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No.14434の一覧
[0] 【ネタ・習作・処女作】原作知識持ちチート主人公で多重クロスなトリップを【とりあえず完結】[ここち](2016/12/07 00:03)
[1] 第一話「田舎暮らしと姉弟」[ここち](2009/12/02 07:07)
[2] 第二話「異世界と魔法使い」[ここち](2009/12/07 01:05)
[3] 第三話「未来独逸と悪魔憑き」[ここち](2009/12/18 10:52)
[4] 第四話「独逸の休日と姉もどき」[ここち](2009/12/18 12:36)
[5] 第五話「帰還までの日々と諸々」[ここち](2009/12/25 06:08)
[6] 第六話「故郷と姉弟」[ここち](2009/12/29 22:45)
[7] 第七話「トリップ再開と日記帳」[ここち](2010/01/15 17:49)
[8] 第八話「宇宙戦艦と雇われロボット軍団」[ここち](2010/01/29 06:07)
[9] 第九話「地上と悪魔の細胞」[ここち](2010/02/03 06:54)
[10] 第十話「悪魔の機械と格闘技」[ここち](2011/02/04 20:31)
[11] 第十一話「人質と電子レンジ」[ここち](2010/02/26 13:00)
[12] 第十二話「月の騎士と予知能力」[ここち](2010/03/12 06:51)
[13] 第十三話「アンチボディと黄色軍」[ここち](2010/03/22 12:28)
[14] 第十四話「時間移動と暗躍」[ここち](2010/04/02 08:01)
[15] 第十五話「C武器とマップ兵器」[ここち](2010/04/16 06:28)
[16] 第十六話「雪山と人情」[ここち](2010/04/23 17:06)
[17] 第十七話「凶兆と休養」[ここち](2010/04/23 17:05)
[18] 第十八話「月の軍勢とお別れ」[ここち](2010/05/01 04:41)
[19] 第十九話「フューリーと影」[ここち](2010/05/11 08:55)
[20] 第二十話「操り人形と準備期間」[ここち](2010/05/24 01:13)
[21] 第二十一話「月の悪魔と死者の軍団」[ここち](2011/02/04 20:38)
[22] 第二十二話「正義のロボット軍団と外道無双」[ここち](2010/06/25 00:53)
[23] 第二十三話「私達の平穏と何処かに居るあなた」[ここち](2011/02/04 20:43)
[24] 付録「第二部までのオリキャラとオリ機体設定まとめ」[ここち](2010/08/14 03:06)
[25] 付録「第二部で設定に変更のある原作キャラと機体設定まとめ」[ここち](2010/07/03 13:06)
[26] 第二十四話「正道では無い物と邪道の者」[ここち](2010/07/02 09:14)
[27] 第二十五話「鍛冶と剣の術」[ここち](2010/07/09 18:06)
[28] 第二十六話「火星と外道」[ここち](2010/07/09 18:08)
[29] 第二十七話「遺跡とパンツ」[ここち](2010/07/19 14:03)
[30] 第二十八話「補正とお土産」[ここち](2011/02/04 20:44)
[31] 第二十九話「京の都と大鬼神」[ここち](2013/09/21 14:28)
[32] 第三十話「新たなトリップと救済計画」[ここち](2010/08/27 11:36)
[33] 第三十一話「装甲教師と鉄仮面生徒」[ここち](2010/09/03 19:22)
[34] 第三十二話「現状確認と超善行」[ここち](2010/09/25 09:51)
[35] 第三十三話「早朝電波とがっかりレース」[ここち](2010/09/25 11:06)
[36] 第三十四話「蜘蛛の御尻と魔改造」[ここち](2011/02/04 21:28)
[37] 第三十五話「救済と善悪相殺」[ここち](2010/10/22 11:14)
[38] 第三十六話「古本屋の邪神と長旅の始まり」[ここち](2010/11/18 05:27)
[39] 第三十七話「大混沌時代と大学生」[ここち](2012/12/08 21:22)
[40] 第三十八話「鉄屑の人形と未到達の英雄」[ここち](2011/01/23 15:38)
[41] 第三十九話「ドーナツ屋と魔導書」[ここち](2012/12/08 21:22)
[42] 第四十話「魔を断ちきれない剣と南極大決戦」[ここち](2012/12/08 21:25)
[43] 第四十一話「初逆行と既読スキップ」[ここち](2011/01/21 01:00)
[44] 第四十二話「研究と停滞」[ここち](2011/02/04 23:48)
[45] 第四十三話「息抜きと非生産的な日常」[ここち](2012/12/08 21:25)
[46] 第四十四話「機械の神と地球が燃え尽きる日」[ここち](2011/03/04 01:14)
[47] 第四十五話「続くループと増える回数」[ここち](2012/12/08 21:26)
[48] 第四十六話「拾い者と外来者」[ここち](2012/12/08 21:27)
[49] 第四十七話「居候と一週間」[ここち](2011/04/19 20:16)
[50] 第四十八話「暴君と新しい日常」[ここち](2013/09/21 14:30)
[51] 第四十九話「日ノ本と臍魔術師」[ここち](2011/05/18 22:20)
[52] 第五十話「大導師とはじめて物語」[ここち](2011/06/04 12:39)
[53] 第五十一話「入社と足踏みな時間」[ここち](2012/12/08 21:29)
[54] 第五十二話「策謀と姉弟ポーカー」[ここち](2012/12/08 21:31)
[55] 第五十三話「恋慕と凌辱」[ここち](2012/12/08 21:31)
[56] 第五十四話「進化と馴れ」[ここち](2011/07/31 02:35)
[57] 第五十五話「看病と休業」[ここち](2011/07/30 09:05)
[58] 第五十六話「ラーメンと風神少女」[ここち](2012/12/08 21:33)
[59] 第五十七話「空腹と後輩」[ここち](2012/12/08 21:35)
[60] 第五十八話「カバディと栄養」[ここち](2012/12/08 21:36)
[61] 第五十九話「女学生と魔導書」[ここち](2012/12/08 21:37)
[62] 第六十話「定期収入と修行」[ここち](2011/10/30 00:25)
[63] 第六十一話「蜘蛛男と作為的ご都合主義」[ここち](2012/12/08 21:39)
[64] 第六十二話「ゼリー祭りと蝙蝠野郎」[ここち](2011/11/18 01:17)
[65] 第六十三話「二刀流と恥女」[ここち](2012/12/08 21:41)
[66] 第六十四話「リゾートと酔っ払い」[ここち](2011/12/29 04:21)
[67] 第六十五話「デートと八百長」[ここち](2012/01/19 22:39)
[68] 第六十六話「メランコリックとステージエフェクト」[ここち](2012/03/25 10:11)
[69] 第六十七話「説得と迎撃」[ここち](2012/04/17 22:19)
[70] 第六十八話「さよならとおやすみ」[ここち](2013/09/21 14:32)
[71] 第六十九話「パーティーと急変」[ここち](2013/09/21 14:33)
[72] 第七十話「見えない混沌とそこにある混沌」[ここち](2012/05/26 23:24)
[73] 第七十一話「邪神と裏切り」[ここち](2012/06/23 05:36)
[74] 第七十二話「地球誕生と海産邪神上陸」[ここち](2012/08/15 02:52)
[75] 第七十三話「古代地球史と狩猟生活」[ここち](2012/09/06 23:07)
[76] 第七十四話「覇道鋼造と空打ちマッチポンプ」[ここち](2012/09/27 00:11)
[77] 第七十五話「内心の疑問と自己完結」[ここち](2012/10/29 19:42)
[78] 第七十六話「告白とわたしとあなたの関係性」[ここち](2012/10/29 19:51)
[79] 第七十七話「馴染みのあなたとわたしの故郷」[ここち](2012/11/05 03:02)
[80] 四方山話「転生と拳法と育てゲー」[ここち](2012/12/20 02:07)
[81] 第七十八話「模型と正しい科学技術」[ここち](2012/12/20 02:10)
[82] 第七十九話「基礎学習と仮想敵」[ここち](2013/02/17 09:37)
[83] 第八十話「目覚めの兆しと遭遇戦」[ここち](2013/02/17 11:09)
[84] 第八十一話「押し付けの好意と真の異能」[ここち](2013/05/06 03:59)
[85] 第八十二話「結婚式と恋愛の才能」[ここち](2013/06/20 02:26)
[86] 第八十三話「改竄強化と後悔の先の道」[ここち](2013/09/21 14:40)
[87] 第八十四話「真のスペシャルとおとめ座の流星」[ここち](2014/02/27 03:09)
[88] 第八十五話「先を行く者と未来の話」[ここち](2015/10/31 04:50)
[89] 第八十六話「新たな地平とそれでも続く小旅行」[ここち](2016/12/06 23:57)
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[14434] 第二十話「操り人形と準備期間」
Name: ここち◆92520f4f ID:6de610de 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/05/24 01:13
……………………

