その後、取り合えず限界まで犬を探していたけれど、遂にバスの時間になってしまったので、今度は急いでバス停に向かう。
アリサの犬は気になるが、そいつを探して学校を休んだら、今度はそれをアリサが気にしそうだから。
取り合えず、ノエルさんやファリンさんがすずかに特徴を聞いて、俺たちが学校に行ってる間も探してくれるはずなので、任せるしかない。
ともあれ、学校へと到着し…あぁ、今日はアリサもすずかもバスには乗っていなかった。
まぁ、ギリギリまで犬を探しているんだろう、とそう思っていたんだが、予想に反してすでに二人とも到着していた。
「おはよう、すずか」
「うん、おはよう雄介君」
「…あー」
取りあえずすずかには声を掛けたけど、今アリサにものすごく声が掛けづらい。
何故と言うか何と言うか…だがこれは予想外というか、いやある意味予想して当然だったと言うべきなのか。
アリサの奴が、ものすごく不機嫌そう…と言うかピリピリしているのだ。
「…よう、アリサ」
「…おはよ、雄介」
試しにとアリサに声をかけてみれば、帰ってきたのはこんな反応。
よっぽど、居なくなった犬が気になっているようだ。
こう、不機嫌というか何かのオーラをばしばし飛ばしている。
その所為か、アリサの周りの席には誰も座っていない。
うん、俺でも関係なかったら近寄るの躊躇うくらい、ピリピリしてるな。
どうしようかとすずかに視線を向けてみるが、静かに首を横に振られてしまうし。
ふぅむ、これはどうしたら良いものか…取り合えず。
「おい、アリサ?」
「…何よ?」
荷物を片付けてから、アリサの前の奴の席を拝借して目の前に座る。
ただ声を掛けただけなのに、胡乱な目で見られた。
余裕無いなぁ、今のコイツ。
周りの席にもすずか以外誰もいないし、皆離れた席の友達のところに避難してるしな。
「何よ?じゃなくて、取り合えず何があったかの細かい説明してくれ、帰りに探す時に参考にするから」
俺の言葉に、目を丸くするアリサ。
大方、俺が何も言わずに帰りに探すことを言ったからだろうが、そんなものは当然だろうに。
友達だったら当然だし、いつもいつも色々…素直に世話と言おうか…には、まぁなってるんだしな。
と、横からすずかが
「アリサちゃん、私も雄介君と同じだよ? 今朝も雄介君から連絡貰って、探してたんだから」
アリサはそういうすずかに視線を向けて、また俺に向けて。
そのまま、何でかむすっとした顔に…何でだよ?
「…アンタに心配されるのって、何か変な感じ」
「何だとコノヤロウ、人が珍しく心配してやってるのに」
「まぁまぁ、二人とも」
何て事を言うのかと即座に言い返したら、すぐにすずかが仲裁に入った。
自分で言うのも何だが、素直に心配してやっていると言うのに。
「それでアリサちゃん、昨日の子がいつから居ないのに気づいたとか、教えてくれる?」
「…そうね、気づいたのは今日の朝だったわ…」
アリサの話す内容を纏めれば、犬は昨日の夜には居たらしい。
アリサ自身が最後に見たのは、大体夜の七時くらいにご飯をあげに行った時だそうだ。
そして一夜明けて、今日になってアリサの家の使用人が見回っていたところ、犬が居ないのを発見。
アリサに伝えられ、アリサも檻まで見に行って、本当に居ないのを確認。
その後は慌てて探しに出かけつつ、俺に電話して探していたらしい。
「ふぅん…そういや電話で言ってたけど、檻とか全然壊れてなかったんだって?」
「そうね、元々そう簡単に壊れるようなものじゃないけど、全くどこも壊れてなかったのよ…犬が抜け出せる隙間なんて、全然無かったでしょう?」
「…そうだね、昨日一回見ただけだけど、そんな隙間があった記憶も無いし」
