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No.13960の一覧
[0] 『男子が花道』(リリなの二次 転生男オリ主 原作知識なし 同年代)[十和](2011/02/03 00:01)
[1] 『本気でなのはに恋する男』 一話[十和](2009/11/14 18:14)
[2] 『本気でなのはに恋する男』 二話[十和](2009/11/21 14:06)
[3] 『本気でなのはに恋する男』 三話[十和](2009/11/26 00:43)
[4] 『本気でなのはに恋する男』 四話[十和](2009/12/06 21:56)
[5] 『本気でなのはに恋する男』 五話[十和](2009/12/12 17:08)
[6] 『本気でなのはに恋する男』 閑話[十和](2009/12/19 16:31)
[7] 『本気でなのはに恋する男』 六話[十和](2009/12/26 16:03)
[8] 『本気でなのはに恋する男』 七話[十和](2009/12/29 22:23)
[9] 『本気でなのはに恋する男』 八話[十和](2010/01/02 17:41)
[10] 『本気でなのはに恋する男』 九話[十和](2010/01/09 17:10)
[11] 『本気でなのはに恋する男』 十話[十和](2010/01/16 22:25)
[12] 『本気でなのはに恋する男』 十一話[十和](2010/01/24 00:44)
[13] 『本気でなのはに恋する男』 閑話2[十和](2010/02/06 15:52)
[14] 『本気でなのはに恋する男』 十二話[十和](2010/02/06 16:16)
[15] 『本気でなのはに恋する男』 十三話[十和](2010/02/13 16:36)
[16] 『本気でなのはに恋する男』 十四話[十和](2010/02/21 03:06)
[17] 『本気でなのはに恋する男』 十五話[十和](2010/02/28 03:46)
[18] 『本気でなのはに恋する男』 十六話[十和](2010/03/07 04:46)
[19] 『本気でなのはに恋する男』 十六話②[十和](2010/03/14 04:01)
[20] 『本気でなのはに恋する男』 十七話[十和](2010/03/21 14:32)
[21] 『本気でなのはに恋する男』 閑話3[十和](2010/03/28 10:42)
[22] 『本気でなのはに恋する男』 十八話[十和](2010/04/04 11:03)
[23] 『本気でなのはに恋する男』 十九話[十和](2010/04/11 00:50)
[24] 『本気でなのはに恋する男』 二十話[十和](2010/04/18 02:40)
[25] 『本気でなのはに恋する男』 二十一話[十和](2010/04/25 03:48)
[26] 『本気でなのはに恋する男』 二十二話[十和](2010/05/03 22:19)
[27] 『本気でなのはに恋する男』 二十三話[十和](2010/05/09 20:54)
[28] 『本気でなのはに恋する男』 閑話4[十和](2010/05/15 22:25)
[29] 『本気でなのはに恋する男』 二十四話[十和](2010/05/22 17:27)
[30] 『本気でなのはに恋する男』 二十五話(無印終了)[十和](2010/05/30 04:14)
[31] 『本気でなのはに恋する男』 二十六話[十和](2010/06/27 10:51)
[32] 『本気でなのはに恋する男』 二十七話[十和](2010/07/04 22:03)
[33] 『本気でなのはに恋する男』 二十八話[十和](2010/07/14 23:33)
[34] 『本気でなのはに恋する男』 28.5話[十和](2010/08/15 23:44)
[35] 『本気でなのはに恋する男』 二十九話[十和](2010/09/05 23:24)
[36] 『本気でなのはに恋する男』 三十話[十和](2010/11/07 00:59)
[37] 『本気でなのはに恋する男』 三十一話[十和](2010/11/25 00:15)
[38] 『本気でなのはに恋する男』 三十二話[十和](2010/12/24 00:10)
[39] 『本気でなのはに恋する男』 三十三話[十和](2011/02/03 00:02)
[40] 『本気でなのはに恋する男』 三十四話[十和](2011/04/12 00:05)
[41] 『本気でなのはに恋する男』 三十五話[十和](2011/08/12 23:47)
[42] 『本気でなのはに恋する男』 三十六話[十和](2011/12/04 23:03)
[43] 『本気でなのはに恋する男』 三十七話(空白期間終了)[十和](2012/03/20 00:10)
[44] なの恋 簡易的キャラ紹介[十和](2011/12/04 23:04)
[45] 『なの恋』 外伝 『ドリームカップル』[十和](2010/06/06 21:32)
[46] 『なの恋』 外伝『ARISA』[十和](2010/08/15 23:39)
[47] 『なの恋』 外伝『ARISA epⅡ』[十和](2010/10/06 00:08)
[48] 『なの恋』 外伝『ARISA epⅢ』(最新話)[十和](2012/03/20 00:10)
[49] ネタ『魔法少女リリカルなのは TTS』[十和](2010/06/20 03:13)
[50] オマケ『短編集』[十和](2010/10/06 00:11)
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[13960] 『本気でなのはに恋する男』 二十八話
Name: 十和◆b8521f01 ID:c60c17ce 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/07/14 23:33
「母さん、ちょっと欲しい物があるんだけど…」
「あら、そうなの。 珍しいのね、ゆうが欲しいものなんて」

