養殖湖での悲惨な体験によって、レイフォンは水際がとても苦手になってしまった。
出来れば一生近寄りたくないと思ってしまうくらいには悲惨な体験だった。
とは言え、武芸者であるレイフォンが養殖湖に関わるなどという事態はそうそうあるわけでないのも事実。一安心である。
一安心したが、当然気を抜くことなど出来ようはずもなく、地道に剄の制御という重要課題へと挑むのだ。
青石錬金鋼の刀を復元し、ゆっくり慎重に剄を流し込み、そして出来うる限り細い衝剄を連続して放つ。
そう。イメージするのは本物の針。
出来うる限りにおいて細くしなやかに、そして乱れることなく剄で出来た針を作り出し続ける。
対象物はとても堅いが恐ろしく脆い。
ほんの僅かでも気を緩めてしまったらそこで全てが終わりだ。
ゆっくりと剄で出来た針を動かし、微妙な曲線を描く。
描くのは人の眉毛。
眉毛の一本一本を精密に繊細に、そして何よりも写実的に描く。
「暇なんだな」
「話しかけないで」
レイフォンの部屋に来て恐るべき本の山に果敢に挑んでいたウォリアスが、暇そうに声をかけてくるが、それに応えるだけで僅かな揺らぎが生まれてしまうくらいに繊細な作業なのだ。
レイフォンがここまで剄の制御に手こずることなど滅多にないのだが、相手が相手である以上しかたがない。
そう。レイフォンが必死の努力で描いているキャンパスは卵の殻。
メイシェンとミュンファがお菓子作りに使った卵を拝借して使っているのだが、満足行く作品に仕上げることが出来ていないのだ。
絵画の世界は奥が深いと言うべきなのか、それともキャンパスに致命的な問題が有るのか、どちらだろうか?
あるいは、レイフォンが剄を制御する能力がまだ足りていないのだろうか?
「奥が深い」
「お前の暇さ加減がそろそろ限界だな」
「・・・・。朝は忙しいんだよ。サヴァリスさんの相手で」
「そうかい」
本を読んでいれば満足してしまう怪生物であるウォリアスには理解できないだろうが、レイフォンはレイフォンなりに色々と大変なのである。
暫く前のように下着泥棒に間違われてしまうことだって有るのだ。
暇を持てあましているから卵の殻を使って剄の訓練をしているわけではないのだ。
「勉強をするという選択肢は存在していないのか?」
「ウォリアスが熱心だから僕はやらなくても良いかと思って」
「確かに僕はレイフォンの教育に熱心だけれど、それはレイフォンがきちんとやってくれなきゃ意味がないんだけどね」
「・・。努力してみるよ」
そう言いつつ、卵の殻を削る作業に戻るレイフォンだった。
サヴァリスが気まぐれを起こしてシャンテとゴルネオで遊んでいる今は、久しぶりに訪れた平穏なのだ。勉強をしたいとは思わない。
突き入れられた攻撃を何とか弾きつつ、左手に持った拳銃で零距離射撃を試みようとした瞬間、身体の回転を止めなかったニーナの回し蹴りが側頭部に迫っていることを認識した。
咄嗟に屈み込み、逃げ遅れた後ろ髪が何本か切り飛ばされるのを感じつつ、横へと高速移動して間合いを開く。
いや。間合いを開けようとした。
だが、そんな事をニーナが許してくれるはずもなく、シャーニッドが移動しただけの距離を移動して相変わらず目の前で双鉄鞭を振りかざしている。
その暴風のような破壊力と速度は今年度が始まった頃に比べて格段に大きく、何よりも鋭さをもって首筋へと迫る。
本来、これは明らかにシャーニッドが不利な状況だ。
接近戦専門のニーナと、遠距離からの狙撃が専門のシャーニッドが、相手の呼吸が分かる程の至近距離でそれぞれの武器を振り回している以上、勝ち目など有るはずがないのだ。
「ま、まったぁぁ」
たまりかねて中止を呼びかける。
これでもし、シャーニッドがなにやらいかがわしい事をしてしまっていたのがニーナにばれていたのならば、明らかに病院送りとなっただろうが、今回そんな凄惨な地獄絵図は回避され、首筋のすぐ側で鉄鞭は急停止する。
もう少し日頃の行いに気をつけていれば要らない緊張をする必要はなくなるのだが、それを止めることはシャーニッドの人生が変わることを意味するために断じて出来ない。
まあ、それは置いておくとしても、乱れきった呼吸を整えつつへたり込んだ状態から元気溌剌なニーナを見上げる。
アルフィス戦での指揮で何か思うところがあったのか、最近これほど激しい接近戦の訓練はなかったのだが、何かあったのだろうかという疑問と共にニーナを見上げる。
「もう少し粘ってもらわなければ、私の鍛錬にならないだろう」
「レイフォンとやってくれよ。俺は長距離支援担当なんだから」
普通に考えるのならば、鍛錬と言うからには当然のこと自分よりも強いレイフォンを相手にするはずだ。
だと言うのに相手に選ばれたのはシャーニッドである。
そこに何か作為を感じるのは気のせいだろうか?
