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No.1416の一覧
[0] 原初 短編[弔餓](2006/07/17 23:32)
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[1416] 原初 短編
Name: 弔餓
Date: 2006/07/17 23:32
ある日、学校から帰って着た時だった。



そこには、いつも通りの光景が広がっているはずだった。



俺を明るく迎えてくれる、亜矢がいるはずだった。



どこか頼りなさそうで、時々失敗もしているけれど、



一生懸命さが伝わってくるクウの仕事振りが微笑ましく、



笑ってしまい、拗ねられてしまうはずだった。



祐二さんが、畑仕事をしているはずだった。



静江さんが、掃除をしているはずだった。



母が美奈絵さんと一緒に、夕食の支度をしているはずだった。



厳格な父が、書斎で何か仕事をしているはずだった。



里のみんなが、仲良く笑って暮らしているはずだった。





























なのに。





























それなのに。



なんなんだ、これは?











何故、立っている人が、誰もいない?











何故、皆、身体から、血を、流している?











何故、家が、圧し、潰されて、いる?











何故、何故、何故!何故、皆死んでいる!?











頭が白くなった。



ふらふらと、血の臭いが充満する、山奥にある里に足を踏み入れていく、



畑では祐二さんと孝作さんが、頭を残して喰われている。



井戸の近くでは、水汲みをしていたであろう静江さんが、裸で左肩から下が無かった。



屋敷の中では、美奈絵さんのぼろぼろの服を着ている、首のない右半身があった。



他にも里にいた皆の死体死体死体。



血の海と、屍の山だった。



現世から隔離されたこの里で、現実とはかけ離れた事実が広がっていた。



頭が回らない。



何も考えられない。



皆、皆、死んだ。



皆、皆、……皆?







母は?父は?



亜矢は?クウは?



いない、どこにもいない。



屋敷の中、屋敷の前、屋敷の周辺、近くの林の中、いない。



いない、いない、どこにもいない。



希望と、焦りと、最悪と、もしかしたらと言う思い。



探す、探す。



里を調べつくす。



いない、いない、いな……!





















いた。



母と、父、がいる。



屋敷の裏、この里でも禁忌とされている場所。



そこへ向う林道の途中。



倒れた二人がいた。



急いで近づく、まだ息をしていた。



ただ傷の見当たらない場所が存在しなかった。



寧ろ、傷の付くべき部分が欠如していた。



片腕が無い。片脚が無い。目が潰れている。



口元から血を流し、腹から臓器をはみ出させ、



付いている腕や脚は、ありえない方向へ捻じ曲がっている。



だが息はまだあった。だが、まだ死んでいないと言うだけ。











―――父上、母上……お父さん!お母さん!











