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No.14347の一覧
[0] ハルケギニアの舞台劇(外伝、設定集、ネタ)[イル=ド=ガリア](2010/02/22 18:09)
[1] 外伝・英雄譚の舞台袖 第一話 魔法の国(前書き追加)[イル=ド=ガリア](2009/12/02 20:37)
[2] 外伝・英雄譚の舞台袖 第二話 ハインツという男[イル=ド=ガリア](2009/12/02 21:02)
[3] 外伝・英雄譚の舞台袖 第三話 東方出身の使い魔[イル=ド=ガリア](2009/12/02 20:42)
[4] 外伝・英雄譚の舞台袖 第四話 決闘[イル=ド=ガリア](2009/12/03 18:04)
[5] 外伝・英雄譚の舞台袖 第五話 使い魔の日々[イル=ド=ガリア](2009/12/06 00:11)
[6] 外伝・英雄譚の舞台袖 第六話 武器屋にて[イル=ド=ガリア](2009/12/06 00:11)
[7] 外伝・英雄譚の舞台袖 第七話 土くれのフーケ[イル=ド=ガリア](2009/12/06 00:13)
[8] 外伝・英雄譚の舞台袖 第八話 破壊の杖[イル=ド=ガリア](2009/12/07 16:32)
[9] 外伝・英雄譚の舞台袖 第九話 平民と貴族 そして悪魔[イル=ド=ガリア](2009/12/08 19:46)
[10] 外伝・英雄譚の舞台袖 第十話 気苦労多き枢機卿[イル=ド=ガリア](2009/12/08 19:44)
[11] 外伝・英雄譚の舞台袖 第十一話 王女様の依頼[イル=ド=ガリア](2009/12/09 16:31)
[12] 外伝・英雄譚の舞台袖 第十二話 港町ラ・ロシェール[イル=ド=ガリア](2009/12/11 21:40)
[13] 外伝・英雄譚の舞台袖 第十三話 虚無の心[イル=ド=ガリア](2009/12/13 15:25)
[14] 外伝・英雄譚の舞台袖 第十四話 ラ・ロシェールの攻防[イル=ド=ガリア](2009/12/14 22:57)
[15] 外伝・英雄譚の舞台袖 第十五話 白の国[イル=ド=ガリア](2009/12/15 21:48)
[16] 外伝・英雄譚の舞台袖 第十六話 戦う理由[イル=ド=ガリア](2009/12/16 16:02)
[17] 外伝・英雄譚の舞台袖 第十七話 ニューカッスルの決戦前夜[イル=ド=ガリア](2009/12/18 12:24)
[18] 外伝・英雄譚の舞台袖 第十八話 ニューカッスルの決戦[イル=ド=ガリア](2009/12/20 19:36)
[19] 外伝・英雄譚の舞台袖 第十九話 軍人達の戦場[イル=ド=ガリア](2009/12/22 22:23)
[20] 外伝・英雄譚の舞台袖 第二十話 トリスタニアの王宮[イル=ド=ガリア](2009/12/23 15:43)
[21] 外伝・英雄譚の舞台袖 第二十一話 神聖アルビオン共和国[イル=ド=ガリア](2010/01/01 00:03)
[22] 外伝・英雄譚の舞台袖 第二十二話 新たなる日常[イル=ド=ガリア](2010/01/01 22:34)
[23] 外伝・英雄譚の舞台袖 第二十三話 始祖の祈祷書[イル=ド=ガリア](2010/01/10 00:43)
[24] 外伝・英雄譚の舞台袖 第二十四話 サイト変態未遂事件[イル=ド=ガリア](2010/01/15 12:32)
[25] 外伝・英雄譚の舞台袖 第二十五話 宝探し[イル=ド=ガリア](2010/01/27 18:31)
[26] 外伝・英雄譚の舞台袖 第二十六話 工廠と王室[イル=ド=ガリア](2010/02/01 16:53)
[27] 外伝・英雄譚の舞台袖 第二十七話 灰色の君と黒の太子[イル=ド=ガリア](2010/02/03 17:07)
[28] 外伝・英雄譚の舞台袖 第二十八話 揺れる天秤[イル=ド=ガリア](2010/02/18 17:11)
[29] 3章外伝 ルイズの夏期休暇[イル=ド=ガリア](2009/12/04 20:37)
[30] 2章外伝  人界の闇と異界の闇 ■■■   起   ■■■[イル=ド=ガリア](2009/11/29 00:51)
[31] 2章外伝  人界の闇と異界の闇 ■■■   承   ■■■[イル=ド=ガリア](2010/03/07 05:15)
[32] 2章外伝  人界の闇と異界の闇 ■■■   転   ■■■[イル=ド=ガリア](2009/11/29 00:53)
[33] 2章外伝  人界の闇と異界の闇 ■■■   結   ■■■[イル=ド=ガリア](2009/11/29 00:54)
[34] 外伝 第0章  闇の産道[イル=ド=ガリア](2009/11/29 00:56)
[35] 小ネタ集 その1[イル=ド=ガリア](2009/11/29 01:00)
[36] 小ネタ集 その2[イル=ド=ガリア](2009/11/29 01:00)
[37] 小ネタ集 その3[イル=ド=ガリア](2009/11/29 01:01)
[38] 独自設定資料(キャラ、組織、その他)[イル=ド=ガリア](2009/11/29 00:57)
[39] 設定集  ガリアの地理[イル=ド=ガリア](2009/11/29 01:04)
[40] 設定集  ガリアの歴史(年表)[イル=ド=ガリア](2009/11/29 01:06)
[41] 設定集  ガリアの国土  前編[イル=ド=ガリア](2009/11/29 01:06)
[42] 設定集  ガリアの国土  後編[イル=ド=ガリア](2009/11/29 01:06)
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[14347] 外伝・英雄譚の舞台袖 第二十七話 灰色の君と黒の太子
Name: イル=ド=ガリア◆8e496d6a ID:9c94e4c9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/02/03 17:07

