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No.14013の一覧
[0] 封じられた鞘(ネギま!×FATE、TSあり)  喪失懐古/八改訂[大和守](2010/09/08 09:15)
[1] prologue[大和守](2009/12/18 13:29)
[2] 封鞘墜臨 / 一[大和守](2009/12/18 13:30)
[3] 封鞘墜臨 / 二[大和守](2009/12/18 13:30)
[4] 封鞘墜臨 / 三[大和守](2009/12/18 13:32)
[5] 封鞘墜臨 / 四[大和守](2009/12/18 13:35)
[6] 封鞘墜臨 / 五[大和守](2010/02/12 14:11)
[7] 封鞘墜臨 / 六[大和守](2009/12/18 13:38)
[8] 封鞘墜臨 / 七[大和守](2009/12/18 13:38)
[9] 封鞘墜臨 / 八[大和守](2009/12/18 13:39)
[10] 喪失懐古 / 一[大和守](2010/01/18 15:48)
[11] 喪失懐古 / ニ[大和守](2010/01/19 17:10)
[12] 喪失懐古 / 三[大和守](2010/02/02 12:51)
[13] 喪失懐古 / 四[大和守](2010/02/12 16:53)
[14] 喪失懐古 / 五[大和守](2010/03/05 12:12)
[15] 喪失懐古 / 六[大和守](2010/03/26 11:14)
[16] 喪失懐古 / 七[大和守](2010/08/04 06:49)
[17] 喪失懐古 / 八[大和守](2010/09/08 07:49)
[18] 閑話 / 小話集・1[大和守](2010/09/06 18:19)
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[14013] 封鞘墜臨 / 三
Name: 大和守◆4fd55422 ID:fb470a4e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/12/18 13:32



 ――――死徒、と呼ばれる怪異が在る。
 吸血行為を行う吸血種において大多数を占める“吸血鬼”である。
 ヒトという種として死に、新生した彼らの肉体は常に崩壊に向かっており、その崩壊を抑制し、自らを保持する為に彼らは人間から吸血する。自己能力の強化。自己意思の強化。吸血行為を止めない限り、仮初の不老不死を得られる人外。ソレが、俗に言う吸血鬼である。
 その過程において己の血を人間(エモノ)に送り込むと、その相手は死にきれずに“残って”しまう事がある。常人ならばそれでもやがて朽ち果てるが、肉体的なポテンシャルと魂のキャパシティに優れた者は稀に現世に留まる事がある。
 後、その“優れた者”は食屍鬼(グール)となり、死体を喰い漁り肉体を再生させてゾンビとなり、“親”の意の元に“親”に代わって吸血しながら自己を少しずつ取り戻し、やがては己のみの下僕を作り上げて“親”の支配を脱し死徒(吸血鬼)となる。
 放置すれば鼠算式に増殖する、ヒトを餌とする怪異。

 だがその正体は―――極論、単なる「動く死体(リビングデッド)」でしかない。



 故に。魔術使いは躊躇わない。


 封鞘墜臨 / 三


 吸血鬼が女生徒(エモノ)に牙を突き立てようとした瞬間に放った一撃は、相手の意識をこちらへ振り向かせる為のものだ。
 まずは人質を救出する。
 犠牲者を増やさずに確実に滅ぼす。
 絶殺の意を固めて人外の前に姿を晒す。
 ―――そう。姿形が如何に幼い少女のモノであろうと、敵は「人非ざるリビングデッド」。
 魔力は未だ万全に程遠いが、窮地に晒される救うべき人を見捨てる選択肢など魔術使いには存在しない。

 意識の撃鉄が打ち落とされる。
 始動する魔術回路。呼び起こされる戦闘思考。
 ここに。
 最強の魔術使いが覚醒する――――



「――――貴様、件の侵入者――――」
 吸血鬼――エヴァンジェリンには、自分に通告無く挑む“無謀な真似”をしてきた相手に見覚えがあった。この数日、学園都市を警戒態勢に移行させ、自身にも余計な仕事を回し、あまつさえ自身の計画に支障をきたさせる元凶。すなわち、世界樹の魔力を用いた転移魔法による侵入者だ。
 一方、魔術使いにそんな記憶は無い。加えて、エヴァンジェリンの言葉は呼び掛けではなく呟きに近いものだった。だから魔術使いは眼前の光景――「吸血鬼が一般人を襲っている」事実にのみ意識を向けて口を開く。

