学園都市麻帆良、そう呼ばれている街がある。その街は日本の中にありながら、どこか異国にいるように思わせる雰囲気を漂わせていた。
日本でも類を見ないほどの規模を誇るこの学園都市に、一組の母子が訪れていた。だが、母親の方は体から血を流し、いまにも呼吸が止まりそうなほどに弱っており、子供は心配そうに母親の顔を舐めている。
『いきなさい…、母さんは、もう駄目、みたいだわ』
『いやです! 母さんも一緒じゃないと嫌です!』
二人がいるのは薄汚れた路地裏で、さらには時間が深夜と言うこともあり人が通る気配は全くなかった。だが仮に人が通ったとしても、この二人を助けることはないだろう。
なぜなら、この母子は人ではなく狼なのだから。母親も子供もどちらも美しい白い毛に包まれ見る者全てを惹きつける何かを漂わせていた。
『いきなさい!』
いつまでも動こうとしない我が子に、母親は大きく吼え、威嚇するように低く声を上げ、子供はいままで聞いたこともないような母親の声に今にも泣きそうになりながらも、首を横に振っている。
『坊や、お願いだから、いってちょうだい…』
母子がどちらも譲らず、時だけがただ流れていき、その間にも母親の息づかいは徐々に細くなって言っている。本来ならすでに死んでいてもおかしくないほどのケガを負っている母親を繫ぎ止めているのは、ただ子供への愛情ただそれだけなのだろう。
「誰かいるのか?」
その時、路地の入り口の方から人間の声が聞えてきた。母親は殆ど動かなくなった体を何とか動かそうとして、口から大量の血を吐きその場に再び倒れ伏す。
「グルゥ…!」
母親を庇うように子供が一歩前に出て、小さい体で精一杯威嚇する。だが、声をかけてきた人物はそこに何かいるのを確認すると、逃げるのではなく母子に近寄ってきた。
「ほう、なかなか霊格の高そうな犬ではないか。…いや、この感じ犬ではないのか?」
母子の前に姿を現したのは黒いマントに身を包んだ一人の少女だった。少女は小さく何かを呟きながら、興味深そうに母子を観察していたが、不意に納得がいったような表情を浮かべる。
「貴様ら狼か。それも、純粋に『大神』の血を引く血族とはな。こんな島国でよもやお目にかかれるとは思わなかったぞ。いや、こんな島国だからこそか…」
一人呟き続ける少女に対し、子供は威嚇を続けたままだったが、その横を血でぬらした体を無理に動かしながら、母親が少女に近づいていく。
『母さん! 動いたら駄目です!』
子供は歩き出した母親を何とかその場に座らせようと必死で足下にまとわりつくが、母親は意に介さず目の前にいる少女に話しかけた。
「貴方を誇り高き真なる吸血鬼と見込んでお願いします。この子を、お願いできませんでしょうか?」
「ほう、母親は人語も解すか…。しかも私が真祖の吸血鬼とわかるとはな…」
「どうか、お願いします…」
母親はそれだけ言ってその場に三度倒れ伏してしまう。子供はそんな母親に近寄り、必死に呼びかけ続けるが母親には、子供の呼びかけに応える力さえ、もう、残ってはいなかった。
『母さん! 起きてください! 嫌です母さんがいなくなるなんて! 僕を一人にしないで!』
子供の必死の呼びかけに対し、母親は僅かに動く体を動かし優しく子供の顔を舐め、そのまま…、動かなくなってしまった。
『母さん!?』
母親が動かなくなり、子供の叫びはさらに悲痛なものになる。だが、いくら呼びかけようとも母親が動くことは二度となく、闇夜にただ子供の泣き声が響くだけだった。
「泣くな! 貴様は誇り高き大神の末裔にして、その女の息子なのだろうが!」
突然少女から怒声が響き、子供は小さく身を震わせ少女を睨み付ける! だが、子供からの視線など意に介さないというように、少女は動かなくなった母親に近づいてくる。
「自らの死を感じ取りながらもなお自分を顧みることのなかった、その誇り高き狼の息子なのだろうが、貴様は! それどうする? 貴様はただ泣くことしかしないのか!」
少女に言われ、子供は母親の亡骸を引きずろうと力を入れるが、大きさがあまりにも違いすぎるため、一向に動く気配はなかった。
「ふっ、あくまで私の手は借りないと言うことか。気に入ったぞ貴様」
