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No.13978の一覧
[0] ヤンデルイズ(ルイズヤンデレ逆行?もの)【2スレ目にて完結】[YY](2011/05/01 06:45)
[1] エピローグにしてプロローグ[YY](2011/03/03 19:00)
[2] 第一話【再逢】[YY](2011/03/03 19:00)
[3] 第二話【初夜】[YY](2011/03/03 19:01)
[4] 第三話【食事】[YY](2011/03/03 19:01)
[5] 第四話【威嚇】[YY](2011/03/03 19:02)
[6] 第五話【前哨】[YY](2011/03/03 19:03)
[7] 第六話【決闘】[YY](2011/03/03 19:04)
[8] 第七話【矜持】[YY](2011/03/03 19:05)
[9] 第八話【冥土】[YY](2011/03/03 19:05)
[10] 第九話【乙女】[YY](2011/03/03 19:06)
[11] 第十話【未遂】[YY](2011/03/03 19:06)
[12] 第十一話【芳香】[YY](2011/03/03 19:07)
[13] 第十二話【夢想】[YY](2011/03/03 19:08)
[14] 第十三話【当然】[YY](2011/03/03 19:08)
[15] 第十四話【微熱】[YY](2011/03/03 19:09)
[16] 第十五話【混浴】[YY](2011/03/03 19:10)
[17] 第十六話【外出】[YY](2011/03/03 19:10)
[18] 第十七話【買物】[YY](2011/03/03 19:11)
[19] 第十八話【交換】[YY](2011/03/03 19:11)
[20] 第十九話【二股】[YY](2011/03/03 19:12)
[21] 第二十話【契約】[YY](2011/03/03 19:13)
[22] 第二十一話【千殺】[YY](2011/03/03 19:13)
[23] 第二十二話【思惑】[YY](2011/03/03 19:14)
[24] 第二十三話【補充】[YY](2011/03/03 19:15)
[25] 第二十四話【貴族】[YY](2011/03/03 19:15)
[26] 第二十五話【髪梳】[YY](2011/03/03 19:16)
[27] 第二十六話【輪廻】[YY](2011/03/03 19:17)
[28] 第二十七話【夢幻】[YY](2011/03/03 19:17)
[29] 第二十八話【怪盗】[YY](2011/03/03 19:19)
[30] 第二十九話【馬車】[YY](2011/03/03 19:20)
[31] 第三十話【殺意】[YY](2011/03/03 19:21)
[32] 第三十一話【陰謀】[YY](2011/03/03 19:21)
[33] 第三十二話【金的】[YY](2011/03/03 19:22)
[34] 第三十三話【剥奪】[YY](2011/03/03 19:23)
[35] 第三十四話【反逆】[YY](2011/03/03 19:23)
[36] 第三十五話【春恋】[YY](2011/03/03 19:24)
[37] 第三十六話【舞踏】[YY](2011/03/03 19:24)
[38] 第三十七話【退行】[YY](2011/03/03 19:25)
[39] 第三十八話【矛盾】[YY](2011/03/03 19:26)
[40] 第三十九話【不快】[YY](2011/03/03 19:27)
[41] 第四十話【惚薬】[YY](2011/03/03 19:27)
[42] 第四十一話【禁句】[YY](2011/03/03 19:28)
[43] 第四十二話【傷痕】[YY](2011/03/03 19:29)
[44] ヤンデルイズ番外編【もしも、ルイズがサイトを呼び出せていなかったら】[YY](2010/05/07 17:50)
[45] 第四十三話【私闘】[YY](2011/03/03 19:30)
[46] 第四十四話【二手】[YY](2011/03/03 19:30)
[47] 第四十五話【合流】[YY](2011/03/03 19:32)
[48] 第四十六話【風嫌】[YY](2011/03/03 19:32)
[49] 第四十七話【濃霧】[YY](2011/03/03 19:33)
[50] 第四十八話【閃光】[YY](2011/03/03 19:34)
[51] 第四十九話【如何】[YY](2011/03/03 19:34)