…………

……

歪んだ空間が次第に元の姿を取り戻し、元の地形すら思い出せない程に破壊されたオーブの姿が露わになる。
歪みが生まれる前との違いは、ラフトクランズとボウライダーが共に姿を消した事。
異次元追放攻撃。
古い時代にフューリー達が禁じ手として自ら封じ、そしてその記録を見たアル=ヴァンがボウライダーと鳴無卓也を打倒する為に、ガウ=ラ・フューリアに残されていた記録を解析し現代に復活させた。
周囲の空間ごと異次元へと放逐する為、発動までに範囲外に逃げなければ回避も防御も全く意味を成さないこの攻撃により、遂にフューリー側の狙い通りにボウライダーと鳴無卓也はこの世界から消滅したのだ。

残っていた数十機の従士機と数機のヴォルレント、それを束ねる白いラフトクランズが、空に浮かぶ黒い戦闘機──スケールライダーへ向け武器を構える。
黒い戦闘機も確かに強敵ではある。あの白い人型と似たような性質を備えてもいるのだろう。
だが、勝てない相手ではない。残っていたフューリーはそう踏んでいた。
白い機体程のプレッシャーを感じない。何より、あの黒い戦闘機はサイトロンの運んできた未来には出てこなかった。

「これで詰み、ね。貴女一人でどこまで持ちこたえる事ができるかしら」

フー=ルーが口の端を釣り上げた攻撃的な笑みで告げる。
白い機体程の脅威は無いにせよ、この状況で始末しておくに越したことは無い。白い機体程では無いが、この黒い戦闘機にも数多くの同胞を殺されている。
騎士級の腕と機体でなければ相手をするのも難しい強敵であることは間違いないのだ。合流されて態勢を立て直されては面倒な事になる。
此方は才のある従士を、更に騎士に届く寸前の準騎士の殆ど、更には騎士の中では最も強かったアル=ヴァンすら殺されて戦力的にも大損害を受けている。
目の前の黒い戦闘機を落としても釣り合いが取れるかどうか。既にフー=ルーの頭の中では次の戦い、ナデシコ本隊とラースエイレムキャンセラー搭載機との戦いの為の戦力計算を行っていた。

『一人ぃ? ひひひっ、おもしれぇ冗談じゃねぇかよこの漢女』

黒い戦闘機のパイロットからの返答。
まだ幼い少女の、鈴が転がるような涼やかで可憐な声。しかしその口調は荒々しく、声の印象とはまるで合っていない。
虚勢を張っている。と考えるのが自然だろう。
残った従士機もヴォルレントもギリギリまでチューンを施した特別仕様。短期決戦向けで継戦能力こそ低いが、今まで少女が落としてきた同胞たちの機体とは比べようも無い程の性能を誇り、乗っている従士や準騎士もあの最初の誘導兵器を回避できるほどの腕前を誇っているのだ。
それはあのパイロットの少女も理解している筈だ。少なくとも戦っている相手の力量を見誤るほど戦馴れしていないとは思え無い。
だが、その少女の声は自信と確信に満ちていた。いや、こちらを見下し、嘲っているというのが正しい表現か。

「面白い冗談、というのは、どういう意味かしら。今だにほぼ無傷の熟練が数十機に、私も居る。対する其方は貴女一人。この戦力差を覆せるとでも?」

『……テメェよぉ、あたしの話聞いてたかぁ? 誰がぁ、何時、戦力差だの勝ち負けだのの話をしたっつうんでございますかぁ?』

そうだ。確かにそんな事は言っていない。だが、そこで無いとするならば、一体何が『面白い冗談』なのか。
疑問に思いつつ、黒い戦闘機を確実に落とす作戦を頭の中で組み立て始めるフー=ルーは、ラフトクランズのセンサーが外部の空間に不審な歪みを検出している事に気付いた。
フー=ルーの駆る騎士機ラフトクランズは射撃戦を重視したチューニングが行われており、その為に他の二機、アル=ヴァン機やジュア=ム機とは一線を画した索敵性能を誇っている。
転位と射撃を織り交ぜた戦いを好むフー=ルーのラフトクランズは、射撃の命中精度を上げる為に、全てにおいて他の機体を上回る騎士機の中でも更に上位のセンサー類を備えているのだ。
そのセンサーが、空間の揺らぎを感知している。
先ほどの異次元追放攻撃の時に発生した歪みと似た反応。しかし、今感知している空間の揺らぎは暴走によって引き起こされたそれとはまるで違う。
完全に制御された、例えるならば自分達がガウ=ラから出撃する際に用いる為の超空間ゲート『軍団の門』の発動にも似た無駄の無い歪み。
丁度、機動兵器一機が通れるゲートが作られる時と同じような反応。

『一人、一人ねぇ。ほんとにさ、おもしれぇよアンタら』

いや、まさかそんな筈がない。唯同じ世界の違う時間に飛ばされた、というのではないのだ。
転位先は完全ランダム、当然だ、ラースエイレムの時間、空間制御を暴走させて放り出しているのだから行先を指定できる筈もない。
しかも飛ばされる先の種類は文字通り無限にある。無限に連なる平行世界、完全に物理法則を違えた異世界。数えきれない数の世界から、この世界へと再び降り立つことなど不可能な筈。
例え世界の壁を乗り越える力があったとしても、ピンポイントでこの世界にやってくることなど──

『あの程度の攻撃で、お兄さんを殺せたと、勘違いできるんだからよ』

ありえないことが、起こる。
空間が裂け、フューリーの機動兵器を鷲掴みに出来るほど巨大な鉤爪が、その裂け目を力尽くでこじ開けている。
空間に走った亀裂の向こう、未だこちらに身を乗り出す途中の白い機体が、空間の裂け目からこちらを覗いている。
白い機体のその機械の眼差しが、フー=ルーにはまるで、獲物を見つけてほくそ笑む猟師の瞳に見えた。

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

月内部、ガウ=ラ・フューリア、特別格納庫。
フューリー同士の内紛が始まる前、このガウ=ラが星間戦争の旗艦として戦っていた頃にはズィー=ガディンのみならず、対となる皇后機や、専属の騎士の為の専用機が置かれていたらしい。
だが、それが何だと言うのだろう。フー=ルーはその文字上の情報に、全く興味を抱けなかった。内粉に負け、逃げるように故郷の星系を去った今では、それらは影も形も存在しない。
存在しないということは、戦って完全に戦場で大破したか、それとも敵軍に奪われたか。どちらにせよ、今の自分たちの戦力としてカウントする事は出来ない。