しかも見た目的に、結構頑丈っぽい檻だったしなぁ。
犬があれを破壊するのは、なかなかに無理があると思う…熊とかでも、無理っぽいし。
だとすれば、隙間から逃げ出したと思うところだけども。
「んー、檻の中には、何も残ってなかったのか? ほら…お前が餌をあげたお皿とかは?」
「それは残ってたけど…何か関係あるの?」
いや、無いけどさ。
思い付きを言っただけだし、特には関係ない。
と言うか、あれだな。
結論を急ぐみたいだけど、現状を言えば。
「…取りあえず、学校が終わるまで俺たちに出来ることは無いな」
「…アンタね」
「雄介君…」
…二人の声音が冷たい、ものすごくジトッとした目で見られてるんだけど。
いや、だって何も出来ないじゃないか。
そりゃ、うん言い方が冷たかったかも知れないのは認めるけれど。
「…ほら、ノエルさんもファリンさんも、手が空いたら探してくれるって言ってたし?」
「それでも、言い方ってものがあるよ?」
「…はい、ごめんなさい」
俺の言い訳に返ってきたのは、すずかの冷たい視線。
静かに怒ってるすずかに、今更だが素直に謝る。
アリサの余裕の無い切迫した空気を無くしたと思ったら、今度はすずかを怒らせてしまった。
「…まぁ、アンタの言うことももっとも何だけどね。 って言うか、ノエルさんとファリンさんも探してくれてるの?」
「うん…二人には特徴が伝えてあるだけで、それに時間が空いたときだけなんだけど」
「ううん、それでも十分よ。 私も、鮫島に時間が空いたらで探してもらってるし…」
ふとこの会話を聞いて思ったんだけど、二人とも普通に使用人が探してくれてる立場なんだよな。
いや、どうこう思うわけでは無いけれど、やはり少しばかり感覚が違うと思う。
「あのー、じゃあまぁ、帰りには皆が行ってないところを、一応帰ると言う事で良いでしょうか?」
「まぁ、それが一番かもね…ってか、何よその言葉遣い?」
「反省の証、主にすずかに対して」
「…なんで私だけ?」
「なのはも含めた中で、怒らせたらきっと一番怖そうと言うこと…イデデデッ!?」
場を和まそうとしての冗談だったのに、思いっきりすずかに頬を抓られた。
アリサが呆れたような顔で俺を見て、すずかが満面の笑顔なのが怖い。
ってか、その前に本気で痛い!? 手加減が感じられないんだけど!?
「ジョ、ジョークだすずか! 本気で痛いっ!」
「…あのね雄介君、言っていい冗談と、言っちゃだめな冗談があるんだよ?」
「はい、すいませんごめんなさい! 取りあえず離してほしいです、すずかさん!」
そう俺が言った後、おもむろに二回ほど追加で抓られてから、ようやく離してもらえた。
あージンジンする、本気で痛いんですけど…
やっぱり当たってるじゃないか、とか考えるけどバレたらまた抓られそうだ。
「うぁー、普通に痛い…」
「まぁ、アンタの自業自得だから何も言わないけど…アンタの言ったとおり、確かに学校が終わるまで出来ることは無いわね」
そうアリサが言った直後、キンコンと朝の予鈴が鳴り始めた。
もうそんな時間かと思いつつ、間借りしていた席から立ち上がる。
アリサの奴が猫でも追い払うように、俺に向かってしっしっとやっていやがるので、ぐっと親指を下向きに立ててやった。
+++
取りあえず午前中の授業が終わって、お昼休み。
なのはは居ないが、いつもどおりに屋上でお昼ご飯を食べながら。
「で、それぞれファリンさんからと鮫島さんからの情報をまとめると、朝方にあの犬を住宅街で見かけたって言う情報があるんだよな?」
「そうね、追加で言うなら私のほうは、その犬が塀の上を走ってたらしいけど」
「こっちは、たぶんこの学校の人らしい女の子が一緒だったんだって」
