間」[ここち](2011/04/19 20:16)
[50] 第四十八話「暴君と新しい日常」[ここち](2013/09/21 14:30)
[51] 第四十九話「日ノ本と臍魔術師」[ここち](2011/05/18 22:20)
[52] 第五十話「大導師とはじめて物語」[ここち](2011/06/04 12:39)
[53] 第五十一話「入社と足踏みな時間」[ここち](2012/12/08 21:29)
[54] 第五十二話「策謀と姉弟ポーカー」[ここち](2012/12/08 21:31)
[55] 第五十三話「恋慕と凌辱」[ここち](2012/12/08 21:31)
[56] 第五十四話「進化と馴れ」[ここち](2011/07/31 02:35)
[57] 第五十五話「看病と休業」[ここち](2011/07/30 09:05)
[58] 第五十六話「ラーメンと風神少女」[ここち](2012/12/08 21:33)
[59] 第五十七話「空腹と後輩」[ここち](2012/12/08 21:35)
[60] 第五十八話「カバディと栄養」[ここち](2012/12/08 21:36)
[61] 第五十九話「女学生と魔導書」[ここち](2012/12/08 21:37)
[62] 第六十話「定期収入と修行」[ここち](2011/10/30 00:25)
[63] 第六十一話「蜘蛛男と作為的ご都合主義」[ここち](2012/12/08 21:39)
[64] 第六十二話「ゼリー祭りと蝙蝠野郎」[ここち](2011/11/18 01:17)
[65] 第六十三話「二刀流と恥女」[ここち](2012/12/08 21:41)
[66] 第六十四話「リゾートと酔っ払い」[ここち](2011/12/29 04:21)
[67] 第六十五話「デートと八百長」[ここち](2012/01/19 22:39)
[68] 第六十六話「メランコリックとステージエフェクト」[ここち](2012/03/25 10:11)
[69] 第六十七話「説得と迎撃」[ここち](2012/04/17 22:19)
[70] 第六十八話「さよならとおやすみ」[ここち](2013/09/21 14:32)
[71] 第六十九話「パーティーと急変」[ここち](2013/09/21 14:33)
[72] 第七十話「見えない混沌とそこにある混沌」[ここち](2012/05/26 23:24)
[73] 第七十一話「邪神と裏切り」[ここち](2012/06/23 05:36)
[74] 第七十二話「地球誕生と海産邪神上陸」[ここち](2012/08/15 02:52)
[75] 第七十三話「古代地球史と狩猟生活」[ここち](2012/09/06 23:07)
[76] 第七十四話「覇道鋼造と空打ちマッチポンプ」[ここち](2012/09/27 00:11)
[77] 第七十五話「内心の疑問と自己完結」[ここち](2012/10/29 19:42)
[78] 第七十六話「告白とわたしとあなたの関係性」[ここち](2012/10/29 19:51)
[79] 第七十七話「馴染みのあなたとわたしの故郷」[ここち](2012/11/05 03:02)
[80] 四方山話「転生と拳法と育てゲー」[ここち](2012/12/20 02:07)
[81] 第七十八話「模型と正しい科学技術」[ここち](2012/12/20 02:10)
[82] 第七十九話「基礎学習と仮想敵」[ここち](2013/02/17 09:37)
[83] 第八十話「目覚めの兆しと遭遇戦」[ここち](2013/02/17 11:09)
[84] 第八十一話「押し付けの好意と真の異能」[ここち](2013/05/06 03:59)
[85] 第八十二話「結婚式と恋愛の才能」[ここち](2013/06/20 02:26)
[86] 第八十三話「改竄強化と後悔の先の道」[ここち](2013/09/21 14:40)
[87] 第八十四話「真のスペシャルとおとめ座の流星」[ここち](2014/02/27 03:09)
[88] 第八十五話「先を行く者と未来の話」[ここち](2015/10/31 04:50)
[89] 第八十六話「新たな地平とそれでも続く小旅行」[ここち](2016/12/06 23:57)
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[14434] 第五十二話「策謀と姉弟ポーカー」
Name: ここち◆92520f4f ID:190f86b3 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/12/08 21:31
大暗黒時代にして大混乱時代である大都市アーカムは、その広さに違わぬ様々な姿を持つ。
一面ではさびれた港町があるかと思えば、もう一面では個人所有の飛行場がある。
一面では二束三文で子供が売り買いされている治安の悪い地域があれば、もう一面にはゴミ一つ落ちておらず、軽犯罪の一つも発生しない治安のいい地域も存在する。
この場所は、それらのどの地域にも近く、どの地域からも遠い、絶妙な場所に存在していた。
天を突く様な、とまではいかないまでも、周囲の街並みを一望できる高層建築。
ブラックロッジとの関係は薄いものの、街の筋者が大量に入居している、俗に言うヤクザビルというものだ。
いや、元ヤクザビルというべきか。ブラックロッジに恭順せずに居た筋者達を一掃した怪しい男に安く買いたたかれたそのビルは、今では三人の男女によって使用されている。

「あー……」

一人は、シックな黒色の少女服をハンガーにつるし、小豆色のジャージを着た少女。
椅子に座り、テーブルに肘を立てて頬杖を付き、テレビを見るでもなくぼうっとした表情で眺めている。
元逆十字最強の魔術師ネロ改め、魔法少女エンネア。

「あら、どうかして?」

もう一人は、全身を白のフリルで覆ったロリータワンピに身を包んだ妙齢の女性。
ソファに座り、自らが来ている服と同種の服に、針と糸で細工を施している。
元フューリー聖騎士団の騎士、フー=ルー・ムールー。

「なんじゃ」

最後に一人、藍色の作務衣を着て髪を黒い紐で結い後ろで束ねた齢三十程の男。
部屋の中で更に広い場所にて、一心に刀を振り続けている。
元グレイブヤードの墓守、蘊・奥。

この三人は、いずれも元となった人物その人ではない、理論上、そして事実上誰もオリジナルとの違いを見つける事が不可能な程精巧に造られた複製人間だ。
だが、彼等は複製として造られる過程で、ある程度『製造目的』を達成するのに適した身体に調整されている。
そう、彼等にはすべからく『製造目的』が存在している。

「卓也と美鳥、まだかなぁ」

だが、その製造目的を果たす為だけに彼等は存在している訳では無い。
いや、それ以外の目的があるからこそ、彼等はその製造目的を全うしようと自発的に活動を行っているのだ。
故に、彼等は同じビルに住んではいるものの、普段はそれぞれ別のフロアを使い、日々の生活を行っている。

「そのセリフ、つい五分前も聞きましたわね」

裁縫の手を止めず、フー=ルーがクスクスと笑い声を洩らす。

「今日は大学に行く日じゃと言っておったからな。来るのは日が暮れる頃じゃろ」

蘊・奥は、働き盛りの成人男子といった外見に見合わぬ年寄りじみた言葉使いでエンネアの疑問に答えながら、尚も刀の素振りを止めない。
そんなフー=ルーと蘊・奥の余裕の態度と、それに比べて自分の子供っぽい振る舞いに気恥ずかしさを覚えたのか、エンネアはぷぅ、と頬を膨らませながらベランダの方へと視線を外した。

窓の外から見えるアーカムの光景。
真上に上った太陽が燦々と紫外線を振りまき、忙しそうに道行くサラリーマンの、ゆったりと乳母車を押しながら談笑する母親たちの、大学をサボって公園でハトにパン屑をばら撒いている大学生の皮膚を焼いて行く。
そんな、極ありふれた日常を眺めながら、エンネアは思う。

──みんな紫外線浴び過ぎて熔解しちゃえばいいのに。

勿論、本気でそんな事を思っている訳では無い。
自分は余りにもやる事が無く、テレビを見ながら待ち惚けているというのに、楽しそうに日常を送る連中が少しだけ羨ましいのだ。

それこそ、普段であれば幾らでも時間の潰し様はある。
洗濯して掃除してお布団を干して買い物をして、少しだけ本屋に寄って、雑貨屋で小物を見るだけ見て帰って、ラジオを聴きながらおやつを作って……。
だが、人を待っている状況では下手に外に出掛ける事もできないし、ここは自室でもないので料理の類も出来ない。
これで、待ち人がいつ来るか分かるタイプの人なら良かったのだが、今待っている二人はエンネアの魔術師としての腕を持ってしてもその行動を知り得ぬ特殊な人種なのだ。
そうでなければ、こんな話し合いの時にしか使われない様な部屋に顔を出す理由など無い。
連絡が来たのが昼少し前で、昼食を取ってからすぐにここで待っているというのに、これでは余りにも間抜けすぎる。
時間は限られている。
その限られている時間が以前とは違い格段に長くなったとしても、それでも人の一生は有限なのだ。

「まだかなぁ……」

だから、ついつい口に出して言ってしまう。
その言葉に反応して、フー=ルーが肩を竦める気配をエンネアは感じた。

「先ほどからまだ三分も経っておりませんわよ?」

言われるまでも無い。
さっきのセリフからまだ二分十三秒しか経過していない事なんて自分が一番理解している。
ついでにこの台詞もかれこれ四十二回目だ。
一々カウントしてる自分の律儀さが空しくなりテーブルに突っ伏すと、蘊・奥が素振りを止めて刀の整備に取り掛かった気配を感じる。

「待つ時間はもどかしくもあるが、そのもどかしさを楽しむのも人生じゃろう」

理解できるが、納得はできない。
待つ時間は楽しいが、結局のところもどかしさを感じるのはやはり不快でもあるのだ。
いや、来る事が分かっているという安心感があればこそ、というのも理解はできるのだけれど。
それに、ブラックロッジを襲撃した時以降はずっとこのビルで生活をしていただけだったので、最近は生活リズムも崩れて来ていたのだ。

「うぅ」

ありていに言えば、ねむい。
昨夜はオールナイトアーカムにゲストでH・P・ラブクラフトが出演していたせいで、思わず夜更かししてしまっていたのだ。
しかも、これまでひっそりと送り続けていた葉書がこのタイミングで読まれ、思わず夜明け少し前まではしゃいでしまった。

読まれたのはゲストへの質問。
以前卓也達に教えて貰った『邪神眷属すら殺害できる攻撃力を備えた祖父の形見の仕込杖』の存在の真偽と、常日頃から持ち歩いているのか、という質問だ。
どうせ読まれる事は無いだろうと高をくくって、かなり専門的な魔術用語を多用した質問をしてしまったのだが、H・P・ラブクラフトの見事な応対には感激すると同時に感服してしまった。
噂によると彼はシュブ・ニグラスの信奉者であると言われているし、かの邪神から魔術に関する知識を得ているのかもしれない。
句刻は夜更かしできないから論外として、卓也か美鳥が録音していないものだろうか。
録音していたなら、再生できるプレイヤー毎譲って貰おう。そして永久保存しよう。

