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No.14013の一覧
[0] 封じられた鞘(ネギま!×FATE、TSあり)  喪失懐古/八改訂[大和守](2010/09/08 09:15)
[1] prologue[大和守](2009/12/18 13:29)
[2] 封鞘墜臨 / 一[大和守](2009/12/18 13:30)
[3] 封鞘墜臨 / 二[大和守](2009/12/18 13:30)
[4] 封鞘墜臨 / 三[大和守](2009/12/18 13:32)
[5] 封鞘墜臨 / 四[大和守](2009/12/18 13:35)
[6] 封鞘墜臨 / 五[大和守](2010/02/12 14:11)
[7] 封鞘墜臨 / 六[大和守](2009/12/18 13:38)
[8] 封鞘墜臨 / 七[大和守](2009/12/18 13:38)
[9] 封鞘墜臨 / 八[大和守](2009/12/18 13:39)
[10] 喪失懐古 / 一[大和守](2010/01/18 15:48)
[11] 喪失懐古 / ニ[大和守](2010/01/19 17:10)
[12] 喪失懐古 / 三[大和守](2010/02/02 12:51)
[13] 喪失懐古 / 四[大和守](2010/02/12 16:53)
[14] 喪失懐古 / 五[大和守](2010/03/05 12:12)
[15] 喪失懐古 / 六[大和守](2010/03/26 11:14)
[16] 喪失懐古 / 七[大和守](2010/08/04 06:49)
[17] 喪失懐古 / 八[大和守](2010/09/08 07:49)
[18] 閑話 / 小話集・1[大和守](2010/09/06 18:19)
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[14013] 喪失懐古 / 三
Name: 大和守◆4fd55422 ID:fb470a4e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/02/02 12:51
 2-A教室を出た後、綾瀬や早乙女らと別れて特別教室棟へと移動する。
 目的地は総計160以上ある文科系クラブのうち一つ、占い研究部。近衛が部長をつとめる慎ましやかな部活である。
 が、今回のは普段の物品修理・管理に関するものではない。依頼、という点では他と変わらぬ事ではあるが、近衛の依頼はそうではなく、人間関係に関する相談という側面を持つ。
 目的の部室。扉の前に立ち止まり、軽く二度ノックする。
「衛宮だが」
「あ、入ってええよー」


 喪失懐古 / 三


 近衛木乃香と桜咲刹那は幼馴染であるらしい。
 近衛の話では、近衛はこの麻帆良学園の初等部に入るまで京都で暮らしており、その遊び役として近しくなったのが桜咲なのだそうだ。
 だがその関係は今は断絶したも当然の状況だという。近衛が麻帆良へ編入されるより前に桜咲とは剣術の稽古によって徐々に疎遠となり、近衛の麻帆良編入を期に交流は途絶えた。後に桜咲も近衛の後を追うように麻帆良へと越して来たが、以来桜咲は近衛に対し素っ気無い態度を貫いているという。

