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No.14098の一覧
[0] 【習作】マリア様がよそみしてる(マリみて 祐麒逆行・TS)[元素記号Co](2011/03/15 17:55)
[1] その一・たぶんお釈迦様もよそみしてる[元素記号Co](2010/07/28 20:55)
[2] その二・昔取った杵柄[元素記号Co](2010/07/27 00:47)
[3] その三・いつかきっと[元素記号Co](2010/07/27 00:47)
[4] その四・後悔しない選択[元素記号Co](2010/07/27 00:47)
[5] その五・過大評価[元素記号Co](2010/07/27 00:48)
[6] その六・契りを結んだ人[元素記号Co](2010/07/27 00:49)
[7] その七・性格の悪い友人たち[元素記号Co](2010/07/27 00:49)
[8] その八・薔薇と会った日[元素記号Co](2010/07/27 00:52)
[9] その九・悪事でなくとも千里を走る[元素記号Co](2010/07/27 00:50)
[10] その十・薔薇はつぼみより芳し[元素記号Co](2010/07/27 00:40)
[11] その十一・知らぬは本人ばかりなり[元素記号Co](2010/07/28 21:24)
[12] その十ニ・遠回りする好意[元素記号Co](2010/09/14 18:21)
[13] 後書き(随時更新)[元素記号Co](2010/09/14 21:09)
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[14098] その十・薔薇はつぼみより芳し
Name: 元素記号Co◆44e71aad ID:d45509c0 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/07/27 00:40
 放課後。紅薔薇さまに待っているよう念を押されてしまったので、祐麒は掃除の終わった音楽室の椅子に一人で座っていた。
 迎えの人とすれ違いになっては悪いので、日誌については用事があるからと同じ当番グループのクラスメイトに頼んである。昨日とあわせて二日続けてのお願いになってしまったが、快く引き受けてもらえた。
 ことあるごとに思うのだけれど、リリアン生はこんなに「良い人」ばかりで大丈夫なのだろうか。もちろん蔦子さんとか紅薔薇さまみたいな例外もいる。そうでなくとも、もっと仲良くなれば良い人以外の面も見えてくるのかもしれない。でも、どうなのだろう。祐麒はクラスメイトに頼みごとをして、断られた覚えが一度もなかった。
「ごめんなさい、祐希さん。待たせしてしまったかしら」
 埒も無いことを考えていたところに、声をかけられた。振り向いてみれば、入り口から顔を覗かせているのは志摩子さんだった。
 同じクラスである志摩子さんなら、ホームルームが長引いたりしても時間がずれることはそうそう無い。当番区域の中では簡単な部類に入る音楽室を掃除していた祐麒が待つ形になったのは当然だろう。それに、志摩子さんは教室へ一度戻って、鞄を取ってきているはずだ。
「ううん、全然待ってない。わざわざ迎えに来てもらって悪いくらい」
 そう答えながら、祐麒は椅子を引いて立ち上がった。
 志摩子さんと並んで、まだ人気の多い廊下を歩いていると、ちらちらと視線を感じる。ほとんどは白薔薇のつぼみである志摩子さんに向いているのだと思うが、中には紅薔薇のつぼみをふった人間である自分へのものが混じっているのかもしれない。
「昨日言っていたことが本当になってしまったわね」
 笑いを含んだ声で、志摩子さんが言う。人手が足りなかったら、自分のように手伝わされるかも、と話していたのは、つい昨日のことだ。
