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No.14434の一覧
[0] 【ネタ・習作・処女作】原作知識持ちチート主人公で多重クロスなトリップを【とりあえず完結】[ここち](2016/12/07 00:03)
[1] 第一話「田舎暮らしと姉弟」[ここち](2009/12/02 07:07)
[2] 第二話「異世界と魔法使い」[ここち](2009/12/07 01:05)
[3] 第三話「未来独逸と悪魔憑き」[ここち](2009/12/18 10:52)
[4] 第四話「独逸の休日と姉もどき」[ここち](2009/12/18 12:36)
[5] 第五話「帰還までの日々と諸々」[ここち](2009/12/25 06:08)
[6] 第六話「故郷と姉弟」[ここち](2009/12/29 22:45)
[7] 第七話「トリップ再開と日記帳」[ここち](2010/01/15 17:49)
[8] 第八話「宇宙戦艦と雇われロボット軍団」[ここち](2010/01/29 06:07)
[9] 第九話「地上と悪魔の細胞」[ここち](2010/02/03 06:54)
[10] 第十話「悪魔の機械と格闘技」[ここち](2011/02/04 20:31)
[11] 第十一話「人質と電子レンジ」[ここち](2010/02/26 13:00)
[12] 第十二話「月の騎士と予知能力」[ここち](2010/03/12 06:51)
[13] 第十三話「アンチボディと黄色軍」[ここち](2010/03/22 12:28)
[14] 第十四話「時間移動と暗躍」[ここち](2010/04/02 08:01)
[15] 第十五話「C武器とマップ兵器」[ここち](2010/04/16 06:28)
[16] 第十六話「雪山と人情」[ここち](2010/04/23 17:06)
[17] 第十七話「凶兆と休養」[ここち](2010/04/23 17:05)
[18] 第十八話「月の軍勢とお別れ」[ここち](2010/05/01 04:41)
[19] 第十九話「フューリーと影」[ここち](2010/05/11 08:55)
[20] 第二十話「操り人形と準備期間」[ここち](2010/05/24 01:13)
[21] 第二十一話「月の悪魔と死者の軍団」[ここち](2011/02/04 20:38)
[22] 第二十二話「正義のロボット軍団と外道無双」[ここち](2010/06/25 00:53)
[23] 第二十三話「私達の平穏と何処かに居るあなた」[ここち](2011/02/04 20:43)
[24] 付録「第二部までのオリキャラとオリ機体設定まとめ」[ここち](2010/08/14 03:06)
[25] 付録「第二部で設定に変更のある原作キャラと機体設定まとめ」[ここち](2010/07/03 13:06)
[26] 第二十四話「正道では無い物と邪道の者」[ここち](2010/07/02 09:14)
[27] 第二十五話「鍛冶と剣の術」[ここち](2010/07/09 18:06)
[28] 第二十六話「火星と外道」[ここち](2010/07/09 18:08)
[29] 第二十七話「遺跡とパンツ」[ここち](2010/07/19 14:03)
[30] 第二十八話「補正とお土産」[ここち](2011/02/04 20:44)
[31] 第二十九話「京の都と大鬼神」[ここち](2013/09/21 14:28)
[32] 第三十話「新たなトリップと救済計画」[ここち](2010/08/27 11:36)
[33] 第三十一話「装甲教師と鉄仮面生徒」[ここち](2010/09/03 19:22)
[34] 第三十二話「現状確認と超善行」[ここち](2010/09/25 09:51)
[35] 第三十三話「早朝電波とがっかりレース」[ここち](2010/09/25 11:06)
[36] 第三十四話「蜘蛛の御尻と魔改造」[ここち](2011/02/04 21:28)
[37] 第三十五話「救済と善悪相殺」[ここち](2010/10/22 11:14)
[38] 第三十六話「古本屋の邪神と長旅の始まり」[ここち](2010/11/18 05:27)
[39] 第三十七話「大混沌時代と大学生」[ここち](2012/12/08 21:22)
[40] 第三十八話「鉄屑の人形と未到達の英雄」[ここち](2011/01/23 15:38)
[41] 第三十九話「ドーナツ屋と魔導書」[ここち](2012/12/08 21:22)
[42] 第四十話「魔を断ちきれない剣と南極大決戦」[ここち](2012/12/08 21:25)
[43] 第四十一話「初逆行と既読スキップ」[ここち](2011/01/21 01:00)
[44] 第四十二話「研究と停滞」[ここち](2011/02/04 23:48)
[45] 第四十三話「息抜きと非生産的な日常」[ここち](2012/12/08 21:25)
[46] 第四十四話「機械の神と地球が燃え尽きる日」[ここち](2011/03/04 01:14)
[47] 第四十五話「続くループと増える回数」[ここち](2012/12/08 21:26)
[48] 第四十六話「拾い者と外来者」[ここち](2012/12/08 21:27)
[49] 第四十七話「居候と一週間」[ここち](2011/04/19 20:16)
[50] 第四十八話「暴君と新しい日常」[ここち](2013/09/21 14:30)
[51] 第四十九話「日ノ本と臍魔術師」[ここち](2011/05/18 22:20)
[52] 第五十話「大導師とはじめて物語」[ここち](2011/06/04 12:39)
[53] 第五十一話「入社と足踏みな時間」[ここち](2012/12/08 21:29)
[54] 第五十二話「策謀と姉弟ポーカー」[ここち](2012/12/08 21:31)
[55] 第五十三話「恋慕と凌辱」[ここち](2012/12/08 21:31)
[56] 第五十四話「進化と馴れ」[ここち](2011/07/31 02:35)
[57] 第五十五話「看病と休業」[ここち](2011/07/30 09:05)
[58] 第五十六話「ラーメンと風神少女」[ここち](2012/12/08 21:33)
[59] 第五十七話「空腹と後輩」[ここち](2012/12/08 21:35)
[60] 第五十八話「カバディと栄養」[ここち](2012/12/08 21:36)
[61] 第五十九話「女学生と魔導書」[ここち](2012/12/08 21:37)
[62] 第六十話「定期収入と修行」[ここち](2011/10/30 00:25)
[63] 第六十一話「蜘蛛男と作為的ご都合主義」[ここち](2012/12/08 21:39)
[64] 第六十二話「ゼリー祭りと蝙蝠野郎」[ここち](2011/11/18 01:17)
[65] 第六十三話「二刀流と恥女」[ここち](2012/12/08 21:41)
[66] 第六十四話「リゾートと酔っ払い」[ここち](2011/12/29 04:21)
[67] 第六十五話「デートと八百長」[ここち](2012/01/19 22:39)
[68] 第六十六話「メランコリックとステージエフェクト」[ここち](2012/03/25 10:11)
[69] 第六十七話「説得と迎撃」[ここち](2012/04/17 22:19)
[70] 第六十八話「さよならとおやすみ」[ここち](2013/09/21 14:32)
[71] 第六十九話「パーティーと急変」[ここち](2013/09/21 14:33)
[72] 第七十話「見えない混沌とそこにある混沌」[ここち](2012/05/26 23:24)
[73] 第七十一話「邪神と裏切り」[ここち](2012/06/23 05:36)
[74] 第七十二話「地球誕生と海産邪神上陸」[ここち](2012/08/15 02:52)
[75] 第七十三話「古代地球史と狩猟生活」[ここち](2012/09/06 23:07)
[76] 第七十四話「覇道鋼造と空打ちマッチポンプ」[ここち](2012/09/27 00:11)
[77] 第七十五話「内心の疑問と自己完結」[ここち](2012/10/29 19:42)
[78] 第七十六話「告白とわたしとあなたの関係性」[ここち](2012/10/29 19:51)
[79] 第七十七話「馴染みのあなたとわたしの故郷」[ここち](2012/11/05 03:02)
[80] 四方山話「転生と拳法と育てゲー」[ここち](2012/12/20 02:07)
[81] 第七十八話「模型と正しい科学技術」[ここち](2012/12/20 02:10)
[82] 第七十九話「基礎学習と仮想敵」[ここち](2013/02/17 09:37)
[83] 第八十話「目覚めの兆しと遭遇戦」[ここち](2013/02/17 11:09)
[84] 第八十一話「押し付けの好意と真の異能」[ここち](2013/05/06 03:59)
[85] 第八十二話「結婚式と恋愛の才能」[ここち](2013/06/20 02:26)
[86] 第八十三話「改竄強化と後悔の先の道」[ここち](2013/09/21 14:40)
[87] 第八十四話「真のスペシャルとおとめ座の流星」[ここち](2014/02/27 03:09)
[88] 第八十五話「先を行く者と未来の話」[ここち](2015/10/31 04:50)
[89] 第八十六話「新たな地平とそれでも続く小旅行」[ここち](2016/12/06 23:57)
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[14434] 第二十八話「補正とお土産」
Name: ここち◆92520f4f ID:19d255aa 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/02/04 20:44
気が付くとあたしは、上半身はパジャマ、下半身は半脱ぎのパジャマとパンツだけ、という状態で天蓋付きの豪華なベッドにうつ伏せで寝転ばされていた。

「え、あれ、何これ」

この状況が何なのか分からない。
とりあえずその場から逃れようと身を起こそうとするも、あたしの手首は安っぽい金属の光沢を放つ手錠でベッドに固定されていて起きあがる事も出来ない。
でもこんなものは手首から高周波ブレードを出──せない。
なら怪力で引きちぎ──る事も出来ない。
身体能力も総じて人間の少女並みに抑えられている。
じたばたと無様にもがき、ようやく膝立ちの状態にまで行ったところで、背中に誰かが覆いかぶさり──

「ひぁ」

耳を軽く噛まれた。
ぞくぞくっと背筋が震え力が抜け、くて、と横倒しに倒れてしまった。
倒れた後もこりこりと耳を甘噛みされ続け、背中に覆いかぶさるやつの吐息が顔にかかる。
あたしはせめて睨みつけるだけでもしてやろうと身をよじり、そいつの顔を確認した所で呆けてしまった。

「え、お、お兄さん?」

お兄さんはニヤ、と口を歪めるだけで何も答えない。
ニヤニヤ笑ったままベッドとあたしの身体の隙間に手を差し込み、お兄さんはパジャマの上から身体をまさぐり始めた。
服の上から臍に指を差し込まれ、グッ、と押され、グリグリとかき回される。
腹の中、臓をくすぐられるような、痛いような気持ち良いような微妙な感触。

「う、くひ」

変な声が漏れてしまった。
エロゲやAVで勉強してエロい喘ぎ方の練習をしたのに全く練習の成果が出せていな、いやそうじゃなくて。

「ちょま、お兄さ、まっていや、嬉しいけど、もう少しあむ!?」

口を塞がれた、口で。
片手は身体をまさぐり続け、もう片方の手で顎をがっしりと掴まれ引き寄せられ、強引に唇を合わせ、いや、貪られる。
唇を食い千切られるのかと思うほど何度も噛み締められ、舌で力任せに閉じた歯と歯を開けられ、舌を引きずり出されてしゃぶられる。
激しくて、とてもじゃ無いが息なんて出来ない。それぐらい、完膚なきまでに口を支配されている。
口内を蹂躙されている。お兄さんの口に、舌に、侵略され征服されている。
呼吸が出来ない、酸欠で意識が朦朧として、このまま死んでしまいそう。
でも、これ、生命の安全なんて無視されるほどに、強烈に求められているって事になるのかな。
あたしが、お兄さんに、求められてる?

