週末の日曜日、俺は川原でサッカーをしていた。
と言っても、一人でやってるわけでは無く、俺の所属しているジュニアチームの試合に出ているんだけど。
チームの名前は、『翠屋JFC』…なのはのお父さんの、士郎さんがコーチ兼オーナーのチームだ。
チーム名の『翠屋』は、士郎さんの経営している喫茶店の名前だ。
商店街にある喫茶店で、なのはのお母さんがパティシエを…
「おい佐倉! そっち行ったぞ!」
「ん…おう!」
いかん、普通に試合中なのに考え事をしていた。
取り合いからこぼれたボールが、比較的に近い位置へと転がってくる。
取り合いしていた奴らも追いかけているけど、ボールの転がってくる先に行く俺のほうが早い。
「上がれよお前らっと!」
ボールを一回だけトラップし、そのまま直ぐに前へと蹴り飛ばす。
俺の言葉に従ったわけでは無く、最初から居たフォワードの奴らへとロングパス。
「ふぅ…」
取りあえず、相手のゴール付近にボールが行ったので一息つく。
俺の役割は、パス全般。
要は、味方のパスは繋いで相手のパスをカットするのが俺の仕事だ。
周りの奴らはやはりと言うか、小学生で今の俺と同年代にはそんな仕事をずっと徹底的にやれる奴はあんまり居ない。
卑怯臭く、中身が年食ってる俺がそんなポジションをこなしている。
一応、不健康では無い程度に身体を鍛えているから、フォワードのような相手のゴールを攻めるポジションも勧められたけど、性分的に合わないので辞退した。
「こぉらぁぁぁ! 前に出ないさいよ雄介!」
…何やら、コートの外から叫ぶ声。
まぁ、誰かは解っているんだけど。
視線を向ければ、そこに居るのはアリサ。
右手を振り上げ、左手を口元に当てる、ある意味典型的な叫ぶポーズだ。
その隣にはなのは、更に隣にすずかの三人が応援用のベンチに座っている。
(俺が前に出ないのは、一応ポジションだから何だが…)
その辺はまぁ…解って言ってるんだろうけど。
ん? なのはとすずかの視線が、あれはどこに…うちのキーパー?
アイツは、ついさっきナイスセーブを見せていたけど…まさか?
いや、いやいやいやまさかまさかまさか…まさかな?
「少しは活躍しなさーい!」
「がんばってー、雄介くーん!」
なのはの応援-俺の危機感=この試合での活躍。
諸々の思考の結果、この試合もっと本気で頑張ろうかな…っ!
そう、取りあえずはまた転がってきたボールを死守するとしようか!
+++
空が青い、今日は晴れ。
雲も少なし、いい天気…今日はサッカー日和でした。
「それにしても、改めて見るとこの子、フェレットとはちょっと違うんじゃない?」
「そういえば、そうかなぁ…動物病院の先生も、変わった子だって言ってたし」
「あー、えーと! まぁちょっと変わったフェレットって事で! ほらユーノくん、お手!」
「おー!」
「可愛い~」
なのは、それは何にも答えになってないです。
椅子の背もたれに、完全に体重を預けた状態でチラリと視線を前に向ければ、アリサとすずかがユーノを撫で回している。
それは流石に、ユーノが可哀想だと思うんだが。
…まぁ、いいや。
と、アリサがこっちを向いて。
「で、そろそろ雄介は復活できるの?」
「…もう少し、待ってくれ」
もう一度背もたれに体重を預けて、空を見上げる。
試合に頑張りすぎて、今の俺はグロッキー。
ビデオで取ってれば、ちょっと見返してみたいくらい。
本気でがんばったよ、縦横無尽だったねまさしく。
ただ一回無理してシュートを決めたは良いけど、それとそれまでで疲れて二回ほど、普段の俺だったら止めれるパスを通してしまった。
しかもそれが原因で、一回ゴールを決められてしまった。
結果的には、3-1で翠屋JFCの勝ちだったけど。
「雄介君、今日は頑張ってたよね」
「うん、今日の雄介くん格好よかったよ!」
すずかとなのはの、労わってくれる言葉が嬉しい。
ついでに我ながら現金なことだが、なのはの言葉にかなり元気が出てきた。
…最近、何だかなのはの言葉に一喜一憂しすぎな気がする。
小学生の女の子に依存する、精神年齢二十台後半の俺って…自立せねば。
『ごちそうさまでしたー! ありがとうございましたー!』
ふと聞こえた声に顔を向ければ、そこには我がチームメイト達の姿。
翠屋の入り口をを出たところで、士郎さんを前に並んでいる。
ちなみに今は勝利のお祝いに、全員で士郎さんにお昼を奢ってもらっていたのだが、俺はなのは達が外に居たので皆と離れていた。
結局はグロッキーだったわけで、俺的に余り意味は無かったがもう全員帰る様だ。
「皆、今日は凄くいい出来だったぞ。 来週からもしっかり練習頑張って、次の大会もこの調子で勝とうな?」
『はい!』
「じゃ、皆解散! 気をつけて帰るんだぞ」
『ありがとうございました!』
俺は入ってないけれど、全員で士郎さんに挨拶して帰っていくチームメイト達。