ああでも、何の見返りも無しに譲ってくれるだろうか。
頼み込むまでも無く、ちょっとコピーしてくるから待ってて、みたいなノリで貸してくれそうではあるけれど、それは少し、余りにも自分の側にだけメリットがあり過ぎるのではないだろうか。
かといって、今の自分には見返りとして差し出せるようなものも無い。
というか、そもそもこの住居に衣服に生活費など、全て賄って貰っているのだ。
そのうえで、録音したデータと再生機器を譲ってくれ、などと言えるだろうか。

いや、フー=ルーは先日何の臆面も無く『衣装を自作してみるから、教本と材料の費用を用意して下さらない?』とか言っていた様な気もするし、そんな物なのだろうか。
いやいや、蘊お爺ちゃんの刀と衣服、生活用の雑貨は元を正せばお爺ちゃん自身の持ち物だと言っていたし、それ以外に何か貰った時も何処からか金を稼いできては返していた気もする。
同じ境遇の二人は、余りにも極端すぎて参考にはならない。
常識的に考えればお爺ちゃんの方を参考にするべきなのだろうけど、金を稼ぐにしても何処で稼げばいいのだろうか。

「おいーっすぅ、みんな集まってるかよ?」

どの職業にしても、世界から情報を引き出せばエンネアに出来ない事は無い。
が、エンネアの見た目の年齢で雇ってくれる店となると、余り品の良い場所は望めないだろう。
良い所で新聞配達、悪ければ子供を専門に扱う娼館にでも斡旋されかねない。

「あら、思ったよりも早いのですね」

ニグラス亭なる食堂はそこら辺の規制が緩いらしいが、あそこは卓也が働いている。
働いている理由などを間違って聞かれでもしたら、『そんな気を使わなくていいのに』などと言われて、再生機器も音声データも押し付ける様に譲られかねない。
それでは駄目だ。筋が通っていない。美鳥辺りなら『すじ公国が通行規制』とでも表現するほど通らない。どこだよすじ公国って。

「今日は午後の講義は一コマだけでしたからね。蘊・奥さん、身体の調子は如何ですか?」

「ふん、何も問題は無いわ。じゃがここまで若返ると、身体が動き過ぎて違和感があるのう。不思議なものじゃ」

筋、すじ。
そうだ、身体で払う、というのはどうだろうか。
別段異性として好き、という訳でも無いが、邪神や知らない人間に比べればまだしも抵抗は無い。
そもそも腹の中のテリオンを取り除いてくれたのだから、そのお礼に、という理由も付けられないでもない。
自慢になるが、細かな傷を度外視すれば人並み以上の美貌を誇っていると思う。
以前こことは異なる時間で、具体的にはまだテリオンが胎の中に居た頃に一緒にお風呂に入った事はあった。
だがあの時とは異なり、今は胎の中に誰も居ない。
プロポーションは以前の比では無い筈だ、と思う。

「そこら辺は慣れてください、としか。最低値に合わせるよりは効率的でしょうし、下手に脳味噌の方を弄って腕を鈍らせて貰っても困りますしね」

「なんでしたら、私が慣らしの相手をしても──」

「フーさんは部屋の壁貫通させるから却下な」

以前は何だかんだでペタン娘だの膨らみかけだのコメし難いだの美鳥にからかわれるし、バスタオル一枚で背中流してあげたにも関わらず卓也はリアクション薄いし。
句刻に至っては、わざわざ子供用のブラまで買ってくる始末(可愛かったから貰ったけど)だし、鳴無家のみんなは揃いも揃ってエンネアを子供扱いし過ぎていると思う。
こう見えてエンネアは立派な大人だ。
なにしろ最低でも■■歳で──
■■歳で、……■■歳。
ええと、暴君ネロ、■■歳。
最強にして最凶の逆十字、暴君ネロ■■歳!
何処にでも居る女の子、でも実は魔法少女なエンネアは若さと色気香る■■歳♪

…………。
……。
■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳、
■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳、
■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳、
■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳、
■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳、
■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳、
■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳、
■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳、
■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳、
■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳、
■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳■■歳!

「前に出したあれが良いかもしれんの。ほれ、『東方不敗の格闘能力と蘊・奥の剣術、湊斗光の脳から写した吉野御流合戦礼法、更にはシュリュズベリィ先生の魔術的能力を備えた数打ちブラスターブラスレイターテッカマンサンダルフォン量産型バージョン28.02(更新内容・肌年齢低下)初回特典金神の大きな欠片入り』とかいう木偶があったじゃろう」

……おかしい。今の年齢思い浮かべただけだよね。なんで検閲されたの?
別に邪神の名前とかでもこの世界の仕組みとかでもhydeの身長でも無いよね。年齢思い浮かべただけだよね。
しかし156。あ、これは大丈夫なんだ。■■歳。
…………いいや、釈然としないけど、これは一旦考えないでおこう。

「ダースで?」

「所詮は魂の籠らぬ木偶、グロスで来い」

「流石スパロボ世界出身は格が違ったなー」

「Gガンをクロスさせたばっかりに……」

ともかく、身体で払う、ってのは一番分かり易いし親睦も深められる。
上手くいけばもっと仲良くなれるし、姉弟間で、なんて不純な状態から抜けさせる事も可能かもしれない。
美男という程でも無いけど不細工という訳でも無いし、気配りも出来る方だし、シスコンさえ直せば恋人の一人や二人頑張れば直ぐにできると思う。
いや、でもそうすると今度は美鳥が更に不憫になるし……。

「エンネアちゃん?」

「え……、ひゃ!?」

肩を叩かれ、初めて卓也と美鳥が部屋に訪れていた事に気が付く。
心配そうに此方の顔をのぞき込む卓也の表情には、心配一割、疑惑一割。
残り八割は自宅で待っている句刻の事でも考えているのだろう。
たった一週間の共同生活では知る事の出来なかった卓也と句刻と美鳥の特殊性癖は、鼻と鼻が触れそうな距離にまで顔の距離を詰められても女性としての危機感を感じる事が無くなるほど強烈なものだ。
だが、それでもこの距離はやはり恥ずかしい。
今考えていた事を読まれていたら、と考えると、顔面の血流が活発になってしまう。

「今後の方針が決まったから、エンネアちゃんからも意見が欲しいんだけど……」

「う、うん、任せてよ」

そうだ、これから卓也達の指示で活動する事になる以上、何か欲しい物があったら正当な報酬として手に入れる事ができる。
何をいきなりトチ狂って身体で返すとか考えているんだエンネアは。
だめだ、余りにも思考が馬鹿すぎて余計に恥ずかしくなってきた。この事について考えるのはまた後にしよう。

―――――――――――――――――――

そんな混乱気味なエンネアの内心を気にすることなく、フー=ルーは手に持っていた造りかけの衣装と裁縫道具を置き、蘊・奥は手入れの途中の刀を傍らにそっと横たえる。
部屋に集まっていた三人が自分達に注目した所で、卓也は掌を二つ叩く。

「では改めて、おはようございます。早速、今回のループで皆さんに手伝って貰う事を発表しようと思うのですが……」

「ですが?」

言葉に詰まった卓也に、フー=ルーが先を促す。
先を促された卓也は、顎に手をやり、眼を瞑り考えこんでいる様な表情で首を傾げる。

「……実のところ、今のところ皆さんに手伝って頂く事がありません」

その言葉に、フー=ルーがソファーから尻を滑らせ、エンネアが椅子から転げ落ちかけ、蘊・奥が深く溜息を吐く。

「それでは、ワシらはもう自由、という事でいいのじゃな?」

「いえいえ、不測の事態に備える意味で、皆さんにはせめて俺達がループするまでの間はこのビルに留まっていただく事になります」

「大体の事を知っているようで、実際は何が起きるか分からない、それがループ。だからこそ面白いって言うしなー」

言いたい事は分からないでもないけど、言い回しが良く分からない、といった風のエンネアは置いてきぼりで、更にフー=ルーが質問を投げかける。

「私達の手が必要無い理由は?」

そのフー=ルーの言葉に、卓也ではなく美鳥が肩を大げさに竦めながら答えた。

「あたし達の挙げたプランなんだけど、元から居る人材に本気出させれば十分こなせるんだってさ」

「まぁ、ここ数十周の大導師はいろいろ手探り中だったみたいですし、仕方が無かったと言えば仕方がないのでしょう」

うんうんと頷きながらの卓也の言葉に、エンネアは一つの疑問を覚えた。
手探り中であるが故に出される事の無かった逆十字含むブラックロッジの真の実力。
その真の実力は、一体何処に対して向けられるのか。
手持ちの情報の少ないエンネアには今一つ思いつかなかったので、大人しく手を上げて訊ねる事にした。

「で、その卓也達が挙げたプランっていうのは、どういうプランなの?」

「よくぞ聞いてくれました!」

そのエンネアの言葉に、我が意を得たりといった風に、卓也は嬉しそうに顔を歪める。
バンッ! と後ろ手に卓也の平手が壁を叩くと、叩かれた壁の一部がぐるりと回転しホワイトボードが姿を現す。
ガチンッ、と力強い金属音と共に再び固定されたホワイトボードには、何時の間に仕込まれていたのか今の一瞬で書かれたのか、このループにおけるブラックロッジ、大導師の活動プランのタイトルが、黒いマジックでデカデカと記されていた。

―――――――――――――――――――

第五十二話
『ありそで無かった大十字九郎精神的虐待周 ~確実に次へと繋がる死なない程度の追い詰め方入門編~』

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

夢幻心母内部、部屋の角を不思議な素材を塗りたくる事により滑らかに加工した秘密の部屋。
俺は黒板の脇に立ち、椅子に座る大導師に今後のスケジュールの再確認を行っていた。

「さて大導師殿、こちらの秘密☆スケジュール表によれば、前後二日程のズレはありますれど、あと一週間程でアルアジフがアーカム近辺に現れます」

「うむ」

鷹揚に頷く大導師に、俺は移動式の黒板に張り付けたスケジュール表を教鞭でぺしぺしと叩きながら説明する。
態度こそ理由も無く偉そうで、訳も無く頷くアクションにカリスマが充満しているが、それは些細な問題だ。
大導師が勤勉な学生っぽく眼鏡をかけて(グルグル眼鏡ではなくオシャレメガネだ。学生時代のザーギンぽくもある)いようが、大導師に寄り添えるようにエセルドレーダが椅子と机を限界ギリギリまで寄せていようが、予定の確認には影響しない。

「まず第一段階ですが、何をしなければならないか、覚えておられますか?」

「アルアジフの鬼械神である『アイオーン』の完全破壊であったか」

「はい、良くできました。大導師殿にはニコちゃんバッジを進呈します」

そういい、大導師の机の上に黄色いニコちゃんバッジ(エボリューション仕様なので三つ目)を転送。
曖昧な表情で頷きながら、机の上のバッジを摘まみ上げ、極々自然な流れで傍らのエセルドレーダのカチューシャに安全ピンで留める大導師殿。
そしてとりあえず大導師からのプレゼントであると自己完結したのか、気恥ずかしそうにカチューシャのニコちゃんバッジを指先で撫でるエセルドレーダ。