「──っ!」

そう考えた瞬間、あたしは呆気なく上り詰めてしまった。
頭の中のまだ冷静だった部分の思考が弾け飛んで、真っ白い熱い何かで埋め尽くされる。
下腹部の、人間の擬態で、偽物の筈の赤ちゃんを作る部屋がグリグリと蠢き、口を開き下に降りてくる感覚。
あたしの下半分がお兄さんを求めて、餌を欲しがる子犬のようにきゅうきゅうと切なげな鳴き声を上げる。
じわ、と、パンツに下の涎が滲んだ。

「美鳥」

口を開放され、眼を見つめられたまま名前を囁かれると同時に、臍を弄っていたお兄さんの指が、パンツの上まで降りてくる。
パンツを降ろされる。
そう考え、少しだけ身を強張らせるが、指は呆気なくパンツの上を滑り、秘密の部分を避け、そのままお尻の肉の間に添えられる。
お尻の谷間をパンツの上から撫ぜられるもどかしい感触。

「お、おにいさ、もっと、つ、え、ぇぇえ?」

おねだりを口にしかけ、しかし驚きのあまり中断してしまう。
パンツ越しに、窄まりに指を当てられ、

「ひ」

一気に押し込まれた。
布越しの指が窄まりをこじ開け侵入し、中の壁をずりずりと擦り刺激する。
少しだけ無理矢理な侵入、血が出たかもしれない。
指を、お兄さんの指を入れられて無遠慮に掻き回され、血が、おなかが、布の感触が、ごりごりって。
お腹と胸が焼ける様に熱い。こんなに、こんなに求められた事は無かった。
こんな、本当に、お兄さんの方から、玩具みたいに使われて。
あたし、あたしは、ようやく──

「パンツが無かったら、こんな事は出来ないよな?」

「ふぇ?」

ぺろりと頬を舐められた。いつの間にか涙を流していたらしい。
あたしはお兄さんの舌の動きに合わせる様に顔を動かす。

「ほぁ」

舌の感触に夢中になっていると、唐突に指を抜かれた。
でも中にはまで異物感、指で押しこまれた布が中に入りっぱなし。
両手が使えないなりにどうにか中から出そうと尻をくねらせてみるけど、逆に中でもぞもぞと擦れてしまう。

「パンツがあれば、こんな事もできるぞ」

意地の悪い笑みを浮かべたお兄さんが、もう片方の手を股の付け根に伸ばす。
後ろの方に押し込まれた布の分だけぴっちりと張り付いたパンツが、布の上からくっきりと筋を浮かび上がらせる。
じっとりと濡れた布地のお陰で、しっかりと透けて見えている、と思う。
そんな場所を、お兄さんの掌がやんわりと包み込み、ゆっくりと揉みしだく。
両側の肉を擦り合わせる様に揉まれ、中指が時折割れ目にパンツの布を押し込む。

「やぁ……」

にち、にち、という音が、酷く耳にくっきりと聞こえてくるような気がして、今更ながらに恥ずかしさに身を縮こませて顔を赤くし、形だけの抵抗をしてみせる。
当然形だけだ。本音を言えばもう少し焦らしてほしいような、それでいて即座に突っ込んで欲しいような、泣いて抵抗しても絶対にやめて欲しくないような、そんな複雑でシンプルな気持ちでいっぱいいっぱいになっている。
そんなあたしの内心の葛藤を見越してか、しばらくしてお兄さんはパンツの上からの行為をやめ、やや乱暴にパンツを引きずり下ろした。
いつの間にかズボンも完全に脱がされていたため、あっさりと足を抜けてパンツを剥ぎ取られる。

「むぐっ」

剥ぎ取られたパンツを、口の中に押し込まれた。
色々な汁の味がしみ込んだパンツをねじ込まれ、抗議の言葉も形に出来ない。

「いっぱい声出していいぞ、パンツのお陰で聞こえないからな」

お兄さんがそう言うと同時、剥き出しになったあたしに、熱くて硬いモノが当てがわれ──

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

ちゅんちゅんという、小鳥の鳴き声が聞こえる。

「んぁ?」

目の前にはお兄さんの意地の悪い笑みは無く、口にパンツを突っ込まれておらず、パジャマは多少乱れているが脱がされた形跡は無い。
当然のようにベッドに手錠で固定なんてされてもいない。
試しに人差し指を簡単な刃物に作り替える。変形できないなんて事も無い。

「む……」

目を数回瞬かせ、周囲の光景を確認。
全てが上下逆さまになった遺跡最深部、爽やかさを演出する為なのかやたら音質の良い鳥の鳴き声が録音された目覚まし時計が転がっており、頭の上には読みかけの少女漫画。
身を起こす。

「……」

ベッド代わりに作り出したソファの上から、九割九分お兄さんとの融合が完了した遺跡を眺める。
少し記憶を遡ろう。
確かお姉さんから託された次回トリップ先の候補作品を全部観終って、それでもお兄さんの融合が終わらなくて、仕方無いからナデシコからくすねてきた少女マンガを読んでいた。
で、なんか成人指定にされるべきエロ描写がある漫画を見つけて、それが偶然兄妹モノで、
色々我慢できなくなった兄に妹が押し倒されてやや無理矢理だけど嫌じゃ無い的な内容で、
ん、グッドエロスって感じでセルフバーニングしちゃって、エレクトしまくった挙句にそのまま意識を失ってつまり──
思考を終えきっかり一分後、あたしは頭を抱えてその場に蹲る。

「夢オチかよ……」

ぐしょぐしょのパンツの嫌な感触と合わせ、あたしのテンションは地の底より尚深く落ち込んでいった。

―――――――――――――――――――

遺跡の機能を完全に取り込み最適化も終え、演算装置から改めて元の肉体を復元した俺が最初に見た光景は、苦虫を噛み潰したような表情で黙々とパンツを洗う美鳥の姿だった。
汚れものが出ても一度身体に取り込んで再構成してしまえばいいので洗濯は基本的に必要無いのだが、何故か盥と洗濯板でじゃぶじゃぶと手洗いでパンツを洗っている。

「なにしてんだお前」

「あ、お兄さん。いや、賢者タイムで自己嫌悪っつうか、変態的な嗜好を秘めた自分への戒めっつうか……」

何時になく歯切れが悪い。何かアクシデントでもあったのだろうか。

「具体的には?」

「ごめん、お願いだから追及しないで……」

ああでももう少し目が覚めるのが遅けりゃ、とか、直ぐに寝なおしてれば続きが、とか、そんなつぶやきが聞こえる。
ガックリと項垂れる美鳥の落ち込み様も呟きの内容も気にはなるが、これは多分追及されると更に落ち込む類の話だろうし、スルーしてやるのが優しさか。
雰囲気を明るくするためにもさっさと話題を変えよう。

「俺が融合している間、何も来なかったのか?」

陰鬱な表情でパンツの手洗いを続ける美鳥は手を止めずに首を横に振った。

「虫一匹こなかったよー。つか、現時点で遺跡に侵入できるようなのは存在しないし、誰も来ないのは当然の話なんだよね」

「そりゃそうか」

当たり前のように遺跡に侵入しているから分かり難いかもしれないが、この極冠遺跡は通常の手段で立ち入ろうと思ったらとても手間がかかる。
特殊な防御フィールドで殆どの攻撃をノーダメージで切り抜けるから盗掘用の穴を掘るなんて論外。
真正面から入ろうにも強力なディストーションフィールドが何枚も邪魔をしているので、短距離ボソンジャンプで跳び越えるか、フィールドランサーやゲキガンパンチのような物でフィールドを打ち消して侵入するしか手段がない。
そして、現時点では木連側もゲキガンタイプを投入していないので単騎でのボソンジャンプは不可能、地球側は一応フィールドランサーが完成しているがこの時期は火星に乗り込む程の余力が無いので心配するだけ無駄。
唯一可能性がありそうなところで言えばオーストレールコロニーの連中だが、あいつらのコロニーからこの極冠遺跡まではそれなりに距離がある。
更に言えばこの極冠遺跡は周辺にそれなりの量のチューリップが存在している。
俺達のように木連の戦力とガチでやりあえるか、さもなければECSのように敵をガン無視できる能力がなければ、戦力の整わない内は近づこうという考えさえ起こらないだろう。

「あそうだ、取り込んだ遺跡の能力はどんな感じ? やっぱタイムマシンの演算装置取り込んだんだし、滅茶苦茶思考速度が速くなったとかあんの?」

「そういう都合良いパワーアップは一切無い。でもどんな世界に行っても時間旅行が可能になったんだから充分だろ。未来視とかはサイトロンで補えるしな」

遺跡には他にも古代火星文明人の住居だの機動兵器の生産プラントだのが存在していたのだが、有効利用できそうなのはボソンジャンプの演算機能だけ。
いや、どちらかと言えば『遺跡には時間と空間の区別が無い』『切り離されても正常に機能する』という二つの能力こそが今回の目玉というかなんというか。
まぁそれはまた別の話、保険のようなものなので説明は省こう。