「………そこまでだ。その娘を放して失せろ。今ならまだ後は追わない」

 完全な命令口調だった。無論そんな命令を大人しく聞く吸血鬼ではない。

「ハッ、この真祖の吸血鬼に対してよくもそんな口が聞けたものだな、人間風情が。
 貴様こそ引き下がるなら今のうちだぞ? 私の手が塞がっている内は見逃してやる」

 投げ返された侮蔑に、魔術使いの眼が鋭く細められる。
 魔術使いの思考など、エヴァンジェリンには分からない。
 たった今、自身が吐いた台詞が自身をどれ程“追い詰めるか”など。


 この時点で両者の差を問うならば、まず互いへの認識の差異が挙げられる。

 エヴァンジェリンは魔術使いを「何処ぞの魔法使いの従者くずれ」程度としか認識していなかった。
 当然である。こうして相対している今、この瞬間にすら、眼前の「命知らず」からは微塵も魔力が“感じられない”のだから。
 先程の攻撃もアーティファクトによる物だろう、と単純な結論を出している。エヴァンジェリンは視認する事が出来なかったが、より精巧な視認解析能力を持つ自身の従者より念話を介して「先の攻撃は物質―――直剣の投擲である」と回答を得ている。自然干渉からなる攻性魔法であるのならより多少は警戒を持ったかも知れないが、主もおらずその恩恵に預かれない「従者崩れ」に出来る事など高が知れている。

 通常ならば、その思考に間違いはないだろう。だがエヴァンジェリンが対しているのは、その思考が間違いとなる「天敵」だった事を、彼女は決着がついた後に痛感する事になる。