いや、そうではない。それは騎士であった頃の理由だ。
今はどちらかと言えば、そのようなものが存在したからといって、自分が乗りこむ訳では無いので知った事では無い、というのが正解のような気がする。
自分は騎士の時も騎士を捨てた今も、血みどろの戦にしか興味を抱けないような純粋な武人、いや、戦人だ。
そのような血生臭い人間が皇帝の直属部隊、親衛隊のような坊ちゃん嬢ちゃんの集まりに混じれる筈も無いし、混ざりたいとも思えない。
それに、華やかな装飾の施された高級な玩具じみた機体で戦場に出るのは、なんとも薄気味の悪い話ではないか。実際の性能がどうであれ、だ。
綺麗なものや可愛いものが悪いと言っている訳では無い。ぬいぐるみは大好きだし、それなりに見られる可愛らしい私服の類も所持してはいる。今自分に指示を出している少女も中々の愛らしさだろう。
だがそれは戦場に持ち込むべきでは無いのだ。物には相応しい使いどきというものがある。
もっとこう、部屋で寛ぐ時にベッドの上で抱きしめてスリスリして愛でたり、こっそりと部屋で着て鏡の前でポーズの練習をする時に用いるべきであり──

話が逸れた。少し話題を巻き戻すとする。
内粉で負けた自分たちはほうほうのていで故郷の星系から逃げ出した訳で、この特別格納庫に皇帝機が収まっていただけでも幸運なのだ。
なのだが、その特別格納庫には今現在多くのガラクタが転がっている。
表面の細胞が壊死を始めているデビルガンダム、ラダムに侵蝕された宇宙開発最初期のコロニーの基部、半ば以上潰れたMFの残骸。
皇帝機がある程度の大きさを備えている為この格納庫もかなりの広さを誇っている筈なのだが、今では物を詰め込み過ぎて狭苦しく感じるほど。
ガラクタ以外にも多くの地球製の機体が転がっている。
地球の傭兵の間で最も広く普及しているAS、軍が多く所持しているMS、テッカマンを解析して作られたのだと言うソルテッカマン。
一部塗装の行われていない地金の色が剥き出しの兵器は恐らくどこからか持ち込んだ(盗み出した?)試作機だろう。
そんな乱雑に積み込まれたガラクタや兵器の隙間を、銀色のディマリウム合金製の甲殻に覆われたラダム獣が数体、忙しなく行き来している。

それらの共通点は、いずれも強大な力を秘めたものであるということ。これらはすべて、今現在のガウ=ラの支配者の力として取り込まれる運命にあるのだとか。
フー=ルーは効率的な話だと感心していた。
ラースエイレムを封じられた自分たちは、この地球という星の機動兵器群とは互角程度の戦いしか行えない。
これはとりもなおさず、未だ一つの惑星系から出る事も出来ていない未熟な文明、地球の機動兵器が、フューリーの機動兵器に劣らない戦力を備えているという事に他ならない。
受けた指示の通り、連合軍のエースと呼ばれる戦士達と戦い、その技量の高さを体感したフー=ルーはその身をもって実感していた。
この星に生まれた自分たちの子供は、恐ろしい程に戦闘や戦争に対して高い適正を見せている。ほんの少しのとっかかりさえあれば直ぐに新しい兵器を作り、それに対応した戦い方を思いつく。

戦闘好適種。それが地球人なのだ。その兵器やテクノロジーを参考にしない手はない。
そんな存在を相手にしているというのに、自分達は元から持っていた技術に固執し、地球の技術取り込みに熱心では無かった。
ラースエイレムさえあればどうにでもなる、という考えがあったせいで内粉に負けたというのに、全く反省できていない。
それが、この遠い星に流れ着いた末に『フューリーが滅んだ理由』なのだろう。
正確な数は聞いていないが、あの少女とその主の言によれば生き残りは極僅か、おそらく数にして良くて一桁、悪くて一人だけ、ということになる。
そうなれば後は地球人に混じって血を薄くし続けて行き、フューリーという種族の痕跡は消え去る。絶滅危惧種として保護されたりする可能性もあるだろうか。どちらにせよ碌な事にはならない。

「なんとも、つまらないオチが付いてしまいましたわね」

「いやいや、故郷から逃げ出した連中にとってみれば分相応のオチだったと思うよ? ん?」

高い位置から少女の声。
見上げれば、実験体と共に盗み出されたベルゼルートと共に作成されていたもう一つの機体、その肩の上に寝そべりこちらを見下ろしている少女の姿が。
サイトロン適合実験用試作機『クストウェル』、地球人のサイトロンへの適応実験を行う際にバリエーションを増やす為にアシュアリークロイツェル社で作成され、しかし未完成のまま放置されていた機体。
脱出した実験体の少女たちの機体にラースエイレムキャンセラーが搭載されていたことから考えて、あの機能を組み込む機体の候補の一つだったのだろう。
それが今、全身の装甲を剥がされ、骨組同然の姿を晒している。

「あら、それは大事な部品が足りなくて動かない筈ですけれど」

だがその不完全な機動兵器の足もとに、銀色のラダム獣が何度も何度も装甲板や用途不明の機械群を運びこんでいる。
別段特別な素材を使っている訳でもない。いや、寧ろあの少女やその主が使っている機体に比べれば、性能面では余程現実的でまともな物になりそうな予感がする。
改修作業を行っている真っ最中ということなのだろうが、今更あんな機体を修復してどうするつもりなのか。

「だねー。でもまぁ中身はほとんど作り替えてるし、もしもの時を考えればこの機体で出してあげるのが一番ドラマティックかなって」

『出してあげる』
つまりこの機体に乗って出る、もしもの時の切り札が居るという事なのだが……。
いや、そこは自分が気にするべき所では無い。取り敢えずは戦いの結果と、偵察結果の報告をしておくべきだろう。

「そうそう、貴女と貴女の主の命令、『各地のエースパイロットの死体を持ち帰る』は残念だけど果たせませんでしたわ」

勝負自体、乱戦のなかでどさくさにまぎれてといった場合が多かった為、途中で横やりが入り勝敗を決するところまで戦いを続ける事が出来なかったのだ。
無論、最後まで戦えていれば勝つ自信はあったが。

「果たせなかったとか、なんでそんなに胸張って言えるかなぁ」

「私に求められているのは戦うことでしょう? 正直、それ以外は自分でもどうでもいいと思えてしまうから仕方がないわ」

こういう命令を下すなら、騎士のままとか、命令には絶対服従するよう脳を改造しておくなりしておけばよかったのだ。
それにしてもあのMS乗り、荒々しくも精妙な太刀捌きは忘れられない! こちらの動きに尽く対応してみせるあの腕前は、ラースエイレムを使っていたら味わう事が出来なかっただろう。
ガンポッド使いも素晴らしかった。一人を相手にしている筈なのに、完全に統率のとれた軍団を相手にしているかのようなプレッシャー! 死角に回り込んだと思ったら自分の死角から攻撃を受けたあの衝撃!