「そうそう、原作ではこの遺跡の演算ユニットが破壊されると過去現在未来全てのボソンジャンプが全てチャラになる、とかそんな仮説があったが、別に壊されてもそんな事にはならない」

ボソンジャンプの演算装置が破壊された時点で全ての時間のボソンジャンプが無効になる、というのなら、そもそもボソンジャンプという現象自体起こりようがない。
この演算装置自体の強度はそれなりだが、ブラックホールに叩きこめば破壊される程度の強度でしか無いし、物質である以上何時かは必ず壊れる。
広がり切り全ての熱量が消えて完全に静止した宇宙でも当然稼働しないから壊れたモノと見なしてもいいだろう。
『何時かは必ず壊れる存在』が『壊れた瞬間に過去のボソンジャンプまで無かった事にする』のなら、『現時点でボソンジャンプが起きている』という事実に矛盾が生じてしまうのである。
まぁ、そうでなくとも宇宙のあちこちに同じタイプの遺跡が散らばっている時点で、この火星の演算装置が壊れた程度でボソンジャンプができなくなる訳が無いのであるが。

「ふ、上等じゃないか。あたしも一つ言っておく事がある。ゲーム版ナデシコで主人公が途中から女になるような気がしていたが、別にそんな事はなかったぜ……」

「そうか」

何処か哀愁を漂わせた美鳥にただただ頷く。
仕方ない、そこら辺は色々あるのだ。監督と会社のトラブルとか、人気とか。
そもそも最初から短い放送期間で纏まるように構成しておけばよかったのにとか、企画倒れになるなら企画するなとか言ってはいけない。
身近なところで言えば、絶対に続く必要無い糞スレに最初から【パート1】とか付けられているとか、コンテンツが九割方建設予定のホームページとかも似ているが、金が掛かっている分シビアになっているのだから同列で扱ってはいけないのである。

「まぁまぁそれは置いといて」

盥の中の洗剤混じりの水を捨てパンツを水ですすぎ始めた美鳥が更に話題を切り替える。
多少は精神的に持ち直したのだろうか、その口調は先ほどよりは少しだけ明るくなったような気がする。

「これで火星でやる事は無くなった訳だけど、次はどこに何を探しに行くの?」

「あぁー……」

俺はこの世界に来る前に、本編中には登場しないけど登場作品的にはありそうな技術を調べておいたのだが、この世界観だともう地球以外には明確にこれといった標的が存在しないのだ。
木星の遺跡は極冠遺跡の下位互換だし、グラドスの本星にもこれといって必要な技術も無い。ボアザンも特に技術的に優れた部分は見当たらない。
少し離れた外宇宙にはラダムの本隊が存在している筈だけど、これもブレードⅡの描写を見る限りでは取り込む必要性が感じられない。

「地球に戻るのが一番真っ当な道なんだろうが、気が進まん」

「この時間のあたし達とブッキングする可能性は控えたいしねぇ。火星の土で焼き物の練習でもする?」

「オーストレールコロニー滞在中に散々作ったからなぁ。もう姉さんの土産に相応しい傑作も出来上がってるし、今更焼き物ってのも……」

姉さんには既に姉弟妹茶碗と、陶器製の7分の1姉さんフィギュアを用意してある。
正直言ってこの二つはかなりの自新作で、もう一、二年ほどみっちり修業して画期的な新技術でも導入しないことにはこれを超える作品を作れる自信は無い。

「特にこの姉さんフィギュアはスカートの中身の作り込みに特に力が入れてあってだな」

「茶碗超スルーでいきなりフィギュアを持ち上げてスカートの中身を覗きこみ始めるとか人としてどうだよ」

言いつつ二人で見習い魔女服風トリップ作業着姿の姉さんフィギュアを下から覗きこむ。
薄暗い遺跡の奥底でフィギュアのスカートの中身を見上げると陰で良く見えないと思われるだろうが、この陶器製姉さんフィギュアはそこら辺一味違う。
火星のテラフォーミング用ナノマシンを配合しているお陰で特定のパターンの電力を流す事により自律発光を始める為、陰になり易いスカートの中身だってくっきり観察する事が可能なのである。
舐めるようにじっくりと観察していた美鳥がポツリと呟く。

「ちょっとめり込み過ぎじゃね? リアルじゃここまで筋見えねぇしさぁ」

「ほんの少しのデフォルメは必要だろう。ついでにこのフィギュアには素敵な隠し機能があるのだ」

「どんな?」

「炊飯器に入れて米を炊くと何時もよりふんわり炊けて、腕や脚部分を口に含んでもごもごペロペロしていると口臭が取れる」

この機能を付ける為にナノマシンの機能自体を少し弄ったのだが、まぁ些細な問題だろう。
俺の返答に、すすぎの終わって乾かすだけのパンツを片手に握りしめた美鳥がこめかみをひくひく引き攣らせながら俺に問いかけてきた。

「これ、お姉さん用のお土産だよね」

「一応茶碗と同じく俺と美鳥の分もあるが」

旅の思い出として持ち帰れば、このフィギュアを眺めたり炊飯器に入れたり口に含んだりする度にオーストレールコロニーでのウルルン滞在記ばりの生活を思い出せる事だろう。
できあいの既製品が悪いとは思わないが、自分の力で作るお土産であれば思い出の詰まったものであって欲しいと思うのは当たり前の話だ。

「ありがとう。でも、お姉さんは自分のフィギュアを口に含む性癖があると思う?」

「おいおい、自分のフィギュアを炊飯器に入れたり口に入れてペロペロしたりだなんて、姉さんはそんな変態的に強烈なナルシストじゃあないぞ」

武装紳士どもでもあるまいに、お人形の脚を口に含むなんてする訳がない。
しかし自分のフィギュアをてろてろになるまで舐めるとかそんな変態的な姉さんも悪くないけど現実はそうはいかない。
ああ、ちなみに当然全身フル稼働であるため、脚を開いたり閉じたりすることによる精神安定機能も搭載されている事になる。
しかし、この姉さんフィギュアが完成した直後は脚を開いたり閉じたりする作業で丸二日ほど潰してしまったが、その作業の現場をナーエに目撃されたのは痛かったな。
流石は人間関係を取り持つのに最適な遺伝子の持ち主、あの超スルーっぷりと、その後の生暖かい眼差しはトラウマ物だった。これ人間関係は関係無いかよく考えると。

「いや、お兄さんの中で解決してんなら、あたしは特に言う事は無いけど。結局どうすんの?」

「二コルが僕のピアノるまで時間があるからなぁ、ナデシコとアークエンジェルを避けつつ、適当に時間を潰そう」

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

時間を潰すと言葉で言うのは簡単だが、実際に時間を潰すとなるとそれなりに色々と考える事も出てくる。
特に時間を逆行している俺達ともなればその苦労は人の倍以上。
時間を遡る前、この時間の俺と美鳥は無色のアストレイ、つまり今時間を遡ってやってきた俺達の情報を手に入れていない。
プレート回収の時にアストレイ関連の情報を手に入れはしたが、そこで入手した情報は全てアストレイ原作に沿う内容のもの。
もしもあの時点で原作には存在しない無色のアストレイの情報を手に入れていたのなら、俺が何一つ行動を起こさないというのは不自然極まりない。
俺なら、原作に存在しないアストレイの情報を手に入れたら間違いなくナデシコから抜け出してでも探しに行く。
しかし、俺はナデシコを降りるまでそんな行動を取ってはいない。
つまり、タイムパラドクスを起こさない為には、俺のアストレイは誰にも発見される訳にはいかないのである。

更に言えばボウライダーでの行動も不可能。
ナデシコを出てから気が付いたのだが、ナデシコとアークエンジェルのニュース映像などには大概ボウライダーが映り込んでいるのだ。
当然、軍の特殊部隊というか、独立愚連隊であるナデシコとアークエンジェルの情報はそう易々と流されていいものでは無い。
しかし、そういう規制された情報を嬉々として特集組んで報道する雑誌、ニュースサイトも当然のように存在している。
映画の『MIB』で宇宙人の情報を集めるのに三流ゴシップ誌を買い集めるシーンがあるが、この世界でもそういった情報を集めたければ、いかにも信憑性の薄そうな情報ばかりが載せられている三流ゴシップ誌を探すのがてっとり早かったりする。
無論、そういった雑誌にありがちな話を面白可笑しくする為の意図的な誇張表現や嘘の情報と、本物の情報を見分ける力も必要になってくる訳だが……。

「みてみてお兄さんこれこれ!『謎の超高機動戦闘機スケールライダーの秘密に迫る!!』だって!」

「『秘密のヴェールに包まれたパイロットへの突撃取材に成功!?』って、クエスチョンマーク小さすぎるだろこれ」

エロい袋とじの付いた如何わしい情報誌を嬉しそうにこちらに向ける美鳥に冷静に返す。
所々文章の合間合間に『?』や『仮』などが挟まれ、決して確定情報として扱っていないのがミソなのだろう。

「すげー、あたしインタビュー受けた覚えなんて一度も無いけどこんな有名人になってたなんてなー」

「せめてシルエットを似せる努力くらいはするべきだろ、常識的に考えて」

インタビュー受けてる目線の入ったグラマーな金髪女性は誰のつもりだよ。
とまぁ、部分部分の捏造の激しさはともかくとしても、ナデシコやアークエンジェルの戦闘が度々撮影されているのもまた確かな事実である。
軍の避難誘導もなんのそのと戦場に隠れ潜み、命がけでスクープを狙う根性は他人事であれば結構評価できる。人事で無いので俺は評価しないが。
そんな訳で、野次馬根性丸出しな連中のお陰でボウライダーとスケールライダーの姿はそれなりに世間に知れており、ナデシコに居るこの時間の俺に悟られない為にも、一般的なパワードスーツに偽装したソルテッカマンやパラディンでの行動を余儀なくされているのだ。

