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No.14283の一覧
[0] 魔法少女リリカルなのはCross souls(型月オリキャラ介入・A’s編開始)[のぶな](2011/01/10 14:37)
[4] プロローグ[のぶな](2010/01/06 19:38)
[5] 第一話[のぶな](2010/04/14 18:24)
[6] 第二話[のぶな](2010/03/03 19:18)
[7] 第三話[のぶな](2010/03/03 19:55)
[8] 第四話[のぶな](2010/03/03 20:22)
[9] 第五話[のぶな](2010/03/03 20:54)
[10] 第六話[のぶな](2010/08/11 22:28)
[11] 第七話[のぶな](2010/03/03 21:58)
[12] 第八話[のぶな](2010/03/03 22:15)
[13] 第九話[のぶな](2010/03/03 22:45)
[14] 第十話[のぶな](2010/03/04 19:03)
[15] 第十一話[のぶな](2010/03/04 19:44)
[16] 第十二話[のぶな](2010/03/04 20:03)
[17] 第十三話[のぶな](2010/03/04 20:32)
[18] 第十四話[のぶな](2010/03/04 20:56)
[19] 第十五話[のぶな](2010/03/04 21:20)
[20] 第十六話[のぶな](2010/03/04 21:31)
[21] 第十七話[のぶな](2010/03/10 19:37)
[22] 第十八話[のぶな](2011/01/10 14:34)
[23] 第十九話[のぶな](2010/03/24 19:17)
[24] 第二十話[のぶな](2010/03/31 20:58)
[25] 第二十一話(無印完結)[のぶな](2010/06/23 21:36)
[26] 番外編[のぶな](2010/09/23 12:12)
[27] 番外編その2[のぶな](2010/09/23 12:41)
[28] 第二十二話[のぶな](2010/09/23 13:11)
[29] 第二十三話[のぶな](2010/09/23 13:34)
[30] 第二十四話(A's開始)[のぶな](2010/09/23 13:59)
[31] 第二十五話[のぶな](2010/09/23 19:34)
[32] 第二十六話[のぶな](2010/09/23 20:32)
[33] 第二十七話[のぶな](2010/10/07 13:11)
[34] 第二十八話[のぶな](2010/10/20 22:51)
[35] 第二十九話[のぶな](2011/01/06 22:30)
[36] 主人公ステータス[のぶな](2010/10/20 22:58)
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[14283] 第二十一話(無印完結)
Name: のぶな◆197e18b3 ID:1e81706b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/06/23 21:36
……夢を見ていた。

それは遠く、もうオレの記憶の中にしか存在しない過去の風景。
かつて自由と正義の旗を掲げて、世の不条理に立ち向かった仲間達の姿。
オレより上の立場じゃない、下でも無い、同じ目線に立って駆け抜けたそいつらは、揃いも揃ってバカばかりだった。

まかり通っている、間違っている事を正そうと足掻いていた。
誰かの悲しんでいる姿を見たくなくて、弱虫の癖に必死になって走り回っていた。
他はどうでもよく、ただひとりの人を守るためだけに立ちあがった。
どんなに邪険に扱っても、意志を曲げずオレの後をついてきた。

はっきり言ってバカなヤツらだった。荒れた世の中で見ず知らずの他人に気を割いている余裕なんざないはずなのに、そいつらは何時も誰かの事を想っていた。

オレがアイツらとつるんでいたのは、単なる惰性の様なものだ。
理想もなけりゃ、別段に意義もねぇオレがそこに居たのは、ただ最初に居合わせた縁。
だが、居心地が良かった。大事な物を持たないオレでも、そこに居場所を感じていた。

だから思った。

何も持って居ないオレだからこそ、何かを持っているこいつらを守ってやろうと。
泥は全部オレがかぶってやるから、てめぇらは抱えたモノを失くすなと。
誰にも宣告する事は無い、オレが勝手に立てた、オレだけの誓い。

……結局、圧倒的少数でしかないオレ達は大多数という世の流れに呑み込まれた。
人間ってのはやはり、自分の理解の出来ないモノは迫害する生き物だと痛感した。

世の中はバカな連中が馬鹿を見て、面倒事はバカに押し付けてのうのうと生きているヤツらが良い目を見られるように出来ている。
どうでもいいような連中が大半を占めている。だから人間という生き物に絶望した。

……だが、記憶の中に居るあいつらは笑っている。それをオレは覚えている。知っている。
そして、その中でオレも笑えている。

その記憶があるから、オレはまだ戦っていられる。










魔法少女リリカルなのはCross souls  第二十一話



Side:ソウル


……ああ、下らねぇ事を思い出した。
寝かされていた天井を眺めながら、懐かしい記憶に独りごちる。

ったく、最近会ったバカ連中に記憶を触発されたんだろうとは思うが、夢に見るとは不覚だった。
気を失う程の傷と、その直後の魔術行使のおかげで、意思が弱っていたか。

『おはよう、ソウル』

了は意識を表に出さずに声をかけてくる。
おそらく、オレの見た夢はコイツに覗きみられていただろうと思う。
以前にも見られた事があるが、だからと言って一度見られたから以降は平気なんて事は無い。

「チッ」

軽く舌打ちをしながら起き上り、自分の状態を鑑みる。

一番ダメージの大きかった左腕も動く。体中、至る所に包帯を巻いてあるが、別段危機的状態にあるというわけでもないようだ。

ただ、完治しているわけじゃねぇのだから、身体を動かすたびに鈍痛が走る辺りは仕方がねぇと諦める。

『うわぁ、これはしばらく僕が表に出るのは無理っぽいね』

だろうな。上体を起こしただけでこの痛みだったら、了は悶えるだけで何も出来ない。しばらくはベッドの上で寝たきりだ。
だが、オレは動く。

痛みってのは、身体の危険を知らせる信号なのだから無視して良いものじゃねぇし無視はしねぇ。
だが、身体が動かせるなら、痛みは我慢する。座して死を待つくらいなら最後まで足掻き通すのがオレの信条だ。
周りに痛みを訴える必要性も今は特に感じねぇのだからなおさらだ。

つぅわけで、横になっていても面白くねぇし、腹も減っている。
そもそもオレはどのぐらい寝ていたかも気になる。ひとまずとして食堂辺りに行く事にする。

……それにしても、胴体の分はともかく、この左腕を固定するように巻いている包帯が邪魔だ。

「ったく、こんなもんがあったら動きづれぇじゃねぇか」
『いや、動かさないように巻いているんでしょ』

了の言う事は無視して包帯を解く。放っておけば治るものを、こんな大層に包帯を巻くなんざ大げさなんだよ。

動くのにさし障りのある分の包帯を取り、医務室だろう部屋をでる。
普通に歩く足の裏から伝わってくる震動が骨を軋ませるような錯覚を抱く程度には痛いが、これなら歯を食いしばるまでもなく耐えられる。
アースラに来てから中をみて回る時間も余裕もなかったが、食堂の場所ぐらいは分かる。迷うことなく歩みを進める。

