+++
「そういえば、何だが」
大騒ぎからしばらくして、皆がそれぞれの注文したものを食べている。
そんな時にふと、本当にふっと思い浮かんだのでそう呟いたら。
「あ、すずかちゃんの一口貰っても良えかな?」
「うん、良いよ」
「はやて、私のも食べてみる?」
タイミングが悪かったのか、まさかのガン無視だったりする。
三人とも俺に奢られてるくせにと思いながら、これはさすがになんか寂しいものが。
思わず、遠い目をしていると。
「え、えっと! どうしたの、雄介くん!?」
なのはのみ、慌てたようだがフォローしてくれた。
遠い目をやめ、うんと軽く頷いて気分を元に戻し。
「もう少し早ければ、はやてもユーノに会えたなと思ってな」
その言葉に、ちょっと驚いたように頷くなのはを見て、はやてが不思議そうに首を傾げる。
聞いてたのかよ、と頭の片隅では思いながら。
「ユーノ、くん? 一体誰なん、それは?」
はやての尋ね方に、思わず苦笑する。
まぁ、そうやって勘違いしかねない言い方はしたな俺。
同じ事を思ったのか、アリサもすずかもちょっと笑っていて。
「誰って、言うか…なぁ?」
「そうだね、誰って言うのは、ちょっと正しくないね」
「そうね、人じゃないんだし」
俺とすずか、そしてアリサが次々に言う言葉に、混乱したのか思いっきり首を傾げるはやて。
人じゃない発言に、特に首を傾げていたり。
そんなはやてに、ネタ晴らしと行こう。
「あのな、人じゃなくって、フェレットなんだ。 少し前まで、なのはの家に居たフェレットの事でな?」
「フェレット?」
ほうほうと言った具合に、なんか納得したような動きのはやて。
そして、そのままアリサが会話に加わり。
「少し前って言うか、一週間も経ってないじゃない。 タイミングが悪かったわね、はやては。 なかなかユーノみたいに頭の良いフェレットなんて、居ないでしょうし」
「そうだよね…そういえば、なのはちゃん? ユーノくんって、フェイトちゃんの知り合いの人が飼い主だったんだよね?」
そうそう、何の偶然か、フェイトの知り合いがユーノの飼い主という事で、フェイトを通じてユーノを返すことになったんだよな。
返すときは平日だった所為もあって、なのは一人に任せて詳しいことは何も聞いていないんだけど。
会ったのがフェイトじゃないのは、ユーノと入れ替わるように持ってきたビデオレターで、近々遊びに来る事を聞いたなのはが泣いてしまったので分かったが。
会ってたのならビデオレターを見て泣かないだろうし…いやしかし、あの時は本当に驚いた。
驚き過ぎて、隣で何か訳のわからないことを必至に言いまくってた記憶しかないし。
うん、アリサとすずかがニヤニヤしてたので、想像はつくけどしたくない。
「…そういや、ユーノは無事に向こうに着いたのか?」
「え、あ、うん。 ちゃんと着いたって連絡はあると思うよ?」
それは良かった、が、なんかその言い方だとユーノが返事をしてくるみたいな言い方だな。
いくらアイツが頭良くても、流石にフェレットがメールを打てたりはしないだろうし。
とか、そんな事を考えていると。
「えーと…なんか、また私には分からん名前が出たんやけど…」
誰かの呟くようなボヤキに顔を向ければ、そこには何だか微妙に拗ねているはやての姿が。
「お、すまんウッカリしてた」
「…良えんよ、良えんよ。 私はどうせ今日からのポッと出やし、話題に置いてかれるのもしょーがないんや」
「…や、全然しょうがないって言い方じゃないでしょ」
そういうアリサの言葉に、分かりやすく顔を背けたりしてみせるはやて。
いやお前、そんなキャラじゃないよな?
