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No.1403の一覧
[0] ファミリー・パーティー ~家族の絆~[ボルト](2006/05/26 04:45)
[1] ファミリー・パーティー ~家族の絆~ 第一話[ボルト](2006/05/28 21:17)
[2] ファミリー・パーティー ~家族の絆~ 第二話[ボルト](2006/05/28 21:10)
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[1403] ファミリー・パーティー ~家族の絆~
Name: ボルト 次を表示する
Date: 2006/05/26 04:45
 それは数多ある物語の一つの始まり。




 ■ ファミリー・パーティー ~家族の絆~




 プロローグ


 ◇
 ソレは見ていた。

 深い深い大海の底よりもさらに暗い暗黒の闇。

 ソレは身じろぐこともせず、その絶対暗黒の中で黙ってその光景を見ていた。

 ソレが見ていたのは一つの惑星だった。より正確には星の骸とでも呼ぶべきものだ。

 まだかろうじて惑星としての形は残していたが、しかしそれは遠目から見てのものだ。いまこの星の中心核は活動を最大限にまで活性化させ、惑星表面には大気圏外からでもはっきりと確認できるほど巨大なひび割れが発生し、まるで血のような紅の筋がいくつも覆っている。

 かつては多くの生命が住んでいたであろうその星はゆっくりとしかし確実に崩壊の道を歩んでいた。

 ソレは星の周囲も見てみる。

 その惑星の軌道上には無数の機械の破片が散らばっている。かつてはこの星に近づく存在をことごとく破壊し防衛していのであろうそれらの機械郡は、しかしいまは活動を停止していた。

 戦禍という名の傷痕。強大な力を持つもの同士の闘争の結果がこの星を死に至らしめた原因だった。

 ソレは身じろぐこともせず、その絶対暗黒の中で黙ってその光景を見ている。
 ただ黙ってその光景を見ている。

 その戦禍を引き起こした原因である己自身の記憶に刻み付けるかのように。


 ソレは暗黒のなかを漂っている。
暗黒の名は宇宙。ソレは宇宙の広大な深淵の闇の中、黙したまま微動だにしない。

 『――――――』

 ソレの周囲には異形の生物が無数に浮かんでいた。
その異形は巨大だった。それらはいずれも、並みの小惑星を上回る巨体と数多の生命を刈り取る凶悪な能力を有した生物だった。

 しかしその異形のどれもが既に活動を停止していた。ある者は胴体を、またある者は頭をさらにある者は身体の半分以上を吹き飛ばされた状態で息絶えていた。




 ソレの体内時間で十数時間前。ソレは耐え難い虚無のうちにいた。

 ソレはとある星で戦うための存在として生み出された。己の体内時間で約二百周期前(年に換算するとおよそ五千年ほど前)のことだ。
 ソレはその星に迫る脅威を殲滅するために生み出され、しかしソレが活動を開始するほんの少し前にその星はなくなった。
 ソレは己の故郷たる星が崩壊したとき、たまたま別の宙域にいたため無事だった。しかしその星の生き残りは誰もいなかった。