 神聖アルビオン共和国のゲイルノート・ガスパール元帥は親善艦隊に見せかけた侵攻を計画。

 トリステイン王国のマザリーニ枢機卿はそれを見越した上で、空軍を犠牲にする国防案を展開。

 帝政ゲルマニアのアルブレヒト三世も侵攻に対して、即座にトリステインに援軍を送れるよう準備を進めている。

 三国の首脳には最早結婚式のことなど眼中になく、その後の政治的、軍事的な展開を睨みつつそれぞれの思惑で行動している。

 そして、全ての元凶であり、舞台を操るガリアは静観に徹していた。






第二十七話    灰色の君と黒の太子






■■■   side:イザーク   ■■■


 そこは、暗い空間だった。


 ただ暗いだけの場所ならばいくらでもあるだろうが、ここの空気が孕んでいるものが特殊過ぎる。

 本来、光は闇を照らすものだが、ここでは光が闇に喰われている。そのような表現が最も的確だろう。怨念、執念、無念、欲望、狂気、断末魔、そういったものが溢れている。常人ならばこの空間に近寄りたいとも思わないだろう。


 「そんな場所を歩く俺は十分に異常者というわけか、元々分かっていたことではあるが」

 そんな場所も、俺にとっては揺り籠の中のようなものだ。

 安らぎ、とはほど遠いが、ここに来ると妙な感触がある。懐古の念とでも言えばいいのか、なぜか“帰ってきた”という印象を持つ。


 俺には帰る場所などそもそも存在しないというのに。


 「と、俺は思っているのだが、理由は分かるか、ハインツ?」


 「普通は人にする質問じゃないなそれ、そもそも、何を思っているのか言ってないし」


 飄々と答えるこいつもまた異常者、いや、異常の度合いならば俺の遙か上を行く。

 陛下も極大の異常だが、ハインツはベクトルが違う、陛下は誰も隣に立てないからこそ異常であり、こいつは誰の隣にでもいるからこそ異常。


 陛下の会話についていけるのは団長や九大卿などごく僅かの者達だけであり、対等に話すのはハインツのみだ。

 しかし、ハインツは誰とも対等に話す。子供とも、平民とも、貴族とも、殺人者とも、軍人とも、大臣とも、部下とも、家族とも。


 それがこいつの異常性、誰の隣にでもいるが故に誰の傍にもいない。自分一人で完結している。

 だからこそ『影の騎士団』を始めとして、こいつの周りには異常者が集まる。まともな者は普通の人間に理解されるが、あれらのような異常者は理解されることが少ないからこそ、誰をも理解するこいつに惹かれるのだろう。

 俺もその一人、我ながら友人と呼べる者はハインツ一人というのが実情だ。どうも、俺の常識は世間の常識とはズレ過ぎているらしい。そのズレを合わせて話すことは当然可能であり、そうでなければ外務卿など務まらんが“対等な友人”であるならば、話のレベルを合わせるということは必要ないものだ。


 結果、対等な友人はハインツしかいなかったと言うだけの話、逆にハインツは対等に話す友人が無数にいる。



 「そのくらい察しろ」


 「うーん、まあ、この場所に来てなぜ“懐かしい”と思うかってとこか?」

 ピンポイントで当ててきたか。


 「自分から言っておいてなんだが、なぜわかった?」


 「なんとなく、かな? 俺も同じ感情を持っているからな、別にここで生まれたわけじゃないんだけど、まるで子宮の中にいるような気分になる」


 「子宮の中か、なるほど、ここは闇の胎盤。“輝く闇”たるお前が生まれた場所というわけか」


 「そんな感じだろ、そして、“深き闇”たるお前もまたそれに近いものを感じるんだろ。影だの闇だのは所詮言葉遊びだけど、要は、俺達の属性がここの空気と合うんだろう」


 「何とも気が滅入ることを言う」


 「事実は事実だよーってな」

 ここでそのような軽口を叩ける時点でそのとおりか。


 ここは、ジェルジ―男爵邸の地下室。

 先住魔法の研究に関する文献は技術開発局に移したそうだが、闇の外法に関するものは死人(ホムンクルス)が管理するこの屋敷の地下に今もある。


 「ところで、何の用だ?わざわざここまで来るなんて」


 「実に興味深い報告を受けてな、お前がやる予定のことなども思い出し、話すならばここがよいかと思っただけだ」


 「ふーん、ってことはロマリアの虚無関係だな」

 流石に鋭い、このような会話が出来るのも数少ない。

 抽象的な表現が多すぎるのが俺や陛下の欠点なのだが、ハインツはその内容を察するのが速い、だからこそこいつと話すのは中々に楽しい、内容はとんでもないものになるが。


 「その通りだ。そういえば、ここにはお前と俺以外に誰か来たことはあるのか?」


 「陛下が一度だけある。そして、『俺の場所ではないな、ここはお前に任せる』という言葉を残して帰ってったよ」


 「なるほど」

 実に陛下らしい。確かにここは陛下の場所ではない、陛下は覇道を往く者故に、こことは属性が違う。

 ここは長い年月のうちに闇が蓄積され、闇色に染まった空間。広がるものではなく、どこまでも深くなっていくもの。


 ここに新しいものはない、墓場のように旧い外法が蓄積されているのみ。そして、これを新しいものに、時代を変えるものに変化させることが出来るのはきっとこいつだけだろう。

