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No.14098の一覧
[0] 【習作】マリア様がよそみしてる(マリみて 祐麒逆行・TS)[元素記号Co](2011/03/15 17:55)
[1] その一・たぶんお釈迦様もよそみしてる[元素記号Co](2010/07/28 20:55)
[2] その二・昔取った杵柄[元素記号Co](2010/07/27 00:47)
[3] その三・いつかきっと[元素記号Co](2010/07/27 00:47)
[4] その四・後悔しない選択[元素記号Co](2010/07/27 00:47)
[5] その五・過大評価[元素記号Co](2010/07/27 00:48)
[6] その六・契りを結んだ人[元素記号Co](2010/07/27 00:49)
[7] その七・性格の悪い友人たち[元素記号Co](2010/07/27 00:49)
[8] その八・薔薇と会った日[元素記号Co](2010/07/27 00:52)
[9] その九・悪事でなくとも千里を走る[元素記号Co](2010/07/27 00:50)
[10] その十・薔薇はつぼみより芳し[元素記号Co](2010/07/27 00:40)
[11] その十一・知らぬは本人ばかりなり[元素記号Co](2010/07/28 21:24)
[12] その十ニ・遠回りする好意[元素記号Co](2010/09/14 18:21)
[13] 後書き(随時更新)[元素記号Co](2010/09/14 21:09)
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[14098] その一・たぶんお釈迦様もよそみしてる
Name: 元素記号Co◆44e71aad ID:6e257435 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/07/28 20:55
 枕元で遠慮なく鳴り響く目覚まし時計を、布団に入ったまま手を伸ばして止める。中学時代からの付き合いだから、この時計もそろそろ六年選手である。
 いや、今日から六年目、と言うべきか。なにしろ今日は始業式。花寺学院高校三年生としての、初登校である。
 ま、昨日までと何が変わるってわけでもないけどね。
 入学式やその後の新入生向けオリエンテーションの準備で、春休み中もちょくちょく学校へ出ていた祐麒はひとりごちる。頼りないと自覚してはいるが、一応生徒会長なのだ。
 ベッドの上に体を起こし、ぐっと伸びをする。
 ……おかしい。
 自分のパジャマは薄い青色であって、間違ってもピンク色では無かったはずだ。
 寝ぼけているのだろうかと、軽く頭をかく。いやいやいやいや、やはりおかしい。髪の毛が肩甲骨あたりまで伸びているなんて、ありえない。
 混乱した頭で周囲を見回すと、灰色だったはずのカーテンがクリーム色になっていたり、毛布が花柄だったりと、ところどころが乙女ちっくになっている。まさか祐巳が何かいたずらでも仕掛けてきたのだろうか。
 その推測を裏付けるかのように、壁際に姉である祐巳の姿を見つけた。
「祐巳、何を朝っぱらから悪ふざけ……を……」
 呆れ半分の抗議の言葉を、最後まで続けることはできなかった。
 祐麒が口を開くと、壁際の祐巳も同時に口を開いた。
 試しに右手を上げてみると、壁際の祐巳は左手を上げた。いや、認めよう。さすがにもう、認めないわけにはいかない。だからこう言い換えるべきだろう。
 祐麒が右手を上げると、鏡の中の祐巳に良く似た少女は、左手を上げた。
 祐麒の口から乾いた笑いが漏れる。何だろう、何の冗談だろう、これは。漏れ出る笑いでさえ、慣れ親しんだ自分の声ではない。まるで声変わり前に戻ったかのように高い声だ。
 ゆっくりとベッドから立ち上がると、祐麒は自分の体を確認した。姉同様に控えめではあったが、確かに存在を主張する胸。そして、足りなくて不安になってくる股の間の感触。ついでにあちこちが細く、柔らかくなっている。
 間違いなく、女性の体だった。
 男子高校生的には女の子の体に興奮しなければおかしいのかもしれないが、鏡に写る姿はあまりにも姉にそっくりで、そういう感情を抱くよりも気まずさの方が先行する。
 そして祐麒は重大なことに気づく。できれば認めたくはないが、今の自分が女だというのなら、学校はどうすれば良いのだろうか。花寺学院は男子校なのだ。いや、それ以前に家族へはどう説明すれば良いのだろう。
 実際に体は女の子だし、顔はどう見ても祐巳だから、自分が祐麒だと信じてもらうことはできるだろうが……。