その際に、俺の近くを通る奴らがわざわざ声をかけて行ってくれる。
「じゃーな佐倉ぁ」
「おーう、またな金下ぉ」
「なぁ佐倉、月曜に宿題見せてくれよ?」
「山中、今から帰ってやりやがれ」
「佐倉またな・・・バ、バニングスさん達もさようなら」
「あー、黒坂またな」
「はい、さよーならー」
余談だけど、山中は同じクラスの奴だったり。
黒坂はクラスは違うが、同じく聖祥小学校に通っている奴だ。
割と俺を含めたチームメイトにはバレているのだけど、アリサのことが気になっているようである。
だがしかし、その当のアリサが基本的になのはと一緒に俺の応援に来るため、妙に敵対的な視線というか、やたらと突っかかってこられるのだけど。
俺は別にアリサに対して何にも無いし、かといってその気の無さそうなアリサに紹介するのも憚られるので保留なんだがな。
ってゆーかアリサ、返事が適当だなお前。
「あー面白かった、はいなのは」
「えっ? …あ」
「アリサちゃん、やりすぎだよ?」
「あはは、ちょっと面白くって…今のユーノ、雄介にソックリね」
「あん?」
何故だか急に俺の名前が出てきたので、目の前のテーブルへと視線を向ける。
するとそこには、
「…なんで、ユーノはぐったりしてんだ」
アリサの手の中で、ぐったりとして動かないユーノ。
「つい、ね」
「撫ですぎて遂にユーノの首でも折ったか、そんなに力入れるからだな可哀想にユーノ」
「誰がそんな事するか! ただまぁ、ちょっと撫で過ぎてユーノが疲れてるだけよ」
そこまで撫でてやるなよ、何事にも限度があるぞアリサ。
「で、ちょっと雄介。 テーブルのそこに顎を付けなさい」
「は?」
「良いから、ほらさっさとやる」
アリサがいきなり変わったことを言うのは、わりと何時もの事だ。
発想の方向性というか、色んな意味で思考が一段飛びするので慣れている。
加えて言えば逆らうのも無駄なので、大人しく目の前のテーブルに顎をつける。
「これで良いのか?」
「そうそう、でそのまま動くんじゃないわよ。 あ、後目も閉じなさい」
何される、何されるんだ俺。
とは思うけれど、別にそこまで変な事もされないだろう。
眼を閉じて待つこと数秒、何かが頭に乗せられる感触が。
何だ、何を乗せられた。
しかも、何か生あったかいんだけどコレ。
「ほら、こうすると似てるのが解るでしょ?」
「本当だ、そっくりだよねなのはちゃん?」
「うん、雄介くんとユーノくんが兄弟みたいだね」
いや、何のことだ一体?
頭の上に乗っている何かを落とさないために、取りあえず目を開ければ全員揃ってこっちを見ている。
…いや、微妙に俺より上の辺り?
って言うか、三人とも何でそんなに笑顔なんですか?
「…おいアリサ、結局俺に何をしたんだ?」
「はい、この鏡で自分を見てみなさい」
言われて、取りあえず動かないでそのままアリサに手渡された鏡を覗き込む。
そして鏡を覗き込んでみれば、そこには俺の顔と…頭の上に何故かユーノ。
俺もユーノも、正面に顔を向けてぐったりした表情を…って。
「何故乗せた?」
「いやぁ、アンタとユーノ今ものすごくそっくりよ? 親子みたい、ぐったり感が」
「嬉しくもなんとも無いんだけど? そしてユーノのぐったりの原因はお前だ」
取りあえずアリサに鏡を返し、頭の上のユーノを落とさないように気をつけて身体を起こす。
って、起き上がる前にユーノを退ければ良かった。
両手で抱えて、なのはに渡す。
「なのは、ほい」
「あ、うん」
「さて、アタシ達も解散する?」
いや、話の脈絡が何にも無いぞアリサ?
あれか、ユーノをぐったりするまで撫で回して満足したのか?
後、うちのチームの皆も帰ったからか?
「うん、そうだね」
「そっかぁ、今日は二人とも午後から用があるんだよね?」
「うん、私はお姉ちゃんとお出かけ」
「私は、パパとお買い物ね」
二人とも、嬉しさが抑えられないのか口元が笑っている。
特にアリサの方は、父親の仕事が忙しいから嬉しさも一入なんだろう。
「俺は、疲れたから今日は帰って寝る…」
「いや、誰も聞いてないわよそんなの」
まぁ、確かに。
正直なところ、今日は終わった後になのはを誘って何処かに行こうかと考えていたけど無理だ、体力的に。
もう今日は早々に帰って眠りたいです。
「良いなぁ、月曜日にお話聞かせてね?」
「お、皆も解散か?」
「あ、お父さん」
急に入ってきた声に顔を向ければ、そこに居たのは士郎さん。
どうやら、チームの皆の見送りは済んだらしい。
「今日はお誘い頂きまして、ありがとうございました」
「試合、皆格好よかったです」
「あぁ、すずかちゃんもアリサちゃんも、ありがとな応援してくれて…まぁ先に雄介が誘っていたようだけどね、なぁ雄介?」
「…まぁ、それは偶然」
士郎さん、その生暖かい視線は何ですか?
