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十一月のある日曜日、俺は八神を待つためにすずかと二人で、翠屋からほど近い商店街の入り口に来ていた。
もちろんそこは外となるわけで、最近はもうめっきりと寒くなり、吐く息も少しばかり白く見えたりするのだけれど。
そんな時にどうして外に居るのかと言えば、今日がこの前なのはと八神に約束した、その約束の日だからだ。
準備としては、なのはにも八神がOKを出したことを伝えたり、ついでに集まる場所に翠屋を使わせてもらう約束を桃子さんとしたりとか。
ちなみに翠屋を使うのに、俺たちが外に居る理由はある意味単純。
八神が、翠屋の場所を知らなかったのだ。
聞いたことはあるかもと言っていたけれど、それだけじゃ不確実なので翠屋近辺で他に知ってるところは無いかと相談したところ、この商店街に一度集合しそれから翠屋に移動することに決まったのだ。
後、なのはとアリサは現在翠屋にて待機中。
こっちに連れてきても良かったけど、そうしたらそのまま外でしばらく話し込みそうだし…そしたら寒いし。
そんな感じの、もろもろの理由ですずかと二人、八神待ちな訳だけども。
「…もうすぐだっけか?」
「そうだと思うよ? …と言うか、少し前にも同じこと聞いたよね」
だって寒いんだ、とは言わない。
すずかの視線の方が、冷たく感じるし…怖いし。
いや、同じことを何回も聞く俺も悪いんだろうけど。
約束の時間に対して、余裕を持つのは良いことだろうが、余裕を持ちすぎるのは良くないと今日で理解した。
特に冬は、寒すぎて待つ時間も長く感じるしな。
そんな事を無意味に考えながら、また携帯を取り出して時間を確認すると。
「あ、来たみたいだよ雄介君」
「ん? おぉ、本当だ」
携帯から顔をあげて、すずかの見ている方向を見れば、そこには車椅子に乗った八神の姿。
そしてその後ろに…誰だろうか、あの金髪の人は?
今までに見たこと無い人だけど…あぁ、そういえばまだ俺の会ってない人が、居るとか居ないとか聞いた覚えが少しばかり。
パッと見、ヴィータちゃんのお母さんとかだろうか?
八神には似てないしヴィータちゃんともあんまりだけど、パッと見た外見年齢的にはヴィータちゃんの方が正しい気がする。
そんな事を内心で考えながら、こっちに気づいて手を振っている八神に同じように振り返しながら。
「久しぶり、佐倉君。 すずかちゃんは三日ぶりやね」
「おう、と言うか2週間くらいだろ?」
「そうだねはやてちゃん、それとお久しぶりですシャマルさん」
八神と挨拶をかわしながら、すずかがシャマルさんと呼んだ人に視線を向ける。
と、ちょうどこっちを見ていたのか、ばっちりと視線が合ってしまった。
ニコリと微笑まれたので、反射的に笑顔を浮かべながら。
「えーと、初めまして。 佐倉雄介って言います」
「はい初めまして、シャマルと言います。 佐倉君の事ははやてちゃんや、ヴィータちゃんから色々聞いてますよ?」
咄嗟に八神に視線を向けたら、にこやかな笑顔を返されてしまった。
どんな話をされてるのか、非常に気になるんだけど。
ヴィータちゃんからは、ゲームの上手い奴とかだろうか? …いや、すずかの方が上手いからそれは無いな。
うんまぁ、それは置いておくとして、だ。
これで俺も、八神家のメンバー全員に会ったことになるんだなぁ。
とある折りに、両親が居ないっていうのも聞いちゃったし。
「何を聞いてるのか、ちょっと気になりますけど…えっと、シャマルさんは、八神の付き添いですか?」
「ええ、ここまでですけどね」
思わず、ちょっとホッとした。 いや、子供の集団の中に大人が一人って、俺たちもシャマルさん的にも微妙に気まずいし?
…いや翠屋だったら、待って貰ってても大丈夫だったりするか?
桃子さんが、色んな意味でそのまま放っておくとは思えないし…いやまぁ、それはそれで気まずいか?