 母さんの言うとおりだが、確かに親に何かをねだるのは久しぶりだ。
 欲しい物の多くは本だし、そっちはお小遣いで賄ってるしな。
 
「それで、何が欲しいの? 買ってあげるとはまだ言わないけど、聞くだけは聞いてあげる」
「…いつも思うんだけど、家って他の同年代の家とはかなり違う気がしてならないんだけど? 主に俺の扱いとか」
「あら? ゆうに合わせてるだけだから、ゆうは変だとは思わないでしょう?」

 ついこの間に9才になったばかりの、小学生の息子に対する態度じゃない気がするよ…俺は気にしないけどさ。

「…まぁ良いや、それでさ母さん。 欲しい物って言うのは…」

+++

 夏休みも八月に入り、なのはを誘う予定の夏祭り当日。
 賑やかな祭囃子が、少し離れたところから聞こえる。
 ちょうど夕方と夜の間…いわゆる、逢う魔が時とでも言う時間。
 俺は一人で、待ち合わせの場所へと歩を進めていた。

 母さんに頼み込んで買ってもらった浴衣の袖を揺らしつつ、慌てることなくノンビリと歩く。
 周囲には、俺と同じ方向に走っていくような人も居るけれど、俺は待ち合わせの相手が居るし、それにわざわざ買ってもらった浴衣が汚れるのは避けたいところだ。
 最終的に汚れるのは仕方ないけれど、せめて…うん、まぁなのはに見せるまでは汚さずに居たい。

 そんな事を考えつつ、浴衣に仕込んだ財布や携帯をもう一度確認。
 うん、忘れ物は無いし、お金も十分にある。
 ついでに、浴衣のほうも確認しどこか変になっていないかを見る。
 足元はさすがに普通のサンダルだけど、取りあえず浴衣のほうも問題は無しと…

(にしても、浴衣って着慣れてないと凄い違和感があるな…)

 買うときに合わせてから、今日始めて着ると言うのもあるのだろうけど、何だか違和感が凄い。
 今後着ることはもう無いにしても、今日残りをこの違和感と共に過ごさなきゃいけないのか。
 まぁ、なのはが浴衣着るって聞いたから、じゃあ俺もと思った俺が阿呆なんだけど。

 と言うか、漫画とかだと男女逆じゃないかこの思考?
 浴衣姿を見せたいとか、そういう事を考えるのは大抵女の子の方だろうに。
 …なのはは偶にヒーローっぽい事もあるけど、女の子だと言うのは間違いない訳だしな。

 そんな下らないことを延々と考えていたら、何時の間にか待ち合わせの場所のすぐ近くまで来ていた。
 お祭りの会場からそこそこ近い所為か、けっこう人がたくさん居る。
 待ち合わせは、この辺りとしか決めてないから…見つけられるかどうか。
 と、

「雄介くーん、こっちだよー!」

 俺が見つける前に、そう呼びかけてくる声。
 実は人が多い所為でどこから聞こえたか定かではないが、何となくこっちだと思う方向に顔を向けると…居た。
 間を人が通る所為で、よくは見えないが間違いなくなのはだ。

 良く見えないのに間違いないとか、自分でも矛盾してると思うけどそうだと思ったんだから仕方ない。
 ともあれ今度は、声の聞こえた方向へと足を進める。
 そうして人ごみを抜けた先には、待ち合わせの相手である高町なのはが、浴衣姿で待ってくれていたのだ。

