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No.14338の一覧
[0] 【ネタ】 降り頻る雨の中で (H×H 転生 オリ主 TS R-15 グロ)[ブラストマイア](2010/03/07 04:48)
[1] プロローグ[ブラストマイア](2009/11/28 22:16)
[2] 第一話[ブラストマイア](2009/12/02 00:15)
[3] 第二話[ブラストマイア](2009/11/29 20:25)
[4] 第三話[ブラストマイア](2009/11/30 20:43)
[5] 第四話[ブラストマイア](2009/12/01 20:46)
[6] 第五話[ブラストマイア](2009/12/04 03:25)
[7] 第六話  幕間[ブラストマイア](2009/12/06 22:51)
[8] 第七話[ブラストマイア](2009/12/06 22:52)
[9] 第八話[ブラストマイア](2010/03/07 04:43)
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[14338] 第一話
Name: ブラストマイア◆e1a266bd ID:fa6fbbea 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/12/02 00:15
 自然界は弱肉強食。強い者が弱い者を殺して食べる行為はごく自然であり、少女ルー・アーヴィングが “食事” を行ったのも、彼女にすれば当たり前の行為。念能力者の肉や血液は生命力に満ちており、そうでない人間の何倍も美味しいのだ。ルーにとっては麻薬に等しく、無駄にする理由はなかった。
 まずは男の両足を一纏めにしてナイフを打ち込み、より食べ易いように木の上部へと固定する。
 男の体重などルーにとっては羽毛も同然だ。軽く突付いて落ちてこない事を確認し、逆さ吊りになった事で傷口から溢れ出した真紅の蜜を丁寧に舐め取る。ちょうど眼前にぶら下げられた首筋へと顔を埋め、口の端から除く鋭い犬歯を利用して肉を切り裂く。皮膚や筋肉組織を食い千切る音が周囲に響いた。
 ルーは女の子らしさとはまだ無縁な胸が血で汚れる事も構わず、母の胸を吸う赤子のように食事を続ける。


「ああ、もっと、もっと……」


 露出した骨を半ば無意識に噛み砕き、ゴリゴリと暴力的な音を響かせながら咀嚼する。砕いた骨を素手で抉り出し、恍惚と狂気が誘うままに骨髄をも貪った。
 飲み損ねた分の血液はルーの口を真っ赤に染めただけでは飽き足らず、赤い滝となった一部はズボンにまで達する。ルーは頭の冷静な部分で脱いでおけばよかったなあと後悔するが、一秒たりとも行為を止める事はない。どちらかといえば彼女は悪食であり、柔らかさや味などにはあまり頓着しない性質であるため、周囲の肉を食い漁って心臓や肺といった臓器が見え始めた頃にようやく人心地ついた。


「んー。もう少し紳士的……じゃなくて、淑女的な食事マナーを身につけるべきかな?」


 真っ赤になった口を離す。食欲が満たされて冷静になったルーは、赤いペンキを塗りたくったような自分の胸を見下ろして息を吐いた。
 漫画などでは“食事”の風景は血の一滴さえ付着しない綺麗なままの事が多いが、実際に血の滴る肉に口を突っ込んでいればこの有様だ。
 もう少し漫画などに登場する吸血鬼らしく、二つの穴を残すだけという風にする術はないのかと自問してみたものの、幼女が男の首筋を貪りながら興奮している様は変態的だなあという下らない考えしか浮かばなかったので、そもそも吸血鬼モドキでは無理なのかもしれない。
 ルーは自分の容姿が吸血鬼を思わせる風貌だと自覚していたが、噛み付くだけで他者を操ったり煙に変わったりコウモリを従えたりする事は不可能であると知っていた。なにせ過去にしっかりと試したのだ。間違いはない。

 ただ単に見た目が似ているだけであり、俗に言うそっくりさんか、天然のコスプレと言ったところである。唯一の類似点として血液は好きだけれども、彼らのように牙や爪から血を吸う事はできないし、思い込みによる自己暗示があったたからこそ血液フリークになったのだと思っている。
 例えばブラックコーヒーのように、人によってはただ苦いだけの物が好みだったりするのと同じだろう。蓼食う虫も好き好きと言うのだし。