「しかし鳴無卓也よ、何故アイオーンを破壊する必要がある。あれは術者の力量さえ上がれば、余のリベルレギスに匹敵し得る力を持っているだろう」

「そうですね、でも大導師殿も半ばお気付きとは思いますが、アイオーンをリベルレギスに匹敵し得る位階に上らせる術者など存在しようがありませんし、仮に存在したとしてもアイオーンに乗せる意味もありません」

「何故だ?」

「そもそも、通常の鬼械神をリベルレギスに匹敵させ得る術者であれば、どんな魔導書を用いて鬼械神を呼び出したとしても、大した性能差は生まれないからです。そうですね、図で表しますが……」

そういいながら、黒板を教鞭でココンっ、と二度叩くと、スケジュール表が縮小しながら黒板の隅に押しやられ、空いた黒板のスペースにチョーク風のラインが走り、数体の人型ロボット、そのロボット達の上にラインを引き、曖昧な巨大ロボのシルエットを描く。

「鬼械神は、高位次元に存在するオリジナルの機械の神がこの三次元に落とす影な訳ですが、ここである問題が出てきます。それは、元となる機械の神の姿が余りにもあいまいである、という事です」

黒板に描かれたロボットの上の巨大ロボのシルエットの真ん中にクエスチョンマークが書き足される。
曖昧というよりも、オリジナルの機械の神、という存在自体が余りにも魔術師に対して認識されていないのだ。
機神招喚が魔術において奥儀の一つに数えられるのも、この機神招喚という魔術の曖昧さにある。
機械仕掛けの神を招喚するとはあるが、そもその機械仕掛けの神の姿が知られていないため、具体的なイメージを持ちにくいのだ。
以前、デモベ世界のトリップ初期の頃に書いた魔導書でも、ここが問題点として挙げられる。

他の魔導書とのセット運用が望まれる、機神招喚を行う為だけの魔導書。
これはセットで扱う魔導書によって、機械の神のイメージを補填しているのだ。

「実像のあやふやな機械の神のイメージを補う為に、魔術師はどこから近いイメージを持って来なければならないか」

ここで、うっとりし終えたエセルドレーダが、なるほどといった風の表情で呟く。

「機械の神に近い、高位の邪神のイメージを当てる、という事か」

「大正解、エセルドレーダさんの持ち主である大導師殿に、鼻眼鏡と期限切れの5ガバスが進呈されます」

美鳥の手を経由して大導師に渡される鼻眼鏡と5ガバス。
エセルドレーダの頬に掛かる髪を指先でそっと掻きあげる大導師と、眼を細めるエセルドレーダ。
そんな恍惚の表情に掛けられる鼻眼鏡、ノースリーブの漆黒のドレスの胸元に捻じ込まれるガバス。
そして、ガバスの感触に擽ったそうに身をよじるエセルドレーダ。

「は」

そんなエセルドレーダを見下し、小さく鼻で笑う美鳥。
エセルドレーダはうっとりとしたまま美鳥の表情にも気が付かない。
何も不自然な所は存在していないな。

「機神招喚を立体の断面で説明する理論も存在しますが、別の邪神でイメージを補填する、という工程は影絵で例える方が分かり易いですね」

黒板に、
立体に当てるライトの光量=魔術師としての力量。
ライトの光源=魔術的解釈。
ライトの色=魔導書=魔導書が主に扱う神や怪異の属性。
と、順番に書き連ねられていく。

「水系ならばクラーケンなどの水中系、風系ならロードビヤーキーなどの空力系。が、鬼械神があくまでも機械の神の模造品にそれぞれの邪神のイメージを当てたものである以上、どうしてもオリジナルの機械の神には及ばないし、イメージのモデルとなる邪神にも劣ります──通常であれば」

巨大ロボットとロボット達の間に、デフォルメされたクトゥルフとハスター(まぁ、タコイカっぽいのとトカゲタコっぽい感じか。見た目は正直どっちもどっちだろう)を描き、その下に居たロボット達の姿を、クラーケンとロードビヤーキ―に描き直す。
曖昧な神氣を纏う機械人形は、実像のはっきりとした邪神のイメージをパッチされる事で方向性を定められ、初めて鬼械神として完成する。
そして、それら鬼械神とは別の枠でスパロボOG的中途半端頭身のリベルレギスが描かれ、その中心に空白が生まれ、虹色の泡の集合体の様な物が描かれ──
最後に、リベルレギスの隣に赤黒い血液の塊が描かれる。

「そこまで知っていたか」

意外だったとでも言いたげな表情で呟く大導師に頷きを返す。

「データ上での事ですけどもね。実物を見た訳ではありませんよ。
ともかく大導師殿、リベルレギスは鬼械神ではありますが、半ば、いや、ほぼ神そのものと言っても過言ではありません。
何しろ、高位の外なる神の子である半神の化身が、自らの真の姿とでも言うべき邪神をモデルに招喚し、
挙句の果てに神そのものの一形態を内部にそのまま動力として内蔵しているのです。
これで強く無ければ嘘ですし、神の影絵に過ぎない一般的な鬼械神でどうこう出来るわけもありません。最強の鬼械神と呼ばれるアイオーンでも例外では無いのです」

ていうか正直、これは鬼械神としてカウントするべきかどうかすら怪しい。唯の神でいいじゃんとすら思えてしまう。
これに匹敵するアイオーンを招喚できる術者とはすなわち、半神でありながらアイオーンを招喚する上でモデルとなる邪神であり、なおかつアイオーンに邪神そのものを組み込める存在、という事になる。
真っ当な鬼械神でリベルレギスに対抗しようと思った場合、大導師アナザータイプを一人用意する必要があるのだ。
そんな無茶な配役はこの際捨て置いて、黒板に追加の絵を描く。
二頭身アイオーンと、その上にモデルとなる邪神が不明という事で謎のもじゃもじゃを描き、最後に、リベルレギスと同じ頭身でデモンベインを描く。
デモンベインの中心もやはり空白、だが、内部には機械の檻に囲まれた虹色の泡。
これこそが、デモンベインの強さの一端であり、リベルレギスに対抗できる理由の一つ。

「デモンベインの基礎スペックですが、実際の所、既存のどのような鬼械神にも劣ります」

装甲材である日緋色金は、正規の鬼械神の装甲材であるオリハルコンに匹敵する防御力を誇るが、それでもオリハルコンに比べて魔術によらない物理攻撃を通す可能性が高い。
制御装置となる魔導書が不完全な状態では、はっきり言って鬼械神を破壊できる武装を運用できる、少し頑丈な機械人形でしかない。
だが、それらのデメリットは、術者と魔導書がある程度の位階に達した時点でメリットに化ける。

「が、鬼械神は機械の神の影ではなく、完全にこの世に存在する物質でのみ形作られています。
正真正銘、人類が作り上げた『デウス・エクス・マキナ』であるデモンベインは、作りこそ劣悪ではありますが、まごう事無きオリジナル。
内部の邪神の一形態をどこから持ってきたのか、制御装置はどのようにして作り上げたか、興味は尽きませんが、それは置いておきましょう」

つまり、

「デモンベインはその他の鬼械神と異なり、オリジナルの影ではなく別に拵えられたオリジナルそのもの。
単なる影に過ぎない故に性能に限界がある通常の鬼械神と異なり、ゆっくりとではありますが、無限に成長を続ける事が可能なのです」

操縦者のスペック差を気合いと根性と運と努力と気合で覆さなければならないという高すぎる壁はあるにしても、他の鬼械神と比べてこの差は大きい。
何しろ、最初からリベルレギスは鬼械神の限界を突破した所に存在している。
限界で必ず成長が止まってしまう鬼械神ではお話にもならない。
デモンベインだけが、いや、デモンベインこそが、真にリベルレギスに対抗し得る鬼械神足り得るのだ。

「そうでなくとも、最初からアルアジフほぼ完全版所持、アイオーンで破壊ロボ戦や逆十字戦なんてシチュエーション、叩かれて伸びる大十字には害悪にしかなりません」

「イージーモードが許されるのは、最初の百ループくらいまでだよねー」

口元に掌を当てた美鳥がキャハハと嗤う。
だが、言っている事に間違いは無いのだ。
今の自分ではどうにもならない、故に、自らの性能を高めようという気概が起きるのだ。
俺も、万が一姉さんが今の様に頭おかしいレベルの強さで叩き潰してくれなければ、
『えー俺もう十分強くなったんだから異世界トリップとかやんなくていいじゃんいちゃいちゃしようようようよう(残響音含む)』
とかのたまいつつ、元の世界で姉さんとただれた生活に突入していた頃だろう。
姉さんという比較対象が無ければ、俺はスパロボ世界が終った辺りで自己の強化に納得していた可能性もある。
強くなったと思ったら別の強キャラにあっさり叩き潰された、とかの方が向上心は湧きあがるものなのだ。

強くなろうと思うなら、目標は高く持たねば。
もっとこう、姉さんに戦闘服である魔法少女服を夜の営み以外で着て貰うとか、こちらの全力攻撃にガードの素振りをさせるとか。
何時の日にか、姉さんの魔法少女服をエロス破り出来るほどの攻撃力を手に入れる、とかでもいいか。
でも全力攻撃とかは勘弁な。消し飛ぶ自信があるから。

「ともかく、大導師殿。絶妙な手加減でアルアジフが自力でアイオーンを招喚できない程度に痛めつけるのはある意味凄いと思いますが、アルアジフがアーカム周辺に来た時点でアイオーンの出番は終わりです。これからは後腐れなく完全破壊してしまってください」

―――――――――――――――――――

一週間前、引き入れたトリッパーの片割れである鳴無卓也が告げた言葉に、僕は自分でも信じられない程の『納得』を覚えていた。
別段、機神招喚の理論が革新的だった、という訳では無い。
どちらかと言えば、魔術師であればその辺りの理論は理屈で考えるのでは無く、魂で理解し、疑問に思う事も無く運用するものだ。
正体を知られていた事に、リベルレギスの強さの秘密を完膚なきまでに解明されたのは驚きだったが、それもそれだけの話。
僕が、余が納得していたのはつまり、『大十字九郎を還付無きまでに痛めつける』という、今現在ミスカトニック大学に通っているあの兄妹の口から出てくる物としては、余りにも残酷な言葉に対してのもの。
余は、■■■■■■■は、ブラックロッジの大導師、マスターテリオンは、その余りにもえげつない行為を、庭先の木にふと停まった綺麗な小鳥の様に気に入ってしまった。