[52] 第五十話【消毒】[YY](2011/03/03 19:35)
[53] 第五十一話【男色】[YY](2011/03/03 19:38)
[54] 第五十二話【聖人】[YY](2011/03/03 19:39)
[55] 第五十三話【内緒】[YY](2011/03/03 19:39)
[56] 第五十四話【雷鳴】[YY](2011/03/03 19:40)
[57] 第五十五話【擦違】[YY](2011/03/03 19:40)
[58] 第五十六話【悪魔】[YY](2011/03/03 19:41)
[59] 第五十七話【桃誅】[YY](2011/03/03 19:42)
[60] 第五十八話【葛藤】[YY](2011/03/03 19:42)
[61] 【幕間】[YY](2011/03/03 19:43)
[62] 第五十九話【警鐘】[YY](2011/03/03 19:43)
[63] 第六十話【離別】[YY](2011/03/03 19:44)
[64] 第六十一話【抜殻】[YY](2011/03/03 19:45)
[65] 第六十二話【粛正】[YY](2011/03/03 19:45)
[66] 第六十三話【奪愛】[YY](2011/03/03 19:46)
[67] 第六十四話【嬌声】[YY](2011/03/03 19:46)
[68] 第六十五話【夏恋】[YY](2011/03/03 19:47)
[69] 第六十六話【策謀】[YY](2011/03/03 19:48)
[70] 第六十七話【再臨】[YY](2011/03/03 19:48)
[71] 第六十八話【謹慎】[YY](2011/03/03 19:49)
[72] 第六十九話【復讐】[YY](2011/03/03 19:49)
[73] 777リクエスト記念番外編【ルイズの花嫁修業】[YY](2010/08/08 22:01)
[74] 第七十話【帰省】[YY](2011/03/03 19:50)
[75] 第七十一話【幻影】[YY](2011/03/03 19:51)
[76] 第七十二話【五感】[YY](2011/03/03 19:51)
[77] 第七十三話【対桃】[YY](2011/03/03 19:52)
[78] 第七十四話【逃亡】[YY](2011/03/03 19:52)
[79] 第七十五話【天然】[YY](2011/03/03 19:53)
[80] 第七十六話【研究】[YY](2011/03/03 19:53)
[81] 第七十七話【魅惑】[YY](2011/03/03 19:54)
[82] 第七十八話【本懐】[YY](2011/03/03 19:55)
[83] 第七十九話【約束】[YY](2011/03/03 19:57)
[84] 第八十話【撤退】[YY](2011/03/03 19:57)
[85] 第八十一話【稽古】[YY](2011/03/03 19:58)
[86] 第八十二話【拒否】[YY](2011/03/03 19:59)
[87] 第八十三話【黒姫】[YY](2011/03/03 19:59)
[88] 第八十四話【開戦】[YY](2011/03/03 20:00)
[89] 第八十五話【襲撃】[YY](2011/03/03 20:00)
[90] 第八十六話【賢者】[YY](2011/03/03 20:01)
[91] 第八十七話【炎蛇】[YY](2011/03/03 20:01)
[92] 第八十八話【争奪】[YY](2011/03/03 20:02)
[93] 第八十九話【再見】[YY](2011/03/03 20:02)
[94] 第九十話【実感】[YY](2011/03/03 20:03)
[95] 第九十一話【再起】[YY](2011/03/03 20:03)
[96] 第九十二話【薬学】[YY](2011/03/03 20:04)
[97] 第九十三話【眠姫】[YY](2011/03/03 20:04)
[98] 第九十四話【凶刃】[YY](2011/03/03 20:05)
[99] 第九十五話【絶望】[YY](2011/03/03 20:05)
[100] 第九十六話【記憶】[YY](2011/03/03 20:05)
[101] 第九十七話【何者】[YY](2011/03/03 20:06)
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[13978] 【幕間】
Name: YY◆90a32a80 ID:1329af1b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/03/03 19:43
【幕間】


