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No.14098の一覧
[0] 【習作】マリア様がよそみしてる(マリみて 祐麒逆行・TS)[元素記号Co](2011/03/15 17:55)
[1] その一・たぶんお釈迦様もよそみしてる[元素記号Co](2010/07/28 20:55)
[2] その二・昔取った杵柄[元素記号Co](2010/07/27 00:47)
[3] その三・いつかきっと[元素記号Co](2010/07/27 00:47)
[4] その四・後悔しない選択[元素記号Co](2010/07/27 00:47)
[5] その五・過大評価[元素記号Co](2010/07/27 00:48)
[6] その六・契りを結んだ人[元素記号Co](2010/07/27 00:49)
[7] その七・性格の悪い友人たち[元素記号Co](2010/07/27 00:49)
[8] その八・薔薇と会った日[元素記号Co](2010/07/27 00:52)
[9] その九・悪事でなくとも千里を走る[元素記号Co](2010/07/27 00:50)
[10] その十・薔薇はつぼみより芳し[元素記号Co](2010/07/27 00:40)
[11] その十一・知らぬは本人ばかりなり[元素記号Co](2010/07/28 21:24)
[12] その十ニ・遠回りする好意[元素記号Co](2010/09/14 18:21)
[13] 後書き(随時更新)[元素記号Co](2010/09/14 21:09)
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[14098] その十ニ・遠回りする好意
Name: 元素記号Co◆44e71aad ID:2893a5c2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/09/14 18:21
「祥子さま」
 驚きの声は、祐麒と由乃さん、両方の口から出た。
 改めて確認するまでもないが、薔薇の館は立地的にかなり不便だ。用事がない限りは、わざわざ訪問するような場所ではない。リリアンの生徒が持つ薔薇ファミリーへの憧れと、少しばかりの隔絶は、そういうところからも生まれるのではないかと祐麒は思っている。
 だからこそ、昼休みが終わりそうなこの時間に祥子さまがやって来たことに驚いた。しかも、「ようやく見つけた」という言葉をそのまま受け取るなら、その訪問理由は祐麒に会うため、ということになる。流石に、この状況で由乃さんを探していたのだと思うほど、祐麒もお間抜けではない。
「まさか、薔薇の館にいるとは思わなかったわ。令が由乃ちゃんに鍵を貸したと教えてくれなかったら、きっと候補にも挙がらなかったもの」
 祥子さまは迷いの無い足取りで、まっすぐに祐麒へと向かってくる。
 祐麒は素早く箸を置いて、椅子から立ち上がる。上級生と話すというのに、自分だけが座っているというのはどうにも決まりが悪い。
「何のご用でしょうか?」
 問いかけると、祥子さまの口角がわずかに上がった。笑われるようなことはしていないつもりなのだけど、何かおかしなことをしてしまっただろうか。
「食事中なのに、ごめんなさいね。祐希に渡したいものがあったのよ」
 そう言って、祥子さまは手に持っていた冊子を祐麒に差し出してきた。深く考えずに受け取って、表紙を見る。
「……シンデレラ?」
「あ、台本」
 祐麒の言葉に被せるように、由乃さんが呟く。視線を向けると、まだ貰っていなかったのね、と頷いている。
「そう、台本。祐希の台詞には印をつけておいたから、目を通しておきなさい」
 開いてみれば、罫線で区切られた上側に役名、下側に台詞とト書きという、一般的な戯曲形式の台本で、その役名のいくつかにピンクと青のマーカーがつけてあった。
 ピンク色はシンデレラ。青色は姉Bである。
「あの、シンデレラの台詞にも印がついていますけど」
 何を当たり前のことを言っているのかという表情で、祥子さまが祐麒を見る。
「私の妹になったら、シンデレラ役をすることになるのだから、台詞は覚えておかないといけないでしょう?」
「いえ、それは当日まで全力でお断りする予定なのですけれど」
「その言い分が通るなら、私は当日までにあなたを妹にするつもりだから、シンデレラの台詞は覚えなくても良いことになるわね」
 祐麒は言葉に詰まる。確かにそのとおりである。元々、紅薔薇さまの目論見の一つは、あくまでもシンデレラ役を嫌がる祥子さまに、しっかりとシンデレラの練習をしてもらうことにあるはずなのだ。
 自分の考え違いに気づいた祐麒は、神妙な顔つきでうなずく。
「考えが足りませんでした。ちゃんと覚えます」
 また、祥子さまが口角を上げて笑う。何がそんなに面白いというのか、祐麒には分からない。
「それで良いわ。ああ、それからもう一つ。祐希、あなた今日の放課後は練習へ来る前に、新聞部の部室へ顔を出しなさい」
 祥子さまからの唐突な指示に、祐麒は今度こそ絶句した。



