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No.14013の一覧
[0] 封じられた鞘(ネギま!×FATE、TSあり)  喪失懐古/八改訂[大和守](2010/09/08 09:15)
[1] prologue[大和守](2009/12/18 13:29)
[2] 封鞘墜臨 / 一[大和守](2009/12/18 13:30)
[3] 封鞘墜臨 / 二[大和守](2009/12/18 13:30)
[4] 封鞘墜臨 / 三[大和守](2009/12/18 13:32)
[5] 封鞘墜臨 / 四[大和守](2009/12/18 13:35)
[6] 封鞘墜臨 / 五[大和守](2010/02/12 14:11)
[7] 封鞘墜臨 / 六[大和守](2009/12/18 13:38)
[8] 封鞘墜臨 / 七[大和守](2009/12/18 13:38)
[9] 封鞘墜臨 / 八[大和守](2009/12/18 13:39)
[10] 喪失懐古 / 一[大和守](2010/01/18 15:48)
[11] 喪失懐古 / ニ[大和守](2010/01/19 17:10)
[12] 喪失懐古 / 三[大和守](2010/02/02 12:51)
[13] 喪失懐古 / 四[大和守](2010/02/12 16:53)
[14] 喪失懐古 / 五[大和守](2010/03/05 12:12)
[15] 喪失懐古 / 六[大和守](2010/03/26 11:14)
[16] 喪失懐古 / 七[大和守](2010/08/04 06:49)
[17] 喪失懐古 / 八[大和守](2010/09/08 07:49)
[18] 閑話 / 小話集・1[大和守](2010/09/06 18:19)
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[14013] 喪失懐古 / 七
Name: 大和守◆71ea8fac ID:73348823 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/08/04 06:49
 遠い記憶を垣間見る。

 剣を持つ姿と、草原に踊る姿。

 そのどちらを、己は懐かしいと思ったのか――――


 喪失懐古 / 七


「本当に体調は問題ないのか」
「うん。何であんなトコに寝てたのかも覚えてないんだけどねー」
 てへ、と小さく舌先を出しながら照れ笑いする佐々木。
 そして彼女をからかう影一つ。
「寝ぼけて深夜徘徊なんて止めてよー? 私この歳で痴呆の友人なんていらないからねー」
「ひ、ひどっ!! 痴呆だなんて、もっと他に言い方あるでしょー!?」
 あまりにもあまりな明石の言葉にショックを受け、そのまま鬼ごっこ開始。どたばたと走り回りぎゃいぎゃいと騒ぐ姿に無理を隠す素振りはない。
 ……この分ならば、さしあたっての心配は不要だろう。相も変らぬ登校風景、周囲皆が駆け足とはいえ、その中で奇声を張り上げながら全力疾走する姿はやはり目立つ。
「和泉が見ている限りもおかしな所はなかったんだろう?」
「? うん」
 何の確認なのか分からない、という和泉の顔にも嘘はない。
「そうか、うん。なら良いんだ」
「なにがよ」
「いやなに、言われてみるとちょっと明石の指摘が俺も気になってしまっただけで」
「あッ…………! アルトまで言う訳!? 何でこんな扱いなの!? 私何かやったー!?」
 だってなぁ。そもそも、普段が普段だし。もしかしてそういうのも有り得そうだと思えてしまうのは俺も恐ろしいと思っているんだぞ?
 妙なテンションに巻き込まれ、俺も追いかけられる側に仲間入り。明石と二人、周囲の登校生徒をひょいひょい避けて追跡者の振り切りを試みる。だが3-A運動部員の身体能力侮りがたし、アトランダムに動く障害物を物ともせず最短の突破口を開いてくる鬼さんこちら。そしてそれを追いかけてくる和泉と大河内。
 ―――佐々木は完全にいつもの『佐々木まき絵』だ。
 ……うん。それなら良いんだ。


 ところで。
 途中で追い抜いた、神楽坂に担がれた子供先生の映像は、幻覚じゃないんだよな?