「ま、まぁまぁはやてちゃん。 確かに、はやてちゃんの知らない人ばっかりの話題にしちゃったのは悪かったけど、ね?」
「そ、そうだよ。 ほらはやてちゃん、これ新メニューでオススメ何だよ?」
四人がかりで、どうにか機嫌をとってから、改めてフェイトについて説明する。
ちなみに機嫌を取るのに使用されたのは、俺が食べてた翠屋の新作品を半分ほど。
何故俺からとか、太るぞこの野郎とか言いたいことはあったが、後者は誤爆したら俺が悲惨な目にあうので自重した。
ともあれ、
「まぁアレだ、フェイトも友達の一人だな…まだ実際に会った事ないが」
「もう大体半年くらい経つのよね、会った事無いけど」
「顔を合わせたことはあるのにね、会った事は無いのに」
「…え、何それ? からかわれとるん、私?」
違う違うとは言うが、実はわりとからかってます。
ともあれ、なのはも入れて四人で否定し。
以降の説明は、取りあえずなのはに任せることに。
「えっとね、フェイトちゃんって言って、会ったことがあるのは私だけで、皆はまだビデオレターでしか会ってない子なんだけど…」
そんな風にはやてに説明するなのはの言葉を聞いて、改めて普通にはあり得ないよなぁと思い直す。
ある程度互いの性格を把握していて、さらには見たこともあるのに会ったことが無いなんて。
うん無いな、あり得んあり得ん…まぁ、それが今あり得ているわけなんだけど。
+++side、アリサ
「なぁなぁ、すずかちゃん、アリサちゃん?」
「ん? どうしたの、はやてちゃん?」
はやての呼びかけには、ちょうどストローに口を付けたところだったから、私は顔を向けるだけ。
まぁはやては気にしてないようで、そのまま話を続けて。
「んーとなぁ、ちょっと確認したい事があるんやけど」
「確認? なにか、気になることでもあったの?」
「んー…」
すずかに言われて、ちらっと視線を動かしているはやて。
その視線を追ってみれば、その先には今はちょっと席を離れている雄介の姿。
何でかと言えば、翠屋の方が忙しくなってしまってなのはが手伝いに行って、さらにそれを雄介も手伝いに行っちゃったからなんだけど。
「雄介がどうかしたの?」
ストローから口を離してそう聞くと、はやてはちらちらと雄介の動きを確認している。
多分、こっちに来ないかどうかを確認してるのよね。
確認はちょっと掛かりそうだし、取りあえずもう一度ストローに口をつける。
そんな風にはやてを待っていたら、おもむろにこっちを向いて。
「雄介君って、やっぱりなのはちゃんの事好きなん?」
言われたことに、思わずジュースを吹きそうになった。
いや、唐突だったのはもちろんあるし。
いくら何でも、かなり直球に聞いてきたなぁとか、色々、ねぇ?
「…えーと、やっぱり分かっちゃう?」
「そりゃあ、あれだけ分かりやすかったら、誰でも分かるんと違う?」
すずかに対するはやての答えにやっぱりそうなのかと思うけど、その割りにクラスではバレて無いのよね不思議と。
いや、そういう気がするだけなんだけど。
そういう話も聞いたこと無いし、あながち間違ってはいない筈。
「えっとはやて? 確認なんだけど、それって今日気が付いたの?」
「うん? そうやよ、今日初めてなのはちゃんに会ったんやし」
それってつまりこの短時間でバレて、更にはそれだけ雄介が分かりやすいって事で良いわよね。
まぁ、そこを否定する気は少しもないんだけど。
気づいたら、けっこう丸分かりだしアイツ。
「ちなみに、はやてちゃんにはどんな感じに見えたの?」
「うーん…単的に言うと、雄介君の一方的に片思い?」
「…完璧に大正解よ、それで」
うん、ここまで見事にバレてるなら、もう隠すことは考えなくてもいいわよね。
まぁ、初めに好きって言った時点で、ほぼ無理だとは思ったけど。
どんだけ分かりやすいのよ、アイツは。
「で、そう言うって事は、二人にはバレてるって事で良えの?」
「…まぁそうね、もう一歩踏み込んで、時々すこしは協力もしてるけど」
そう言うと、何やら面白そうな顔をするはやて。
分かりやすいと言うか、興味津々と言うか。
まぁ、それは私も一緒だから色々してるんだけど。
「是非、その辺詳しく!」
「そーねぇ…」
一体、何から話せば良いか?
