<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.14154の一覧
[0] エリアの平民  (エリアの騎士)[あ](2010/07/11 12:18)
[1] 崩御[あ](2010/07/11 12:18)
[2] 鼓動[あ](2010/07/11 12:18)
[3] 造反[あ](2010/07/11 12:18)
[4] 始動[あ](2010/07/11 12:19)
[5] 開幕[あ](2010/07/11 12:19)
[6] 偵察[あ](2010/10/16 12:33)
[7] 皇帝[あ](2010/10/16 12:55)
[8] 閑話[あ](2010/11/28 12:52)
[9] 鼓舞[あ](2010/07/11 12:20)
[10] 勝者[あ](2010/11/28 13:13)
[11] 選択[あ](2010/11/28 13:27)
[12] 幻影[あ](2010/11/28 13:50)
[13] 休息[あ](2010/07/18 22:44)
[14] 開戦[あ](2010/07/19 21:27)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[14154] エリアの平民  (エリアの騎士)
Name: あ◆2cc3b8c7 ID:c4b08d6b 次を表示する
Date: 2010/07/11 12:18
「「U-15、日本南米親善交流カップ、南米の覇者ブラジルに挑む若きサムライの
  挑戦!!残す所、後半二分のロスタイムのみ!やはり、王者ブラジルの壁は
  若くとも高い!スコアは1-2、依然としてブラジルがリードを続けている!!」」


悲壮感の漂う実況の声を背景にジュニアユース覇者のブラジルは更に攻撃を仕掛ける。
王者が東方の弱小国に一点差で辛勝などという醜態を晒す訳にはいかない。
両サイドのWBはボールを持って駆け上がるボランチのパスを引き出すために、
フィールドを縦に切り裂くかのようなスピードで前線へと駆け上がる。
スリートップの三人は最後の仕事をするために、日本DFのマークを振り切るダンスを刻む。

王者の圧倒的な攻勢に守勢の日本U-15イレブンは浮き足立つ。

「「あぁっと、ブラジル!仕掛ける!仕掛け続ける。王者としてのプライドか
  日本相手に一点差では帰れない!止めをさすために若きセレソンが日本を襲う!!」」

目の前に広がる数多のゴールへの道、ボールの所有者はその中から一番ゴールに近い道、
相棒のゲームメーカーを探す。味方すら見失う最高のポジショニングとテクニックの持主、
ブラジルの至宝レオナルド・シルバ、予想外に健闘を見せた日本の息の根を止めるのは

 
セレソンの10番を背負うこの男しかいない


 「「あぁっと!逢沢がここで止めるぅ~!!パスを出そうとした8番の
  一瞬の隙を突いてボールを奪い取って駆け上がる!!カウンターだ!!」」



日本の十番を背負おう逢沢傑は奪ったボールを持って駆け上がる。
ほんの一瞬の隙を生み出した男とシルバを後ろに残したまま前線へ!

一瞬で攻守が切り替わった。逢沢がドリブルで一人、二人とかわしていく。
ブラジルは仕留める心算で前掛かりになっていたせいか、戻りが遅れて対応が後手に回る。
後半のロスタイムという体力的に一番厳しい時間と言うのも幸いしていた。
判断力の落ちたDF陣を切り裂く、数十メートルの距離をゼロにする。
この日、最高のスルーパスを傑の左足が生み出した・・!!

「「出たぁああ~!!魔法のスルーパス!!裏に抜けるFWの足元にピッタリとォお!」」


だが、ドフリーで厳しいコースに放たれた威力のあるシュートはGKの好セーブで弾かれる。
その零れたボールをDFがクリアしようと大きく蹴りだそうとしたのだが、
遥か後方に残っていた筈の一瞬の隙を作った男が最前線まで上がって詰めていたため、
苦し紛れの中途半端なクリアになってしまう・・・

「「ボールがこぼれたぁああっ!!だが、だが、そこには逢沢が詰めているぅう!!」」

スタンドで立ち上がって応援する少年がシュートを放てと叫び声をあげるのと
ほぼ同時に逢沢傑の左足がクリアボールに向かって信じられない速さで振りぬかれた。


「「ゴール~!!ゴルゴルゴルゴルゴールゥ~!!2対2!!同点!驚天動地の同点
 若きセレソンも動転の同点、同点ゴール!若き侍が王者の首を見事に切り落とした!」」

狂ったように叫び声を上げる実況に、信じられない光景にほぼ全ての観衆が立ち上がったスタンド、
割れんばかりの観衆が木霊する中、ブラジルがリスタートしたと同時に試合終了のホイッスルが吹かれる。
若き日本の未来のA代表達は同じく若きセレソンに引き分けると言う快挙を成し遂げたのだ。

