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No.1423の一覧
[0] 戦乱浮遊界[バツ](2006/08/15 13:09)
[1] 戦乱浮遊界 第2話[バツ](2006/08/16 15:34)
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[1423] 戦乱浮遊界
Name: バツ 次を表示する
Date: 2006/08/15 13:09
第1話


「なんでこんな所に閉じ込められなきゃならないんだよ!?」


少年の絶叫が暗い牢獄に響き渡る。

彼の名はアルス。別に何か罪を犯したわけではない。

それどころか彼の住んでいた村はこの牢獄の持ち主達により皆殺しの憂き目にあっていた。


「出してくれ! じいちゃん達を生かして戻せこの悪党ども!!」


アルスに出来るのは叫び続けることだけ。

牢獄の中で他に何が出来ると言うのか。


そんな彼の前に一人の兵士が現れる。

兜のせいで表情は見えないがあまり友好的には見えなかった。


「ついて来い。国王陛下が貴様をお呼びだ」

「・・・・・・いいよ。丁度いいから俺の村を無茶苦茶にした奴の顔を拝んでやる!」


その瞬間鈍い音が響き渡る。じわりと広がる鈍痛、

兵士の拳がアルスの腹にめり込んだ音だ。


「無礼な真似は止せ。陛下はお優しい方ではないぞ」

「し、知ってるよ。村の皆を皆殺しにしたぐらいだしな」


「・・・・・・長生き出来そうも無いな貴様は」

「この状況下で長生きなんか出来るわけ無いだろ?」


そこまで聞いた兵士は黙り込み、そうだな。とだけ呟いてアルスの首に縄をかけ

彼を牢獄から連れ出した。


・・・。


そこは、彼にとって異世界と言うべき場所であった。

100人位は入れそうな大広間の先に一段高い場所があり、

豪華な椅子に目つきの鋭い老人が座っている。

周りにはやはり豪華な衣服を纏った連中が居てじろじろとこちらを見ていた。


「貴様がジューダの孫か?」

「そうだ。・・・・・・アンタは誰だ?じいちゃんの知り合いか?」


豪華な椅子の老人がギロリとこちらを睨みながら言う。

何でそこまで怨まれるのかは判らないが、アルスとしても怨みは深い。

礼儀など関係ない。とてもじゃないが敬語なんか出てきそうも無かった。


「小生意気な奴だな、わしはこの国の王だと言うのに。まあいい」

「何がいいんだ」


「裏切り者の孫よ。貴様達の隠れ住んでいた村の、いや島の所有権をわが国によこせ」

「何だよそれ」


その言葉を合図にしたかのように衛兵達がアルスの喉元に槍を突きつけた。

反論は即ち"死"だと言わんばかりに。

だが、そうまでされても彼は首を縦に振ることは無かった。


「嫌だね! 第一もう島はあんた達が占領してるじゃないか」

「ふん、正式に譲り渡された物でないと、周りの国が何かと煩いのだ」


「それを渡して、俺は生きていられるのか?」

「無論」


「嘘つくな! 人を小馬鹿にした態度の奴は信じちゃいけないってじいちゃんが言ってたぞ」

「なっ!?・・・・・・こ、この小僧を刑場に連れて行け!」


こうして交渉は決裂。

彼はベランダのような場所に連れて行かれたのである。


・・・。


そこはベランダと言うのがふさわしい場所であった。

但し、そこから突き出す一本の板の先に何も無いことを除けば。


眼科には紫がかった雲が延々と続く。

そう"眼下"にだ。


「さて、貴様も何故こんな目に遭うか判らねば死ねまい?」


そうして王は語り始めた。

かつてアルスの祖父がこの国に仕えていた事。

ある日任務中に姿をくらました事。

しかも、探索中の遺跡から何かを持ち出していた事。

後に『とんでもない事をしてしまったので消える』と手紙が届いた事・・・・・・。


「探し回った挙句、奴は自分の島を手に入れ悠々と暮らしておった。裏切り者の分際でな」

「そんなの帰れる訳無いじゃないか。大失敗したんだろ?」


ギロリと王の目が更に鋭くなる。


「どんな失態だろうが島一つ見つけて帰れば釣りが来る。それをのうのうと!」

「だからって、殺す事は無いだろ!?」


「陥落した島の住民は勝者の思うがまま。当然だろうが?」

「知らないよそんな事、第一俺は島から出た事が無いんだ!」


「ふん。道理で常識を知らぬわけだ。流石は裏切り者の孫と言うことか?」

「じいちゃんを悪く言うなああっ!!」


重なる言葉とその場の勢い。

そうとしか言いようの無い衝動に駆られアルスは王に殴りかかる。

だが、周囲を固める衛兵達の槍に阻まれ逆に追い詰められる。

そう・・・・・・ベランダの先の一枚板の先へ。