アリサの方は、犬の身体能力的には出来なくは無いと思うけれど、何だかなぁと言うのが正直な感想。
すずかの方も、正しく言えば聖祥の制服に良く似た服を着ていた女の子、と言うのが正しいらしい。
と、言うかだな。
「…ファリンさんも鮫島さんも、俺たちが授業受けてる間に調べてくれたんだよな?」
「そうよ?」
「それがどうしたの、雄介君?」
「いや…すごい下らない事なんだけどさ、俺、ファリンさんとか鮫島さんが普段の格好以外の…ファリンさんならメイド服だけど。 それ以外を着てるのを、殆ど見たことが無いんだが…あの格好で、聞いて回ったのかなと」
「「…」」
あまりにも下らないことを聞いたので、呆れているのかと思いきや二人ともそんな感じじゃない。
二人そろって目を丸くした後、
「ファ、ファリンは私服も持ってるから、そんな事は無いと思うけど…」
「鮫島だって、その…私服くらい、持ってるはずよ?」
「…地味に言い切れないんだな、二人とも」
二人も、あの二人がそれ以外の格好をしてるのを殆ど見たことが無いのか。
見たことがあったら、即答できるだろうし。
あぁいやでも、ファリンさんとノエルさんは温泉の時に私服だったか。
「…まぁ俺から言っておいて何だが、それはまたの機会にしようか」
「まぁ、そうね…鮫島もファリンさんも、見かけたって言う情報があったのは、臨海公園の方なのよね」
「そうだね、帰りにそっちに行ってみる?」
正直に言えば、朝そこに居ても夕方までそっちに居るとは考えづらい。
だから十中八九居ないとは、思う。
と言うか、一応これも考えないとダメだと思うんだが…
「で、それはそれで良いとしてだ。 ファリンさんの聞いた聖祥の生徒かも知れない子が、その犬の飼い主だった場合はどうする? ってか、その犬と行動してたのなら、可能性は高いと思うけど」
「…まぁ、そうよね」
俺の言葉に、うーんと考え込んでしまうアリサ。
でも、俺の言ったことも決して有り得ない訳じゃないんだ。
この際、犬がどうやって檻を抜け出したのかを考えないとしても、その女の子と犬が一緒に居たと言う事実は覆らないわけで。
「またアレな言い方だけど、今日探して見つからなかったら、もうその子が飼い主で連れて帰ったと思ったほうが良いと思うぞ?」
「…本当に、その通りだったかどうか、関わらずに?」
「酷いことかも知れないけどな、今日見つからなかったらもうダメだろう…多分」
今日見つれば良いけれど、今日見つからなくて、さらに明日も見つからないかも知れないんだ。
だったら、もう今日きっと飼い主に連れられて帰ったんだと思ったほうが、良いんだと俺は思う。
…それが例え、怪我した犬を見捨てることに繋がってもな。
「あえて言うけど、自分で脱走できるくらいには元気があるんだから、きっと大丈夫だろ」
「雄介君、あんまりそういうのは…」
「良いのよすずか、私だって考えなかったわけじゃないし」
俺の言葉に意味を読み取ってすずかが苦言を呈するが、アリサは首を横に振った。
チラリとすずかがアリサに視線を向けているが、アリサはお弁当を口に運びながら溜息を一つ。
俺も同じように弁当を食べながら、
「取り合えずは今日の帰り、三人でしっかりと探そうぜ? 海浜公園の方だから、ちょっと帰り道からはずれるけどな」
「…そうね、それしか無いし」
そうアリサが言って、すずかに視線を向けると、コクリと頷いてくれた。
アリサもすずかも、本当はいくらでも探していたいんだろうけどなぁ。
残念ながら、探して探してもう死んでたとか、そういう真実になってしまう可能性もあるのだから、俺としてはもう逃げてしまった犬のことは気にしないでほしい。
いや、そんなこと言ったら、意地でも探し続けそうだから言わないけれど。