「レイフォンは今日は使えん。何でも剄の訓練を一日かけてやるんだとか言っていた」
「あ、あいつが一日かけて剄の訓練?」
レイフォンと言えば、剄の総量は元より、その使い方一つに至るまで規格外の能力を持っている。
廃都市探索の際に見せつけられた、剄を使わない技量の凄まじさも手伝って、もはや無敵ではないかと思える程のレイフォンが、一日かけて剄の訓練をするなどという事実が恐ろしい。
明日になったら、どんな技を披露してくれるのか分からないという、芸人に対する期待半分の恐ろしさだが。
それはさておき、問題は目の前で元気溌剌にしているシャーニッドの隊長さんだ。
「ゴルネオ先輩ならサヴァリスさんとの訓練の最中、シャンテが移動販売のパン屋を追いかけて行方不明となったとかで、第五小隊総出で探している」
「ああ」
「ナルキは都市警の仕事でダルシェナはディンを病院送りにしてしまったとかで付き添っている」
「うう」
ディンがどんな理由で病院に送り込まれたかは聞いてはいけない。
もしかしたら武芸者的な理由かも知れないが、普通に考えて男女の仲的な原因であるはずだからだ。
そんな詮索はどうでも良いとしても、シャーニッドは誰か他の羊を探さなければならない。生け贄として差し出すために。
だが、ニーナが親しくしていて訓練に付き合ってくれそうな人達は他の用事で忙しいらしい。
つまりシャーニッドだけ。
いや。一人だけいる。
「シン隊長は」
「いや。あの人は来ると後が厄介だから」
「同意する」
ニーナに駄目出しを食らってしまったシンだが、その気持ちは十分に分かる。
この世に暗黒を振りまくための修行とか言い出されたら、さしものニーナだって引いてしまうだろう。
特に最近は、あちら側への傾倒が激しくなってしまっているから。
と言う事で。
「さあシャーニッド。もう一戦しようじゃないか」
「な、なあニーナ?」
「なんだ?」
いやが上にも張り切りまくるニーナに危機感を覚えたので強制的にその行動を中断させる。
残念なことに停止させることはおそらく出来ないのだが。
「もしかして、俺をストレスの解消に使ってないか?」
「そんな事はない!!」
断言しているはずだというのに、何故かそこに迫力はない。声は大きいのだが腹の底に響かない。
それはつまり。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「そ、そんな事はないぞ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「い、いや。ないと、おもうぞ」
沈黙で押してみると、突端に勢いが無くなってしまう。
それはつまり、回転数だけ速くて馬力がないと言う事。
「・・・。実を言うとな」
「なんだ?」
「私は指揮官には向いていないのではないかと、この頃そう考える時もあるのだ」
「・・・。あのなぁ」
へたり込んでいたシャーニッドだが、その場で更に脱力する。
よりにもよってニーナからこんな台詞が聞けるとは思いもよらなかった。
だが、これはある意味ニーナらしいと言えるかも知れない。
取り敢えず走り出してから考えるという、少し前のニーナの行動パターンからしたら納得の結果である。
そして、第十七小隊を立ち上げた頃はまさに走り出してから考えるニーナだったのだ。
「アルフィス戦で指揮を執ったのだが」
「シン隊長を指揮下に置いたアレな」
あのシンを指揮下に置いたのだ。
去年までのニーナの上司であり、自分の小隊を作りたいと抜けたにもかかわらず暖かく接してくれた、と言う事もあるだろうが、おそらく最近のシンの傾倒ぶりがニーナに負担をかけたのだろう。