 まあ吸血鬼であろうと食人鬼であろうと、どちらも人を襲う鬼には違いないので、化け物と言われれば否定はしないが。


「はあ。体を洗わないとな……。血がベタベタして、気持ち悪い」


 ルーは口の周りについた血液をなめとり、軽くジャンプして固定用のナイフを抜き取った。
 どさりと音を立てて落下した男の体を左肩に担ぎ、返り血が完全に乾いてしまう前にと足早に川を目指す。

 身長1メートル21センチの少女が2メートル近い男を担いで全力疾走する様は不可解な事この上ない。彼女だけが物理法則を軽視しているようにしか見えず、それも藪や茂みを通過する際にも恐ろしいほど無音なのだから、目だけではなく耳まで疑うに違いなかった。
 風のような足取りでやってきた川幅は30メートルほどで、深さは極端に落ち込んでいる場所を無視して大体5メートルほど。水はあまり冷たくないので泳ぐにはいい水温だし、一見すると静かな水面は平和そうだが、その下には凶暴な肉食魚だとか毒のある淡水エイだとかが潜んでいる事も多い危険地帯だ。たまに不注意なアマチュアがうっかり近づき、全身をカンディルに似た肉食魚に食らいつかれた挙句、骨になって転がったりしている。

 この魚の牙はナイフのように鋭い上に、噛み付く顎の力も魚とは思えないほど強く、手足の自由を奪う麻痺毒のオマケつき。一度でも喰らい付かれた犠牲者の末路は悲惨だ。逃げる事も許されないまま、生きたまま貪り食われることになる。その際に獲物はものすごい絶叫を響かせながら死んでいくので、悪魔の魚なんて仇名までつけられているようだった。
 なので、哀れな犠牲者の持ち物を狙うなら中々良いポイントである。上手くすれば持ち主のなくなった荷物が川辺に放置されている事も多い。
 プロハンターといえど全員が優秀ではないと言われればそれまでだが、魔獣でもないただの魚にやられてしまうとは情けなあとルーは思っている。


「カンディルじゃなくて、ここだとカンジェロか。前世の記憶もたまには邪魔だなあ……。念の事を覚えていたのは、嬉しかったけど」


 ルーは独り言をいいながらも上着とズボンを下ろして素っ裸になると、先の生物による危険など全く無視して水の中へと入る。
 川の中央付近以外は小さなルーでも余裕が届くほど浅いし、纏さえやっていればただの動物に害される危険はほぼ無いので気楽なものである。唯一の危険といえば、固体によっては2メートルを超える電気ウナギがうろついている事がある程度か。
 見渡す限り危険はなかったので、流れ落ちた血の臭いに釣られて不用意に近づいてきた魚を捕らえるという漁法に精を出すことにした。
 鋭く伸ばした爪をナイフ代わりにして腹を割き、内臓を取り出して焼き魚として食べるための下ごしらえをしておく。カンジェロは肉食性なのであまり神経質にならなくてもいいが、雑食性のコイに似た魚は小石や砂利などを飲み込んでいる事が多い。そのまま串に刺して焼いたりするとジャリジャリして食べられた物ではなくなるので、魚を獲るにしても注意が必要だ。後はしっかり焼かないと腹を下す。なにせ寄生虫も多いから。


「タラッタッタッタタン♪ タラッタッタッタタン♪」


 3分クッキングのテーマ曲を口ずさみながら男の死体を水の中へと引きずり込み、オーラを纏わせた人差し指のツメを走らせ、手際よく分解していく。
 内臓は時間がたつと周囲の肉まで巻き込んで腐敗するから大変だ。胃や腸はしっかり洗わないと内容物の臭いがキツイし、男性の象徴といったビジュアル的にあまり食べたくない部位もある。特に髪の毛などは美味しくないどころか、口に入っただけで違和感があるので嫌いだった。