【マリア様がよそみしてる ~その十ニ・遠回りする好意~】



 ぎっ、ぎっ、という足音が遠ざかって聞こえなくなると、祥子さまがこの部屋にやってきたという証拠は、祐麒の手に残されたシンデレラの台本だけになった。
 咄嗟に反応することが出来なかった祐麒の沈黙を、祥子さまは肯定と受け取ったのか「お姉さまには私から遅れると連絡して置くわ。いつまでも逃げ回っていたら不便でしょう?」と言い残して、ごきげんようと優雅な挨拶と主に会議室から出て行ってしまった。
 慌ただしい訪問だというのに、ちっともそれを感じさせなかったのは、動作にせかせかした所が無かったからだろうか。
 確かに、逃げ回っているのは不便だ。いつ捕まるかとびくびくしているくらいなら、こちらから覚悟を決めて乗り込んだ方が、イニシアチブを取ることが出来るという理屈は分かる。
 どうせ祐麒が山百合会の劇に出るという話も掴んでいるだろうから、最悪の場合練習しているところに乗り込んでくる可能性すらある。だから、祥子さまの指示は至極まっとうで、合理的なものだ。
 けれど、芸能リポーター並と噂される新聞部へと乗り込むのは、あまり気の進む話ではない。
 台本に落としていた視線を上げ、ため息を一つついて席に戻ると、由乃さんが首をひねっていた。
「ようやく見つけた、って……祐希さんを?」
 どうも祥子さまの台詞が気になっているらしい。
 確かに、台本を渡すためだけに、わざわざ祐麒を探し回る祥子さまというのは、少しばかりおかしな図だ。放課後になってから、練習に出てきた祐麒に渡せば事足りる用事である。
 そこまでは由乃さんも同意見らしく、ぶつぶつと呟いている由乃さんはもう一つの言葉へと焦点を当てた。
「だとしたら、新聞部へ行きなさい、が本題になるわけだけど、そんなことがあり得るかしら」
 どういうことかと思い聞いてみれば、事ある毎に大げさに話を書きたてる新聞部を、祥子さまはあまり良く思っていないらしい。
「劇の練習中に乗り込んで来られても迷惑だから、とか」
 先ほどの思考を披露してみると、祐麒の考えは思いのほか由乃さんに好感触だった。
「なるほど、練習全体を中断させられるくらいなら、祐希さんから出て行った方が面倒は少ないわね」
 でも、と由乃さんは続ける。
 それが筋の通った考えであることは認めるにしても、昼休みという貴重な時間を割いてまでしなければならないことだとは思えない、だそうだ。
 まあ、薔薇の館にやって来た祐麒に改めて指示を出せば良いだけの話だ。その場合、歩かなければならないのは祐麒だけなので、祥子さまはこの昼休みを教室でゆっくりと過ごすことが出来ただろう。
 そう考えて、ふと気づいた。
 お昼ごはんを、祥子さまはちゃんと食べたのだろうか?
 ようやくと言ったからには、かなり長い時間、祐麒を探していたはずだ。それに、台本をただ渡すだけ、新聞部に顔を出せと伝えるだけの簡単な用事。お昼ごはんを食べる前にさっさと済ませてしまおうと考えても不思議ではない。
 ちらりと、壁にかかっている時計に視線を走らせる。今から教室に戻って、ちゃんとお弁当を食べる時間があるだろうか。
 一方的に自分の用事だけを終わらせて、質疑のタイミングも作らずに去ってしまった祥子さまだが、お昼ごはんがまだだとすれば、それも仕方ないことかもしれない。
「祐希さん」
 声をかけられて、はっと顔を上げる。
「その台本、見せて頂いても良いかしら」
「え、うん。もちろん良いよ」
 由乃さんは渡された台本を、ためつすがめつして見ている。てっきり台本を読みたいのだとばかり思っていた祐麒は、いぶかしげな表情をしてしまう。
「あの、由乃さん、どうかした?」
 祐麒の言葉に、由乃さんは照れたような笑いを浮かべる。
「ごめんなさい、分からないことがあると気になってしまって。ヒントになりそうなものが、あと台本くらいしか思い浮かばなかったものだから」
 どうやら、先ほどの「ようやく見つけた」の謎をまだ考えていたらしい。
「何か分かった?」
「どうかしら。関係なさそうで、実はありそうなことなら分かったけれど」
「それは、どういうこと」
 例えば、祐麒に台本を渡すために、祥子さまがお昼ごはんを食べられなかったかもしれないとか、そういうことだろうか。
「この台本、たぶん昨日まで祥子さまが使っていたものね」
「そうなの?」
 さっきは気づかなかったが、背表紙にクラスと名前でも書いてあったのだろうか。
「ほら、こうすると良く分かるわよ」
 由乃さんはそう言って、冊子に親指の腹をあて、ぱらぱら漫画を見るときの様にページをめくってみせた。
 折り癖がついているのか、何度か引っかかるようにめくられるページが止まる。
「……あっ」
「分かった?」
 ただの折り癖なら、マーカーで印をつけるときにできたものかと考えることもできるが、ところどころ止まるのは、どれもシンデレラの長い台詞があるページばかりだ。
 それは、そのページに何度も目を通したからに他ならない。
「うん、分かった。じゃあ、祥子さまはもう台詞を全部覚えてるんだ」
 凄いな、と祐麒は感心する。昨日の今日で自分の台本を渡せてしまうということは、シンデレラの台詞だけでなく、姉Bの台詞も――つまりは全ての登場人物の台詞を――既に覚えていたということだ。それも、頭の出来が違うからすぐ覚えた、というわけではない。長台詞を覚えるために折り癖がつくくらい読み込んでのことだ。
 ああ、そうか。
 シンデレラの台詞も覚えなさいというのは、祥子さまにとっては至極当然の要求だったのだろう。いや、要求でさえない。それが祥子さまの普通なのだ。
 そういう努力を自然と出来て、表に出すことも、誇ることもしない。それはどこか、シンデレラの劇に出る前に社交ダンス部へと練習に通った柏木先輩を彷彿とさせる。
 祐麒は小さく頷く。さすがは祐巳のお姉さまだ。
 女の人を格好良いと思ったのは、祐麒にとって人生で二回目のことであった。
 そして、ふと気づいた。
 だったら、青のマーカーは昨日から今日にかけて、祥子さまがわざわざつけたものだ。 由乃さん曰く、関係なさそうだけど、実はあること。
 祥子さまは本当に、わざわざ台本を渡すためだけにお昼休みを潰したのかもしれない。
 折り癖のついた台本を由乃さんから返してもらったとき、祐麒の顔には自然と笑みが浮かんでいた。

