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No.14338の一覧
[0] 【ネタ】 降り頻る雨の中で (H×H 転生 オリ主 TS R-15 グロ)[ブラストマイア](2010/03/07 04:48)
[1] プロローグ[ブラストマイア](2009/11/28 22:16)
[2] 第一話[ブラストマイア](2009/12/02 00:15)
[3] 第二話[ブラストマイア](2009/11/29 20:25)
[4] 第三話[ブラストマイア](2009/11/30 20:43)
[5] 第四話[ブラストマイア](2009/12/01 20:46)
[6] 第五話[ブラストマイア](2009/12/04 03:25)
[7] 第六話  幕間[ブラストマイア](2009/12/06 22:51)
[8] 第七話[ブラストマイア](2009/12/06 22:52)
[9] 第八話[ブラストマイア](2010/03/07 04:43)
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[14338] 第五話
Name: ブラストマイア◆e1a266bd ID:fa6fbbea 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/12/04 03:25


 暗い森の中。この奥に居るだろう“化け物”の“駆除”を依頼された一行は、愚かにも村から離れていた男を仕留めた。
 事前の情報通り念能力は覚えているようだったが、そのレベルはさほど高くない。このハンターハンターの世界に稀有な才能を持った存在として生れ落ち、狩り人として合法的に殺人を犯しながら念能力を鍛えた3人にとっては、この程度ならば容易い相手であった。
 リーダーであるヨコヤマは己の右の頬にある傷を撫でると、邪悪な笑みを浮かべたまま死体へと近寄り、迷彩柄の服から刃渡り20センチはあろうかというコンバットナイフを取り出した。他人を傷つける事をまるで気にせず、猛禽類のように発達している死体の左腕を根元から切り落とす。
 滝のように血を流すそれを掲げて鼻を鳴らし、汚らわしいとばかりに残った死体を蹴り飛ばすと、後ろに控えているサポートメンバー……彼らの間での呼び方は「奴隷」……へと無造作に放り投げた。


「アナ! 保管しとけよ! 落としやがったら、ただじゃおかねえからな!」


 アナと呼ばれた少女は胸に飛び込んできた肉の塊に打たれて息を詰まらせ、ひっくり返って高等部を強打したが、それでも落とすまいと必死に抱きとめる。
 まだ幼さの残る血飛沫がつき、少女は上げそうになった悲鳴をかみ殺した。不用意に叫んだりすると、彼女を虐める事を愉悦としているサクジョーの注意を引くからだ。まだ暖かいそれに震えながらもアナは後ろへ引っ込んでいき、その無様な姿を見たヨコヤマ達は揃って蔑みの視線を送った。


「ハッ! いつ見ても鈍い奴だ。役立たずめ」
「違いねえ! なんたってアナだからな。ただの穴ぼこだ」
「おいおい、その穴ぼこを一番利用しているお前が言うなよ、サクジョー」


 幸先よく獲物をゲットして上機嫌な彼らはゲラゲラと笑い声を上げながら嘲笑し、重い荷物を背負わされて転びそうになっている奴隷一号へと蹴りを入れた。
 たまらず膝を落としたそれを罵倒し、更に蹴りつけ、無理やりに立たせて歩かせる。まったくもっていつも通りの行動である。
 奴隷たちはある程度の頑丈さを求められ、纏だけは強引に覚えさせられているものの、鍛えていないので常人とほぼ変わらない。これは万が一にも反抗できないようにする措置であると同時に、頑丈さを上げて奴隷としての利便性を高めるためであり、暴力を好む彼らにとっては優秀な玩具だった。


 3人はまだ20歳にも満たない若者だったが、そこらに居るマフィアなど歯牙にもかけないほど強烈な悪意を身に秘めた人間であった。
 前世の時点でも万引きによって潰した店の数を仲間で自慢しあうような性質の悪さであり、この世界に生まれ変わって絶大な暴力を手に入れてからは水を得た魚のように悪意を振り着続けている。何かの偶然なのかとある孤児院で揃って覚醒した彼らは、持ち前の狡賢さを発揮してたちまちの内にヒエラルキーのトップへとのし上ると、施設内でも集団で暴行や恐喝といった犯罪に手を染め、ある程度の力をつけ脱走してからは強盗も殺人も何でもやった。