「なんかネギ君ヘンじゃない……?」
「私たちを見渡してはため息を吐いてるです」
「……………………」
「―――いや、何故そこで一斉に俺を見る。今朝は職員室に行った訳でもなし、俺は何も知らないぞ。神楽坂の方が何か知ってるんじゃないのか」
 すっかり情報屋朝倉の出先機関か何かと思われているな、これは。少し対応を考えないと。

 こんな会話が交わされる理由は、何か目の焦点が微妙に怪しいのがちょっぴり不安を煽る子供先生。授業進行もそっちのけである。実によろしくない光景なのだった。
 朝のHR前には教室の廊下側後方を見やって安堵の息を吐き、絡操に話しかけられては飛び上がり、一言二言の問いかけにオーバーアクションで受け答え、さらにはそのまま頭を抱えて悶絶してみせていた。突然見せる奇行の数々、かと思えばらしくもなく教壇の上に上半身を投げ出していかにもやる気ありません、てな態度である。ネギ君、キミは教師ではないのか。プライベート(私事)とビジネス(仕事)は別モノだぞ。授業を進めたまえ授業を。
 放心中のネギ君をいいことに、ざわざわと教室内に充満するひそひそ話。
 ちょっと、これってもしかしてこないだの…
 あ! あのパートナー探してるってゆー
 ネギ先生王子説事件!?
「……王子説事件?」
「あ、その時アルトいなかったっけ。何かネギ君パートナーを探しに日本に来たって話が出てさ」
 じゃあまだ探してるの!?
 え―――うそ!
 春は恋の季節やしー
「………………出所は?」
「あの双子。でもそもそもはこのかがネギ君とアスナの話を聞いたトコからだってさ」
「……………………」

 ―――ああ、なんか展開が読めてきたぞ。
 つまりあの二人が何かの拍子にパートナー云々の会話をしている所に近衛が出くわしたのか。
 で、それをさらに聞きつけた双子が面白半分にふくらし粉をかけまくって方々に放言しまくったのだろう。ひょっとすると目の前にいるこの全自動噂拡大少女も一枚――いや、五、六枚位は噛んでいるかも。
 だがあの二人、そんな際どい会話を所構わず交わしているのだろうか。いやそれよりパートナーって、魔法使いであるネギ君に関連しているのなら“あの”パートナーの事だろうか。何故それを神楽坂が……?
 ――――いや、
「関わりの無い事か」
 神楽坂が既に関わっていると言うのならそれは神楽坂自身とネギ君の責任だ。仮に、神楽坂以外の生徒が関わったとしても同じ。そこに介在する感情、踏み込む覚悟、背を押す意思、全てはその個々人が持ち、それぞれだけが背負うモノだ。他人には分かり得ない葛藤、躊躇、感傷、恐怖、万難、総てを排してその領域に踏み込む決意があるのならば、俺が干渉すべきことではない。

 …………それに。
 当面最大の問題は、
「恋人が欲しいんなら20人以上の優しいお姉さんからよりどりみどりだね!」
「えう!? いえ、別に僕、そーゆーつもりでは……!!」
 じゃあどんな心算だったのだ、と突込みを入れたくなるあの子供先生である。
 ちょうど終業のチャイムが鳴り、そそくさとかつそこはかとなしに暗い雰囲気を醸し退出する少年。
 そして彼を追いかける神楽坂がこれまた爆弾発言を残していった。
 雪広の「ネギ君落ち込み状態」について問われて曰く、
「何かパートナーを見つけられなくて困ってるみたいよ。見つけられないとなんかやばいことになるみたいで……」
 じゃあね、と駆け去る神楽坂は既にアウトオブ眼中。やっぱり噂は本当だったんだー、王子の悩みだー、と沸き立つ我が3-A。ちょっと待て君たち、今の問答にネギ君の出自についての言及があったか?
「…………また騒ぎになるな」
「常時もの事さ。いいじゃないか、“当たり前の学生生活”からはかけ離れているかも知れないけど、当人達にとっては愛すべき日常の一コマではあるだろう。なら何も言う事はないだろう」
「…………そう、だな。当人たちにとっての“当たり前”なら、問題はないか」