こう、と意識して、
黄金の剣を振り下ろし、漆黒の機神から腕を切り落とし、
超重力の魔弾を射出し、嬲る様にして残った手足を削り、
魔力の稲妻を解き放ち、宇宙(そら)を駆ける翼を焼き、
アイオーンを、役目を終えた鬼械神を、丹念に破壊する。

そうする度に、心のどこかに溜まっていた鬱屈とした感情が癒されていくのを感じているのだ。
我が怨敵、自らと同じく宇宙の果てに登り詰める生贄に選ばれた大十字九郎との戦いでは得られない、暗く重く澱んだ感情。
八つ当たり、というのが正しいのだろうか。
八つ当たり、という程的外れではないだろうが、本当に当たりたい相手に届かないという意味では間違いなく八つ当たりだろう。

だが、意識して完全破壊を目指すと、また一つ、これまででは気が付けなかった事に気が付いた。

──こちらの意識の隙を縫うように、アイオーンの魔銃から魔力砲が、リベルレギスへの直撃コースへと放たれた。
──それを避けるでもなく、軽く張った障壁だけで防ぐ。
──障壁で防ぐ、という一行程の間に、追い詰めていた筈のアイオーンが、やや仕留め難い位置へと移動している。

またこれだ。
アイオーンの末端を破壊する事は出来るのに、魔導書の位置する仮想コックピットへの直撃コースに攻撃が近付くと、ほぼ確実になんらかの要因でこちらの攻撃があらぬ方向へと逸れる。

【まるで肝心の何かをはぐらかされているようで】
【何時か見た白い獣の姿を思い出す】
【蟲の様な無機質な光を宿し、無感情を装う、灼える様に赤い瞳】

ぎろり、と、アイオーンのデュアルアイが赤く輝き、操者の、アルアジフの感情を代弁するかの様な忌々しげな視線をリベルレギスに向けてきた。
……今一瞬、不自然に思考が途切れた。ほぼ間違いなく思考を検閲されたのだろう。
そして、それに今の自分では抗えない事も知っている。
検閲された、という事実を知覚できるようになっているだけでも、初めてアレと接触した時から比べれば大きく前進しているのだ。

──続けざまに放たれ続ける魔力砲を打ち消す様に、ン・カイの闇、超重力を内包する闇の塊が吐き出され、魔力砲を、魔銃を消滅させる。
──辛うじて動いている飛翔ユニットを限界まで動かし必死で逃げるアイオーン。
──しかし、遂には胴体の半分程を消失するという致命傷を喰らい、力を失い、地球へと、
──落ちない。飛翔ユニットが炎を吹き出し、

「なっ!」

それは、余りにも予想外の行動だった。
これまでのループでは、致命傷を負う前に逃げていたアイオーンが、致命傷を負った途端、リベルレギスに突貫してきたのだ。
激突。激しい衝撃がリベルレギスの仮想コックピットを揺らす。
アイオーンはすかさず、奇跡的に残っていた片腕でリベルレギスの身体にしがみつく。
余りにも力強過ぎる。これから消滅する鬼械神とは思えない力。
リベルレギスの装甲が軋みを上げ、腕の絡む背中の装甲に罅を走らせた。

「貴公、余を、道連れにするつもりか!」

アイオーンの操者、アルアジフは答えず、アイオーンはリベルレギスにしがみついたまま飛翔ユニットを稼働させ、バーニアから炎を吹かし続ける。
特攻染みた、自らの死を厭わない戦術。
これまでのアルアジフであれば取らなかった戦法。
余が手加減無く、アイオーンを破壊する、という選択をしたが故に、ここにきてアルアジフのアイオーンを温存する、という選択肢を消してしまったのか!?

リベルレギスとアイオーンが、赤熱を始める。大気圏に突入を始めたのだ。
だが、鬼械神であればさしたるダメージも無くくぐり抜けられる。
アイオーンはこれで完全に破壊されるだろうが、それはあくまでも大破寸前まで破壊し、魔術師が居ないが故に鬼械神の自己修復を始める事すら出来ないからに他ならない。
この特攻に、何の利点も存在しない。
犬死になのだ。
その事実に、頭に血が上りかける。

「血迷ったか、アルアジフ……!」

ループは確実に起こる。
余が、大導師マスターテリオンが存在している、という事は、覇道財閥が存在し魔術的闘争の準備を着々と進めているという事は、つまりはそういう事なのだ。
アルアジフは、間違いなく大十字九郎の元に辿り着き、逆十字の屍を乗り越え、扉の向こうにやってくる。
其処でなければ、時間と空間が規則性を失い、因果が不安定なあの場所でなければ、ループを断ち切る事はできない。
だというのに、その事を知らないアルアジフは、こんな場所で、こんな、

「無駄なあがきを」

顔が、心が歪むのを感じる。
嫉妬、だろうか。奴は、奴等はこの世界の秘密を知らない。
知らないが故に、そこまで無知なままで無様に足掻き続ける事ができる。

「マスター……」

エセルドレーダの声が聞こえる。
だが、そこにいかなる感情が含まれているのか、察してやれるだけの余裕はない。
何時までもしがみつくアイオーンの頭部をリベルレギスの手で鷲掴み、破砕の術式を流し込む。
半分だけ残っていた顔を残らず粉砕し、その反動でアイオーンの腕から力が抜けた。
振りほどく。

──四肢のほぼ全てを失い、残った片腕を、星を掴もうとする様に伸ばすアイオーン。
──手を差し伸べる様にリベルレギスが手を伸ばす。
──表情の無い機械の神。その顔には、
──泣き笑いの様な、複雑な感情が浮かび上がって見えた。

「堕ちろ」

堕ちろ、落ちろ、墜ちて、砕けて、消えてしまえ。
徹底的に、完膚なきまでに、後腐れなく、二度と立ち上がれなくなる様に、二度と目の前に現れない様に。
これから幾度となく繰り返す。
放たれた魔術はしかし、全身で起こる小さな爆発によって落下時の軌道を変化させ続けるアイオーンに、留めの一撃を当てる事ができない。

「……っ、この」

《はーい、オッケーですよ大導師殿。それ以上いけない》

追撃の魔術を放とうとしたところで、待ったの声が掛かる。
リベルレギスの鬼械神としての機能に強制的に介入し、通信を入れてきたのだ。
その通信で、一瞬で頭が冷える。
今、自分は何をしていた?

《こちらでも確認しました。少なくとも、オリジナルのネクロノミコン、アルアジフからのアクセスでアイオーンが招喚される事はもうないでしょう。や、めでたいめでたい》

明るい声で、しかし淡々と事実のみを告げる鳴無卓也。
面白がっているようでいて、物語のあらすじを言い聞かせているようでもある。
アイオーンの破損状態から、記述が破損した事はある程度の魔術師であれば分からないでもない筈だが、違和感を感じる。
『こちらでも確認』とは、どういう意味か。

《大導師殿》

此方の不信を感じ取ったかの様に、鳴無卓也の声が思考を中断する。
どこからかけているかもわからない通信越しの声。

《大導師殿、貴方の前には、実質三つ程の道が存在します》

先ほどの面白がる様な声では無い、酷く真摯な響きで、選択肢を提示する。

一つは、何のヒントも無く、無限に続くこの世界でもがき続ける道。
もう一つは、この無限螺旋の仕掛け人に頭を垂れて、何も考える事無い操り人形として動く道。
最後に、俺達の出すヒントを元にひたすら魔術師としての位階を駆け上り、無限螺旋を破壊する鍵を手に入れる道。

《大導師殿、大導師殿。貴方は、いったい、どれを選びたいですか?》

鍵。
トラペゾヘドロン。
輝くトラペゾヘドロン。
そうだ。
その響き、魂に訴えかけるその響きこそが──

「鳴無卓也」

《は》

通信越しに、鳴無卓也が腰を曲げ、形だけの臣下の礼を取る気配を感じる。

「大十字九郎は、これで強くなるのか」

《貴方様に対抗し得る存在は、彼の三位一体のみ。魔を断つ剣、貴方を殺すための刃は、必ずや大十字九郎とアルアジフの元に届き、貴方の首を達に参りましょう》

慇懃無礼を絵に描いた様な男だ。
だが構わない。この者達がいかなる思惑を秘めていようとも、この繰り返しを抜け出す事が出来るのであれば。
いいだろう。乗ってやろうではないか。
だが心しておくがいい。
貴公の利用している者が、いかなる存在であるか。

知るがいい。知識では無く、実感として、何時の日にか、思いしるがいい。
余は、魔術結社ブラックロッジの大首領。
邪神ヨグ=ソトースと人類最強の魔術師、暴君ネロの産み落とした、宇宙最強の魔術師。
人類では到達できず、邪神ですら届かぬ領域に踏み込み、円環を破壊する──
大導師、マスターテリオンなのだと!

《意思(テレマ)なり☆》

リベルレギスの仮想コックピットから出て決めポーズをとると同時、何かおかしな言葉が聞こえてきた気もするが、気にしない。
声は間違いなく鳴無美鳥のものであったが、アレの妹もアレと同じかそれ以上のレベルでアレなアレなのだから。
気にしないったら気にしないのである。

「では、鳴無卓也よ。次の目標はなんとする」

《あいや、しばらく大導師殿に出張っていただく必要はありませんよ。少しばかり俺の方でも大十字を誘導しますんで》

素の口調に戻った鳴無卓也が言う。
思えば、大十字九郎も哀れなものだ。元を正せばあの流しの魔術師なのだろうが、今のループでは何の変哲も無い魔術師見習いでしかない。
呑気に大学で魔術の勉強をしている大十字は、同郷の出である(そういう設定にしてあるらしい)後輩に、素知らぬ顔で地獄の様な人生へと突き落される。
その後輩が何もしなければ、少なくとも今まで通りのループであったのに、だ。

《それでは、今日の所はこの辺で。暫くは定期報告の感覚も開きますんで、また一月程後に》

ブツリと通信が切れると、おずおずとエセルドレーダが口を開く。

「よろしいのですか、マスター」

「よい。疑わしくはあるが、邪神などに比べればまだ可愛らしいものだ」

少なくとも、今のところ鳴無兄妹は嘘の報告を行っていない。
彼等の言う『輝くトラペゾヘドロン』というキーワードも間違いなく自分の中に存在していた。
彼等の望み、自己の強化というのがどのように行われるか分からないが、それを行う過程でこちらの願いを叶える必要もあるのだろう。

「それに」

そう、彼等は、余とエセルドレーダ、覇道鋼造、ナイアルラトホテップを除き、初めて次のループへと記憶を跨らせる事の出来る存在なのだ。
彼等の振る舞いはいっそ清々しい程に疑わしいが、同時に、彼等を失いたくはない、とも思っている。
彼等はこの周で大十字を叩く事によって、次の周からのアーカムシティの発展度と覇道財閥の対魔術戦闘技術が急激に上昇し、デモンベインの強化も僅かながら施される筈だと言っていた。
この周、いや、これから目的を達成するまでの周は、ループを終わらせる事が目的ではなく、ループを終わらせる周に辿り着く為の繋ぎなのだとも。
彼等はループする事を前提で計画を立て、その事に関して余に相談し、これからの周に関する事も大雑把に説明を仕掛けてきた。
この無限螺旋を実感する存在が、手元に居て、共に無限螺旋を抜ける方法を模索してくれている。