そして、それを成し遂げたのは1得点1アシストという好成績をこの日あげた
U-15不動のエースにして10番の逢沢傑と最後に一瞬の隙を生み出し、最後までボールに詰める動きをした男であった。




「やられたヨ。スグルに気を取られすぎていたようだネ。キミみたいなヤッカイな伏兵が
 イルなんて予想外だったヨ。サッカーは一人ではデキないってワカっていた筈なのにネ」

「レオ、こいつが俺の言っていた平民だ。テクもパワーフィジカルもまだまだだが、
 どこにでも居る。特にボールを持った奴が嫌だと思う位置に、コイツは厄介だぜ?」

「まったくだヨ。最後、完全にフリーだった筈のボクをカレはマークしていタ
 アレが無ければスコアは3-1だったヨ。スグルはその彼を平民呼ばわりなんだネ」

「ほんとですよね!シルバさん、この王様野郎にもっと言って下さい!
 平民だって疲れるんです。偶には部活の練習サボっていい筈ですよね」

「英二、今日居残り練習でランニングだな」
「アハハ、スグルは相変わらず厳しい王様だね。エイジ、今日は楽しかったヨ
 今度は交流親善試合なんかじゃナイ。代表の公式大会で真剣勝負を戦ろうネ」


仲良さそうに去っていく先輩とシルバを情けない顔で見送った平野英二は、
『これから、ランニングなんかやるかよ!サッカー馬鹿が』と内心で毒付いていた。
前後半、ロスタイム含めて一番動いていた彼はピッチの王に扱使われたフィールドの平民は
どうやら、革命を起こせそうにない小心者であるらしい。




鎌倉学館サッカー部が練習するグラウンドでは場違いな笑い声が鳴り響いていた。
本来なら、苦しい練習に耐える呻き声や先輩の厳しい叱責など
強豪高にありがちな緊張感溢れる練習風景が広がっている筈なのだが、
王様の弟で、サッカー部のマネージャーの駆がチープな絵の紙芝居劇を上演しており、
それに日頃の鬱憤が溜っていた平民が悪乗りして大声で笑いこけていたのだ。
因み上演内容は『鎌学の王様、王者ブラジルを倒す!』である。


「駆の奴、あの下手な絵、超ウケルンですけど
 特にあのサッカー馬鹿の独裁王様野郎のが太眉・・、っ痛てぇっ・・」

「おい!なに遊んでんだ。もう練習始まってるぞ。英二、駆!」

「兄ちゃん・・」
「ちょっと!後頭部に無回転シュート入ったんですけど!!」

「マネージャーと一緒になって遊んでいるなら走って来い
 駆、お前も練習のジャマするなら、部活なんてやめちまえ」

「ちょっと、キャプテン!冗談ですよ。今すぐアップしますって」
「兄ちゃ、いや、キャプテンすみません」


馬鹿騒ぎをしていた英二を力で黙らせた王様は情けなく笑う弟に厳しい言葉を残して、
グラウンドの中心へと戻っていく。
それを見送る駆はマネージャーの仕事をしながら、
今日も尊敬する兄のプレイを見逃すまいとグラウンドに視線を向ける。
一方、慌てて練習に合流した平民は平民らしく三年生にぺこぺこ頭を下げながら、
いきなりの走り込み命令を何とか回避しようとしていた。
この光景を見る度に、彼のチームメイト達は本当に英二が青いユニフォームに袖を通しているのかと、
実際に自分の目で試合を見ているにも関わらず、疑ってしまうのだった。



「しかし、王様は弟にも容赦ないねぇ~、実はサイボーグで人間じゃないんじゃないか?」

「英二、それは違う漫画になるから止めて置け」

練習の休憩の合間に自然と駆を囲むように集った英二と中塚公太に佐伯祐介、
彼等四人は同じ二年ということもあり、部活以外でも遊びに行ったりする仲のいい仲間であった。

「公太が何言ってるか分からないけど、英二の言うように傑さんは駆にマジで厳しいよな」

サラリと二人の妖しげな会話を流しながら、傑の駆に対する態度に言及する佐伯だったが、
駆はいつものように自分が不甲斐ないからと軽く受け流し、
選手に戻れという佐伯の言葉を受け容れる事無く、マネージャーの道を究めると宣言する。
プレイヤーで天才の兄と並べないなら、一流トレーナとして彼を支える立場に立ちたい。
それが、欠陥を持ったFWの今現在の夢だった。
尚も言葉を続けようとする佐伯だったが、紅白戦に入るように先輩に告げられて渋々話を打ち切ってピッチに入る。