 俺ではここの闇を使うことは出来ても、変化させることは出来ない。


 「後はいない、マルコやヨアヒムにもここには来るなと言ってある。ここに来てもいいことなんかないからな」


 「俺は構わんのか」


 「お前はオッケー、なにせ闇そのものだし」


 「お前に言われるのも変な気分だ」


 正に、似た者同士というわけか。しかし、俺とハインツは似ていて、ハインツと陛下は似ているのに、俺と陛下は似ていない。

 面白いものだ。


 「そんで、ロマリアで何か動きでもあったのか?」


 「いいや、ロマリア自体にはない、そもそも停滞の象徴のような国家だ。活動的なのは教皇とその使い魔と、後は幾人かの側近程度。しかも、そいつらも理由はそれぞれ、純粋に“理想”とやらのために動いているのはトップの二人だけだからな」

 対ロマリアの情報網の構築は俺の管轄。

 団長にはガリア内部の調整があり、大隊長のマルコ、ヨアヒムらは“ルシフェル”や“ベルゼバブ”を率いて国内の寺院やガリア宗教庁を相手にしている。

 そして、副団長のハインツは現在アルビオンを担当。一国を完全に任されているのも同然であり、さらに主役達の導き役も兼ねている。


 そうなると、ロマリア方面の工作は俺の担当となるわけだ。参謀長として北花壇騎士団に協力している立場でもある。


 「あの二人はなあ、もう少し現実を見てくれればまさに聖人なんだろうけど、なんでこう方向性を間違えるかね」


 「だからこその“光の虚無”だろう。俺から見れば滑稽極まりないがな」


 「ああ――確かに、愛の喪失が“虚無”の源になってるからな。亡くしたものを埋めるために陛下は狂気を、教皇は信仰を詰め込んだ。大きな違いは、教皇はその自分に疑いなく、陛下は自分はどうにもならずに破滅に向かっているだけだ、と知っていたということくらいか。だけどお前は、自分の区切りとして母親と父親を殺したわけだ、最初から愛を求めていない」


 「“愛は偉大なり”、お前の名言だったな。確かに、それがない故に代替を求める心は理解できる」


 「“愛など不要、我の道は我のみで決める、そして、その果てに辿りつく”イザークという男を表すならこんなとこか?」


 「相変わらず人の内面を抉るような眼だな」

 こいつの“心眼”の洞察力には恐れ入る。


 「いいや、不良品だよ。陛下の心は見えなかったし、オルレアン公を死なせたのは俺の人生で最大の失敗だった。こんなのは”心眼”じゃなくてたんなる”観察眼”だな」

 自嘲か、こいつがそれをするのも珍しい。


 「育ての親と、オルレアン公、お前が死なせたくなかったのに死なせてしまった人物たちか」


 「ああ、ドル爺は、俺が未熟だったが故に、自分の異常性も把握出来ず、自分が普通の人間だと思ってたツケだな。そして、オルレアン公のときは思いあがったが故に、自分の異常性は理解していたが、自分なら全てを見通せるなんて考えていた。陛下が自分より格上の怪物であることを誰よりも知ってはずなのにな」


 「そして、絶望的な状況を打開するために動きまわり、その果てにここに辿り着いた。よく出来た物語ではないか」

 まさに悲劇、誰かが脚本でもしているかのようだ。


 「だなあ、そんなこんなでこの世界をぶっ壊すことを決めた“ヴェルサルテイルの二柱の悪魔”が誕生したわけですが、その対極にいる“光の虚無”殿に何かあったんかな?」


 「ああ、これだ」


 資料を手渡す。本来ならフォルサテ大聖堂の金庫の中にあるはずの書類だが。



 「ふむふむふむふむ」

 速読していくハインツ、こいつが修めていない技術などあるのかどうか疑問だ。



 「なるほど、これはなかなか、教皇殿もハルケギニアが孕む危険には気付いていたわけか」


 「そして、対策を致命的に間違えているというわけだ」

 このハルケギニアに起こっている現象をよく理解してはいる。そして、災厄から逃れるために、全ての民を地獄に落とそうとしている。


 「なるほどね、“聖地”に何があるかは教皇も知っていたか。ま、『ゲート』が残されている時点で聡い者ならある程度の予測は立つんだろうけど」


 6000年以上前に始祖ブリミルが遺した大駆動式が“聖地”にはあるという。

 主な機能として、“あるもの”を感知し、『ゲート』を活発に起動させる。また、担い手の候補を覚醒させ、秘宝とルビーと接触することで目覚めるというシステムを駆動させる。