…なのはが居なくて良かったとか、そういう事を考えるのは人として駄目な気がするなぁ。
しかも、本気でそう思ってるから手に負えないぞ俺。
だってなのはだったら、意地でも探し続ける気がするし…あぁもう、居ないのは嫌だけど、今日に限ってとか何か更に嫌だなコンチクショウめ。
+++
そしてその日の帰り、俺たち三人は暗くなるまで臨海公園を探し回っていたけれど、結局アリサの所から逃げ出してしまった犬は見つからなかった。
途中で私服姿のファリンさんも合流したけれど、目撃情報も俺が昼にまとめた分で最後。
ここに向かったところで、ぷっつりである。
「言っとくけどアリサ、ちょっと前のなのはみたいに夜中に出歩いて探そうとかするなよ?」
「解ってるわよ、うるっさいわね」
別れ際にイライラと落ち込みが半分ずつのアリサに、そうやって声を掛けておく。
いや、お前となのはって端々が似てるからやりそうで怖いんだよ。
どっちも譲らない時は、本当に譲らないしな。
そしてアリサは鮫島さんが車で迎えに来て、俺はすずかを迎えに来たノエルさんに誘われて車で自宅まで送ってくれることになった。
その送ってもらっている最中の車の中で、後部座席で俺の隣に座っているすずかに少しばかりの相談をする。
「なぁすずか? 今日のことだけど、なのはには言わないでおかないか?」
「え? …それは、良いけど、でもなのはちゃんの方から聞いてくるかも知れないよ?」
「それは…どうするか?」
俺が素直にそう言うと、かくっと体勢を崩しているすずか。
むぅ、確かにそうなったら隠してはおけない…まず俺が。
俺は間違いなく、なのはに詰め寄られたら、素直に答えてしまうと確信できるからな。
「うん、まぁ…聞いてこられたら、それはまたその時と言う事で…」
「…なのはちゃんの事だから、絶対に聞いてくると思うよ?」
うん、俺もそう思う。
いやでも、僅かな確率にでも掛けたいじゃないか。
「それは解ってるが…まぁ、聞かれなかったらそのまま内緒って言う事で」
「良いけど…聞かれたら、言い訳は雄介くんがしてね?」
「ごめん、まず無理なんだけど?」
「それは知りません、あとアリサちゃんにも雄介くんからお願いね?」
ちょ!? 何で俺にそんな二つとも!?
片方引き受けてくれても、って言うかどっちも俺にはキツいんだけど!?
そんな俺の様子を見ながら、すずかはニコリと笑って
「どっちも雄介君が言い出したんだから、頑張ってね?」
「ぬう…すずか、もしかしてまだ昼間のを根に持ってるとか…」
ふざけてまた言った瞬間、目にも留まらぬ速さですずかに頬を引っ張られた。
しかも今度は抓るとかじゃなくて、掴まれている。
いや、頬に感じる圧力で何となく解るってか…
「イ、イデデデデデッ!?」
「雄介君? いつもはちゃんと頭良いのに、こういうのは本当に頭悪いよね?」
なんか酷い事言われてる気がするが、それより頬が痛い!
昼間と同じで何の手加減も感じられない、ちょ誰かヘルプ!
いててて…そうだ、助手席のファリンさん、ちょっと助けて!
「ファ、ファリンひゃん!」
「あらあら、すずかちゃんと雄介君は仲良しさんですね~」
ちょ、今この現状をどう見たら!?
そんなにこやかに笑ってスルーしないでっ、今俺本気で頬が痛いんですけど!
とそんな事を思っていたら、何でかすずかが手を離してくれた…いや、良いことだけどさ。
頬をさすりつつ、すずかに視線を向けると呆れたような溜息を吐かれて。
「はぁ…あのね雄介君? そういうのちゃんと考えてしないと、なのはちゃんに嫌われちゃうよ?」
「…」
なん…だと…っ!?
そ、そこまで俺の軽口は空気を読めてなかったのか!?