 ふと、一つの想像が頭をよぎる。自分が女になったのではなく、自分と祐巳の精神が入れ替わったのだとしたら。
 突拍子もないことを考えているのは分かっているが、朝起きたら女の子になっていた、というよりはありえるような気がした。
 試しにクローゼットを開けてみると、そこには予想どおり、リリアン女学園の深緑色をした制服がかかっていた。
「ふむ」
 祐麒は一つうなずく。
 つまりこれはきっと、俺があいつであいつが俺でな、転校生っぽい奴に違いない。祐巳に頭突きをかませば元通りに入れ替わる。そう信じたい。
 などと軽く現実逃避をしていた祐麒は、制服の胸ポケットからはみ出ている生徒手帳に気がついた。花寺ならばこれに紅か白のカバーをかけて、源平どちらの陣営かという身の証を立てることになる。もっとも、たまに祐麒のような例外もいるが。
 なんとなく生徒手帳を手にとった祐麒は、手帳の裏に書かれた名前を見て目を疑った。
 そこには祐麒が精一杯丁寧に文字を書くときと同じ筆跡で、こう書いてある。
『福沢祐希』
 これではまるで、福沢祐希という少女がこの部屋の主のようではないか。しかもその少女は自分と同じ音の名前で、自分と同じ筆跡をしている。
 ……まさか、いやそんな馬鹿な。
 夢だ、これは夢に違いない。ほっぺたをつねってみたが、普通に痛かった。あと男だった頃より柔らかくなっていた。
 起きてから二分足らずの間に、祐麒の問題処理能力は早くも煙を上げ始めていた。
 お釈迦様。いや、それともこの場合はマリア様、だろうか。俺、何か悪いことしましたか。
 残念ながらお釈迦様もマリア様も、祐麒の問いかけには答えてくれなかった。



【マリア様がよそみしてる ~その一・たぶんお釈迦様もよそみしてる~】



 時計を確認してみると幸いなことに、いつも祐巳が登校する時間まではかなりの余裕があった。
 早起きを心がけていたらしい福沢祐希に感謝しながら、祐麒は部屋の中を調べることにした。
 後ろめたさはあるけれど、背に腹は変えられない。まず祐麒が置かれている状況を把握する必要があった。
 部屋の本来の主である福沢祐希は、少女であることを除けば祐麒とほとんど同じ性格のようだった。机や本棚の整理の仕方が同じだし、趣味も似通っている。
 卒業アルバムを確認する限り、祐希は幼稚舎からのリリアン生であったようだ。花寺は男子校だから、妥当なところだろう。
 大きく違ったのはテニス関連の本が充実していたことだけれど、祐麒が野球部だったように、こちらの祐希はテニス部だった、ということだろう。
 ただ、テニスラケットやシューズといった、テニスをプレイするための道具はなかった。故障による引退。たぶん、そういうことだ。おそらく福沢祐希は、自分と同じ人間なのだから。
 いくつかの発見と納得。そして最後に、大きな問題が残った。
「それで、これは一体何の冗談なんだ」
 机の上に置いてあった、祐巳が使っていたのと同じリリアン女学園の学生鞄。その横にあった薄い冊子には、私立リリアン女学園入学案内と書かれていた。
 ページをめくって確認してみれば、入学までに用意する持ち物の横に、ペンでチェックが入れられている。用意したものにチェックを入れたのだと考えると、まるでこれからリリアンの高等部に進学するのだと言わんばかりだ。
 祐麒は壁にかけられたカレンダーを確認する。いい加減、驚くのも馬鹿らしくなってきた祐麒は、小さくため息をついた。
 カレンダーにプリントされた西暦は、二年前のものだった。今日の日付には赤マルで囲みがしてあって、上に小さく入学式、とメモされている。
 自分が女性であるという並行世界に飛ばされた。ついでに二年ほどタイムスリップして。
 祐麒は自分の置かれた状況に対して、最終的にそう結論を下した。
 原因は不明。ということは、元に戻るための方法も不明。
 この体の本来の持ち主である福沢祐希がどうなったかは分からないけれど、案外自分と入れ替わりで「福沢祐麒」の中に入っているのかもしれない。世界中で唯一、祐麒だけは彼女に心の底から同情しても許されるはずだ。強く生きて欲しい。自分も頑張るから。
 抵抗が無いわけでは無かったが、そんなことも言っていられず、祐麒はリリアンの制服に着替える。
 上着はともかく、スカートというものを身に着けるのは初めての祐麒だ。ズボンと同じようにジッパーが体の前方に来るように着てしまい、どうもしっくり来ないと首をひねったり、以前着たことのある十二単(もどき)とは全く異なるすーすーとした感覚に、なんとも居心地の悪い思いを覚えたりした。身に着けていたブラとショーツは、できるだけ視界に入れないよう努力したものである。