 魔術使いは無手に無形、エヴァンジェリンは纏うボロ布の陰で魔法薬を構え、従者の茶々丸は女生徒をゆっくりと横たえる。その手が女生徒から離れたと同時、魔術使いが動いた。
 両手を握り、両腕を広げて胸を反らす。
 一瞬の予備動作の直後に、大きく前方に一歩。
 鋭く、力強い踏み込み。
 同時に、上半身を前傾させながら鳥の羽ばたきの様に両手を振るい、胸の前まで交差させて―――左右に三つ、合計六の銀光を射出する。
 狙いは直線、言うまでも無く吸血鬼。飛来するのは先と同じ直剣。鋭く長い刀身、片手持ち用の細く短い柄。外見、驚異的な武装ではない。だが、外見で判断できないのがアーティファクトである。立ち塞がる自動人形。―――右の腕で二。左で二。さらに右足を振るい一本を弾き飛ばす。残る一本は茶々丸の軸足に阻まれ、従者を飾るゴスロリのメイド服に破れ目を作り弾かれた。
「―――いい度胸だ、人間如きが――――!!」
 吼えた幼体の吸血鬼が魔法薬を投げ飛ばす。互いに衝突し、割れるフラスコと試験管。空中で中の魔法薬が混ざり、反応するのと同時に魔法詠唱を完成させる。
「――氷の精霊7頭(ウンデキム・スピリトゥス・グラキアーレス)、集い来たりて敵を切り裂け(コエウンテース・イニミクム・コンキダント)――魔法の射手(サギタ・マギカ)・連弾(セリエス)・氷の7矢(グラキアーリス)!!」
 魔法薬が爆ぜる。生み出された七つの弾丸は、曲線を描きながら魔術使いに殺到する。
 無論、甘んじて受ける魔術使いではない。極端な前傾―――投擲姿勢を直すより先に、全身を鋭く右に回転させる。再度前を向く、その直前に急静止。身体を開きながら、右腕だけを慣性に任せて振り抜き―――三本の直剣を射出。さらにぐるりと左に半回転、反った背に任せて振り上げた左腕を袈裟懸けに振り抜きさらに三本。秒間、僅かな時間差で撃ち出して敵を留め、そのまま回転を殺さず、独楽の様に回り、さらに剣弾を撃ちつつ右へ動く。
 驚愕すべきは、その回転速度。誰が予測しよう、エヴァンジェリンの放った魔弾、その七つを相殺しながら茶々丸をもその場に釘付けるとは―――!
「ち――――!!」
 数の制限が無い武器系アーティファクトか、と臍を噛む吸血鬼。
 相手は距離を置き、こちらを中心として円を描くように動きながら、飽きる事無く同じ剣を立て続けに投げ込んでくる。その威力が軽視できないレベルである事は、茶々丸が防戦一方になっている事からも明白だ。ただ単に武器を投げるだけで茶々丸に損傷を与えられはしない。ならば―――全力で防御しなければ破壊されるのは自分の方だ、と茶々丸が判断したのだ。それでも辛うじて立ち位置をずらし、エヴァンジェリンを庇い続けられるのは従者としての面目躍如、と言えるだろう。
 ならば、とエヴァンジェリンは次の魔法薬を投げつける。
 警戒したのか、互いに衝突する前に相手の投剣が試験管を破壊した。
 飛び散る魔法薬。触媒として機能させるタイミングがズレてしまえば、上手く魔法が発動しても威力・効果の減衰は否めない。それを狙った破砕である。
 賞賛に値する。その破壊はエヴァンジェリンが試験管を投げた、まさしく直後のものだった。余程の観察眼と反射神経が無ければ成し得まい。
 だがエヴァンジェリンは、そのタイミングに合わせて詠唱を完遂させる!
「――氷結(フリーゲランス)・武装解除(エクサルマティオー)!!」
「―――ッ!!」
 瞬間。魔術使いを襲う寒波が、その身に装う病院着を凍らせ、粉々に砕いた。
 だがその上に羽織った真紅の外套は別である。最高位の対魔法防御能力を持つ外套は、その袖口や裾、襟元など所々に少々の氷塊を作る程度でエヴァンジェリンの魔法を弾いた。
 だがそれで充分、とエヴァンジェリンは口端を吊り上げる。外套の中が氷結し砕けた瞬間を確かに確認した。つまり、武装解除の魔法は外套の内側まで及んだのだ。それは、相手のアーティファクトを供給しているであろう、“契約の証”もその手元から離れた事を示唆する現象だ。事実、その手元に握り込まれていた直剣が三本、ヤツの後方へ吹き飛んでいる―――!!
 ザマを見ろ、行くぞ茶々丸――――そう、獰猛な笑みと共に一気に攻勢に転じようと口を開き、
「―――――!!!!」
 ―――眼前に迫った必死の剣弾を、恒常障壁と首を反らす回避によって辛うじて凌いだ。
 眼を剥くエヴァンジェリンの視界に、さらに飛来する投剣を慌てて自分の前に陣取り防御する従者の姿。
「バカな!? 武装解除は成功した、ヤツのアーティファクトは吹っ飛んだハズだ! 何故まだ―――!?」
「危ない、マスター! 下がって―――!!」
 茶々丸には全て言い終える余裕もない。一秒毎、いや一投毎に投擲の威力が増している。
 茶々丸の防御は飛来する刀身の腹を打ち弾き飛ばすものだ。そうでなければ自分(こちら)が持たない。刃に触れては切られるだけだ。一撃目の様な、身体を張った防御など愚の骨頂。今やれば確実に“蜂の巣”にされてしまう。
 最初の認識とは真逆、今やエヴァンジェリン主従にとって魔術使いは明確な“脅威”となっていた。



(――――真祖を謳う以上、それなりの異能を持つ可能性もあるが)

 やはり虚勢なのか、と魔術使いは冷静に“死徒の主従を”観察する。
 真祖とは、極端に言えば“受肉した精霊”だ。
 死徒が生み出された原因であり、その死徒を狩る抑止力。
 受肉し、そのカタチはヒトに近しいとはいえ、その本質は“星の代弁者”であり、同時に人間を管理する、超越種の頂点に立つ存在。
 今は「白い姫君」しか有り得ない種――――その名を騙る死徒。

(そちらを知り、自動人形(オートマタ)を操る以上、「魔術師上がり」か、とも思ったが)

 死徒となれば、仮初にでも不老不死を得られる。
 その不老不死を求めて死徒と成る事を目論む魔術師も在る―――自らの目指す魔術の極みへ至る為に、目的の為に自己を捨て去るモノタチならば、あるいは。
 だがその可能性は低そうだ、と魔術使いは観た。瞬間契約に近い複数小節の口頭詠唱、触媒を用いた秘術の行使。その威力が、直剣の投擲だけで相殺できるレベルなのだから。
 魔術を極め、その結果として不老不死へと成り上(さ)がろうとする魔術師はまず例外無く最高位だと断言できる。そして、相手はその足元にも及ばぬレベルだ。

