外伝 人界の闇と異界の闇
■■■ 結 ■■■
ロンバール街。
ガリア中の封建貴族の別荘が立ち並ぶ貴族街であり、リュティス魔法学院に通う有力貴族の子弟の中にはここから通う者もいる。
“旧市街”からさほど離れておらず、同時にヴェルサルテイルともそれほど離れているわけでもない。
新旧の政治の中心の中間に位置するため、貴族にとっては絶好の地理条件である。
バンスラード侯爵家の別邸も当然この一角に存在し、俺とハインツはそこに襲撃をかけることとなっている。
「ハインツ様、イザークさん、お待ちしておりました」
「準備は万端ですよ」
その準備の為に俺達がやって来たのはヴァランス家の別邸であり、かつてハインツがここで複数の暗殺者を返り討ちにしたそうだ。
「マルコ、ヨアヒム、あいかわらず仕事が速いな」
「二人共、久々だな」
俺はこの二人と面識がある。というのも『影の騎士団』についての情報を得るために、直にこいつらと接触したことがあるからだ。
その際には元“歯車”である俺自身出向くのが最も違和感が無かったので、実際に会うこととなった。
ハインツが俺の下に勧誘に現われたのも、こいつらから俺の話を聞いたからこそだろう。
「今回はバンスラード侯爵家ですよね、下見はばっちりですよ」
「警備とかも特に多いわけでもなし、いつも通りさくっといけそうです」
ハインツの北花壇騎士としての主要任務は貴族の監視と粛清。
既にいくつもの封建貴族を始末しており、ロンバール街にいる貴族も4人程処理している。
要は、バンスラード侯爵は5人目ということだ。
「よし、俺はいつも通りの格好で行く。イザーク、お前には“不可視のマント”を貸してやるから、それで悠々と来ると良い」
「では、お言葉に甘えさせていただこう。といいたいところだが、その前に一つ確認しておきたいことがある」
「何だ?」
「最初からここを合流地とすれば、俺は子守りなどする必要はなかったと思うのだが?」
「あれは俺が確認したかっただけだ、他意は無い」
「そうか、後で殺すとしよう」
「ヨアヒム、身代わりを頼む」
「お断りしておきます。ハインツ様はいっつも自業自得ですから」
「もうちょっと考えてから動いた方がいいと思うんですけどねえ」
10歳に注意される12歳か、こいつらしいというかなんというか。
そして今、俺達はハインツの使い魔である竜に乗ってバンスラード侯爵邸の上空にいる。
マルコとヨアヒムの合図があり次第ハインツと俺が降下する手筈だ。
この竜は“無色の竜”という種族らしく、地水火風の全ての竜の特性を備えているという。
「さーて、いよいよ本番か」
そう言うハインツの格好は黒い髪に赤い外套という奇妙な格好だ。
また、『フェイス・チェンジ』もかかっているため人相も異なっている。
しかし、リュティスにおいてはある意味有名な格好でもある。
「“リュティスの切り裂きジャック”だったか? そのふざけた格好は」
「ああ、俺の“顔”の一つだな。なにせ“ロキ”なもんで色んな顔があるんだよ」
“毒殺の悪魔”、“殺戮の魔女”、“切り裂きジャック”と、それ以外にもいくつか顔を持っている。
その中には、“影の騎士”も含まれ、子供達と遊びまわる“気の良い兄ちゃん”もあるわけだ。
「なあハインツ、お前にとって人殺しとは何なのだ?」
素朴な疑問が浮かんだので聞いてみることに。
「んんー、嗜む程度に程々に、ってとこかな?」
これまた独創的な答えが返ってきた。
「嗜む、とはどういうわけだ?」
「そうだなあ、簡単に言うと、まず、俺にとって楽しいこと第1位といえば、『影の騎士団』の面子と馬鹿騒ぎすることだ。この“馬鹿騒ぎ”には暗黒街の大暴走も含まれる」
「あの虐殺もそれに含まれるわけか」
「そんでもって、第2位が、親しい人達と話したり遊んだりすることだな。今日の昼みたいに子供達と遊ぶことや、マルコやヨアヒムとゲームやったり、色々」
「確かに、とても楽しそうではあったな」
「そんで第3位が人体実験や解剖。要は医療関係の研究だな。新薬を開発したり、より効率いい手術を試してみたりとか、趣味と実益を兼ねるってやつだな」
「非常に悪趣味だ」
「第4位が主に歴史研究。ヴァランス家やヴェルサルテイルの王家資料庫にはさまざまな歴史資料があってな、それらを紐ときながらハルケギニアの歴史を考察するのはなかなか面白い。俺の中で唯一インドア派の趣味といえるかな、人体実験は材料調達とかに結構動き回るから」
「ようやくまともな趣味らしきものになったな」
「そんで、5番目くらいに人殺しが来るんだ。だから、熱中するほどじゃない。貴族の例でいえば、友人から釣りに誘われたら程々に楽しむって感じだな。自分でわざわざ川や海に出かけて行くほどじゃないが、遠出の際に機会があればやるくらいの感覚で」
「言ってることは分かるが、普通はそこに人殺しをあてはめんぞ」
相変わらず特殊極まりない感性だ。
「だから、嗜む程度にほどほどに、って感じなんだよ。人殺しよりゃ馬鹿騒ぎしてる方が数千倍楽しいからな」
「そう言えば、“拷問オルゴール”の時にも似たようなことを言っていたか」
子供達と一緒に歌う方が楽しいとは言っていたが、まさか本当に子供と一緒に遊んでいるとは。
そんな話をしていると。
ドオオオオオオン!!