「雄介くん、こんばんわ。 雄介くんも、浴衣なんだね?」
「あぁ、こんばんわなのは。 まぁ、着るのは今回が初めてなんだけど…なのはは、浴衣が、その、良く似合ってるな?」
「え? えと…そ、そうかな? 雄介くんも、似合ってるよ?」

 俺の言葉に、どことなく嬉しそうにしてくれるなのは。
 でも、今日のなのはは本当に可愛いと思うんだ。
 うん、今回は本当に贔屓目無しで、そう思う。

 薄いピンク…桜色と言えばイメージどおりだろうか?
 そういう色合いに、小さな俺の知らない花の模様。
 帯は青くて浴衣とは違う花の模様で、全体的にこう…可憐って言う言葉の似合いそうな浴衣姿。

 しかも、その浴衣に身を包むなのはだって、普段とは少し装いが違う。
 ある意味ではトレードマークとも言える、あの左右で縛った髪型ではなく、下ろした髪をうなじが見えるくらいまで結い上げて、頭の後ろでまとめているのだ。
 髪を纏めているのも、浴衣と同じような意匠の何か…俺は、それの正式名称を知らないけれど。

 更に手にも、これは帯と同じような意匠の巾着を持っていて…こう、全体的に見て本当に可愛い。
 何て言うか、俺みたいな俄かっぽい雰囲気がまったく無い。
 ってあぁもう…正直、眼福です。

「…予想しないでも無かったけど、本当になのはしか目に入ってないわね」
「でも、雄介君らしいんじゃないかな」

 ふと聞こえた声に、なのはの後ろへと視線を向ける。
 そこに何時から居たのか、アリサとすずかがそれぞれ浴衣姿で立っていた。
 呆れた顔とちょっと楽しそうな顔が、普段通りでもある。

「雄介もなのはも、二人の世界に入っちゃダメよ?」
「それって、どんな世界なの?」

 なのはとそんなやり取りをするアリサも、また浴衣姿で。
 赤い浴衣に、普段とは髪型を変えてお下げを二つ。
 普段からは想像もつかない格好なのに、普段と言動が全く変わっていない。

「雄介君も、浴衣持ってたんだ?」
「あーいや…実は買ったばっかりだったりする」

 俺の答えに、クスクスと笑って見せるすずかもまた浴衣姿。
 深い青…藍色と言えば良いのだろうか、そんな色の浴衣に髪は頭の後ろで一つに縛っている。
 すずかは普通に浴衣が似合うんだな、あぁそれにいつものカチューシャも着けているし。
 そんな二人に、思わず一言。

「って言うか何時の間に居たんだ、二人とも」
「…まぁ認めたくないんでしょうけど、ムカつくわねそれは」
「まぁまぁ、予想通りだったんだし」

 アリサが凄い目で睨んでくるが、すずかがおざなりに止めている。
 いや、別に意地悪するとかじゃないんだけど…こう、思わず二人も来ているのを意識から外していた。
 うん、だってなぁ…俺としては、今日はなのはと二人だけのつもりだったんだけど。
 あぁ、あの時に訂正できなかった、自分の弱さが情けない。

『夏祭り?』
『あ、あぁ…それで、どうだ? その…一緒に、行かないかと思ってな?』
『うん、良いよ』
『そ、そうか! じゃあ、その…土曜日だし、待ち合わせは夜の七時くらいで良いか?』
『うん、それで良いと思うよ? じゃあ、私はすずかちゃんに伝えるから、雄介くんはアリサちゃんに伝えておいてね?』
『…』
『あれ? も、もしもし雄介くん?』
『い、いや…分かった、じゃあよろしく…』
『え、う、うん…?』

 今思い出しても、情けない。
 こう、ごくごく自然になのはが二人も一緒だと言うので、どうにも訂正しきれなかった。
 その結構な精神的ダメージを負ったまま、アリサに電話したら珍しく慰められる結果になったが。

『いやまぁ…あ、あれよ? なのはは一応、何のためらいも無く良いって言ったんでしょう?』
『…まぁ、そうだが』
『じゃ、じゃあそれを良い方に捉えましょう!? ほら、一応嫌われてないって事で、ね?』
『…そんな初歩的なところまで、戻るのか…』
『え、あー…お、落ち込まないの! 嫌われてないんだから、それで良しとしなさい!』
『…お前には分かるまい、根性出して誘って、良いって言われた直後、何の疑問も持ってない口調で、他の人の名前が出てくるあの感じ…成功したと確信した、その直後だぞこんちくしょう!!』
『わ、分かったから! 電話越しに怒鳴らないで! あぁもう、しょうがないでしょアンタが最初に、二人でとか言わなかったんだから!』
『言わんでも、フツー分かるだろ!』
『なのはに分かるわけないじゃない、鈍いんだから!』