「お兄さんお兄さん、これ買ってもいい? ああでもこれ写ってんのあたしじゃないんだよね、微妙な気分だけど、うぅむ」

「買わなかった後悔よりも買った後悔だろ。どうせここの金なんて残しても使えないんだから、買いたいもんは買えるだけ買っとけ」

雑誌コーナーに張り付く美鳥から離れ、買い物かごに適当にインスタントの食品を放り込む。
火星から地球にボソンジャンプで戻ってきた俺と美鳥は、微妙に未来へと時間移動を繰り返しながら、ナデシコとアークエンジェルが立ち寄った事の無い各地の連合とザフトの基地へと侵入を繰り返していた。
今までのナデシコでの生活の中で手に入らなかったもので、適当に連合かザフトの基地を探していれば見つかりそうな技術を探していたのである。
例えばそう、グーンとかグーンとか、あとグーン。
いや、確かにグーンは欲しかったが正確に言えばグーンそのものが目当てだった訳では無い。
正確に言えばプロトグーン、別名ジンフェムゥスか、さもなければグーン地中機動試験評価タイプ、それらの機体に搭載されているスケイルモーターが必要だったのだ。
細かい突起物を振動させて土や砂を液状化させたり水を掻いたりして推力をえるモーターであり、これが手に入れば水中での機動に大きなアドバンテージが手に入る。
結局普通のグーンしか手に入らなかったのだがそこはそれ、最終的には陸上戦艦に搭載されているスケイルモーターをチョッパって解決した。
少しばかりサイズは大きかったが、これで問題無くアストレイ用のスケイル・システムを完成させる事が出来るだろう。
今後水中戦を行う機会があるかはともかく、デザインはすこぶる気に入っているので作らない手はない。
超音速魚雷はグーンのモノを使えるとして、問題はデザイン。大体の形は覚えているし、かっこよかったって印象も残ってはいるが流石に細部まで覚えている訳では無い。
そういった諸々を考えつつスケイル・システムを作り出す為に少しの間缶詰しようと思い、こうして面白い食品や美鳥の暇つぶしアイテムが手に入る店にやって来たのだ。

「お、ぱりんと割れるバリア煎餅」

しかもコンビニ売り用の食べきりサイズ。
これはこれで買っておくとして、結局お土産用のファミリーサイズは何処で手に入るのだろうか。
大量のエロ雑誌をこっそりかごに入れようとしている美鳥の頭を小突きながら、俺は頭の中で近隣の土産物屋を検索し始めた。

―――――――――――――――――――

夜、人里離れた山奥に通常空間から切り離した作業用のスペースを作り出しそこに入り込む。
次元連結システムでも無ければ入り込むことが不可能な最高の隠れ場所で俺は仮組みしたスケイル・システムを前に胡坐をかいて首をひねる。
やはり何かが違う。
いや、水の抵抗やら何やらを考えればこれが一番効率のいいデザインではあるのだ。
だがしかし、これは俺が身体から直接作り出した『水中戦闘を行う上で最大限効率のいいスケイル・システム』なのだ。
通常の製造工程を経ている訳では無く、どうすればこんな構造で作れるんだ、なんて感じのパーツも多い。
はっきり言って、これと同じものを通常の兵器を作り出すのと同じ手順で作ろうとすれば、パーツの加工技術を開発するだけであと三年は必要になる。
当然、多方面に様々なコネのあるサーペントテイルといえどもこんなものを作り出せる訳がない。

手から触手を伸ばし、その触手の先からアストレイを作り出す。
性能面では避けて硬いデバック用ですかと聞きたくなるような機体だが、外観は紛れも無く何の変哲も無いアストレイ。

「むん」

気合一発、念動力でスケイル・システムを宙に浮かしアストレイに取りつける。
スケイル・システムの装着された俺のアストレイ。

「凛々しいぜ……」

うっとりしてしまう。
ちがうそうじゃなくて、カッコいいけど、機能美に溢れているけども。
滑らかで、魚のひれの如く少しだけ鋭角気味に伸びたスケイル・アーマーは両腕両脚に計四枚。背には水中用ジェット。頭部には水中用のセンサーを装着。
武装は超音速魚雷発射管にアーマーシュナイダーのみ。
間違いなくオリジナルよりも高性能であるという自信はある。だが、致命的なまでにオリジナルとはフォルムが違う気がする。
うぅむ。

「なに首捻ってんの? 便秘? 浣腸ならあたしが代わりに受けて立つぜ!」

「たまに婆ちゃんとか爺ちゃんが代わりにトイレ行って来てとか言うけど、あれって何も意味ないよな」

両手にそれぞれエロ本とバリアせんべいを持った美鳥が変態発言をしながら近づいてくるも華麗にスルー。

「つれないなぁ」

エロ本を地面に広げ、隣に座り込む美鳥。
バリアせんべいの袋を開け、一枚口に咥え、もう一枚取り出して俺の方に差し出してきた。

「で、スケイル・システムの、デザイン?」

「む。アーマーとかの細部のデザインが思い出せんのよ」

せんべいを受け取る。
パッケージの写真のようにまん丸では無く、半ばから割れてしまっている。
美鳥を見る。美鳥が口に咥えているせんべいも既に割れていた。
パリンと割れる歯ごたえに重きを置き過ぎて、輸送時の衝撃を考えていなかったか。
というよりも、ここに来るまでに結構山道を走ったからその時に割れたのかもしれない。荒地も楽々走行できるからはしゃいでしまったのがいけなかったか。でもパラディンのバイク形体での移動は初めてだったから、俺がはしゃぐのも無理無いと思うんだ。
次から割れモノを運ぶ時は低空飛行できるマシンで移動するように心がけよう。
そんな事を考えながら、手の中の割れたバリアせんべいを口に運び、齧る。
ぱりん、という小気味いい音と共にせんべいが見事に口の中で砕け散った。
なるほど、これはまさしく光子力バリア。
噛み砕いた瞬間、まるで自分が一匹の機械獣になったかのような錯覚に落ち入りそうな割れ具合。エクセレント。

「見てくればいいじゃん、本物」

「………………おぉ!」

そういえばそうだ。手元に単行本や設定資料集が無くても、ギガフロートの建設現場に行けば実物のスケイル・システム装備済みのブルーフレームを見る事が出来る。
実物のスケイル・システム装備型ブルーフレーム……うへへ。

「サーペントテールの劾が撃墜されたって噂がギガフロート襲撃事件の少し前に流れてたし、運が良ければブルーフレームセカンドLも複製できるかもよ?」

「ブルーフレームセカンドL……ゴクリ」

美鳥がハンカチを俺の口元に当て何度か拭う動作を行う。
呑みこみ切れなかったか涎が口の端から零れ落ちたようだが何も問題はない。
セカンドGも嫌いでは無いが、そもそも狙撃能力はボウライダーのオリジナルですら大気圏外の標的を狙い打ち出来るからあんまり旨味が無いけど取り込みたいなぁぐへへ。
時期的にショートレンジアサルト存在するか微妙だが、ブルーフレームのコンピューターかサーペントテールの母艦のコンピューターと融合できれば設計図は手に入る。
これで行かない理由が無くなった。さっさと荷物をまとめて建設中のギガフロートにジャンプしよう。

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

そんなこんなで、俺達はギガフロートへと上陸した。
建設中のギガフロートはそれほど機密性が高い訳では無いので、ギガフロート建設の手伝いをするという名目で堂々と船で乗り付ける事に成功したのだ。
まぁジャンク屋ギルドへの登録手続きは簡単に済ませる事が可能だったし、これ以降ジャンク屋として活動する事も無いので決まり事に関しても深く気にする必要はない。
ここで建設の手伝いをするという事でパワードスーツではなくMSを使う必要があるのだが、そこら辺も抜かりはない。
ジン系のMSをベースに作り上げた追加装甲と、火星で手を付けた重機をベースに作った作業用の追加パーツの装着により全身のシルエットは大幅にアストレイから外れているし、ヘッドパーツにも手を加え、Vアンテナは小型化し内部に収納、ガンダムフェイスも仄かにジンっぽいフェイスガードによりしっかり隠蔽。
……個人的には、フィレシュテのガンダムのような感じで隠したかったのだが、それだとこの時間の俺が絶対に気付いてしまうので泣く泣く諦めた。
だが仕方がない、ボソンジャンプの過去への移動はタイムパラドックスの危険を孕んでいるのだ、趣味を楽しめない程度の事でその危険を回避できるならそうすべきだし、そうする。
他にもアストレイの擬装で、趣味にまみれたモノはいくつも案があったが、全て安全を重視する上で諦めた。
本当に、本当に仕方なく、だ。泣く泣く諦めているだけであり──

「で、この腕の部分にこういうギミックが付いて、ワイヤで簡単に引き戻せる訳よ」

「紐付のロケットパンチか。確か極東のスーパーロボット、マジンガーZの武装だよな、あと、確かネルガルの新商品に似たようなのがあった気がするな。パンフだけは見た覚えがあるぜ」

「民間にはまだ出回って無いんだったか。そのネルガルの新商品、エステバリスとかだともう実用化されてるし、マジンガーよりも構造は簡易だから、ありものの素材でも再現出来るって」

こうして、建設作業の合間に作業員の仮設宿舎でロウとアストレイ魔改造討論をする程度の事は許されてしかるべきだと思う訳だ。
ワイヤードフィストの内部構造を印刷した紙が張られたホワイトボードを前にあれやこれやと議論する。

「あー、でもそうなるとワイヤを収納するスペースが足りなくないか?」

「だから、そこら辺の問題も含めてこの技術で解決できるんだよ、このワイヤが指先まで命令を送れるように出来てるし、エステバリスの技術応用で駆動系もかなり簡略化できる」