「―――アルト、ネギ見なかった!?」

 その日の放課後。神楽坂が出会い頭に息せき切って聞いてくる春の夕暮れ。そろそろ茜色に染まり始める空は、今日も変わる事がない。
「…………いや、俺は見ていないが」
「あー……あのバカ、ホントどこ行っちゃったのよ…………!!」
 暑くもなく寒くもなく、過ごし易い季節に相応しい爽やかな風が微かに流れる。依頼が途絶え手持ち無沙汰な一時、寮の廊下から外の景色が覗ける数少ないスポットに手製のウッドチェアで寛ぐ時間はこうして砕け散った。
「何か急ぎの用事でもあるのか?」
「ううん。ここまで一緒に帰ってきたのに気がついたらいなくなってて……」
「…………。3-Aの連中じゃないのか?」
「は? 何で皆がネギさらって行くのよ」
「今日の休み時間にな、神楽坂がネギ君を追って出て行っただろう。その時に『パートナーが見つからないで困っている』発言が『ネギ君王子説』を再燃させて、――――それがどうまかり間違ったか、ネギ君を元気づける会をやろうという話になっていたはずだ」
 過程を端折る。口頭でどう表現したらいいのか、俺の辞書では変換できそうに無かったからだ。
「??? ……どこで?」
「さあ」
「何でアルト知らないのよ」
「適当に依頼をでっち上げてフけた」

「……………………」
「……………………」

「賢明っちゃあ賢明かもね」
「言葉を選ばなくていい。要するに、俺は逃げたんだからな」
 ぽん、と神楽坂の手が俺の肩に乗せられる。疲れきった目と引きつった口元。きっと俺の表情も同じになっているのだろう。

「…………でもまあ、それならそれで良いのかもね。少なくても皆ならエヴァちゃんみたくネギを狙ってるってワケじゃないし…………」

 ――――。
「神楽坂」
「え、ナニ?」
「探さないのか、ネギ君」
「あ、そ、そーね。皆がそんな話をしてたからって、だからネギは絶対皆に捕まってるっていうワケじゃないもんね。……ん? アルト、一緒に探してくれるの?」
「まあ、暇だしな」
 ウッドチェアから腰を上げる。神楽坂がここいらを探していたという事は、失踪したのは寮内だろう。ならばやはり3-Aの仕業である可能性が高い。
 だが、



 結局3-Aの仕業だったらしい。
 なんだか損した気分になるのは何故だろう。



 だが、そんな出来事も件の予兆には違いない。
 胸に残るモヤモヤをどうにも持て余しながら、翌日の放課後は宮崎と並んで歩く。
 いや、今日もコレといって用事は無かったのだが、帰りがけに危なっかしく本の山を抱えて千鳥足な少女が一人廊下を歩いていれば誰だって不安になると思うのだ。
「ごめんなさい衛宮さん、わざわざ手伝って頂いて―――……」
「俺は苦にもならないし構わないけどな宮崎、ネギ君の赴任初日もこうしていて危ない目にあったんだろうキミは。俺が言うのも可笑しいがもう少し他人を頼れ。友人の頼みを無碍に断る人間はここにはいないだろう?」
「うん、でもー…………」
「…………そこが宮崎らしいといえばらしいかもしれないけどな」
 まあ、今日は俺が一緒にいるし大丈夫だと思うが。
「うう、図書館島が遠くて困りますー……」
「……それはそうだ、こういう書籍の運送なんて業者に頼むべき距離だと思うぞ、俺は」
 一冊でも人の腕にずっしりと重みを伝える専門書籍レベルの厚さの本が十冊以上、それを一抱え分である。別段急ぎという訳でも無し、各校舎所蔵書籍と図書館島管理書籍の入れ替えというならそちらのほうが遥かに効率的だろうに。
「でも、これが図書委員のお仕事ですし……」
 自分の前言をあっさり撤回して今の管理体制を弁護する宮崎。……まあそう頻繁に繰り返す業務でもないという意味なんだろうが、でもなあ。
 中身の無い言葉の応酬。その間に生徒玄関に辿り着く。二人して両手に抱え込んだ本の山を一旦下ろして内履きからローファーへと履き替えようと靴棚を空け、
「(あれ……?)」
「お」
 宮崎の靴箱から、何かがはらりと舞い落ちた。
「…………、なんだ?」
 宮崎宛の手紙、だろうか。靴箱に手紙、とは随分と意味深だがここは女子校。そういうコトはあまり想像できないし。いや女性同士のアレやコレやもひょっとするとあるのかも分からないが宮崎はそーゆーコトはされる側ってよりかする側に回る方だと個人的な感想なのだがああいやそういう話ではなくてだな。
 ……おちつけおちつけ。最近どうも思考がおかしな方向に暴走しがちだな。自制しなくては。
 と、俺が一人彼岸でイイ感じにトリップしている間に、宮崎は宮崎で手紙の宛名と内容を確認したらしい。覗きはしないよ、プライバシーは遵守しなければならないマナーなのだから。
「―――何の手紙だ?」
「ひゃえっ!? え、あ、えええ衛宮しゃん!!? ここここココココレレコレコレひゃひゅッッ…………!??」
「落ち着け」
「ふみ」
 両手で頬を押さえてみる。ぷにぷにと柔らかいしお肌もすべすべです、日々の手入れは大事だよね、ってそうじゃない。……なかなか拝む機会の無いヘン顔になってしまったが宮崎の混乱も霧散してくれたようなので解放する。
「で、どうするんだ?」
「な、何がですか?」
「その手紙だよ。用事でも書かれてるんじゃないのか」
「あ、あの、えーと……どうしよー?」
 いやそこで赤くなられても困るのだけれど。ついでに何故俺に聞く。
「手紙の内容を知らない俺は答えられないだろう。そうではなくて、別の用事が出来てしまったのなら図書委員の仕事はどうするのかって話だ」
「あ! そ、そうでしたー。衛宮さんが手伝ってくれてるんだから今行くわけにも……」
「いや。それだけ急ぎの用事なら俺が全部運んでおいてもいいんだぞ」
「ええっ! それは流石に悪いですー」
「何、俺なら一人でも大丈夫だよ。少なくとも宮崎よりは鍛えてるしこの手伝いも初めてじゃなし、いつもの場所でいいんだろう?」
「で、でもー」
「……言伝の類か、それとも待ち人がいるのか?」
 手紙を指差して聞く。…………だから、なんで赤くなるんだ宮崎のどか。
「―――YESかNO。どっち」
「………………いえす、ですぅ……」
「よしではいってらっしゃい。後は全て引き受けた」
 ぽんぽん、と両肩を叩いて行動を促す。手紙の待ち人がいる方向は図書館島とは違うのか、宮崎はぽてぽてと寮の方向へ駆けて行った。
「――――さて」
 腰に手を当てて振り返る。すのこの上に積まれた書籍の山。出発点である図書館にも、他に運ぶべき書籍が積まれていたはずだ。
「……三往復、いや四回かな。行き戻り走ればトレーニング代わりになるか」