「駆、お前の足を見れば何を目指してるのかバレバレだと思うぞ?」

佐伯に数分送れてピッチへ向かう英二の言葉に核心を突かれた少年は答えを返すことは出来なかった。
自分の欠陥故に選手の道を自ら閉ざし、サポートする側に回る事を選んだことを自分なりに納得している心算だった。
だが、それでも諦めきれない想いが、騎士の心中深くに燻っているようであった。



「どうした?仕掛けてこないなら、コッチから行くぞ!」

「ちょっ、タンマ!キャプテン、ちょっとは年下に手加減しろ!」

傑と別々のチームに入った英二はいきなりのマッチアップにオタオタとボールをキープするので精一杯だった。
もっとも、王を前にしてヒィヒィいいながらも前を向き続けているだけでも
彼の実力が低くないことを証明していた。伊達に青のユニフォームを纏っている訳では無い。

「西島ぁあっ!!キミに決めたぁぁあ!!」

「傑さんを相手に英二がパスを通した!?」

驚く佐伯を余所に倒れかけながら、往生際悪くにバタつかせた足で出したパスは
同じ2年のFW西島にギリギリ届く、最も雑なパスだったために彼は直ぐマークに付かれたが・・・


「祐介!よそ見するな!プレーはまだ切れてないぞっ!」

一瞬だけ選手から観衆になってしまっていた佐伯は慌てて自分の本来消すスペースへ向かうが、
その遅れは神奈川でも強豪に入る中学の紅白戦ではやはり致命的で、
これまた執念で上げた西島のクロスに反応した三年生FWを止める事は出来ず、
久しぶりに傑の入ったチームのゴールネットが揺らされる事になった。

「ナイスガッツ!英二!」
「俺のクロスは無視かよっ!」

グラウンド脇に立つ駆は英二に手を振って歓声を送る。
周りの良いプレーを自分のことのように喜べる素直さが彼の良い所であった。

「なに、ニヤニヤしてるんだ。何か言いたい事があるのか?」

「別にぃ~、特にありません」

自分のプレーを起点に目の前のサッカーサイ○ボーグに一泡吹かせた英二は、
日頃の扱きの恨みもあってか最高にムカつくニタニタした気持ち悪い笑顔を傑に向けていた。
ピッチの平民は王の御前であるにも関わらず、完全に勝ち誇って調子に乗っていた。


「みんなお疲れー、特に祐介は後半凄かったね。2得点で大活躍じゃないか」

「いや、傑さんのお膳立てがあったからさ。後は迂闊な誰かさんの御蔭かな?」

「うるさい。あのサッカー馬鹿は大人気ないから嫌なんだよ」

「そうそう。傑さんってちょっと女子更衣室覗いたぐらいで
 滅茶苦茶怒ってぶん殴ってきたりして大人気ないんだよな」

結局、超本気モードの王様を英二達が抑えられる訳もなく、
紅白戦は5対2という大差で王が平民の首をあっさりと落として決着がついた。
まぁ、口ではブツブツ英二も言っているが、端から傑を相手にして勝てるとは思っていないので
殆ど悔しがって居なかったが、自分が天才では無いという事を彼は誰よりも自覚していた。

夕焼けで空が真っ赤に染まる中、仲良しカルテットはマネージャーの仕事である後片付けに精を出し、
それが終わると、少し汗臭い更衣室へと並んで歩いていく。
帰り道はバラバラだが、部活が終わって校門を出るまでは一緒なのが、彼等のいつもであった。
スパイクや脛当てに練習着などでパンパンに膨れ上がった鞄を肩から横に掛けて歩く四人は、
泥や埃で汚れていたが、とてもいい笑顔をしていた。