うん、取り合えず初めの方から簡単に話しますか。
話さないのは、面白くないから却下よね。
+++
「はー、そんな感じなんか雄介君」
「けっこう省略したけど、大体そんな感じよ?」
ほうほうと頷くはやて、その表情がものすごく輝いてるのは、まぁ聞かなくても良いわよね。
けっこう色々話したなぁと思いながら、まだこっちに戻ってきていない雄介に視線を向ける。
当然だけど、こっちが何を話していたかなんて知りもしない…知ってたら、間違いなく怒鳴りこんでくるだろうし。
「…雄介君の個人情報、だだ漏れだね」
すずかがそう呟くけど、話してる時に一回も止めなかったんだから、すずかも同罪でしょ。
いやはやと、面白そうな顔をして雄介を見ているはやてを横目に、手元のケーキをまた一口。
うん、最終的に雄介に勧められた奴に変えてたけど、やっぱり何か口に合うのよね。
「いやはや何と言うか…二人とも良えなぁ、こんな楽しそうな事に率先して関われるやなんて」
「本音がだだ漏れよ、はやて」
楽しそうと言うか、まぁ楽しいのは間違いないので否定はしないけど。
それにしたって、いくら何でも本音が漏れすぎだから。
そんな事を考えていると、はやてがそういえばと前置きしてから。
「雄介君は分かりやすかったんやけど、なのはちゃん的にはどんな感じなん?」
「…んー、そっちは、ねぇ?」
ほぼ無意識に、無言ですずかに同意を求めると、同じように首を傾げられた。
雄介の方は分かりやすいんだけど、なのはの方って言われると、正直に言って微妙としか言いようが無かったり。
無言でそんなやり取りをしていたせいか、はやては不思議そうに首を傾げた後で。
「えーと…実は、まったく脈なしやったり? と言うか、聞いたらアカン類の?」
「あーううん、そういう訳じゃ無いけど」
無言のやり取りをそっちの方向で解釈したらしいはやてに、取りあえずは否定する。
さすがに、そっちは無い…筈。
それだったら雄介が憐れすぎるし、と言うか考えたことも無かったわね。
一応、嫌ってるわけじゃないのは分かってるけど…その逆って言われると、ちょっとねぇ。
なのはが雄介以外の男子と交流があって、その上で雄介と特別仲が良いようなら確実なんだけど。
私も雄介以外の男子と大して交流があるわけじゃないけど、それでもなのはが他の男子にも雄介と同じように接するかって言われると、無いと完全には断言は出来ないし。
なのはの事だから、もしかしたら雄介以外にもあんな感じってあるかも知れないし。
…そういえば、前にビデオレターで見たクロノって人には、けっこう親しげだったわね。
実際に会ってるのを見た事無いから、何とも言えないけど。
「…どう思う、すずか?」
「嫌いじゃないのは分かってるけど、好きって言われるとまだちょっと、かな?」
すずかと一緒に、思わずうーんと唸る。
今まであんまり、そこの所は真面目に考えてなかったわね。
ふと、はやてまで考え込むように首を傾げていたので。
「あー、まぁ嫌いじゃないのは間違いないと思うわよ?」
「ふぅむ…」
そう言ったにも関わらず、まだ首を傾げるはやて。
何だか小声で、でもアレは…とか呟いてるけど、きっとそれっぽく見えただけよ、それは。
そう考えて、取りあえず何も言わないでいると。
「んー、まぁそんな感じなんやね。 それじゃあ、今はなのはちゃんの気持ちの確認中なん?」
「うん、そんな感じだよ」
「なのははなのはで鈍そうだから、いっそ雄介が告白した方が早そうなんだけどね」
割と本気でそう呟くけど、ぶっちゃけて言えばどっちもどっち。
なのはが気づくのも、雄介が告白するのも同じくらい想像つかないし。
でもそう考えると、この二人ってどうやったら進展するのかしらね?
