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No.14098の一覧
[0] 【習作】マリア様がよそみしてる(マリみて 祐麒逆行・TS)[元素記号Co](2011/03/15 17:55)
[1] その一・たぶんお釈迦様もよそみしてる[元素記号Co](2010/07/28 20:55)
[2] その二・昔取った杵柄[元素記号Co](2010/07/27 00:47)
[3] その三・いつかきっと[元素記号Co](2010/07/27 00:47)
[4] その四・後悔しない選択[元素記号Co](2010/07/27 00:47)
[5] その五・過大評価[元素記号Co](2010/07/27 00:48)
[6] その六・契りを結んだ人[元素記号Co](2010/07/27 00:49)
[7] その七・性格の悪い友人たち[元素記号Co](2010/07/27 00:49)
[8] その八・薔薇と会った日[元素記号Co](2010/07/27 00:52)
[9] その九・悪事でなくとも千里を走る[元素記号Co](2010/07/27 00:50)
[10] その十・薔薇はつぼみより芳し[元素記号Co](2010/07/27 00:40)
[11] その十一・知らぬは本人ばかりなり[元素記号Co](2010/07/28 21:24)
[12] その十ニ・遠回りする好意[元素記号Co](2010/09/14 18:21)
[13] 後書き(随時更新)[元素記号Co](2010/09/14 21:09)
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[14098] その二・昔取った杵柄
Name: 元素記号Co◆44e71aad ID:6e257435 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/07/27 00:47
 また入学式で、と見送る母さんにうなずきながら「いってきます」と返事をして、祐麒は家を出た。
 リリアン女学園への初登校となるわけだが、祐麒が道に迷うことは無かった。途中までは花寺学院と同じだし、元の世界では文化祭の手伝いで何度か通ったこともあるのだ。なによりも、そのものずばり「リリアン女学園前」というバス停があるので、迷いようが無い。
 バスの座席がどんどん深緑色の制服で埋まっていくのには少しうろたえたが、なんとか表情には出さずに済んだはずだ。
 入学式、と大きく筆書きされた看板が門の横に設置されている。ぞろぞろとバスから降りる生徒達の後ろについて、祐麒もまた学園の中へと入っていった。
 銀杏並木の間を歩く純真無垢なお嬢様たちの中に一人、元男子高校生が混じっているだなんて、きっとマリア様でも思うまい。というか、もしも祐麒の存在に気付くことがあったなら、ぜひとも元の世界に返して欲しい。
 くだらないことを考えながらも、祐麒は気を張っていた。
 背筋を伸ばす。お腹の力を抜かない。あごを引く。歩幅は大きくならないように。重心は体の中心から動かさない。空から垂らされた一本の糸で、つむじを引っ張られているイメージを常に持ち続けること。
 去年リリアンの文化祭に手伝いで参加したとき、祐麒はとりかえばや物語の主人公の片割れという大役を任された。男女の子どもを入れ替えるというややこしい設定を抜きにして分かりやすく言えば、平安貴族のお姫様役である。そのときに山百合会の面々から徹底的に叩き込まれた淑女作法を、できる限り実践しようとしている祐麒だった。
 歩くだけで精神的な疲労がどんどん溜まっていく。お嬢様というのは存外、大変なものらしい。
 前方、道が二股に分かれているところで、軽く渋滞が起こっているのに祐麒は気づいた。渋滞と言っても、ゆったり上品に歩いていた生徒達が、十秒ほど立ち止まってはまた歩き出すというだけなので、花寺の学食ほどの混雑ではない。
 祐麒はその渋滞の数メートル手前で立ち止まった。軽く視線を上向けると、こんもりと茂った人口の森の前に佇む、白いマリア像が目に入る。祐巳が何度か言っていたが、このマリア像の前を通るときは、お祈りをするのがリリアン女学園の決まりなのだそうだ。