「佐倉君、何をそんなに考え込んどるん?」
「ん、いや、大した事じゃないぞ」
八神とそんな会話を交わしつつシャマルさんに一礼してから、それから改めてすずかと八神の三人で今度こそ翠屋へと向かう。
移動の間は、八神からなのはやアリサが一体どんな人なのかとかを聞かれたが、会えば分かるとすずかと二人で軽く弄ったり。
少し拗ねたような顔もしていたが、まぁ最終的には新しい友達が出来るのが楽しみでしょうがないらしく、終始笑顔だった。
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そういえば車椅子と言うのは、折りたたんだりは出来るけれど、それでも結構デカい。
なので今回翠屋を使わせてもらうにあたり、桃子さんに予めお店の隅の方の席をちょっと取っておいてもらったりした。
広さでいうなら外の席もありだが、八神の足とかに気を使うというか、冷やさないほうが良いかもとのすずかの発言で店内に決まったんだけど。
まぁ、席に着くときは車椅子から降りてもらってるんだけどな。
一人だけ通路側に居るとかより話しやすいし、何より降りてもらわないと車椅子がとてもスペースを取るし。
折りたたんだ車椅子を隅に寄せたりとかまぁそういう云々があって、ついでにそれぞれで飲み物を美由希さんに注文しておき。
「そんじゃまぁ、八神から自己紹介といくか」
「え、あ私からなん!? え、えーと八神はやてって言います、初めまして?」
自己紹介に順番を考えるのも面倒だったので、取り合えず隣に座っている八神に話を振る。
誰かが口火を切らなきゃいかんので、取り合えず八神に無理矢理切らせてみたり。
ちなみに席順としてはテーブルの手前側から、俺と八神、そして向かいになのはとアリサとすずかって感じになってたりする。
「初めまして、アリサ・バニングスよ。 はやてって、呼んでも良い?」
「私、高町なのはって言います。 私も、はやてちゃんって呼んでいいかな?」
「あ、うんモチロンや。 私も、二人を名前で呼んで良え?」
アリサとなのはが笑顔で頷くのに、八神も嬉しそうにしている。
うんうん、友達になるには名前からって、前になのはも言ってたっけな。
こっそりすずかに目配せして、しばし三人の会話を見守る。
「ねぇ、はやては最初、すずかたちとは図書館で会ったのよね?」
「うん、そうやよ。 私の手が届かんかった本を、すずかちゃんが取ってくれたのが最初なんやけど。 それからも、図書館で会う度に色々お世話になっとるんよ」
「私もアリサちゃんも、あんまり図書館には行かないから、今まで全然会わなかったんだね」
「本当よね、私もなのはも、雄介やすずかみたいに大量の本は読まないし…ねぇはやて、普段は三人でどんな話してるの?」
「んーどんな言うても、あの本は面白いとかこの本は面白いゆー話とかばっかりやよ?」
そういや、図書館とかだとそんな話しかしてないな。
まぁ図書館で会ったわけだし、俺も八神も読書が嫌いなわけじゃないし。
「本の話、ばっかり?」
「えーと、図書館以外やとゲームの話とかも少しは」
「へぇ、はやてもゲームやるのね。 どんなのやるの?」
「ジャンルで言うと、結構無節操にやっとるよー…あ、そういえば前にすずかちゃんたちが遊びに来たときには、ロボットシューティングなんかもやっとったし」
「あ、それって主人公の機体が緑っぽいやつ?」
若干八神は緊張しているみたいだが、それでも会話の弾む三人。
さっそく名前で呼び合ってるし、大丈夫だろうとは思っていたけど、本当にちゃんと仲良くなれそうだ。
と言うか、そういや結構似たようなゲームやってたな八神もアリサもなのはも。
いきなりのゲーム談義だけど、まぁ問題は無い…似た趣味なのは良い事だし。
すずかを見てみれば、何となく嬉しそうにやり取りを眺めてる。
そんな光景に、思わず一人で感慨深くしていると。
「…ちょっと、何そこで一人で頷いてんの雄介?」
急に、アリサからそんな事を言われた。
「ん、別に理由は無いが」
「何か、変な事とか考えてるんじゃないでしょうね?」
「考えてねぇよ。 つーか俺が一人で頷いてたら、なにかを考えてる証拠とでも言う気か?」
「わりと、その通りよね」
アリサに断定されつつ、なのはも苦笑して否定しない。
俺はいつも、そんなにも何か思惑があるように見えるのだろうか?