「マスター、お呼びでしょうか?」
少女が、自分の手で母親の亡骸をどこかに運ぼうとする子供を見ていると、その場にもう一人別の人物が現れ少女に話しかけてきた。少女は鷹揚に頷くと、新たに現れた女性に短く指示を出す。
「安心するがいい、母親の亡骸は私たちが埋葬してやろう。それで貴様はどうする? その女の遺言だ、私と一緒に来るか?」
少女の言葉に子供は、どうするか迷っていた。母親が自分のことを頼んでいたのは話を聞いていてわかっていた。それに、少女からは自分たちと、母親ととてもよく似た感じの雰囲気を感じていた。
「マスターその子は…」
「ああ、その女の息子らしい。見ろ茶々丸、これが狼というものだ。かつて、この日の本を守護し大神とまで言われ人々に信仰されていた者の末裔だ。しかも、純白の毛並みとは余程色濃く血を受け継いでいるのだろう、下手をすれば私以上の力を持っているだろうよ」
「狼、ですか」
「ああ、そして今日からこの私、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの家族になるのだ」
こうして、大神の子は真祖の吸血鬼とその従者と出会い、数々の物語を紡いでいくことになる。
『かくして私は眷属になる』 (再構成 ほのぼの 最強狼 改訂版)
プロローグ エヴァとロボ、その出会い。
「なぁ茶々丸、狼はこんなに大きくなるものだったか?」
「調べたところによると、通常の個体で大きくても肩高一メートルまで、体重は八十キロぐらいだそうです。明らかに大きいですね」
そう話す二人の目の前には、真っ黒な毛に包まれた巨大な生物がいた。その動物は二人を前にして嬉しそうに、それこそ千切れんばかりに尻尾を振っている。
そして、この巨大な生物こそがあの日少女についていった狼の子供である、のだが…、なぜだかとても大きくなってしまっていた。少女、エヴァンジェリンと子供が出会ってから、まだ一ヶ月しか経っていないにもかかわらず驚異の成長だ。
だが、それにも訳があった。
この少女、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルはただの少女ではない。母親が言っていたように、真なる吸血鬼と呼ばれる存在、真祖の吸血鬼だ。
真祖とは、太陽の光を克服し日の中でも生活することのできる吸血鬼のことを指し、このエヴァンジェリンは真祖の吸血鬼として六百年以上の永きを生きてきたのだ。
そして、今この場所はエヴァが持っている魔法のアイテムの中で、この中の一日は外の世界では一時間にしかならないという、かなりとんでもないアイテムの中にいるのだ。
そして、このアイテムを使い、狼の子供は一歳ぐらいに成長し、それに合わせて体も大きくなっていた。というか大きくなりすぎていた。それが、本人の特徴によるものなのか、このアイテムの中にいたせいなのかはわからないが、あの小さかった子供は肩高二メートル、体重八十キロにまで成長していた。
そして、最大の変化は白かった毛並みが見事な黒色に変わってしまったことだろう。本人はエヴァとお揃いと言うことでかなり気に入っているらしい。
「これが『大口真神』の血の為せる技か…」
エヴァが呟いた『大口真神』というのは、かつて日本にいた狼の神の名前であり、子供の先祖に当たるらしい。エヴァ自身は狼の子が話していることは全く分からないが、一人話をわかる者がいるためそのことが判明したのだ。
『御主人! 散歩に行きましょう!』
「ん? なんだロボ散歩に行きたいのか?」
ロボと名付けられた狼の子供は、自分の言いたことをわかってくれたことが嬉しく、エヴァの顔を舐めて喜びを表現している。ロボは人語を喋ることは出来ないが、何を言っているのかは理解することが出来、エヴァはロボが人語を理解しているのはわかっているが、ロボの言っていることがわからなかった。
それでも、なぜかロボの仕草を見て言いたいことがわかる時点で、どこか分かり合っているのかも知れない。
「なら散歩に行くとしよう」
エヴァがそういうとロボは大きな体を腹ばいになってエヴァが乗りやすいようにし、その背中にエヴァがまたがってくる。だが、エヴァが乗った後も、ロボは腹ばいのままですぐ近くにいる茶々丸を見上げる。