「言われてみれば……うん、学園祭までしっかりサポートするから任せておいてよ」
「サポート? 紅薔薇さまはシンデレラに出てもらうとおっしゃっていたけれど」
 え、嘘、本当に? 思わず目を丸くしてしまった祐麒だった。手伝うとは言ったけれど、それは大道具作りや書類整理といった裏方仕事のつもりだったのだ。
 けれど、思い出してみれば祐巳も姉役で出ていたのだし、キャストが埋まりきっていないのかもしれない。
「確か、誰がやるか決まっていなかったはずだから、祐希さんは姉Bをやることになるんじゃないかしら」
 志摩子さんが思案するような顔をしながら言う。祐麒たちが帰ってから紅薔薇さまが行ったという、根回し会議のことを思い出しているのだろう。
「脇役とは言え、私みたいなのが山百合会主催の劇に出ていたら、いろんな人から恨みを買いそうなんだけど」
「そんなことは無いと思うわよ。舞踏会のシーンではダンス部のかたにも協力してもらうのだし、衣装や大道具も自分たちだけで用意するわけではないのよ」
 苦笑する志摩子さんだけれど、祐麒はそこまで楽観的にもなれない。リリアンかわら版なんかを読んでいればわかるが、山百合会の面々の人気というのは本当にすごいものなのだ。
 そうでなくては、ただ姉妹の申し込みを断ったというだけの話が、ここまで噂になることもないはずだった。
 ふと、祐麒は柏木先輩の烏帽子子になったばかりの頃を思い出す。断れば不遜と思われ、受けいれれば格が違うと言われるわけだ。桂さん言うところの「素人」という奴も、なかなか難しいものであるらしい。



【マリア様がよそみしてる ~その十・薔薇はつぼみより芳し~】



 志摩子さんに連れられてきたのは、昨日に引き続いて薔薇の館である。今日はダンス部と合同で舞踏会のシーンを練習する予定ということだが、その前に祐麒が正式にお手伝いとして加わることを、山百合会の面々に通しておく、のだそうだ。
 紅薔薇さまの言葉を信じるなら、根回しはすでに済んでいるはずなので、これはつまり祥子さまと祐麒のための場、ということだろう。
 案の定、祐麒たちが会議室に顔を出したとき、驚いた顔をしたのは祥子さまだけだった。祐麒に視線を向けると、きゅっと眉を寄せる。……怒っている、のだろうか。祐麒にはよくわからない。
「ああ、来てくれたのね。さっき話していた学園祭までのヘルプ要員として手伝ってくれる、福沢祐希ちゃんよ」
「よろしくお願いします」
 扉をくぐるなり話を振られてしまったが、祐麒はとりあえずぺこりと頭を下げた。
「こちらのメンバー紹介は……別にいらないかしら?」
 紅薔薇さまの言葉に、祐麒はこくりと頷く。流石にリリアンで半年以上の時を過ごしていれば、山百合会メンバーの顔と名前くらいは知っている。個々のパーソナリティについては、手伝いをしている内にだんだん分かってくるだろう。
「どういうことですか、お姉さま」
 硬い声で問い質したのは、祥子さまだ。食って掛かる、というほどではないが、ぴりぴりとした雰囲気で紅薔薇さまに視線を向けている。
「あら、先ほどまでの説明で分からなかったかしら。配役も埋まっていないし、当日までの人手も足りないしで、弱っていたのよ」
 ぐっ、と言葉に詰まる祥子さま。何しろ、人手が足りない一因は、祥子さまが妹を持っていないことにあるのだ。もう一人の原因である、一年生を妹にした白薔薇さまはそ知らぬ顔をしているけれど。
 一瞬言葉を失った祥子さまだったが、気を取り直して身を乗り出す。
「人選のことを言っているんです」
「祐希ちゃんは委員会にも部活動にも所属していないから、学園祭までの時間に余裕があるのよ」
 ねえ、という風に祐麒へ視線を向ける紅薔薇さま。
「あ、はい。クラスの企画も展示だけなので、放課後まで準備が食い込むことは少ないと思います」
 また、部活動などの集まりがある場合はそちらを優先して良いと、ホームルームで決まっているので、山百合会の手伝いをするということを実行委員に説明すれば、準備も免除されるはずである。