「最近の様子はどうだ」
 部室にお邪魔して、まず先に聞いてみる。近衛はこの事に関してあまり他には知られたくないらしく、長年の親友とも言える神楽坂にすら明かしていない。故にこの事を持ち出すのは大抵こうやって二人きりになった時だけだ。
「…………」
 沈黙したまま小さく首を横に振る。近衛は機会を見ては桜咲と話をしようと近づくのだが、いつもさり気なく避けられる、と言う。
 近衛が俺に桜咲について相談を持ちかけたのは、桜咲が高畑の指示で麻帆良の案内役をやっていた事を聞き、何か知っていないかと考えたかららしい。
「……ウチ、なんか悪いことしたんかなぁ」
 落ち込む近衛の姿は痛々しい。ましてや普段おっとりと笑顔を絶やさない娘なので、目尻に涙を浮かべる姿は見ていて辛い。
「……それは俺にはわからない。だがあの桜咲の頑なさは異常だっていうのは俺でも判る。
 無視やシカトってのは、常にそうする相手を意識していないと出来ない事なんだ。ましてや桜咲はその態度をあらかさまにするんじゃなく、あくまでクラスの皆には分からないように、さり気なく、近衛を避けて、クラスの中心からも避けて、いつも輪の外側にいたがる。……俺にはむしろ、避ける原因は桜咲自身にあるように見える」
 クラスの輪から外れる人間は意外と多い。俺は精神が男であったり本来の年齢が上だったりして、クラスの輪に馴染めず浮き沈みを繰り返しているような状態だ。これが完全に輪の外側へと流れてしまわないのは、一重にあのクラスが俺に苦痛を感じさせないように引き込んでくれるからだ。
 俺の他には、龍宮や茶々丸は外れがちだ。両者とも基本的に流れにまかせる傾向にはあるが、これもさり気なく意識されにくい場所に陣取っていたりする。まあ茶々丸の方は主を気にしてもいるのだろうが。
 不器用ながら距離を取ろうとしている長谷川もいる。
 後はザジ。未だ彼女の事は何も分からないが、彼女も積極的に輪に関わっていく訳でも無し、無表情にクラスを観察している。
「なんでせっちゃんが自分の事でウチを避けるん?」
「いや、俺がそうじゃないかと思っただけで大した根拠は無いんだが」
「…………そうやね。ゴメンなアルト、色々……」
「近衛が謝るコトじゃない。俺もあの頑なさはおかしいと思うしな」
 確かに言えるのは、二ヶ月前、俺が2-Aに編入される前と後での桜咲の態度が豹変といっても良い位に“切り替わった”コトだ。
 ……おそらく。桜咲は、近衛がこの事で俺に相談を持ちかけると考えて、その前に俺との関わりをも断ち切ったのだ。
 ―――とか話しているうちに。
 ――――って下さいアス―――――
 ――――い高畑先生にバ―――――
 ……なんてなどっか聞き覚えのある声がドップラー効果を伴って断片的に響いてきた。
「…………今の、ネギ君と神楽坂じゃないか…………?」
「? んー、そう言われると二人の声やったけど。なにしてるんやろ?」
「……確か、英語の居残り小プリントをやっていた筈だが、いい時間だしな。でも終わって帰るトコにしては大きな声で」
 …………なにをやっているんだ、ホント。
「……、でもそうすると二人ともそろそろ帰るんやろな。ウチも帰るわ。アルトはどうするん?」
「ん? 俺も差し当たって予定は無い。携帯も鳴らないし、もう買い物をして帰ろうかと思っている」
「あ、ならウチも一緒に行ってええ? アルトは良い食材探すの上手いから便乗させて」
「ああ、いいぞ。そうと決まったらちょっと急ごうか。神楽坂を待たせる訳にいかないだろ?」



 衛宮アルトが物品の修繕・管理を行っているのは運動・文化系クラブとは限らない。
 麻帆良学園に帰属する備品の修繕依頼が来る事も多い。その場合、依頼するのは大抵生徒会か教師である。
 その日も日中から依頼が舞い込んだ為、取り合えず品物の患部を検めようと考え、昼休みに職員室へと足を向けた。



「失礼します」
 一礼して入室する。
「あれ? 衛宮さん」
「……ネギ先生、何か」
「あ、いえ、職員室に用があるんですか?」
「ああ。ちょっと瀬流彦先生に呼ばれて」
「え!? そ、それって何か問題を起こして……!?」
「―――、ほほう。そうか、ネギ先生は私の事をそういう風に見ていたのですか」
「あ、いや、そんなつもりは……!」
 俺の一言二言で面白いように表情を変える。この百面相は確かに見ていて飽きないが、それを楽しんでイジメる趣味は無いのでとっとと話題を変えて開放しよう。
「別に私が何かしたのではなく、依頼。頼まれゴト。ほら」
 指し示す先に、何時も変わらぬ柔和な顔でおーい、と手を振る瀬流彦教諭。
「……なんの依頼なんですか?」
「それを今から聞きにいく。じゃ、失礼します」
「は、はい……」
 一礼して脇を通り過ぎる。内心の疑問が晴れていないせいか追従してくるネギ君の視線を感じるが、あまり喧伝する気も無いので無視してしまう。まあ、機会があればクラスメイトから聞く事もあるだろう。
「―――さて瀬流彦先生、今日の依頼はなんだろうか」
「うん、コレなんだけど」
 おもむろに指し示された机の上のカセットデッキ。一昔前の型で、再生機とスピーカーが一体化した代物だった。
「……またこんな骨董といってもいいモノを」
「そう言わないで。今時カセットデッキそのものが希少だったりするじゃないか」
「そうか? そこらのリサイクルショップで普通に売っていると思うが」
「…………」
「…………」
「…………ダメ?」
「――――ふう。了解した。で、具体的にどう悪いんだ?」