紅白戦の翌日、『突如現われた美少女転校生』こんな陳腐な表現がピッタリ当て嵌まりそうな
美島奈々は駆と英二の所属するクラスに転校してきた。
彼女の整った容姿に既に興奮がピークまで高まっていた男子生徒諸君は、
周りの女子の冷たい視線にも気が付かずにワーワー騒ぎ、不穏当な発言をしたりしていたが、
当の喧騒の原因たる奈々は大して気にした様子も見せず、駆と英二の真中に位置する自分の席に就くや否や、
笑顔で駆に親しげに挨拶して、旧知の友人を男性陣の憎悪の的へと陥れていた。

そんな喧騒の最中、英二は生来持つ勘の良さか、試合で時折発揮される鋭い洞察力が働いたらしく、
事なかれ主義を貫き、彼女や周辺の慌しさに加わろうとしなかった。
君子ですら近づかない危うきに平民風情が近づいてどうするというのが、彼のモットーであった。


嫉妬に狂った男性陣に簀巻きにされて運ばれていく駆の助けを求める子犬のような視線から、あっさりと目を逸らした英二は
鞄から英語の辞書を取り出し、それを枕に次の授業までの一時を眠りに費やした。
そうなる筈だったのだが、


「ねぇねぇ、今日からヨロシクね。英二君」

「あぁ、よろしくね。じゃ、おやすみなさい」

「ちょっと!いきなり挨拶早々に寝るなんて失礼でしょう!」

一旦教室から出て再び戻ってきた奈々に突付かれて起こされてしまったのだ。
もっとも、かわいいが微妙に自分のタイプから外れているというか、
厄介ごとの臭いがプンプンする彼女と余り関わりたくない英二は再び眠りに落ちようとしたのだが、
男の子に混じって駆と一緒にサッカーをやったりと男勝りな所がある彼女が
それくらいで引き下がるわけもなく、教師が到着するまで長々とサッカー談議をさせられる事になる。
幸いなことに、駆から彼女の過去の意中の人が完璧モテ超人の逢沢傑だと周りの男性には知らされていたので、
嫉妬に狂った男達に襲われるという悲劇に見舞われることはなかった。



この日、翌日のレギュラー選考試合を意識しているのか、部員は真剣に練習に励んでいた。
先日の紅白戦でスタメンのFWが一人怪我をしており、
いつもより枠が多いことに気が付いた当落線上の部員に気合は鰻登りに上がっていたのだ。

「やれやれ、気分は下克上って奴かぁ?ガツガツして部員全員が西島みたいじゃないか」

「うわ、勘弁してくれよ!想像しただけで気分が悪くなってくる」

英二の冗談に逸早く反応したのは公太だった。
彼と西島は幼馴染であると同時にいがみ合う関係であった為、
周りが天敵とも言える西島だらけという絵面を想像するのも嫌だったのだ。


「英二、相変わらず余裕そうだね。選考日は明日だって言うのに」

「祐介、お前も余裕だろ?レギュラー確定組みじゃねぇか」

「そんなことないさ。お前と違ってまだ代表にも呼ばれない身だからね」

トンと自分の肩を叩いてボールを取りに行く祐介を見送りながら、英二は少し気を引き締め直す。
自分が王様のお引きの御蔭で代表とこのチームでスタメンの座を勝ち取ったに過ぎないと再認識したのだ。
システムや戦術が変わって、王様や監督が自分を必要としなくなれば、
その地位は一瞬で他の物が埋めることになる。
年代別代表選考会で、泣きながらその場を後にしていく少年達と同じ轍を踏まない保障などどこにも無い。
今の地位を維持するには、自分の価値をチームの勝利に不可欠な物へと高めるしかない。
それが、傑によって叩き込むように教えられたアスリートの宿命だった。

「はぁ、いまさらダラダラとした楽しい部活動には戻れないか
 楽しいだけのサッカーって訳には行かないのが、上を目指す辛さだな」

危機感を取り戻させてくれたギラギラとした闘志を燃やす友人に感謝しながら、
英二は普段以上の真剣さで練習に取組んでいく。

広いグラウンドに跳ねるボールが見えなくなるまで、その日の練習は続いた。
それぞれのレベルに応じた、譲れない物のために部員達はボロボロになるまで汗を流していく。
明日のレギュラー、ベンチ入り、次への自身を掴むため・・・
部員の数だけ、そこには目標があった。


ただ、翌日のレギュラー選考紅白戦は普段とは違う異分子を一つだけ含む事になる。
ピッチの王様が見出した平民が生み出した起点の終点を担うエリアの騎士を・・・





次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.027416944503784