「マスター」

「どうした、エセルドレーダ」

「……いえ、マスターが嬉しそうで、何よりです」

その割には声に不満が滲み出ているが、そんな事は些細な事だ。
アイオーンは既に砕け散り、アルアジフを無事に大十字九郎の居るアーカムへと導いた。
ドクターウエストも嗾けてある。大十字九郎の元にアルアジフが辿り着くのも、大十字九郎とアルアジフがデモンベインを自らの鬼械神にするのも時間の問題と言っていい。

今までのループとは違う。
アイオーンの記述はすでにアルアジフの元には無く、いくつかの記述もアーカムへとばら撒かれた。
計画は順調に進んでいる。

ふと、アーカムの街の光を見下ろす。
あの通信は、鬼械神という存在の特性上、理論上は宇宙の端から端まで届かせる事も可能だ。
だがやはり、彼等はこの街に居る。
大学に通うのにもバイト先に通うのにもブラックロッジに通うのにも、交通の面から考えるとアーカムが最適なのだという。

そう、彼らもまた、この街に、この舞台に上がっているのだ。
端役のふりをして、何もかもを自らの利の傾くままに主役を動かす為に。
螺子とばねと歯車が噛み合い回るこのからくり仕掛けの無限の螺旋に、何処からか放り込まれたイレギュラー。
彼等は一体、何を奪い、何を齎していくのか。

―――――――――――――――――――

☆月◎日(最近)

『姉さんとの触れ合いが少ない気がする』
『実際はほぼ毎日一緒の布団で眠っているし、姉さんの眠気に余裕がある時はいたしてもいる訳だが、どうにもそんな気がしてならない』
『これはひとえに大学とバイトとブラックロッジでの活動時間が原因だと思うのだ』
『俺が思うに、これはトリップという現象に付随する大きなメリットを上手く活用できていないのではないか』
『特に、この世界はループ物という時間だけは有り余るタイプの世界』
『元の世界ではなかなかできなかった、日がな一日姉さんと一緒に居る、という、怠惰極まりない生活も送り放題だというのに』
『大十字は無事アルアジフと合流したし、デモンベインが二人によって強奪されるのも確認した』
『これ以降の指示はすでにしてあるし、俺が出張る必要性は余りにもない』
『ていうか、ブラックロッジとか通勤してる場合じゃないよ日記何て書いてる場合じゃないよ姉さんだよ姉さんだよ』
『姉さんの絹糸の様に滑らかな髪さらさらだよ!』
『シャワー浴びると肌の上で水が玉になる癖にしっとりと指が吸いつくような餅肌だよ姉さん!』
『うおぉなんかテンション上がって来たぜ来たぜ来たぜ! どうよ!? おうよ!』

―――――――――――――――――――

日記を書きながら一人急激にチャージアップした俺は、何時も通りに日記を雑にまとめ、寝室でベッドに横になって寛いでいるであろう姉さんの元に向かった。
勿論ワープもしない。室内は様々な要因からワープ禁止というルールが敷かれている。
はやる気持ちを抑え急ぎ足で、しかし走らない様に廊下を早足に歩き、寝室のドアの前で立ち止まる。

「姉さん、もう寝ちゃった?」

軽くノックをしながら声をかける。
時刻は午後十時半。
最近は日が落ちるのが遅いとはいえ、流石に太陽は完全に沈んでいる時間だ。
姉さんも何だかんだで金曜ロードショーが終わる時間まで起きている事は可能だが、確か今日は九時を少し回った辺りで風呂に入っていた筈。
姉さんはお風呂に入って身体が温まるとかなり急激に眠たくなる体質なので、この時間に既に就寝している可能性も捨てきれない。

「起きてるよぉ」

間延びした眠たそうな声が聞こえてきた。
良かった、まだ起きているようだ。
俺は一言断りを入れてからドアを開け、寝室に足を踏み入れる。
寝室にはベッドに幾つかの本棚、書き物をする為の机などが置いてあり、机とセットになっている椅子とは別にもう一脚椅子が用意してある。
ただ眠るだけの部屋、と言うには語弊があるが、寝室と言う空間は何となく集中力が上がる気がするので、ついつい物を置いてしまうのだ。
部屋の広さからして大分広めに造られているので閉塞感は無い。

「んぅ……、卓也ちゃん、どうしたの?」

姉さんは眠そうな目を擦りながらベッドに腰かけ、珍しくハードカバーの真面目そうな本を読んでいた。

「いや、姉さんに逢いたくなって」

姉さんは俺の答えにクスリと笑い声を漏らし、少しだけ腰を上げて座りなおし、ベッドの横にスペースを作ると、ポンポンとそのスペースを掌で叩いた。
誘われるままに空いたスペースに座る。
肩と肩が触れ合いそうな距離だが、俺が座るのを確認すると、姉さんは再び腰を上げ、距離を詰めてきた。

「卓也ちゃん、結構、甘えんぼさんだよね」

目を細め猫の様な口でにふふと笑う姉さん。ケツみたいな口しやがって、大好きだ。
しかし、男と女の距離は拳二つでいいという言葉を聞いた事があるが、これは毛筋一本入らない密着度。
風呂上がり、というには大分時間が経過してしまっているが、姉さんのたおやかな髪の匂いが香る距離。
世界一安らぐ香りだ。

「何読んでたの?」

安らぐだけでなく、姉さんは実は頭も良い。
今さら大学に行くなんて恥ずかしいと姉さんは言っていたが、トリップ先で腐るほど勉強漬の日々を送っていた事もあるらしく、頭の良さは折り紙つき。
が、今読んでいる本はまともな学術書、という訳でも無いらしい。
今ではすっかり馴染になってしまった暗い気配を本から感じる。

「アレイスター・クロウリーの『法の書』だよ。読んでみる?」

「いいよ、俺にはまだ早そうだし」

というか、姉さんがこういう言い方で進めてくる物は、大概今の俺では扱えないレベルの物だったりするし、取り込もうとしたら直ぐに取り上げられてしまうだろう。

「そう? 意味が分からなくても結構おもしろいのよ?」

「姉さんは理解できてるんでしょ?」

「そりゃ、お姉ちゃんだもん」

姉さんじゃ仕方がないね。
そう思いながら、姉さんの髪を少し、一房だけ摘まみあげる。
絹糸の様に細く艶やかで、摘まんでいる指から少し力を抜くとさらさらと掌から零れ、姉さんの背中にすとんと戻る。
碌に手入れをしている風でも無いのに枝毛一つ無いし、髪の毛を括る時も結構雑な縛り方をしているのに、癖一つ無い。
首筋に顔を寄せ、髪の毛の匂いを嗅ぐ。
ただ髪の毛だけを梳くって嗅ぐのとは違い、姉さんの肌から、汗腺から香る姉さんの汗の匂いがよく分かる。

「くふ、ふふっ」

髪を弄られながらも読み続けていた本をぱたんと閉じ、堪える様な笑い声を上げながらもたれかかる様に体重を預けてくる姉さん。

「くすぐったかった?」

「んーん」

首を振りつつ、姉さんはお返しとばかりに俺の首筋に顔を埋め、くんくんと鼻を鳴らして匂いを嗅ぎ返す。
なるほど、姉さんは首を横に振って否定したが、これは肉体的にも心情的にも少々こそばゆい。

「んっ……」

すんすんと匂いを嗅ぎ続ける鼻に髪の毛を掻き分けられ、ぺちゃ、と、姉さんの舌が首に落とされ、ちろちろと肌をなぞる。
水気を含んだ姉さんの熱。肌よりも熱い、内臓に近い箇所の熱。
肌を味わう様に繰り返し繰り返し、姉さんの舌が執拗に首筋を舐め回す。
舌の感触はせいぜいくすぐったい程度なのに、耳元から響く水音のせいで嫌に卑猥な事をしている気分になってくるから不思議だ。

負けじと姉さんの首を舐めてやろうと思ったのだが、この状態では俺の舌は姉さんの首筋に届かない。
仕方がないので、髪を掻き分け、姉さんの耳元に口づけ。
寄せていた姉さんの身体が跳ねる。
が、舌で首筋を舐め続けているからか、声は洩らさなかったようだ。
もう一度耳にキスをしてから、今度は耳を口に含む。
お風呂上がりなだけあって耳垢の欠片も無い清潔な耳。
耳の形を探る様に、口に含んだ耳を軽く噛み、舌で探る。

「は──ちゅ、う、ん……ふ、ぅぅぅ」

俺の舌の動きに合わせる様に、姉さんの舌使いも激しくなり始めた。
ぺちゃぺちゃという水音の合間に、姉さんの荒い吐息も聞こえてくる。
舌で舐め続ける事で声を出さずに済んでいるようだけど、むりやり抑え込もうとして失敗し、徐々に大きく、熱くなる吐息は、逆に酷く劣情を掻きたてられる。

「は、ふ……、ひぅ……」

姉さんの腰に手を回す。
細すぎず、しかし肉が付き過ぎている訳でも無い女性らしい曲線を、パジャマに使われている薄手の木地の上から、廻した腕で、添えた掌で撫で、じっくりと堪能する。
俺の手の動きに逃げるでも無く、しかし積極的に身体を押し付けてくる訳でも無く、姉さんはその細い腕を俺の腰に絡ませ、服の背中の記事をきつく握りしめた。

姉さんの舌は次第に首筋から顎へ口元へと移動し、俺もそれに合わせて口に含んでいた耳を放し、頬へ瞼の上へと舐め、キスをする場所を移していく。
唇と唇が触れるか触れないかという位置で、互いに顔を離す。
微かに汗を滲ませた頬は紅潮し、眠たげだった姉さんの眼は、今では別の理由からとろりと蕩け、情欲を秘めた視線を向けてくる。

「卓也ちゃん、わんちゃんみたい」

「姉さんだって」

笑い合い、この場の雰囲気にそぐわない冗談を言い合う。
だが、やはり冗談だけで吹き飛ぶ様な空気では無い。
抱きしめた姉さんの身体は熱く火照り、パジャマ越しに押し付けられた豊満な胸から伝わる鼓動も早く。