 思わず、電話の向こうで頷いてしまったのは秘密だ。
 ってあれ…? 慰められてるか、俺?
 最終的に、普通に怒られてたような…?
 いや、気にしても仕方ないよな、うん。

「ふぅ…まぁ、良いわ。 って言うか雄介も浴衣なのね」
「あーまぁ、実は最近買ったばっかりだったりするが」

 思いっきり溜息を吐きながら、そういうアリサ。
 何でか、ジロジロとこっちを見てくる。
 何だ、何なんだ一体?

「ふぅん…結構似合うのね、浴衣とか」
「…お前らほどじゃ、無いだろうけどな」

 しみじみ言う分、お世辞に聞こえなくて恥ずかしいものがある。
 だが、自分で言ったとおりアリサ達はこう、似合いすぎだ。
 もちろん、自分たちに似合いそうなのを選んだのだろうけれど、それでも…髪型とかも変えていて、更に似合っているんだから、俺なんて比べ物にならないわけだし。

「そんな事、無いと思うよ? ねぇ、なのはちゃん」
「うん、雄介くんもすごく似合ってるよ?」

 …そんなに一斉に持ち上げられると、恥ずかしくてたまらないものが…!
 何? ほめ殺しでもする気ですか君達は!?

「ま、まぁそれより行くか、祭りに?」

 照れ隠しにそう言って、三人を視線で促す。
 特に異論はないのか、三人とも頷いてくれる。
 そのまま四人、前後に分かれてお祭り会場へと歩き出した。

「当たり前だけど、浴衣着てお祭りなんて去年振りよね」
「そうだねー…あ、去年は雄介くん、まだ一緒じゃなかったよね」
「ん、まぁな。 よく話すようになったの、二学期からだったし」
「色々一緒に行くようになったのは、もっと後だったよね」

 今気がついたように、なのはが俺に尋ねてくる。
 これは切り出すタイミングを窺っていたのか、それとも居なかったかどうか分からなくなるくらい俺が馴染んでるのかどっちだろうか。
 前者なら気を使ってもらい、後者ならそれだけ俺が馴染んでると言う事だけど。
 まぁ取りあえず、嫌がられてはいないんだし。
 精一杯、お祭りを楽しむとしよう。

+++

 実のところ、俺はお祭りというものに参加するのは、ほぼ初めてと言っていい。
 まだ九歳だし、母さんと来た事もない。
 さらに言えば、友達もどこかに出かけたりするくらい、仲の良い友達なんて居なかったしな。

 もう一つ加えるなら、前世でも同じようなものだったから、本当に初めてと言って問題が無いくらいなのだ。
 なんとなく、本とかテレビからの知識で何があるとかは、少しばかり分かるけれど。
 お祭りの雰囲気とか、そういうものに触れるのは未知の体験とそう言っても過言じゃない。

がやがや

 視界を埋めるのでは無いかと思うくらい、様々な格好の人が居る。
 俺たちと同じような浴衣の人も居れば、普段着通りの人も居て。
 老人も大人も子供も、男も女もありとあらゆる人が、集まっているように思えた。

「雄介くん?」
「…え?」

 そんな人波に思った以上に当てられていたのか、隣に居たなのはの声にとっさに反応できず。
 ボンヤリしたまま、顔を向けると心配そうにこちらを見るなのはの姿。
 あぁ、何か言わなきゃとボンヤリと考えて。

「こら、何ぼけっとしてんの」
「いぎっ!?」

 問答無用でアリサの奴に頬を抓られ、いつも以上に気を抜いていた所為で思いっきり悲鳴を上げてしまう。
 滅多に無い俺の悲鳴に驚いたのか、アリサが驚いた様子で手を離した。
 別にそこまで痛かったわけじゃないが、咄嗟に抓られていた所を押さえる。

 アリサは別に普段と同じ調子でやったのだろうが、俺の反応が普段とあまりにも違う所為か、自分の手と俺の頬を何度も見比べている。
 すずかも、そんなアリサと俺を驚いたように見比べていて。
 と、一連のやり取りを見ていたなのはが、傍目にも怒った顔でアリサに向き直り。