「会話中にトリップすんな! はぁ……、まぁいいや。それで? ナデシコの方は何か面白そうなもんあった?」

ああいけない、報告の途中なのによだれが。気を取り直して報告を再開する。

「そうね、特に変わった点は無かったけど、しいて挙げるならベルゼルートが二機稼働していたわ」

「ベルゼルートが、二機? へぇ……」

何かを愉快がるような声色。心当たりがあるのか、それとも未知の存在に対する好奇心か。

「いいね。面白くなりそうだ。あんたもそう踏んでるんだろ?」

「無論」

間を置かず切り返す。あのパイロットは伸びる。貪欲に敵の命を喰らい、こちらの喉元に喰らい付いてこれる程の力を手に入れるだろう。
剥き出しの臓腑を晒す巨人の骸を見上げながら、フー=ルーは戦いの予感に身を震わせた。

―――――――――――――――――――

雑多に物が積み込まれた格納庫内部、改造中のクストウェルの肩の上で、やはり少女が何者かと会話している。

「今の話聞いてた? 古いベルゼルート、しかも魔改造機に誰か乗ってるって、気にならない?」

返答を待ち、その返答を聞いた少女が眉根を寄せ顔を顰める。

「だろうねぇ、整理出来たのは元の世界から持ってきた荷物と、こっちで買ったお土産くらいだし。放置してたジャンクでもそれぐらいは出来ると思うよ」

会話を続ける少女の後ろで、殆どの細胞が壊死したはずのデビルガンダムがビクリと蠢く。
一定のリズムを持ったその動きは、まるで生き物が生まれる瞬間、卵を内側から破ろうと雛がもがいているかのよう。

「うん、そうなると誰が乗ってるかってのも、想像は付くよね」

少女が、薄く笑う。美しく、残酷で、酷薄な微笑み。
その微笑に反応するかの如く、デビルガンダムの骸を突き破り、一本の腕が突き出る。
楕円の球体を無理やり分解したような、大型の五本指のマニピュレーター。薄緑色の装甲に覆われたその手指は、どういった技術を用いているのか、何らかのフィールドにより高出力のビームを歪な剣状に纏め上げている。
溶断破砕マニピュレーターと呼ばれるその武装を持って、自らを包む親の死骸を引き裂いたのだ。

「いいじゃん、それだけ想われてたってことで。ドラマティックになるぜぇ?」

その金属が引き裂かれ溶かされる音を聞きちらりと脇目に収めながら、それでも少女は十数メートルも離れていない場所で起こっている異常事態を意に介していないかの如く会話を続ける。
デビルガンダムの骸から突き出た腕が、子供が癇癪を起したかのように振り回される。
生体コアとなるパイロットを求めている。
それは本来、地球環境の改善の為に出す予定だった新しい結論、
『人類を奴隷化し、地球環境改善の為に働かせる』
というプログラムの名残りが、自分に都合の良い生体コアを求めさせているが故の行動。

そして、目の前に生体コアに最適な人間を見つけた。
未完成の機動兵器の肩に乗った、歳若い少女。
デビルガンダムに連なる機体に最も相性の良い、命を生み出す機能を備えた『女』という区分のパーツ。
そのパーツを見つけると同時、デビルガンダムの死骸を溶かし崩しながら、MSに似た上半身をさらけ出し、食い入るように少女に顔を近づける。
頭部がぐちゃりと割れ、その隙間から無数の機械ケーブルにも似た触手が吐き出された。相手の意思を無視し、強制的にコアとして取り込もうとしているのだ。
しかしその触手が目前に迫っても、少女は虚空を見つめての会話を止めようとせず、逃げるそぶりも見せない。

「うん、そう。だからさ、次はあたしが出るわ。丁度──」

触手が少女に絡みつき、生体コアとする為に融合を開始した瞬間──

「いい木偶人形が出来上がったから」

デビルガンダムから生まれた、デビルガンダムJr.と呼ばれる筈だった存在は、その機能を完全に掌握された。
デビルガンダムJr.が最後に見た光景は、自分を見下す黒い髪の少女の嘲笑だった。

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

地球衛星軌道上、宇宙へ向けて旅立とうとしていたオルファンを、メルア・メルナ・メイアはベルゼルートのコックピットの中から眺めていた。
体は疲労で鉛のように重く、レバーを握る手は痺れ、戦闘直後の興奮で頭から熱も抜け切っていない。
だが光輝くオルファンの威容は、オーブを脱出して以来張りつめ続けていたメルアの心に、ほんの少しの温かみを取り戻させていた。

「ね? こういうやり方も悪くないでしょ?」

「そう、ですね……」

改造前はサブパイロット用の複座があったスペースに乗り込んだテニア(ベルゼルート・ブリガンディのコックピットに三人は多い、という建前での割り振りだが、おそらく統夜とカティアが二人きりになる為の言い訳だろうとメルアは考えている)が、自分のアイディアであるかの如く得意満面で言い放つのを、メルアはぼんやりと聞き流す。

機動兵器同士で手を繋いで人間の繋がりを表現し、オルファンの生き物としての思考に訴える。
ファンタジックな話だと思った。言葉が通じて、姿形に殆ど差が無いような敵兵とは殺し合わなければいけないのに、あんな生き物かどうかも怪しい山のようなものを、そんなことで説得できるなんて、と。
正直に言えば、はっきりと馬鹿にしていた。
失敗する事を前提に、オルファンも吹き飛ばせそうな量のフェルミオンミサイル(予めフリーマン氏がオルファンへの保険として作らせていたもので、ソルテッカマンのフェルミオン・カートリッジを改造して作られているらしい)を用意してこっそり搭載してもらってもいた。

だけど、実際はどうだろう。
オルファンは宇宙への飛翔を止め、その場に留まって地球を見守るのだとか。
自分たちだけでは無く、地上でも多くの人々が手を繋いでいるのだろう事はメルアにも予想が付いた。
オルファンが原因で起こる異常気象や天変地異は地球上各地で問題になっている。
この飛翔など、いくら情報規制を敷いたところで世界中から丸見え、それに合わせてラジオやテレビなどで協力を要請してもいるのだろう。
世界中の人々が手をつなぎ合い、オルファンに人間の事を伝え、オルファンは地球人類の温もりを知り、オーガニックエナジーを吸い取るのを中止した。
災害で地上に死を齎すものと認識されていた物は、実は話合いで分かりあえる愛すべき隣人だった。
敵も味方も無く、仲互いしていた姉弟や親子の絆も戻り、文句なしの大団円。

「ふふ、ふふふふふ、くふっ」

息を漏らすように、咽喉を鳴らすようにメルアは嗤った。
もともとメルアは天然でポヤポヤしているようなイメージを持たれがちではあったが、その実、根っこの部分では徹底的な現実主義であり、物事をしっかりと見据える誠実さを備えていた。
だからこそ、このハッピーエンドを嗤う。身の内に湧き上がる温もりを受け入れない。

「ど、どうしたのさ、いきなり笑いだして」

「んーん、何でもないですよ。ふふっ」

突然笑い出したメルアに戸惑うテニアの疑問を適当に誤魔化しながら、メルアは自分が連像のゴツゴツしたつくりのヘルメットを被っていることに感謝した。
仮にこのヘルメットが無かったら、多分とても酷い表情を晒すことになっていただろうから。
メルア自信、自分がまともな表情をしている筈がないと確信しており、事実、その表情は形容しがたい不可思議な表情だった。
皮肉るような、嘲るような、笑うような、泣く寸前のような歪な表情。

(13機、撃墜しました)

今回の出撃での、メルアの敵機撃墜数だ。
前回までの出撃での撃墜数と合わせれば撃墜数はすでに三桁に迫ろうとしている。
メガブースター二つと超高性能電子頭脳を無理矢理に搭載し、血の滲むような訓練を重ねたとはいえ、訓練を開始してから間もないパイロットとしてみれば破格の撃墜数。