「卓也ちゃん程じゃないもん」

言いながら、姉さんはこちらの背に廻していた手を片方放し、その手を俺の股間に伸ばし、つぅ、ズボン越しに堅く肥大化したモノを指先で優しく撫で上げる。

「堅いし、熱いし……。これで、お姉ちゃんにいろいろしたいんでしょ。それこそ、わんちゃんみたいなカッコで……」

ズボン越しに姉さんの手が、絶妙な力加減で何度も何度もなぞりあげる。
その度に暴発しそうになる欲望を抑え、姉さんの腰に廻した手を、パジャマの下に潜り込ませる。

「うん、したい」

情欲に蕩けた姉さんの瞳を見つめ、パジャマの下に潜り込ませた手を更に下に伸ばす。
指に吸いつく様なきめの細かい肌はしっとりとあせばみ、指が離れるのを拒んでいるかのようだ。
複雑なレース生地の、少し面積の小さいショーツ(ローライズだろうか)の上から、姉さんの薄い茂みを感触だけで探り当て、掌で包み込む。

「姉さんのここも」

パジャマの下の手を動かし、太腿と太腿の間をこじ開け、指先でショーツをずらし、控えめなすぼまりに、半センチだけ指を押し入れる。

「ひゃん」

流石に後ろは不意打ちだったか、姉さんが小さく嬉しそうに悲鳴を上げる。
でも知らない。抵抗も無く、指先だけとはいえこんなあっさり加えておいて、悲鳴も何も無いだろうと思う。
だが深くは刺さず、くにくにと、指先第一関節までだけですぼまりをほぐしていく。

「ここも、全部、俺のものでいっぱいにしたい」

ゆっくりと、丹念に指でほぐすにつれ、しがみついていた姉さんの片腕から力が抜けていく。
しかしそれに反比例するように、俺の股間に当てられた姉さんの指の動きは精緻さを増して行く。
俺の視線を見返す姉さんの視線には、誘う様な怪しい輝きと、期待する様な輝きが混在していた。

「これ? 卓也ちゃんの、これで、いっぱい、いっぱいにするの? お姉ちゃんの中、全部?」

「うん、いっぱいになっても、それでもいっぱいにする。溢れてきても絶対に止めない」

俺の宣言と同時、前から手を廻しすぼまりをほぐしていた手の、ちょうど手首に当たる部分に湿り気を感じる。
唇に柔らかい感触。姉さんの顔がさっきよりも近い。
どうやら不意打ちでキスされてしまったらしい。
唇と唇の間、ちろちろと姉さんの舌が俺の唇を舐めている。
唇を開き招きいれ、姉さんの舌を受け入れる。

「ん、ん、ちゅ」

懸命に舌を動かし、俺の舌を引きずり出し、入れ替わりに舌を口内に侵入させ、口の中を徹底的に舌で舐め尽される。
口の中から、舌の触れていない部分をなくそうとするかの様な積極的な動き。
送り込まれた姉さんの唾液を呑み、姉さんの口の中に唾液を送り返す。
こく、こく、と喉を鳴らし、とても高級なお酒でも飲んでいるかのような恍惚の表情で唾液を飲み干す姉さん。
何度も、何度も、食むように唇を動かし、舌を絡め合う。
数分もそうしていただろうか。姉さんはようやく唇を放した。
離れていく互いの舌と舌に、名残を惜しむように粘つく銀色のアーチが掛かり、途切れる。

「えへへ、卓也ちゃん、そんなにお姉ちゃんが欲しいんだ」

唇を放すと同時に、身体を掴んでいた手も放した姉さんが、両手でニヤつく口元を隠す。
なんだろうか、今日の姉さんは。いつもと比べても更に愛らしく愛おしい。
小悪魔的というか、悪戯っぽいというか。

「なんか、今日の姉さん、何時もよりエッチい?」

「そうだよ、今日のお姉ちゃんは、すっごいエッチなの」

姉さんが両手を俺の首の後ろに廻し、そのまま後ろ向きにベッドに倒れこんだ。
俺の組み敷かれるようにベッドに倒れこんだ姉さん。
腰まで届く長髪は、姉さんの下敷きになる事無くベッドに広がり、汗ばんで透けたパジャマは肌にぴったりと張り付いて非常に扇情的だ。

「お姉ちゃんだってね、卓也ちゃんが欲しくて欲しくて堪らない時、いっぱいあるよ」

夢見る様な瞳で、しかし情欲に潤む瞳で、姉さんが囁く。

「今も?」

「今も」

首に回した腕を引きよせ、もう一度口づける姉さん。
ただ唇と唇を合わせるだけの口付けは数秒で終わり。
首に絡めていた両腕を放し、ベッドに投げ出す。
少しだけ恥ずかしそうに、はにかむように笑う。

「脱がせて」

「うん」

パジャマのボタンを、一つ一つ、ゆっくりと外していく。
姉さんの胸の大きさのせいか、張りつめていたボタンが外れ得る度、プッ、プッ、と、弾ける様な音が部屋に響く。
鳩尾の少しした辺りまでボタンを外した処で、姉さんの豊かな双丘が零れ堕ちる。
今日はブラをつけない気分なのだろう。
俺はパジャマの上着を脱がす作業をそこで終え、パジャマの下に手を掛けた。
姉さんは、きょとん、とした表情で首を傾げる。

「今日は全部脱がさないの?」

「ん、こっちの方がエッチい」

半脱ぎで、他の部分は服で包まれているのに、大事なところが丸出し、というのがいいのだ。
まぁ、気分によっては全部脱いでもらったり、逆に上半身の服には一切手を付けずに、という場合もあるのだが。

「変態さんだ……」

呆れたように、照れを隠す様にそっぽを向く姉さんの表情は、やはり笑みを含んでいる。
姉さんはこういう表情、わかっててやってるもんなぁ。

「姉さんのお陰でね」

「お姉ちゃんは、そんな事教えた覚えはありませーん」

言葉でじゃれながら、姉さんの服を脱がす手は止めない。
パジャマのズボン、腰の部分に手を掛け、するすると下ろしていく。
姉さんが仰向けに寝転がっているお陰でベッドと尻に挟まれた部分で引っ掛かりもするが、姉さんに腰を少し浮かして貰う事で難なく脱がす。
脱がしたパジャマの下を簡単にたたむと、今さっきまで手探りで触っていた姉さんのショーツが目に映る。

「じっとりしてる……」

俺の言葉に、姉さんは真っ赤に染まった顔で、どことなく嬉しそうな声で答えた。

「えへへぇ……。お姉ちゃんはね、卓也ちゃんが欲しくて、ついついそうなっちゃうんだぁ」

次いで、自らの手で、ショーツをずらす。
むわ、と、むせかえる様な姉さんの匂い。
薄い茂みに覆われた姉さんのそこは、受け入れるモノを求める様に卑猥にひく付いている。
頭がくらくらする程濃厚なフェロモン。

「だから、ね?」

姉さんが笑っている。まるで色狂いにでもなったかの様な淫蕩な姉さんの笑み。
半脱ぎで、実の弟に対してそんな姿をさらしてしまう可愛らしい姉さん。
そんな姉さんを、俺は独り占めにできる。他の誰にも渡さなくていい。
その事実に、今更ながらに俺は興奮を抑えきれず、獣の様に姉さんに覆いかぶさった。

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

僅かに開いたドアの隙間から響く、激しい水音と肉と肉を打ちつけ合う音。
そして、互いを求め合う男女の嬌声。

──姉さん、姉さんッッ!
──あ、あ、たくやちゃ、たくやちゃ、んひ、ひゃうぅ♪

『男』と『女』の顔で肌を重ねる、お兄さんとお姉さん。
あたしは、その光景を一人、暗い廊下から覗き見ている。
フローリングの廊下にへたり込み、息を殺して、見つからない様に。
二人の情交を、食い入るように見つめている。

いや、見つめる事しか出来ずにいる。
今までだって何度も見てきた光景だけど、不意打ち気味に見せられると、どうしても思考が停止してしまう。

──すご、っひ♪ おへその裏、叩かれちゃってる!
──ここだよね、姉さん、ここが大好きなんだよね。ね!
──っ──っ! そう、そうだよ、そこ、卓也ちゃんので、突かれ、駄目に、────っっ!!

普段のお姉さんは、おっとりとしていても、あんな馬鹿みたいに蕩けた声は出さない。
普段のお兄さんは、あんなに興奮して女の身体をむさぼったりもしない。
いっつもいっつも仲が良いけど、あんな、半裸で絡みあって、腰を打ちつけたりはしない。

──う、姉さん、少し、キツイ。
──だって、だってぇ、卓也ちゃんの、おっきいんだもん!

何かを堪えるようなお兄さんの声に続き、艶やかな声で必死に弁解するお姉さんの声。

「は……、ふ……」

何時の間にかあたしは、冷たいフローリングに下着を脱ぎ散らかし、両手を自分の股ぐらに手を突っ込んで、荒く息を吐きだしていた。
ぐちゅ、ぐちゅ、と湿ったソコを指で掻きまわす。
目の前の光景、お姉さんの位置に自分を当てはめた光景を脳内に描き、お兄さんに責められる妄想でもって、自らを慰める。

──でも姉さん、おっきいの好きだよね、放したくないみたいだし。お陰で前にも後ろもにも行けやしない。
──ん、んー、たくやちゃん、いじわるだよぉ……動かしてよぉ……。

でも、足りない。
指を緩急つけて動かしているけど、今入れられたまま動きを止められている姉さんの方がずぅっと気持ちよさそうに見える。
通じ合う愛情が、あそこには間違いなく存在する。

──俺だって動かしたいよ。でも、姉さんから一言、聞きたいかな。
──う、い、言わなきゃ、だめ?
──聞きたいなぁ。駄目かなぁ。
──……たくやちゃんのえっち、ヘンタイ、すけべ、お姉ちゃんは悲しいよぅ。

「ふ……ぐ」

シャツの裾を噛み、声を噛み殺す。
楽しそうに、でも少し我慢している顔でお姉さんをじらしているお兄さんと、そんなお兄さんに屈して、恥ずかしそうにおねだりしようとしているお姉さん。
二人の映っていた視界が歪む。

「う、うぅ」

駄目だ、お兄さんはお姉さんとひさしぶりにしてるんだ、邪魔しちゃだめなんだ。
あたしは、お姉さんが居ない時の代わりだから、間に合わせだから。
お姉さんがいるなら、お兄さんとする必要はないんだ。

「ふ、ぐぅぅぅぅぅ……!」

そうして、動かし続けていた指の刺激で、機械的で独りよがりな絶頂を得る。
掌を見る。人間の分泌液を百パーセント完全に模倣した体液にべっとりと濡れている。
……涙があふれてきた。最低だ……。
なんであたしはこんな所で誰にでも無く言い訳なんてしてるんだろ。
お兄さんとお姉さんの近親プレイ見ながら、なんてするから、少し訳が分からなくなってきた。
お陰で、お姉さんがお兄さんになんてお願いしたかよく聞こえなかったし、最悪だ。