 念を覚えていた彼らは向かうところ敵なしであり、地元に巣食っていたマフィアの一員となってからは、利益がいいからと薬物の販売にまで手を出した。その手口は幼い子供を薬漬けにしてバイヤーに仕立て上げ、警察が嗅ぎ付ければ簡単に生贄として差し出すという悪質極まりない手法であった。
 治安を守るべき彼らのトップはコミュニティーと散々に癒着しており、捕まえた子供こそが真犯人であるかのように重罪人にされ、時にはその父親や母親もいいスケープゴートとして活用された。

 その内に使われる立場というものに嫌気がさした3人は、武器である念を最大限に生かしながらハンターライセンスを取得。金のためなら何でもやるハンターとして動き出し、無意識にしろ意図的にしろ悲劇を振りまきながら各地を放浪している。
 またライセンスを生かして会社も設立し、事業は貿易行と名乗っておきながら、その実は麻薬取引と人身売買であった。今彼らの後ろに居る奴隷もそうやって手に入れたものであり、特にサクジョーのお気に入りであるアナなどは、真面目な会社員であった父親を薬とギャンブルに溺れさせて強引に手に入れたのである。
 頻繁に強姦されているために体中にアザがある彼女は、持ち主であるサクジョーの暇潰しという理由だけで体を売らされる事も度々あった。


「にしても、人体収集家って奴の気が知れねえな。こんなゲテモノのどこがいいんだか」


 10歳前後の未熟な少女を最も好むシンジは、殺るにしても犯るにしてもメスガキがいい、と茶化しながら笑う。
 奴隷の中には彼専用の女も多数存在し、ほぼ使い捨てのように扱われていた。

 やがて先ほどの男を拷問して得た情報によって“狩場”が近づいてきた事を知り、後ろに居る一人に持たせていた組み立て式の発射台を奪い取ると、猛毒のガスや高性能爆薬が詰まった弾をごろごろと並べる。どれも強力な物で、一部の国では条約によって使用が禁止されている物までもが含まれていた。
 
 念能力者とはいえ人間なので、どれほどのオーラを纏っていても炎や毒や電気などへの耐性は上がらない。ゴム鉄砲と対戦車ライフル、同じ量の念を込めるのならどちらが強くなるかは一目瞭然だろう。元来強力な破壊力を持つそれらは、遠距離から敵を一方的にいたぶるには最高だ。
 シンジは放出系の能力者であり、その能力 『姿無き爆撃機(リトルボーイ)』 は念を込めた弾の威力や効力を強化するほか多少の誘導性を持ち、最初の一発は炸裂した場所で自動的に円を展開、その内部にガスを留め拡散を防ぐ作用もあるため、生物に対しては非常に効果的だった。

 組み上げられた発射台に、彼自ら調合した毒を封入してある砲弾を装填し、ボシュッという短い発射音を残して飛んでいったそれを期待を込めて見送る。
 やがて遠くで破裂音が引き、毒ガスで苦しむ村人の苦しみ感じ取ったのか、シンジの顔に悪魔じみた表情が浮かんだ。




 夜空を切り裂いて飛来した一発の砲弾によって、村は地獄と化していた。
 空気よりやや重い毒ガスは白い闇となって村を覆い、まず換気口を通じて戦闘力のない者たちが隠れている地下に充満したのだ。
 多くの母が子を守ろうと必死で抱きかかえたが、ガスによって異常な痙攣を繰り返す両腕は、彼女が守ろうとした赤子をその手で絞め殺させた。父親は体を矢のように反り返らせながら胃の内容物を吐き出し、苦悶の表情のまま自らの喉を掻き毟り、深く肉に突き刺さった爪が剥げ落ちようとも手を止める事はない。

 この世の終末を思わせるような光景であるが、地上は更に酷い状況に陥っていた。

 猛毒のガスに犯された人間が篝火に激突し、生きた松明となって転げまわり、やがて動かなくなる。尋常でない動きで全身を痙攣しながら胃の内容物を全て吐き出し、苦悶の声を上げながら陸上で溺れる人間が続発する。なまじ生命力の高い戦士はすぐに死ぬ事が出来ず、地獄の釜の底から響かせるような呻きを上げ続けた。
 一部の毒に対する抵抗力が高かった者だけが対応に動く事を許され、眩暈や吐き気に耐えながらも戦友を助けようと必死で呼びかけるが、専門の病院にさえあるか怪しいような解毒剤が用意できるはずもない。念能力者によって強化されたガスは悪辣で、死に瀕しながらも妻や子供の無事を祈る戦友に対し、安らかに眠らせてやる事すら不可能だった。