密かな大ダメージに思わず停止していると、
「雄介様? ご自宅に到着しましたよ?」
「へ、はい?」
ノエルさんに声を掛けられて外を見てみれば、そこはもう俺の自宅のマンション前。
いつの間に到着したのか、さっぱり解らなかった。
取り合えず車から降りて、すずかやファリンさんとノエルさんに別れを告げる。
「それじゃあ雄介君、また明日」
「あぁおう…また明日なすずか」
「さっき言ったの、ちゃんと考えておいてねー」
そう言うすずかの声を残して、ブロロロと走り去っていく車。
す、すずかの奴、最後に爆弾を投下していきやがった…!
くそう、ちゃんと何を考えれば良いんだよ。
「…取り合えず、とっとと家に帰ろう」
ここで考えても仕方ない、ええい何て爆弾を残していきやがるのかアイツは!?
+++
その日のうちにアリサに電話を掛けて、逃げてしまった犬のことはなのはには秘密にするとだけ決めておき。
次の日からはまた、なのはの居ない日と同じような日々が続いた。
一日しか居なかった所為か、どうにも一昨日まで本当になのはが居たのか、ちょっと解らなくなりそうだ。
いや、どらチャレのセーブデータも残ってるからそんな事は無いんだけど。
あぁでも、なのはにメールを送ったら、一番大変なことは、また行った次の日には終わったらしい。
だから、もう後少しで今度は本当に帰ってこれるとか。
思わずそのままアリサに電話して、今の気持ちを喋り続けてたらなんの断りも無く電話を切られたけれど。
ともあれ、その後本当に数日でなのはは帰ってきた。
帰ってきたなのはには、アリサが一言だけ
「本当に、もう大丈夫なのね?」
そう言って、なのはもしっかりとアリサを見返して
「…うん、本当にもう終わったから、ずっと居るよ」
そう答え、互いに微笑みあったのを見たら、もう俺とかが何にも言わなくても大丈夫だと思えた。
何か感極まった様子ですずかが二人に抱きついて、俺はそれを苦笑しつつ見ていたけれど。
そしてなのはが俺へと視線を向けたので、色んな意味を込めたつもりで笑いかけたら、なのはも笑い返してくれたので、もう本当に感無量な感じだった。
俺たち四人の再会は、そんな感じに終わったのだけど、その後…数日後に、もうひと悶着あったというか何と言うか。
別に問題があったわけではないし、四人の仲が悪くなったりすることも無かったんだけどな…
+++
なのはが学校に復帰してから数日後の朝、何でかなのはが朝のバスに居なかったのを不思議に思いながら登校した。
今日はバスに乗っていたアリサやすずかも不思議そうにしており、何かあったのかと話していたところ、俺たちから遅れること少ししてなのはが登校してきた。
「おはよう、アリサちゃん、すずかちゃん、雄介くん!」
「おはよ、なのは」
「おはよう、なのはちゃん」
「おはよう、なのは」
普段と時間が違うからか、慌てて自分の荷物を片付けているなのは。
一体、何があったのか?
いや、別になのはが普段とは違う時間に登校しては駄目だとか、そうは言わないけれど。
「ねぇ、雄介くん?」
「ん、何だ?」
取り合えずなのはが落ち着くまで声を掛けずに居たけれど、なのはの方から声を掛けてきた。
声を掛けてきたのと一緒に荷物を片付け終えて、斜め後ろの席に座っていた俺を振り返る。
その表情は、何だか凄く嬉しそうな笑顔。
一体、どうしたんだろうかと思っていると。
「えへへ、雄介くんってやっぱり凄いね?」
「…何がだ、一体?」
こんなになのはが嬉しそうなのに、正直に言って心当たりが無い。
必至で記憶を辿りつつ、そうなのはに返すと
「だって、本当に名前で呼んでって、それでフェイトちゃんとお友達になれたから」
「…そうなのか?」
ちょっと気にはなっていたけれど、もう数日も前の事の筈だけど?