何時何処で何をするか分からないという不安に苛まれたに違いない。
「指揮をしている時よりも、アルフィス武芸者と拳を交えていた時の方が遙かに生きていることを実感できた」
「まて」
その言い方は、レイフォンの元同僚の変態武芸者と何ら変わらない物のように思えて、慌てて中断させた。
そして一呼吸して思考を再開させる。
ニーナは戦闘が好きなのではなく身体を動かすことの方が性に合っているのだ。と、そう結論付ける。
と言うか、そう結論付けた。
「続きをどうぞ」
「うむ。結論だけ言うと私は指揮官には向いていないのではないかと言う事になるのだが」
「・・・・。成る程。説得力があるな」
ウォリアスのように極端に知識や思考に重心を置いている武芸者もいるし、レイフォンのように剄や身体を使うことしかできない武芸者もいる。
そしてニーナは、どちらかと言うと剄と身体を使いたい武芸者だと言うことになる。
そこを批判するつもりもないしその必要もないと思う。
失敗はあったが、最低限やるべき事はやって来ているのだから、それで十分だと思うからだ。
そして何よりも、ニーナはそんな自分を認識して対応しようと足掻いてるのだ。
とは言え。
「去年の内にそれを認識してくれていれば良かったというのは、欲をかきすぎているのかねぇ?」
「指揮官という物が大変だと言う事に心と身体が気付いたのは、アルフィス戦でのことだったからな」
「だよなぁ」
良くも悪くも、ウォリアスという変人がやってきたことでニーナは色々と変化を始めているのだと改めて認識する。
結成してしまった第十七小隊をどうするかとか、この先のことは色々と問題だが、ニーナの変化を見続けることはそれなりに楽しいことのように思う。
だが、現実という奴はシャーニッドの楽しみを奪ってしまうのだった。
「さてシャーニッド」
「・・・・・・。なあ、ニーナ」
「もう少し付き合ってくれ。せめて他の誰かの時間が出来るまで」
「・・・・・・・・・・。ハンデくれるか?」
「鉄鞭を片方使わないというところでどうだ?」
「それなら何とか」
最終的にシャーニッドは日暮れまでニーナに付き合うこととなるのだと確信した。
だが、レイフォンと同じように世の中はシャーニッドを不幸にするために存在するのではないかと、そう疑いたくなる事態がいきなりやってきた。
「もし良かったら」
「え?」
「げ!!」
とても清々しい声と共に、シャーニッドはすぐ後ろに人の気配を感じた。
レイフォンはこんな声はしていない。
そして、何時の間にかすぐ側にいて、声をかけられるまで気が付かないほどの達人である。
振り返らずともその正体は分かる。
這い寄る混沌。
突き進む戦闘狂。
忍び寄る恐怖。
もしくは、そこにある絶望。
あるいは、サヴァリス・クォルラフィン・ルッケンス。
「ゴルの奥さんが食べ物に吊られていなくなってしまってね。僕が探しても良いんだけれど、それじゃあ訓練にならないだろうと思ったんだけれどね。とても暇だったんだよ」
つまり、シャンテの居場所は分かっているが、探すという行為も修行だと認識したのだろう、サヴァリスは。
だからこそ、あえて手を出さずに見ているだけだったのだが、それでも暇であることはどうしようもない。
「そんな時に、近くでとても良い感じの剄の流れを感じたので来て、見ていたんだよ」
いつからという質問をしてはいけない。
それは恐らく無駄だから。
問題なのは、シャーニッドが生きて今日を終えることが出来るかどうかだ。
「二人掛かりでなら、僕の退屈を少しは潰してくれると信じているよ。でも手を抜いては駄目だよ? そんな事をしたら、間違って殺してしまいたくなるかも知れないからね」
それは、間違ってとは言わないが、そんな理屈はこの人外魔境には通用しない。