……つぅか、相変わらずここは、オレには馴染めねぇ場所だなと痛感する。

今現在の地球の発展した科学でさえとんでもねぇと思っていて、ようやくそれにも馴れたと思った頃にさらにその上を余裕で行く魔法技術。
このアースラにしても、要塞じみた大きさの鉄の塊が空を飛び、果ては次元空間を航行すると聞かされたときには何の冗談だと叫ぼうかと思ったくらいだ。

了のヤツは何時も通り、世の中は不思議でいっぱいだとかほざいていたが、オレもここまで来ると思考停止させて、こういうものもあると受け入れるしかねぇのが辛い。
現実逃避だとは分かっているが、オレの精神衛生上の事もある。深く考えず、何も見ないようにしながら通路を歩く。

窓の外の訳の分からねぇ空間や、自動で起動する機械なんざは見えないし、知りもしねぇとしながら食堂を目指す。
そして、行って見ればなのは、ユーノ、クロノにリンディ、エイミィが同じテーブルを囲っていた。

なにやらプレシアの目指していたアルハザードの話をしているようだな。

アルハザードとは失われた秘術が眠る地と言われ、そこには死者の蘇生や、時間を遡ってやり直す魔法があるだとか、オレの知るところの『魔法』染みた技術のある場所。
かなりとんでもない場所みてぇだが、それはおとぎ話のようなものという言葉も聞こえる。
所詮は空想の産物で、『こんなモノがあったら良い』とかいう幻想が語り継がれたようなものなんだろうな。

だが、プレシアはそれを目指していた。
やぶれかぶれだったのか、それとも本当にアルハザードは存在して、そこに至る道を見つけていたのか。
ま、その辺りはプレシアが居なくなったってんだから、確かめるすべはねぇわな。
つぅか、興味がねぇ。

「よう、揃いも揃って辛気くせぇ顔して何してんだよ?」

飯時に食欲の湧かねぇ話もしていても仕方ないだろうと、中断させるべく割って入る。
一斉にこちらを見るが……、なんだ、その幽霊でも見たような顔は。

「ソウル君、大丈夫なの?」
「あァ? あれだけの怪我をしておいて大丈夫なわきゃねぇだろ」
「なら何故君は平然と歩きまわっているんだ……」

なのはが気遣わしげに聞いてきた事に正直にと答えると、クロノが呆れたようなボヤキを漏らす。
実際には単に平静を装っているだけなんだが、そんな事を親切に教えてやる義理もねぇと、クロノには何も答えず空いている手頃な席に着く。

「おい、そこの。オレの飯を持ってこい」
「いや、何で僕にソウルの食事を取ってくるように言うのさ?」

ユーノに指示を出したが、言外に自分で取って来ればいいじゃないかと言ってくる。
ったく、こいつは分かってねぇな。

「見ての通り、オレは重傷患者だぜ。きっちりいたわれ。
それにこの中じゃてめぇが一番下っ端だ。さあ、下僕らしくオレのためにキリキリ働け」
「ああもう、何処に突っ込んだらいいのか分からないよ……」

オレがふんぞり返ってみせると、頭を抱えて見せていた。
別に嫌というわけじゃねぇんだろうが、席を立つ気力が湧いてこないようだった。

「じゃあわたしがソウル君の分を取ってくるよっ」
「あ、なのは……っ」

ユーノがうなだれている間に、なのはが席を立ってオレの飯を取りに行く。
呼び止める暇がなかったユーノは、ただ視線だけがなのはを追う。

「ククッ、折角男気を見せる機会をやったってのに、それを棒に振って女にパシリに行かせるからてめぇが下っ端だってんだよ」
「なぅ……!?」
「女に働かせて自分は楽をする。いや、別にそれが悪いとは言わねぇぜ?
だが、高町なのはは放っておきゃあ何処までもひとりで突っ走るタイプだ。追いかける意気込みもねぇヤツは、置いて行かれて最後には忘れ去られるのがオチだろうなァ?」

嘲笑うようにしながら、ユーノに対して適当な言葉を並べてまくし立てる。
実際には何の根拠もねぇ事だが、自分が戸惑っている内に自発的に動き出したなのはに対する負い目やら、置いて行かれるという単語辺りでユーノが反応をみせる。

「……僕、ちょっとなのはを手伝ってくるよ!」

結論はすぐに出たようだ。すぐに席を立ってなのはを追いかけるが……ひとり分の飯を持ってくるのに手伝いなんざ必要ねぇだろうになァ?
そんなユーノの背中を、オレは嗤いながら見送る事にした。

「ソウル君。あんまりなのはさんやユーノ君をいじめちゃ可哀そうよ?」

リンディが窘めるように言ってくるが、いじめるとは心外だな。

「そうだよ。同じいじめるなら、うちのクロノ君にしてよね。
クロノ君って、こう見えて結構弄りがいがあるんだよ?」
「何言ってんだ、そいつでも遊ぶのは当然だろ」
「だよね~」
「待てっ、本人を目の前にして何の話をしているんだ!?」

エイミィと楽しく話していると、クロノが割って入ってくる。
その姿を肴にして、クロノ以外で笑い合う。

「……さて、世間知らずが居なくなったところで聞くが、オレが寝た後はどうなった?」

そして、笑いを収めて管理局の連中に改めて向き合う。

オレはプレシアがあの後どんな選択をしたのかを知らない。
おそらくは最善の結果になりはしなかっただろうから、どうせ聞いたところで気落ちする事が目に見えているふたりが十分に離れたのを見計らって改めて聞く。

「……プレシア・テスタロッサはジュエルシードの起こした次元震の発生の際に生じた虚数空間へアリシア・テスタロッサの遺体と共に落下。
現実的にあの先から還ってくる手段はないのだから、死亡扱いとして問題ないだろう。
その点を除けば重傷者は出ても死者は出ていない。次元断層も発生していないのだから、最悪の結果は免れたといったところだ」