合図があった。
「始まったな」
「行くか」
俺とハインツは同時に飛び降りる。
「ランドローバル、お前は先に帰ってていいぞ、後は俺達で片付けるから」
俺には聞こえんが、ハインツは使い魔のルーンとの同調によって竜の言葉が分かるらしい。
俺はまだ使い魔を召喚していない。特に必要とも思えなかったからな。
「ところでハインツ、あの音はカノン砲だろう」
「だよ」
「軍から借りたのか?」
「いいや、エミールが調達してきた。出所は“ファーヴ二ル”かな?」
「あの男か、軍需物資を扱うなら武器商人が専門というわけか」
「そう、そして、バンスラード侯爵家に向けて撃ってるのは当然あの二人だ。この後も継続的に打ち込まれるから流れ弾に注意しろよ」
「心得た」
彼らはヴァランス別邸の屋根の上から狙撃している。まさか公爵家から狙撃されるなど考慮の範囲外だろう。
もっとも、もしばれたら内戦に直結しかねないことなのだが、その辺をしくじるあいつらではない。
そして俺は“不可視のマント”を被りながら、『フライ』によって減速を始めた。
姿を一切隠していないハインツは着地と同時に警備の者を切りつける。
「がはっ」
周囲の者達は突然の砲撃に混乱していたようだが、さらなる襲撃者によってその混乱は停止する。
「グッドイヴニングこんばんは! いい夜ですねえこんばんは! 貴方と私でこんばんは! 死んで死なせてこんばんは! あ、はいはいはい!」
実にふざけた挨拶をしながら、ハインツは“呪怨”という刀を手にしながら笑っている。
「な、何者だ!」
「俺の名は“切り裂きジャック”、このリュティスで今流行りの殺し屋さんだねえ」
そう言いつつ次々に切りかかる。
「う、撃て」
警備の中には銃を持っているのもはいるが、メイジはいないようだ。
「あっまーい!」
しかし、撃つより先に吹き飛ばされる。
おそらく、骨杖によって『エア・ハンマー』を唱えたのだろうが、杖をもっているようには見えないため何をされたか理解不能だろう。
「な、何だ!」
「魔法か! いや、それにしては杖を持っていないぞ!」
「邪神様の偉大なる力さ、フングルイ・フングルイ・クトゥルー・ルルイエ・ウガフナグル・フタグン!!」
謎の詠唱を行うハインツだが、ようは『毒錬金』だ。
「がっ」
「い、息が…」
「く、苦し…」
次々に倒れていく警備の者達、こうしてみると悪魔の手先か、悪魔そのものにしか見えんな。
「さーて、切り裂きパーティーの始まりだあ! 俺のお肉ちゃーん! まってなさーい!」
いかにも快楽殺人者らしい表情で駆けだすハインツ。
マジックアイテムで髪の色と人相が変わっているとはいえ、あそこまで役になりきるとはな。
俺は俺で、奴の捜索に入る。
ドゴォ!