「私も乗って良いのですか?」
茶々丸の質問に対してロボは小さく鳴くことで答え、そんなロボの背中に茶々丸はおずおずと乗り、ロボは茶々丸が乗ったのを確認するとゆっくりと立ち上がった。
「ロボ、どれだけ気が使いこなせるようになったか見てやろう。気で身体能力を強化して走ってみろ」
ロボは、一般に気と魔力といわれている物を両方使うことが出来る。だが、それらの使い方を教わる前に両親ともなくなったしまったために、ロボはどちらとも使うことが出来なかった。
しかし。ロボと出会ったエヴァは真祖の吸血鬼であり、その道では知らぬ者はいないほどの有名人だった。そのエヴァが教えたことでロボはかなり自由に気と魔力を使いこなすことが出来るようになったのだ。
『頑張ります!』
ロボは気合いを入れ体全体に気を纏うと、体の表面をうっすらと光の膜が覆っていき体全体を包んだ。そして、ロボは一気に駆け抜けた。
「うむ、良い調子ではないか」
「はい、風が気持ちいいです」
背中で二人の喜んでいる声を聞いて、ロボはさらにスピードを上げていく。どこまでも、どこまでも、まわりの風景が見えなくなるくらいに速度を上げていく。
「ちょ!? まて! スピードを少し落とせ!」
「いま二百キロを超えました」
背中で何か言っている二人を、喜んでくれていると思いロボはさらにスピードを上げていく。そして…。
「貴様は加減をしらんのか!」
ロボはエヴァに説教をされていた。あの後も、止まることなくスピードは上がり続け、あまりのスピードに耐えきれなくなったエヴァが背中から落ちていき、ようやく事態に気がついたロボが走るのをやめた。
そして今、頭にでっかいたんこぶを作ったエヴァにロボは説教をされているのだ。
「この別荘の中だから良かったものの、もしこれが外ならどうなっていたかわかっているのか!」
エヴァに怒られ、ロボの耳は力なく垂れ下がり、尻尾も股の間に挟んで悲しそうに震えていた。そんなロボを可哀想に思ったのか、横から茶々丸が助け船を出してきた。
「マスター、ロボも反省しているようなので、もうその辺で良いのではないでしょうか?」
自分を庇ってくれる茶々丸に、ロボは顔を寄せてゆっくりと頬を舐めると、茶々丸は優しい笑顔を浮かべロボの頭を撫でるのだが、次の瞬間にはまたエヴァの怒りの声が辺りに響く。
「茶々丸! ロボを甘やかすな! これも、全てロボのためなのだ!」
「ですが…」
それでもロボを庇おうとする茶々丸を、ロボが優しく頬を舐めることで止め、ロボは真剣な眼差しでエヴァを見つめ返し、エヴァもそんなロボを正面から見据えている。
「だいたいだな! ロボはもう少し…」
まだ説教を続けようとしたエヴァだったが、何故かそこで言葉を一旦切り口をつぐんでしまった。
「もう少し…」
エヴァの言葉はそれ以上は続かず、次の瞬間には…。
「ロボー! 好きだー!! 愛してるー!!! 生まれ変わっても愛してるぞー!!!!」
『私もです御主人!』
ロボに駆け寄り、その胸に飛び込んでふさふさの毛の中に埋もれてしまった。そして、そのまま一向に動く気配はなく、気がつけばすでに二時間以上が経過し、いつのまにか茶々丸もロボに抱きついていた。
そんなことをしながら、ロボとエヴァ達は夏休みの期間を過ごしていた。夏休みが終る頃にはロボも三歳くらいになっており、気と魔力の使い方もかなりのものになっていた。
そんなロボだが、今日は久しぶりに麻帆良の街で早朝散歩をしていた。朝のさわやかな空気を吸いながら、ロボはある場所を目指して走っていく。
『母さんおはようございます。今日はとてもいい天気ですよ』
麻帆良のはずれにある森の一角に小さな石が一つだけ置いてあり、その周りには沢山の花が咲いていた。ロボはその石の前に座って、なにやら話しかけている。
『すっかり毛の色が変わってしまいました。でも、御主人とお揃いなので嬉しいです。どうですか? 似合ってますか?』
ロボは母親の墓の前で、ゆっくりと一回りして自分の姿をよく見えるようにする。もちろん誰も返事をすることはないのだが、ロボにはなんとなく母親が微笑んでくれているように思えた。