 肯定を返した祐麒だったが、自分がどこの団体にも所属していないと、いつの間に調べたのだろうかと疑問に思ってしまう。紅薔薇さまと面識を持ったのは昨日が初めてのはずだ。
 ふと、疑問の答えに心当たりを見つけて、祐麒は隣に立つ志摩子さんに視線を送る。予想通り、志摩子さんが小さく頷いた。どうやら祐麒と同じクラスである志摩子さんから聞き出した、ということらしい。
 表面的な疑問について、全て合理的な答えを返されてしまい、祥子さまは二の句がつげなくなっている。
 もちろん、最も問題となるはずの「なぜ祐麒なのか」については全く解決していないのだけれど。
 その問いに対する答えを、紅薔薇さまは用意していたようだ。
「理由としてはもう一つ。祥子に機会を上げようと思ったのよ」
「機会?」
 ぴくりと、祥子さまは眉を上げて反応する。
「あなたの相手役が花寺の生徒会長だと隠していたのは、少しばかり卑怯だったと認めるそうよ」
 それまで口を挟まず聞き役に徹していた黄薔薇さまが、笑いながら言う。
「そうね、だまし討ちのような形になったのは悪かったと思っているわ。ごめんなさい」
 す、と紅薔薇さまが頭を下げる。
 そうすると、祥子さまは少し焦ったような表情になる。男嫌いだからやりたくない、という自分の主張が我がままであるということも、一応は自覚しているのだろう。しかし、機会をくれるというなら、それを掴まない手もないということなのか、すぐに表情を改める。
「さて、それで、機会の内容なのだけれど……」
 紅薔薇さまが何事も無かったように話を続ける。それを良い笑顔で聞いているのは、白薔薇さまと黄薔薇さまの二人だけだ。祐麒を含めた他のメンバーは少々困惑顔である。三薔薇さまだけで、その機会とやらを決めていたらしい。
「学園祭までに、祐希ちゃんと本当の姉妹になってみせなさい。それができれば、祥子はシンデレラをやらなくても良いわ」
「はっ?」
 思わず声が出ていた。はしたない、と言うなかれ。祐麒ほど大きくはなかったが、祥子さまだって同じように声を上げていたのだ。
 しかし、そこは流石に祥子さまである。思案を一瞬で終わらせ、顔を上げる。
「分かりました。それを果たせれば、私はシンデレラをやらなくても良いのですね」
「ええ、二言はないわ」
 しっかりと紅薔薇さまの言質をとった祥子さまの目は、やる気という光で溢れている。
 あざとい、と思いつつも、祐麒は薔薇さまたちの上手さに舌を巻く思いであった。これで、祐麒がロザリオを受け取るまで、祥子さまは真面目に練習するしかない。祐麒を妹に出来ればやらなくても良いということは、その逆もまた真なのだから。
「あの……」
 おずおずと手を挙げたのは、成り行きを見守っていた志摩子さんだ。
 それに気づいた白薔薇さまが、声をかける。
「なんだい、志摩子」
「祐希さんと姉妹になって、祥子さまがシンデレラ役を降りられた場合、誰が代役をするのですか?」
 壁際で、黄薔薇のつぼみと由乃さんがうんうんと頷いている。もともと、黄薔薇のつぼみが部活動で忙しいために、台詞の多い役に立てない、という話でもあったはずだ。
 目をにいっ、と細めて、白薔薇さまが笑う。
「そりゃあ、姉の穴を埋めるのは妹の役目でしょう。だから、その場合は祐希ちゃんにシンデレラをやってもらう」
「……そう来ましたか」
 祐麒は呟く。
 紅薔薇さまは、祐麒が祥子さまに対して悪感情を持っていないことを知っている。ならば、情にほだされた祐麒がロザリオを受け取ってしまうことを見越しておくのは、当然と言えるだろう。
「分かりました。私もこれ以上、紅薔薇のつぼみのファンを敵に回したくはありません。絶対、ロザリオは受け取りません」
 絶対、に力を込めて言う。
 山百合会主催の劇、主役は紅薔薇のつぼみ、という触れ込みだったのに、いざ本番を見てみれば子ダヌキがそこに立っていました、というのではブーイングものだろう。