 別に祐麒は、お祈りをしたくないから立ち止まったわけではない。福沢家はクリスマスも盆暮れ正月も全部やる、由緒正しいごった煮宗教だ。
 ただ、精神的には紛れもなく男である祐麒が、この女の園でマリア様に祈りを捧げて良いものか躊躇したのだった。
 もう少し即物的な理由として、お祈りの作法が分からなかったので、手本を見てから行こうと思った、というのもある。
 横を通り過ぎていく生徒を何人か見送った祐麒の背に、声がかけられた。
「お祈り、なさらないの?」
 思わず首だけで振り向きそうになったのを、なんとか堪える。淑女らしく、淑女らしく。祐麒は心の中で一、ニ、三と数えながら身体全体で声の相手へ向き直った。
「ごきげんよう」
「ご、ごきげんよう」
 内心の冷や汗を隠しながら、挨拶を返す。西洋のアンティーク人形のように整った顔立ちと、ゆるくウェーブのかかった柔らかそうな髪。祐麒は彼女のことを知っていた。
「ごめんなさい。驚かせてしまったかしら。なんだか困っているように見えたので、つい声をかけてしまったのよ」
 祐麒に声をかけてきたのは白薔薇さま、藤堂志摩子だった。いや、入学式のこの時点では、祐麒と同じ一般生徒か。
 怪しげな女言葉にならないよう、祐麒は言葉を選びながら口を開く。
「いいえ、ありがとうございます。ただちょっと、自分が場違いなところに居る気がしてしまっただけなんです」
 元の世界の祐巳と同じく、幼稚舎からリリアンに通っていた祐希が、お祈りの仕方を知らないわけがない。だったらこちらの理由の方が、本当は別の高校へと進学するはずだった祐希の言いそうな台詞であるはずだ。もちろん、全然関係ない嘘をでっち上げるというのも一つの手だったが、祐麒はそこまで器用ではない。
 祐麒の言葉を受けた藤堂さんは、優しいような、困ったような、複雑な微笑みを浮かべた。
「それじゃあ、一緒にお祈りしましょうか。私も少しだけ、場違いなんじゃないかと思っていたの」
 祐巳の話では、藤堂さんは敬虔なクリスチャンだったはずだ。場違いでなど、あるはずがない。たぶん、今の祐麒のように困っている人間を放っておけない性格なのだろう。
 マリア像の前まで先に歩いていった藤堂さんが、祐麒を待っている。祐麒は慌てて――ただしスカートが翻らないよう努めて丁寧に歩いて――藤堂さんの隣に並んだ。
 二人で一緒に、マリア様へ祈りを捧げる。
 手を合わせて目を閉じた祐麒の頭に、一つのプロフィールがよみがえった。そうだ、藤堂さんは小寓寺の……。
 体は女性なのに、意識は紛れもなく男の祐麒。実家がお寺なのに、敬虔なクリスチャンである藤堂さん。自分に責任はないけれど、後ろめたい。藤堂さんの複雑な表情の理由が、少しだけ分かった気がした。
 閉じていた目を開いて隣を見ると、ちょうど藤堂さんと視線が合った。どちらからともなく、微笑みがこぼれる。
 そのまま二人で並んで歩き出す。
 そこでようやく、自己紹介をしていないことに祐麒は思い当たる。こちらが一方的に相手を知っているので、うっかり名乗られる前に名前を呼んでしまうところだった。
「えっと……」
 福沢祐希です、これからよろしくと言いかけて、慌てて飲み込む。
 違う。藤堂さんは卒業アルバムに写っていたから、中等部からのリリアン生だ。祐希と同じクラスになったことがあるかは分からないけれど、親しくは無かったのだと思う。もしも親しかったのなら、祐希の髪型が変わっていることに一言くらいあるんじゃないだろうか。写真の中の祐希は、幼稚舎の頃からずっと同じ髪型だった。
 急に口ごもった祐麒に、藤堂さんが不思議そうな顔を見せる。これ以上は間が持たない。
「中等部からの持ち上がり、だよね? 名前は確か……」
 祐麒は名前が思い出せないふりをした。少し言葉遣いが乱れたけれど、これくらいなら許容範囲だ。
 藤堂さんが得心したようにうなずく。
「志摩子よ。藤堂志摩子」
 祐麒の狙い通り助け舟を出してくれたが、今度は藤堂さんが思案顔になる。
「福沢祐希」
 短く告げると、藤堂さんの顔に微笑みが戻る。これでおあいこだ。
「改めてよろしく、祐希さん」
「うん、こちらこそ。志摩子さん」
 そうだった、リリアンでは下の名前にさん付けで呼ぶのが一般的なのを忘れていた。祐麒は心の中の人名録を、藤堂さんから志摩子さんにこっそり修正した。