『あ、御主人が呼んでます。母さんまた来ますね』
ロボは石に一度頬を擦り付けてから、エヴァが待っている家に向かって走り出した。家に戻ると、玄関でエヴァが制服を着てロボの帰りを待っていた。
ロボは一目散にエヴァに向かって走りより、そのまま飛びついた。
「なぁー!?」
もちろん二メートルもあるロボが飛びつけば、エヴァが支えられるはずもなくロボがエヴァを押し倒してしまい、ロボはそのまま勢いよくエヴァの顔を舐め始めた。
それから少しして、どうにかロボから逃げ出したエヴァは説教を始めようとしたが、茶々丸がそれを横から止めに入った。
「マスター、もう時間がありません。このままでは遅刻してしまいます」
「…ロボ、説教は学校から帰ってからだ。ちゃんと反省しておくのだぞ?」
ロボはエヴァのそういわれ力なく項垂れていたが、急に何かいいことを思いついたかのようにエヴァに擦り寄っていき、そのまま腹ばいになって自分に乗るように、エヴァの服の裾を噛む。
「だめだ留守番だ」
「ク~ン…」
「可愛く鳴いても駄目だ」
「…」
「駄目といったら駄目だ」
ロボが瞳を潤ませながらエヴァを見つめるが、エヴァは鋼の精神力を持ってそれを拒んでいる。だが、そうしている間にも時間は刻々と過ぎており、やがて…。
「マスター、タイムリミットです。遅刻が確定いたしました」
「…」
茶々丸がそういうと、エヴァは肩を落として溜息をつき、反対にロボは千切れんばかりに尻尾を振って自分に乗るようにエヴァを見つめる。
「茶々丸、お前も乗れ」
「いいのですか?」
「ここでお前だけ走っていかせたら、後でロボが拗ねかねん」
エヴァに言われ、茶々丸もロボの背中に乗る。ロボは二人が乗ったのを確認してから、ゆっくりと起き上がり軽快に走り出した。その足取りは、背中に何も乗せていないかのように軽やかだ。
「よし、十分間に合うな」
「ロボ、ありがとうございます」
ロボの背中から降りた二人はそれぞれにロボに労い、ロボはエヴァと茶々丸の役に立てたのが嬉しいのか、しきりに二人に顔をこすり付けていた。
「なんや、大きい子がおるで! この子エヴァちゃんとこの子なん?」
「近衛木乃香か。私の家族だ、ロボ挨拶をしろ」
エヴァに促されたロボは、木乃香と呼ばれた少女に近づき、鼻の頭をこすり付けて挨拶をすると、木乃香はとても嬉しそうに自らも顔を寄せていった。
「君ロボ君言うんやな、あれや狼王やな! なぁエヴァちゃん! この子触ってもええか!?」
「ロボが嫌がらなければかまわん」
「触ってもええ?」
ロボは答える代わりに木乃香器用に顔に乗せて自分の背中に乗せてやり、ゆっくりとその場を歩き始める。ロボが動くたびに木乃香は大喜びし、たまに毛に埋もれて幸せそうな表情を浮かべていた。
「それにしても大きいワンちゃんやな」
『私犬じゃないですよ、狼です木乃香さん』
「そっかー、君狼なんか」
そんな一人と一匹の光景を、エヴァと茶々丸の二人は驚きの表情を浮かべながらみていた。二人には、なにやらさっきからロボと木乃香が会話をしているように見えるのだ。
「おい近衛木乃香、まさかとは思うが貴様ロボの言っていることが分かるのか?」
「ややわーエヴァちゃん、わかるわけないやん。なんとなくや、なんとなく」
木乃香とエヴァたちがそんなことを話していると、もう一人別の少女が近くに寄ってきて、木乃香に話しかけてきた。
「ちょ!? 何この大きいの!? 木乃香大丈夫なの!? 食べられるんじゃない!?」
「明日菜―! みてー! この子ロボ君言うんやけど、すっごいええ子やでー! すっごいふさふさやから明日菜も触れせてもらいーな!」
「い、いいわよ私は、なんか怖いし…」
後から来た明日菜と呼ばれた少女は、そういって少し離れたところからロボと木乃香を見ていた。ロボは、少しおびえた目でこちらを見てくる少女に気がつき、自分の背中に乗っている少女をその近くに下ろす。
「え? なんでなん? うちこわないで!? ほら! 明日菜がへんなことゆうからロボ君怒ってしもーたやんか!」