敵を打倒したという証。
つまりは人を殺した証。
手を繋ぎ分かり合えるかも知れなかった、愛すべき隣人を、その命を食いつぶしたという証明。
戦闘直後、シャワーを浴びる間もない再出撃でこんな事をしているのだ。この手には、しっかりと人を殺した感触が残っている。
機体越しでも十分過ぎる程生々しい感触。
ショートランチャーで釣瓶打ちにしてやったグランチャーは、手足を吹き飛ばされたがどうにかこうにか逃げ出そうとしていたので、オルゴンライフルでコックピットを撃ち抜いた。
オルゴンライフルの低出力弾を避けきり接近してきたグランチャーを、マジンカイザーの修理用資材の余りで作ったナックルガードで滅多打ちにして、脱出する間もなく圧殺した。
戦闘獣とかいう化け物も、オルゴンライフルを接射して削った装甲にエネルギーブレードを突き刺し、心臓部を破壊した。

それだけじゃ無い。その前の連合とザフトとの戦闘での事もはっきりと覚えている。
核兵器を撃墜した。まっすぐ飛んでくる相手なんてただの的だ。
そしてその次、核兵器を搭載したメビウス。これも頭の悪いパイロットが乗っていたからか、碌な回避行動をしようとしなかった。
核ミサイルの迎撃中にこちらに突っかかってきたザフトのMSが邪魔だったので、変な遺恨を残さないように、手足とメインカメラ、ブースターをガンジャールから移植したクローで握り潰し刺し潰し、生かしたまま適当な方向に蹴り飛ばしてやった。
回収されていれば多分生きていると思う。戦闘終了と共に生き残り連中はまっすぐプラントに引っ込んでいったけど、そこは別にどうでもいい。

だけど、それほどの戦果をあげているメルアですら、この部隊の中では撃墜数が多い方にはカウントされない。
カイザー、グレートのマジンガー組みは言わずもがな、超電磁組にミスリルの三人は連携で見事に撃墜数を稼いでいるし、B・ブリガンディの統夜に至っては、鳴無兄妹が抜けた穴を埋めるかの如く撃墜数で部隊トップに立っている。

それほどに、人殺しをしている。
意見の合わない者を、話合いでどうにもならない敵を、話を聞かない敵を、容赦なく撃墜、殺しているのだ。
人が乗っていない無人兵器もあっただろう。話し合い以前の本物の化け物もいただろう。コックピットを避けて戦闘不能にした事もあるだろう。
だが、結局は殺している。負けた者を封殺している。勝って意見を通している。

『見えた! ネリーブレンだわ!』

『お姉さんも一緒だそうです!』

正しいから勝ったわけでは無く、自分達が相手より強く、勝ったから自分達が正しくなった。ただそれだけの話。
直前に、今和解した相手の仲間を片端から殺し、そうして手に入れた、血塗れの大団円。
それを手にした喜びに、テニアがはしゃぐ。

「やったね!」

「うん。本当によかったです」

だが、それをメルアは気に病んでいる訳では無い。
歪だった表情は、もはや満面の笑顔に塗りつぶされている。清々しいまでの、『喜』の感情に溢れている。
唇の端を吊り上げ、眼は細められた満足げな表情。

「つまり、勝ち続ければいいんですよね」

ぼそりと、ヘルメットに内蔵されたマイクでも拾えないような微かな、しかし確信に満ちた呟き。
殺して、殺して、殺しつくして、敵を根絶やしにして、最後に勝っていれば正しい。
衛星軌道上、オルファンの向こうに見える月を眺め、メルアは舌で唇を舐めた。

(もうすぐ、もうすぐです、もうすぐにでも、もうすぐに)

奴らを、根絶やしにする時が来る。鳴無卓也の仇を討つ時が。

(だから卓也さん、待っていてくださいね? プレゼントを、持っていきますから。あの人たちの、命を)

メルア・メルナ・メイアは、その恋を継続している。

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

「うむ、めでたしめでたし。ハッピーエンドはやはり美しい」

よかったよかった。何はともあれ伊佐美姉弟はこれで綺麗に仲直り。高性能な合体攻撃まで覚えて戦力増強。
先の展開を知っているとはいえ、バロンズゥにリバイバルする場面は冷や汗ものだった。最初に花畑でフラグへし折ってなければあそこでブレンにリバイバルしてたよなぁ。
いや、フラグへし折って無ければそもそももっと早くに仲直りしていた訳か。
やっぱ駄目だな勇、ネリーさんを生贄に多少成長はしたみたいだが、姉の居る弟としてはギリギリ及第点をあげられるかどうかという処だろう。
そんなことをつらつらと考えながら、隣で同じくモニターを眺めていた女性に声をかける。

「そうは思いませんか? シャナ=ミアさん」

「……貴方はいったい、何を企んでいるのです」

穏やかな、というよりも悲しげな表情を浮かべた儚げなイメージの強い人ではあるが、今現在はこちらを気丈にも睨みつけてきている。
こういう表情もできるのだなと感心してしまう。ああでも当然か、生きてるんだから怒りもすれば笑いもする。当たり前の話だ。
自室で地球人に届かない無意味な自己マン懺悔していたら何時の間にか母艦を乗っ取られていました、なんてなったら怒らない方がおかしい。
いや正直な話、乗っ取った側からすれば面白いジョークでしかないが。

「いやなに、融合と取り込みが終わったから、時間潰しとしてナデシコとアークエンジェルの観察を」

みんな立派になって、るよな? 別れてから結構たってるからいまいち分からん。前もこんな感じだったか?
だがまぁ資金や資材は潤沢な筈だからバロンズゥもちゃんと強化できる筈だし、次の戦場で早速伊佐美姉弟の合体攻撃が見れるかもしれん。
元の世界で見直せるように、とりあえずテレビは向こうのHD録画対応の奴を使っているが、音声はどうしようも無い。
いっそジルトーシュ氏に習って適当にこっちで編集するべきか……?

「…………」

全力でこちらを憎んでいる筈なのだが、元の顔の作りが泣き顔に近いのか、こちらを睨みつけるシャナ=ミアさんの視線はいまいち怖くない。
こういう時は整った顔の女性の方が怖い表情を作れると聞いたことがあるが、この人は例外に分類されるのかもしれない。
とはいえからかい過ぎた。この人にもそろそろ一働きして貰う訳だし、多少説明はしてあげよう。自覚したからと言ってどうにかなるものでも無いが。

「あの部隊に、貴女の幼馴染が居る事はご存じですね? 貴女にはまぁ、メッセンジャーにでもなって貰おうかな、と」

手紙とか招待状と言い換えても良いが、そこまでこの皇女様の神経を逆撫でする必要も無いだろう。
フューリーを統べる皇族であるシャナ=ミア・エテルナ・フューラは、機動兵器のパイロット適正こそ高くないが、単体での短距離ワープが可能であったりテレパシーが使えたりとサイトロンエナジーへの適性自体はとても高い。
本来ならば俺がどうこう言いだす前にとっくに助けを求めていてもおかしくは無いのだが、今現在融合強化されたガウ=ラの機能により、一時的に外部への思念波の送信を遮断している。
ここに来る前にこのフューリーの大本営に待ち構えているのが誰かばらされたら、あまりにも面白くない。
面白くないが、メッセンジャーとして送り込むにしても、統夜の方から一度シャナ=ミアさんにサイトロンを使った呼びかけが行われなければならない。
幸いにして、これからジェネシス攻略で更に数日かかる。向こうからの呼びかけができる余裕が生まれるのはその後。
その間に少しばかり、俺の事を言いふらせない様に脳に多少細工を施すとしよう。

「……あの方たちを呼ぶおつもりですか、このガウ=ラへ」

「シャナ=ミアさんも呼ぶつもりだったんでしょう? ていうか毎日毎晩統夜にSOSを発信しているじゃあないですか。ああ惚ける必要はありませんよ。このガウ=ラ内部でのサイトロンを用いた行動はすべて把握しておりますので」