アリサは良いとして、なのはにもそんな印象なら地味にショックなんだが。
「待てコラ、さすがに心外と言わせてもらうぞソレは」
「ほほう、一体どの辺が心外なのよ?」
「まず、俺が頷いてるだけでなにか考えてると思うのは、さすがに飛躍しすぎてるだろ」
「普段の行動を思い返してみなさいよ、わりと納得するしか無いから。 まっ、正確には一人だけ黙って頷いてるときだけど」
自信満々に言い切られ、思わず納得しかける。
が、ここで納得したらアリサの完全勝利じゃないか。
ええい、口喧嘩では早々に負けてなるものかと思っていたのに…というか、ニヤニヤすんなコラ!
そうだ、すずかなら助けてくれるか?
そう思って顔を向けた瞬間、即座に視線を逸らされた。
え、何コレ? いつの間に周囲は敵ばかりに?
「あはは、冗談だよ雄介くん」
「そうそう、そんなにガッカリした顔しないで」
「まっ私は半分本気だけど」
「…お前ら、今度楽しい楽しい復讐タイムをやるから、三人揃って楽しみにしとけ」
特にアリサ、などと言っていると、ふと八神が俺たちを見ているのに気がついた。
見ていると言うか、俺となのはやアリサに視線を行ったり来たりさせてるんだが。
なんだろうと思いながら、八神に声を掛ける。
「どうかしたのか、八神?」
「え、あー…佐倉君って、アリサちゃんやなのはちゃんからも名前で呼ばれとるんやね。 佐倉君も名前で呼んどるし?」
「そうだけど…別に、普通だろ?」
すずかの事も名前で呼んでるし、特に変わった事じゃない筈だが。
いや、そういえば八神の事は名字で呼んでるから、八神としては驚くところ何だろうか?
…あーいや、そういえば学校の連中は名字で呼んでるから、どのみち変わった事と言うのに違いは無いのか。
「それやったら、私も名前で呼んでも良え?」
「ん、まぁ別に良いぞ」
ふと分類してみれば、学校外でも会うのに名字で呼んでるのって八神だけだ。
ヴィータちゃんは名字を知らないけど、フェイトの事だって名前で呼んでるんだしなぁ。
…なんか、郊外と校内で知り合いとかの呼び方がすっぱり別れてるな俺。
「そういえば、どうして八神は」
「あ、私の事ははやてって呼んでな?」
「…はやては、どうして今まで俺の事を名前で呼ばなかったんだ?」
こう言っては何だけど、あー…はやての性格から考えたら、今までそういう事を言わなかったことの方が驚きだ。
勝手な思い込みだけど、はやてのフレンドリーな感じから考えると特にそう思う。
なのはとアリサも最初から名前で呼んでるんだし、俺だけ名字呼びだったのはなぜだろうか。
「んー、何と言うか名前で呼んでも良えんかなぁって思っとったから」
「別に、コイツに遠慮なんてしなくて良いと思うわよ?」
「黙れアリサ、と言うかはやて? 別に、例えばすずかだって、俺の事は名前で呼んでたと思うが」
「いや、すずかちゃんだけ特別なんやろうなぁって、最初は思っとったし」
すずかだけ特別?
いやいや、何を根拠にと言うか、一体どの辺りが特別だったんだろうか?