木乃香はそういって、またロボに乗せてもらおうと周りをぴょんぴょんと飛び跳ね、最後には胸に抱きついて離れなくなってしまい、ロボはそれを少し困ったような表情で見ている。
「近衛木乃香、ロボは別に怒って貴様を下ろして訳ではないぞ。あのままだったら、そこの馬鹿レッドと貴様の仲が悪くなるのではないかと思って下ろしただけだ。そうだろロボ?」
エヴァの説明により、木乃香はロボの顔を見ながらゆっくりと離れていき、ロボはそんな木乃香の顔を優しく舐め、明日菜にも怖がらせたことを誤るように、一度だけ顔を摺り寄せる。
明日菜はそんなロボの頭を最初は恐る恐る、だが次第にしっかりと触っていく。
「…、ほんとにふさふさだわ。ごめんね、怖いなんていって?」
『気にしてませんから』
ロボはもう一度だけ顔を摺り寄せてから体を離し、エヴァと茶々丸のほうに視線を向けると、そこには優しげな微笑をうかべているエヴァと茶々丸の姿があった。
だが、その時大分離れたところからとても嫌なにおいが風に乗って流れてきた。そして、その嫌な匂いの正体をロボは良く知っていた。
「落ち着けロボ、敵ではない」
警戒態勢をとろうとしたロボに、近くに寄ってきたエヴァが耳元で小さくそう呟き、警戒態勢を解かせる。エヴァはそんなロボの首筋を優しく撫でて、家に帰っているようにロボに言い、自分達は校舎の中に入っていく。
エヴァたちを見送ってから、ロボは家に向かって走り出した。だが、その途中に突然走る方向を変え、朝に言っていた場所に向かいだした。
そこでロボは医師の前に寝転び、エヴァについていった学校でとても言い人間に出会ったことを報告し、そのまま眠りに入ってしまった。
「にゃ~…、にゃ~…」
それから少しして、眠っているロボの耳にか細い動物の鳴き声が届いた。ロボは体を起きあがらせると、声の聞こえる方向にむかって歩き出した。
ロボが泣き声の下につくと、そこには一匹の子猫が木の上に上っており、降りられずに泣き声をあげていた。
『もう大丈夫ですよ』
ロボは子猫にそう話しかけて、木の上から助け出し家がどこか訪ね、その場所まで送っていくことにしたのだが、子猫に案内された場所に着くと、どこからか沢山の猫が現れ、ロボの周りに集まり始め、中には体に上ってくるものまでいた。
ロボは下手にその場から動くことができなくなり、あきらめてその場に座り込んでこの場所で昼寝の続きをすることにした。
少しの間眠っていたロボは、よく知った匂いが近づいてきているのに気がつき、眠りから目を覚ます、すると、少ししてから良く見知った人物が現れた。
「なぜここにロボがいるのですか?」
その人物とは茶々丸であり、その手にはかいもの袋がぶら下げられ、中には大量のキャットフードが入っていた。そして、猫達はロボから下りると、一斉に茶々丸めがけて走っていった。
「そんなに慌てなくても大丈夫です」
ロボと茶々丸は、餌をやり終えると一緒に家に向かって帰り始める。夕焼けの中、ゆっくりと街の中を歩きながらのんびりと家を目指していく。
「ロボ、家に入る前に猫の毛を取りましょう。マスターは猫アレルギーですから怒られてしまいますよ」
茶々丸に一通りブラッシングしてもらい、ロボは愛しの御主人が待つ家の中に入っていくと、そこには座ってテレビを見ているエヴァの姿があった。
ロボはエヴァに近づき、その体に巻きつくかのように体を丸めて座り、エヴァもそんなロボに体重を預けて、満足そうに頷いている。
「うむ、これでしっくりきた。それとロボ、遅くなるようなら電話の一本でも入れる。心配するではないか」
『すいません御主人、でも私電話使えません』
「そうだ、爺が会いたいといっていたな。また一緒に学校に行くか?」
エヴァの申し出にロボは尻尾を振って喜びを表現する。こうしてエヴァたちの一日は過ぎていくのだった。
※後書き
この作品は以前書いた自分の作品の改訂版です。話の流れ自体はほとんど変わりませんが、文章は大幅に変わる予定です。作者です。
というわけで、『かくして私は眷属になる』の改訂版です。初めての人は始めまして、そうでない方はお久しぶりです。
古いほうの作品は、今週中に消す予定ですので、あしからずご了承ください。
ではまた。