 そして全部運び終わって戻ってくれば、何故か宮崎が靴棚に寄りかかって眠っていたりするのだった。
「…………なんでさ」



 それはネギと、つい昨日彼の使い魔となったオコジョ、カモミール・アルベールの仕業である。
 正確には、カモミールの確信犯とネギの動揺の間に神楽坂明日奈が介入した結果成り行きでそうなってしまったのだが、不可抗力と呼ぶにはいささか疑問を持たざるを得ない経過であった事は当人たち以外に知り得ない事実である。
 で。そのネギとカモミールは今、物陰に隠れて宮崎のどかに近づく衛宮アルトを見ていた。
「兄貴アニキ。あのネェさんは一体誰で?」
「あの人も僕の受け持ちの生徒で、衛宮さんって言うんだけど……」
「何で放課後夕暮れ時に兄貴の生徒がココに戻ってくるんで?」
「うーん、忘れ物を取りに来たとか、……そういえば放課後はいろんなクラブの備品整備とかよくやってるって話だから、それが終わって帰ってきたとかじゃ?」
 備品整備ではなく委員会の手伝いなのだが、大差はあるまい。その点でネギは正鵠を得ていた。
 ぼそぼそとひそみ話す二人の向こうで、アルトは疑問の表情でのどかに近づいていく。
 だが、その歩みはあと二、三歩でのどかに触れられる位置にくる、という瞬間に停止した。ぴたりと、まるでストップ・モーションをかけた魔法の手紙のように。
「「?」」
 そのまま静止する事、一分近く。再び動き出した衛宮アルトの表情は、ネギが今まで見た誰のどんな顔よりも厳しく、その眼は鋭く細められていた。
 衛宮アルトは物音一つ立てる事無く、のどかの左隣に片膝を立ててしゃがみこむ。右手が、ゆっくりとのどかの首筋に差し込まれて彼女のうなじをあらわにする。細められた眼はその肌を医者のように観察し、右手は止まらず、繊細にのどかの首から鎖骨までを撫でていく。
 それは、のどかの身体を確かめていく行為だった。衛宮アルトの両手と両目は素早く、正確に『宮崎のどか』を調べていく。
 左の首筋から左腕。投げ出された両足、向こう側の右の首筋から右腕まで。
「…………ちょっと兄貴。あのネェさん、こんな場所でナニやってんでしょうかね」
「僕に聞かないでよ…………」