自己嫌悪。
あー、死にたい。ひっそりと誰にも看取られる事無く。
三途の川のほとりでピラミッド建設して、その石室でギター弾きながら永遠にひきこもりたい。
もしくはエッチしたい、お兄さんと。お姉さん程じゃなくていいから愛情込めた感じで。
少しでいいからいちゃついてみたい。
抱きしめて、撫でられて、名前を呼んで、体中、いっぱい触って貰って、キスをして。
あたしだけを見て欲しいなんて言わないけど、あたしだって見て欲しい。

今のあたしは賢者モード。俗に言うモード・ワイズマンに移行している。やべぇかっけぇなこれ。
つまり一通り発散してしまったお陰で酷い虚無感に襲われているのだ。
だから、なんというか、あれだ、今の思考も、今口にする事も、限りなく人間に近い形で生まれ落ちたが故の弊害というか、気の迷いと言うか。

「……さみしい、寂しいよぉ……」

纏まらない思考を口から垂れ流せるのも、口にしても意味の無い言葉を吐けるのも、ただのAIじゃなくて、こんな形で作られたからこそのこだわりの贅沢っていうか。
目からぼろぼろ涙があふれてくるのに、身体だって背中を丸めて縮こまっているのに、平静なAIとしてのあたしが、ぼっちなあたしを見下ろして観察してる。
『あー、やっべ、すっげー脳味噌決まっちゃってるわ。あたしは友達いない中学生か何かか。邪気眼が発動するのか。セカイ系とか始まるのか』
とか、そんな感じで。
納得できても寂しさを消せないお兄さんとお姉さんの妹的あたしと、冷徹にお兄さんをサポートするAIとしてのあたしの思考がごちゃごちゃに混線している。

もう、いいや、部屋に持って寝よう。
ここに居ても、部屋から聞こえてくるお兄さんとお姉さんのラブラブピロートークを聞かせられるだけだろうし。
これ以上自分の心を痛めつけるとかとんだ自虐プレイじゃないか。

あたしはのそのそと起きあがり、廊下に投げ散らかしていたパンツを回収しようと、手探りで足元を探る。
が、見つからない。横着して目を使わなかったからか。
改めて、周囲を見渡す。
寝室からは明かりが漏れ、板張りの廊下は明かり一つ無く、いや、窓から差し込む月光が僅かに窓の下だけを照らしている。
やはり暗い。いや、こんな時にまで視力を人間レベルに抑える必要はないか。
目の構造を作り替え、夜目を利かせる。
だが、無い。パンツがない。

「脱いでからしたのか?」

唐突に、声を掛けられた。
探していた方向とは逆、廊下に座り込んでいるあたしからすると、少しだけ上。
顔を上げると──

「意外と匂わないな」

──お兄さんが、あたしのパンツに顔を近づけ、すんすんと鼻を鳴らして匂いを嗅いでいた。
しかも、股間のスラップスティックラブコメディは丸出し、角度的にはメディア倫理審査委員会に喧嘩を売るかの様に冒涜的な角度で天をファックしている。
はっきり言おう。ギンギンだ。

「あ、アワワ……。お兄さんが、お兄さんが変態に……」

※元から変態かもしれない。
いや、あたしの下着で変態行為をしてくれる、というのも複雑怪奇な喜びを感じてしまいそうではあるのだけど。
が、なんとなくこの場から逃げなければならないと思い、パンツも穿かずに四つん這いでお兄さんの反対側の廊下に逃げだす。
いけない、なんだかわからないけど、どこでもいいから、早く逃げなければ。
この世界線、もとい、この夜は危険だ!

「はい、つーかまーえた♪」

お姉さんに回り込まれた!
パジャマの上着は胸元が開きっ放し、下もパジャマを穿いただけで、全体的には着衣の乱れを直しもしていない。
あたしは例によって例の如く、お姉さんの謎パワーによって全能力を封じられ、転位して逃げる事も、武器を出して抵抗する事もできない。

「やぁ、だ! ていうか、なんであたしが捕まえられてるんだよう!」

お姉さんに抱き抱えられあたしにできるのは、せいぜいが脚をじたばたとさせる程度の事だけだ。
あと、あたしを抱きかかえるお姉さんの胸が背中に当たって劣等感が超刺激される。
なんだそりゃ、自慢か余裕か。格闘技術とか継承するくらいなら胸の成長率を因子に入れておけよ!
こう見えてあたしは、自己嫌悪に陥ると途端に面倒臭くなる女だぞ……!

「ん、美鳥だけ仲間外れにするのは流石に気が引けるからな」

あたしのパンツを胸ポケットに入れ直したお兄さんが腕を組んでうんうんと頷きながら答える。

「あたしは! お兄さんとお姉さんの水入らずを邪魔したくなかったんだってば!」

「卓也ちゃんとお姉ちゃんは、これから毎日ゆっくり互いを確認するから、そんな気にしなくてもいいのよ?」

「……ホントに?」

「ほんとほんと」

もしも本当なら、二人の間に混ぜて貰えるって事になる。
お兄さんだけ、って訳じゃないのが釈然としないけど、お姉さんの事も、別に嫌いな訳じゃないし……。
ていうか、

「お姉さん。なんか、さっきから、おっぱいとは別の何かが」

より具体的に表現するなら、ノーパンであるが故にノーガードなあたしの後ろにある狭き門に、おそらく攻城兵器級であろうタンパク質の極太が。
赤熱した鉄杭の様な、姉さんの第二のマジカルステッキが付きつけられている。
絶対絶命だ。
尻が。

「ふふ、まさか美鳥ちゃんにこの台詞を言う日が来るとは思わなかったわ。──当ててんのよ」

天使の様な微笑みと共に言い切られた。

「当てないでよ!」

マジでプレッシャーだよ!
お姉さんの手により、あたしはいつの間にか、子供におしっこをさせるポーズに移行させられている。
もはや退路は無い。
正面のお兄さんが形態を取り出し、ピロリンという間抜けなシャッター音と共に今のあたしとお姉さんを写真に撮る。
お兄さんは写メを確認した後、あたしに向かって爽やかな笑顔と共に親指を立ててサムズアップ。

「今のお前、なんかエロ漫画みたいだぞ」

知ってる。分かってる。
それに古代ギリシャ人の闘士達だって、こんな場面で満足ジェスチャーを使われる事になろうとは思うまい。
まずテレ朝とかヒーロータイムに土下座するべきではないだろうか。
だから、なんていうか、じわじわと接近してこないで欲しい。
そしておもむろに前から抱きかかえないでほしい。嬉しいから。
ついつい騙されそうになるけど、騙されそうになるけど……、ああちくしょう騙されてぇ!

「お兄さんお兄さん、なんであたしは二人がかりで寝室に運ばれようとしてるの」

「それはね、廊下で致すといろいろと問題があるからだよ。掃除も面倒だしね」

そうかそうか。理にかなってるな。
寝室の中に入り、お姉さんが後ろ手でがちゃんとドアを閉める。

「お姉さんお姉さん。前後から、っていうのは百歩譲って、ていうか割と望むところだけど、なんでいつの間にか部屋の中に大量の撮影機材が設置されてるの?」

「それはね、前から後ろから攻められて、体液噴き出しながら乱れ狂う美鳥ちゃんを録画して、後で見直して美鳥ちゃんの痴態で家族の絆を深めるためよ」

なるほどなー。驚くほど剛速球な直球だね。
あたしのエロ動画でどうやって家族に絆が深まるのかは甚だ疑問だけど。
……………………
…………
……
え?

「俺としても美鳥に寂しい思いをさせるのは本意では無いしな。精一杯気持ち良くするから、咽喉が枯れるまで叫んでくれていいぞ。録音もしてるからな」

え?

「あ、因みにお姉ちゃんの股間の魔法のステッキ、卓也ちゃんの最大サイズに合わせてるから。美鳥ちゃんも満足できるだろうし、よがり顔いーっぱい撮ろうね」

え?




え?
―――――――――――――――――――
☆月О日(ラヴ&ピース)

『アメリカンがこれを直訳すると、『正義と力』となる訳だが、やはり愛と平和は素晴らしい』
『あれ以来、大学、アルバイト、ブラックロッジでのそれぞれの活動時間を少しづつ減らし、姉弟の時間と家族の時間を取る様にしている訳だが、一日の充実感がまるで違う』
『傍らに寄り添いあり続けてくれる人がいる、それを毎日確認する事が出来るというのは控えめに言って至上の喜びと言っても良い』
『何と言うのだろうか、人生の絶頂というか、この永遠の絶頂を脅かすものは決して生かしてはおけないというか、そんな感じ』
『因みに絶頂の向こう側へと旅立った美鳥は、俺が作り出した新生鳴無美鳥に取り込まれて生まれ変わった』
『毎度毎度思うのだが、なんで美鳥は三人ですると酷い目にしかあわないのだろうか』

『さて、姉さんと言う掛け替えのない大切な人が俺には居る訳だが、俺以外の人間にも、やはり掛け替えのない大切な人というものは存在する』
『当然、作品世界の人間といえども同じ事だ。彼等と俺達は隔絶されているとはいえ、身体も心もその構造に差異は少ない』
『大切な人がいれば、その少し、あるいは大分下に、それなりに親しい人、などが来る訳で』
『一番大切な人でなくとも、親しい人間が見るも無残な姿にされたら、人は感情を掻き立てられるものだ』
『薄情だなんだと言われる俺でも、千歳さんや駐在さん、横田君、葉山さん、同士鈴木、その他学生時代の友人が不幸な目に遭ったら少なからぬショックを受ける』

『……つまるところ、精神的に追い詰めるには、一度大切なものを多く抱えて貰った方が好都合なのだ』
『大十字は気さくで友人もそれなりに多い。偶に出るエリート気取りで人を見下す外れ大十字でも無ければ人並み以上の数の友人が出来る』
『だが、基本的にミスカトニックの連中はブラックロッジとの闘争には関わらない。大学の教授どもに、未熟なまま危険な場所に踏み込むな、と教えられているからだ』
『デモベ以外のクトゥルフ神話作品では危険に突っ込んで死ぬのがお仕事とも言えるミスカトニックの連中だ、こういう規則というか、思想でも無ければあっという間に定員割れを起こす程死人が続出してしまうのだろう』

『今回の周は、ただ単に大導師と大十字を鍛える為の周ではない』
『まず大十字の親しい人達が、大十字自身の力不足や覇道財閥の準備不足などで尽く不幸な目に逢う』
『その光景を見た大十字は悔しさをばねに努力を重ね、最終決戦までにかなりのレベルアップを遂げる、という訳だ』
『さらにこれには、次の周で覇道鋼造が『同じ過ちは繰り返させん!』的に奮起、覇道財閥がこれまでのループ以上に目覚ましい発展を遂げる可能性が出てくるかも、という目論見もある』
『かといって、全てに絶望して何もかも投げ出されても困るので、途中途中で適度にフォローを入れるつもりではある』
『大十字の幸福度を上げる→落とす→少しだけ持ち上げる→更に突き落す→軽くフォロー→絶望しないレベルで叩きつける様に激しく落とす』
『これらをどの程度の加減で行えばいいか、という実験周でもあるのだ』
『大導師は、基本的に大十字を鍛え上げればそれを少し上回るレベルまで勝手に強化されるので、余り手を打つ必要が無い』