 ソレは不完全な己の巨体を自ら構築し始め、己の存在意義を正しく理解せぬままに宇宙を放浪し始めた。

 そして永劫なる過去に果て無き虚空を放浪し始めたソレは、しかし力を持ち過ぎた己を律することすら出来ずにこれまで幾つもの生命を刈り取っていた。

 ある時は星々の狭間に巣くう異形の生物たちを、またある時は知恵ある生命体の作り出した鋼の巨影をただ己の狂気のままに刈り取っていった。

 その狂気はいつしかソレのうちに虚無を抱かせ、それを満たす為、さらなる闘争へと駆りださせた。

 ソレはその闘争のいずれにも勝利し、しかしいずれもソレの虚無を満たすことはなかった。

 ソレは永劫の時間のなかで戦い続けた。その内なる虚無を満たすためだけに戦い続けていた。

 そんな虚無のなかで、ソレはまた己の新たな獲物を見つけたのだ。

 力を持つもの同士の出会いはただただ闘争の始まりでしかない。それは幾つもの時を経たソレにとっては必然のことであった。

 そして闘争が始まった。


 幾重にも束ね重ねられて、連続して行なわれる攻撃の応酬。

 恒星と同レベルの光量とエネルギー密度を持った砲撃。

 近づくだけで小惑星を砕いて余りある凄まじいまでの衝撃波。

 凄まじい戦闘だったが、しかしソレにとっては幾つもの時を経ても変わり映えすることのない光景。
 己が虚無を満たす為の闘争。

 それだけだった。

 それだけの……はずだった。




 『――――――!!』

 ソレが気づいた時には既に手遅れであった。

 ソレの放った一撃は獲物の存在した空間を薙ぎ払い消滅させ、しかしそれだけでは終わらずそのまま直線状にあった惑星を貫いたのだ。

 それだけならソレはあそこまで動揺することもなかっただろう。

 似たようなことはこれまでもあった。たまたま己の砲撃が当たってしまったこともあれば、最初から狙って攻撃したこともあった。
 しかし、今までのそれはあくまで生命の住まわぬ荒々とし生命なき星であった。

 しかし、そこは生命の住まう星。

 そして………聞いてしまった。その星の生命たちの上げる声なき声を。身勝手で理不尽な終焉に対する本質的、根本的な悲鳴。

 怨嗟の声はなかった。ソレを憎むような間はなかっただろう。ソレの一撃は星を貫くのみならず星に住まう生命をほぼ一瞬で消滅させたのだから。

 しかし確かに聞えていた。聞えてしまったのだ。その星の生命たちが上げる断末魔の悲鳴を。

 その日ソレは己が永き生のなかで、初めて無抵抗なものの命を刈り取りとってしまったのだ。


 ソレは闘争を終えた後もその場から中々離れられないでいた。

 これまでの虚無とは違う虚脱感。

 ソレは理解できなかった。こんなことはソレのこれまでの生のなかで感じたことのない類のものだったから。

 死に逝く惑星を遠目から眺めるような距離を保ったまま、虚脱感に任せたままぼんやりと漂っていた。

 身じろぐこともせず、その絶対暗黒の中で黙ってその光景を見ている。
 ただ黙ってその光景を見ている。


 そんな時だった。それを見つけたのは。

 ソレの精密過ぎる目と耳は確かにそれを捕らえていた。

 それは曲線、曲面を多用した白くて小さなカプセル。

 ソレは己でも訳の分からぬままに、そのカプセルに近づいてみた。

 カプセルの中からは非常に微弱ながら鼓動の音と熱源を感じられた。

 ソレはさらにカプセルに近づいていった。

 ゆっくりゆっくりと、己の巨体をぶつけてしまわぬように、近づく際にその衝撃を少したりとも与えてしまわぬように、細心の注意を払いながら。

 やがてカプセルに辿り着いた。

 その小さな白いカプセルの中に居たのは、小さなとても小さな双子であった。

 ソレは己の記憶層と情報層を照らし合わせ、それがこの惑星で生活していた生命体の雌性幼生体であろうと推測した。

 何故このようなところにカプセルが放置されているのかは分からない。あの星から脱出して来たものなのか、それともなにか別のなにかからか……。

 しかし。

 何かの衝動にでも駆られたのか、罪滅ぼしのためだったのか、ちょっとした気まぐれだったのか、それとも単純に何も考えていなかっただけか。ソレは憶えていない。

 憶えていないが、気づけばソレはカプセルを己の内に回収し彼女たちを保護していた。




 彼女たちを回収・保護してから後は、ソレにとってはまた別の意味で闘争の日々の始まりであった。

 まずソレは生命の育て方など知らなかった。
 より正確にはソレの内にもっていた情報層の中には幾つか関連しそうなものはあった。しかしそれらはソレのかつての故郷の生命体の情報であり、あの惑星の住人とは色々と形態が異なっていた。それでは意味がない。

 それでもなんとかその双子の口にあう食物を己に内包したプラントで生成し、これまで一度たりとも使ったこともない情報(あの後崩壊した惑星の周囲に散らばった機械群から、彼女たちの種の生命体の各情報を入手していた)を駆使して双子たちを世話していった。

 この生命体は成長するのが遅すぎる。なんと不完全で脆弱な生命体だ――ソレは最初そんなことを考えていた。
 しかし双子をどうこうしてしまおうなどとは、一片たりとも思わなかった。