オレの真剣味を察したらしいクロノが、簡単に状況を説明する。
ただ、表情と態度が硬いあたり、クロノに取って良い結果というわけじゃねぇんだろう事は察しが付く。

……オレはプレシアの事なんか知った事じゃねぇし、感慨が湧く程の思い入れもねぇ。
世界の全てを敵に回しても愛したい存在が居るという想いはオレには分からねぇが、その想い自体は尊いものだという事は分かる。

あの手の輩は、最後の別れが出来なかった事に納得が出来ないから暴挙に出ると言うのが相場だ。
故に、ほんの僅かでも求めたヤツと触れあえば未練が無くなるかもと考えていたが、それでも納得出来ずに旅立った。それが自分で選んだ事なら責任はそいつにある。
……その程度の認識だ。

「なるほどな」

だからオレには、事実を聞いたとしても淡泊な答えしか用意は出来ねぇ。

「随分冷静なのね」
「当たり前だ。オレがあの場に行ったのは黒いのを連れていくためだけだ。
嫌がらせは単なるオマケ。そもそも、あのババァが何をしようとオレには関係ねぇ話だ」
「関係ないわけがないだろう。もしあのまま大規模な次元震が、そして次元断層が発生していたら、僕達はもちろん、君の知人も世界ごと消えていたんだぞ?」
「そんなもん、どうせてめぇらが阻止していたんだから問題ねぇよ。
それとも、てめぇにはあのババァを止める自信がなかったとでも言うのか?」
「む……」

流石に自信が無かったなどとは言えないらしいクロノは口ごもる。
ま、実際には自信云々は関係なく、とにかく全力を尽くすってのが精いっぱいだったのだろうがな。

「あれ、何のお話をしていたの?」

そうこうしている内に、お盆を持ったなのはが戻ってくる。
その隣にはユーノがいるが、追いかけても結局何も出来なかったのだろう。その手には何も持って居ない。
どうやら、やはり役立たずで終わったらしい。

「なに、チビスケは相変わらず背が低いなって話をしていただけだ」
「そんな話はしていないだろう!?」

話は終わりと、別な話題をだせばすぐに食ってかかってくるヤツがひとり。
身を乗り出す程の勢いでオレの事を睨みつけてくる。

「そういきり立つなよ。チビスケがチビなのは当たり前だろ?」
「……そうか、君は僕にケンカを売っているんだな。そうだろう、そうなんだろ!!」

思っていた事だったが、やはりクロノは背が低い事を気にしているらしい。
執務官としての冷静さを失い、年相応に感情を露わにしている。
だが、さっきまでの重苦しい雰囲気はもうないのだからこれでいい。

「クロノ。貴方は年長者なんだから少しは落ち着いた所を見せないさい」
「く……」

リンディに窘められて渋々席に戻るも、なお熱は冷めない。
ま、普段はクールぶってんだから、たまにはそうやって感情を発露させた方が丁度良い。
ガキがガキらしくしていられるなら、それに越した事は無い。

「クク、年長者の癖にカッコわりぃなァ?」
「ぐぐ……っ」

『いや、この中ではリンディさんを含めたとしても最年長はソウルでしょ』

大人げないと了は言うが、肉体年齢ならクロノの年下なんだから問題はねぇよ。

「ちょっとちょっと~、クロノ君はカッコ悪くなんてないよ」

などと言っていると、エイミィがクロノを庇うような事を言う。
クロノはその発言を以外そうにしつつも、自分に対して援護射撃が来たという事が何処となく嬉しそうにする。

「クロノ君はね、ちょ~と素直じゃなくてひねくれているところとかが可愛いんだよ」
「ぶはっ……!?」

が、結局のところは援護でも何でも無かったようだったがな。
男としてカッコ悪いと可愛いで、どちらの方がマシなのかは難しいところだな。

「それだけじゃないよ。クロノ君ってすっごく優しいんだよ!」
「う……」

更に、邪気の混ざっているオレとエイミィと違って純度100%の善意でクロノを褒めるなのはの追い打ちに、怒るに怒れず、むしろ照れて頬を紅潮させるクロノの姿があった。

素の言動で男をここまで動揺させるとは……なのは、中々やるな。


そんな風に遊んだりもしながら、腹が減っている事には変わりはねぇのだからさっさと食べ始める。

食べながら近況を聞いてみると、どうやらオレは二日ほど寝ていたらしい。
診断結果は、一週間は絶対安静との事だったらしいが、オレとしては関係ねぇな。
無茶はしない程度に無理を押し通して歩き回らせて貰う。

つぅか、二日間も眠ったままだったってのは予想以上に寝ていたなと逆に思う。
以前なら寝るにしても半日で目を覚ましていたんだから、この辺りにも子供化の影響が出ているのかと考える。

ただ、どちらにしろジュエルシードの発動による次元震よって不安定になっていた空間が安定する明日まで帰れねぇらしいから、まだ寝ていたとしても問題は無かったようだが。

オレに関してはそんなもんだ。それ以前に、オレにとって重要な事は他にある。

「さて、ならそろそろ行くか」

飯を食べ終わり、今度こそ飯を片づける役目をユーノに押しつけながら席を立つ。

「ソウル君、何処かに行くの?」
「犬コロに用があんだよ。
報酬は後払いって契約でオレは手ぇ貸してたんだ。その話だ」

なのはが聞いてきたが、これは別段隠す事でもねぇしと普通に答える。
さっき聞いた話の中で、護送室にアルフはフェイトと一緒に拘束、というよりは軟禁状態で部屋に居るらしいって聞いていたからな。
本来なら契約を持ちかけた向こうがオレの下に顔を出すべきなんだが、仕方がねぇからこちらから出向く。

「待て。アルフはフェイト同様、今回の事件における重要参考人だ。悪いが面会は許す事は出来ない」

そんな硬い事をぬかすのは、当然の事としてクロノ。
さっきまでからかっていた事を根に持つのではなく、組織に属する者として看破は出来ないと睨むようにしながら牽制してくる。

「てめぇらの事情なんざ知らねぇよ。
裁判があるらしいが、そのために報酬の支払いをうやむやにされたんじゃたまったもんじゃねぇ」

だが、オレはその視線に真っ向から向かい合い、嘲笑う。
オレがそれだけの言葉でそう易々と思い止まるとでも思ってんのか?

