「検査の結果は、頭部の打撃による脳の損傷も見られないため大丈夫でしょう、腹部と背中にある傷跡も完治していて問題ありませんし、後遺症も見られません。気づかれないよう、魔法も使い検査したので間違いの可能性も低いと思います」横島を診察した、タカミチより少し若い医師の話を聞いて、タカミチは安心して息を吐いた。頭にかなりの衝撃が受けていたのは確かなので、きちんと調べるまでは心配だったのだ。「ただ頭部への衝撃のためかは、判断できませんが記憶に大分食い違いがありまして。本人は東京に住んでいて、ここに来た覚えはないと言っているんですよ。そして今日の日付を聞いたら1993年の5月と言っているんですよ。今2002年の7月ですよ」「じゃあ横島君は、10年近く記憶を失ってるのかい?」「それもおかしいですよ、彼の誕生日なのですが、1976年6月24日だそうです。その話を信じるなら彼は、26歳ですよ、みえます?」「どうみても、16~8歳にしか見えないが・・・う~ん、年齢は見た目では判断が難しいからね」それはそうだろう、彼の受け持つクラスに、中学生のはずなのに、小学生(低学年、しかも複数)にしか見えない子や、大学生でも通る子までいるのだから。実体験で知っているために、何とも言えないタカミチであった。「ま、まあ、学園長がそろそろ来るはずだから、相談してみよう。君は今の話は他言無用だよ。何が起こるかわからないし、学園長との話も席を外しておいてね」「しかし何か問題が起きたら…」「まあまあ、何かあったら僕か学園長が責任取るから。そういえば横島君は今どうしてるの?」話題を変えるため、横島の事を聞くと医師は少し顔をひきつかせて、言いにくそうに「…検査が終わった後は…その…」医師の反応に、タカミチが彼の顔を見て目で先を促すと、「…ベットに縄で縛って、猿轡をしています」「…は?」それを聞いてタカミチは、一言言って固まってしまった。それはそうだろう、先ほど脳に異常がないと言われたのに、まるで精神がおかしいものか、護送中の凶悪犯の様な扱いを受けているのだから、「しょうがないじゃないですか、検査が一通り終わって、病室に連れて行こうとしてナースステーションの前を通ったとき、その場にいたナースに片っ端からナンパし出したんですよ」「ま、まあ、それだけ元気があるって事で、いい事じゃないかい、ハッハハ」タカミチは、軽く笑うのであったが、医師は、「笑い事じゃあないですよ、タカミチさんは現場見てないから笑えるんですよ、あまりにもしつこいんでナースたちがキレて、集団折檻ですよ。止めるのに苦労しましたよ。」「そ、そんなに酷かったのかい」「しかも性質の悪いことに、折檻されてもすぐに回復してナンパを続行するんですから、ナンパ→折檻→回復の無限コンボですよ。よく死にませんでしたよ、縛った後も叫んで大変だったんですから」タカミチは、苦笑いしながら「そ、それは大変だったね」「本当ですよ。では私はそろそろ戻りますから、まあ尋常じゃない回復力なので大丈夫だと思いますが、容態に変化があったら呼んでください」医師は先ほどのことを思い出して疲れたのか、ため息をつきながら部屋を出て行った。医師が出て行ったのを確認したタカミチは、桜通り周辺の調査結果を聞くために連絡を取った。「…以上なしですか、わかりました。引き続き調査をお願いします」そして4~5分ほど待つと、学園長が部屋に入ってきたので、横島を見つけたときの状況と、先ほど医師から受けた説明、桜通りの調査結果を学園長に説明した。「たしかに変わった話じゃのう。彼には妄想癖でもあるのかのう?」「まだ横島君とは、そんなに話してませんが、妄想癖があるような感じもしませんでしたし、僕の質問や医師の質問に対しても、しっかりと答えてますから、妄想ではないと思うのですが」二人は知らないことだが、横島は女性に関しての妄想は人類でもトップクラスであることを。そして学園長はタカミチの話を聞いて、仕方ないかと頭を振り、「気が進まんが、仕方ない彼の記憶を調べるしかないかの」「それは、横島君に許可を得てですか?」「いや、許可は取らん」「しかし、勝手に人の記憶を見るのは…」「仕方なかろう彼が表の人間か、裏の人間かもわからんからな。