「アリサちゃん! 何してるの!?」
「え? …あ、えと私は別に、いつもと同じ風に…」
「でも、雄介くんすごく痛がってるよ!?」

 なのはの剣幕に、怯んだように答えるアリサ。
 だけどなのはは、普段からは考えられないくらい怒り、問い詰めようとしていて。
 アリサはアリサで、いつもの調子はどこに行ったのか、ひたすらに要領を得ない言い訳しかできないようだ。

 ってイカン、これ以上は二人の仲に俺の所為で亀裂が入りかねない自体に…!
 油断してた俺が過剰反応してしまっただけなんだし、そんなのはダメだ。
 頬を押さえていた手を離して、ぐっと二人の間に割り込む。
 左右をそれぞれ見てみれば、なのはもアリサも驚いた顔をしていて。

「いや、悪いなのは。 俺がちょっと、過剰反応しちまったんだ」
「…そうなの?」

 取りあえずなのはにそう言うと、なのはは心配そうに俺の頬の辺りを見る。
 別に、アリサも力加減は心得てるだろうし、赤くなってるかなってないかくらいだろう。
 油断してたとは言え、遊びの行動に過剰反応しすぎたな俺は。

「悪いなアリサ、ちょっとぼうっとしてたから」
「う、うん…ほ、本当に、大丈夫なのよね?」

 いつもなら鼻で笑うだろうに、さっきの悲鳴が効きすぎたのか、そんな事を聞いてくる。
 珍しく、本当に心配そうにしてる…うん、気を抜きすぎてたな俺は。
 大丈夫だと見せ付けるために、アリサに抓られた方を自分でもう一度抓り、引っ張ってからパッと手を離す。

「ほら、大丈夫だろう?」
「…そう、みたいね」

 ホッとしたように、息を吐くアリサとなのは。
 ううむ…悲鳴なんて上げた所為か、本当に二人には心配をかけてしまったようだ。
 と、そこでなのはがアリサにまた向き直り。

「あ、あのゴメンねアリサちゃん…その、私ビックリしちゃって」
「い、良いわよ別に…元はと言えば、私が悪いんだし…」

 そうなのはに言いつつ、まだ不安そうに俺を見るアリサ。
 さっきのは本当にビックリして思わずだったから、本当に大丈夫なんだがな。
 どうすれば良いものか…良し。

 きっとこれ以上は何か言っても聞かないだろうし、それならと思ってアリサの方へと手を伸ばす。
 と、それに対してビクッと反応するアリサ。
 …いや、俺が何かすると思ってるのだろうか?
 確かに、今からある意味では何かしようとしてるけどさ。

 取りあえず、アリサの反応を見なかったことにして手をさらに伸ばして。
 何でか、なのはとすずかから静かに見守られているが気にしないようにして、アリサの頬を掴んで、軽く抓る。
 キョトンとした顔をするアリサ…となのはとすずか。
 いや、何で三人揃ってそんな顔をしてるんだよ。
 ともあれ、

「ほら、これでお相子だろ?」
「あ…」

 早々に手は離したが、何だかアリサはボンヤリとしている。
 一応、これで本当にお相子にしようと思ったんだが…どうしたんだろうか?
 ボンヤリとしたまま、自分の頬に手を当てるアリサ。
 なんか、焦点があってるように見えないので、古典的だが目の前で手を振ってみる。

「おーい、アリサー?」
「…え? あ、うん」

 …何だか、反応が鈍い。
 普段どおりのアリサなら何かしらをやり返してくるか、まぁ許してあげるとかそんな感じのことを言ってるんだが。
 どうしたもんか、これ?