屋敷内に入り探索を続けていると、カノン砲の砲弾が次々と叩き込まれていく。
こと、銃弾や砲弾の装填をヨアヒムは得意としており、マルコは精密な操作を得意とする。
あの二人が組めばこのような狙撃も可能になるということだ。
「まったく、ハインツもよくまああのような者たちばかり勧誘できるものだ」
人を見る目には自信があると言っていたが、それに偽りはないようだ。
俺はある扉を破って押し入る。
「だ、誰だお前は!」
「死ね」
問答無用で『魔法の矢』を叩き込む、竜騎士などが空中戦において良く用いる貫通力に特化した魔法だ。
一応「風」の属性だが、ほぼコモン・スペルに近いといえる。魔力をそのまま矢にするような感覚だからな。
「お前達にとって俺はどうでもいい存在だったのだろうが、それは俺にとっても同じでな」
別にこいつらに恨みなど無いが、生かしておく意味もないし、この先邪魔にしかなりえない存在だ。
「あの悪魔の人体処理場で再利用でもされれば、少しは世の中の役に立つだろう」
うむ、そうして考えれば、なかなかに優れた循環システムなのかもしれんな。
そうして、俺は身内の処理を続けた。
「おーう、そっちはどうよ」
しばらく経った頃、ハインツがこちらにやってきた。
「9割方終了だ。残るは当主のみだな」
この屋敷の家族構成などは余さず調べてある。取りこぼしはない。
「こっちも終了、あいにく一人も殺してないけどな」
「そういえば、“切り裂きジャック”は標的以外を殺さないことでも有名だったな」
狙った獲物のみを殺し、その他の関係ない者は一切殺さない闇の殺し屋“切り裂きジャック”。
それだけ聞けば優秀かつ冷徹なイメージが湧きそうなものだが、実際はそれとはほど遠い。
確かに死者こそ出ないが、重傷者は大量に出る上、調度品やガラスなどはほとんど壊され、最早屋敷としては使えない有り様となる。
早い話がどたばた騒ぎの果てに当主が死んだような状態になる。
「しかし、もう少しスマートの出来ないものか?」
「スマートにやると“華麗なる毒殺”になっちゃうんだよねえ、俺の場合」
要は皆殺しというわけか。
「それより、そっちも随分淡白に終わったもんだな」
「まあな、こいつらは別に俺にとって特に因縁があるわけでもない、いってみればただの障害だ」
暗黒街のゴロツキを殺すような感覚だ。
「おお怖い、恨みも無いのに人を殺すとは、世の中にこんなに恐ろしい人間が存在するなんて」
「お前が言うな」
千人以上殺しているだろうお前は。
「でもまあ、ホントにそんなこと出来るの人間だけだよなあ。やっぱこの世で一番最悪な生物は人間だと思うんだよ俺は」
また凄い意見を。
「革新的な意見ではあるが、全面的に同意は出来るな」
「だろ、だけどさ、最悪だからって死んでもいいってわけじゃないよな。俺、死ぬの嫌だし」
「そこも同意できるな、自分勝手な話ではあるが」
自分が最悪だと理解した上で、自分勝手に生きるのがこいつや俺だ。
「さて、残りは一人だけど、こいつはまだ殺さない方がいいぞ」
「分かっている。とりあえずは生け捕りにしておこう」
今はまだ殺すべきではない。とりあえずは生かしておき、現当主が生きている状態で俺が貴族印を押せることを証明した方が都合が良い。
その後で奴を殺し、貴族印の保有者が死んだ上で俺が継承者となれば、バンスラード侯爵家は俺のものとなる。その他の継げる者はたった今皆殺しにしたところだ。
「OK、そんじゃ行きますか」
「ああ」
「はいはーい、ヒムラ―・フォルシス・ド・バンスラードさんで間違いございませんかねえ、殺し屋さんが命を頂戴に参りました」
実にふざけた台詞を言いながらハインツが当主の部屋に押し入る。
当主はなんども逃げようとしたようだが、その度に廊下を笑いながら壊して回るハインツによって妨げられた。
その間に俺はその他の親族を皆殺しにしていたわけだが。
「な、何者だ!」
「殺し屋さんです。ここの怖―いお兄さんに雇われた」
そして、俺が前に出る。
「き、貴様は誰だ!なぜ私を狙う!」
「届けものがあったのさ」
俺は平然と告げる。
「と、届け物だと?」
「ああ、嬉しいかどうかはわからんがな」