一応、すずかに視線を向けるが、心当たりは無いらしく首を傾げられた。
「特に心当たり無いんだが、どの辺が特別だと思ったんだ?」
「んーあれやよ? 今はもう、違うなぁって思っとるんよ?」
なぜか言い渋るはやてに、むしろ疑問は深まるばかり。
なのはやアリサに心当たりはないかと視線を向けるが、特に心当たりは無いようで首を横に振られる。
ううむ、何だと言うんだ一体。
「ふーむ…で、結局どうしてそんな事を思い付いたんだ?」
「いやー、私はてっきり雄介君とすずかちゃんが、付き合ってるもんやと思い込んどったから」
ピタリと、思わず思考が停止する。
今何を言われたのか、耳に入った言葉がそのまま抜けていきそうなのを、どうにかこうにか耳に残して。
それから、ようやく言葉の中身に考えが及ぶ。
「………はっ?」
まずもっての第一声がそれだったのは、仕方ないのだと自己弁護したい。
いやだって、予想外にも程があるんだ幾らなんでも。
ただ俺には予想外でも、はやてにとってはそうでも無い様で、どうって事の無い表情のまま。
「いやいや、あれだけ仲の良い様子を見とったから、てっきり雄介君とすずかちゃんが付き合ってるもんやとばっかり。 今日の様子見て、別に雄介君はこれが普通なんやなって分かったんやけどね」
そう言いながらあっはっはっと笑うはやてに、衝動的に手が出そうになるがどうにかこらえる。
普通って何だ、普通って。
いや待て俺、問題はそこじゃないぞ。
と言うか大前提として、俺とすずかがそう見えるのか?
何の気なしにすずかを見れば、ちょうど視線がバッチリ合って。
しばしのアイコンタクトの後、
「無いな」「無いよ」
「ほら、息もピッタリやし」
「いや無い、多少息は合うかもしれんが、色んな意味で有り得ない」
「うん、多分私たちの性別が入れ替わっても無いと思うよ」
性別が入れ替わる事なんて無いとは思うが、すずかの言葉に激しく同意。
いや、だってなぁ? 俺とすずかが付き合ってるなんて、一体どこをどうすれば…って、はやてから見たらそう見えるのか。
しかし、そう見えるからと言ってそんな誤解を放っておく訳にもいかないわけで。
「いいかはやて、それは幻想で単なるお前の誇大妄想だからな?」
「うんうん、はやてちゃんと雄介君がそうなってるのと同じくらい有り得ないからね?」
「いやいや、それだけ息が合っとったら、知らんかったらそうとしか見えんって」
二人掛かりで否定しているのに、あっはっはっとまだ笑うはやて。
ええい、本当に分かっているのかコイツは。
完全に聞き流してるようにしか見えん、と言うかそんな妄想は捨ててしまえ!
全力で否定する俺に、本当に聞いているのか怪しいはやて。
しばらくそうやって否定していると、すずかは何だか疲れたようにガックリとしてしまった。
取り合えず、すずかの分も全力で否定していると。
「…それに、そういうのは私じゃなくてアリサちゃんじゃないかなぁ…」
「…は?」
「はいっ!?」
ポツリと疲れたように呟いたすずかの一言に、俺はもう緩い反応しか出来ず、アリサの方が強烈に驚いている。
とそれは、無意識な一言だったのか、すずかにしては珍しく慌てたように口元を隠して。
はやての顔が、一瞬輝いたように見えたのは気のせいという事にしたい。
「な、何でそこで私なのよ!?」
「ぐ、偶然じゃないかな?」
「何で視線を逸らすのよっ、あとはやてはニヤニヤしない! 言っとくけど、絶対に違うわよ!?」
猛烈な勢いでヒートアップするアリサに、逆にどんどん冷めていく俺。
何かもう、否定するのも面倒くさいんですけど?
が、アリサが強烈な視線で睨み付けてくるので、なにも言わないわけには行かないわけで。
「ない、全くもって有り得ない。 例え天と地が引っくり返っても無いし、そんな発想が出てきた事も有り得ない」
「…無い無いうるさいっ!」
「イッテ!? 膝を蹴るな!?」
完膚なきまでに否定しようとしているのに、何で蹴られないといかんのだ!?
否定しろと睨みつけてきたのはお前の方だし、取りあえず否定してるだけじゃないかよ。
と言うかテーブルの下で見えないのに、的確に俺の膝を蹴るとか、どういう感覚をしてるんだお前は。
「いやはや、やっぱり仲が良えんやねぇ」
「だ…」
「黙りなさい、はやて」
俺が言おうとした瞬間、俺の数倍の迫力でアリサが睨む。
怒りでか顔も赤く俺ですら悪寒がするのに、なぜにはやては平気そうにニヤニヤしてるんだろうか。
そしてすずか、溜め息吐いてないで原因なんだから少しは助けろ!
ヤバイ、何だこの混沌とした状態は。
幾らなんでも、一気に混沌としすぎと言うか何と言うか…!