 しばらく、あるいは当分。考えたくないけれど悪ければ一生。祐麒は祐希として生活することになる。
 どれだけの期間になるか分からないが、自分のためにも、そして元に戻ったあとの福沢祐希のためにも、日常生活を守らなければいけない。入学式から学校を休むことなんて、できるわけが無かった。もちろん、祐希の中身が男の祐麒であると知られることなど、絶対にあってはならない。
 身支度をしていると髪の毛を結ぶゴムが無いことに気付いたが、そういえば祐巳は洗面所で結んでいたなと思い出す。
 朝ごはんも食べなければ、なんて思いながら部屋を出ると、そこに鏡があった。
 見慣れた自分の姿が目に入り、そこで祐麒はおかしいと気付く。我が家には廊下のど真ん中に姿見などないし、なにより今の体は祐希なのだ。では目の前にいる花寺の学生服を来た少年はまさか……。
「あ、おはよう」
 祐麒そっくりの少年が、笑顔を見せた。祐希の卒業アルバムに祐巳が一度も写っていなかったので、もしかしたらと思っていたが、やはりそういうことらしい。
「おはよう。祐巳」
 頭の中の混乱を悟られないように返事をしたつもりだったが、祐巳――と思われる祐麒のそっくりさん――は、顔をしかめた。もしや、名前が違うのだろうか。漢字が違う可能性はあっても、読みは同じだと勝手に思っていた。
「名前で呼ばないで、ってば。祐巳、なんて女の子っぽい名前で、どれだけからかわれてるか知ってるだろ」
 セーフ、だ。日常生活の破綻は、運良く回避された。これからはもう少し気をつけなければならない。
「ごめんごめん、お兄ちゃん」
 口に出してから、祐麒はミスに気付いた。しまった。もしかしたら、こっちの世界では祐希の方が姉だったかもしれない。気をつけようと思ったそばから、何をやっているのか。
 幸い、その心配は杞憂に終わった。
「ん、よし」
 祐巳は小さくうなずくと、そのまま階段を降りていく。
「あ、危なかった」
 ほんの数十秒の会話で、大きく神経を削られた祐麒だった。
 よくよく考えれば、巳年生まれの祐巳と、午年生まれの祐麒だったわけなので、名前が祐巳ならこっちが年下だということは分かる。けれど、祐麒はそこまで深く考えずにお兄ちゃんと呼んでしまっていた。
 抜けているところがあると自覚はしていたが、まさかここまでだったとは。うっかりと自分のことを俺、なんて言わないように気をつけないと。
 祐麒は口の中で小さく「私、私……」と呟きながら、階下の洗面所に向かうのだった。
 祐巳のことがあったので、まさか世界中の人間の性別が、自分の世界と逆転しているんじゃないかと怖いことを想像していたが、台所に立つ母は、祐麒の良く知る母さんと同じ人だった。
 良かった。アリスあたりならともかく、高田の女性版は見たくない。
 朝食をテーブルに並べる母さんにおはようと声をかけて、祐麒は洗面所に入る。
 顔を洗って歯を磨いて、髪の寝癖を梳かしつけて、タオルなどの小物が入っているタンスから髪留めゴムを取り出して、ちょっと停止。髪型はどうしようか。
 姉を真似てツインテールになるよう髪の毛を両手で持ち上げてみたが、あまりにも祐巳そのものだったので、やめる。結局、首の後ろをゴムでひとまとめに括っておとなしめのポニーテールにした。リボンもあったが、さすがにそれを使う気にはなれなかった。
 祐麒が洗面所から出ると、父、母、祐巳の三人が、そろって「おや?」という顔をした。
 どうやら、昨日までの祐希はツインテールだったようだ。
「高校生になったから、ちょっと変えてみようかなと思って」
 そう言い訳すると、なぜか三人の顔がふっと曇った。
 その反応に疑問を覚えたのは一瞬だけ。すぐに祐麒は理由に思い当たる。高校一年の四月と言うと、まだ野球の――祐希の場合はテニスの、か――ことを吹っ切れていない時期だ。そういう反応になるのもうなずける。
 祐麒は努めて明るい笑顔を作った。
「ほら、こっちの方が大人っぽいでしょ?」
「祐希の子だぬき顔で言われも、説得力がなあ」
 祐麒の軽口に最初に応えたのは、祐巳だった。性別や世界が変わっても、祐巳の良いところは少しも変わっていないらしい。
「祐巳、それは控えめに見ても自爆だと思うわ」
「二人ともそっくりだものなあ」
 童顔の母と、たぬき顔の父も続いた。
 食卓に明るい笑いが生まれる。二名ほど祐麒の知る風景とは性別が違うけれど、家族の空気は同じだった。
 祐麒は自分の席に座り、湯気を上げる朝食に手を合わせる。
「いただきまーす」
 こっちの世界でも、なんとかやっていけそうだ。
 そう思った。

<たぶんお釈迦様もよそみしてる・了>




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