 さらには、四の四が揃った時には大魔法陣となり、強大な“虚無”の行使をも可能にするとか。


 「かつて、エルフが伝える“大災厄”、陛下の虚無研究によれば『時空震』か、それをこの世界から弾き出したのがブリミルの虚無であり、“聖地”の大駆動式はその名残といったところだったか?」


 「まだ仮説段階だが、そう間違ってはいないと思う。もっとも、エルフにとっちゃブリミルが“大災厄”を呼び込んだようにしか見えなかっただろうが、だからこそ“シャイターンの門”を今も封印しているんだろう」


 「この世界の力の源である精霊、それを消滅させることで“向こう側”の力をこの世界に顕現させる時空間法則の更に上位の法則。最初に聞いた時は何の冗談かと思ったぞ」


 荒唐無稽にも程がある。しかし、陛下の“加速”、“再生”、“現神”などを目の当たりにしては信じざるを得ん。


 「ま、多分教皇はそこまでは知らないだろうな。けど、精霊の力を完全に消滅させる力であり、四系統とは根本から違う力ってことには気付いているわけか」


 「そこまで気付くだけでも大したものだ、が、その後がいかんな」


 正確には根本を間違えているのだが。


 「火竜山脈の一部がいずれ持ちあがる、ハルケギニア地中深くに存在する「風石」の力によって。これを教皇等は“大隆起”と呼び、アルビオンがかつての“大隆起”の名残であることも知っているようだ」

 ハルケギニアの地下深くには大量の「風石」が眠っているという。

 通常、人間が鉱石を掘り出す深さはせいぜい地下200メイル程度だが、それらは1000メイル近い深さにある。

 人間が掘りだすことは不可能であり、それらが何らかのショックによって発動すれば大陸クラスの土地が持ち上がるという。


 かの浮遊大陸アルビオンはその名残、数万年前に「風石」の大鉱脈の力によって切り離された大陸の一部。


 「なーるほどねえ、アルビオンの「風石」資源が豊富なのはそりゃ当然だ。地中深くに存在した膨大な量の「風石」が地表近くに持ちあがってきたことで大陸クラスで持ち上がったわけだしな。地表近くに「風石」の鉱脈があるのは当然の理屈」


 「そうなると、人間が「風石」を消費し続ければアルビオンは落ちるということか?」


 「いや、シーリアやアイーシャら翼人達に聞いてみたところ、人間が使うペースよりも、上空の風の精霊力によって「風石」が結晶化していくペースのほうが速いらしい。最も、アルビオンの人口が増大して、もっともっと鉱山を増やしたりしたら未来は分からんけど」


 「なるほど、“知恵持つ種族の大同盟”が目指している“育てる鉱業”とやらの究極系だな」


 「そういうこと、海の魚だって獲り過ぎなきゃまた増える。森のキノコや山菜もある程度残せばまた増える。しかし、根こそぎ取り尽くせばもうとれなくなる、要はそれだけの話さ。だから、ガリアの「土石」鉱山の廃坑に今コボルト、レプラコーン、土小人、ホビットの方々が手を加えている。数百年後にはまた採れるようにな」


 人間と先住種族。自然から奪うか、自然と共に生きるか、そこが最大の違い。

 人間は奪うしか能がない種族、エルフが蛮人と見下すのも無理はない。そもそも、エルフが見下すのは人間だけだ。


 「しかし、人間がやると、採りつくして後は放置か。人間とは素晴しい種族だ、このような種族は他に例がないな」


 「だよなあ、赤子を殺したり、女子供を村単位で虐殺したり、非道を挙げればきりがない。そんでまあ、そんな人間が大陸の“大隆起”によって住む場所を失えば何を始めるか、考えるまでもないなあ」

 確かに、誰でも分かる。


 「残された土地を巡って果てしなく殺し合う、か。さしずめ教皇殿はじめ虚無の使い手たちは、それを食い止めるために神に選ばれた使徒というわけか」


 「そういった自然の脅威から善良なる人々を救いだす使命と力を我は神より与えられたのだ、ってとこかね。ルイズは聖女、テファも聖女かな。しかし、残りの一人が大問題、別に“大隆起”なんて起こらなくても、民を大虐殺するような狂王なんだから」


 そこを教皇は致命的に間違えている。


 「そもそもの問題は“大隆起”ではない。それが起こっても土地の半分は残る、6000万の人間が生きるには十分な土地だ。それに、浮遊大陸アルビオンの例のように、浮島の上に誰も住めなくなるわけでもない。問題は、国境というものが希薄になったとたんに領有権を主張し、争いを始める人間の本質にある」


 「他者(自然)から奪い続けない限り繁栄できない生物、それが人間。“大同盟”の各種族に“大隆起”のことを話しても、『へー、そんなことがあるんだ』くらいの反応しか返ってこなかった。ここらへんが違いだなあ」


 「そういった人間の性をわきまえた上で、効率よく、かつ、出来る限り秩序が保たれるような制度を考案し、それを稼働させ、破るのもを処罰するのが為政者というものだ。その点で言えば教皇は“無能”の一言に尽きる」


 「そりゃ無理な話だ。人間にオーク鬼の効率的な恋愛の手引を考えろって言ってるようなもんだぜ。教皇には善しかない、悪行を成す人間の心が理解できないんだから、人間のそういう部分を前提にした施策なんて出来るはずがない。あってもそれは理想論にしかならない、教皇のような人間しか守れない制度なんて何の意味もないんだよ」