俺は背負った袋からあるものを取り出し、放り投げる。
「一体何……ひ、ひい!」
どうやら、人間の生首などは見慣れないらしいな。まあ、見慣れている俺やハインツが異常なのだろうが。
「よく見ろ、そうすれば俺が誰かなど自ずと分かる。自分を殺す相手が誰かも知らぬまま死にたいというなら、それでもいいがな」
「そ、それはどういう……」
「いいから見てみろ」
俺はただ促す。
「早く見ないと、この剣に首を刎ねられちゃうかもねえ」
ハインツがもの凄く楽しそうな声で“呪怨”を構える。
「わ、わかった…………………こ、これは! エレナ!!」
「ほう、10年も前のことだが覚えていたか、その女の苦労も実ったようだな。何しろ、お前に捨てられないように美貌を保つためにあらゆる努力をしていたようだからな。見ろ、10年も経つのにこいつは未だに美しい。『固定化』とは便利なものだな。美しさを永遠に保ちたければ若いうちに死ぬのが一番ということだ」
10年前、俺がこの手で首を切り落とし、『固定化』をかけて保存したのだ。胴体がどうなったかなど知らんが。
「で、ではお前は!」
「血筋的にはお前の息子に当たるものだ。そこの道化に言わせると、お前のようなボンクラから俺のようなものが生まれることがあり得るから、人間というのは面白いのだそうだ。まあ、その意見には賛成できるがな」
俺などより、ハインツの方がよほどあり得ん。いったいどうやればこんなものが生まれるのだか。
「あの、“穢れた血”か、生きていたのか……」
「そうだ。そして、お前は死ぬ、それだけだ」
用件は済んだ。最早こいつに用はない。
「まっ」
「『毒錬金』」
しかし、やるのはハインツだ。
「これでいいのか?」
「ああ、撤収するとしようか」
ドゴォ!
何しろ、相変わらず狙撃は続いている。
「だなあ、復讐のために生きるお前はここで終わって、今日からお前は王政府の官吏兼、暗黒街の八輝星というわけか」
「ああ、そういうことになるが、“深き闇”の渾名は返上させてもらおう」
これは俺には相応しくない。
「何でだ?」
「闇という称号はお前にこそ相応しい、俺は所詮環境によって生み出された異物に過ぎん。お前のような絶対的な異物ではない」
それが、俺とこいつの違いだ。
俺は“穢れた血”としてこの家に生まれたからこそ、今のようになっている。
しかし、こいつは違う。平民に生まれようが、貴族に生まれようが、王族に生まれようが、ハインツはハインツにしかなりえんだろう。
故に、闇はこいつの称号だ。環境によっていくらでも変わる者が“深き闇”を名乗るなど、おこがましいと言うべきだろう。
「確か、“ファーヴ二ル”を筆頭として、今後の八輝星は主に表側の大商人の集まりとし、それぞれが色を冠した名称で呼び合うのだったか?」
「ああ、まだ正式な名称は考えてないけどな」
「ならば、俺は灰色でよい、表側が“白”、闇たるお前は“黒”、その中間の“穢れた血”の半端者には“灰色”がお似合いだろう」
「“灰色の者”か、お前にはなんかしっくりくるな。となると俺は、“黒の王子”、もしくは“黒の太子”ってとこかな?」
“黒の太子”か、こいつにはよく合っている。
「良い名じゃないか、よろしく、“黒の太子”殿」
「こちらこそよろしく、“灰色の者”よ。だけど、多分その言葉は覆る気がするよ俺は」
握手を交わす俺達だが、ハインツは俺の言葉を否定した。
「どういうことだ?」
「簡単、世の中、上には上がいるもんなのさ」
その答えは、ヴェルサルテイルにあった。
およそ2週間後、俺はヴェルサルテイル宮殿にて、ガリア王ロベール五世より正式にバンスラード侯爵家の跡取りとして認証され、イザーク・ド・バンスラードとなった。
事情が事情のため、ハインツのヴァランス領と同じく俺は爵位こそ持つが領土を持たない貴族となった。
しかし、これ以上王政府の力が大きくなるのを恐れた他の六大公爵家の意見もあり、バンスラード侯爵家の領土は細かく分割され、2割ほど王政府、同じく2割はベルフォール家、1割はディーツ公爵家、1割はフォンサルダ―ニャ侯爵家、残り4割は近隣の封建貴族に分封することとなったらしい。