(だが油断も出来ない―――この状況では)

 魔術使いが最も警戒しているのが、死徒特有の身体能力の高さである。
 人間の身体は、そのスペックを十全に発揮できる造りにはなっていない。
 常人ではそのフルスペックのせいぜい三割程度―――だが、その性能は死徒に成った途端に跳ね上がる。
 繰り返すが、死徒とは「動く死体」である。
 生きている身体がその性能を制限するのは、脳がそれ以上の運動能力を許さない為である。脳に組まれたリミッターは、余程の窮地に陥らない限り外れない―――火事場の馬鹿力というのがそれだ。それは、それ以上の運動の反動によって身体を壊しかねない為である。
 だが、そのリミッターは死徒には機能する意味がない。
 何故なら、崩壊したところで吸血すれば復元出来るからだ。その上、元々死徒の肉体は常に崩壊し続けている。そんな機能(もの)を働かせ続けても邪魔にしかならないのだ。

(近接では敗北する―――確実に)

 つまり、死徒と接近戦を演じる為には、最低でも人間の三倍以上ある基本能力差を埋める手段が求められる。ソレは例えば武術であり、例えば魔術であり、例えば戦術である。
 そして今。魔術使いに、その性能差を埋められるだけの手段は無い、と魔術使い自身は判断している。

(だが、ならば―――)

 だから魔術使いは接近せず、中距離から機関砲の如く直剣の投擲を続けている。
 しかし、現状も芳しくは無い。ただでさえなけなしの魔力を、まるで湯水の如く投げ放っているだけである。つまり膠着状態。魔術使いにとって、最も好ましくない状況である。

(ともかく、どちらかだけでも)

 分かっていた事だが、切れる手札は少ない。その中で最良の手を探る。一手でも打ち間違えば勝機は無い。だが―――そんな苦境は数多とあった。そして、その度に潜り抜けてきた。

(今までと大差は無い―――そう、この体は――――)

 鉄の意志を鋼のソレへと昇華する。
 睨む先に、更なる一手を打って来る吸血鬼。



 不可解すぎる。
 魔力を感じられない敵。武装解除しても続く攻撃。防御に手一杯の従者。自らが陥っているこの窮地。
 現状の全てが不可解だ。
 それでも、今はこの窮地を切り抜けなければならない。状況の正確な把握よりも優先すべきはこの死地より活路を見出す事―――頭の中、胸の内をぐちゃぐちゃに引っ掻き回される全てにフタをし、全神経を数メートル先から剣を投げつけまくってくれる正体不明の難敵に向ける。
「茶々丸―――不本意だが後退するぞ。ヤツ相手にこうも開けた場所では不利は否めん」
「――――ッ、……! っ~~~、――――了解(イエス)、マスター―――」
 いつもであれば間髪入れずに返る独特の声が聞こえるまで数瞬を要した事に、エヴァンジェリンは苦々しい思いを禁じえなかった。これが、もし近接戦であれば選択肢はまだあった。エヴァンジェリンの百年来という膨大な研鑽を下地とする合気柔術と、茶々丸の自動人形(オートマタ)故に可能な格闘術。両者による波状攻撃ならば、あるいはヤツを制圧する事も可能かもしれない。が、その為にはヤツに接近しなくてはならず、その為にはヤツの連続投擲を止めなくては不可能に近い。
 くそ、魔力さえ回復していれば―――そんな不毛な思考まで頭を掠める。先程の“魔法の射手(サギタ・マギカ)”、“武装解除(エクサルマティオー)”は共に今のエヴァンジェリンに許された精一杯の遠距離攻撃手段である。他の魔法も、使えない事は無い。が、その為に必要な魔力量、詠唱時間が多く長すぎる上、あれ程の速度と正確さで“魔法の射手(サギタ・マギカ)”を撃ち落とした相手にそんな膨大な隙を晒した上で魔法を当てられると考えるほどエヴァンジェリンは楽観的ではない。第一、ああも素早く触媒の魔法薬を撃ち落とされては打つ手が無い。
 魔法には頼れない。相手に接近出来ない以上、近接戦も望めない。その上でエヴァンジェリンが打てる手など、そう残ってはいなかった。
 だが打つ手が全く無くなった訳でもない。後退する、隠れる。そんな事、かつては「闇の福音(ダーク・エヴァンジル)」と恐れられた吸血鬼の矜持を著しく傷つけるが、その代償はヤツの命で贖ってもらおう。
 じりじりと後退していく主従の背後には、人一人ならば隠れられそうな桜の大樹。素早くその裏へ滑り込んだエヴァンジェリンは、そこから「糸」を伸ばす。―――エヴァンジェリンの二つ名はいくつかあるが、その呼称はそのままエヴァンジェリンが持つ側面や技能を象徴する。「闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)」は吸血鬼。「不死の魔法使い(マガ・ノスフェラトゥ)」は魔法使いとしての彼女を。そしてもう一つ―――曰く、「人形遣い」。
 エヴァンジェリンが放った「糸」は、その技能を用いたモノ。余程至近に迫らなければ見えない極細の糸を相手の身体に絡ませ、その動きを拘束、ないし制限する。直接的なダメージこそ与えられないが、戦況を優位に進める効果は言うまでも無い。
 ヤツの投擲攻撃は確かに脅威。だが、これ程の威力投擲を成す為のアクションが大きいのはヤツを見ていれば一目瞭然。故に、その動作を制する事が出来れば形勢は一気に引き寄せられるはずだ。
 ヤツの動きが止まった瞬間が勝負だ。茶々丸が接近戦に持ち込み一気に押し潰す―――!