「チック! リオール! 畜生! 畜生! なんだってんだ!」


 戦士の一人が涙を流しながら叫ぶ。彼はロプスによって後ろから羽交い締めにされながらも、友を助けるべく毒ガスの中に飛び込もうとしていた。
 普段の彼は温厚そのもの、酒瓶を片手に朗らかな笑顔を浮かべてばかりいるので、ロプスはその男の顔が憎悪に歪むのを初めて見た。


「落ち着け! 全員で動いたら不味い! まずは……」


 言い切られる前に、響き渡る爆音と撒き散らされる炎。
 混乱している彼らには知る由もないが、風上に当たる村の北東側から飛来するリトルボーイがその真価を発揮したのである。
 元にされた名前ほどの破壊力はないものの、事前の円によってある程度の配置などは把握されており、念を込められ威力の増幅された榴弾や、探知の念が込められた照明弾、全く念が篭っていない撹乱用の焼夷弾、次々に村へ飛び込んでくる。村には爆炎と血飛沫で様々な色の花が咲き乱れた。

 普段からリーダーによって統率され動く事が多い戦士たちにとって、前戦士長であるオニットの頭上で爆発した一発はあまりに致命的なものであった。
 弾け飛ぶ彼の脳漿と共に指令系統は崩壊し、村は恐怖と絶叫が支配する混沌の場へと堕ちていく。
 何よりもメンタリティが重要な念使い同士の戦いにおいて、もはや勝負は決まったようなものだ。


「誇りは! やつらに、戦士としての誇りはないのか! こんな手を使いやがって!」


 自らの腕を振りほどいて駈け出したあの男が、榴弾の直撃を受けて大地に転がるのを見た。
 ロプスは悔しさのあまり、自分の目に涙が浮かぶのを感じる。
 ウィールグ村の戦士たちは皆強靭であり戦い慣れしていたが、主に剣や槍、弓などを使用している彼らに現代兵器の詳しい知識などは備わっていない。それに円が解けた事による毒ガスの広範囲への流出や、全くの未知である遠距離からの砲撃という攻撃方法が加わり、その実力の万分の一さえ発揮する事ができなかった。

 いかな能力者であれ生物という枠組みから逃れる事は不可能である。全身が炎に包まれれば大火傷を負うし、酸素を奪われ呼吸ができなければ窒息してしまう。
 どれほどオーラがあって力が強かろうとも、生物的な弱点への攻撃の前には全くと言っていいほど意味をなさなかったのだ。
 念能力は使用者のイメージに強く影響を受ける。多少皮膚が溶けようとも山のごとく構える者と、指先に感じる熱さにさえ恐怖している者では、耐えられる熱さに業火とマッチほども違いが出る。正面からであれば耐えられる攻撃でも、恐怖で逃げている最中に背中に食らえば、致命傷になりえる。


「俺は……俺は村を守るんだ! ルゥを守るんだぁぁ!」


 ロプスは全身からオーラを漲らせ、拳が壊れるほど強く握り締めながら吠えた。
 再び飛来した悪魔の子を一歩も引かずに睨み据え、落下地点に素早く回り込むと、オーラを集中させた右腕で薙ぎ払った。
 念によって強化された爆発は恐ろしい威力を秘めている。鉄さえ溶かすような熱が彼の腕の表皮を剥ぎ取り、多大な苦痛をロプスへ与えるが、筋肉が露出して両腕が真っ赤になろうともその行動を止める事はない。1発、2発、3発、次々に襲ってくるそれをただ殴り飛ばし続ける。

 それは周囲への被害を防ぐには効果的な方法であったが、全てを自分のオーラで受けきるなど狂気の沙汰だ。
 10を超えた時には指は僅かな肉を残すだけの骨となり、あれほどの剛腕が見るも無残なまでに肉を剥ぎ取られていた。
 それでも彼は手を止めない。
 守るべき者は死に絶え、仲間は屍となり、村には火の手が上がっている。

 それでも、まだ村はここにあった。

 遠くにはルゥと模擬選をした広場が見える。あいつの頭を撫でてやった通りが見える。ガキの頃に転んで泣いた場所がある。おふくろと歩いた道がある。
 多少燃えてはいても、皆の家はまだ形を残している。まだ村はここにあるのだ。手を止めるわけには行かない。