 日本人だった頃のルーならば気色悪くて即座に嘔吐してしまいそうな解体行為も、今となっては日常の一環だから鼻歌を歌いながら出来るようになっている。
 生ぬるい生を過ごしてきた大学生と、常に生きるか死ぬかの密林で生き延びてきたルー・アーヴィング。どちらの人格が優先されるかなど、言わなくとも分かるようなものだろう。何割かは日本人だったころのメンタリティが影響しているし、知らない知識については大きく比重が偏るため、覚えのない知識が勝手に浮かび上がって来るなど不都合が多かったものの、どうにかこうにかルーという人格に混ざり合っていた。


「ってか、こんなカードで人生7回ぐらい遊んで暮らせるんだっけ? お金って、ある所にはあるんだねー」


 ルーは本日の戦利品の一つであるカードを持ち上げ、血で汚れてしまったハンターライセンスをしっかりと洗う。死体の胸ポケットから拝借した物だ。
 常日頃から荒事に足を突っ込んでいるハンターが持つ物だけって物凄く丈夫、故意に傷つけようとしなければ損なわれる事はまず無いので、最優良の換金アイテムである。強引に折りたたんでみても折り目一つつかなかったし、その辺の石で引っかいた程度では傷一つつかなかった。多少乱暴な洗い方をしても問題ない。
 手触りは前世で言う免許証に近いのだが、素材が何なのかは全く分からない不思議物体。今回ゲットしたカードの下の方には109990111262と書いてあるが、正直何の事だかさっぱりだった。


「早期にハンターライセンスに気付いてよかったよ。そうじゃなきゃ、死んでいたかもしれない……。できれば、未来も詳しく覚えておきたかったけど」


 ここがかつての記憶にあったHUNTER×HUNTERの世界だと知ったのは、狩りに出た際に父親がライセンスカードを持ち帰ったのが切っ掛け。人格がどうにか落ち着いた四歳の頃、嫌に見覚えのあるWとAを組み合わせた特徴的な模様に気付いて悶々となり、どうにも見覚えがあるなあと呻いていたら、両親からハンター教会やらハンター文字やらの存在を教えられて絶叫したのだ。

 それは同時に、自分に前世の記憶があると確信を持った時期でもある。


「このライセンスは隠しておこうかな……。もし村を出る事になった時、先立つ物が欲しいし……痛っ」


 人生設計に励んでいたルーだが自らの鋭い犬歯で舌を刺してしまって、地味な痛みに顔を顰めた。
 この癖はまだルーの自我意識がハッキリしていなかった頃からあり、ずっと治そう治そうと思っているのだが、5年近くも経った現在でさえよくやってしまう。今のように舌を刺してしまう事も結構あり、ばい菌が入るなあと密かな悩みになっていた。


「いっそ削るべきか……。神の似姿だとか、凄いとか言われても、全然まったく欠片も嬉しくないよ、これ」


 ルーはため息を吐いて唇を持ち上げ、錆びないようにと川辺に置いてあったナイフを鏡代りに覗き込んだ。
 小さな口の中で2センチに届かんばかりに伸びている犬歯は目立つので、少し口を開いただけでもすぐに分かる。サーベルタイガーなどは牙が長くなりすぎて絶滅してしまったという知識が囁くのもあり、あまりにも長くなりすぎたら困るなあと常々思っていた。
 いっそ町の歯医者にでも行って削ってもらおうか? しかし、これを削るとなれば相当痛いだろう……。ギュイイイインのガリガリガリガリのギャーーーーだ。
 ルーは甲高い音を立てて回転する悪魔の器具を思い出して身震いし、削ってもまた生えてきたら意味がないと気づいて諦めた。

 常識的に考えれば永久歯が何度も生えて来る事は無いだろうけれども、なにせ何百年もかけて何十種類もの魔獣の血を混ぜ込んでいるのが我が一族である。
 野生動物並に怪我の治りが早いのは当たり前だし、何年か前に村を出て行ってしまったようだが、両腕を翼に変化させられる人間だっていたのだから、歯ぐらい何度生え変わっても不思議ではない。