我ながら少し遊び過ぎかとも思うが、つい先日まで馬鹿みたいに真面目にやってきたのだし、最後の最後、クライマックス位は面白おかしく派手にやってみても罰は当たらないだろう。
姉さんが言っていた、『どうせ利用するなら最後まで、搾りとれるモノがある内は徹底的に搾りとるのが正道』だと。
俺自身、発つ鳥跡を濁さずという言葉よりは、後は野となれ山となれという言葉の方が好きなのだ。
貰える力は全て貰えたし、最後に今までの道程で出来なかった事をやらせてもらおう。

そんな事を考えつつ、モニタを見ながらフォークで突いていた苺のミルフィーユを、丁寧に丁寧に積み重ねられたパイ生地とクリームと苺の層を、呆気なくナイフでざっくりと崩す。
横に倒してからじゃないと崩れるとか無粋な事を口走ってはいけない。こういう無闇に手間がかかっているお菓子は、暴力的なまでに粗雑で荒々しく、手間のかかった部分を破壊しながら食べるのが最高に贅沢なのだ。
時間と手間の結晶であるそれらを破壊するカタルシスたるや、まさに天にも昇るような心地であることは間違いない。
まぁ、だからと言って俺は春巻きを手づかみでむしゃむしゃ食べて『ひさしぶりの飯だぜ』とかやる14歳ど真ん中ストレート病に罹っている訳ではない。
粗雑に食うとは言っても、それはある種のお約束的な部分は守るべきだろう。食事時にふざけてはいけないなんてのは当たり前の話だ。農家サイドの人間としてもナンセンス。
ふざけて食べるのと、荒々しく食べるのでは訳が違う。
むしろこういった暴力や粗雑さ、荒々しさにはそれを取り扱うある種の礼儀のようなものが必要となる。

「あ、貴方は、あの方達と戦うつもりなのですか!?」

「貴女も、あいつらで俺を倒そうと考えているのでしょう?」

切り崩され無残に拉げたパイ生地とクリームと苺を順にフォークに突き刺し、纏めて口に運ぶ。
歯に嬉しいサクサクと軽やかな音を立てるパイ生地、カスタードクリームもくど過ぎず甘すぎず、苺も新鮮で酸味があり爽やかさを与えてくれる。
余りの美味さに人間への擬態機能が齎す疑似脳内麻薬でトリップしてしまいそうだ。
ああ、この至福の時よ……!

「……貴方は、最低の人間です」

「事ここに至って、まだ俺が善人である可能性を信じていたのなら、貴女の頭も大概ですよね」

口の中の余韻をじっくりと楽しんだ後、お茶(紅茶ではなく緑茶、おやつが洋菓子だろうとこれだけは譲れない)を啜り口の中をリセットする。
さて、この人の頭を弄るなら何方式が最適か。不自然無く、それでいて万が一ばれてもナデシコでもアークエンジェルでも、連合の基地に戻っても治療が出来ない奴がいい。
そんな無茶な条件で絞り込もうにも選択肢が狭まらない。我ながら成長したものだ、こっちに来てすぐの頃ならそんなに選択肢は無かったろうに。

此方の邪悪な思考を感じ取ったのか、シャナ=ミアさんが後退りしながら身構える。
逃げだせる状況では無い事は本人が一番知っているだろうが、それでも抵抗は止めないらしい。怯え惑い許しを請うでもなく、此方の瞳を真っ直ぐに見据えている。
素晴らしい度胸だ、感動的だな。だが無意味だ。

「統夜は、貴方の事を、尊敬していました」

……へぇ。

「一方的に呼びかけるだけじゃなくて、そういう使い方もあるのか」

感心しながら、後退りするシャナ=ミアさんの周囲の空間を念動力の応用で固め、逃げ場を奪う。
フー=ルーとアル=ヴァン達がやってのけた時空流離もどきも面白い使い方だったが、サイトロンというのは中々に幅広い応用法があるらしい。
良く良く考えてみれば、適合率が高ければ単独で戦艦二隻をワープさせる事ができるのだから、感情や思考の読み取り程度の事はできてもおかしくは無いよな。

「貴方は! ……貴方は本当に、どうとも思って居ないのですね、彼等の事を」

俺の返答に愕然とした表情になったシャナ=ミアさんは、一瞬声を荒げかけ、次いで沈痛な面持ちで小さく呟いた。
念動力で空間ごと縛りあげているせいか、その表情も相まって正しく囚われの御姫様といった様相だ。あの部隊は情の深い連中が多いから、いい感じにこの表情に釣られてくれるだろう。

「まさか。あいつらは最高のチームだったよ」

その最高のチームと、地球圏を守り抜いたヒーローと戦って、これまでに手に入れた力を確認できる。
この上ない喜びだ。
俺は来るべき最終戦への期待に胸を膨らませながら、シャナ=ミアさんの脳改造を開始した。

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

そこからは、一方的な展開だった。
時空の果てからあっさりと戻ってきたお兄さんはまず、フューリーの連中がオルゴンクラウドでその場から逃げるのを妨害した。逃げられて自分達の生存をどこかに漏らされると動きにくくなるからだろう。
オルゴンクラウドの転移の原理はボソンジャンプと似た理論で行われている。
遺跡とのリンクが機械的に誤翻訳無く行われているお兄さんは、前もってこの転位を妨害する為の理論を遺跡に残されたデータをもとに組み立てていたのだ。

高卒で普通科出のお兄さんにそんな事が出来るのか、なんて問いは無意味だ。
お兄さんはナデシコと融合した時に、ナデシコのメインコンピューターを軽く凌駕する演算能力を手に入れたし、ゼオライマーと融合した時点で天才木原マサキの人格、知識を手に入れている。
何のヒントも無い状況ではどうにもならないが、天才木原マサキの頭脳と、解析の為のサンプルであるオルゴンクラウド搭載型のB・ブリガンディ(って付けるかな? 統夜のネーミングセンスが原作からブレていなければ)のデータがある。
これだけ材料が揃っていれば、どうにかならない筈も無い。

そんな訳で見事にフューリーが転位で逃走するのを阻止し、逃げ惑う者も立ち向かう者も容赦なく叩き潰している。
Bブリから取り込んだホーミングレーザーを連射すれば一ターン掛からないのだけど、そこはそれ、今までの鬱憤を晴らす意味合いも兼ねているのだと思う。
今も中途半端に避ける連中を速射砲で誘導して、ある程度固まった所にクローアームの掌に当たる部分を向け──

『弾けろブリタニアぁ!』

いやそいつらブリタニアじゃないし、ていうかお兄さん実はその追加武装それ言いたいが為だけに作ったな?
だけど威力だけは全く遜色無いらしく、まんまと誘導された四機の雑魚が言葉通り破裂した。
これで元はただの電子レンジだってんだからつくづくイカレている。

あたしも最初はそれなりに戦ってたんだけど、お兄さんのボウライダーの動きが今までの自重したものではなくなっている事に気付いてからは手を出していない。
ナデシコのエステバリスも重力制御推進を採用しているけど、今のボウライダーほど理不尽な動きは出来ない。
超音速で衝撃波をまき散らしながら有り得ないほど鋭い角度で方向転換、敵を避けるでもなく激突を繰り返している。
既に構造材も最新のものに切り替えているのか、激突された側であるフューリーの雑魚機は一撃でスクラップと化してしまった。
すれ違いざまに斬り伏せられ、体当たりでクズ鉄にされ、速射砲で蜂の巣にされ、マイクロウェーブでチンされ、爪で引き裂かれ、重力波に押しつぶされ、次々と雑魚が沈んでいく。
味方に気を配る今までの戦いじゃあ出来なかった文字通りの無双を心行くまで楽しんでいる。邪魔をしたら勢いあたしまで巻き添えを喰らいそうだ。赤いラフトクランズも掴んだままだし回避しきる自信は無い。
そんな訳であたしのスケールライダーは既に強化型次元連結システムのちょっとした応用で、プレート回収作戦の時と同じようにずれた空間に逃げ込んでいる。