「なのはやユーノにも面会は禁止している手前、君だけ特別というわけにはいかない。
それに、身ひとつしかない今のアルフに報酬を求めても意味はないはずだ」

そう思っていたのだが、クロノは更に食い下がってくる。ったくめんどくせぇな。

「前者はオレが言う事を聞く筋合いがねぇし、後者は報酬の支払いを確認するだけで、オレも今すぐ貰おうなんざ思ってねぇよ」
「報酬の確認というなら、僕がアルフに伝えよう。それなら君がアルフに会う必要は無いはずだ」
「ハッ、契約に代理人を挟むのは話がこじれる原因以外の何物でもねぇだろうが。
執務官の仕事がなんなのかは知らねぇが、その程度の事も分からねぇからてめぇは何時まで経ってもチビなんだよ」
「な、身長の事は関係ないだろう!?」
「そうやって特定のキーワードですぐに冷静さを失って、よくもまあ仕事が務まるもんだなァ?」

オレはアルフに会う。クロノはそれを認めない。互いに一歩も譲らずに話は平行線を辿る。
ま、クロノは徐々にヒートアップしてきている上に、話の方向性もずれてきている。
このまま関係無い話題でクロノを打ちのめし、オレに抗おうという気概を湧いてこないようにした上で押し通してやるか……。

「う~ん、ソウル君はどうしても諦めてくれないのかしら?」

だが、リンディに割って入られてその目論見も無意味となる。
頬に手を当てて困っているという様子を『演出』しながら聞いてくる。
ったく、女狐め。不利になる前に割って入って来やがったな。

「ああ、引く気はねぇな。オレとしちゃ実力行使をしてこの艦を壊すような真似をするのは遠慮してぇからな。てめぇらが妥協点を見つけてくれて欲しいんだがな?」
「艦を壊すって……!」

ニヤリと嗤ってやると、それを本気と受け取ったらしいユーノがおののいて見せる。
ま、こんな訳の分からねぇ空間を航行している艦から放り出されたくはねぇし、それは実際のところは冗談だ。

だが、オレが本当に本気でないとはクロノもリンディも分かっているだろうが、どうしようもなくなったら、その手段を取る事も無いとは言い切れない程度に伝わっていればそれで良い。
嘘はねぇが、これを本当にするかどうかはてめぇらの出方次第だという事なんだが、さてどう出る。

「……面会時間は3分。その際の会話はこちらで全て監視させて貰って、それ以降の接触の一切を禁止する。
……といったところかしら?」
「艦長!?」

オレといがみ合っても得はねぇと判断したか、そこそこに柔軟な対応を見せるリンディにクロノが食ってかかる。

「ああ、それでいいぜ」

だが、そんなクロノを無いモノと扱ってリンディに返事をする。
オレの用件は一方的に言えば10秒で終わるようなもんだが、向こうの反応を考えればその程度の時間があれば十分だ。
接触の禁止にしても、契約はアルフが持ちかけたモノであって、オレには最初から用事はねぇんだから問題はねぇ。

「分かりました。今回は私の権限で特別に許可します。
フェイトさんもアルフも随分と心配していたのだから、ソウル君と了君が無事に目を覚ました事をちゃんとその目で確かめたいと思っているでしょうしね」
「……分かりました。なら、ソウルの監視は僕がします」

茶目っ気を見せながらクロノをやんわりと諭す。
人情事情を出され、かなり渋々ではあったがクロノも了承をした。
なんだかんだで、クロノも随分甘いもんだ。

「ならとっとと案内しろ。いい加減オレにも余裕はねぇんだよ」
「余裕が無いとは、何かあるのか?」
「おい、オレが重傷患者だと言う事を忘れてんじゃねぇよ」
「……患者扱いして欲しいなら、患者らしい態度を取ってくれ」
「そりゃ無理だな」

そんな感じに雑談しながら歩くが、クロノは随分とお疲れらしい。
ったく、死にぞこないが平然と歩く隣で景気がわりぃな。

「……ここだ。時間を超えるような真似はしないでくれ」
「それはオレじゃなく連中に言うんだな」

そして、フェイトとアルフのいる護送室の前に到着する。
クロノが何か末端を操作すると、その厳重に閉じられていた扉が開く。

「あ……」

部屋の中で大人しくしていたらしいフェイトだったが、オレの姿を見つけるとぱたぱたと駆けよってくる。

「あ、えと、ソウル、だよね?」
「たりめぇだ。てめぇはオレが他の誰に見えるってんだよ」
「そりゃあ、了に決まっているじゃないか」

すぐに返って来た答えはアルフのものだ。フェイトの隣に控えるように居るこいつもこいつで元気そうだ。

「それで、アンタは身体の方は大丈夫なのかい?」
「そんなの見りゃあ分かるだろ」
「え、と……?」

アルフがなのはと同じ事を聞いてきたのに対して胸を張ってみせると、フェイトの方が困惑して見せる。
どうやら分からねぇらしい。

「なんだ、オレの怪我の程度の程を知っているだろうに、分からねぇとはどういう了見だ?」
「あぅ……」

そして申し訳なさそうに俯くフェイト。
ったく、分からねぇなら分からねぇとはっきり言いやがれってんだ。

「まあいい。それよりも犬。オレは契約を果たしたんだから、てめぇもきっちり報酬を支払うってのは忘れちゃいねぇだろうな?」

とはいえ、今回の主役はフェイトじゃねぇ。時間制限も一応ある手前、さっさと本題に入る。

「アタシは犬じゃないと何度言えば……」
「うるせぇ犬。さっさとオレの質問に答えろ」
「そんな心配しなくても、ちゃんと覚えてるよ!!」

いちいちそんな大声で答えずとも聞こえてるってんだよ。
だからてめぇはうるせぇワンコだって言うのが分からねぇのか?

「……ねぇアルフ。契約って何の話?」

そう聞いてくるのはフェイト。ったく、アルフはフェイトに説明もしていなかったのか。

「その犬コロが、てめぇを助けるためにオレに力を貸せって言って来たんだよ。
だからオレはてめぇに肩入れをしてやった。まさかオレが慈善事業でただ働きをしていたと思っていたわけじゃねぇだろ」
「……そうだったんだ」

ま、この程度は別に構わねぇと簡潔に教えてやると、合点がいったと納得して見せる。
ただ、自分のせいで余計な苦労をさせてしまっていると思ってんなら筋違いも甚だしいんだが、そこまで教えてやるほど親切でもねぇ。フェイトを無視してアルフと向き合う。

「つぅわけだ。報酬は後払いと言っていた通り、請求に来たぜ」
「ああ、話は分かったよ。でも、今のアタシにはアンタに渡せるものは何も……」
「勘違いするな。オレは最初からてめぇから何かを貰おうだなんざ思っちゃいねぇよ」