「なるほどなるほど」

現在の議論、というか、魔改造雑談のネタはエステバリスのワイヤードフィスト。
軍に配備されるようになってから多少有名にはなっているが、その性能の高さによる被撃墜率の低さと、単純な数の少なさからジャンク屋にはあまり流れていない。
更に相転移炉式戦艦とのセット運用が基本であるためやや一般のジャンク屋には敬遠されているネタだが、ロウの食いつきは中々のモノだ。
それは何もロウが新しいメカ好き、というだけでは無い。
純粋にエステバリスに使用されている技術は応用性が高いというのが第一の理由。

『遠隔操作でここまでの精密操作が可能なのは魅力だが、バッテリ駆動でこの機構は無駄が多いだろう』

「そこでこれ、重力波受信アンテナの出番だ」

8(ハチ)がモニタに映した疑問に、更に新しい紙をマグネットでホワイトボードに貼り付けながら答える。
そう、ロウ達の新しい船、リ・ホーム、何を隠そう相転移炉式戦艦であり、更には高級な重力制御装置も搭載しているらしいのだ。
といっても、別にネルガルから購入した訳では無い。
相転移炉式戦艦はネルガルの商品の中でも高級品であり、原作で手に入れたアークエンジェルと対になる補給艦が五隻は買えてしまう馬鹿みたいな値段なのだ。どれだけロウ達が稼いでもそうそう買える物では無い。
種は簡単、俺がグレイブヤードでの別れ際にロウ達に渡した相転移炉の設計図が原因だったのだ。
あの設計図を基にジャンク屋ギルドが独自に相転移炉を製造する事に成功し、その功績を考慮してロウ達にジャンク屋ギルド製相転移炉第一号を搭載した母艦を提供したのである。
元々は設計図通りに作ろうとして、ここまで各部品を小型化するのは不可能という結論に達した所で、パーツの製造が可能なサイズまで大型化し各部の機構を簡略化すれば、ネルガルで売り出し中の相転移炉式戦艦と同じものが作れるのではないかと気付いた。
その再設計後の設計図を基にジャンク屋ギルド専用のドッグで製造し、新しい船を用意する交換条件としてジャンク屋ギルドの商品として目出度く登録される事となったのである。
現在ネルガルの独占技術である相転移炉の設計図と引き換えであるため、現在製造中のリ・ホームはグラビティブラストの無いやや小型のナデシコと言ってもいいような高級な船になろうとしているのだ。
まぁ、そんな特許という概念を超越した超商法が可能なのも、ジャンク品から技術を盗んでレイスタなどを作り上げ自社商品と出来るジャンク屋ギルドならではというものか。
まぁネルガルは元々巨大企業だし、この程度の損失は我慢して貰おう。ネルガルに不利益があったとしても、俺は痛くもかゆくも無いしな。

そんな訳で、あとはアストレイの方に重力波アンテナさえ装備してしまえば、リ・ホームの周囲での活動に限り、バッテリの残量を気にする必要が無くなるのである。
一応自力で強化バッタの残骸からディストーションフィールド発生装置は作り出せたようだし、MFばりの実力を持つ蘊老人に鍛えられている以上、並みの実体攻撃はどうにか回避できるだろう。
戦闘が好きな訳でもないのに度々戦闘に巻き込まれるロウ達ジャンク屋チームも、これで滅多な事で危機に陥る事も無い、筈だ。
もっとも、これからの展開を考えると、その余程のことが起こる可能性は非常に高い。

「しっかし、こんな高級なメカをジャンク拾いに使うのもなぁ」

「どうせトラブルには巻き込まれる運命にあるんだ。それにお前、ゴールドフレームに狙われているんだろ?」

『早急なパワーアップが必要だ』

そう、その余程の事とはつまりゴールドフレームの事だ。
原作ではギガフロートが目ざわりというのがロンド・ギナの主な理由だったが、この世界のギナはギガフロートの破壊とレッドフレームの破壊を同列に見なしている。
何でも地球に降下する前に襲撃された時、ガーベラストレートだけでかなり善戦してしまったらしい。これもまた蘊老人の手ほどきの賜物だろう。
そう、原作よりも強化されたロウの技量故に、ギナに自分と踊れる相手としてロックオンされてしまったのだ。
仮にロウが自分からゴールドフレームの戦場に首を突っ込まなくとも、この世界のギナは間違いなくロウとレッドフレームを自ら破壊しに現れるだろう。
今でこそ水中戦でかなりの強さを誇るブルーフレーム・スケイル・システム装着型が護衛に付いているが、宇宙に上がってからの戦闘ではそうもいかない。
ブルーフレームとレッドフレーム、更に現場作業員の方々と共闘してわかった事だが、この世界のゴールドフレームはCE技術だけで作られた物では無い。
反応速度は並みのCEのMSではありえない程の速度で、装甲も間違いなく発泡金属ではない頑強なもの、おそらくフレームは俺のアストレイと同じくMFをモデルにしつつ、独自技術でより柔軟性と剛性を上げている。
極めつけとして、黒と金の装甲が、一瞬だけ全身金色に変化しようとしていた。
あの現象は、少なくともこの世界では一流のファイターの搭乗したMFでしか起こり得ない。あれは感情をエネルギーに変えるシステム、しかもシャイニングの不完全版ではなく、ゴッドガンダムの完全版が搭載されている。
無論そんな装置が無くてもハイパーモードになればシャッフル同盟の機体も金色に光輝くが、本気で人間という枠組みから離れかけている連中に常識を説いても仕方の無い事だろう。
俺のアストレイのフレームにMFのコピーが使用されていたのは、おそらく技術大系の違う技術をMSに取り入れても正常に機能するかのテストだったのだろう。
或いは通常の予備パーツとゴールドフレーム専用の予備パーツがちゃんぽんになったか。
ともかく、今のゴールドフレームはCEのMS基準で考えると手酷い目に会う相手であることは間違いない。
更に相手は未だ片手、どうにかして他の技術を盗んで取り入れたいのだろうが、順当に行けばブリッツの片腕が移植される筈だ。
腕単品に目を引くような技術を詰め込んであるのはミラコロとPS装甲を備えたブリッツのみ。
ゴッドやシャイニングやマックスターやドラゴン辺りの腕ギミックはモーショントレースシステムの機体でなければ能力を発揮しきれない。
武器腕であるブリッツの右腕は丁度いい妥協点なのだ。
そして、度々あったゴールドフレームの襲撃がつい先日唐突に終わった。
日記を読み返し、てもわからなかったので記憶を掘り返しつつスパロボJの攻略本を読んで確認したところ、二コルのブリッツガンダムが回想シーン用のバンクを撮り終えたようだ。
これからミラコロ技術の解析を開始し、更にマガノイクタチのようなミラコロの新しい利用法を開発するのだろう。
そうなると、ギナとゴールドフレームは衛星軌道上のアマノミハシラに引っ込んでいる筈、次にロウ達が宇宙に上がった時が決選という事になる。
パイロットであるロウが原作以上に戦闘力が高かろうが、ナデシコの技術でパワーアップしていようが苦戦は必至。
なのでこうして思いついたけど自分の機体に取り込むには性能面で不安で、なおかつ一般では有用で再現も容易な技術をロウに託して魔改造レッドフレームえへへ、ではなく、どうにかしてレッドフレームとロウ達に生き残って貰おうと苦心しているのだ。

「あそこまで行くとディストーションフィールドも使って来そうな気がするし、フィールド中和装置とかも積んでおきたいが……」

『強化バッタのフィールド程度なら、ロウは自力で切り裂く事ができるぞ』

「マジで!?」

俺の驚きに、フフンと鼻を鳴らしながらロウが親指を立てて自信満々答える。

「爺さんに言われたとおりの『まっすぐな振り』で斬れば、フィールドなんて軽い軽い」

Q、ディストーションフィールドをどうやって破りますか?
A、刀を真っ直ぐ振れば斬れます。

いや、スパロボ的には正しいけど、無改造MSの攻撃でバッタのDF貫通するけど、それを言ったら木星蜥蜴の脅威も糞も無くなっちゃうだろうに。
ロウが、ロウがすっかりスパロボレギュに適応した上でガンダムファイターみたいな超理論に侵されてしまった。
とか思ったが、原作でもガーベラでビームを切っていたし、元からそういう素養はあったのかもしれない。生身で宇宙空間に飛び出すし。
つまりこの世界も寺田により破壊されてしまったけど、プリキュア始まるからあと三十分は許してくれるらしい。おのれ鳴滝……! 録画でいいだろう録画で。
Jは寺田じゃないとかそういう突っ込みはどこからも期待できない。そも寺田は自分の好きなキャラを不必要なまでにプッシュするからあまり好きでは無いのだ。
もうATXチームをトラブルの中心に突撃させるのは止めてやれと。あと次のOGにDが出た時ラキルートが黒歴史化されそうで戦々恐々としているのだ俺達Dファンは。

「おおっと、ノースリーブキモウトの悪口はそこまでにしてもらおうか!」

「ご飯持ってきたよー」

大量のおにぎりが載った御盆を片手に美鳥が見得を切りながら部屋に入ってきた。こいつは時々ナチュラルにこちらの思考を読み取るから困る。
山吹ももう美鳥の電波的な発言に慣れ切ったのか、何事も無かったかのようにお茶の入ったポットと漬物の乗った御盆を持ち部屋に入ってくる。

「じゃ、飯食ったら作業再開だな。卓也と美鳥はどうするんだ?」

「俺は午後からは警備と半々。こういう防衛系の依頼じゃなきゃ、データ取りの為にもゴールドフレーム来い! とか言えるんだけどなぁ」

「あたしもお兄さんも攻める方は得意だけど、守りは普通だからねぇ。ゴールドフレームに張り付いてデータ収集なんてしてたらその他の襲撃者が全部サーペントテール任せになっちまうし、それだと流石にまずいっしょ?」