雄介からでも、なのはからでも、おかしくないと言えばおかしくないんだけど。
「…何やってるんだ、三人揃って首を傾げて?」
「あ、雄介君」
突然掛けられた声に、内心で驚きながら声の方に顔を向ける。
何時の間に居たのか、不思議そうに…と言うより、胡散臭そうな顔でこっちを見ている雄介の姿。
日頃の行いかも知れないけど、私達相手にその顔はどうなのよ?
「何時の間に戻って来とったん?」
「ついさっき、もう大丈夫だって言われて、なのはももう戻ってくるぞ」
そう言いながらも、まだ胡散臭げな顔をしている雄介。
それを軽く無視しながら、なのははどこだろうと辺りを見てみれば、タイミング良く戻ってきていて。
「立ちっぱなしでどうかしたの、雄介くん?」
「ん、いや、どうしたって訳じゃないんだが…」
まだ胡散臭げな雄介の視線を辿って、なのはも不思議そうに私たちを見るけれど。
さっきみたいに不意を突かれたわけでもないので、簡単に肩をすくめて誤魔化してみる。
雄介もハッキリ疑ってるわけじゃないから、これでうやむやにしてしまおう。
「…何でもない、と言うことにしといてくれ。 そういや、ちょっと忘れてた事があるから、ちょっと桃子さんの所に行ってくるな」
「あ、うん、行ってらっしゃい」
そう言って、またお店の奥に向かう雄介。
それを見送ってから、なのはも改めて席に座って。
どうにか誤魔化しきれたなぁと思って、また飲み物に口を付ける。
「なぁなぁ、なのはちゃん? ちょっと聞いても良え?」
「うん? どうかしたの、はやてちゃん?」
とそこで、身を乗り出すようにして、なのはに何かを尋ねようとするはやて。
一体どうしたのかと思っていると、
「なのはちゃんって、雄介君の事をどう思っとるん?」
思わず、また飲み物を吹き出すかと思った。
いや、いくら何でも率直に聞きすぎでしょう、はやて!
聞かれた方のなのはと言えば、実に何でもなさそうな顔で、ただ不思議そうに首を傾げて。
「どうって…どういう事? 雄介くんは、お友達だよ?」
「んー、あーとそういう訳ではなくと言うか、何と言うか…」
はやての疑問に、真っ正面から答えるなのは。
ふぅ…ダメよはやて、なのはには遠回しに聞くなんて通じないんだから。
これ以上、吹き出しそうになるのも嫌なので、取り合えず飲み物は置いて。
「あーうん、そうやね…なのはちゃんって、雄介君以外に男の子の友達とか居ったりするん?」
「えっと…うん、ユーノくんとか、クロノくんとか、そうかなぁ?」
「や、私はどっちも知らんのやけど…と言うか、ユーノくんってフェレット違うん?」
はやての言葉に、なのはが慌ててクロノとユーノなる新しい…と言うか、聞けばフェレットの方のユーノの飼い主の事らしいけど、取りあえずその二人を説明しているのをこっそり聞きながら、少しだけはやての聞き方に感心する。
この流れってアレよね、その二人と雄介と比べてとか、そんな感じの聞き方。
その聞き方なら、なのはも気づいてない事とかが、もしかしたら解るかも知れないし。
「ふむふむ、そうなんか…あ、それで何やけど、その二人とかと比べて雄介君はどうなん?」
そんなはやての聞き方に、なのはは困ったような顔をして。
少しは手助けしなきゃなぁとも思うけれど、でもその前に。
ちょっとだけ、自分の興味を優先しても、それは仕方ないわよね?