オレが嗤ってみせると、何処となく嫌な予感がしたのか、アルフ、そしてフェイトが息をのむ。

「なに、オレがてめぇに要求するのは簡単な事だ」

だが、嫌な予感程度はぶっちぎらせて貰う。

「フェイト・テスタロッサとの間にある契約を切れ。それが対価だ」
「な……!?」

オレの宣告に、皆一様に驚愕に染まる。フェイトもアルフも、話題の外に居るクロノも言葉を失っている。

「何を不思議に思う。てめぇは契約の時に『命でも何でも好きな物を持っていけ』と言ったはずだ。
だからオレはてめぇの一番大事な物を奪う。この話の何処に不思議がある?」

普通に考えれば命が一番大事なはずだが、使い魔であるアルフからすりゃ自身の事よりも主であるフェイトの事を大事に思っているのは明らかだ。
故に、フェイトとの間にある絆でも一番分かりやすい契約を断つのがアルフにとって一番辛いモノのはず。
だからオレはこれを対価に選んだ。そしてこれは契約を結んだ時から決めていた事だ。

「……アタシにアンタの使い魔になれって事かい?」
「アルフ!?」

最初に復活したのはアルフ。フェイトが自分の使い魔が、契約を切れというオレの言う事に理解を示している事に驚いているのを見ないようにしながらオレに聞いてくる。

「ちげぇよ。オレはてめぇなんざ要らねぇ。オレが望むのは契約の破棄のみ。それ以上もそれ以下もねぇ」

こいつらの言うところの魔法による使い魔の契約ってのがどういうものかは知らねぇが、おそらくは契約が破棄されたなら、使い魔は生きていられないだろう。
だが、それはもうオレの感知するところじゃねぇ。のたれ死ぬってんならそれで終わりだ。

「待て! アルフは事件の重要参考人だ。死なせる訳にはいかないぞ!」
「何言ってんだてめぇは。オレは今すぐだなんて言ってねぇよ。報酬は裁判の事情聴取が終わった後にでも行使すりゃてめぇにも特に害はねぇだろ」
「く……、だが使い魔にも人権は認められている! そんな相手に君は死ねと言うのか!?」

クロノは参考人としてのアルフの立場を盾にするのを失敗して、それでもなお庇うべく言葉を探し、そしてオレに訴えかけてくる。
その必死になっている姿は、なのはの言った通り優しいヤツ何だと言う事が良く分かる。

「ああ、言うぜ?」
「な……!?」

だが、迷う事無く断言してやると、今度こそ絶句する。

「アルフは自身の命を対価にして構わないと宣言してオレに契約を持ちかけた。オレはそれを受けて契約を結び、そして履行した。
契約を果たした時点でオレは対価を貰う権利と義務を手にした。
……そんな大層な理屈を並べずとも、交わした約束を守るのは当然じゃねぇのか?」

まずはクロノの大好きそうな理屈を並べ、そして、そもそもこれは常識の範疇だろうと言葉を続ける。
何もオレはおかしなことは言っていないと堂々として見せる。

「……だが!!」

クロノは咄嗟に言葉が出てこない。だが、それでもなおも言い募ろうと口を開く。

「もういいよ……」

だが、それをアルフが遮った。
いつもの荒っぽさはなく、静かに言葉を紡いだその姿に全員の視線が集中する。

「アタシは確かにソウルの言う通りの条件で契約をしたんだ。
そしてソウルはフェイトを助けてくれた。それだけじゃなくプレシアの悪意ある言葉からフェイトを守ってくれた。フェイトが立ち直る切っ掛けをくれた。
助けて欲しいと言った事以上の事をしてくれたんだ。アタシとしちゃ、この命で礼が出来るってんなら安いものだよ」
「アルフ……!!」

自分のせいでアルフが遠くに行ってしまう。そうとでも思ったのか、フェイトがアルフを繋ぎとめようとするかのように抱きつく。
それに、アルフは困ったような笑みを浮かべる。

「……ごめん、フェイト。あんまり役に立たない使い魔で悪かったね」
「そんな事無いっ、アルフは、アルフは……!!」

アルフは聞き分けのない子供をあやすように優しく抱き返す。
その腕の中で、フェイトは想いを伝えようとして、でも言葉にならない。
それでもアルフが役に立たないなんて事は無い。自分にとってとても大切な存在である事を伝えようと、傍に居て欲しいと声を上げる。

「……アタシがずっとフェイトを守っていたかったけど、周りには優しい人がたくさんいるし、フェイトは強い子だ。これから先もきっと大丈夫だよ」
「ヤダっ、アルフも居なくなるなんて嫌!!」
「フェイト……」

諭そうとするアルフだが、それでもフェイトはその言葉を受け入れようとしない。
自分の事を主がこれほどまでに求めていている事をぶつけられ、自分もやはり離れたくは無いと思っている事を証明するように強く抱きしめる。

「……君はこんな光景を目の当たりにしても、二人の間を引き裂こうというのか?」

クロノはフェイトのアルフの互いを想う姿を前にして、オレに考え直すように言ってくる。
人間としての優しさを持つならそんな事は言えないはずだと情に訴えかけてくる。

「……悪魔ってのは真っ当な手段は取らねぇし、碌な結果を齎さねぇ事も多い。
だが必ず契約を履行する。違える事はしねぇ」

クロノの問いかけに対し、オレは応える。
その内容に、クロノは何の話をしているんだとう疑問を浮かべるが、そんなものはどうでも良いと言葉を続ける。

「そして、約束を破るのは人間だけが選べる特権であって、人間を止めて悪魔と呼ばれる事を選んだオレにはその特権はねぇんだよ」

状況によっては約束を覆しても構わないなんていう人間の理屈なんざクソ喰らえだ。
世界の全てを敵に回しても、オレの中にあるちっぽけな誓いは絶対に譲らない。

「約束は誓い。存在しねぇような神にでもねぇ、腹の内を知れねぇ他人にでもねぇ。オレは自分を誰よりも知る自分自身に対して誓い、契約を交わす。
オレは『オレ』が何者かを知っている限り、自分の言葉を何処までも突き通す」

他人が約束を破ったとしても、それに気付けなけりゃ約束を破った事にはならない。
だが、自分が約束を破ったら、それは自分に隠す事は出来ない。

自分自身と約束しているオレは、約束を破る事が出来ねぇし、する気もねぇ。
それがオレが定めたオレの在り方のひとつ。誰にも覆させねぇオレだけの誓い。

「契約は必ず果たす。クロノ・ハラオウン。てめぇが実力で妨害しようともオレはオレの選んだ道を違えないために全力を尽くす。
たとえその結果が死だろうと、オレは止まらない」