 これからも舌を刺し続けるのだと思うと憂鬱だ。気を紛らわすために食事を再開する。


「ああ、脳味噌美味しい……。念使いはお肉も血液も濃密で最高だねー……。この人って纏しかできないっぽいけど、大空だか天空だかの闘技場とか見てたらトンデモ技術があるって丸わかりになりそうだよね……? どうやって秘匿してるんだろう?」


 ルーは上部をパカッと開けた頭部を腕に抱え、伸ばした爪をスプーン変わりにしつつピンク色のプリンを口に運ぶ。

 念は一般には秘匿すべき存在になっているそうだが、何事にも例外という物はあるもの。ルーの所属している部族もその例外の一つだった。
 凶悪で凶暴な魔獣がゴロゴロしている森で生き残るためか、一族は強大な力を得て神に近づく事を命題としており、そのために何百年も前から魔獣と交わったりしている。種族の特徴として極自然に念を覚え活用している魔獣とも交わっていたお陰か、一族には念について高い才能を持つ者が多かった。
 それに、子供らは念を覚えるのとほぼ同時に森の中を遊びまわるのが常だ。この環境とて才能を伸ばすのに一役買っているのは間違いない。


「弟も念能力者になったし……、定期的に血を吸わせてくれないかなあ。……って、ガリッ? 何だこれ……。ああ、コンタクトレンズか」


 人間の頭に二つある珍味を堪能していたというのに、うっかり取り忘れたガラス片で不快な触感を味わったルーは、眉を寄せながら口内の破片を吐き捨てた。
 口直しにと柔らかい頬の肉を切り取って食べ、美味しい部分の食べ終わった頭部はもう用がないので遠くへと投げ捨てる。
 すると水面に触れるか否かの所で体長3メートル近い肉食魚が現れ、盛大に水飛沫を跳ね上げながら攫って行った。盛大な水しぶきが散る。
 体の横からムカデのような足を生やしている偉業の魚であり、並の人間なら容易く一飲みにしてしまいそうである。更に纏をしているこちらには近寄らないところを見ると、魚とはいえ馬鹿ではないようだ。経験豊富さと大きさから考えるとこの川の主かもしれない。
 珍しいものを見られたお礼に、と食用に適さない部位もまとめて投げ、公園で鳩に餌をあげる老人の気分を味わう。この魑魅魍魎が跋扈している森に住んでいると、一般人にとっては極めて危険だろう巨大な肉食魚でも癒し系だと思えるから不思議だった。

 日常的に、50センチほどあって異常に攻撃的なバッタなどを見慣れているからだろうか?


「やっぱり、鋭い獣になるとオーラが分かるんだねえ……」


 この森では生き残るためにもオーラを扱えるのは必須の技術だと信仰されていたため、ルーの村の住人で戦士ならば、ほぼ全て念能力者だった。
 毎年春になると継承の儀式という物があり、5歳になった子供は全て長老の下に集められて念の存在を教えられるのだ。

 その時は精神論と簡単な実演だけで、詳しいやり方などは15歳になって成人するまでに少しずつ、という感じであるが、それまでに念が使えなければ選別の儀式という名目で強制的に起こされる事になっている。つまりオーラを叩き込んで強引に念能力者にするというやつだ。
 ルーのような転生者なら 『簡単に念が覚えられる! 15歳になれば私も念能力者!』 という感じに好みそうな展開だが、その際の致死率はかなり高いのでおすすめしない。選別の儀式を受ける事になるのは10年かけても念が覚えられないような才能の無かったメンツであるし、起こす側の未熟さもあってか、10人のうち7人か8人は戻ってこられないのだから。