 馬鹿な事だとは分かっている。余力を使い尽くしてしまうなんて、大馬鹿だとわかっている。でも止められないのだ。ここには思い出が多すぎた。
 自分の腕がなくなる代わりに、村がほんの少しだけ傷つかないのなら、何を躊躇う必要がある? そう、何もないではないか。我等はここで生まれ、森で生き、ここで死ぬ。

 だが、頭のどこか冷静な部分がこう囁いた。「もう村はおしまいだ。お前も分かっているんだろ?」それを聞き入れる訳にはいかない。
 約束したのだ。あいつに告白したとき、俺がハンターどもを追い払って、何事もなかったように迎えてやるのだと。そしたらルゥが「私も戦いたかったのに!」と言ってくるだろうから、いつものように頭を撫でて茶化してやればいいのだ。それで何もかも元通りではないか。


「ああ? まだ生きてる奴がいたのか」


 いつしか砲撃は止み、彼の前に男が立っていた。
 酷い怪我のために集中力を欠いていたとはいえ、易々と自分の間合いに入って来られたのは初めての経験である。
 ロプスは体からオーラを搾り出して集め、頬に傷のある邪悪なオーラを纏っている男を睨み吸えた。直感的にこいつが村を襲った相手の一員である事に気づき、その男の手に仲間の肉体の一部があるのを見て反射的に腕を振り上げたが、あっけないほど簡単に受け止められた。

 ついに得た復讐の機会だというのに、消耗しきったその体では立っている事さえ難しい。
 オーラの篭った蹴りを食らい、轟音を立てながら焼け落ちた家の壁に背が当たる。
 燃え尽き炭化したそれが背中の肉を焼いてジュージューという音をたてたが、ロプスにはもう体のどこが焼けているのかさえ分らなかった。


「チッ、損傷が酷すぎるな。これじゃ売り物にならん……。余計な手間をかけさせやがって」


 男の腕から伸びるオーラの刃が自分の胸に突き立つのを感じた。
 一際大きな熱さが胸を割り裂いて侵入してくる。

 明らかな致命傷だが、ロプスにとってはそんなチンケな刃などより、自分らを単なる金になる息もとしか思っていない事にこそ大きな衝撃を受けた。
 彼の中で戦士の誇りが崩れる音を聞き、この程度の奴らにこの村が負けたのだと思うと、体の傷とさえ比べ物にならないほどの絶望と虚無感がロプスを包む。

 すぐにでも立ち上がって、あの不埒な者どもを一人残らず皆殺しにしてやりたい。戦士の誇りを見せ付けてやりたい。
 だが、言う事を聞かない体は、ただ友人や家族の遺体を切り刻む彼らの姿を眺めるばかりであった。
 もはや動かすべき指もなく、かけなしの命はすべて血液となって流れ出すばかりだ。あまりにも惨めだった。


 こいつらは……! こいつらは、俺らが単なる金にしか見えていないのか! 畜生! 畜生! 畜生っ!!!


 彼の頬に無念の涙が伝う。
 その執念は凄まじく、ハンターたちがロプスに対し、傷が酷過ぎて金にならないという理由で不良品の扱いを下した後も、まだ生きていた。
 やがて両腕の血は凝固し、垂れ下がった肉片は腐敗を始め、村の上空にハゲタカの群れがやってくる。貪欲なスカベンジャーであるそれらや、ハイエナのような猛獣、知性さえないはずの昆虫も数え切れないほど村に集まったが、ロプスの全身から発される怨念に気圧され、ただの一匹も村に入る事は出来なかった。

 恐るべき執念で行き続け、彼が死んだのは村が襲撃されて15時間後。
 異常を察知したルーが息を切らせながらやってきて、ほんの僅かに言葉を交わした後で、やっと死ねた。







 ルーが思うに、ウィールグ村はあまりいい場所ではなかった。
 だってパソコンや漫画、雑誌などという、前世でお世話になったアイテムは全くと言っていいほどないし、食事だって記憶の中の物と比べると数段は劣るのだ。
 それにガサツで女心の分らない幼馴染は居るし、マッドな一角の医者も居るし、やる事がないから体を鍛えてばかりで、誰も彼も皆単純で、見た目がユーモラスな癖に優しくて、それに比べると下らない知識ばかりある自分が醜く思えて、それでも愛してくれる両親がいて、皆皆大好きで。