 時は少し遡る。



「……う」



 小さなうめき声を上げ、目を覚ました女性がいた。

 女性は、目を覚ましたばかりのぼんやりとした意識のまま、ゆっくりと上半身を起こすと何気なく辺りを見回す。

 そこは……小さな小屋の中のようだった。

 彼女の記憶にこの場所は無い。

 もともと彼女は定住地など無いに等しくもあったから、それほど珍しいことでも無いと思考を切り替えた。

「私は……」

 どうしてここにいるのか。

 だが、思考はすぐに遮られる。



「……起きたか」



 突然、真四角なこの部屋唯一の……正面の扉から入って来たのは……赤いマントの男だった。

 彼女は彼を知っている。

「モット……」

「フン、死んだような目をしてくれるなよ土くれ。私を誰だと思っている? 貴様が今そうして生きているは私のおかげなのだぞ? 別に恩着せがましいことを言うつもりは無いがね、死んだような目だけは止めてもらいたいものだ」

 やや不満気味にモットはフーケ……マチルダのいるベッド横の椅子に腰掛ける。

 ここはどうやら元は家具など殆ど無い無人の小屋だったようだ。

 いくつか新しそうに見える家具、例えばこのシーツやモットの座る椅子、テーブルは買ってきたものだろうか。

 首を回せばここにあるものは本当に少ないし、部屋自体も小さい。

 自分が寝ているベッドも……いや、これをベッドと呼んでもいいものか。

「何だ? 寝心地が悪いと贅沢でも言うつもりか? 我が儘め」

 マチルダの視線を敏感に理解したようにモットは不機嫌になる。

 マチルダが横になっているのは、恐らく練金によって編まれた簡易ベッド。

 モットが作ったのだろうが彼は水メイジ。

 それほど練金の腕に覚えは無いのだろう。

 造形は悪くないが、それにこだわりすぎて中身が無いようなベッドだった。

 見た目はベッドに見えるが、それだけ。

 寝心地は均した土の上に薄いベニヤ板を乗せてあるかのような、そんなものだった。

 本当にここには特に何も無い。

 マチルダがそう現状を分析し、そういえばどうして自分はここにいるんだっけと思考を遡り……口元を抑えた。

「うっ!!」

 吐きこそしなかったものの、彼女の胃の中は荒れていた。

 さっきのモットの言い方から、自分は長く眠っていたと思われ、胃には既に内容物など残っていない筈だが、思い出した大量の“血”の匂いに彼女の胃液は逆流しかけた。

 口元を抑えたまま、彼女は慌てて自身の足に手を伸ばし……ハラリ。

 ハラリ……?