 ―――などと話していると。
「うわああ~ん、センセ――!!」
「ネギ先生~~っ」
「……はい?」
 ガラ―――ッ! と突然扉を開けて、佐々木と和泉がネギ君の机まで駆け寄っていく。
「こ……校内で暴行が……」
「見てくださいこのキズッ!! 助けてネギ先生っ」
 えーん、と10歳の子供になきつく14歳。傍目、かなりシュールといおうか、何か間違っていないかと疑問が頭に浮かぶのだが、
「え……ええ!? そんなひどいことを誰が……!?」
 今一迫力に欠ける緊迫感を持って一緒に出て行くネギ君。……まあ、
「……どうだろう。困った時に教師を頼るのは間違ってはいないが、その頼る先をネギ君に設定するのは、こう。人選としては間違っているとしか思えないんだが」
 勉強――学術以外で教師を頼る、というのは、単純に生徒よりもより豊富に蓄積された人生経験を頼る、という意味だ。生徒よりも人生経験の足りないネギ君では解決出来るものも解決出来ないと思うのだが、
「…………まあ、これも教師としての仕事か」

「……じゃあ、今日一日預からせてもらう。持ち帰って具体的に調べて答えを出す。直らない場合の事は考えておいてくれ。俺だって直せない物はあるからな」
「ありがと~。明日食券何か用意しとくからよろしく頼むよ」
「返礼は無事にコレを修理できたらの話だ。じゃ、これで失礼する。次は体育だからな。早めに準備をしないと危険だ」
 主に俺の精神が。



 瀬流彦教諭に話したとおり、次の時間は体育だった。
 中学に限らず、体育という教科では制服ではなく体育着に着替えて授業を受ける。
 つまり、クラス全員で一所に集まって着替えをしなくてはいけない。
 そして、俺が所属するクラスは、麻帆良学園本校は女子中等部。クラスメイト全員が女性。その全員が揃って一緒に着替えする。
 何が言いたいのかといえば、俺の精神面は男性なのだというコトだ。例え今の俺の肉体は女性のカタチをしていて、俺と高畑、学園長以外はその事実を知らないとしても、まごうことなく俺の精神は男性である。

 気まずいったらありゃしねえのだ。とてつもなく。

 なので着替えの時間は大抵、一番に取り掛かって終了即教室から退場、なんてちょっと間違えれば奇行とも取られかねない行為でやり過ごすのが俺の常だった。彼女らの準備を極力意識の外に追いやりながらやり過ごさなければならない為、精神的な疲労が半端ではない時間といえる。こんな時物事を深く考える事をある意味阻害するこの地の結界の効果は有難かった。……余談ではあるが。最初にこの事実に突き当たった時、本当にあの似非仙人を縊り殺そうかと思考を暴走させた事はとても良く覚えている。
 だが週数回ある体育の授業も、今日の様に昼休み直後に行われるのが週一である。この時ばかりは若干なりとも余裕があるので大変助かっていた。
 今日は本校とは別棟の屋上にあるコートでバレーをする事になっている。なので着替えと移動にかかる時間を加味して、早めに昼休みを切り上げて用意をしてしまわなければならない。
 だが女子集団の着替えとは、大抵仲良くお喋りをしながら行われるものらしい。
 そして、今日の着替え時間の話題はつい先程のものと思われる、昼休みにおける“暴行事件”に関してだった。