表なら、説明したら記憶を消さなければならんし、それに桜通りで感じた不思議な力もまだ謎じゃからな、巻き込んでしまったら彼も危ない目にあうかも知れんぞ、裏であってもワシらに好意的とも限らんからな」タカミチはまだ納得し切れていないようだが、反論も出来ず、「たしかに襲撃した人物も、横島君が生きていると知れば、口封じにくるかもしれませんからね」渋々ながら、タカミチも記憶を調べるのに納得したようだ。2人で横島の病室に行くと、ベットに縛られ猿轡をされた横島が熟睡してるのを見て、少し呆れてしまった、「…よくこの状況で眠れるなぁ」「…ま、まあ眠らす手間が省けたから、良いのじゃが。始めるとするかの。タカミチ君、近くによってくれ」「はい」2人は、会話を終え横島のベットに近づいていき、学園長が意識シンクロの魔法を使用した。横島の過去を見た2人は、呆然としてしまった。結果からいえば、彼は裏の人間であった。しかしそれはこの世界においてである。「…まさか平行世界の住人とは思いもしなかったわ。使う力も魔力ではなく霊力か」「ええ、魔法が秘匿されていない世界ですか。しかも、退魔士が職業になっていて、国家資格までありますよ。横島君も免許持ちのようですし。能力も見たところ、人間の中では珍しい霊波刀と霊力を集中して作る盾ですか」そして、横島の記憶で同僚の幽霊少女を復活させた後、「む、まだ続きがあるようじゃが、ここから先は見れないようじゃな。何やら封印がされておる」「封印ですか、そのため横島君には記憶の欠如が?」「…う~む、これは記憶を封じると言うよりも、ワシらの様なものから記憶を見せなくするのが目的ようようじゃが、変な力が加わり誤作動を起こして、記憶も封じているようじゃ」この封印は老師とサマエルが、作成した武器が大分強力になってしまい、他の人物が複製しないように、他者からの介入を防ぐためにつけた安全装置のようなものであったが、転移時にかかった力により誤作動を起こしてしまい、記憶の封印をしてしまった。正規の条件は、3つあり1:文珠を用いた武器・防具・アイテムの作成方法2:手に入れた理由3:老師とサマエルが関わっている事1と2は横島の自身が喋る事は可能であるが、3は老師とサマエルが自分たちが関与しているのを、ばれない様にかなり強めにかけているため、他者に話すことも出来ないようにしている。この3つの内、1と3が誤作動を起こし、文珠と老師に関わった記憶を封印となってしまったのである。「それでは、記憶は戻らないままなのですか?」「いや、おそらくじゃが本来の用途と違う役割じゃからな、何か強いきっかけがあれば戻るかもしれんが、まあ一通り見終えたから戻るぞ」「はい」意識を戻した二人は、病室を出て待合室に認識障害の魔法を使い今後の話をしていた。「どうしますか?彼を襲った犯人の手がかりもありませんでしたし」「それなんじゃがタカミチくん、襲撃犯はこちらにはいないんではないかな」不思議そうな顔をしながら、タカミチは聞いた、「?その根拠は何ですか?」学園長は、うなずきながら、「うむ、まず彼は君ほどではないが、記憶を見た限り相当の手練じゃ、そして回避能力がずば抜けて高い、そんな彼に顔も見られず、一瞬で倒し形跡を残さないのはまず無理じゃ。なら向こうの仕事で、彼の上司の母親が持っていた時間移動能力で、こちらに跳んで来たと考えるほうが無難じゃよ」「しかし、彼にはそんな能力ありませんしたよ?それにあの能力は過去や未来にいける能力で平行世界にいける能力ではないと思うのですが」学園長もそこが疑問点であったので、「そうなんじゃよ、そこが問題なんじゃが。向こうにはなかにはなかなか強力な力を持った神族・魔族がおるからの。彼の記憶を見ると、彼はトラブルメイカーのようじゃからな、大方なにかに巻き込まれてしまったんではないかの?」横島の記憶をみた後では、今の言葉には大分説得力があったようで、「た、たしかに否定できません」タカミチは納得してしまった。そして、「では、横島君をどうしましょうか?」そう彼らには、横島を元の世界に返す方法もわからないのだから、まあ横島にもわからないが、「こちらの裏の事情もわかっておらんしの、何よりあれだけの手練を放置して、変な組織に入られても困るのう」「では、中等部で何らかの仕事に雇いますか?」