「ってキャアァァァァァァァァ!? 何で私何も着て無いのさーーー!?」

 彼女は一瞬上半身が生まれたままの、一糸纏わぬ姿になり、慌てて腹部に落ちたシーツを胸元にたぐり寄せる。

「何を慌てている? 安心しろ、私は女の裸など見慣れている」

「何を安心しろってんだい!? まさかアンタ私が寝ているのを良いことにあんなことやこんなことを!?」

「だから安心しろと言っているだろう。寝込みを襲うような真似はせん。するなら事前に言っておいてからするからな」

「全然安心できない!!」

 マチルダは顔を真っ赤にして信じられない!! とモットを睨み付ける。

「やれやれ、ヒステリーを起こした女はこれだから……貴様、そんなことより足はまだ痛むのか?」

 マチルダはハッとして足を見て……絶句する。

 シーツの上から見た自分の片足は途中から膨らみが無かった。

 自分の中の感覚も、無かった。

「う、そ……」

「残念ながらいくら私とて失われた四肢の再生はできん。せいぜいが血止めと傷口の縫合だった」

 マチルダは顔を伏せる。

 片足を失ってしまった。

 これは致命的。

 これから自分はどのように生きていけばいいのだろうか。

 “彼女たち”への仕送りにも支障が出てしまう。

 彼女の左足は膝より少し上の部分までしか無かった。

 太股が四分の三程度残っているだけ、というべきか。

 徐々に顔色が青くなっていくマチルダ。

 そんな彼女に、



「まぁ貴様のことだ、“練金で義足”を作ることくらいワケ無いだろう」



「…………え?」



 絶望という言葉で埋め尽くされそうになったそんな彼女に、実にあっけらかんとした物言いでモットは告げた。

「何を驚いている? 貴様は土メイジだろうが。自分に合う義足くらいわけなく練金出来るだろう」

「義、足……?」

 正直、その発想は無かった。

 だが、出来なくは無いだろう。

 リハビリ次第では、日常生活には問題無いかも知れない。

 盗賊稼業は微妙だが。

「私もお前のリハビリがある程度形になるまでは貴様を面倒みてやるつもりだ。一時とはいえ同士となった仲だしな、このまま解散と行くには少々人情味に欠けるだろう。それでは私の貴族としてのプライドが許さんからな」

「っ!!」

 マチルダは体を震わせた。

 貴族としてのプライド。

 そんな“つまらないもの”に振り回され、嫌悪までするようになったというのに、それが今、自分の胸の中を暖める。

 モットは鼻下のくるりとした細い髭を引き伸ばしながら尊大な態度で話し続けているが、今のマチルダはそれを不快だとは思わなかった。

 ただ、あの満月の晩に感じた、胸の高鳴りがまた、起き始めていた。

「ふむ、そうだ。忘れておった」

 そんな時、モットが髭を弄る手を止め、急に真面目な顔になる。

「お前、これから……いや、リハビリが済んでからになるだろうが、どうするつもりでおるのだ?」

「……どういう意味だい?」

 今は、先のことはあまり考えたくなかった。

「いや、ついこの前、“あの若造”がようやくコンタクトを取ってきたのだが」

「若造……? ああ、“風の旦那”かい。集合に遅れたからてっきりくたばったものかと思っていたよ」

 マチルダが軽薄そうに笑うが、モットは眉を寄せ、



「その通りだ、奴は死んだ」



 意外な一言を、言ってのけた。




***




 浮遊大陸、白の国アルビオン。

 そのアルビオンから、重力によって空中に流れ落ちる水が液体から霧状に霧散して行き、綺麗な白煙となって大陸を包む。

 人間が殺し合おうが政権が変わろうが、美しいこの景色に特筆すべき変化は無い。

 アルビオンは王党派が倒れ、神聖アルビオン共和国として生まれ変わる。

 それでもこの大陸そのものは変わらない。

「そうは思わないかね?」

 太陽の光の届かぬ暗い一室。

 ハルケギニアでは一番太陽に近いアルビオンで、その恩恵を受けないでいるとはなんとも勿体ない話である。

 だが、“彼”はそんなことは気にせずに自身の前に跪き、頭を垂れている男に話しかける。

「………………」

 聞かれた男はこの暗がりの中、目深く羽根帽子を被り、頭を垂れているせいで生えている長い髭が床に触れてしまっている。

 男は“彼”の言葉に応えない。

 ただただ頭を垂れ、忠誠を表すかのように傅くのみである。

 “彼”はそんな彼の態度に怒りを覚えるでもなく、自身が座る“玉座”の肘掛けに肘を付いて顎を支え、男を見やった。

 その“立場”故なのか、少々痩せ過ぎなきらいがあるようにも見受けられる“彼”は、肩まで伸びてカールしている金髪を残りの手で弄んで“男”の言葉を待つ。

 男は未だに口を開かない。

 やや痺れを切らしたのか、代わりに“彼”が再び口を開いた。

「私はね、君をとても重宝している。“今の君”でもそれは変わらない。わかっているとは思うが次はトリステインだ、君の協力がまた必要になるだろう、無論、そうなればやってくれるだろう?」