それは睨むのではない、威圧するのでもない。単なる事実の宣言。
オレは死なない限り、どれほどの妨害があろうとも、どれほど嫌悪されようとも一度交わした契約は必ず履行するだけ。
その『決定事項』を、勘違いされないように、明確に告げる。

「さあアルフ、対価を支払う事を承認しろ」

そして、この契約では部外者でしかないクロノを無視してアルフに告げる。

アルフはオレの言葉に僅かに躊躇いを見せるものの、それでも約束を果たす事は覆す訳にはいかないと、抱きしめていたフェイトから離れ、立ち上がる。

「あ……」

フェイトも認めたくないと思いながらも、繋ぎとめる事が出来ずに茫然とアルフを見上げる。

「……ずっと思っていたけど、やっぱりアタシはアンタの事が大嫌いだよ」
「そりゃあ光栄だな」

アルフは主との別れの悲しさを抑えつけるように、悪態を突く。
悪魔と誹りを受けるオレが嫌われるのは何時もの事だ。普段なら気にしねぇ。

だが、アルフはオレを大嫌いと言いながらも、オレに憎しみや怒りをぶつけてこない。かといって空虚というわけでもない。
ただ、これ以上主を守れない事に対する寂しさだけがそこにあった。

……こいつもまたバカのひとりだ。だから、オレはこいつを忘れない。
オレのエゴを貫くために犠牲としたという罪を背負うために、その泣きそうでも泣かないと決めたアルフのその強い表情を脳裏に焼き付ける。

そして、アルフは口を開く。契約の帰結の言葉を紡ぐために。

「ああ、アタシはアンタの言う通──」
「ダメェェーーッ!!」

だが、その言葉は言葉とならずに、割って入った叫びに掻き消された。
そして、その声を発した主に皆の視線が集まる。

「そんなのダメだよっ、フェイトちゃんとアルフさんは一緒がいいの!
そんなお別れさせるなんてしちゃダメだよ!!」

そこに居たのは、なんて事は無い小さな存在。
だが、それでも自身の両腕を目いっぱい広げてアルフを庇うようにしてオレを睨みつける。

「……一応聞くが、なんのつもりだ?」

そこに居たのは、最初に出会った時から変わらずバカの筆頭をひた走るひとりのガキ。
そのバカさ加減は相変わらず。オレの前に立ち塞がって見せていた。

「わたしには使い魔の契約とかよく分からないけど、でも、フェイトちゃんとアルフさんは一緒に居た方がいいと思う。
だから、契約の解除なんて認めたくないよ……!」

オレが聞いた事に対して、こいつ、高町なのはは答える。
プレシアという親を亡くしたばかりのフェイトから、更に家族を取り上げるような事をしないで欲しいと真っ直ぐな言葉で訴えかけてくる。

「……ふざけるなよ、高町なのは」

だが、オレはそんな答えに殺気を溢れださせる。
最初に命がどうでもいいような事を言ったのはアルフだ。念押しをしてもその答えを変えなかったからこそオレはこの対価を選んだ。
何も分かっていない癖に、ただ感情だけで口を開くなのはを冷たく見据える。

「オレは単に約束を果たそうとしている。てめぇは単に我が侭を言っている。
どちらが悪いかと言われて、分からねぇほど頭が悪いわけじゃねぇだろ?」

言葉はゆっくりと、一字一句確かに伝えるべく口にする。
だが、優しさなんざかけてはやらねぇ。正真正銘の殺気を以ってなのはと対峙する。
てめぇがどれだけ甘い事を言っているのかを、これ以上無いくらい実感させてやる。

殺気を振りまくオレの姿に、なのはは恐怖に揺らぐ。涙が溢れ、足は震える。
どんなに強がろうとも所詮はガキ。殺気に中てられ耐えられるわけがない。
所詮は平和ボケした世界でのうのうと生きてきただけだ。そのまま倒れ伏してしまえば良い。

「でもっ、やっぱり嫌なの!!」

……そのはずなのに、なのはは必死になって自身を奮い立たせてオレを睨む。
弱くて小さい存在だというのに、それでも必死に嫌だと叫ぶ。

「てめぇは何故オレの前に立っている。オレがその気になればてめぇの首なんざすぐ飛ぶってのに、それでも何故そうしてフェイト・テスタロッサとアルフ庇う?」
「分かんないよ! でも、フェイトちゃんが独りになるのは嫌なの!!」

理屈なんて考える余裕も無く、ただ、自身の想いの丈だけを叫ぶ。
その姿に、夢に見たかつての仲間の姿が重なって見える。出来る事は無いと分かっていても、それでもなお声を上げるあいつら、そしてオレ自身。

……やはりこいつはバカ、しかもどうしようもないほどのバカなんだなと思う。
だが、こいつがそんなヤツであるからこそ、オレもまた世の中捨てたものじゃないと思ってしまう。

「……ハッ、嫌だ嫌だで渡っていける程、世の中は優しく出来ていねぇんだよ。
オレは既に契約を果たしている。てめぇがいくら喚こうとも、対価は貰うっていうのは変わらねぇ。
この前提がある限り、てめぇがどんなに嘯こうとも何も変わりはねぇよ」

呆れて殺気を維持するのも面倒というように演出しつつ、言葉を紡ぐ。
言葉遊びでも、屁理屈でもいい。他の誰でもねぇ、高町なのはにこの契約の抜け道を見つける事が出来たなら可能性を繋げてやろうと、誰に言うでもなく心の中だけで呟く。

「じゃあわたしも対価を払う! アルフさんと半分こにすれば契約の解除をしなくても足りるでしょ!?」
「なのは!?」

そして、なのはは即決で答えを出した。
どうせ何も考えずに直感任せの発言なんだろうが、確かにそれも抜け道のひとつだな。
その答えにクロノが諫めるように声を上げるが、てめぇはどうせ蚊帳の外だ。

「……バカかてめぇは。もし仮にそうしたとしても、てめぇなんかに何が払えるってんだ」
「あぅ……」

内心の嬉しさは一切出さず、呆れて小馬鹿にするようにしながらなのはの提案の穴を指摘する。
なのはは咄嗟に何も出てこなかったようだが、ここで何でも良いなんて言ったなら、アルフの二の舞しかならないのだから悪くはない。
だが、だからと言って安上がりで済ますのは筋が通らねぇ。何の案も無けりゃ今のやり取りはただの時間稼ぎと変わらねぇぞ?