「ねえねえ、やっぱ高畑先生ってすごくない?」
「……うん」
「確かに頼りにはなるかにゃー」
 和泉の発言に同調する大河内と明石。……昼休みにあった事件の事だろうが、何故に高畑が出てくるのか。いやまあ、大体の推測は立ってしまうのだが。
「何があったん?」
「高等部と場所の取り合い」
「え―――、またですかー」
「みんなやられてるよ」
「そんなに酷いのか?」
「ひどいなんてもんじゃないよー。アルトは見たことないの?」
「高畑先生が来なかったら大ゲンカだったよ」
 ―――成程。年長である事を嵩にかけた大人気ないパワーハラスメント、といったところか。ありがちであるからこそ性質の悪い難題だ。確かにネギ君の独力では納められまい。
 その手の輩に最も効果的なのは、より強い立場にある者の言葉なのだ。教師ではあれ年長ではないネギ君の手に余るのは必定といえる。
「そうか、だから高畑さんが出張ったのか。……ちなみに、ネギ君は」
「…………高等部の玩具」
「――――、あー」
 それはまた、予想通りといおうか。
「ネギ君はちょっと情けなかったかな――」
「でも10歳なんだからしょーがないじゃーん」
「―――何ですか皆さん、あんなにネギ先生のことかわいがってたくせに!」
 ネギ君びいき筆頭の佐々木が擁護し、委員長が不満を漏らすも、
「え~、でもやっぱさ――」
「10歳だしね――」
 場の雰囲気を変えるまでには至らない。
 ……まあ、明石や和泉の言う事も分かる。
 最初こそモノ珍しさや見た目可愛さでワイワイと盛り上がっていても、慣れてしまえば徐々に欠点が見えてくる。特に今回はそれが浮き彫りになった形だ。現場に居合わせればこそ、思うところもあるのだろう。
「もーすぐ期末もあるし、いろいろと相談できる先生のほうが……ねぇ?」
「うーん。かわいさを取るか、頼りがいを取るか……」
 …………期末。期末考査。つまりテストか。うわ、拙いな。人の事を言えなくなって来た。
「はいはい。今日は屋上でバレーでしょ。早く行かなきゃ」
「む。そうだったな。ネットは良いとしてボールは持っていかなければ。先に行っててくれ、俺はボールを取ってこよう」
「あ、衛宮さん。私も行く」
 うん。期末考査は重大な問題だが、今気にやんでも仕方ない。それよりも授業だ。授業。



 前述のとおり、今日の体育はバレーの予定だった。
 が、今目前にはドッジボールが行われようとしている。しかも、片側にはクラスの三分の二に上る人数、かたやその向かいには半数しかいないチーム。
 だが侮る無かれ。数的劣勢に立っているチームは、実際には我々中等部の上級生、聖ウルスラ女子高等部の生徒であり、同時にドッジボール部「黒百合」の部員でもあるのだ。
「…………だからどうしたというワケでもないんだが」
 そもそも何故体育の授業で上級生とドッジボール対決なぞする事になったのか。
 2-Aが授業を受ける別棟屋上につくと、そこには自習となったのでレクリエーションでバレーをしにきた高等部女子が先に来ており、かつ間の悪いコトに体育科の教師に代わりネギ君が来ていて彼女らの玩具と成り果てていた。あまつさえ彼女らは自分達の担任にネギ君を寄越せとのたまい、2-Aの面々は完全に激怒。あわや乱闘、となる直前にネギ君がくしゃみ暴走をかまし、その突風に一同が驚いた虚をついてスポーツによる対戦を提案し、ならばより公平となるようにとドッジボールを行う事になり今に至る、らしい。
 ちなみに上級生らの交換条件として、2-Aが勝てば以降場所の横取りは一切せず、この場からも即刻退出。ただし彼女らが勝てば教生としてネギ君を貰っていく、という。―――何と言うか。わざわざ2-Aの教員となるように(強引に)取り計られている現状、そんな話は学園長が許可しないと思うのだが。いやそもそも、一教員の処遇を生徒が握れるものなのか、この学園は。
「……まあ、それでも実行されそうな気もするのが恐ろしいな」
「? 何か言った、衛宮さん」
「いや何も」

 だが。
「手伝わんのか」
「くだらん」
 という短いやり取り。――――そうか。龍宮はともかく、桜咲が参加しないのか。
 なら。
「じゃあ、頑張れ」
「え!? 衛宮さん入らないの?」
「健闘を祈る」
 近くにいた明石に声を掛けて、うらぎりものー、なんて声を背中で受けながらコートから出る。……桜咲が参加しないというのは好都合だ。このドッジボールに参加しないクラスメイトはそれぞれに距離を保ちながらも、広い屋上から見れば一所に集まっている。それなら俺が桜咲の近くに寄っても不審ではないし、逆に桜咲が俺を避けて場所を移動すると目立つ事になる。可能な限り目立たぬよう、人目を避けて行動したがる桜咲にとってはそんな事態こそ避けるべきである筈だ。
 ……まあ、細心の注意を払って接触しなければ俺を振り切って動いてしまう可能性もあるのだが。