 面白くなってきたわ、と目を輝かせる黄薔薇さま。くつくつと笑って、真意が見えない白薔薇さま。黄薔薇のつぼみと由乃さんは苦笑気味で、志摩子さんは祐麒を気遣うように視線を送ってくる。
 そんなときに、ぱんぱん、と手を叩いて場を収めたのは、紅薔薇さまである。
「さ、それじゃあ顔合わせも済んだことだし、ダンスの練習に行くわよ。あまり待たせては、ダンス部のかたに悪いわ」
 それぞれに了解の返事をして、山百合会の面々がぞろぞろと会議室を出て行く。
 祐麒もそれに続こうとしたところで、祥子さまに呼び止められた。自然、祐麒と祥子さまの二人だけが部屋の中に残る形となる。
「あの、なんでしょうか」
 世の中には、ただ立っているだけで絵になる、というか独特の雰囲気を作り出せる人がいる。柏木先輩なんかがそうだし、今祐麒の前に立っている祥子さまもそうだ。
 綺麗に伸ばされた背筋と、まっすぐな視線。祐麒は気圧されるような形になって、たじろぐ。
「今日は、怒ってはいないのね」
 祥子さまは静かにそう言った。確認するかのようなその台詞に、祐麒はうなずく。
「はい、怒っていません」
 元々、売り言葉にすぐ買い言葉を返してしまう性格ではある。後になって良く考えてみれば、もっと他に言い方があったのではないかと思ったことだって、一度や二度ではない。けれどそれはやり方や言い方の問題であって、怒ったことそのものを後悔したことは、ほとんどない。
 昨日の一件だって同じである。誰でも良い、というような気持ちで、姉や祐希を選んで欲しくなかったのは本当だ。
 しかし、紅薔薇さまが用意した機会は、祥子さまだけでなく、祐麒にもまた、考えるだけの余裕をくれた。もしもこの賭けが、祐麒が元いた世界でも行われていたとしたら。祐麒は、姉である祐巳がシンデレラではなく姉Bとして舞台に立っていたことを知っている。
 祐巳は、誰でも良いからと押し付けられそうになったロザリオを受け取りはしなかった、ということになる。そして、どうにか祐巳と姉妹になろうと祥子さまがあれこれと頭を悩ませる中で、ちゃんと「祐巳」と触れ合う時間を持つことができたはずだ。
 それなら、良い。
 祐麒は、そういう風に自分の中にあったわだかまりと決着をつけた。だからもう、昨日のように怒ってはいない。
「……そう」
 祥子さまは、小さく息を吐き出した。それから、また視線を上げて、祐麒を見る。
「一つだけ、言っておきたかったのよ。……絶対、あなたにロザリオを受け取らせてみせるわ、祐希」
 強い、言葉だ。
 祐麒の中に、受け取らないという確固たる理由がなければ、思わず分かりましたと頷いてしまいたくなるくらい。その強い意志が、柏木先輩と踊るのが嫌だから、というところから来ているのは、ちょっと格好悪いけれど。
 それはそれとして、だ。
 怒っていないにしても、祐麒は祥子さまのロザリオを受け取るつもりは、さらさら無かった。もちろん、さっき言ったとおり、紅薔薇のつぼみのファンが落胆するのを見たくない、ということもある。けれどそれ以上に、紅薔薇さまがお昼に言っていたとおり、なぜ祐麒が怒ったか、祥子さまは、きっとまだ分かってはいないから。
 だから祐麒は、かつて花寺で何度となくそうしたように、笑ってみせた。いくつもの無理難題を笑い飛ばして、どうにかこうにか乗り越えてきた。いかに祥子さまが絶対の自信を持っていたって、ロザリオを受け取らないくらい、きっと朝飯前だ。
「素人の意地ってものを、お見せしますよ」
「は、素人?」
 リリアン女学園のスターの一人である祥子さまは、祐麒の口から脈絡無く出てきた素人という言葉に困惑顔を返した。一般人とか小市民、と言った方が良かっただろうかと、祐麒は少しずれたことを考えていた。


   <薔薇はつぼみより芳し・了>




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