 だから、その光景を見たときは何かの冗談だと思った。

 ルーが知らない内に変わり者の映画監督が来て、村の皆はお人よしだから全面的に協力する事になって、ちょっと本気でやり過ぎてしまってスプラッタな光景になったのだ、と信じたかった。自分さえ騙せないような最低の嘘だったけれども、それでも信じていたかった。

 体の一部を切り落とされるか抉り出された死体が村中に散乱し、猛烈な鉄臭さを漂わせている現実を受け入れたくなかった。
 口の辺りからしているガチガチという不快な音が、自分の歯が激しく打ち鳴らされる音だと気付きなくはなかった。

 全力疾走してきたために熱かった体から血の気が引き、凍死しそうになるほど全身が冷えていく。
 脳は現状を理解する事を放棄し、ルーは悲壮な呻きを上げ涙を零しながら村を歩きまわる。まるで幼子が母を求めるように徘徊を続け、燃え尽きた家を見ては泣き、炭と化した同輩を見ては喚き、ついに村の中央部で婚約者と再会した。

 ロプスは酷い有様だった。
 全身の皮膚を剥ぎ取られて赤い肉が露出している有様で、衣服だった物の一部が皮膚と同化して張り付いていた。
 彼の特徴でもあった両腕は長細い棒状の骨付き肉と化しており、時折ルーの紙をくしゃくしゃにした指は一本も残っておらず、それどころか二の腕から先がどこにも見当たらなかった。
 何かの鉄片が左目に食い込んでいて眼球が無残に抉られており、いつも豪快に笑っていた相貌は残らずこそげ落ちていて、いつも見上げていた全身からは炭化した肉の匂いを撒き散らし、明らかに生きている事が不自然と断言できるほどの重症で、それなのにいつもと同じように笑おうとしていた。


「あ、ぁ……。ル、ゥ……。おか、え、り……」


 ロプスが口を動かすと炭化していた頬の肉がパラパラと落ち、無くなっていた右の頬から僅かに空気が漏れる音がする。
 あれほどルーの耳を攻撃し、頭痛の種にだってなりかねなかった彼の声は、今では一匹の蚊が鳴くよりもずっとずっと小さかった。
 反射的に手を伸ばそうとしたルーは、触れてしまった場所から彼の体が崩れていく事に気づき、慌てて手を引っ込める。
 ほんの1か月前まではルーが全力で殴ってもビクともしなかったのに、今は抱擁を交わす事さえ許されなかった。


「あ、あぁ……ああぁぁっ!」


 声に成らない声が漏れる。 「何があったの?」 「どうしてこんな事が?」 「大丈夫?」 「死なないで」 「いやだ」 「助けて」 言いたい事は山ほどあったのに、どれも言葉になってくれない。どうしようもなく役立たずの口は小さな呻きを漏らすばかりで、千億の言葉のうちたった一つさえ伝えられなかった。
 ロプスは狼狽するルーを優しい微笑みで受け止めてくれ、仕方がない奴だとなあとばかりに小さく息を吐き、そして最も残酷な言葉を贈る。


「俺、を……食べ……く、れ……。……の、中、で……生き……。時間、ない……早……」


 俺を食べてくれ。ルーの中で生き続けたいんだ……。彼はそう言っていた。
 一瞬の忘我の後でその意味に気付いたルーは年を忘れ、駄々っ子のように大きく頭を振り、ただでさえ赤い目を更に充血させながら拒否する。
 両目からは涙が滝のように流れ落ち、赤子の時に流さなかった分を纏めて絞り出していた。


「そ、そんなの嫌だよ! 私、ろ、ロプスのこと大好きだもん! そんなのっ……!」


 ああ、言っちゃったな、認めたくなかったのにな。普段のルーなら顔を赤くして誤魔化してしまうような本心も、この時だけは驚くほど簡単に言えていた。
 しかしもう遅い。あまりにも遅すぎたのだ。
 もう少しだけ早く素直になれていれば、そして私がもう少し強ければ……。ルーの心が後悔で埋め尽くされる。 

 少女が細い首を動かすたびに光の粒が舞い飛び、その一滴を口に含んだロプスの体は永遠の潤いを貰ったかのように力強さを増す。絶対に動かないだろうと彼自身でさえ確信していた腕が自然に持ち上がり、少女の頬から涙を拭おうとして……抉れた腕の先端が当たり、血の跡を残すだけに終わった。
 それを見たロプスは、俺というやつは最後の最後まで締まらない奴だなあと笑い、最後の力が抜けて腕が落ちる。