「まあ、そのお陰か私は念を使えるし、長い間選定を続けてきた祖先には感謝、かなあ……? この世界で才能がないとか、死亡フラグにしか思えないし」


 狂っている、と言われれば否定しない。ルーも自分自身がノーマルな人間だとは思っていなかった。
 目覚めたばかりの時でも村の異常な風習の大半を受け入れていたし、人が死ぬ瞬間を見ても驚いたり嫌悪感を覚えたりしたのは最初だけ。殺人に手を染めた時もそうだったし、今では念能力者を相手にしたマン・ハントこそ最も楽しい狩りであると思っている。


「けぷ……、御馳走様でした。残りは晩御飯かなー」


 美味しい部分を粗方食べつくして満足し、いい具合に持ち運びやすくなった人間の残骸をまとめる。
 ライセンスカードは後で隠しておくにしろ、さっさと村に持って帰って燻製肉に変えてもらわないと味が落ちてしまうのだ。ルーが確実に倒せると断言できるほど弱い念使いに遭遇できる確率はかなり低いので、せっかくの肉を損なう事は避けたかった。

 この村に住む異形の姿をした住人は人体収集家にとって垂涎のお宝らしく、よくこうやってハンターたちが寄ってくる。プロ、アマ問わず年に平均して30人ほどで、大半は念を覚えていない雑魚だから、それなりに熟練した念使いが多いこの村の大人達ならまず負けない。
 ルーは自分が世界から見てどの程度のレベルなのかは知らなかったが、今のところはさして苦も無く迎撃に成功していた。

 彼らの持ち込んだ武器やハンターライセンスはこの村の重要な資金源であり、周囲の山々が正式にこの村の物だと決まっているのは彼らのお陰だ。
 ご馳走にして歩く財布でもある雑魚ハンターたちには感謝の念が絶えない。敵であれ優秀だった者は尊敬されるが、その肉を体に取り入れる事によってその力を得られる、とも考えられているため、討ち取られたハンターたちはの肉はそれを仕留めた者の家族に半分、残りは村の皆に、と分けられるのが風習だった。
 二年前からルーも狩に出る事を許されたため、念使いを食べる機会は増えている。


「家事はイマイチ出来ないのに、人間を含めた獣の解体作業は一通りできる、ってのもなー」


 一般人からすれば人間を解体して食べる行為は残虐に映るのだろうが、そもそも彼らは不法侵入した上に、村人を殺してその一部を持ち去る事を目的とした凶悪犯である。一族の風習は文化的とは言えないが、実際に効果が出ているのだから、今更止めろと言われても止めないだろう。
 それに、人間となれば見境無く食い荒らす蛮族ではない。念をおぼえてもいない子供はまだしも大人は最低限の分別を持っているので、極めて稀ではあるが友好的な旅人がやってくれば歓迎するし、消耗品を売りに来る商人は有用だから手を出すな、という教育もなされていた。
 姿は多少変でもしっかりした人間であり、それを知ってか知らずか襲い掛かって、その結果食卓に並ぶ事になったハンターたちに文句を言われる筋合いは無い。


「まあ、狩を楽しんでいる私が言っても無駄か。健全な精神は健全な肉体に宿るっていうけど、殺人さえ楽しいものな」


 ルーの住む村ほど異形の人々が多い場所も他にないだろう。奇形という言葉では済まされないほどの異型がそこにはある。
 片方だけ異様に太く長い腕を持つお隣さんだとか、左手の爪が猛禽類のように発達している幼馴染とか。何百年も前から閉鎖的である村では、遺伝子の中に混ざった獣がより濃くなるように交配を続けているのだ。一歩でも神に近づくために。
 その結果として遺伝的な異常と思われる物を無数に発症させまくっており、ルーのように統一感ある異形は極めて珍しい程だった。
 割合で言うと極普通の姿に生まれる者が70%、指の形や目の色など多少の変化がある人が25%、残りの4.9%が腕や足など大きな変化をもつ人で、ルーのような複合的なのが0.1%というところ。
 詳しい出生率は知らないが、肺がなくて臍の緒を切られた瞬間に呼吸困難に陥って死んだり、形を成さないただの肉塊が生まれたりする事も多いらしい。