そして何故知っている、なのはか? なのはが言ったのか?
いや待て、なのはが士郎さんに言うのは当たり前だ。
ならば何故…あれ、もしかしてバレてるのか?
いや、いやいやいやいやいやいや…それは、それは無いだろう、うん。
「それよりも、帰るのなら送って行こうかい?」
「いえ、迎えに来てもらいますので」
「私もです」
「そっか、なのはは如何するんだ? あと雄介も」
なぜ、俺にも聞くんだ士郎さん。
知っているのか士郎さん…イカン、かなり疑心暗鬼になってるな俺。
なのはは口元に人差し指を当てて、考えるポーズ。
「うーん…お家に帰って、ノンビリする」
「俺はまぁ、今日はちょっと疲れたのでこのまま帰りますけど」
「おぉ、そういえば今日の雄介は頑張っていたなぁ…まぁ、頑張りすぎてた所もあったが」
それは言わないでください、後になって思い返せば何やったんだと自分で思うんですから。
本気で、あそこまで頑張る理由があったのかと思う。
だって理由を言ってしまえば、単にちょっとした嫉妬だし。
更に言うなら、何を小学生に嫉妬しているのかと自分。
「で、でも格好よかったよ、雄介くん!」
「…さんきゅ」
グッと拳を握ってそう言ってくれるなのは、良い子だなぁ可愛いなぁ。
…頭の中も、疲れてるなぁ俺。
「そうだ、なのは。 父さんも家に戻ってひとっ風呂浴びてお仕事再開だ、一緒に戻るか?」
「うん!」
+++
「ただいま~」
なのは達と別れて、ようやく自宅へと帰り着いた。
未だにユニフォーム姿なので、早々に着替えたいと言うかシャワーでも浴びたい。
きっと今の俺は汗臭いに違いない…あれ、今汗臭かったら先頃も汗臭くて、俺その状態でなのは達と一緒に居た?
…いや、何も言われなかったし、考えないようにしよう。
って言うか、考えたくない。
「って、母さん居ないのか?」
おかえりの声が無いので、取りあえずリビングへと向かう。
この時間は、大抵リビングでテレビを見ているはず…もしくは、買い物か。
リビングを覗き込んでみれば、やっぱり居ないので買い物だろう。
「…まぁ良いか、とっとと着替えでも取ってシャワー浴びよう」
別に居ないことで問題があるわけでも無いので、部屋に戻って着替えを漁る。
しかし、着替えを漁りながらふと思う。
今はまだもうすぐ夕方と言う時間帯、何となく風呂は夜に入りたい俺としてはあんまり入りたくないと言うか。
「…もうちょっと、休んでからシャワーでも浴びるかなぁ」
などと呟きながら、取りあえず着替えを取り出して机の上に。
そのまま外へと視線を向けると…
「…」
海鳴の町の中に、急に巨大な樹が生えていました。
周りのビルよりも巨大な、まさしく世界樹とでも言うべきか。
凄いです、ツタと言うか幹が周りのビルを突き破って生えてるように見えます。
一言で言いましょう。
「…風呂入ろう、幻覚も見えたし」
有り得ん、疲れすぎて何と幻覚まで見えてきた。
俺の脳みそは、遂に壊れてしまったのか。
それとも、これが巷で噂のゲーム脳か?いや違うけどさ。
いやしかし、行き成り現代の街中に樹が生えるなんて、ゲームでも小説でも見た覚えが無いのだけど。
「はぁ…しかし、まさか幻覚まで見えるとは…あれくらいの運動で、そこまで疲れてるのかなぁ…もっとしっかり鍛えるべきなのか」
いやしかし、今のままでも十分に昔よりかは鍛えているのだけど。
そもそも、昔が全く運動してなかっただけだが。
取りあえず風呂に入ろう、前世から風呂に入れば疲れがほぼ吹き飛ぶタイプだしな。
+++後書きとコメレス
話の区切り方を考えるのが面倒になったので、一気にアニメ三話を走り抜けました。 今後はこの形にしていくつもりなので、更新が遅くなるかもしれません。
>オヤジ3さん
…どうなんでしょう? 主人公は、二十歳で会社員の高卒君なので、何にも考えてないですねぇ…作者の十和も、大学行ってないですし…不明ということでお願いしますww
将来の道筋としての正解は、はいっておりましたwwただそれ以外にも、入れてみると面白そうな要素があったので、もしそこまで続けば入れさせてもらうかも知れませんw