「……ならわたしも。アルフはわたしの使い魔なんだから、その責任を負うのはわたしの役目だ」

そして、なのはが答えに窮している内に、フェイトもまた名乗りを上げる。
それは、さっきまで泣いていた子供の姿ではなく、大切な物を守るために出来る事があるなら何でもして見せるという気概が見て取れる。

「……管理局としても、君達は重大事件を解決に協力してくれたんだ。十分な報償を用意する準備はある」

最後に、クロノもまたここに落とし所を見つけたのだろう、割って入ってくる。
ただ、こいつの場合はなのはやフェイトに支払わせる事はせず、あくまで全ての対価を報償という枠内で収めようとでも考えているんじゃねぇかと当たりをつける。

「……ハッ、こんなバカが揃いも揃っていると興醒めもいいところだ」

オレは、そんなこいつらの答えに満足した。だが、だからといって根っからのひねくれ者であるオレは自身の想いを欠片も表に出さずに踵を返す。

「どうせもう3分だろう。約束通りオレは退散させて貰う」

そしてそのまま連中を無視するように歩き出す。

「ったく、自身が惜しまずとも、周りの連中が惜しむ物を対価に出すんじゃねぇよ。
てめぇの命は最後まで醜く足掻くくらいに居ろってのに、それも分かっていねぇどっかのバカ犬のせいで余計な時間を食っただけじゃねぇか」

そして、部屋を出る直前に振り返って、部屋に居る連中を見やる。

「オレは金や名誉なんていうゴミ屑なんざに興味はねぇよ。
その上でてめぇらがどんな対価を用意するか楽しみにしておいてやるよ」

口の端を持ち上げるようにして、いかにも悪人の笑みを作りながら、なのはの言った通り、アルフの支払うはずだった対価を分散する事を容認する旨を伝える。

返事なんざ期待はしない。そのまま医務室に戻って寝ようと歩き始める。

『……ソウル、嬉しそうだね』

今まで何も喋らなかった了がそんな事を言う。何時もならそんなわけが無いだろうと答えるその言葉に、オレは何も言い返さない。

「……ハッ」

実際、誰も見ていないと分かってから、自分の顔に笑み張り付いているのを自覚して、今更否定したところで滑稽以外の何物でもねぇ。
了は、オレが何が何でもアルフから対価を貰おうと思っているわけじゃねぇ事や、止められる事を期待していた事を察している。
その事は面白くねぇと思うが、それも含めて笑っているのだから、世話がねぇ。

ああ、相変わらず世の中は大概が下らねぇが、それでも優しいやつらが居ると分かっただけで、オレが苦労した対価は貰えたようなもんだからな。

ま、それとは別に、貰えるもんがあるなら貰うがな。



Side:なのは


そして、戻ってくるわたしの日常。
今まで通りだけど、今までとは少し違う日常。

わたしは空間が安定してすぐに帰って来たけど、了君とソウル君は身体の傷がまだまだ治っていないから、少し戻ってくるのが遅れるみたい。

了君とソウル君には、わたし達と一緒に居た事をアリサちゃんには内緒にするように言われていた。

なんでも、元々わたしとは別件であそこに居たのであって、別に一緒に事件を解決しようとしていた訳じゃない。
それに、下手にわたしと了君とソウル君にある共通点から、魔法の事をアリサちゃんに勘繰られるのも面倒だから、とソウル君は言っていた。

わたしとしては一緒だった事は言ってもいいような気がしていたんだけど、なんだかんだと丸めこまれてしまったので、ソウル君の言った通り、内緒にする方針。
了君の事を心配していた様子のアリサちゃんに、何にも知らないと答えるのは少し心苦しいけれど、きっと、これでいいんだと思う。

ただ、連絡はするって言っていたのに、結局音信不通になっている了君に対してアリサちゃんが凄く怒っているのがちょっと怖い。
たぶん、了君が帰ってきたらすっごく怒られるんだと思うけど、内緒にするって決めたからわたしにも何のフォローが出来ない。
ごめんね。了君。

……ユーノ君と出会ってからの事は、過ぎてしまえばあっという間の様な気がする。
だけど、わたしはちゃんと覚えている。みんなの事や、頑張った事。そしてわたし自身が感じて、思った事。

全てが良い結果に終わった訳じゃなかったけど、それでもちゃんとわたしはここに戻ってこれて良かったと思う。

ただ、気掛かりだったのは、フェイトちゃんの事。
クロノ君は悪いようにはしないと言っていたし、ソウル君もアルフさんが支払うハズだった対価は別なもので良いと言ってくれた。
それでも、あのきっと優しい女の子が、これからどうなるのかがずっと気になっていた。


わたしがこの海鳴市に帰ってきてから数日後の朝、クロノ君から連絡がきた。
その内容は、フェイトちゃんの身柄は裁判とか事情聴取のために本局に移送されるんだけど、その前にちょっとだけ会える時間を作ってくれるというもの。
フェイトちゃんが、わたしや了君、ソウル君に会いたいって言ってくれているみたい。

また会える事が嬉しくて、また会いたいと言ってくれている事が嬉しくて。
だから、朝早くだったけど、既にアースラから帰って来ていた了君とソウル君に一緒に行こうと電話をしたあと、すぐに約束の場所である海浜公園に向かっていた。

そして、そこでソウル君が騒ぎを起こしてから久しぶりに会うフェイトちゃんの姿があった。

クロノ君やユーノ君、アルフさん達は、わたし達だけで話をすると良いと言ってくれた。

ただ、実際にこうして会ってみると、話したい事がいっぱいあったはずなのに、なんだか上手く言葉が出てこない。
それはフェイトちゃんも同じみたいで、なんだか変な感じだった。

今は会えたけど、でもすぐに遠くに行っちゃうと分かっている。そしてフェイトちゃんが行く先は、そう簡単に会えない場所だとも分かっている。

それでも、また会えるのかなと、聞いてみると、フェイトちゃんは頷いて、わたしをこの場に呼んでくれた理由を話してくれた。

「君を呼んだのは、言ってくれた言葉、『友達になりたい』って言葉に返事をするため」

そのフェイトちゃんが教えてくれた理由は、何度もわたしがフェイトちゃんに伝えて来た言葉。でも、まだ返事をもらえていなかった言葉。

「わたしに出来るなら、わたしでいいならって。でも、わたしにはどうしたらいいか分からない。
だから教えて欲しいんだ。どうやったら友達になれるのか……」

フェイトちゃんは、友達になってくれるって言ってくれた。
なら、わたしたちはもう友達だよ。

「簡単だよ」

だから、特別な事なんて必要ない。

「名前を呼んで」

精いっぱい笑顔で、まだ躊躇いがあるフェイトちゃんに想いを伝える。

「初めはそれだけでいいの。
君とかあなたとか、そういうのじゃなくて、ちゃんと相手の目を見て、はっきり相手の名前を呼ぶの」

そして、わたしはフェイトちゃんの手を取る。

「わたし、高町なのは。なのはだよ」

まずはわたしから。真っ直ぐフェイトちゃんの目を見て、自分の名前を教える。

「……なのは」
「うん、そうだよ!」

おずおずとした感じで、でもはっきりとわたしの名前を呼んでくれた。
そして、何度もわたしの名前を呼んでくれる。それが嬉しくて、わたしも何度も返事をする。

「君の手は暖かいね。なのは」

フェイトちゃんが、手を重ねて来ながらそう言ってくれる。
フェイトちゃんの手も暖かいよと思うけど、想いは上手く言葉にならなくて、代わりに涙が溢れてくる。
泣くつもりなんて無いのに、やっと友達になれたのに、これでお別れなんだと思うとどうしても悲しくなってしまう。