そして、逃げ場の無いアルスと貫かんと衛兵達の槍が


「ま、待て!そこまでだ!」

「な、国王陛下?」


・・・・・・アルスの手前こぶし二つ分ほどに迫った瞬間、国王自身がその槍を止める。


「ふ、ん・・・・・・よく考えろ。こやつが首を縦に振らぬ限り島の譲渡は成らぬだろう?」

「しかし、いまさら島の住人の承諾など。各国には偽造書類でも作って」


「黙れ。 さあジューダの孫よ、島を渡すと言え。それでお前は助かるぞ!」

「お、お断りだ。誰があんた等なんかに」


「流石はあの頑固ものの孫だな。ならば王としての誇りに賭け安全を保障するがどうだ」

「陛下、それは少々譲歩しすぎでは?」


「黙れ! アルスとか言ったな。悪いようにはせんからわしの言うことを聞くのだ!」

「お、お断りだあああっ!」


瞬間、少年の体が空中に舞う・・・・・・緊迫した雰囲気から逃れようとするが如く。

支えも翼も無く。

程なく跳躍で生まれた力を失った体は下へ下へと自由落下を始める。


雲が見える。

紫がかった雲が。

横を見ると浮遊大陸から水汲み用のバケツの付いたロープが長々と垂れている。


そこは、死の世界。

眼下の紫雲は毒の海。まともに吸い込んで生き延びた人間など居なかった。

地上は毒の雲に覆われ、人々は点在する浮遊大陸でのみ生存し得る。


「じいちゃん・・・・・・」


少年は懐に隠していた祖父の形見を取り出し、雲海の下へ消えていった・・・・・・。


・・・。


「な、何と言うことだ」

「はい。止むを得ません。島の所有権は適当に書類を作りましょう」


「そういう問題ではないわ!」

「は、はぁ」


叫び、己の玉座に戻った王は一人思考の海に浸る。

何故かつての友は裏切ったのか?

何故今まで戻ってこなかったのか?

答えは出ない。


ふと気づくと、王の目の前には一人の伝令が跪いていた。


「何事だ、わしは機嫌が悪い」

「はい。物見が新たな浮き島を発見しました。果実が自生し村落が在ったそうです」


「・・・・・・従わぬなら潰せ。果実は全てもぎ取り、島には民の家を建てよ」

「はっ。これで一時的にですが人口問題は解決ですね」


「うむ。人の重みで国が沈んでは元も子もない。・・・・・・間引かずに済んで良かったな」

「本当に。ですが向こうも状況は同じ模様。弓兵が浮き舟でこちらに向かって来ます」


「わが国に対し攻撃? まさに自殺行為だな」

「敵も必死です。迎撃はしますが捕虜は」


「全員"落とす"のだ。わが国には余計な人口を養う土地も資源も無い」

「はっ!」


・・・。


かつて偉大な文明によって栄えた世界があった。

しかし次第に枯渇する資源が滅びの予感で世界を包む。

・・・・・・ある時、素晴らしいエネルギー源が発見された。

完全循環型、無公害、更にその原料は太陽光と言うガス型万能燃料。

世界は今一度、かつ永遠の繁栄を極める筈だった。


だが、実用化のその日に悲劇は起きる。


何故か漏れ出したガスはやはり世界には優しかった。動植物には何の影響も無い。

だが、ある種の生物・・・・・・人間だけはその例外だった。

ガスを吸い込む度にひとり、またひとりとあっという間に人間達は倒れていく。


人類は終わりだと誰もが思った。


だがそんな人類を救ったのもまたその万能燃料だった。

ガスは次第に地面に浸透し、土に染み込み凝固させていく。

そしてあろう事かその凝固し岩と化した大地は、

重力の楔から逃れんとするが如く宙に浮かんだのである。


更にそのガス自体は空気よりも重かった事が幸いした。

人々は風船の如く浮かび上がった大地の上でのみだが、生き延びることが出来たのである。


故に人々は眼下の紫雲を憎み・・・・・・そして必要としていた。


時折大地と共に浮かび上がる動植物を糧として、

燃料として使うため、己の命を奪いかねない毒雲を恐る恐るすくい上げ、

時と共に浮力を失い落ちていく大地に、常に恐怖を覚えつつ。


沈んだ大地も紫雲に包まれる内にいつかまた浮かび上がり、

そして浮かび上がった大地はいつか毒雲に沈む。

それ故に人は常に大地を求め、かつての世界以上に戦いが尽きる事が無かった。


・・・。


うっすらと紫雲に包まれた地上の湖。

人間だけは入り込めない筈のこの場所。

だが何事にも例外はあるようで、ここに一人の少年が姿を現した。


水飛沫と共に地に落ちた少年はよろよろと地上に這い上がる。

その口元を、かつて彼の祖父が遺跡で見つけた"宝物"が覆う。


こほー、こほー


妙にくぐもった彼の呼吸音だけが、静まりかえった森に響いていた・・・・・・。

続く


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