『大十字を付き落とすのは当然ブラックロッジ社員の仕事な訳だが、その仕分けが難しい』
『西博士とは後々共闘して貰わなければいけない訳だし、やはり逆十字安定だろうか』
『糞餓鬼と筋肉ダルマ、ブシドゥーは論外』
『アヌスさんはそういうくだらない事はしそうに無いし、ナイ神父だって大いなる計画を前に小さな作戦には参加しないだろう』

『そうだよな。やっぱティベリウスさんだよな』
『いやぁ俺も本当はこんな事したくないっていうか、よりにもよってティベリウスさんかよーみたいなところはあるっていうか』
『原作じゃ触手レイパーの癖にヒロイン凌辱シーンすら無く、精々パンツに触手擦りつけたり身体に絡ませたりがせいぜいのティベリウスさん(笑)じゃ少し役者不足じゃないかなとか思ってしまう』
『が、ランク的に言えば覇道瑠璃の凌辱に成功した魚人達にすら劣る感じだけど、その実力(触手凌辱的な意味で)は確かなものだ』

『因みに、今ここで思いついたような事を書いているが、このプランは大導師殿にすべて伝えてある』
『俺の方は、ティベリウスさんの初出撃までに大十字と周りの女性たちの親しさを深めておくだけでいい』
『適度な友好関係、或いは淡い恋心が芽生えた所で俺の仕事は終了』
『ティベリウスさんのアグレッシブビーストが断空砲フォーメーションして、夜のハイメガキャノンが炸裂すれば、この作戦は完了、という事になる』
『補正で間に合いそうになるかも知れないが、そこら辺は俺の方で少なからずフォローを入れる事にしよう』

―――――――――――――――――――
……………………

…………

……

ミスカトニック大学で講義を受けた俺は、昼の休憩時間を利用し、美鳥と共に大十字を空き教室に引っ張り込み、強制的に昼食を共にしていた。
窓の外を見れば、グラウンドでは如何にも男臭いラグビー部に混じって陰秘学科の中でも肉体派の連中が、声を張り上げながら身体を動かしている。
弾け飛ぶ汗で呼吸困難になりそうな光景だが、ここミスカトニック大学では珍しい光景でもない。

「ああ、これこれ。ミスカトニックって言えばこれだよな」

「いや、どれだよ」

大十字のツッコミを軽くいなしつつ思う。
ミスカトニック大学、特に陰秘学科には女学生が極点に少ない。
いや、ループ毎の揺らぎによってメンバーも多少変わったりはするし、それで女性メンバーが増える事もあるのだが、それでもやはり男女のバランスは男性に傾いている。

「見るからにホモ臭い空間だもんね」

「講義受けてる時は意外ときにならないんだけどな」

講義中に他の学生の姿形とか気にする意味も無いし。

「ホモ臭いは言いすぎだろ。荒事もあるし、自然と男が増えるのも仕方がないんじゃないか?」

「臍出し男が何か言っているでござる」

「ベーコンレタスバーガー買ってあるけど、喰うかい?」

「服飾のセンスにまで突っ込むなよ、何着ようが人の勝手だろうが。あ、バーガーは貰う。ありがとな」

美鳥にジト目を向け、ベーコンレタスに秘められた意味も知らずに俺から紙包みを受け取る大十字。
執事さんとの一枚絵がある様な潜在的BL野郎なので仕方がないのかもしれない。

「つうか、その可愛らしい弁当は何よ?」

「ああ、まるで『普段はガサツなイメージ持たれてるけど、気になるあの人の為に本気出せばこれ位楽勝! かわいいでしょ!』みたいなオーラを放っているけど、恋人でも出来たのか?」

大十字の手元には、まるで身体を動かす男性の消費カロリーの事など度外視した、いかにも手料理です、といった造りのオカズが詰まった弁当箱。
ハートとかそういう露骨なラブサインは入っていないが、それゆえに端々に見えるタコさんウインナーに兎林檎など、調理した人間の心遣いが良く見てとれる。
ミスカトニックだけで活動し続けている限りは、こんな弁当を作る女性と巡り合う事は出来無さそうだが……。

「あ、ああ、バイト先の人が、毎日店屋モノとか、出来合いの弁当で済ませてるっていったら、『アカンアカン、そんなんばっかやと栄養が偏るで! 今度からウチが作ったる!』とか言ってさ」

あらぬ方角に視線を送りながら、その弁当の製作者と思しき人の口調まで真似て、人差し指で頬をぽりぽりと掻きながら答える大十字。

「ほう」

「ほほう」

にやにやしている美鳥と並び、にやにや笑いながら大十字を見つめる。

(おもらしさんかな)

(ああ、凡人メガネさんだな)

ほぼ間違いないだろう。
因みに、今回の俺達は大十字がブラックロッジとの闘争に巻き込まれたことを教えられていないので、バイト先が覇道財閥である事は知らされていない。
が、大十字に大事な人をいっぱい作らせる計画の為に、クロックアップをラースエイレムとボソンジャンプとド・マリニーの時計を多用して、覇道財閥の秘密基地内に存在する食料品には全て手をいれさせて貰っているのだ。
覇道財閥の秘密基地で活動している人達は今、脳細胞の構造を作り替えられ、大十字に対して極端に好意を抱き易くなっているのだ!
この、
『脳内に侵入し宿主の対象Aへの好感と嫌悪感を操り好感度上昇後に脳細胞ごと作り替え本体は新陳代謝で排出される超微小機械改良型』
略してナノポマシンM型2nd Edition ver.4.73!に、よって!

「なんだよ、やましい所は一切無いぞ。普通にこう、生活面を心配してくれるところがお姉さんっぽいというか、頼りになるのにか弱い面もあるとか、そんな事思って無いからな!」

「分かった、うん、式には呼べ」

「産婦人科を紹介してやろう」

ツンデレ乙というものか。
これはなるほど、傍から見てると無性にムカつく。

「いやいやおまえら絶対誤解してるだろ。ていうか真相知るつもり欠片も無いだろ実は! いいか、俺とあの人はだなぁ!」

壮大な惚気をを始めた大十字の声をフィルタにかけ、まきいづみボイスに変換、華麗に聞き流しながら美鳥と通信で密談。

《確実に釣れたのは一人だけみたいだな》

《この段階じゃ、しゃーなしだろ。要は大十字と接触すればするほど好感度が上がっていく訳だし》

理想としては、原作では蔑まれ気味だった褐色ロリメイドとかでっかいショタコンメイド辺りとも仲良くなって貰った方が、標的が多くなっていい感じなのだが。
ショタコンはともかく、褐色ロリには少なからず脈があるんじゃなかろうか。
この大十字、別に貧乏探偵でもないし、さげすまれる要素も無い。
むしろ天下のミスカトニック大学で素晴らしい成績を収めているから、好感度は上がり易いのでは?

《執事さんの好感度が一番上がってそうな気がする件について》

《あぁー》

言われてみれば、原作からして執事さんからの信頼度は半端無かったし、それに加えてミスカトニックのエリートだ。
魔導書さえあれば機神招喚すら自力でこなしかねない腕利きの、人格面でもそれなりに正義感のある男となれば、未来の旦那様(覇道財閥総帥的な意味で)として見据えても何ら可笑しな所は無い。
元からホモ臭い容姿だしな。

《別に子供作るわけじゃないんだし、かまわんだろう》

《そだね》

ホモになったら軽蔑するけどな。
折角だからシスターライカとかアルアジフ辺りにも確実にフラグを立て続けて欲しいのだが、そこら辺は大十字の性癖とかスケコマシぶりに期待するしかない。
まぁ、なにはともあれ。

「バイトの方も、無理しない程度に頑張れよ」

「その頑張りぶりを見て、更に惚れ直してくれるかもしれんしなー」

「応さ! ……って、だから、あと何回説明すりゃ気が済むんだよお前らは」

「五回」

「二十は堅いね」

頭を抱える大十字を見ながら、思う。
ティベリウスさん無双が始まる前に、悔いが残らないよう、回想シーンだけでも回収しておけよ、と。





続く
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ポーカーです。
ていうかこのSSに限り、もうポーカーという言葉をスラングとして扱っていい気がしてきました。
それ以外は正直おまけの様なものです。機神招喚の理論も、以前説明した物に、主人公のその後の入手データを加えたものだから、大きな変化はありませんしね。
むしろ今回は如何にしてボール球になる直接的な単語を使わずに描写するかだけを考えていた為、それ以外の所は少しばかりおざなりかもしれません。
ネタが少ないと感想少なくなるってのは過去データから統計取れてるんですけど、まぁ、こういう回もあります。

だって、『姉と主人公の絡みは気持ちが悪いが』みたいな紹介を見かけたから……。
じゃあもっと気持悪くしてやるお! むしろ極限を目指すお!
みたいな意気込みが生まれてしまって……。
何気に姉とのシーンは初描写。気合い入れましたがどうでしたでしょうか。
因みに今回、セーフかアウトかで言ったら、断然セーフでしたね。
XXX版に行く必要なんてない。これくらいなら十分全年齢対応さ!


自問自答。
Q,大導師のキャラがおかしくないか。
A,大導師様は今のところ、半神であるという自尊心に、これまでの事が全て邪神の掌の上であった事に対する恥が半々に混じり合ってる状態です。
当然、人目が無ければポーズだってキメキメです。
Q,大導師殿は主人公の事をどう思っている?
A,とてもSSに出来ぬ! 注釈※にて返答いたす!
※余りにも知り過ぎているから警戒してはいるものの、肉体的には何の変哲も無い魔術師である為に、いざとなれば力づくで排除できるだろうと踏んでいる。
※が、同時に数少ない大導師側のループ体験者である為、結構好意的でもある。
※トラペゾ手に入るまでは逃がさない。
※好感度は意外と高いかもしれない。両刀的な意味で。


次回は待ちに待ったティベリウスたんの初登場ですね。
自分、この話投稿したらティベリウスのカマ言葉とか再確認して、気合い入れて触手ポーカーシーン書くんだ……。
関西弁のポーカーとか、初めて書くなぁ緊張するなぁ。
まぁ、原作からしてメインヒロイン以外では数少ないお漏らし枠だし、問題無いかな。
一応開幕ポーカーにならない程度に、出撃前のティベリウスと主人公の会話シーンとか挟むと思いますので、そこら辺は安心してください。

そんな訳で、今回もここまで。
誤字脱字の指摘、文章の簡単な改善方法、矛盾している設定への突っ込み、その他諸々のアドバイス。
そしてなにより、このSSを読んでみての感想など、心よりお待ちしております。


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