「警備は数が少ないもんね」

サーペントテール以外の警備が貧弱だった為、俺の擬装済みアストレイも自作のスケイル・システムを装甲に組み込んで海中の襲撃者の迎撃に回る事になったのだ。
デザイン面以外ではかなり高性能であるため、単純に戦う時に使う事には抵抗は無いのだ。
まぁ、周りの目が多いので何時ぞやの水中戦のように念動力で一網打尽とか、そういう真似は出来ないのが難点だが。
美鳥もジャンク屋ギルドの一員としてここに来たので、当然作業用にMSを使っている。
といっても美鳥にはMSに対する思い入れが余り無い為、単純に適当なMSを継ぎ接ぎして作業用っぽい雰囲気に仕立て上げただけの代物を使っている。
作業用のアームとなら同時に、空からの襲撃者を迎撃する為に様々な紐付鈍器や対空ミサイルやライフルを装備しており、ここで使い捨てるには少し勿体無いと思えてしまうような豪華なゲテモノMSに仕上がっている。

「じゃあ午後の作業が終わったら新装備の設計詰めようぜ。二人ともそろそろギガフロートでの仕事は終わりなんだろ」

「え、そうなの? なんで?」

「元々ここへは路銀稼ぎと見学に寄っただけだから、お前らみたいに船丸ごと買わなきゃならん訳でも無いし」

ブルーフレームのスケイル・システムは見たし、セカンドに使用されてる頭部とタクティカルアームズの設計図も見せて貰った。
ここではブルーフレームがずっとスケイル・システムを装備したままだからブルーフレームセカンドLの活躍は見れなかったが、それは後から宇宙で少しだけ見れそうなので問題無い。
ここでの作業が終わったらアメノミハシラ行ってゴールドフレーム取り込んで、月行ってフューリー取り込んだらひとまず終了かな。
ラスボスを取り込んじまうと盛り上がりに欠けるかもしれんけど、まぁフューリーが居なくなって誰が困るってもんでも無いし、気にする必要もあるまい。

「そっかぁ、さみしくなっちゃ、う、ね……?」

溜息を吐きながらおにぎりを手に取った山吹が、一口おにぎりを口に入れたと同時に眉根を寄せ口を曲げ奇妙な表情をとり、急いでお茶で流し込み食べかけのおにぎりを盆に戻した。

「うへぇ、こいつ一発目で当たり引きやがった。相変わらず空気読めてねぇなテメェ」

「み、美鳥ちゃぁん……!」

おーいやだいやだと手を振る美鳥に恨みがましい視線を送る山吹。

「んー、当たりはプリン入りか。俺もこれはカラメル部分が苦く感じて苦手なんだよな」

「いや、その感想はおかしい」

山吹の食いかけのおにぎりを一口食べたロウに突っ込みを入れる。
流石は火星のマズ飯を地球の飯と同列に扱う男、味覚も例外なく王道から外れているという事か……。

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

黒と黄金に身を包み、鉤爪のような翼の様な背部ユニットを持つ異形のMS──ゴールドフレームが、その禍々しい背部ユニット、マガノイクタチから鏃の様な物を射出する。
マガノシラホコ、PS装甲で作られ、射出速度さえ強化すればスーパーロボットの装甲すら容易く貫くそれが、不規則な軌道を描いた後、ゴールドフレームと対峙する白と赤のMS──レッドフレームへ向け一斉に加速。
弾丸よりもなお早いその鏃を、レッドフレームはガーベラストレートを振るい巧みに軌道を逸らしていく。

「なんでもかんでも壊しやがって! 自分ひとりで世界を動かしてるつもりかよ!」

逸らした鏃、マガノシラホコが軌道を修正するよりも早く、返す刀でマガノイクタチと繋がるワイヤを断ち切り、ビームサーベルを抜刀。
油断無くワイヤから切り離された鏃の予測位置に向けサーベルを振るう。
そう、ワイヤから切り離されたマガノシラホコの鏃部分は自ら推進材を吐き出しながらも自律してレッドフレーム目掛け進路を修正していたのだ。
ビームサーベルが鏃を捕えた。
だが、鏃はビームサーベルの熱で熔ける事も無く執拗にレッドフレームを狙い続ける。
耐ビームコーティング、いや、微弱なディストーションフィールドが鏃を保護し、ビームサーベルを逸らしている。

「ふん、愚物が。万人は世を統べる者にその生命を捧げる義務があるのだ」

幾度となく再アタックを繰り返す鏃の対処に精一杯のレッドフレームに、ゴールドフレームがランサーダートを放つ。
当然のようにフェイズシフト化しレッドフレームを貫かんとする三本の杭。
その杭に、ガーベラストレートで軌道を逸らされたマガノシラホコの鏃が激突、PS装甲同士の超高速度による衝突の衝撃により、双方の内蔵するバッテリに蓄えられた電力が底を尽く。
フェイズシフトダウンにより灰色に染まった二つの射出武器をすかさずガーベラで叩き切るレッドフレーム。
ランサーダートとマガノシラホコが、内臓されている機構から考えると過剰な程に煙を吐き出しながら爆発。
煙を突き破りながらゴールドフレームがレッドフレームに迫る。
トリケロス改をガーベラで受け止め、キスも出来そうな距離で睨み合うゴールドフレームとレッドフレーム。
その鍔迫り合いを続ける二機を通して、ロンド・ギナ・サハクとロウ・ギュールが睨み合う。

「ふざけんな! 世界ってのはな、そこに生きてる一人一人が頑張って作り上げるもんだろうがっ!」

「下賎の者の考えそうなことだ。多少ダンスが踊れるとはいえ、ジャンク屋風情に理解できる事ではないな!」

だが、拮抗は長くは続かない。
ロウのレッドフレームはMFではなくMSのフレームを使っているが、ギナのゴールドフレームはMFのフレームを使用している。骨格の強度が違う。
さらに言えば、ゴールドフレームは単純な出力、機動性でもレッドフレームを遥かに上回っている。
このゴールドフレームの機体各部には、ボルトガンダムのビクトルエンジンのコピーが搭載されているのだ。
基本的にはガーベラを振る為の調整しかされていないレッドフレームでは、単純な力比べでは勝ち目がない。
そして、ゴールドフレームにはまだいくつもの手が残っていた。

『ロウ、距離を取れ、バッテリが強制放電されている!』

拡散されたミラージュコロイドによるバッテリの強制放電。
様々な方面にスパイを潜り込ませていたこの世界のアメノミハシラの技術力は原作を軽く上回っている。
マガノイクタチを経由せずとも、機体のどこか一部が接触していれば相手のバッテリを強制放電させ、自らのエネルギーとする事が可能なのだ。
エネルギーを失い、力を失ったレッドフレームの手からガーベラが取りこぼされ、ゴールドフレームが自らの後方に弾き飛ばした。
動けなくなったレッドフレームに、ガーベラを弾き飛ばしたトリケロス改の返す刃が迫る。

「いいや、まだ行ける! 重力波受信アンテナセット!」

ロウの指示と同時に、空になりつつあるバッテリから、重力波ビームによる無線エネルギー供給に切り替わるレッドフレーム。
ピンチのロウを援護する為、相転移エンジンを搭載したリ・ホームが接近し、重力波ビームの圏内にレッドフレームを納めたのだ。
ロウはレッドフレームを素早く再起動し、ビームサーベルを構え、トリケロス改を迎え撃つ。
力場を形成してサーベル状にビームを固定するビームサーベルは、ディストーションフィールドでは瞬間的にしか逸らす事ができない。
仮にゴールドフレーム本体にディストーションフィールドを張る能力があっても、ビームサーベルなら通る筈。
PS装甲もビームに対する耐性は強く無い、斬り裂ける。

「な」

「ビームサーベルを」

『掴んだだと!?』

リ・ホームの面々が驚愕する。
発泡金属どころか、頑強な宇宙戦艦の装甲すら容易く切り裂くビームサーベルを、ゴールドフレームの『完全に黄金色に染まったトリケロス改』がその手で握り締めて防いでいる。

「油断だ……!」

トリケロス改を中心に、ゴールドフレームの全身が眩いばかりの黄金色に染まっていく。
アストレイゴールドフレーム天(アマツ)ハイパーモード。
国を影から支配するに相応しい王者となるべく、自らの身体を鍛えに鍛えたロンド姉弟にのみ許された、ゴールドフレーム最終形態。

「それこそが、下賎の証明!」

全身が完全に黄金色に染まり、周囲のデブリを破裂させた。
ギナの禍々しい闘気が破壊的な衝撃波となり放出され、空間すらも歪ませて、その歪みに耐えきれなくなった物から崩壊していくのだ。
その衝撃波に弾き飛ばされたレッドフレームのカメラアイが、ゴールドフレームを睨みつける。
全身の装甲を破壊され、フレームが歪み正常に動作しない。ジャンク寸前、戦闘機動などもっての外。
だが、それでもレッドフレームは、そのパイロットであるロウは諦めていない。

「下賎だろうとなんだろうと、俺はあんたを認めねぇし、そんな考えの奴には負けらんねぇ」

「貴様の考えがどうだろうと、このダンスはもう幕引きだ。せめて美しく散るがいい!」

黄金色に染まったゴールドフレーム、その背部のマガノイクタチが死鎌(デスサイズ)のように瀕死のレッドフレームの命を刈り取らんと振り下ろされ──

「一寸待て」

高速で飛来した機械的なフォルムの大剣に阻まれる。

「ぬぐ、P03!」

「村雲劾!」

「戦いに集中しろ、ロウ・ギュール」

大質量の衝突により姿勢を崩すゴールドフレーム。その隙を突いて、レッドフレームがその肘から先を発射する。
ワイヤードフィスト。しかし拳で無く掌のままゴールドフレームの背後に伸びたその手は、しっかりと己が剣を、ガーベラストレートを捕まえた。
衝撃から回復し姿勢を立て直したゴールドフレームと、ワイヤを引き戻しガーベラを構えたレッドフレームが正面から相対する。

「そのようななまくら刀で、このアマツが斬れるとでも思っているのか」

「斬れるさ、斬れない訳がない」

向かい合ったまま、十秒、二十秒が過ぎ、一分が過ぎた瞬間。
両者の姿が消え、次の瞬間には背を向けた状態で互いの位置を入れ替える。
互いに互いの武器を振り切った姿勢のまま硬直。レッドフレームのガーベラは半ばから罅が入り、ゴールドフレームのトリケロス改はその鋭利な刃が掛けていた。
一瞬の間を置き、レッドフレームが先にくず折れ、