『泣け! 喚け! そしてぇ──』

お兄さんのテンションが冥王入ってきた辺りでセリフを遮って、爆音。
爆音って表現も可笑しなレベルの、音が消えたかと思うほどの大爆発音、というか大爆発。あたしもお兄さんもフューリーの連中もすっかり忘れていたオーブの自爆だ。
地面を引っぺがされたり大地を引き裂かれたりした癖に自爆装置だけは生きているらしい。
原作だともう少し、マスドライバーが使えなくなる程度の自爆だった気がするんだけど……。
あのままあの空間にスケールライダーでふわふわ飛んでたら、吹き飛ばされて宇宙に脱出中のナデシコとアークエンジェルに追いついちゃいそうな爆発だったなぁ。機体に傷は付かないけどね。

「テッテッテ♪テッテレレッテ♪テッテレレッテ♪テッテッテ♪」

前代表の先走りでオーブ滅亡。そのうち『またアスハか』とかそんなコメントしか出なくなるんだろうなぁ。残った娘さんはあんなんだし。さすが、爆発オチはアスハのお家芸だな! とか言われかねない。
そんな事を考えていると、多少煤けたボウライダーが瓦礫の山を押しのけて姿を現した。通信から不機嫌そうなお兄さんの声が聞こえる。

『そここら、歌うな。お前さ、仮にも俺が巻き込まれたんだから、もう少し心配するなりなんなりすべきだろ?』

とかなんとか言ってはいるが、ボウライダーの装甲も多少黒く煤けてはいるものの、かすり傷一つ存在しないし、あの爆発の爆心地近くに居ながらパイロットのお兄さんも欠片も堪えた風に見えない。

「お兄さんならもうその程度の爆発、生身の非戦闘状態でも無傷で耐えきれると思うよ?」

いやマジで。
さて、転位を封じられた状態であの規模の爆発じゃあ、フューリーの連中は全滅かな。
レーダーの敵性反応をチェック──雑魚機は全滅してる。碌な防御手段も無い量産機じゃああの爆発には耐えられない。
ヴォルレントは辛うじて原形を留めている機体が数機だけあるけど生体反応が無い。中身のパイロットは衝撃でミンチっぽいね。
そうなると、ラフトクランズも望み薄なんだけど、どうだろ?

『待ち、なさい……!』

生きていた。辛うじて。
お兄さんのボウライダーの前に立ちふさがる、傷だらけのラフトクランズ。
あちこちの装甲が拉げ剥がれ落ち、更に右腕は肘の辺りから消失、頭部もメインカメラが生きているかどうかわからない程潰れている。
残った左腕で、これまた銃身の片方がへし折れスパークを繰り返しているソードライフルをボウライダーに向け、間接や装甲の隙間から絶え間なく煙を噴き出している脚を動かしにじり寄る。

『まだ……、まだ私は死んでいない』

一歩、二歩、三歩目を数える前に膝が爆発し、その場に倒れこむ。
しかしラフトクランズは戦意を失わない。顔を上げ、ボウライダーを睨みつけるようにしながら、ソードライフルをボウライダーに向け、引き金を引く。
暴発すらしない。銃口に当たる部分に淡い光が灯りかけ、瞬く間に消えていく。

『私、は。私は、まだ』

だけど、それでもラフトクランズは戦いを続けようと足掻いている。
粒子弾を放てなくなったソードライフルのグリップを動かし、片手で剣のように構えた。
剣の柄から光が溢れ、クリスタル状の刀身を形成する。
そこまでがソードライフルの限界だったらしい。ソードライフルの根元が激しくスパークし、爆発する。
その衝撃で形成した刀身にひびが入り、半ばから砕けた。

『まだ、戦える……』

それでも、そんな事は関係無いと言わんばかりに、ラフトクランズは戦いを続けようとしている。
砕けた刃を握り、残った片腕片脚でボウライダーに這い寄る。
せめて一太刀、などという諦めの混じった甘ったれた感情は感じない。こんな状態でも、お兄さんを倒そうと『本気で』考えている。
ラフトクランズのコックピットからは、もう微弱なオーガニックエナジーしか感じない。
はっきり言って虫の息だ。これ以上無い程の瀕死、あと一分もしないうちに勝手にくたばる事が確定している、まだ死んでいないだけの半死人。
でも、それでもこのラフトクランズのパイロット──フー=ルーは戦おうとしている。戦いを続けようとしている。
それも、騎士としての使命感なんかじゃあない。

『貴方という強敵と、戦うことができる──!』

情念にも似た歓喜を持って、その闘争の悦びを一秒でも長く味わうために。
ふと、ここまで口を開かなかったお兄さんがフー=ルーに喋りかけた。

『……戦いたいですか?』

『無論!』

コンマ一秒も必要としない超反応による即答。
それに頷きながら、お兄さんのボウライダーが、その手から新たに剣を複製する。
実体剣。機動兵器同士の戦いで用いる物には見えない程に細いそれを逆手に持ち天に掲げると、勢いよくラフトクランズのコックピットを貫いた。

『ぎぃっ、がっ、あああぁぁぁっっ!!』

通信からフー=ルーの割と聞き苦しい類の断末魔が響く。
そう、コックピットを機動兵器の持つ剣で貫かれて、それでもまともに断末魔の悲鳴を上げる事が出来ている。
たぶんピンポイントで腹部を貫かれ、内臓を丸ごと斬り潰されている。即死しない程度に、絶妙な手加減を加えられながら。
断末魔の悲鳴が聞こえるってことは、機体の通信装置も破壊せずにフー=ルーの身体にだけダメージを与えたんだと思う。
通信から、お兄さんの嬉しそうな声が聞こえる。

『そんなに戦いたいなら、こんな所で俺一人と戦う必要はありませんよ』

『────』

既に断末魔の悲鳴は途絶え、お兄さんの言葉にはただ沈黙だけが帰ってくるだけ。
オーガニックエナジーも一切感じない。完膚なきまでに死んでいる。
死んでいる?

『貴方には、地球圏最強の部隊と戦う事ができる権利を差し上げましょう』

ラフトクランズに突き刺さっている細身の実体剣が、その身をぐずりと崩れさせる。
DG、いや、UG細胞へとその身を転じた剣が、ずるずるとラフトクランズの中へと潜り込んでいく。

「……お兄さん?」

どうするつもりなのかなんとなく、というか、はっきりと確信した。
目の前でラフトクランズの欠損が見る見るうちに金属質の触手に埋められていく様を見ながら、お兄さんに話しかける。

『どうした』

「あたしとお兄さんだけで十分じゃね? なんでこんな微妙な人を……」

『微妙じゃない、これ以上無い程の人材だ。あの状況でまだ戦おうと、敵を倒して勝とうと足掻いていた。これまでこの世界で見てきた連中じゃあここまでは出来ない』

完全に修復されたラフトクランズ、でもたぶん、フー=ルーは死体の状態から修復されていない。それをするのは、一度お兄さんが取り込んでから。
当然のように、ラフトクランズはボウライダーの、お兄さんの中にじわりじわりと吸い込まれていく。コックピットに眠るパイロットの死体と共に。

『素晴らしい闘争心、いや、戦いという行為へのひたむきさ。脳みその中から余計な部分を削いでやれば、きっといい兵士か鉄砲玉になるぞ』

取り込んで複製作ったら先ずはブラスレイター化と洗脳だな、とか呟いてるお兄さんの表情は、玩具を買って貰った子供のようにキラキラと光輝いている。
死体弄って兵士増産とか、少なくともそんな表情するようなネタじゃないと思うなぁ。