 第一体育館前の受付で、二人とも一年桃組であることを知って驚くのは、あと五分ほど先の話だった。



【マリア様がよそみしてる ~そのニ・昔取った杵柄~】



 入学式を終えて翌日。
 祐麒にとって一番の懸念事項は、始業前の休み時間に中等部時代の思い出話を振られることだった。幸い、髪型を変えていたおかげで、自然とそちらに話がずれてくれた。
 クラスの中にちらほらと存在した、外部受験組が話題の中心になってくれたのも大きい。心優しいリリアン生たちは、不慣れな彼女たちに学園での生活について教えることを使命の一つと考えているようだった。旧交を温めることよりも、積極的に新しい仲間へと話しかけることを選ぶ姿勢は、本来なら祐麒も見習わなければならないのだろう。
 とにかくも、祐麒は何とか初日の朝を乗り切った。担任の山村先生が教室に入ってきたとき、安心感で思わず笑みが浮かんでしまったほどだ。かつての生活で、これほど教師の来訪を喜んだことは無かった。
 新学期最初のホームルームにやることと言えば、自己紹介だ。
 ここでしっかり顔と名前を一致させられれば、当分は安泰と言える。相手だけが一方的に祐希を知っているという状況は、回避できるからだ。
 出席番号順に進む自己紹介を聞き逃さないようにしながら、ノートの隅に書いた座席表にメモをとる。
 祐麒自身の紹介を何も考えていないことに気付いたときには、既に二つ前の席に座っている志摩子さんまで順番が回ってしまっていた。
 気の利いたことを考える暇もなく、すぐに祐麒の番となった。立ち上がるときに音を立てないために、まず椅子を後ろへ引く。次に、できるだけ姿勢を前へ傾けないようにして、ゆっくりと立ち上がる。もう名前だけで良いかと祐麒は開き直った。
「福沢祐希です。福沢諭吉の福沢。しめすへんに右と書いて祐。……あと、希望の希で祐希、です。一年間よろしくお願いします」
 危うく麒麟の麒と言うところだった。軽くお辞儀をして、腰を下ろす。そのあとで、椅子をそっと前へ引いた。
 席についた祐麒は、誰かに見られている気がして、そちらへ目を向けた。たった今、自己紹介をしたところなのだから見られていて当然なのだが、注がれる視線の中にseeとlookの違いを感じたのだ。
 斜め前、将棋で言うなら桂馬が飛んだ位置。志摩子さんの右隣に座る、視線の主と目が合った。
 あの子の自己紹介はもう終わっていたなと、少女の名前を確かめるために祐麒はノートに視線を落とす。そう、桂さんだ。
 しかし、もう一度視線を上げたときには、桂さんは既に祐麒を見ていなかった。確かに、視線が合ったと思ったのだけれど……。
 祐麒の思考は、後ろの席に座っている少女の自己紹介が始まったところで中断された。今の祐麒は、クラスメイトの名前をただの一人も聞き逃すわけにはいかないのだから。
 自己紹介、学園生活の諸注意に心がけと、ホームルームは順調に進んだ。他のクラスの生徒が、身体測定の順番だと連絡しに来たとき、「げ」という言葉をどうにか飲み込んだ自分を、祐麒は褒めてやりたかった。
 山村先生はいったん話を切り上げると、生徒達に白ポンチョ――祐麒的にはてるてる坊主量産ポンチョ――に着替えるよう指示を出した。
 自分と変わらない年齢の女の子たちが着替えを始めたときはどこに目をやったものかと困惑した祐麒だったが、ありがたいことにそういう配慮はする必要がなかった。
 まず最初に体操着であるスパッツをはく。それからワンピースになっているセーラーを脱いで、頭からすっぽりと白ポンチョを被る。その中でシャツや下着を脱ぐので、素肌はほとんど外に出ない。
 女の子っていろいろ考えるものだなあ、などと感心しながら、祐麒もそれに倣う。ただ、白ポンチョの下でブラを外す前に、別の世界で同じような苦労をしているかもしれない祐希に向かって、心の中でごめんなさいと謝ることは忘れなかった。
 その後、身長とか体重とか胸囲とか、いろいろ測られたのだが、祐希の名誉のためにそれらの数字は忘れることにする。ただ一点、グラビアアイドルというものがいかに人外じみたプロポーションをしているか、ということだけを祐麒は身体測定の教訓とした。
 入学式を数に入れなければ初日ということで、祐麒たち一年生は午前中で放課となった。