+++side、なのは
「どうって、言われても…お友達は、お友達だよ?」
「いやいや、ちょっとぐらい何かあったりせえへん? 雄介君にはこんな風やけど、他の二人には違うかなぁみたいな?」
はやてちゃんにそう言われて、咄嗟にアリサちゃんの方を見るけれど。
何だかアリサちゃんからも、似たような事を言われてるような視線を向けられてるように感じて。
どうしてこんな事聞いてくるんだろうなんて考えながら、少しだけはやてちゃんの言う事を考えてみる。
雄介くんと、ユーノくんやクロノくんとの違い…って言うと初めに思いつくのは、やっぱり魔法の事。
ユーノくんは魔法の先生みたいな感じで、クロノくんも同じような感じだけど…雄介くんだけは、魔法に何にも関わりが無くて。
もちろん、普通に考えれば雄介くんが魔法になんの関係も無いのが、普通の事だって言うのは分かってるけれど。
それに、はやてちゃんだって魔法の事なんか知らないんだから、聞きたいのもこういう事じゃないと思うし。
でもそうなると、他に雄介くんとユーノくん達との違いなんて、ちっとも思い浮かばなくて。
「うーん、やっぱり無いと思うよ?」
「ホンマに? 何かこうその二人には言えんけど、雄介君になら言えることとか、あったりせえへん?」
はやてちゃんにそう言われて、改めて考えみて…ふっと、フェイトちゃんの時の事が頭の中を過ぎった。
フェイトちゃんの事はユーノくんにもクロノくんにも、もちろん相談してたけれど。
その中でも、友達になりたいって言うのを相談したのは、雄介くんにだけだった。
事情を知ってたユーノくんとクロノくん、事情は知らないけど同じ女の子同士のアリサちゃんとすずかちゃん。
皆には、どうやって友達になれば良いのかなんて、聞こうとも思いつかなかったのに。
雄介くんにだけは、隠し事も少しだけ話して、相談してたよね。
「なのはちゃん? 黙りこんでどーしたん?」
「え、あ、えっとね…雄介くんだけに相談してた事とか、あったなぁって思って」
考え込もうとした時に、ちょうどはやてちゃんに声を掛けられて。
さっきまでの考え事を、何の気なしに正直に話したら。
「え!?」
「そ、そうなの、なのはちゃん?」
アリサちゃんとすずかちゃんの方が、何だか凄く驚いた顔をしていた。
どうしてそこまで驚かれてるのか分からなくて、首を傾げて二人を見てると、何だか小声で囁きあい始めて。
何でだろうと思いながら、取りあえずはやてちゃんに視線を向けると、そこには凄くニヤニヤした顔。
直感で、普段からかってくる時とかのお姉ちゃんと同じ感じがして、咄嗟に椅子の背もたれに背中を押し付けるけれど。
「な、の、は、ちゃ~ん?」
「な、なぁにはやてちゃん?」
とってもイキイキとして見えるはやてちゃんに、咄嗟に逃げなきゃと考えるけど後ろにはもうこれ以上は逃げれなくて。
それに落ち着いて考えれば、別に逃げる必要なんて無いんだけど…何でか、あの凄くイキイキしてるはやてちゃんからは、すぐに逃げなきゃって思う。
でも、真っ正面には凄くイキイキとした顔のはやてちゃんが居て、あぁどうやって逃げようかなと、また少し現実逃避していると。
「うぉい、こら」
「あたっ!?」
声が聞こえるまで気づけなかったけれど、何時の間にかはやてちゃんの隣に誰かの姿があって、その誰かは見事にはやてちゃんの頭にチョップを落としていた。
もちろん、人影の正体はちょっと席を離れていた雄介くんで、呆れたような顔でヒラヒラとチョップした手を振っている。
良かったって、ほっと胸を撫で下ろして。
「あいたたた、一体なにをするんや雄介くん」
「やかましい、お前こそ、何なのはを追い詰めてんだ」
どうして、ほっとしたんだろうって思った。
慌ててたけど、よく考えてみれば、別に話しても良かった筈なのに。
内緒のことは内緒のまま、ただ雄介くんに相談したって事だけ言えば良かったんだけど。
何で、あんなに慌てちゃったんだろう?