ハインツの時は第一王子ジョゼフがヴァランス公となったため、全ての領土が王政府直轄領となったが、そうでもないかぎりはこんなものである。
「おお、貴族のマントも似会ってるねえ」
ヴェルサルテイルの北の離宮に繋がる道を歩いていると、そこにハインツがいた。
「久しぶりだな、ヴァランス家次期当主殿」
「お久しぶり、バンスラード侯爵家当主殿」
「名前だけだがな」
「いいんじゃないか、余分な荷物がなくて」
「それもそうか」
俺達は笑い合う。
「ところで、その白い杖はひょっとして……」
「ああ、お前の杖にヒントをもらってな、あいつの足の骨を杖に加工したのだ。魔力の通りが非常良い」
あいつの利用価値と言えば、最早そのくらいしかなかったからな。
「鬼畜だねえ、骨まで自分の為に利用するなんて」
「お前に言われる筋合いはないぞ」
人体処理工場の管理人がよく言う。
「ま、それはともかく、これから北の離宮のジョゼフ殿下に会いに行くんだよな?」
「ああ、お前を介してとはいえ、かなり力を借りたからな。挨拶くらいはせねば義理を欠くというやつだ」
「意外と礼儀正しいのな」
「別に俺は無頼として生きたかったわけではないからな」
「うん、やっぱお前には宮廷生活が合ってると思うよ」
「俺自身意外ではあるが、そうかもしれんな」
情報網を把握し陰謀を巡らすならば、暗黒街も宮廷も大差はない。要はこれまで通りということだ。
「だけどまあ、お前みたいのがあの人に会うんなら、相当の覚悟をしといた方がいいと思うよ」
「それほど恐ろしい人物か?」
「うーんどうだろ? よくわかんないというのが一番的確かな?」
「お前によく分からんと言われるのも変なものだな」
よく分からん生命体の代表のような男がこいつなんだが。
「ま、百分は一見にしかず、会ってみりゃ分かるさ」
そして、俺は初めて、ジョゼフという人物と対面することとなる。
北の離宮を出た俺を、来る時と同じくハインツが出迎えた。
「どうだった?」
「なあハインツ、あれは何だ?」
俺の頭にはその疑問しかなかった。
「さてな、俺にもそればっかりがわかんないんだよ」
あっさりとハインツは答えた。
「お前にも分からんのか?」
「あの人の心はよく見えない。どんなに見極めようとしても、闇しか見えないよ」
それは、俺が抱いた感想と同じようなものだった。
「お前が言っていたことがよくわかった。確かに、上には上がいるようだな」
あれは、こいつともまた違うものだ。闇ではない、闇はこいつのはずだ。
ならば、あれは何だ?
「深く考えない方がいいと思うよ、多分どつぼに嵌るだけだから」
闇たるこいつはそう嘯く。
「確かに、そうかもしれんな」
自分の許容量を超えているものを考えようとしても、悪影響しか出ないか。
「でも、確信できることは一つある」
「何だ?」
「俺やお前みたいのが仕えるとしたら、あの人くらいしかいない」
それは、同意できる言葉だった。
俺は現在ロベール五世に仕える身ではあるが、別に忠誠を誓っているわけではない。俺は俺の目指すものの為に行動している。
しかし、もし俺が誰かを自分の主君として認め、臣下として仕えるとするならば。
「あの方くらいしか、いないだろうな」
その部分だけは確信できた。
シャルル殿下ではダメだ。人が良くて穏健すぎる、あの人の治世は平静で穏やかなものになるだろう。それを望む者は多いだろうが、それでは俺は満足できない、激動化する時代でなければ、このイザークの飢えは満たされん。
「ま、これから長い付き合いになりそうだ。一緒に頑張ろう」
「ふむ、そうだな、我が親友よ」
これより後、ジョゼフ殿下は“虚無の王”となり、ハインツは“輝く闇”として、この世界の在り方そのものを破壊するための最終作戦“ラグナロク”を展開、俺はそれに賛同し杖を捧げる最初の臣下となり、“虚無の王”のために主にロマリアを中心として活動することとなる。
そして、古き世界が破壊され、共和制となったガリアにおいて、俺は外務卿としてゲルマニア、ラグドリアン、ネフテス、エンリス、そして東方など、あらゆる国家や民族との外交の最前線に立つこととなる。