 能力がまるでないわけではない、むしろ、有能な部類なのは確かだろう。


 「教皇が現在ロマリアで行っている政策は実に見事なものだ。現在の自分の力の限界をわきまえ、出来る範囲で難民の救済に当たっている。しかし、あれは彼にとって施策ではなく、その場しのぎでしかない、目指す場所ははるか遠くに」


 「そして、目指す場所を間違えてると。皮肉なもんだなあ、その場しのぎであり、彼にとっては不本意極まりない政策が、最も現実には素晴らしいものなんだから」


 だが、こんな皮肉はまだ序の口だ。


 「“大隆起”、すなわち、自然の力による強大な災厄の存在を知ってしまった教皇は、なんとかしてこれを回避する方法を考えた。“虚無”を自分が授かった意味、その自分が“大隆起”のことも知ったことの意味、それらをまとめて彼が導いた結論が」


 「“虚無”は一つに纏まらねばならない。異教徒(エルフ)に奪われし“聖地”を取り戻す。そして、その大魔法陣と集まった四の四の力を以てして、ハルケギニアの地下の精霊力(災厄)をはらう、か。く、くくく、くくくくく」


 言葉の途中で笑いだすハインツ。


 「く、くくく、ははは、ふははは」

 俺も笑いだす、そろそろ我慢の限界だ。



「「 はははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!! はーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!! く、くくっくくくくくくくっくく、は、はははははははは 」」



 笑い続ける俺達。


 「「 はははははははははははははははははははははははははははははは!!! く、くくくくくくくくくくくくくくくくくくくく、あーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!! 」」




 「「 間抜けの見本だな!!! 」」


 最後は見事にハモった。



 「凄い! 凄い! 凄過ぎる! その結論に至る教皇様最高! あり得ない! ドンだけ阿呆なんだよ!」


 「素晴らしい! 素晴らし過ぎる! 究極の道化だな!! 俺達を笑い殺す気か! ははは! はーっはっはっはっはっはっはっはっは!!」


 ここまで滑稽な話は聞いたことがないな!


 「おおーい、イザーク、聞いてくれるか!? 実はさあ、ウェストウッド村の子供達にもこの問題を話したことがあるんだよ!」

 腹を抱えながらハインツが叫ぶ。


 「おお! 是非聞かせてくれ!」


 それは面白そうだ。


 「えーと、子供が相手だからかいつまんでわかりやすく説明したんだわ。それで、その辺のくだりを再現してみるな」


 それで、ハインツが芝居を始める。


 『よーしお前ら、今日はちょっと問題を出してやろう』


 『問題?』

 「実際には5人くらいの声がハモっていたんだけどな」


 「その辺の解説は省け」


 『そう、人としてどうあるべきかという問題だ。だけど、簡単だからすぐわかる、いくぞ』


 『はーい!』


 『あるところに、人間村とエルフ村がありました。エルフは知ってるな?』


 『テファお姉ちゃんのお母さん』


 『正解、それで、エルフは精霊と仲良しで、その力を借りて色んなことが出来ました』


 『テファお姉ちゃんの指輪?』


 『そう、あれは友達の水の精霊に頼むんだ。どうか、この人を治してあげてって、優しさがあればこそだな』


 『テファお姉ちゃんは優しいよ』


 『うむ、その通りなり。それで、人間は精霊さんとは仲良しではありません。というのも、声が聞けないのです。その代わり、自分たちだけの魔法を使うことが出来ました』


 『ハインツ兄ちゃんだー』


 『これまた正解、似たような力ではあるけど、出来ることは精霊の方が多い。雨を降らせたり、良い風を吹かせたり、温かい家を作ったりと、精霊の力とはそれはもう便利なんです。人間にはそこまではできません』


 『ハインツ兄ちゃんの友達の人達だね』

 『この前お風呂作ってくれた』


 『そう、ああいった色んなことが精霊の力を借りれば出来るのだ。そして、森の木々や、魚や獣が生きるためにもこの精霊の力はなくては困ります。人間は野菜や魚や肉を食べて生きてますから、それがないとお腹が空いて死んでしまいます』


 『精霊さんは大事』


 『ですけど、時には嵐をおこし、地震をおこし、洪水をおこし、そして竜巻、こういった恐ろしいこともまた精霊によるものです。彼らも生きてますので、いつもは穏やかですが、時には暴れたくなることもあるんです。エルフはお友達なので精霊をなだめることが出来ますが、それが出来ない人間は精霊が暴れた際に何もできません』


 『友達になれればいいのにね』


 『その代わり、精霊を殺すことは出来ました。そして今、とっても大きな精霊の災害が迫っております、火山の大噴火です。このままでは溶岩に呑まれて人間は皆死んでしまいます。さあ、どうすればいいでしょうか?』