そ、そうだ! ここはなのはに助けを求めよう!
「な、なのは! このアホに何と、か…?」
はやてを指差しながらなのはの方を向いた俺に見えたのは、何故か大きく目を見開いているなのはの姿。
まるでそれが、何かに心底から驚いてるように見えて、思わず口を閉じてなのはを凝視する俺。
するとなのはが、何度かチラチラと俺とすずかを交互に見た後で。
「えっと…そう、なの雄介くん?」
「な、何がそう、なんだ?」
そう、とだけ言われても、何の事かサッパリだ。
…と言いたいところだけど、いやいや、今の話の流れからすると一個だけ思い当たる事があったり。
いやまさか、無いよなうんうんと、内心で自己弁護を重ねていると。
「えっと…雄介くんと、すずかちゃんってその―」
「―無いです、有り得ない」
思わず敬語、しかし心の底から断言する。
なのに、なのはがまだ少し疑わしそうな顔なのは何故!?
いやいやいやいや、他の誰かならともかく、なのはにそう思われるのは色々キツいんですが!?
「…ホント?」
「本当、マジと書いて本気と読むくらいに」
「…逆やない、それ?」
黙れはやて。
目を見開いて睨み付けると、そそくさと視線を外していく。
動揺して言い間違えたんだから、そのくらい見逃しやがれ。
と、イカン、はやてに構ってる場合じゃなかった。
とにもかくにも、なのはの誤解を先に何とかしなければ!
この誤解だけは、絶対に見逃せない!
「無い、絶対に無いぞ。 天と地が引っくり返って、世界が滅亡しても有り得ない」
「そ、そうなの?」
「そうとも。 俺とすずかがなんて、まさかそんなってレベルの話だ。 コレの話は信じちゃイカン」
誠心誠意、心の底から断固として否定する。
コレってなんやーとはやてが言っているが、再び無言で睨み付ると、大人しくなって視線を逸らしている。
お前の発言が原因なんだからしばらく黙ってやがれと、視線で念を送り続けていると。
「…そっかぁ」
「!? そ、そうとも! 信じてくれたか!?」
なのはのようやく納得したような呟きが聞こえて、思わず勢い込んで向き直る。
ちょっと勢いを付けすぎたせいか、軽くなのはが引いていたのは気にしない。
そして今度は、なのはに向けて視線で念を送る。
「う、うん…取り合えず、違うんだよね?」
「そうとも、その通りだ!」
うむ、ちゃんと分かってくれたようで何よりだ。
俺とすずかやアリサなんて、全くもって有り得ないにも程があるというのに。
いやぁ良かった良かったと、思わず一人で腕を組んで頷いていると。
「と言うか雄介君、さすがにそんなに無い無いって言われると、ショックだよ?」
「あん?」
混ぜっ返すようなすずかの発言に、軽く睨むように視線を向ける。
が、
「ん、何かな雄介君?」
「…取り合えず、そんな笑顔で言ったら、微塵の説得力もないからな」
にこやかな笑顔の癖に、一体どこにショックを受けたと言うつもりなんだコイツは。
取り合えず、地獄に落ちてしまえと親指を下向きに突きつけて…何だか、ものすごく疲れた。
まだ合流して、そんなに時間は経ってない筈なんだが。
そんな事を考えていたら、ちょうど一番始めに頼んだ飲み物を美由希さんが持ってきてくれた。
受け取って、偶然にも全員揃ってまず一口。
いや…まぁうん、あれだけ喋ってたら喉も渇くよなぁ…ホントにさ。
+++side、はやて
いやぁ、こんなに飲み物が美味しいなんてなぁ。
あんなに全力で喋り続けとったの初めてやし、何と言うか自分でも驚いとるけど。
「あーはやて、何か食べたいのとかあるか? 俺は普通に腹が減ったけど」
「え? んーそうやね、ちょっとメニュー見せてもらってもええ?」
「ゆっくり選んで良いぞ、どうせアリサもすずかも大体決まってるだろうし」
そんな事を言いながら、メニューを渡してくれる雄介君。
ついさっきまで、散々にからかったりしてたけど、その辺は全然気にしんなぁ雄介君は。