 桜咲は壁に背をつけて腰を下ろしている。その向かって右隣には龍宮が立ったまま壁に寄りかかり、左側には長瀬が座り、その壁の上にザジが腰を下ろしている。その四人から右側にはチアリーディングの三人組が応援していて、さらに向こう……ちょっと待て絡操。今打ち上げたのはひょっとして花火なのか。アレって特別な免許が必要じゃなかったか。―――いや、この麻帆良ではツッコむだけ無駄か。ガイノイドだしな。
「……!」
 俺が接近した事で、桜咲が緊張する。常時持ち歩いている野太刀を握り、いつでも動けるように体勢を整える。かすかな変化で余人には分かり辛く、しかし目の良い俺や傍らにいる龍宮、長瀬にはそれと判る。
「待て。最近ちょっと過敏すぎだぞ桜咲。俺の編入を期に一度も話せてないだろう。人に恩を押し付けたまま逃げ回るのは良い趣味とは言えないな」
「…………貴女に恩を売り付けようと思った思った訳でなく、単に高畑先生から指示されただけです。それに、恩返しとして食事を頂きました。それ以上の関係は不要でしょう」
「高畑の指示? それを受けたのは桜咲自身の意思なんだからやっぱり礼は桜咲にするべきだろ。それに、まる一週間世話になったってのにあんな即席料理だけでお返しになるもんか。折角クラスも一緒になったってのに、何だってしきりに遠ざかりたがるんだ」
「……」
「沈黙、か。まあ、それも答えか」
 まずはここまで。桜咲らへ近付く足を一度止める。もう三歩も歩けば桜咲に手が届くが、その前に桜咲は腰を上げるだろう。この距離が最初の壁。生半可な手ではこの壁は突破できまい。
 一息つく代わりにコートを見やる。きゃいきゃいと黄色い声をあげながら逃げ惑う2-Aの面々、その残り15人。どうやら逃げ固まって一網打尽にされたらしく、今度はコートに散らばって逃げようとしているようだ。
「んー、アレで逃げ切れるでござるかなぁ、衛宮殿?」
「まず無理だろうな。一度に複数アウトになる可能性は低くなるだろうが、パス回しをされるとその度に逃げるだろうから、あ」
 とか言ってる間にも後ろを向いていた鳴滝妹の頭にボールが当たる。
「……その度に逃げ遅れが出てくる訳だ」
「フフ。これはネギ先生がお持ち帰りされてしまうのも時間の問題かな?」
「それで終わらないのがこのクラスだろう、龍宮?」
「違いない。衛宮さんも判って来たじゃないか」
 目的意識が高まれば過程はどうあれ(半ば以上強引に)結果に結び付けてしまうのが2-A最大の長所であり恐ろしさでもある。彼女らの手にかかれば世界の修正すら押しのけてまかり通れる気がするのは、きっと俺だけじゃないはずだ。
 なので、俺の当面の問題も。
「そんな所で立っているのもなんでござろう。衛宮殿もこちらに来てくつろいではいかがでござるか?」
「む、悪い」
「なんのなんの」
 こんな風にあっさり解消したりする。横に滑って場所を提供してくれる長瀬に礼を言ってお邪魔する。向かって長瀬の右には桜咲がいて、長瀬は桜咲との間に距離を取る形で場所を空けたので、必然的に俺は桜咲の隣に立って壁に背中を預ける事になる。ちなみに、長瀬の真上に座る格好になってしまったザジもさり気に横に動いていたりする。
 長瀬の好意に甘える格好なので、桜咲も何も言えずに身体を一層硬くするだけだった。
「―――」
「…………」
 そのまま並んでドッジボールの観戦モード突入。パス回しに翻弄された委員長や春日に長谷川、太陽を背に目晦ましを喰らった神楽坂がそれぞれ退場、怯む2-Aにネギ君が発破をかけている。
「――まあ、古・超の中武研コンビも、大河内や明石もいるし。まだ何とかなるな」
「外野に回った連中も参戦できない訳じゃないしな。外野の神楽坂と春日、内野の運動部連中でどうにかなるだろう」
 身体を緊張させ、常時持ち歩く野太刀を握り締め、ぴくりとも動かない桜咲を挟みドッジボールを肴に会話する我々。シカトしているのではない。誘えるものなら誘うが今の桜咲には全く逆効果、話を振っても無視を決め込む事は空気で分かるし、直接触れようものなら即座にこの場を離れるだろう。