 だが。相手はエヴァンジェリンの計算を簡単に上回って見せた。
 夜闇に紛れ四肢に絡みついた「糸」が一斉に引き絞られその獲物を縛り付ける―――事は出来ず。純白と漆黒、対の鶴翼、その閃戟が「糸」をバラバラに切り裂いていた。
 鶴翼は魔術使いの両腕に。その正体は陰陽一対の中華剣。
 右に純白―――陰剣、莫耶。
 左に漆黒―――陽剣、干将。
「――――な、」
 その様を目撃した茶々丸、大樹の陰で「糸」ごしの手応えから把握したエヴァンジェリン、双方の驚愕など、魔術使いには瑣末なコト。
 その瞬間こそが好機、一気呵成の決着は魔術使いとて望む所。今まで切らずにいたカードを切って勝負を着ける――――!!

 両手の干将・莫耶を前方へ投擲。二振りはその形状の特性から、まるでブーメランのように大きく弧を描き空を切り、魔術使いはさらに先の直剣を振るい撃つ。
 直線と円の動き。時間差による波状攻撃―――そう読んだ茶々丸はしかし、大樹の前から動けない。下手な回避によって体制を崩しては相手にとって単なる隙にしかならない為に。
 そうして、先程までと全く同じように直剣の弾丸を弾き飛ばそうと腕を振るい―――接触した瞬間、逆に腕を“上半身ごと”弾かれ、さらに次弾で身体ごと吹き飛ばされ、桜の大樹に叩き付けられた。
「――――!!」
 驚愕する間すら与えられない。何故なら、その奥から―――魔術使いが両手に直剣を握り込みながら突進してくる―――!!

 一方。弧を描き旋回する鶴翼が大樹の陰を襲う。
「くっ――――」
 陰にいた為に敵の挙措を把握できず、結果的に間一髪で二刀を回避し大樹の陰から転がり出たエヴァンジェリンが見たのは、六本の直剣を使い己の従者を大樹に縫い付ける敵の姿――――
「―――茶々丸ッ!!!」
(――――申し訳、ありません――マスター―――)
 無論、自動人形(オートマタ)である茶々丸はその程度で壊れない。
 だが。蝶をピンで留めるように打ち留められた茶々丸を蹴りつけ、すかさず離れた魔術使いは、その一瞬に一言だけの詠唱を完成させていた。

「――――発動」

 起動するのは、茶々丸を桜大樹に縫い付けた六本の直剣―――その正式名称を「摂理の鍵」、通称“黒鍵”の刀身に呪刻された魔術基盤。
 その名を――――「火葬式典」。

 瞬間。桜の大樹が、茶々丸もろとも巨大な松明と化した。





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