その時自分はみっともなく、泣きながら両親を呼んだと思う。



叫ぶ、叫ぶ、喉が裂け、尚、叫ぶ。



両親はヒューヒューと口から空気が漏れている、恐らく満足に喋れま
い。



だがそれでも自分の存在に気がついたのか、口を動かし何かを告げようとする。



いつも優しく微笑んでいた母は







―――ゴメンなさい。あなたを一人にしてしまって。






と、







父は、いつも厳格で寡黙で遊んでもらった記憶は無い。



鍛錬の時、我が一族のなんたるかを語ったとき、決して楽しい記憶ではなかった。



でも父が好きだった。不器用だったが優しかった。



そして何より強かった。憧れだった、目標だった。



掛け替えのない家族だった父は





―――すまん。




と一言。今まで一度も撫でてくれなかった頭を、



傷だらけで、血まみれで動かすだけでも激痛を伴うような、力も入らず震える手で、



だが無骨で、大きくて、暖かく、優しい手で、頭を撫でてくれた。



最後に父と母は笑っていた。そして泣いていた。





―――あなたを、お前を、一人にして、ごめんなさい、すまない。

   でも、だが、最後にあなたの、お前の顔が見れてよかった。





そうして両親はこの世を去った。



涙は止めどなく溢れた。



両親の死を胸に深く、深く刻む。だがまだ自分にはやるべきことが、見つけるべき人がいる。



父と母を隣り合わせに寝かせ手を繋がせる。



笑ったままで、幸せな夫婦だった。



そして奥へと走り出す。



両親は、二人は大事な家族だった。里の皆も大事な家族だった。



そしてまだ見つからぬ二人も大事な家族だ。



早く、早く、見つけなければ。



まだ、まだ、生きているかもしれない。



いや、生きている。



父と母は、いや里の皆もきっと二人を守るために、その命を掛けて闘ったはずだ。



だから二人は必ず生きている!



走る、奔る、疾る!



林道を駆け、一握りの希望を胸に直走る!
























突如、開けた場所に出た。



突き出した崖の袂、大きな洞穴を塞ぐように立てられている社。



社は半壊している。



そしてその社の目の前に人が倒れている。



無我夢中で駆け寄る。








―――あぁ、あぁ、生きている。まだ生きている。

   生きている。








その事実に、みっともなくまた涙が溢れる。



亜矢は確かに生きていた。身体から血を流し、それでも治療すれば治る見込みはある。



助かる。そう思った。





―――あ、あれ貴也?どうしたのそんなに泣いて。

   みっともないなそんなんじゃおじ様に怒られるわよ。

   ほら涙を拭い―――ぇ?





それは突然だった。



視界が赤く染まった。



目の前の少女が、亜矢が口から血を流して、腹部を真っ赤に染めている。



そして己の腹部にも感じる熱。





なんだ?



なにがおきた?



わからない、わからない。



亜矢が何かを言っている。








―――痛い、熱い、痛いよ、貴也。

   助けて、助けて、痛いよ、貴也。

   だめ逃げて、私を置いて逃げて早く、貴也逃げて。

   好きだから、私ずっと貴也のこと好きだから。

   寒い、いやだ貴也と、貴也と離れたくない。

   いやだよ、貴也。








支離滅裂な、ごちゃごちゃした言葉が、彼女から紡がれる。



手を握る、自分は何かを叫んでいた。



何を叫んでいたのか覚えていない。



ただ必死で叫んだ。もう喉が裂けていたにも関わらず、



口から血を叫びと一緒に吐き出しながらも、構わず叫び続けた。



それでも彼女は、父と母と同じように泣きながら笑うという器用な表情を作り、









―――ゴメンね、貴也。好きだったよ。最後に貴也の顔が見れてよかった。







死んだ。彼女は、亜矢は、俺の許嫁は目の前で死んだ。



死んだ?死んだだと?












巫山戯るな!

死んだ?違う!彼女は、亜矢は殺された!

父も母も里の皆も殺された!殺された!

誰に!?何の為に!?

何故!殺された!?

































―――                 ――――!!!!
































叫んだ、性懲りも無く、叫ぶだけでは何も解決できやしないのに、



それでも声にならない雄叫びを挙げた。





「ククク、こんなところにまだ生き残りがいたか?

 まぁ、そもそも、その娘はお前をおびき寄せるための餌だったが、

 まんまと引っかかってくれた。」





何処からか、そんな声が聞こえた。



虚ろな瞳で声のした方向を向く。



そこには“異形”がいた。



人ではなく、獣でもなく、この世には相容れない存在がそこにはいた。



人を超える体躯をした明らかに異常な生き物。鬼。



人々から忌み嫌われ、同時に恐れられてきた。鬼。



鬼の、その丸太より太いその腕には、もう一人捜し求める家族。





「クウ!」






その少女は鬼の手にぶら下げられる様に、ダランと気を失っていた。





「この娘は最後までお前が来ると、助けに来ると言っていた。

 お前がこの里を救うと、この俺様を倒すと。

 ククク、健気だねぇ。だが、昔に名を馳せた魔殺しの一族の里だからと

 期待したのにこの様だ。大したことは無い。」





鬼が何かを言っているが気にしていられない。



せめて彼女だけでも、生き延びさせなければ!