 ――――自身の不器用さがもどかしい。こんな時、衛宮アルトはどうすればいいのか分からない。

 近衛は言った。桜咲と元のように仲良くなりたい、と。
 衛宮アルトにとっても桜咲は無視できる相手ではない。さっき言ったように案内の恩がある、だけではない。今の桜咲刹那の在り方を見ていると“記憶”に引っかかるのだ。

 想い(ねがい)を理性(しめい)で封じ込める自己の律し方。

 それなりに心得のある者ならばすぐに判る。桜咲刹那は、近衛木乃香を自分から遠ざけるくせに常に彼女の近くにいる。
 近衛には絶対に悟られないように完全に気配を殺し、しかし一瞬で彼女を守れるように。

 その方法は違えど、その方向性は、酷く『彼女』と酷似する。

 …………しかし、だからといってどうすればいいのか―――。

 益体も無い思考をカラカラと回していても時間は過ぎる。ドッジボールは何時の間にやら2-Aが逆転に成功し、気付けば10対3の圧倒的優勢で決着していた。
 ネギ君を胴上げしてはしゃぎ回るクラスメイト達と、がっくりと膝をつく上級生。
 と。その一人がやおらボールを掴み起き上がる。穏やかではない空気を発しながら怖い笑顔で掴んだボールを宙へと放り上げ……まったく、見てられないほどみっともない。
「―――そこまでだ。下手な足掻きは余計惨めになるだけだぞ、“先輩”」
 仕方無しに、放られたボールにもう一つ別のボールを投げ当てて邪魔をする。今にも飛び上がってバレースパイクを仕掛けようとしていた上級生がたたらを踏んで睨んできた。
「うるさいわね。あんな小スズメ達に舐められっぱなしでいられる訳がないでしょう!」
「その小雀達に最初に手を出して来たのはそっちだろう? 以前から頻繁にちょっかいを出されれば、そりゃあ力も入ろうものを。昼間にも高畑さんから諫められたらしいのに舌の根も乾かないうちにコレでは、2-A(あいつら)だって本気になるさ。―――こちらが勝てば大人しくこの場から去る、というのはアンタ達が出してきた条件だろう。自分で言い出した約束すら守らないんだったら処置なしだ。相応の手を持ち出さなくちゃあならなくなるが――――」
 ちらり、と屋上入り口のドアを盗み見る。……思ったとおりだ。何処から聞きつけたかは判らないが、高畑と源教諭が屋上の様子を伺っている。2-Aの大半は未だお祭りムードで気付く素振りもないが、俺の視線を追った上級生は気付いたらしい。
「勝つ為には何でもやる。その方針は大いに結構。だが決着はとうについただろう。……ここは引き下がる事をお勧めしよう」
「~~~ッ!!」
 フン! と精一杯の虚勢を張り、大股で足早に立ち去る上級生。……やれやれだ。
「……上手くいかないな」
 目の前に悩んでいるひとがいる。それなのに力になる事が出来ない。……何度繰り返したジレンマだろう。その苛立ちを関係の無い彼女らにぶつけてしまった様で、とても後味が悪くなる。



 近衛と桜咲の関係は、あくまで当事者達だけの問題だ。
 両者に対して関わりの浅い自分では、せいぜい近衛の不安のはけ口にしかなれやしない。
 下手に手を出して桜咲を一層強硬な態度にしてしまっては目も当てられない。
 ――恐らくは。桜咲は、近衛に対して一線を引くべき理由を抱えている。
 丁度、“彼女”が俺の従者であるとしていたように。
 あの時は、自分が当事者だった。では今、傍観者になってしまったらどうすればいい?

「――――出来る事は、何も無い」

 そうだ。俺に出来る事は何も無い。
 けれど、
「……でも。力になりたいと思う事も、間違いじゃないだろう」



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