「おい、起きてるかアリサ?」
「お、起きてるわよ、当たり前じゃない」

 なんかちょっと慌てた感じだが、ようやく再起動したか。
 よし、これでもう問題なしだろ。

「おし、じゃあ今度こそ祭りに行くか…まぁ、俺が悪かったんだが」
「うーん、確かに今のは雄介君が悪いかも…」

 え、今の冗談だったんだけど?
 何でそんなに、深く頷いてるんですかすずかさん?
 ま、まぁ良いか、うん。
 
+++

 お祭りと言うのは、見ているだけでも楽しい。
 うん、本当に色んな夜店が立ち並んでるから、見ていて飽きないのだ。
 まぁもちろん、見ているだけでは無いんだけど。

「こう考えたらいけないとは思うんだが」
「うん、どうしたの?」

 隣に居たなのはが、首を傾げて尋ねてくる。
 さっきやったくじの景品を、ちょっと掲げながら

「やっておいて何だけど、こういうくじに当たり…と言うか、一等って本当に入ってるのかなぁってな」
「…は、入ってると思うよ? うん、多分」

 多分とつける当たり、なのはの本音も透けて見える。
 微妙に苦笑いな所も、どう思ってるか丸分かりになってしまうが。
 とそこでなのはは辺りを見回して、

「居ないね、アリサちゃんとすずかちゃん」
「そうだな、一体どこに行ったんだか」

 くじをやる前までは一緒にいたのに、何時の間にやら姿の見えなくなった二人。
 何か企んでるのかもとも考えるが、取りあえずこの人ごみだったら探さないといけないだろう。
 企んでるなら企んでると言っておいてくれれば、放置しておくのに…って言っておいたら企んでる意味がないのか。

 まぁでも、慌てて探そうとした矢先にアリサからなのはへ

『ゴメン、はぐれた。 適当に歩いて、見つかったら合流しましょう。 すずかとは一緒』

 なんてメールが来ていたから、心配はしてないんだけど。
 うん、それにすずかと一緒って辺りに、あいつらの作為的な要素を感じる。
 …いや、俺があんまりにもなのはと二人で来たかったとか、言い過ぎたかな?

 うーん、気を使わせたのなら、心底申し訳ないんだが。
 そこまで凄く、なのはと二人っきりなりたいと…思ったことが無いとは言わないが、それでも二人を追い出してまでなんてのは俺もゴメンだし。
 かと言って、二人が居ない現状でどうするかと言えば、なのはと二人で探しながら見回るしか無いんだけど。

「雄介くん、次はどっちに行こっか?」
「ん? そうだな…あっちに行ってみるか? まだ行ってない方だし、もしかしたらアリサ達が行ってるかも知れないし」

 なのはに尋ねられ、俺が示したのは歩いてきたのとは逆の方向。
 もちろん本気でアリサ達を探すのなら、元来た方へと戻るのが良いんだろうが…まぁその、折角だしな?
 うん、不真面目なのは分かってるんだが…良いよな、少しくらい?

「うん、じゃあそうしよ…きゃ!?」
「! なのはっ!?」

 なのはの悲鳴に、咄嗟に振り向く。
 振り向いたその先では、何故かは分からないがなのはがバランスを崩して、今にも倒れそうになっていた。
 驚くよりも先に、偶然にもこちらに向かって倒れてきているなのはに手を伸ばし、体でしっかりと受けとめる。

「だ、大丈夫かなのは!?」
「う、うん大丈夫だよ…」
「き、君たち! すまない、大丈夫かい!?」

 何よりも先になのはの安否を確認して、掛けられた声に思わずその先を睨んでしまう。
 そこに居たのは、小さな子供を連れた一人のおじさん。
 片手は小さな、多分三歳くらいか、そのくらいの子と繋いだまま、すまなそうに謝ってくる。

「すまない、周りを良く見ていなくて…」

 おおかた、子供の面倒を見るのが精一杯で、その時になのはにぶつかってしまったんだろう。
 思うところが無いわけではないけれど、子供がどれだけ目の離せない存在かは、前世での子守の経験から少しは分かる。
 取りあえず、受け止めたままで居るなのはを見下ろして

「なのは、怪我とか無いよな?」
「うん、大丈夫…あの、気を付けてくださいね?」
「本当にすまない…」

 俺に受け止められた体勢のまま、相手の人に向かってそう言うなのは。
 相手の人は何度も謝りながら、子供の手を引いて立ち去っていった。
 しばし、その背中を見送って

「あの…雄介くん?」
「ん? 何だ、なの…」

 ふとなのはから呼ばれたので、何気なしにそちらに視線を向けたら。
 ちょうど、俺に抱きとめられているなのはが、上目遣いにこちらを見ていた。
 しかもその手は、ちょうど俺の胸元を掴んでいて、こう、び、微妙ななのはの手の感覚が…!

 いや…少し待とう、俺。
 そう、そうだ…なのはが俺に向かって倒れたとき、俺はこうしっかりとなのはを受け止めようと、体を使って受け止めた。
 もちろん、なのははバランスを崩していたんだから必然的に、俺の胸元に飛び込んでくるわけで。
 別にアレだ、こうなってしまったのは偶然、そう偶然なんだ!