「久しぶりにネットとかがやってみたいんだよな……。ずっとこの村にいたら、誰か適当な男と結婚させられそうだし……。でもそうなると、好物:人肉ってのが不味いんだよねー。無意識だった頃に変な補正でもかかったのかな……。いや、たしかに念能力者のは美味しいんだけど……」


 はっきり言って、肉自体が美味という事はない。ハンターは筋肉が発達していて肉が固い事が多く、前世でいつも食べていた牛や豚と比べれば数段劣っている。近い感覚でいえばスーパーで半額シールを貼られた揚句に回収され忘れて賞味期限が切れた安い鶏肉、程度の味だ。
 筋張っているし固いし味付けは岩塩だけなのだから、こんな物が美味しいわけがない。家族らも敵を倒しその肉を食らうという行為を特別だと教えられているからこそ喜んでいるだけで、肉としてはイノシシやシカの方が美味だと言っていた。

 ルーとしてはあまり考えたくなかったが、その理由に心当たりはある。おそらく念能力が勝手に 『発』 を作り出しているのだろう。自分の念ながら頭痛が絶えなかった。

 何故ならルーはまだ9歳の少女なのである。ある程度は肉体に依存するからオーラの量も少ないし、今能力を作っても持て余す可能性が非常に高い。
 強化系だとか変化形だとか、そういう系統別に伸ばす方法など村には伝わっていないし、そもそも系統という物さえ彼らは知らなかった。ルーも前世の記憶がなければ分からなかっただろうから文句は言えないが、強化、変化、操作、具現化、放出、特質、という6系統があった事を覚えている程度である。
 コップに水を入れて行う水見式を試した事はあっても、どうなれば自分の系統が判別できるのかを忘れていたため、ほぼ無意味だ。
 上辺だけ知っていても、肝心な所がすっぽり抜けていては話にならない。

 今までにも何人かのハンターと対峙した際、知っていそうな相手ならば両手両足を切断した後で “聞いて” みた事もあるのだが、正式に訓練を受けた人間ではなかったようで望んだ知識は得られなかった。引きずり出した腸で首輪を作ってやったのに言わなかったのだから、本気で知らないのだろう。
 やはり最低でも、系統を抑えつつ発を持っているクラスにならないとダメかもしれない。村でははっきりと区別されていないので、わからなかったのだ。


「系統さえ分からんのに能力とか……。どんな肉でも美味しく食べられる程度の能力、なんて発現したら泣いちゃうよ? マジで」


 ぼやきながら水面に浮かんでいる葉を両手で包み、大量のオーラを流し込む。
 長年の訓練によってそれなりに力強いオーラを練れるようになったが、結果は初めて行った時と変わらない。葉っぱが出鱈目に成長して歪な形になりながら大きくなる、という訳の分からない物のままだ。
 なんというか意味不明である。イメージ的には成長させているのだから成長能力の強化という事で強化系なのか、それとも具現化なのか、葉を弄っているのだから操作なのか。強化は水の量がどうにかなるのだったと記憶していたのだけれども勘違いだったのか、それとも本当に強化以外の何かなのだろうか? 磨りガラスを通したようにハッキリしない記憶を探っても、曖昧すぎて望む情報は思い出せなかった。

 イメージとしては自分であれこれ考えて能力を作るより、日々の生活の中で自然に能力が出来上がっていた、という方が強くなりそうではあるが、無意識に任せっぱなしにするのも怖い。それでは完全な博打になってしまい、闘技場にいた能力を失敗した人のように、使いこなすまでには多大な訓練を必要とする上にイマイチ強くもない、という訳の分からない物を作ってしまうのではないかと危惧する。


「とにかく、村に帰るか……」


 ルーは大きく溜息を吐いた。
 滅茶苦茶に成長を遂げた葉を川の流れに任せ、両手や顔にはねた血を丁寧に洗い落としてから川を出る。


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