「……ふん」





鬼は何を思ったのか、クウを放り投げた。



俺は慌てて、鬼も気にかけずクウを受け止めるべく走り出す。



だがそれは、出来なかった。





「俺様は眼中にねぇってか!いい度胸してんじゃねぇか!!」





鬼の手から何かが射出される。



それは俺に、ではなく。



いまだ空中にいるクウに向けて、放たれた。



ドンッ、そんな音と共にクウが吹き飛ばされ、木に当たる。



急いで駆け寄った。愕然とする。



胸に孔を穿たれて、呼吸を止めていた。



何度か力なく揺すりながら名前を呼ぶが、反応が無い。



死んだ?クウが死んだ?亜矢も死んだ?

父さんも母さんも死んだ?祐二さんも?静江さんも?

美奈絵さんも?仁坊も?康も?香織ちゃんも?

大人も、子供も、里の皆死んだ?死んだ?




























――――――俺以外、皆、殺された!!!



























「――――――――――――――!!!!」


























湧き上がるのは憎悪、怨嗟、後悔、嘆き、絶望、殺意、殺意!殺意!

身体の内側から染まる、真っ黒に。

全てが真っ黒に。身体の中に蠢く黒に存在が染め上げられる。





「なんだ!?」





鬼の動揺している声が聞こえた。




お前が、お前が、お前が!

お前が!皆を殺した!!




身体から沸き起こる黒は留まることを知らず、ついには外の世界を侵食しだす。

俺は、ここでお前を殺す!























瞬間世界が変わる。己が変わる。



俺が目覚めた。



































鬼の目の前には先ほどまで、絶望に打ちひしがれていた少年。



腹が一杯になったので、暇つぶしに目の前で親しい人間を殺してやろうと思った。



今日、この里で居なかったのは、この少年のみ。



彼の親しい人間を殺し、彼の絶望する所を見届け殺してやろうと思っていた。


話によるとこの少年は、この里の跡継ぎらしかった。



その許嫁と守り目を餌に、この少年を絶望に叩き落そうとした。



そして、それは成功した。



が、鬼は目の前で起こった事が信じられなかった。



鬼の目の前に居る少年は叫びを上げた途端豹変した。



まず気配が変わった。



続いて腹にあった傷が塞がっていく。



殺気が伝わってくる。



そして何より、その少年からは鬼ですら足元に及ばない瘴気が滲み出ていた。



どす黒く、視覚できるほどに濃い、瘴気。



鬼は信じられなかった。



人がそんなこと出来るはずないと、



人がそんな殺気を放つ事など、



鬼は信じられなかった。



自分が人間を相手に後退さったことが。





「ふざけるな!人間の分際で!!」





鬼は恐怖を振り払うかのように、掌から魔弾を放った。



魔弾は少年に当たった。呆気なく少年の右腕と右わき腹を吹き飛ばした。





「え?」




驚いたのは鬼のほうだった。



アレだけ存在感を放っておきながら、たった一撃で殆ど致命傷と言える傷を与えた。



一瞬呆け、その後笑い出した。





「ははははははははは!なんだ何でも無いじゃないか!

 驚かせやがって!たかが見掛け倒しだな!所詮人間、俺様の敵ではない!!」





笑いながら何か吹っ切れたように魔弾を飛ばす鬼。



数十発と撃ったところで手を止めた。



土煙が晴れるとそこには何も残っては居なかった。



少年は木っ端微塵に吹き飛んだ。



































笑っている。鬼が、笑っている。



何が楽しいんだ?わからない。



俺に傷を負わせたから?そうやって里の人間も笑いながら殺したのか?


殺して、喰って、犯して、殺したのか。



調子に乗った鬼が魔弾をさらに放つ。



腕が潰れ、脚が吹き飛ぶ、それがどうした。



胴が穿たれ、首が無くなった。



それがどうした?なぜ笑う?



腕を消し飛ばした程度で、脚を吹き飛ばした程度で、



胴を穿った程度で、首を討った程度で、



それがどうした?

