通用するのはただ一つ。
「行くぞシャーニッド!! こいつをここで止めなければ我々人類に未来はない!!」
「どんな未来だよ!! むしろ俺達の明日だ!!」
全身全霊。死力を尽くして満足して頂いて、お帰り頂く。
それ以外に出来ることなど存在していないのだ。
地獄が始まった。
最近にしては珍しいことだが、これでもかと降り注ぐ日差しを浴びつつリーリンは歩いていた。
別段外出するなら夜中と決めている訳ではないが、それでも最近は何故か日の当たるところへ出ることが少なくなっていた。単純に授業の都合で夕方になってからしか買い物に出なかっただけだが。
一緒に歩いているのはメイシェンとミィフィだ。
一時期メイシェンにどう接して良いか分からなかった時期もあったのだが、その頃はツェルニ中が異常事態だったためにそんな事もあったという程度の認識で終わってしまっていた。
本来ならばリーリンは自分と向き合ってメイシェンとの接し方を決めなければならないのだろうが、喋る汚染獣が出てきた辺りでそんな事はどうでも良くなってしまった。
今をきちんと生きることの方がより重要だと、そう考えたからだ。
それはメイシェンも同じようで、出来うる限り以前の通りに接しようと努力していることが伺える。とてもぎこちないが努力していることは十分に分かるので気が付かないふりをしている。
実を言うと、それ以上にリーリンは自分が変わってしまっていることに気が付いていた。
今も、周り中に顔だけの連中が歩き回っているのに、リーリン以外は誰も気が付いていないことなどが象徴的だろう。
いや。顔だけだから歩き回れないのだが、取り敢えず自立的に移動しているのだ。
「あれって、なんだっけ?」
「どれ?」
そんな緊迫していれば良いのか悪いのか分からない空気を動かしたのは、当然のことミィフィだ。
何か恨み節を呟きつつ眼球になって消えて行く顔達から視線を動かし、ミィフィの差している辺りを見詰める。
そこに見えたのは、タワーリング・インフェルノ。
まさに聳え立つ地獄。
隣を歩くメイシェンの鼓動が一気に速く激しくなったのが分かった。
それはリーリンも同じだ。
「にひひひひひ」
そしてミィフィは既に全力疾走状態である。
レイフォンの無様な姿を紙面に載せるための策謀であることは分かっているが、それが分かっていたとしても止まることなど出来るはずはない。
そう。そこには聳え立つ地獄があるのだ。
高さ五十メートルはあろうかというその地獄へと、足を向ける。
いや。その前にやることがある。
「レイとんなら、今日は一日部屋で剄の訓練だって」
「なんて不健康なことを!!」
「そうだよ! 外で遊ばないと駄目だよ!!」
その前にレイフォンを連れ出さなければならない。
メイシェンと二人、心を合わせレイフォンを絶叫マシーンへと誘わなければならない事実の前には、口実などどうとでもなる。
ならばもうやるしかない。
頷き一つ交わして、レイフォンが訓練しているはずの部屋へと移動するのだった。
メイシェンとリーリンをそそのかしてレイフォンを犠牲の羊にしようとしていたのだが、その計画は脆くも崩れ去ってしまった。
「いない?」
そう。当のレイフォンがいないのだ。
これでは全ての計画が台無しである。
「さっき、お棺が走っているとか言って出て行った」
レイフォンの部屋にいたのはグレンダンからの凶暴な使者でもなく、幸せに浸りきっている読書愛好家だった。
その細い眼を限界まで細くしてハードカバーの本を延々と読み続けている姿は、とても幸せそうに見えるが、とてつもなく不健康に見える。
それ以上に、お棺が走っているという表現自体に問題が有ると思うのだが、ウォリアスはそんな事は気にしないのだろう。