「……はっ」

 男が初めて小さく口を開き、応える。

「私は今のまま“変わらない”つもりはない。……君には期待しているよ」

「……御意に、“閣下”」

 男の言葉に満足そうに“閣下”と呼ばれた“彼”は笑うと、男に退室を促した。

 男はゆっくりと立ち上がり、一礼して玉座に背を向ける。

 それを見届けた“彼”はおもむろに自身の指に嵌っている“指輪”を撫で始めた。

「……これがあれば君は何も恐れることは無いんだよ、“ワルド”」

 ククク、と玉座に座ったまま彼はかみ殺すようにして笑う、いや嗤う。



 “彼”こそ現神聖アルビオン共和国初代皇帝、オリヴァー・クロムウェルその人であった。




***




 妙な気分だ、と謁見を終えた男は与えられている自室に戻りながら思う。

 自室には柩が一つあるだけだった。

 ベッドもテーブルもクローゼットも無い。

 いや、正確には“今の自分には”必要ない。

 男は柩を開ける。

 途端、鼻につく異臭……血の臭いが部屋中に充満する。

 だが男はそれにも眉を潜めることすらなく、柩の中を見据える。

 妙な気分だ、と思う。

 柩の中にはよく見知った顔と体があった。

 これは比喩でも何でもない。

 本当に、見知った“顔と体だけ”がそこにあった。

 腕は両方無く、足も両方無い。

 首は血塗れの体と繋がっているが、目は柔らかく閉じられ、開くことは無い。

 顔だけは長い髭を生やしながらも整った紳士の顔だった。

 このダルマのような肉体に、使い道はあるのだろうかとふと思う。

 “仮に”この“死んだ肉体”が意志を持って動くとして、役に立つのか、と。

 男はここで初めて嫌そうな顔をした。

 それは奇しくも、彼がここ最近滅多に表さない感情の起伏だった。

 腕もなく足もないこの体が、どう役に立つのか、男には想像がつかない。

 仮に役に立ったとして、それはあまりにも惨めな姿ではなかろうか。



「……ふん、惨め、か」



 自嘲する。

 今更惨めだからなんだと言うのだ?

 男は柩の中の“自分と全く同じ顔”を見つめる。

 本物は……この物言わぬ柩の中の自分なのだ。

 男は風のスクウェアスペルによって編まれた存在、遍在体だった。

 彼はアルビオンの皇太子暗殺まであと一歩だった。

 ところが本体……本物の自分が死んだ事を悟って、それ以上攻めるのを止めた。

 あのまま行けば、皇太子の首を取る代わりに、自分はここにはいなかっただろう。

 精神力で編まれたこの体は、本体が無くなった以上、ただの“消耗品”でしかない。

 幸か不幸か、皇太子暗殺の為に普段より強く編まれているが、すでに自分には魔法を行使することは出来ない。

 いや、正確に言えば、魔法を行使すればそれだけ遍在体としての寿命が無くなるのだ。

 精神力の無への回帰。

 それは今の自分の“死”を意味する。

 いや、既に本物の自分は死んでいるのだから、“死”という概念はおかしいのかもしれない。



 本当に、妙な気分だ。



 偽物の自分が本物の死体を見つめる。

 通常なら、あり得ざる事だ。

 本体が死んだのなら、この身も消えてもおかしくはなかったのだから。

 故にこの体では魔法は使えない。

 使えば消える。

 だが消えても“閣下”は復活の約束をして下さっている。

 一度閣下の御業……魔法を見たことがあるが、自分もああなるのだろうか。

 従順な死者の復活。

 それは自分が自分でなくなるかのような不安。

 今はまだ、偽物なれど自分という概念はある。

 だが、この身が無くなって復活させられた時、そこに“自分”はあるのだろうか。

 魔法が使えぬ本物の心を持った偽物の体か、魔法を使える本物の体を持った偽物の心の自分になるか。



 どちらにしろ、惨めだ。



 男……死んでいるジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドは溜息を吐いて柩を閉じた。

 どちらにしても、残りの時間は少ない。

 この遍在体とて、存在しているだけで消耗していく。

 ならば、やれることはやっておき、やるべき事を為すだけだ。

 ワルドはマントを翻すと自室を出て行く。



 その背中が、ほんの一瞬霞んでいた。


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