「あ、お帰り」
 予鈴も鳴り終わった後、お昼休みが終わるぎりぎりで教室へと戻ってきた祐麒を、桂さんはそんな言葉で出迎えてくれた。
 祐麒も由乃さんも、祥子さまが帰った後いろいろと考え事をしていたため、そのあと大急ぎでお弁当を食べても、結構すべり込みな到着である。
 あわや遅刻という時間になっても、スカートの裾が乱れないよう、セーラーカラーが翻らないよう、しとやかに歩いて教室へと戻る由乃さんの猫は一流だ。祐麒一人だけだったら、走るまで行かずとも、きっと早歩きにはなっていただろう。まだまだ女の子としての精進が足りない。いや、足りすぎていてもどうかと思うけれど。
「どこで食べてたか知らないけど、ちょっと損したかもしれないわよ」
 桂さんが重々しく言う。
 どういうことかと首を傾げると、桂さんが説明してくれた。
「今日も新聞部の部長の、ええと」
「三奈子さま」
 いつの間に寄ってきたのか、蔦子さんがど忘れしたらしい桂さんをフォローする。
「そう、三奈子さま。お昼休みに祐希さんを探しに来ていたのだけど、そこに紅薔薇のつぼみが現れたのよ」
 素敵だったんだから、と桂さんは興奮気味に語る。
 つまり損したという発言は、その素敵な祥子さまを祐麒が見られなかったから、ということだろう。再三、祥子さまのファンじゃないと言ったはずなのに、桂さんはまだ誤解しているところがある。
 祥子さまの活躍は少し聞いてみたかったが、生憎と本鈴が鳴り出してしまった。
 慌てて自分の席に戻っていく桂さんを見送っていると、折りたたまれた一枚の紙がすっと横から差し出された。振り返ってみれば、それを祐麒の机に置いたのは蔦子さんだった。
「詳しく説明する時間はなくなっちゃったから、とりあえず渡しておくわね」
 苦笑気味の蔦子さんが、言葉を続ける。
「その祥子さま絡みのお話よ。新聞部部長の築山三奈子さまから、祐希さんへの招待状。どういうことかは中を見れば分かると思うわ」
 じゃあ後でね、と蔦子さんも足早に自分の席へと戻っていってしまった。
 それとほとんど同時に、教室の前扉が開き、古文教師が入ってきた。

 授業中、板書の途切れた隙に、祐麒は蔦子さんから渡されたメモ用紙を開いてみた。
 三奈子さまの直筆と思われるそれは、予想以上にかっちりとした丁寧な文字で綴られていた。もしかしたら三奈子さまは、書道か何かをやっているのかもしれない。
 そこには『福沢祐希さま』と宛名が書かれており、その後ろには取材申し込み状、と続いていた。
 そして、本日放課後、部室で待っていることに加え、質問したい内容が幾つも箇条書きになっていた。
 祐麒の胸に少しだけ残っていたしこりが、ふっと解けた。
 これは祥子さまからの援護射撃だ。単身、新聞部に乗り込めという理不尽にも思える指示の裏には、計算されたフォローの存在がある。
 自分は学園祭までの間に、あと何回祥子さまのことを見直すことになるのだろうかと、祐麒は温かい気持ちで思った。


   <遠回りする好意・了>





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