レイフォンが逃げるための口実であることは理解しているようだから。
そして、自分が犠牲の羊になることは全く考慮していないようだから。
ならば話は簡単である。
「仕方が無い。ウッチンよ」
「うん? 最近出来たタワーリング・インフェルノ?」
「・・・・・。平気な人?」
「愛好家って事はないけれど、割と平気な人」
「っち」
残念である。
せめてウォリアスの情けない姿を見たかったのだが、それさえも無理であることがはっきりとしてしまった。
仕方が無いと目的の一つは諦めることとする。
そう。目的は二つ。
二つ目となる目的こそが実は主である。
何故か不明だが、最近リーリンの様子がおかしいのだ。
どことなく印象が変わったことは、多くの人が認めるところだろうが、実は他にも変わったところがある。
時々ではあるのだが、リーリンの視線が険しくなる。それも何故か右目だけ。
原因はなんだろうかとずっと考えていたのだが、全く思い付かなかった。レイフォン絡みという訳でもなさそうだった。
そして今日はっきりしたのだが、右目が険しくなる時リーリンは辺りを睨んでいるのだ。
それはもう、ゴキブリに包囲されていたらこんな顔をするだろうという程に凄まじく嫌悪に満ちた表情で。
それを認識したからこそミィフィはあの場所で話題を持ち出したのだ。
せめて、一時しのぎだったとしてもリーリンの注意を見えないゴキブリの大群からそらすために。
その目論見は成功を収め、ずいぶんと何時ものリーリンに戻っている。
「最近レイフォンの奴付き合い悪いわよね?」
「遊びに行こうって言うと何故か逃げるよね」
メイシェンとリーリンの会話を聞きつつ思う。
絶叫マシーンが苦手な人間を散々連れ回しているのだから、苦手に思われるようになるのは当然なのだと。
思わずレイフォンに同情してしまうが、もしかしたらと想像の翼をはためかせて遙か遠くへと旅立つ。
絶叫マシーンが原因で、メイシェンとレイフォンが破局に突き進むのではないかと。
そうなると誰が得をするだろうかとも考える。
同じ絶叫マシーン愛好家のリーリンではない。
絶叫マシーンなどという恐怖の大王とは縁もゆかりもない人物であるはずだ。
そこまで考えた時、両肩に何か暖かい物が触れていることを認識した。
いや。暖かくない。むしろ冷たい。
身の毛がよだち背筋が凍り魂が凍てつき、身体が全く言うことを効かない程に冷たい。
「え、えっと?」
言うことを効かない身体に鞭打ち、そしてミィフィを凍り付かせている何かを探るために首を回す。
実際には探る必要などないのだ。
この部屋には四人しかいない。
だが、それでもそれを見ようとしてしまったのは、ある意味恐い物見たさだったのかも知れない。
そしてそれは見えた。
「もしかして、私を誘っていたりしますか?」
「一緒に逝こう」
「きっと楽しいよ」
絶叫マシーン愛好家である二人の少女の手が、自分の肩におかれているという事実を前に何をどうすれば良いのだろうか?
何かをどうにか出来るはずなど無い。
迫り来る、恐怖の大王の前に骨までしゃぶり尽くされて、塵さえ残らないだろう。
それこそがミィフィの運命である。
「逝ってらっしゃい。僕は本を読むので忙しいからね」
「ううっちんよぉぉ」
「明日学校で会おうね」
「うっちぃぃぃぃぃぃん」
ここに用はないとばかりに、力強く引きずられる自分の身体を認識しつつミィフィはウォリアスに助けを求めたが、なんの役にも立たないことは分かりきっていた。
そう。ミィフィこそが二人の前へと差し出された生け贄なのだと。
最近、ウォリアスに関わると自爆することが多いと気が付いたが、既に後の祭りである。