 『簡単だよお~』

 『うん、簡単簡単』


 『ほう、どうすればいいかな?皆で遠くに逃げるかな?』


 『それじゃおうちがなくなっちゃうよ、エルフの人達に頼んで精霊さんを落ち着かせてもらえばいいんだよ』

 『そうそう、エルフの人達は精霊さんとお話が出来るんだから、エルフの人達にお願いすればいいだけだよ』


 『おお、正解だ。だけど、精霊を殺しちゃうことも出来るんじゃないかな?』


 『そんなのだめ、精霊さんがかわいそう』

 『それに、精霊さんがいなくなったら皆困っちゃうし、エルフの人達が悲しむよ』


 『そう、その通り。自分に出来ないなら友達の力を借りる、これが重要だ。そして、自分で出来ることで友達に恩返しをしてあげればいい、助け合うのが友達だからな』


 『はーい!』





 「とまあ、こんな感じだった」


 「童話でありそうな話だな」

 実に基本的であり、まさに、子供でも答えが分かる。


 「だろ、人間には“大隆起”はどうにもできない、だが、精霊力を操る先住種族にはそれが出来る。特に、この世界の精霊力を管理しているエルフにはな、だから、エルフにお願いすりゃいいんだよ。そもそも、エルフのサハラで“大隆起”が起こらないのは何故か?」


 「エルフが精霊の力を管理しているからだな、だからこそ、サハラは「風石」資源が豊富だ。自然のバランスが崩れる程に一箇所に溜まったりしないようにエルフが調整している。そして地下数リーグの深さの「風石」だろうとエルフならば簡単に掘りだせる。何せ、「火石」を掘りだせるくらいだ」


 エルフの技術は人間の遙か上を行く、この大陸において、その恩恵を受けていないのはハルケギニアだけ。


 「流石は外務卿。そうなんだよな、東方(ロバ=アル=カリイエ)にもハルケギニア人と祖先を同じくする人間がいるけど、彼らは“虚無”を持っていない。故に、系統魔法も存在せず、その技術はエルフの模倣になる。つまり、精霊の力を借りる、自然に沿った力に」


 「マダム・シェフィールドがそのように言っていたな。そして、先住種族迫害などを行うのはブリミル教のロマリア宗教庁のみ、要はそのつけだろう。先住種族を追い出し、人間の土地とし、始祖ブリミルの恩寵を享受したが故に、自然の災害を抑える力を失っただけだ」

 自業自得という奴だ。


 「だよなあ、その問題に対抗する技術と力を持ち、実際にやっている隣人がいるというのに、彼らの力を借りず、その技術を教えてもらうでもなく、“虚無”の力で地下の「風石」を消滅させる? どういう発想でそうなるんだろうな?」


 「始祖ブリミルの“虚無”こそが絶対であり、救済であるという前提があるからだろう。しかし、それが実行されればどうなるか、実に興味がある」

 碌でもない事態にしかなりそうにないが。


 「ああ、最悪のケースだ。“大同盟”の方々に聞いてみたけど、そんなことをしたら、ハルケギニアは「風」の力を大幅に失うとさ、つまり、空気の流れがなくなる、とまではいわんけど非常に悪くなる。停滞しまくるわけだ」


 それはつまり。


 「雲が発生しなくなる、動かなくなる、ということか?」


 「正解、ついでに「水」、「火」、「土」も「風」を失うことでバランスが崩れる。雨が降らない上に大地の属性が変わるんじゃ、作物が育つわけがない、最悪砂漠化だ」


 「しかも、「風」と「火」が強い故の砂漠ではなく、「風」がなく、その他が狂う故の砂漠。さながら、生命の無い“死の砂漠”といったところか。教皇はハルケギニアをそれに変えたいわけか」


 「日照りに次ぐ日照り、干ばつに次ぐ干ばつ、「水のトリステイン」はまだしも、ゲルマニアとロマリアは壊滅的、「土のガリア」もやばい、そうなれば食糧難となり、何が起こるか?」


 うむ、素晴らしい光景になりそうだな。


 「土地を巡っての不毛の戦争を回避するために、“死の砂漠”と食糧を巡っての血みどろの戦争を生むわけか。そして、唯一無事なのはアルビオン、ここが最大の激戦地となるな」


 「地獄の具現になりそうだなあ。いやまあ、教皇も凄いよ、まさしく慈悲、まさしく戦争の終わり。“人間が全員死んでしまえば”戦争なんて起こらなくなるさ」


 確かに平等であり、二度と争いは起こらなくなる。真の平等とはそういうものだ。


 「ここまで来ると感心するしかないな。自分の欲ではなく、あくまで人のために尽くす教皇。その祈りが、愛が、純粋であればあるほど、人間は破滅に向かう。さしずめ、“邪悪なる聖者”といったところか」


 「“光の虚無”とはそういうものさ、人間を愛すれば愛するほど地獄に引きずり込んでいく。そして、“闇の虚無”は真逆、人間を憎み、憎めば憎むほど殺していく負のスパイラル。そして、元々は人々のための祈りであったブリミルの“虚無”を歪めたのもまた人間であり」


 「その胎盤がここというわけか、だからお前はここにいるのだな」


 こいつは秩序を破壊する者、平和の時代には災害にしかならない。

 しかし、“輝く闇”たるこいつは闇すら歪める、闇を光に歪ませる男。

 あくまで歪ませる、本来闇であるべき者を、強引に光に歪ませる。俺のように。


 この俺が、虐げられた“穢れた血”のために外務卿となって働いているなど、一体なんの冗談なのだか。


 “毒を以て毒を制す”とはよく言ったものだ。


 「しかしイザークよ、こういう表現はどうだ?“神の道化”」


 「それもいいな、つくづく人間というのは毒にしかならない生き物なのだな」


 「“知恵持つ種族の大同盟”の皆と話すと特にそう思うな、この世界が一つの生物だとしたら、全ての生物はそれを構成する細胞か、もしくは微生物。俺達人間は癌細胞かウイルスといったところだな」