その生涯は俺にとって満足できるものであったが、我が生涯を通じて、本当に対等な意味で友と呼べるのはこの男のみであり、主君と呼べるのはあの方のみであった。
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あとがき
エピローグ載せる前に、入れときたかった話です。この頃のハインツは、3章以降よりぶっ飛び具合が顕著です。
さて、今回の殺し屋状態のハインツの見た目ですが、25,6歳くらい老けて見えます、長髪です、無精ひげがあります、残念ながら武器を鎌には出来ませんでした。しかし、あの状態のハインツのときのみ、名前が”呪怨”から”幽焔”になります。あと、まことに遺憾ながら、首をとばせば死にます。
申し訳ありません。もうしません、とは約束できませんが。これをやりたかったが為に、この話を作ったわけではありません、本当です。
BBの男キャラは、モブキャラの十貴竜から捜査官にいたるまで全部好きなんです。あやかしの方も好きですけど、ナインデーモン先生は無敵で素敵。
この下は、この話の時期のネタ話になってます。
ネタ外伝 女装(ハインツ11歳の頃)
ハインツ:「では、女装大作戦を決行します。囮は俺とエミール、狩人役も俺とエミール、なので他の皆は出番なしです」
アルフォンス:「べっつにいいけど。誰が好き好んで女装なんざするかってんだ」
クロード:「なにせ、体格の問題からお前等2人以外は無理だからな。特にアラン先輩は絶対に。あと確かに、好き好んで女装しようと思う奴などは、あまり居て欲しくないな」
フェルディナン:「残念ながらここに2人いる」
エミール:「ちょっ、待ってください。僕は別に好き好んでやってませんよ!」
アドルフ:「けどよ、うまくいくんか? ひっかかる野郎がいるかねえ」
ハインツ:「当然だ。俺を見ろ、こんな絶世の美少女、暗黒街はおろかリュテス、いやガリア中を探したってそうはいないぞ。まあ、オルレアン公夫人のマルグリット様くらいかな」
アルフォンス:「自信満々に言いやがったな変態、ノリノリに化粧しやがって」
ハインツ:「”やるからには徹底的に”、俺はいつもそうだろ。というかお前等、エミールはともかく、こんな美少女然とした俺をみて、その反応はどうよ?」
アラン:「お前が言うな不感症(予定)。だが、性犯罪者を釣る、という今回の作戦の趣旨に、今のお前の格好は合ってないぞ」
ハインツ:「どこがですか? 貴族のお嬢様の仕草まで完璧ですよ」
フェルディナン:「また無駄なところに熱心だな」
アドルフ:「ま、今のハインツはどっからどう見ても貴族のお嬢様だな」
クロード:「純粋に感心するな。だが確かに問題だな」
ハインツ:「ムっ、この完全無欠お嬢様になんの問題が」
アルフォンス:「だから問題なんだよ。ま、論より証拠、百聞は一見だ、お前とエミールで一回りして、どっちが釣れるか競ってみろよ」
エミール:「僕は別に自分の女装姿で男が釣れたって、なんも嬉しくなんかありませんけど、横の変態さんとちがって。ていうかナル入ってる女装野郎って、救いようがありませんよ」
ハインツ:「だまれ後輩、女装はお前も同じだ。でもまあ、皆がそういうなら一つ競争といこう。フッ、ただの少女と、美少女お嬢様の差を見せてやる」
アドルフ:「結果発表~~」
クロード:「エミール12、ハインツ3でエミールの圧勝」
アルフォンス:「だから言ったんだよ、それじゃ無理だって」
ハインツ:「ムウ、なぜだ、こんなに綺麗で可愛いのに」
アラン:「ちょっと考えれば分かるだろう、貴族のお嬢様が貧民街や暗黒街に一人で出歩くわけあるか。怪しんでくださいって言ってるようなもんだぞ、現にお前に襲い掛かったのは、薬物中毒者だけだ」
フェルディナン:「なんにしても、悪ノリが過ぎたようだな」
ハインツ:「ま、確かにはしゃぎすぎたな。久しぶりだったんで浮かれてた。よし、エミール、勝った賞品にこのドレスやる」
エミール:「あ、ありがとうございます」
アラン:「そこであっさり受け取るのか」
エミール:「可能な限り高値で売却します」
アルフォンス:「しっかりしたやつ……」