 一人と一匹が気付かないのには理由がある。
 まず一匹の方はそもそも事情を知らない。この小動物がこの麻帆良に来たのは昨日の事。ネギが陥っている苦境、その仔細など考える、以前にそんな事があるとも思わず、つい先程まで己の理由だけで動いていたのだ。
 そしてネギの方は、宮崎のどかとの接触の多さが衛宮アルトの行動とその可能性への関連付けを阻害した。何故ならネギは、今宮崎のどかが気絶している理由を知っている。そして先日、衛宮アルトが危惧している可能性を否とした本人である。宮崎のどかが『“そうされた”のではない』事を理解している。そして衛宮アルトが『こちら側の人間である』事は知らない。だから気付かない。思考の端にも上らない。

 カモの独断で成立しかけた魔法の契約。残した魔力の残滓。ソレを嗅ぎ取った衛宮アルト。彼女の危惧は、

 一人と一匹が首をかしげている間に、衛宮アルトの『触診』は終わった。大きく安堵のため息をつくと、やおらのどかの両肩を掴んで揺り起こし始めた。
「起きろ宮崎、こんな所で寝ていると風邪を引くぞ!?」
「ふぁ?」
 眠りそのものはさほど深くなかったらしいのどかは、あっさりと目を覚ます。始めに自分を起こしたアルトを眺め、きょときょとと周りを見回し、
「…………~~~~~~~~~っっ―――――」
 わたわた。
「……一体何やってたんだ、君は」

(ご、ごめんなさい宮崎さん……)

 それは誰にも届かない。
 ネギの謝罪も、
 アルトが抱いた胸のしこりも。



 …………そして、その状況が出来上がる。

 常時もの場所。常時もの時間。常時も、ではないけれど、たまに姿を見せる一人の少女。
 けれど、その彼女の纏う空気だけが、この空間には異質すぎる。
 まるで時間の逆行。ここは夕暮れの協会裏だというのに、あたかも、深夜の桜並木に一人だけで立ち戻ってしまったかのような錯覚に陥る。
 ―――軽率だったかもしれない。
 頭に載せた一匹の拾い猫をいつでも支えられるように左腕を持ち上げながら、絡操茶々丸はそう思う。
 そこにいるのは、約二ヶ月を共にすごしたクラスメイトではなく。
 何時かの夜に殺し合い、自身を完膚なきまでに破壊せしめた魔術使いだった。

「………………何て格好をしているんだ、絡操。ドブ川にでも入ったように汚れて。―――いや、実際に入ったな? 理由は頭の猫か。全く、お前も大概向こう見ずだな……後でまた葉加瀬に何か言われるぞ」

 魔術使いは、そんな事を呟いてクラスメイトへと戻ってくれた。
 腰に片手を当ててそっぽを向く。その全身に緊張の跡は無い。
 理由は分からないが、彼女はこの場を引いてくれたのだと理解した。



 そんな考えは甘かった。

「絡操。お前ら、宮崎に手を出したか」

 …………不覚にも、答えに窮した。
 隣にしゃがみ込み子猫の喉を擽ってやる少女はクラスメイトのソレだが、その言葉は確かに魔術使いのモノだった。
 ―――返答に窮したのは、シンプルに答えては傍らの魔術使いが明確に敵対すると悟ったからだ。
 未だ吸血行為にその魔力回復を依存する己のマスターと異なり、彼女は魔術面ではほぼ回復している事だろう。当時の戦闘を焼き直す心算はないが、そもそも前回とは全く異なる戦闘魔術を保有しているのなら主は圧倒的な窮地に立たされる事になる。

「…………別に、お前達とネギ君との中に介入する心算はない。
 ネギ君も十に満たないとはいえ『こちら側』の人間だ。相手がお前たちでなくてもそういう事になる可能性は十分あっただろうし、イレギュラーである俺が割り込む理由も無い。
 だが、それ以外は話が別だ。俺の目が届かなかったのならそれもまた別の問題だが、」

 ――――それは魔術使いの宣戦布告。

「――――――『俺の身内』に手を出そうものなら、今度こそお前達を叩き潰す」



 …………彼女は、気が付いているのだろうか。
 彼女の“以前”を知らぬ茶々丸では気付けぬその差。

「滅ぼす」と言えずに終わる、どうしようもない己の甘さに。


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