 いや、でも…こ、これはまた最近は無かった距離感…!
 五月の温泉旅行のときの膝枕と、いやむしろソレよりも近いんじゃなかろうか?
 しかも加えて、上目遣いな所も…こう、何と言うか…!

「えっとね…もう、離しても大丈夫だよ?」
「…え? あ、そ、そうだよな、ゴメン!」

 なのはに言われて、いつの間にか浴衣を掴んでいた手を慌てて離す。
 イ、イカンイカン…無意識のうちに、なのはの袖を掴んでいたとは…ようし、まずは落ち着け俺。
 まず、まず落ち着いて…アリサとか、ち、近くに居ないよな?

 俺に背中を向けて浴衣が乱れていないかを確認しているなのはを見ながら、実はアリサが周囲で俺たちを見ていたりしないかを確認する。
 人ごみが凄くて、遠くの方とかは見えないけれど…居ないよな、多分。
 そうして辺りをキョロキョロ見回していたら、なのはが不思議そうに。

「どうしたの、雄介くん?」
「あ、いや…何でも無いぞ」

 …と言うか、なのはさん君はさっきの全く気にしてないんですね。
 一応、俺こう抱きしめちゃったりしたんだけど?
 抵抗も何もしなかったし、何なんだろう、この妙なモヤモヤ。

 気にされてないんだよな、これは…
 いや分かってたけどさ、なのはが俺をそんな風に意識しないって事は。
 うん、それはもう身に染みて分かってたんだけど。

 でも逆に言えばもうちょっと、積極的になったりしても良いんだろうか?

 …いや、何考えてるんだろう俺。
 それでなのはに嫌われたら、元も子も無いじゃないか。
 きっと今の距離感だから、なのはに嫌われて無いと思うし。

 そうさ、今のこの距離感で満足するのが、きっと一番。
 だと、分かってるのに、なぁ…
 もう少し、どうしても踏み出したいなんて、そんな事を考えている馬鹿がココに居るんだよなぁ。

「うーん、すごい人だね、やっぱり」
「…あぁ、そうだな」
「これでもし、私たちまではぐれちゃったら、大変だね」

 辺りを見回して、そんな事を言うなのは。
 そうだなともう一度頷きながら、ふと思いつくことが一つ。
 はぐれたら大変なのは当たり前のことで、ならもちろんはぐれない様に何か出来る事があるのならやるべきだろう。

 そして、一番簡単にはぐれないようにするには、その…例えば、手を繋いだらはぐれたりする事は無いだろう。
 つまり、ある意味何のリスクも無く、なのはと手をつなげる可能性もあるわけで。
 そんな事を考えている今だけで、正直心臓がドキドキしているけれど、それでも今ならそういう事が出来る可能性がある。

 もう一度なのはに目をやると、俺がそんな事を考えているとは想像もしていないのはもちろんで、キョロキョロと周囲を見ている。
 やろうとしている事を言葉にすれば、それはもう一言で、なのはに手を繋ごうとそう言えば良いだけで。
 本当に、たったそれだけの事、何だがなぁ…

「? 雄介くん、どうかしたの?」
「え?」

 どうも、よっぽどぼうっとしていたらしく、なのはがこっちを見て首を傾げていた。
 何でも無いと返そうとして、ついさっきまで考えていたことが、再び頭の中によみがえって来る。
 言えばいいのは一言だけ、もちろん断られるかも知れないけれど。

 それでも。

 考えただけなのに、心臓がドキドキして手には変な力が入る。
 変な力が入って手には汗をかいてしまって、それをなのはから見えないように浴衣でしっかりと拭って。
 小さく、深呼吸。

「…なぁ、なのは」
「うん? どうしたの?」
「あのな…」

 どうにかこうにか、変に力を込めた手から力を抜いて。
 ゆっくりとなのはに向けて、右手を差し出す。
 それをなのはがキョトンと見ていて、そんななのはを見ながら最後に一度、つばを飲み込んで。

「はぐれないために、その…手を、繋がないか?」

+++side、なのは

 一瞬、雄介くんに何を言われたのか分からなくて。
 何も言えずに居たけれど、雄介くんの手は変わらずに差し出されたままで。
 頭の中が纏まらないまま、ポツリと疑問をそのまま口にしてしまった。