「追い詰めるやなんて人聞きの悪い、単に聞いとっただけやよ?」
「嘘つくな、嘘を。 あからさまに何か、言いたく無さそうに見えたぞ」
そう言って、私に視線を向ける雄介くんに、曖昧に笑いながら頷いてみせる。
言いたくないって言うか、本当はまだどう言うのかも全然分かってなかったから、ちょっとだけ誤魔化して。
多分、自分でもけっこう怪しかったと思うけど、それでも雄介くんは何も言わずに席に戻ってくれて。
「で、そこの二人は、何を密談してんだ?」
「…べ、別に、何でもないわよ?」
「そうそう、ちょっとビックリする事があっただけだから」
慌てたように手を振る二人に、雄介くんは軽く肩をすくめるだけ。
はやてちゃんは、まだ何か聞きたそうに私を見てたけど。
雄介くんが隣でそれとなく抑えてくれてたから、それ以上は何も聞かれることが無かった。
+++side、雄介
今日の集まりはまぁ途中で色々合ったりしたが、取りあえず主目的のはやてをなのはやアリサに会わせるのは達成できた。
結局の所、一日中翠屋に閉じこもっていた事にはなったけど、それはそれで有意義な一日でもあった訳だし。
そして夕方になり、はやての送迎は朝のように向こうの人に来てもらう訳ではなく、すずかの方からはやての家に車で送ることになっていた。
いや、朝は集合地点とか翠屋の位置とかの関係で送って貰わなきゃダメだったけど、帰りは特にそんな事も無いので最初からノエルさんにお願いする予定だったわけで。
「それじゃねはやて、また今度」
「うん、またなぁアリサちゃん」
「今度会った時は、もっと色々お話しようね?」
「そうやね、なんか面白い本でも探しとこか?」
「え、えーと…それは、雄介くんにお願いしてるから、遠慮しとくね」
車椅子とかの積み込みの関係で、一足先に車に乗り込んでいるはやてと、なのはやアリサが別れの挨拶をしているのを、すずかとノエルさんがにこやかに見守っている。
まぁ、すずかははやての家に送り届けた後で言えば良いだけだしなぁ。
ちなみに、俺は何してるかと言うと。
「はやて、ほらコレ」
「おぉ? 急に戻ったと思ったら…何なん、コレ?」
ちょっと翠屋の中に戻って、この箱を取りに行ってただけなんだよな。
俺の渡した翠屋の箱をしげしげと眺めながら、そんな事を言うはやてに。
「何に見える?」
わざとらしく、そんな風に聞いてみる。
そうすればはやてもニヤリと笑いながら、顎に手を当てたりしつつ。
「ふぅーむ…重さはそんなに無い、加えて言えばちょっと箱もヒンヤリしとるし…」
そこで一度言葉を切り、わざとらしく大きく頷いた後で。
「ずばり、中身はケーキやな!?」
「うむ、正解だ」
「…って言うか、翠屋の箱に他の何が入るのよ?」
満足げにはやてと遊んでいたら、呆れたようなアリサのツッコミが来たが無視する。
なのはやすずかの笑っている視線にも、気づかない振りをしながら。
「でも、どうしたんコレ? わざわざお土産やなんて?」
「あぁ、お前用じゃなくてヴィータちゃんにな。 後、シグナムさんとかシャマルさんとかが食べればと思ってな…一応、人数分より多目には入れてあるけど」
残念ながらそれぞれの好みは知らないので、一般的に誰もが好きそうなのをチョイスした。
ショートケーキとかモンブランとか、後はシュークリームとかもな。
数は六個ほど入れてあるけど、まぁヴィータちゃんは多く食べそうだし。
「今度、ヴィータをお礼に行かせたりせんとあかんねぇ」
「ははは、まぁまた図書館とかで会うだろ」
しみじみと、何だかオバサンくさい事を言うはやてに、笑って返して。
最後までそんなやり取りをして、賑やかなままはやてと別れた。
「雄介くん、ヴィータちゃんとかシグナムさんって?」
「ん、あぁはやての家族だよ。 本当は親戚らしいけど、ヴィータちゃんは妹みたいな子で、シグナムさんはお姉さんみたいな人だったぞ」
「へぇ、私もいつか会えるかなぁ?」
「まぁ、その内会えるだろ。 はやての家に遊びに行った時とかな」
そう答えつつ、そういえばこういう時に写メでもあれな、どんな子かとか分かりやすく伝えられるのになぁなんて思う。
今度会った時にでも、一応はやてに言ってみるか。
で、その後ははやてを送るためにすずかも居なくなったので、解散しようかとの話にもなったが、アリサの奴がなのはを連れて家に強襲をかけてきたので、しばらく家で遊んでから改めてその日は解散したのだった。