 ある時は彼女たちが泣き止むまで色々な話をしてみた。
 またある時は彼女たちに様々な知識を学習させてみた。

 ある時は彼女たちの喧嘩を仲裁してみた。
 またある時は彼女たちの些細な疑問に答えてみた。

 ソレは双子の行動を一つたりとも逃がすまいと観測していた。
そしてソレはある時ふっと気づく、己の内なる虚無がいつしか満たされていることに。


 ソレと双子の姉妹との奇妙な共同生活がソレの体内時間で8年ほどたったある日のことだった。

 双子は、彼女たちを最初にカプセルから己の体内に移したあの日から少しだけ成長していた。
 背はあの頃よりずっと高くなり、思考能力や身体能力などの各種能力も伸びた。その行動範囲もソレの限られた区画とはいえ驚くほど広くなっていた。

 何より彼女たちは行動的だった。

 だからソレは見逃してしまったのだ。
 双子たちの好奇心からなるその行動を。


 ソレがふと気づけば双子たちはソレの中枢部分に来ていた。そして、見てしまっていたのだ。ソレの記憶を。
 ソレがこの宇宙に生まれ出でた時の記憶。宇宙を放浪していた時の記憶。闘争に闘争を重ねた日々の記憶。そして、彼女たちの星を滅ぼしてしまったときの記憶。

 それは彼女たちが知らないソレの姿。

 彼女たちは呆然としていた。

 そしてソレはそんな双子の姿を見て、いつしか彼女たちにあの日、あの時にあった出来事を己の言葉で説明していた。




 彼女たちは様々な感情を浮かばせた表情で立ち尽くしてる。怒りなのか悲しみなのかそれとも憎しみか、はたまた別の感情かはソレに判別は付けられなかった。

 どちらにせよソレは、

 当然だろう――とわりと冷静にそんなことを考えていた。 
 しかしそれは事実なのだ――と。

 そしてソレはこう言った。

 憎いか?――と。
 復讐したいか?――と。


 ここは双子たちで言うところの脳と心臓を兼ねた部分で、ここを破壊されれば例えこの幼子たちであっても己を殺すことが出来るのだ、と。

 ソレは罰せられるつもりだった。
 ソレは罪をあがなうつもりだった。
 ソレは彼女たちに断罪してほしかったのだ。

 彼女たちとの生活のなかでいつしか満たされていった虚無。
 その喜びだけ秘めたままに、ソレは己の滅びをもってして彼女たちに償いをしようとしていた。


 彼女たちはまだ呆然としていたが、しかし双子は互いに顔を見合わせて、その後ソレに向けてこう言った、


 ―――わたしたちはあなたを殺したりなんかしないよ。あなたの記憶を見て、あなたは本当はあの星を、わたしたちの故郷を滅ぼしたりなんてしたくなかったのがわかるもの―――と。

 ソレは愕然とした。驚愕とした。何故だと思った。
 納得できなかった。


 ―――だってあなたは私たちに色々なことを教えてくれたもの!わたしたちをずっと育ててくれたもの!一緒にずっと生活してきたもの!無口で不器用で自分勝手だけど、わたしたちはあなたが優しいって知ってるもの!あなたは、あなたはわたしたちのお父さんだもの!!―――


 彼女たちは――双子は己の本当の両親と故郷を、自らの本意ではなかったにせよ滅ぼしてしまったソレを許し、受け入れてくれた。父と呼んでくれた―――!

 ソレの内をこれまで味わったもの以上の喜びが駆け巡った。




 そうしてその日からソレは……ワレは本当の意味で1人ではなくなった。本当の意味での家族が出来た。

 ワレの名は『ジルヴァデール=ファルダム』。

 戦うためだけにこの世に生れ落ち、その内に持ち過ぎた強大な力による虚無を抱え、しかしいまや守るべき者、愛しき家族を得た存在。

 元・自律生体殲滅艦にして現・自律生体戦闘輸送艦『ジルヴァデール=ファルダム』。それが、ワレの名だ。






 突発的に思いついたネタを投稿したなので続くかどうかは不明です(タイトルも大分適当ですし)。
 わりと平凡な彼~を優先して書いていくつもりなので、続きを投稿するにしても遅いかもしれません。
 途中の文章がおかしかったりするのですが、なるべく見逃してください(ぉ)誤字脱字などがあれば教えてくれると幸いです。
 それでは。


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