「少しわかった事がある。友達が泣いていると、同じように自分も悲しいんだ」
「フェイトちゃん……!」

もう我慢が出来なくて、わたしはフェイトちゃんに抱きつく。
友達になれた優しい女の子ともっと一緒にいたいから……。

「ありがとう、なのは。今は離れてしまうけど、またきっと会える。
そうしたら、また君の名前を呼んでもいい?」
「うん、うん……っ」
「会いたくなったら、きっと名前を呼ぶ。だから、なのはもわたしを呼んで。
なのはに困った事があったら、こんどはきっとわたしがなのはを助けるから」

やっぱりフェイトちゃんは優しい子だと思う。
わたしが悲しくて、自分も悲しくなっていて、それでも新たに約束してくれる。
また逢えるから。だから今は悲しくても大丈夫だと言ってくれる。
それが嬉しくて、まだ悲しいけれど、それ以上の温かさがあるから、わたしも大丈夫だと思える。

「……時間だ。そろそろ良いか?」
「うん」

そして、クロノ君が、お別れの時間が近づいている事を教えてくれる。
それを合図に、わたし達は離れる。これで今はお別れ何だと思う。

「フェイトちゃん!!」

何か、今出来る事は無いかと考えて、そして思いついた事。

「思い出に出来るの、こんなのしか無いんだけど」

自分が髪を留めているリボンを取って、フェイトちゃんに差し出す。
わたしの一番のお気に入りの桜色のリボン。離れていても、これを見てわたしの事を思い出して貰えるように。

「じゃあ、わたしも」

そういって、フェイトちゃんも、自分の髪を留めている黒いリボンを外して、差し出してくる。

それをふたりで交換する。

「ありがとう、なのは。きっと、また……」
「うん。きっとまた……っ」

今はお別れだけど、また逢うって約束をする。

「それにしてももう時間も無いっていうのに、あのふたりは何を考えているんだ?」

クロノ君がそう言うと、フェイトちゃんが俯いて見せる。
そう、この場には了君とソウル君が来ていない。
わたしが来る前に電話した時、自分達はこの場に来ないって断られちゃっていた。
でも……、

「あの、わたし、ふたりからフェイトちゃん達に伝言を預かって来たの」

電話口に伝えられた言葉だったけど、この言葉にはふたりの気持ちが籠っている。
だから、間違いなく伝わるようになるべく本人の言葉をなぞるように話す。

「あのね、ソウル君は、『自分はわざわざ会いたいとは別に思わない。そもそも、呼び付けるとは何様のつもりなんだ』って言ってたの」
「そっか……」
「アイツの方こそ何様だってんだよ!」

まずはソウル君からの伝言というか、言っていた事。
フェイトちゃんは、残念そうにうつむいて、アルフさんはソウル君に怒ってみせていた。

わたしも、ソウル君の言葉をそのまま伝えたら、フェイトちゃんもアルフさんもあまりいい思いはしないと分かっていた。
でも、ソウル君の言葉は、ソウル君の言葉として伝えないと、意味が無い。

「それと、了君から。
『ソウル君の言う事を意訳すると、自分から会いに行く事はしない。でも君達の方から会いにくる分には構わない。
自分はここに居るから、言いたい事があるならやるべき事を終わらせた後に、胸を張って会いに来いって事。自分も、会える日を気長に待っているよ』
……だって」

何故なら、了君の伝言がソウル君の本当の気持ちを教えてくれているから。
了君の伝言を聞いて、ソウル君の気持ちが分かってフェイトちゃんも俯いていた顔を上げていた。

「なんというか、ひねくれ者というか、らしいというか……」
「うん。わたしが了君の伝言を聞いたとき、ソウル君はなんだかとってもふてくされているみたいだったよ」

わたしがそう言うと、誰からともなく、みんなで笑っていた。
ソウル君は、ひねくれ者だけど、でもやっぱり凄く優しいんだと思う。

「……じゃあ、胸を張って会えるって自信が持てたら、ソウルと了にはわたしから会いに行くよ。
そして、その時にちゃんと自分で自分の言葉を伝えるよ」

だって、フェイトちゃんは今、こうして笑っていられるんだから。
再会の約束ではなく、目指す目的として了君とソウル君は立っているのだから。

「さて、そろそろ行こうか」
「うん、クロノ君も元気でね?」

転送の魔法陣の上に、フェイトちゃんやクロノ君達が立っている。
それを、わたしとユーノ君が見送る。

「ばいばい……っ」
「またね!」

手を振って、別れる。その姿が見えなくなるまで。

そして、誰も居なくなったここで、海風に吹かれる。

「なのは」
「……うん!」

精いっぱいの笑顔で、ユーノ君の呼びかけに応える。
またちゃんと会えるから。繋がった絆は確かにここにあるから。

お別れは悲しいけど、それでもわたし達は今から始まったのから、悲しい以上の嬉しさがこの胸にあったから。

だから、高町なのはは、これからもがんばって行きます!









あとがき

エピローグシーンを、自らハブられにいくという主人公ズだった無印最終話。
目標として立ち塞がる人と、のんきに待っている人という組み合わせ。

そして、無印編の完結です。
思えば、なのはSSを色々読んでみて、
介入する主人公が、第三勢力的立ち位置に居るSSってあんまり見た事無いなぁ。
探してみるにしても、どうしようかなぁ。
というか、自分で書いた方が早い?

というノリで書き始めたこの話。
実際に書いてみて、主人公ズが第三勢力なのかどうか微妙な気もしますが、基本的には主人公ズは誰の仲間にもなっていないので良いとします。


個人的な事情により、続きを投稿するのはひと月か、ふた月先になるかもです。




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