―――――殺した程度で図に乗るな、鬼が





















「く、……くく、くぁ……あははははははははははははははは!!」






滾る、漲る、溢れる、慟哭する、衝動する、暴れる、叫ぶ叫ぶ叫ぶ!

敵を殺せと、全てを殺せと、生を殺せと、我を殺せと、世界を殺せと叫びつくす!

天が、地が、空気が、樹木が、汝が、我が、世界が、全てが雄叫びを!咆哮を!

虚ろな世界に、虚ろな生に、虚ろな人に、獣に蟲に、この世全ての虚ろな死に!

極彩の極砕を、極最の極殺を!

派手に!派手に!派手に!

吹き飛ばし、踏み潰し、引きずり出し、抉り出す!

獰猛に!猛禽に!凶悪に!殺せ殺せ殺せ!

圧殺、可!縊殺、可!殴殺、可!格殺、可!活殺、可!禁殺、可!

撃殺、可!斬殺、可!刺殺、可!焼殺、可!磔殺、可!爆殺、可!

撲殺、可!捕殺、可!扼殺、可!轢殺、可!

殺戮!殺戮!殺戮!

惨殺、同意!虐殺、賛成!鏖殺、肯定、了承!









―――――実行!!!






笑い声の響く林の中、



今、殺戮が行われる。












少年の外見からは想像も出来ない瘴気と圧倒的な殺気と言うにも生ぬるい死気!



殺されると言うより、死ぬ。



鬼の目の前には文字通り抗いようの無い“死期”が訪れた。



死を運ぶ死神?とんでもない。その存在は既に現象。



“死”、そのもの。



圧倒的質量の死は世界を死なす!





「がぁああああああああああああああああああああ!!!!」





“死”が叫ぶ。



世界が恐怖する。



“死”は鬼に向って駆け出す動作もなく、既に目の前に居た。





「―――」





驚愕する暇もなく、目の前の“死”に焦点すら合わせる事が出来ず、


そもそも、視覚が脳に伝達されるより早く、“死”はそこに居た。






「壱殺目。」





呟きは蚊ほどに小さく、しかし聞いただけで死を連想する絶対の声色。


その声が鬼の聴覚から脳に伝達される前に、




ブチュリ



厭な音を立てて、鬼の腕が脚が胸が捥がれた。



痛覚は脳に伝達される事なく、脊髄より瞬時に伝わる。





「ギ!?ギビャアアアアアアアアアアアアア!??」





どす黒い血を撒き散らし暴れる鬼、確かに死んだ。



死んだ、確かに死んだ。致命傷だ。すぐに死ぬ。



だが、まだ死んでいない。後数瞬後には死ぬのは明白。



だが、そう、まだ数瞬は生きているのだ。



事実はとても短く、しかし鬼には自らの故郷、地獄よりも地獄を味わう。





「弐殺目」





“死”は鬼の内臓を引きずり出す、



本来ならこれほどの傷を負えば痛みは麻痺するものなのだが



“死”は麻痺する暇さえ与えない。





「アァ、ガァギ、ギャ、グガガ!!」





「参殺目」





肉を骨から剥がす、未曾有の痛みが鬼を這いずる。





「ビ、ブル、グリュギ、ャイグェ!!」





「肆殺目」





骨を削り取られる、数瞬では痛覚に狂う暇さえない。





「グルギャ、ベゼリャブ、ヒャギ!!」





「伍殺目」





肺の空気を絞り出される、五感は全て生きている。





「ヒュッゥ―――――!!!!」





「陸殺目」





首を刎ねられ、頭蓋を剥がされ、残るは眼球と脳。まさに生き地獄。





「―――――――」





「漆殺目―――完殺」





鬼の網膜と記憶の、脳の全てには目の前の“死”を焼き付ける。



脳をパーツごとに分解されそこで鬼は恐怖と痛みと“死”だけを感じながら死んだ。



今度こそ完全に完璧に絶対に死んだ。






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