いや、気にしん人やと分かっとったから、全力でからかったんやけど。
「じゃあ雄介、私はコレで」
「…待て、何で俺が奢るみたいな感じで言ってんだ?」
「あ、私はこっちが良いなぁ雄介君」
「だから待て!? 誰が奢るって言ったか、誰が!?」
アリサちゃんとすずかちゃんにからかわれ、それを見ているなのはちゃんが笑ってる。
こうして見とると、けっこう雄介君が中心なんやなぁ。
今日初めてアリサちゃんやなのはちゃんを見たときは、男の子が雄介君一人なのにビックリしたんけど。
「しょーがないわね、じゃあこっちで良いわよ?」
「待てっての! 奢ると言った覚えは一切無いぞ!?」
「じゃあ、私はやっぱりこっちで」
「値段が二倍なのは嫌がらせだな、そうだなすずか!?」
クソッなんて呟いとっても、指折り値段の計算をしとるのは、こういうのにもすっかり慣れとるのかなと思いつつ。
なのはちゃんも小さく笑いながら、メニューを眺めとって。
そんでもって、そんな四人をこっそりとメニューの陰から眺める私。
今日、すずかちゃんや雄介君の友達と会うのは、実を言えば少しだけ怖くもあった。
学校に行っとらんから、元々他人にも同年代の人に会う機会も少なかったし。
すずかちゃんと雄介君は、まぁ趣味が一緒やって分かったから、そんなに怖かったりとかも無かったんやけれど。
正直に言ってしまえば、何回かやっぱりやめてもらおうかと考えたりもした。
最終的には、会うことにしたんやけど…正直、仲良くなれるか物凄く不安やったから。
実際に会ってみれば、全然そんな事も無かったんやけどね。
「ええい、全く…はやて、お前は何が良い?」
「え、私にも奢ってくれるん?」
「今日はお前が主賓だし、それにどっちかと言えば、この二人の方にこそ奢りたくない」
そう言ってから、すずかちゃんのを安い方に変えさせようとする雄介君。
いつの間にか、すっかり全員分を奢る気になっとるみたいや。
そんな雄介君を見つつ、もう一度メニューに視線を落として。
正直なところ、人に奢られたりするのはちょっとアレやったりするんやけどね。
嫌と言うわけではなく、単にちょっとなぁと思うくらいなんやけど。
まぁうん、雄介君にだったら、あんまり気にせんでも良えかなーと思ったりもしたり。
なんと言うか雄介君を相手にしとると、ついそんな風に思ってまうんやもん。
気を張らなくても良えと言うか、自然体で居れると言うか。
そんな人やから、女の子に混じってもあんまり違和感無いんやろうなぁ。
「なのは、そろそろ決まったか?」
「あ、うん。 でも、本当に良いの?」
「大丈夫だ、すずかがが頼もうとした馬鹿でかいパフェに比べれば、些細な事だしな」
すずかちゃん、そんなの頼もうとしとったんや。
雄介君見る限り、それは阻止出来たみたいやけど。
なのはちゃんと雄介君、二人一緒に一つのメニューを眺めとるのを見て、ふとさっきの光景を思い出す。
コレと言われた事に反論してしまって、雄介君からの無言の視線を避けとったちょうどその時。
視線を逸らした先には、ちょうどなのはちゃんが居って、それで偶然見えたんやけど。
そっかぁって呟いたなのはちゃんの表情が、何と言うか…本当に、心の底から安心したって感じに見えたんやよね。
すぐに雄介君が振り向いたりしたせいで、本当にそんな風に見えたのかは確認できんかったけど。
でも確かに、そんな風に見えた気がしたんやけどなぁ…。
それも何と言うかこう…お友達って言うのとは、またちょっと別な感じで?
雄介君が、なのはちゃんに気があるのは何となく分かったし。
もしかすると、実はなのはちゃんの方も…
「おいはやて、そろそろ決まったか?」
「え、あ…え、えっとこれでも良えかな?」
「ん…よし、それなら大丈夫だ。 っと、美由希さん!」
ううん、良い所まで考えとったのに。
まぁでも、これ以上は今度、雄介君の居らん時に、すずかちゃんに確認してからにしようかな?
細かい事も色々、聞いてみた方が面白そうやしね♪