「……なんかもう、ここまでやると本気でリアル外道だよね。いや、お兄さんらしいっちゃらしいけども」

『それほどでもない』

数十秒後、ラフトクランズは完全にボウライダーの中に取り込まれてその姿をこの世から消してしまった。
これで、ここに攻めてきたフューリーは全滅。
今からでも宇宙に上がればナデシコとアークエンジェルに合流できるけどそれはしない。もうあそこでは何も手に入らないから戻る意味がないしね。

「お兄さん、これからどうするの? やっぱり月?」

『いや、これまでの取りこぼしを回収していくのが先だな。手始めにもう完成している筈のアカツキを頂いて、それからヘリオポリス崩壊のちょっと前までボソンジャンプだ』

「鏡面装甲でビームを跳ね返せますってか?」

『ディストーションフィールドの応用で十分跳ね返せるんだけどな』

それでも拾って行くあたり、お兄さんも貧乏性だよなぁ。

『むしろ本番は過去に戻ってからだぞ。ヘリオポリスの残骸からアストレイを見つけ出す、或いはジャンク屋辺りに拾って貰って、レッドフレームをこっそり複製させて貰うんだからな』

もし見つけられなかったら、宇宙服だけでジャンク屋の目の当たるところに漂ってなきゃいかんのね。

「またあの時点からやり直しかぁ」

『一年以上ナデシコで団体行動できたんだ、あと少しくらい我慢しろ』

「ういぃっすぅ……」

ま、運がよければグランドスラムとか拾えるかもしんないし、長くてもブルーフレームの強化までだろうし、適当にやるかぁ。
あ、忘れてた。

「お兄さんお兄さん、これどうしよう」

スケールライダーの脚に吊り下げっぱなしだった赤いラフトクランズを上下に振り指示を仰ぐ。
フー=ルーの機体を取り込んだからこれもそんなに必要って訳じゃ無いんだろうけど、何かに使うつもりなのかもしれない以上、その場にぽいと捨てて行く訳にはいかないと思う。

『ああ、後で使うかもしれないから適当に異次元にでも放り込んでおけ。あの中なら死体も腐らないだろうしな』

雑だ……、明らかにフー=ルーとは扱いが違う……。
まぁいいや、どうせジュア=ムだし。
あたしは次元連結システムのちょっとした応用で異次元の物置を開き、そこに赤いラフトクランズを投げ捨てた。

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

プラントと連合が休戦の提案を受け入れ、ナデシコとアークエンジェルはとりあえず束の間の休息を味わっていた。
だが、それは文字通り束の間のものでしかない。
未だ月にはその実態のほとんどが謎に包まれているフューリーが存在している。
フューリーの情報は軍の全てのデータベースから消去されており、そしてフューリーの時間停止攻撃、ラースエイレムに対抗できるのは未だ統夜の駆るB・ブリガンディのみ。
対策を練る為、今現在フューリーについてもっとも多くの情報を有しているフランツ・ツェペリンのAIへと質問を繰り返し、統夜は遂にフューリーとの接触に成功したのだ。

「……つまり、フューリーには主戦派と非戦派が存在し、非戦派が我々に助けを求めている……。そういう訳だね」

ナデシコブリッジにて、統夜の説明を受けていたクルーの中からフリーマンが内容をまとめた。
内容的には荒唐無稽ではある。いや、そもそも非戦派など存在せず、自分達のフィールドにこちらをおびき寄せる罠なのかもしれない。
しかし、何一つフューリーの情報が掴めていない今現在では貴重な手掛かりの一つと言えるだろう。

「これで一つの方針が立てられるわね。その非戦派のお嬢ちゃんと接触できれば……」

「フューリー全部と戦わなくていい訳だ。プラントの時みたいに」

メリッサ・マオの言葉を、カガリ・ユラ・アスハが引き継ぎ嬉しそうに続けた。
今まで散々戦ってきた相手ではあるが、何もナデシコは戦争狂や殺人嗜好者の集まりでは無い。敵を全て殺さなくてもいいのであれば、それは歓迎すべきことである。
これ以上戦わずに済むかもしれない、その都合のいい展開に、ブリッジは明るいムードに包まれていた。

彼等は知らない。主戦派と非戦派、その双方が迎えた結末を。
彼等は知らない。月で待ち構える地球圏最大の脅威、その正体を。
彼等はまだ、何一つ知らないのだ。



続く
―――――――――――――――――――

ラスボスの居るフューリー母艦の中でヒロインなり損ねな御姫様と和気藹々と一方的に会話を楽しむ謎の人物登場。
一人称で話が進んだり、色々とメタな発言をしたり、陰で顔を隠したり名前欄を『???』にしたりする必要があるのかすら不明ですが、もちろん謎の人物で──なんて、二度ネタですね。
そんなこんなで、回想シーンを二回入れたせいで時系列が分かりにくくなってそうな第二十話をお届けいたしました。

主人公の生存が確定した今回ですが、殆ど話が進んでおりません。なんと作品内での時間経過、スパロボ換算にして一話のみ。
行間でちゃっかりプロヴィデンスが撃墜されてジェネシスも落とされてますが、この辺は特に変化はないので省略しました。
回想シーンで戦闘シーンも書いてはみたモノの、主人公やサポAIの一人称だと途端にコメディ色が強くなっていけません。
まぁ、おふざけが出来ない程の強敵と戦っている訳でもないですし、周りの目を気にせずにフルスペックで戦える事に開放感を感じているので仕方無いと言えば仕方ないのですが……。

しかしその鬱憤を晴らすかの如く主人公に立ち向かうフー=ルーさんは一瞬だけ凄いイケメンに書けた気がします。ぼろぼろの機体で強敵に立ち向かう姿は中々に主人公補正が掛かっていそうな気がします。
まぁこの作品でそういったキャラが報われるかと言えば、うん、ほら、あれですよ、メルアだってほぼ間違いなくバッドエンド確定ですし。

あ、フー=ルーさんがスクラップ寸前のラフトクランズで主人公に挑もうとするシーンはPS2版デモベサントラ二枚目から『絶望に灼ける剣』で入って、主人公がフー=ルーに問いかけるシーンで一回無音挟んで、実体剣を突き刺すシーンから『汚怪なる血脈』とか流すとイメージ的にぴったりです。

え? デモベのサントラを持っていない?
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まぁつまり良い音楽でどうにかこうにか文章の下手さを誤魔化そうという戦略な訳ですよ。
ほら、まずい料理を無理やり水で流しこむというか、味の薄いオカズに醤油をドヴァドヴァかける感じで。

今回は特にセルフ突っ込みという名の弁明は無し。何か突っ込まずにはいられない矛盾、なんとなく気に要らない不自然さなどございましたら指摘の方どしどしお寄せください。

そんな訳で、諸々の誤字脱字の指摘、この文分かりづらいからこうしたらいいよ、一行は何文字くらいで改行したほうがいいよなどといったアドバイス全般や、短くても、一言でもいいので作品を読んでみての感想とか、心からお待ちしております。




↓ここからいかにもそれらしい癖に割と変更もあり得る次回予告↓


フューリー非戦派との接触を図る為に月へ訪れたナデシコ、アークエンジェル一行。
しかし彼等を待ち受けていたのはフューリーだけではなく、今なお正体不明の謎のテッカマン部隊、DG細胞に侵されて変質したアンチボディ、そして、生体コアを失い死滅した筈のデビルガンダムであった。

次回、『月の門、死霊のはらわた、冷たい世界』

今度こそセミファイナルバトル。おたのしみに。


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