「あああ! 嫌、ロプス! 行かないでっ……嫌ぁぁぁ!」


 ロプスの生を繋いでいた僅かばかりのオーラが解け、ロウソクの火は掠れて消えかけている。彼はヒトからモノへと急速に変わりつつあった。
 このままでは彼が遠くへ行ってしまう。反射的に自らのオーラで彼の体を包むが、既にそんな小手先の治療ではどうしようもない致命傷だ。
 全ての理性を置き去りにしたルーはロプスの体に抱きつき、恐ろしく冷たいその温度に恐怖を感じる。
 千代に乱れた思考は極限の混乱と平静を混ぜ合わせ、愛しい人を放したくないという暴走が加わり、ルーは彼の遺言を実行する事にした。


「嫌だ! ロプス、ロプスまだ行かないで! 私、私が……!」


 鋭い牙の覗く口を大きく開け、ルーは彼の肩口へと喰らい付いた。
 炭化した肉をジャリジャリと音を立てながら咀嚼し、限りなく早く呑み込んでいく。
 大切な彼の欠片が、あの世なんていう場所に連れて行かれるよりも早く! 輪廻転生など糞喰らえだ。私は彼を放さない。彼は私のものだ。死など認めるものか。ああ、早く速く敏速に迅速に急げ急げ急げ! 死神の鎌が彼を連れ去ってしまうよりも早く、この世の理などひっくり返せるほどに力強く!

 常軌を逸したその想いは念能力となって反映され、ルーのオーラに送り込まれたロプスの体は、一瞬にして煙と液体の中間のような存在へと姿を変えた。
 愛しい彼の全てを我が物とするために。ルーは彼の全てを溶かし込んだ海へと口付けし、大地に空いた大穴のように貪欲に呑み込む。


「ああ……! 私の、私の中に……!」


 最も執着を抱いていた彼だからか、断片的ながらもロプスの記憶が流れ込むのを感じた。
 彼が自分を守ろうとした事を知り、ルーは跳ね上げられたように背を反り返らせ、天に向かって吼えた。
 泣きながら笑い、笑いながら泣き、その眼には狂気が渦を巻いている。


「力が、力が溢れる……。そうよ、私が弱いから、この村を守れなかった! ……ならば、強くなればいい! 誰よりも、何よりも! この運命を与えた神さえ、食い殺せるほどに! ふふ、は、は、あははははははハハハ!!!」


 自分がもっと強ければ、ロプスだって認めてくれたはずなのだ。村が襲われているのに気づいたはずなのだ。復讐だってすぐに出来たはずなのだ。ロプスは悪くないし村のみんなだって悪くない。悪いのは弱かった自分。私が弱かったから村はこうなった。だからだからだからだからだから……。
 高笑いを響かせながら村を歩きまわり、そのあちこちに転がっている家族や親戚、友の肉を次々に体へと収める。

 近くに転がっていた父親を、食った。その隣にあった父の友人を、食った。首から上を持っていかれたユーニを喰った。右足がなくなっている親戚の男を食った。両目を抉られた友人も食った。下半身だけ残っていた誰かも食った。形相のまま死んでいる兄も食った。落ちていた右腕を食った。地下倉庫にあった母親も、その胎内いる末の弟ごと喰った。ついに纏を成功させたのだと笑っていた一つ下の弟も、まだ言葉もろくに話せなかった妹も、いつも強気だった姉も食った。誰も彼も見境なく喰った。喰って喰って喰いまくった。

 その度にルーの全身を覆うオーラは力を増し、物理的な圧力さえ伴って迸っていたが、今までは無かった……或いは影を潜めていた……禍々しさと狂乱までもが脈動していた。地獄の釜の底のような悪意の流出に、鳥や小動物はおろか、周囲に存在していた全ての命が逃げ出してく。

 狂った目で見上げた空に、暗鬱な曇天が無数の涙を流すのが映る。
 涙が枯れるほどに泣き尽くした少女の顔を、雨粒が零れ落ちていった。


 少女は泣く。自分が孤独になった事を。

 獣は笑う。自らが全てを踏み台にして高みへと至った事を。

 少女は泣く。最愛の人間をこの手で殺した事を。

 獣は笑う。それを喰って強くなった事を。


 誰も居なくなった村の真ん中で、村人の中の一人であり総てでもある少女は、ただひたすらに哂い続けた。

 こうして一人の少女は死に、その代わりに一匹の獣が生まれたのだ。
 どこでもない、この降り頻る雨の中で。





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