「ば、馬鹿な……」

ゴールドフレームが、その前面の斬撃痕からオイルを血飛沫のようにまき散らした。

―――――――――――――――――――

「はは、すげえすげえ。マジで勝っちまいやがった!」

ECSで姿を隠したアストレイの中、美鳥がモニタを見ながら手を叩いてはしゃいでいる。
ロウ・ギュールのレッドフレームがロンド・ギナのゴールドフレームを下す。
そこに至るまでの経緯はときた版と戸田版で多少の違いはあるものの、どちらでも起きた結果だ。
だが、この世界でそれが起きるのは奇跡と言ってもいい。
ギガフロートを経った後アメノミハシラに忍び込んでゴールドフレームを取り込んでわかったが、この世界のゴールドフレームにはレッドフレームの魔改造など比べ物にならない程の魔改造が施されていたのだ。
装甲は発泡金属よりも軽量で、かつ並みのMSの装甲よりも堅牢な超合金Z。
フレームはMFのフレームの発展形で、限定的ながらラムダドライバすら搭載し機体の制御に当てていた。
マガノシラホコにはローゼスビットの技術、機体の駆動系にボルトガンダム、更にパイロットはギナ、ミナ共に鍛え抜かれた細マッチョでハイパーモード発動可能。
動力源は横流しされたパラジウムリアクターの最新型。もともとエネルギーを食う機体では無かったお陰で、バッテリの残量を気にすることなく戦闘が出来るというすぐれもの。

「なんで勝てたんだろうなぁ」

目の前で、ロウが消えた後にブルーフレームに止めを刺されているゴールドフレームを眺めながら考える。
ロウのレッドフレームは直前に重力波アンテナとワイアードフィストを追加した以外はこれと言って原作との性能差は存在しない。
せいぜい出力の弱いディストーションフィールドを搭載している程度だが、それはどう考えてもあの戦闘で有利に働いては居なかった。
マジンガー、Gガン、フルメタの技術を搭載した、本編に出ないからこそ許される超魔改造ゴールドフレーム。
味方に居ればバランスブレイカーで、敵なら間違いなく難易度高限定の中ボスのような無茶な機体。
それを、ほぼ無改造なレッドフレームが、原作よりも少ない損傷で勝利をもぎ取った。

「さぁて。もしかしたら、これが噂に聞く主人公補正ってやつかね」

「ふむ、主人公補正か」

なるほど、一理ある。
主人公補正という訳では無いが、俺達の様なトリッパーにも『トリッパー補正』とでも言うべきものが存在しているらしい。
特に対抗策を取っていなければ、トリップ先の原作イベントの方からこちらに近づいてくる、というものだ。
犬も歩けば棒に当たるというか、イベントエンカウント率が非常に高くなるらしい。正直心当たりも結構ある。何よりベテラントリッパーである姉さんの言葉だ、ほぼ間違いないだろう。
で、あれば、どんな逆境をも乗り越え、あらゆる強敵を打倒する事が可能になる『主人公補正』の存在する確率は非常に高い。

「あいつらは、どうなんだ?」

「バリバリだろ。スパロボ的に考えれば、下手をすれば一度も被弾せずに戦争を終えるような確率操作すら行われてる可能性もある訳だし」

「所詮この世は泡沫の、セーブリセットリロードか」

この世界は俺の家にあったロムだからプレイヤーは存在しない。
姉さん辺りがプレイしているならまだ有り得るが、流石に俺達がトリップしているカセットで再プレイはしないだろう。
だが、主人公補正の有無は大きい。
どれだけ能力が厨二的で倒し方が分からない敵でも、ストーリー上必要とあれば主人公は倒す事が可能なのだ。
で、あるならば。主人公補正をもった原作主人公に、トリッパーは絶対に勝つことが出来ないのだろうか。

「…………」

これは重要な事かもしれない。
死なない為に力を蓄えている以上、最終的にはあらゆる存在から害されず、あらゆる存在を一方的に害せるような力を手に入れなければならない。
例え相手が主人公補正を持っていたとしても、こちらは勝ち続けなけれなならないのだ。
俺は、この世界で手に入れた力で、この世界の真の主人公を負かす事が出来るだろうか。

「どったの、いきなり黙り込んで」

心配そうに美鳥が身を乗り出し此方の顔を覗き込んできた。
姉さんならば、そんな補正はものともしないだろう。だが、美鳥はどうだろう。
仮に鬼畜エロゲの世界で主人公補正持ちの主人公に負けて捕えられた場合、こいつは一体どうなってしまうだろう。
そんな事を考えてしまい、背筋が少しだけ震えた。

「わわ」

乗り出してきた美鳥の首を捕まえて、持ち上げる。
そのままコパイシートからひっこ抜き、頭からこちらのシートに落とす。

「うぎゅ」

しばらく逆さのまま足掻いていた美鳥をもう一度持ち上げ、膝の上に乗せる。
そのまま美鳥の腹に両腕を廻し、きつくない程度に、それでいて逃げられない様にホールドする。

「え、えーっと、お兄さん? あ、あれー、まさかまた夢オチな展開っすかぁ?」

多少身をよじる様なそぶりを見せたモノの、抵抗らしい抵抗は一切しない。

「どうせここで二人乗りじゃないと対処できない敵なんて出ようが無いんだから、大人しく抱かれてろ」

「うわ、マジで? やっべなにその発言エロいけどどちらかと言えば大歓迎」

「訂正、寒いから温まるまで湯たんぽ代わりにされてろ。」

「……うん、はい、分かってましたけどねぇ、そうそうある展開じゃないもんねぇ、そんな感じの人生だよねぇ」

いじけ気味な美鳥の発言を無視し、腹部をホールドする手で美鳥の腹をさする。
正直な話、姉さんの代用とか劣化複製とか、そんな感じで扱うのが正解なんだろうけど。
こいつも、まぁ、悪くはないか。

「うぅ、おにーさん、その手付き、エロくないのにこそばいよ」

「うだうだ抜かすな。体が温まったら俺達がボソンジャンプした直後のオーブに移動だからな」

「月?」

「月だ。二機のラフトクランズと、生き残りの量産機と一緒に、な」

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

月内部、ガウ・ラ=フューリア、機動兵器格納庫。
転移装置、軍団の門を介して白と赤のラフトクランズに、ヴォルレントを含む数百の量産型が出現する。
そのどれもが深く傷ついてはいたが、戻ってこれなかったものは極僅かだったのか、最初に出撃した機体数とほぼ変わりない数の機体がこの格納庫に戻ってきていた。

「おお、ラフトクランズが」

「騎士様達がお戻りになられたぞ!」

整備を任されている騎士団の従士見習い達が歓喜の叫び声を上げる。
今回の討伐隊に選ばれなかった未熟な者には詳しいところまでは知らされなかったが、今回の敵は、もし倒せなければフューリーの未来が途絶えかねない程の強敵だったという事は知らされている。
その強敵を相手に、ほとんど犠牲無しで勝利を収めた。
やはり自分達は、自分達の仲間は強いのだ。地球人を名乗る連中などに負ける筈がない。
白いラフトクランズのコックピットが開き、パイロットである騎士が姿を現す。

「フー=ルー様!」

「騎士フー=ルー様だわ!」

出迎えた従士や従士見習い達が、男も女も黄色い歓声を上げる。
歴戦の騎士であり、美しく、男らしさと女らしさを兼ね備えたフー=ルー・ムールーは上司にしたい騎士ランキングで常に上位にランクインし、お姉さまになって欲しい女性ランキングでは常にトップに君臨し続けているのだ。
地球の言葉で言えば、ヅカっぽいとでも表現すればいいか。そんな人気だった。

「皆、出迎え御苦労!」

フー=ルーは、その顔に微笑を浮かべ、格納庫に響き渡る声でねぎらいの言葉をかけた。
その言葉に格納庫が湧き立つと、フー=ルーは浮かべた微笑を更に濃く、深いものへと変えていく。
口の端を裂けんばかりに吊り上げ、右手をあげる。
それに合わせる様に、ヴォルレントを始めとする量産機のコックピットが一斉に開く。
開いたコックピットの中には、誰も居ない。
数百のコックピットの中に、一人足りともパイロットが存在しないのだ。

「あれ、なんか、おかしくな」

出迎えた従士の一人が異変に気付く前に、その喉笛を掻き切られ血を噴き出し、大量出血のショックで絶命した。
肉の塊を叩くような音を立て、絶命した従士がその場に倒れこむ。
そしてそれに他の者が気付くよりも早く、次々と出迎えの従士達が喉を割かれ心臓を潰され声を上げる間もなく倒れて行く。
その被害者達の後ろには、全身に金属質の何かを張り付けた裸身。
ただし、顔はのっぺりとした仮面のようなもので覆われ、側頭部には捻じれた角がへばり付く様にして生えている。
腰のあたりからは脊椎をそのまま延長したような尾を生やし、その脚は獣のそれに似た構造。
その異形は皆、唯一つのコマンドだけを実行する為に生み出された存在。

『生きてる奴を殺して、仲間を増やせ』

量産型の機動兵器の脚部に融合していた彼等は、解き放たれると同時、そのコマンドを迅速に実行に移した。
格納庫に武装した従士の一団が押し入ってくる。
異常なほどにフー=ルーに気を取られていた従士達は気付かずとも、監視カメラで異常を察知した警備担当の従士達はこの異形の集団を排除せんと動きだしたのである。
放たれる銃弾や熱光線を、腕を緑色の丸太の様な太さの物に変化させ防ぐ異形の集団。

「おい、大丈夫か!」

銃を構えた従士を護衛に、衛生兵が喉を切り裂かれた者達に駆け寄る。
監視カメラ越しでは確認できなかったが、まだ息のある者が居るかもしれない。そう判断しての事だった。
だが、その行為すら、この襲撃を計画したモノの思惑通り。