「女性関係で問題がありそうじゃからな、ナンパならまだよいかもしれんが、生徒や先生にセクハラや盗撮等をして、すぐクビになりそうじゃし、どうしたもんかの」雇わず放り出して魔法関係がばれたり、手練なだけに変な組織に入られても困るが、雇ってすぐにクビというか、警察沙汰になりそうなのはまずいと言う、ちょっとレアな事で悩む学園長であった。学園長は、苦悩の末に、「くっ、仕方ない夜の警備員として雇うとするのが、無難じゃな」「そうすると、誰と組ませますか? 今あいてる先生いましたか?」「そうじゃの、彼には1人で回ってもらうことにしよう。彼の能力なら1人で大丈夫じゃろうし、危険でも1人なら逃げ切れることができる。すまんが最初だけはタカミチ君がルートを教えてやってくれ」まあ横島の記憶を見た後では、女性と組ませるのは問題外であり、男性と組ませては彼のやる気が出ないと言う問題から、まだ1人のほうがましと言う結論になった。「わかりました」横島の意見を全く聞かないまま、彼の就職が決まった瞬間であった。さらに、「彼が退院したら、君と模擬戦でもやってもらうかの、実際の動きも見てみたいしの」それを聞いたタカミチは、少し嬉しそうに、「いいですね、横島君の力に興味があったんですよ。喜んでやりたいんですが、戦ってくれますかね?かなり嫌がりそうですよ」記憶の中の横島は、戦うのを心底嫌がっていたので、タカミチは不安そうに尋ねると、「大丈夫じゃ、そこはしっかりと考えておるから心配せんでもよい」自信満々に言い切る学園長の姿がそこにはあった。「朝になったら、彼に説明するからタカミチくんも一緒に来てくれ」「はい、明日といってももう今日ですが、一時間目に授業があったんですが、自習にしておきましょう、あとはHRも他の先生にお願いしておきます」「すまんが、頼むぞい」会話を終えた2人は、病院の前で待ち合わせの時間を決め手、病院から去っていった。次の日、約束の時間より30分早くついたタカミチは、病院の中が騒がしく中に入ると、下着を持って走り回る横島を発見したタカミチは、外を見て、「…今日もいい天気だな、うちのクラスの子達はしっかり自習してるかな?」どうやら現実から目を背けることに下らしい。しかし、昨日の医師に見つかり、「タカミチさん!!彼はもう退院して大丈夫ですから、早く引き取ってださい」医師は、少し涙目になりながらタカミチのスーツの襟をつかんでお願いしていた。「でもね、横島君は頭をやっちゃってるしねえ」「大丈夫です、むしろ病院にいるほうが傷が増えるんですから、早く連れてって下さい」タカミチはため息をつき「ふー、しょうがないか」タカミチは、スーツのポケットに手を入れ周りを見回し、自分に注意を払っている人がいないか確認し、居合い拳を横島の足に向けはなった。まあ注意していても、わかる物ではないが念のためである。「ッ何じゃ~~」叫びながら横島が、ジャンプをしてかわしてしまった。「なっ…」手加減して放ったとはいえ、完璧な奇襲を避けられたタカミチは驚いたが、すぐに二発目を放とうと構えなおした時、ゴチン「ギャ」横島が着地ミスをして、転んでしまい後頭部をおもいっきりぶつけ、痛がって蹲ってる所にナースに追いつかれ、追撃をかけられた。「堪忍や~~つい出来心だったんじゃ~~ギャアアアア…」「「「「問答無用、女の敵は死ね!?」折檻は5分ほど続き、横島が動かなくなったところをタカミチが連れ出していった。入院代は学園長に回された。麻帆良学園中等部2年A組では、HRの始まる前の騒がしい時間帯に1人の少女が新聞部の朝倉和美に話しかけていた。「おはよう、朝倉、お願いがあるんだけど暇なときでいいから、このペンダントについて調べてくれないかな」挨拶をしながら、ペンダントを見せた。「ん、おはよう、珍しいね、あんたから話しかけて来るなんて、ふーんキレイなペンダントだね」ペンダントをしげしげ見ながら、デジカメでさまざまな角度から写真を撮りながら、「で、コレ男からでももらったの?」「違う、昨日拾って、ちょっと気になったから」「何だつまんないな、まあ適当なときに調べておくわー」「ありがとう、朝倉」「貸しにしとくよ、大河内」そして、話を終えた大河内アキラは自分の席に戻って行った。