 癌細胞にウイルス、どちらもこいつの世界の医学で解明された存在だったか。


 「“人間は単体ならば多種多様で素晴らしい存在もいる。しかし、国家などの集団になると碌でもない考えしか出来なくなる”。大同盟においてお前が提議した『人間最低説』の骨子だな」


 「そうそう、その最大派閥であるブリミル教、その中心のロマリア宗教庁の教皇はその具現だよ。どこまでいっても人間のために他を食い潰すという発想にしか至らない。自分のことを第一に考えるから。他者との協力が重要だなんてのは、子供でもわかるのにな」


 「本当に救いがない存在だな“光の虚無”は、毒にも薬にもならん。ほうっておけば災厄にしかならず、排除しても後味の悪さしか残らん。純粋に教皇を心酔している者達はさぞや排除した者を憎み、どこまでも憎しみの連鎖は続く」


 「ところが、“闇の虚無”は分かりやすい絶対悪だ。人々のための“光の虚無”と違ってどこまでも自分のため、そのためだけに世界を滅ぼそうとする。だからこそ、皆で力を合わせて打倒する。その中心となった者達は英雄となり、その後の世界のリーダー的存在になるな」

 毒を薬に変える典型だな、分かりやすい悪とは、人々の意思を束ねる最も簡単な方法だ。


 「陛下の“舞台劇”の基本はそれだな。絶対悪は陛下であり、それを打ち破る英雄が平賀才人とルイズ・ヴァリエール、そして、お前の妹などの友人達」


 「よく日本語発言を正確に出来るな、まあそういうわけで、主役が勝てば『英雄譚(ヴォルスング・サガ)』、絶対悪たる陛下が勝てば『恐怖劇(グランギニョル)』になる」


 「ところが、そこにトリックスターのお前が加わることにより、『茶番劇(バーレスク)』となるわけだ」


 「やっぱ最後は問答無用のハッピーエンドが一番。もっとも、脚本・演出が悪魔二人だから俺達二人が気に入った連中のハッピーエンドだけどな」


 流石は“二柱の悪魔”。


 「それでいいだろう、最高(ベスト)を目指せば教皇のようになる。人間世界においてそのようなものがあるのなら、それこそ全員死ぬくらいしかあり得ん。ならば、よりよい(ベター)を目指す、目指し続ける。例え届かなくとも、追うことは出来るのだから」


 「求めることと追うことは違うか、まあ確かにその通りだな。とはいえ、まだ舞台劇は序盤も序盤、中盤たるアルビオン戦役が始まってすらいない」


 「だが、準備は済んだのだろう? そうでなければお前がここにいるものか」


 「ま、外交的な部分はな、それで、ちょっと“シュトゥルムヴィント”を使おうかと思ってここに来たわけ」


 「あれをか、なるほど、最終作戦(ラグナロク)で使用する生物兵器の実験場にするわけだな」


 「ああ、途中で“レスヴェルグ”の試作型とかも試そうかと思ってる。神聖皇帝クロムウェルの“虚無”で作られた新兵器ってふれこみでさ」

 相変わらず無駄がない計画だ、使えるものはどこまでも利用するか。


 「『アンドバリの指輪』は先住の力の結晶、ある程度のごまかしも利くか」


 「そ、原理は似たようなもんだし、次の演目の開幕も近いぞ」


 「結婚式まであと12日程か、一応は俺もウィンドボナへ出発はするが、完全に徒労になるだろうさ」

 しかしこれは仕方ない。結婚式がなくなることを事前に知っていたということを表には出せん。



 「ま、見せ場の一つではあるし、面白くなるとは思うよ。流石に本番に比べたら前哨戦にもならないだろうけど」


 「60万以上の兵を動員するのだったか、まさに前代未聞だ」


 歴史の大きな転換点になる。


 「ところで、“大隆起”とやらの対応はどうするのだ?」


 「もう始めてる。土小人、レプラコーン、ホビット、コボルト組で穴掘って、翼人と妖精で「風石」を制御してもらう。結晶化した「風」が「風石」になるなら、逆に溶かすことも出来るだろ、半月もあれば火竜山脈全体はOKだって。そして、エルフの全面的な協力と、先住種族が表立って働ける環境があれば、1か月で問題は解決できるとさ、頼りになるねえ」

 能力があるものがそれぞれの全力を発揮できるよう“場”を整えることがこいつの本領だったな。そういうことをやらせれば右に出るものはいない、陛下すらを凌ぐだろう。

 
 「何とも滑稽な話ではないか、数千年も“聖地”とやらを追い求め、今回は“虚無”まで持ち出そうとしているというのに、ブリミルなど信仰せず最初から協力していれば1か月か」


 「というか、共存してたらそもそもこんなことになってない。エルフの人達なら地中の「風石」を簡単に制御できるし、じゃなきゃサハラは不毛の砂漠だし、砂漠を緑化して住むなんてエルフ以外には不可能だ」