「…えっと?」
「い、いや! ほら、これ以上はぐれたりするといけないし、こんなに人も多いんだから…あ、ありかなぁと」

 最初は勢いよかったのに、後のほうになると少しずつ自信の無くなって来るのは、ちょっと焦ってるときの雄介くんの言い方だった。
 何をそんなに焦っているかは分からないけれど、きっと心配してくれてるんだと思って。
 でも、差し出されている雄介くんの手を見て、ちょっと考えてしまう。

(手を、繋ぐんだよね…)

 アリサちゃん達となら、手を繋いだことはたくさんある。
 けれど、それは同じ女の子だからで。
 男の子と手を繋ぐのは、初めてだから。

 それに、お父さんやお兄ちゃんとだって、もう全然手を繋いだりはしてなくて。
 だから、ちょっとだけ躊躇ってしまう。
 別に手を繋いだりするのが、嫌なわけじゃ全然無いんだけど。

 嫌かそうでないかって言ったら、雄介くんはその…一番嫌じゃないって、そう思う。
 雄介くんは同い年の男の子なのに、偶にお兄ちゃんやお父さんみたいな雰囲気を持ってるから。
 時々、雄介くんがお兄ちゃんみたいに思えることもあるくらい、それくらい一緒に居て安心出来ちゃう人。

 でもやっぱり、男の子と手を繋ぐのは、その…恥ずかしいから。
 さっき、知らない人にぶつかられて雄介くんに抱きついちゃったときも、本当はすっごく恥ずかしかった。
 もちろん、雄介くんは私を助けてくれたんだから、そんな事を思っちゃダメ何だけど。
 そうやって、ずっと黙って考えていたら

「あー…なのは? 悪い、急に変な事言って…まぁ嫌だよな」
「え、あ! う、ううん違うよ、嫌とかじゃないよ!?」

 すっごく気まずいような顔で、雄介くんが謝ってきた。
 私が慌てて嫌じゃないって否定したら、雄介くんはとっても驚いた顔をしてる。
 でも雄介くんと手を繋ぐのが、嫌じゃないのは本当だから。

 …嫌じゃないなら、雄介くんと手を繋いでも良いよね?
 私が恥ずかしいだけで、せっかく雄介くんが心配してくれるんだから。
 だから、ちょっと恥ずかしいくらい…

「えっと…じゃあ、ごめんね雄介くん」

 そう言って手を差し出したら、雄介くんは少しの間ボーっとしてたけど。
 おもむろに、勢い良く頭を振って

「じゃ、じゃあ…ゴメン」
「う、うん?」

 頭を勢い良く振ったりとかは、雄介くんは良くやってるから気にしないけど、どうしてゴメン何だろう?
 ちょっとだけ疑問には思ったけど、でもそれ以上に雄介くんと繋ぐ手が気になって。
 初めて、同い年の男の子と繋ぐけれど、想像したよりもずっと優しくて暖かくて。

 何だか恥ずかしくて、雄介くんの顔が見れなくて。
 だからちょっとだけ顔を伏せたまま、

「じゃ、じゃあ雄介くん…その、行こっか?」
「あ、あぁ…そう、だな。 じゃあ、その…向こうの方に、行ってみるか?」

 そう言って、軽く雄介くんに繋いだ手を引かれて。
 ずっと顔を伏せてるのも、何だか雄介くんに悪いから、少しだけ顔を上げる。
 そうしたら、ちょうどこっちを見てた雄介くんと目が合って。

「…い、行こうか、なのは」

 そう、凄く真っ赤な顔で言った雄介くんが、やっぱり普段の雄介くんだって思って。
 私が恥ずかしいんだから、雄介くんだって恥ずかしいんだよね。
 多分、私の顔も恥ずかしくて赤いけど、ちょっとだけ頑張って笑顔を向けて。

「…うん、雄介くん」

 そう言ったら、雄介くんもにっこり笑って。
 何となく、こういうのはアリサちゃんの言ってた、二人の世界とかなのかなって思った。
 意味は、良く分からないんだけど。


+++あとがき
 書きたいのを書いてたら、書ききれなかった八月なのはデート編。
 ここまでしか書いてないので、この続きはまた来週…すごく短くなりそうな予感もするので、何かしらの対策は講ずる予定。
 
 これ書くのに気力使いすぎたので、あとがきはこれにて終了。
 あとの気力は、コメレスに~


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