「くそ、だめ、か?」

胸に軽い衝撃。
今まさに絶命を確認した仲間の腕によって深々と胸を貫かれ、心臓を鷲掴みにされている。
遅れて痛みがやってくるが、発生の為の器官ごと胸を貫かれているので絶叫することも出来ない。

「なん、で」

自分を殺した相手の顔を、霞む視界にとらえた衛生兵が見たモノは、金属質の何かに覆われた、のっぺらぼうの悪魔の顔だった。

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

暫定的な指導者である総代騎士の控える部屋の戸を、フー=ルーはノックもせずに開き、堂々と脚を踏み入れる。
部屋の中、机に向かう総代騎士グ=ランドン・ゴーツ。
グ=ランドンは椅子に座り机に向かい、難民の一人が母星から持ち出した娯楽雑誌を読みふけっている。
開いているページは漫画だ、フー=ルーも昔に読んだ覚えがある。
内容は酷く陳腐な勧善懲悪もので、宇宙の果てから来た侵略者を、侵略される側の星のヒーローがやっつけるというもの。
そんな漫画を、地球を侵略せんと企むフューリーの総代騎士が読みふけるというのはどんな皮肉だろうか。

「そんな真似も出来るのですね」

「一発でばれたか」

「今は貴方の下僕ですもの。主の見分け程度は付きますわ」

漫画雑誌を読みふけっていたグ=ランドンの顔が、体形が、服装が、瞬時にどこにでもいそうな平凡な男のモノに変わる。
全体的に穏やかそうな作りの顔、適当な長さで刈られた黒髪、全体の調和を無視したかのように、不自然なまでに鋭すぎる目つき。
フー=ルー・ムールー自身とその同僚、そして数百の部下を皆殺しにした、白い人型機動兵器のパイロット。
ナデシコとアークエンジェルのクルーを騙しぬき、今やフューリーの母艦を半ば以上掌握した驚異の存在。
地球人のようで、実は違うのかもしれない奇妙な男。
鳴無卓也が、我が物顔で総代騎士の椅子に座っている。

「グ=ランドンはどうされましたか?」

「食った。サイトロン適合率は結構高かったかな」

事も無げに答える。だが、それを恐ろしいとは感じない。
いうなれば、この男は天災のようなものなのかもしれない。フー=ルーはそんな事を考えた。
人の力では防ぎようの無い災厄、フューリーは台風に巻き込まれた安普請の掘っ立て小屋のように、ただただ運が悪かったというだけで、何の意味も残さず終わるのだろう。
それもいい。運も実力の内、ならば自分達は究極的なまでに勝利とは縁の無い弱者だったのだろう。
例えフューリーが滅んでも、私はこれで、晴れて地球最強の部隊と、正面切って戦う権利を得たのだから。

―――――――――――――――――――

此方に一礼したフー=ルーが部屋から出て行くのを見送り、俺は再び手元の漫画雑誌を読み始める。
ガウ・ラの乗っ取り自体は至極簡単だった。
量産型の機動兵器に複製した下級デモニアックを融合できるだけ融合させ、凱旋してきた仲間を労う為に格納庫に集まった戦闘員を片端からペイルホースに感染させる。
感染した者を強制的に下級デモニアックへと変化させる改造ペイルホースのお陰で、あと数時間もしないうちにガウ・ラ内部で現在活動しているフューリーの連中は一人残らず
俺の制御下に置ける。
火星の遺跡で慣れたから、全身を融合させずに上半身は出したままでガウ・ラそのものとの融合も可能。途中で退屈になる事も無い。
大き過ぎるので数週間は時間が必要になるかもしれないが、ナデシコとアークエンジェルがここにやってくるのにもまだまだ時間が必要。
最後の演出を考えながら、ゆっくり完全に融合同化に専念できるだろう。

「お兄さん、作業完了したよ」

漫画を読む俺の目の前に美鳥が転位してきた。

「全部か?」

「全部全部。お兄さんみたいに融合して取り込む作業じゃないんだから、この程度は余裕だって」

美鳥に頼んでおいた作業とは、フューリーの民が眠るステイシスベッドの改造である。
ステイシスベッドにテックシステムを組み込みフューリーの民を総テッカマン化、更にステイシスベッドを通じてペイルホースを感染させる。
更にテッカマンへのフォーマットの過程でラダムでは無く俺への忠誠心遺伝子レベルで組み込み、ペイルホースに遺伝子を組み替えさせる事で火星人のジャンプ体質も組み込ませるように注文してもある。
コールドスリープ装置を全自動改造人間製造機に改造したと言えば分かりやすいだろうか。
とりあえず、これで雑魚は揃うし、挑発の材料にもなるだろう。

「よしよし、じゃあ次の仕事は──」

「お兄さん」

次にさせるべき事を伝える前に、美鳥が俺の発言を遮った。

「なんだ、褒美の類ならもう少し待て。しばらくはガウ・ラとの融合を優先したいから細かい作業はしたくないんだ」

「うん、我慢して我慢した後の方が喜びもひとしおだもんね。いやそうじゃなくて、どうしてまた、ナデシコの連中と戦うつもりになったの?」

「わからないか?」

「わかんね」

両手を肩の高さまで持ち上げお手上げのジェスチャーをする美鳥。
漫画雑誌を閉じ、適当に机の上に放り出しながら答える。

「主人公補正、破れるかなって思ってな。あいつらから取り込んで、確実にあいつらの技術よりも優れている状態で、それでも主人公補正はあいつらを勝たせるのか、それとも純粋なパワーの差で俺が勝てるのか」

「んー、まぁ、確かに少し気になりはするけどね」

「それに、俺がこの世界で強くなった確かな証拠として、主人公連中の首を姉さんの土産にするのも悪くないだろ?」

「生首トーテムポールはお土産に向かないと思うなぁ。防腐剤買ってこようか?」

「比喩だよ比喩、比喩表現」

椅子に深々と腰掛け、脚を机に乗せて、頭の後ろで腕を組む。
何だかんだでナデシコには散々金を送った。主要な機体はフル改造済みだろう。
レベルの方がどうかはわからんが、まぁそれでも普通にプレイした時の一週目よりは間違いなく強い筈だ。

「万全の状態で、あいつらを言い訳不能なまでに叩き潰す」

欲しいのはケチのつけようの無い完全勝利。
空力を操り、メモ紙を美鳥に向けて飛ばす。空気の上を滑り見事に美鳥の手の中に収まるメモ紙。

「量子コンピュータ用ウイルス、シャイニングガンダムのジャンク、東方不敗の死体、デビルガンダムの残骸、ラダム母艦中枢、VL開発リベンジ、ジェネシス……」

「出来るだけ早めに全部集めて来い。他にも欲しいものがあったら拾ってきてもいいから」

「分裂して手分けした方がいいなぁ。あ、カルビさん拾ってきていい?」

「いいんじゃないか? 主人公してないならどうせ暇を持て余してるだろうし」

特に必要な物には太い文字で書いてあるし、美鳥はこういうお使いではへまをするタイプではない。
寄り道するにしても拾い物を探しに行くにしても、は全てのお使いを終えてからにするだろう。
ガウ・ラと融合を初めて、俺の中に出現した謎の設計図も気になる。
連中が月に来るまでにやっておく事は山積みだ。気合いを入れて、最終決戦の準備を整えるとしよう。




十九話「フューリーと影」に続く
―――――――――――――――――――

なんとか七月中に外伝を終わらせる事に成功。
いろいろと展開に巻きをいれつつも何事も無く外伝終了な第二十八話でした。

二三話分の話を押し込めたからやや展開というか場面転換が無茶苦茶かもしれませんが何も問題はありません、これがボソンジャンプの力です。
まぁ、一応ゲーム版ナデシコで古代火星文明に『過去には跳ぶな』って注意されているんですけどね、どうせスパロボ編が完全終了するということでガン無視です。
山無し落ち無し、でも微妙に意味があるから厄介な外伝でしたが、ここまでお付き合い頂きありがとうございました。
次回は一話か二話完結の超短編を挟んで、少し間を置いてから第三部に入ろうと思っとります。気長にお待ち下さいと言う事で。

以下自問自答というか、突っ込みへの保険とか削除依頼とか出されない為の言い訳コーナー。

Q、冒頭のサポAIの夢の内容は結局なんなの?
A、ポーカーです、ベッドに縛られてポーカーをしていたのです。PS2の絢爛舞踏祭スレで同じ状況をそう解釈していましたので間違いありませんのだ。深く追及すると怖い人がやってくるのでそれ以上いけない。

Q、ジャンク屋ギルドってそんな簡単に入会できるもんなの?
A、そこまで詳しい設定を見つける事ができなかったので、この作品内ではレンタルビデオショップの会員証作るよりは難しい程度のあれで。

Q、ロンド姉弟は鍛えに鍛えてるの?
A、ガンダムファイターの存在を知っているのでそれ相応にムキムキです。ウルベとか指先一つでダウンですとも。

Q、フューリーの漫画、文字は読めるの?
フー=ルーさんの死体を取り込んだ時点でフューリー側の知識は一通り頭の中に入ってるので、当然読めます。脳味噌に記録されてる知識も取り込むので。


こんな所でしょうか。
ではでは、誤字脱字の指摘、分かり難い文章の改善案、設定の矛盾、一行の文字数などのアドバイス全般、そして、短くても長くても一言でもいいので作品を読んでみての感想などなど、心よりお待ちしております。







信憑性の低い次回予告
スパロボ世界での修業を終え、節分やバレンタインやホワイトデーや桜の季節を満喫しつつも主観時間で一年半以上ぶりに姉といちゃつく主人公。
そんな久しぶりの姉との逢瀬を邪魔するかのように始まる強制トリップ。
「いいぜ、トリッパーは何時トリップしても文句を言えないって言うんなら、まずはその幻想をぶち殺す!」
喰らえ必殺アトミック・クエイク! 燃え尽きろファイアーブラスター!
主人公怒りの精神コマンド全部掛け無限行動分身殺法が、八当たり気味に京都の街に炸裂する!

次回、
『魔法教師細長い香草付き焼き鳥! チートトリッパー残酷地獄絵巻』
これで決まりだ!


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