 「その力を以てして作るのが例の“ヨルムンガント”か、恐ろしい兵器になりそうだな」


 陛下も設計に携わっているという話だ。生半可なものではすまないだろう。


 「ま、完成は技術開発局待ちだな。しかし、ヴィットーリオ・セレヴァレという存在は本当にもったいないな。“虚無”の呪いがなければ素晴らしい人間になっていただろうに」


 「ならば得意の改造でも施したらどうだ?“虚無”に関する全ての記憶を破壊し、純粋な個人に戻す。さすれば本来の聖者に戻れるかもしれんぞ、愛すれば愛するほど人を地獄へ落とす“邪悪なる聖者”いや、”神の道化”だからな」

 俺やこいつにような生まれついての闇とは完全に逆の特性なのだから。


 「それもいいかもな、ところで、ヴィンダールヴの方はどうなんだ?」


 「あれはただの小者だ。いや、凡人と言うべきか。ただの凡人でしかないのに使命感に燃え、自分を殺し、そんな自分に陶酔しているだけの間抜けだ」


 「そこまで言うかい」


 「俺はああいう者を好かん。奴には確固たる己が無い。ただ、何も無かった孤児院のガキが“光の虚無”に憧れた結果に過ぎん。異端というのもはどちらのベクトルであれ人を惹きつけるものだ、あれはそれに惹かれただけの塵芥だ」

 ヴィンダールヴである以上その方面の才能はあるのだろうが、それ以前の問題だ。


 「なるほど、教皇が自分の顔を失ってしまった青年なら、そんな存在に憧れて顔が無い仮面を被っているだけのガキというわけかい。そして、本物はどこまでも平凡、別に平凡が悪いってわけじゃないけどな」


 「確かに、俺、お前、陛下に比べればはるかにましな人種だ。しかし、つまらん、その一言に尽きる。俺達には異常者の誇りがあるように、凡人には凡人の、弱者には弱者の誇りがあろう。それを誇らず、現実から目をそむけ、理想に逃避しているだけのガキ。平凡さを自覚しながらも、自分に出来る全力を尽くす者達もいるというのに」


 「クロさんとかがその例だな。あの人は超特殊な技能をもってはいるけど、容量そのものは普通だ。だけど、皇帝としての責務を果たしてる。骨身を惜しまず働いている。平民ですら、自分や家族の生活のために働いている。だが、ヴィンダールヴにはそれが無いわけか」

 「ある意味被害者でもあるがな、要はロマリアという国に捧げられた生贄だ」


 誰かがそうなるようなシステムであり、たまたまその少年が当たっただけの話。


 「そう考えると、才人は英雄の気質を持ってるな。ま、だからこそ導き役としても気合いが入るんだが、っと、そろそろか」

 近くにあった大鍋からとてつもない量の煙が噴き出した。


 その中には、赤黒い結晶のようなものが存在している。


 「それが例のものか」


 「そ、“シュトゥルムヴィント”の心臓部になる。主原料は「風石」だけど、当然他にも色々混ぜてある。聞きたいか?」


 「やめておく、飯がまずくなるだけだ」


 「そっか、人間の心臓はひとつだけだ」


 「人の話を聞けお前は」

 嬉々としながらそんなものを振り回すな。


 「さーて、そろそろ行くかな、才人達の“宝探し”のプロデュースもせにゃならんし」


 「…………最近、眠っているのか?」


 「いいや、心臓に「水石」の結晶を埋め込んだから睡眠をとらなくても活動出来る、イザベラには内緒だけど。ま、気が向いた時には寝ることもあるかもな」


 そして、『ゲート』をくぐってハインツは去って行った。

 ここの『ゲート』は一方通行であり向こうからは来れない、そして、繋がっている先は北花壇騎士団の本部。



 「やれやれ、妹に甘いのは相変わらずか」

 悪魔であるあいつの唯一のウィークポイントが妹二人。そこを抑えることで陛下はハインツを玩具にしているようだが。


 もっとも、完全な妹なのは下の方で、上の方には妹以外の成分もある。最も、通常の男女の中に当てはめることが出来る関係ではなく、特殊極まりない。


 「さて、こちらにも仕事はある。そろそろ外務省へ向かうか」


 外交関係については俺に一任されており、俺が承認を得る相手は宰相にして団長のイザベラ・ド・ガリアと陛下の二人のみ。

 そういった面でも俺とハインツの立場はあくまで対等。官位では俺がやや上、爵位ではハインツが一つ上、総合的にはそう変わらない。

 だが、現在のガリアにおいては王族の血をひくという決定的な差がある。



 「が、それもあと1年程か、その頃にはガリアは共和制に変わり、王家はその歴史に幕を下ろす」


 陛下とハインツがやると言ったからにはそれは既に決定事項、決して覆ることはない。


 「俺は、後世の者達からどのような評価を受けるのだろうな?」


 そればかりは歴史が示すこと、俺が知る手段はない。


 俺は人間として生き、人間として死ぬ、それだけだ。


 だが、あの二人はどうなのだろうか?


 悪魔としていつまでも気楽に遊んでいるような気もするな。




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 怒りの日の完全版の影響を受けまくってる今日この頃です。もともと受けていましたが5割り増しくらいになりました。

 教皇聖下の行動って、初期のFF、クリスタルシリーズ(ⅢとかⅤ)で、巨大竜巻が起こって、えらいことのなりそうだから、風のクリスタルをぶっ壊すような暴挙だと思うのですがどうか。






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