 掃除の当番も明日からで良いらしく、今日は本当にこれで終わりとのことだ。ちなみに、祐麒に割り当てられた掃除場所は音楽室である。生徒手帳に印刷されている見取り図で確認してみたところ、桃組からは少々遠い。代わりに昇降口は近かったので、当番のときはそのまま帰れるよう鞄を持って行くことに決めた。
 そんなに時間が経ったという感覚は無かったのだが、手帳から顔を上げてみると、教室の人口密度はかなり低くなっていた。
 自分も帰ろうかと、祐麒は手帳をしまう。荷物の整理をしていると、背の高い少女が近寄ってきた。ついさっき自己紹介を聞いたはずだというのに、ノンフレームの眼鏡ばかりが印象に残っていて、名前が出てこない。しかし、放課後になって新しく増えたアイテムのおかげで、ぴんと来た。彼女の首から下げられているのは、なかなか高そうなカメラである。直接話したことはないが、元の世界で何度か顔を会わせていた。祐巳との会話でもちょくちょく名前が挙がっていたのを一緒に思い出す。
「蔦子さん?」
「正解。同じクラスになったのは初めてなのに、もう名前を覚えてくれているなんて嬉しいわ。祐希さん」
 そりゃあ、趣味が女子高生撮影の写真部エースというのはインパクトが強かったから。もちろん、今の時点でそれを指摘することはできないけれど。
「そちらこそ、私の名前をちゃんと覚えているじゃないですか」
「あらら、自覚が無いのね」
 蔦子さんが小さく呟いた。
 平凡な顔立ちだということはしっかりと自覚している。志摩子さんくらい美人なら、一発で名前を覚えられるのも分かるのだけれど。
「たぶん、祐希さんが自分で思っているよりは知名度があると思うわよ」
 そう言って、蔦子さんは笑う。しかし、その笑顔はすぐに引っ込んでしまった。
「うーん、こっちから寄ってきておいてなんだけど、今日はやめておく。ごきげんよう、また明日」
 くるりと背を向けた蔦子さんのセーラーカラーを、思わず掴む。
「ぐえっ」
 乙女らしからぬ声は聞かなかったことにした。喉のあたりを手でさすりながら振り向いた蔦子さんを、祐麒はじと目で見つめる。
「気になる」
「うん、私も同じことをやられたら気になると思う。ごめん。けど、呼び止めるなら他にも肩とか腕とか、掴むところがあるとも思う」
「ごめんなさい」
 もっともな言い分だったので、祐麒は素直に頭を下げる。女の子の体のどこを掴めば良いか分からなかったので、背を向けた拍子にふわりと浮き上がったセーラーカラーに手が伸びてしまったのだ。
 蔦子さんは鷹揚にうなずくと、セーラーのポケットから茶封筒を取り出した。
「聞いたことがあるかもしれないけど、私は写真を撮るのが趣味なのよ」
 聞いたことが無くても、首から下がっているカメラを見れば誰でも分かると思う。祐麒はうなずいて先を促す。そう切り出したからには、封筒の中身は写真なのだろう。
「主なモチーフは……」
「女の子」
「そう。この間までは女子中学生。昨日からは女子高生に宗旨替えしたところよ」
 はたしてそれを宗旨替えと言って良いものか、祐麒は甚だ疑問だった。
「で、お察しのとおり、この封筒の中にはあなたの写真が入っているの」
 やはり、そういうことらしい。けれど、今日はやめておく、というのはどういう意味だったのだろうか。
「先に謝っておくわ。……ごめんなさい。中を見て、不愉快だったら言って。ネガごと燃やすわ。約束する」
 眼鏡の奥の真剣な瞳に、祐麒はうなずくことしかできない。すっと蔦子さんの目が細められる。
「本当は最初からそうすれば良いんだろうけどね。なまじ出来が良かったものだから、私はこうして祐希さんの前に立っている」
 台詞とは裏腹に、蔦子さんの表情に自嘲の色は見られない。自分の撮った写真に責任を持っているからこそなのだろう。蔦子さんは茶封筒を両手で持ち直して、祐希に差し出した。
「そういうわけだから、受け取って」
「う、うん」
 祐麒もつられてかしこまり、両手で封筒を受け取った。話の流れからすると、この場で中を見た方が良いのだと思う。
 封筒の中には六、七枚の写真が入っていた。とりあえず一枚を取り出して確認する。
 祐麒は小さく息をのんだ。
 写っていたのは、テニスコートに立つ祐希だった。

   <昔取った杵柄・了>




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