なのはに返事しつつそんな事を考えていたら、なのはが嬉しそうな笑顔のままで説明してくれた。
「あのね、今朝までフェイトちゃんこっちに居たけど、今日からは行かなくちゃダメな場所があってね?」
今朝はその見送りで遅れてしまって、その見送りのときにそのフェイトちゃんと言う子の方から友達になるにはどうしたら良いかを聞かれたらしい。
そしてその時、俺がこの間電話で話した『名前で呼ぶ』という事を実際に提案して、笑顔で名前を呼び合ってお別れしたようだ。
「だから、雄介くんはやっぱり凄いなぁって」
「いや、俺より名前で呼んでも良いって思われるまで頑張ったなのはの方が凄いだろう? 俺のは単なるアドバイスさ」
そんな事無いよと言うなのはだけど、これは本当になのはの頑張りだろう。
俺のアドバイスは、切欠に過ぎないだろうし。
そんな事を話していたら、
「なーに二人で話してるのよ?」
「そうだよ、何かの内緒話?」
アリサとすずかが、ひょっこりと現れた。
ビックリするなのはに構わず、
「で、何の話をしてたの? なんか知らない名前が出てきてたみたいだけど?」
「うん、フェイトちゃん…だっけ?」
そこでどうして俺を見るんですか二人とも?
名前が聞こえる程度に話を聞いてたら、なのはの方に関係があると解るだろうに。
俺に聞かれても、俺は名前となのはが友達になりたがった理由しか知らないぞ…けっこう知ってるな俺。
「アリサちゃん、すずかちゃん!? いつから話し聞いてたの?」
「『雄介くんってやっぱり凄いね』の辺りからだけど」
それはほぼ最初からですアリサさん、でも俺も全然気づかなかった。
チラリとすずかに視線を向けると、目が合ってコクリと頷かれた。
うん、本当にそこから聞いていたようだ。
「で、一体誰なのかな雄介君?」
「俺に聞くなよ、俺も名前しか知らないって」
すずかに話を振られて、そう答える。
友達になった理由は、まぁ話さなくても良いだろうし。
俺の答えにすずかもなのはの方へ向いたその時、
キーンコーン、カーンコーン
と予鈴が鳴り始めた。
むっとした顔でチャイムの聞こえてくるであろう場所を見るアリサだが、まぁどうしようもないだろう。
取り合えず、
「あーアリサ? 取り合えず、後は昼休みにでも聞いたらどうだ? なぁなのは?」
「え、う、うん! ほら、授業も始まっちゃうし、それで良いかなアリサちゃん?」
「まぁ、仕方ないわね…じゃ、お昼には話してよ?」
そう言って、すずかも一緒に自分の席へと戻っていく。
二人を見送りながら、
「それじゃあなのは? ちゃんとお昼までには、そのフェイトちゃんって言う子の事で話せることだけ纏めておいたほうが良いぞ?」
「うん、ありがとう雄介くん」
「気にするな、言えない事は適当に上手に誤魔化せよ?」
「が、頑張ります…」
そう言ったなのはの表情に、少しっつーか結構不安だ。
まぁ、頑張ってくれなのは…こればっかりは、なのはの隠し事に関係するから、俺は助言出来ないし。
その後、結局俺に話してるのと同じくらいの話を、昼食を取りながら二人に話したなのは。
最近の隠し事関連の話なので、所々ぼやけた言い方だったが、二人とも特にそこを追求する事はせずに受け入れて。
どうやらなのはは、そのフェイトちゃんとビデオメールでやり取りするつもりらしく、今度俺たちを紹介したいから一緒にビデオメールに出ると言う約束もしたのだった。
+++後書き
ちょっと駆け足で無印終了…膨らましようが無く、ちょっと無理やりに一話に纏めました。
なんて事の無い終わり方、でもこれが一般人ストーリーww
次回からはA'sまでの間のお話、劇中時間で一月に一つの話で構成する予定。
あとこのSSでは誕生日を扱わないことに決定しました…だって雄介まで入れてフェイトとはやても追加した六人で、誕生日が明確なの半分しか居ませんし。
誕生日前後の多少の描写は入りますが、誕生日会とかは完全スルーします。
あぁ、あと次回からは不定期に外伝が入りますのでご了承ください…あと、簡易的なキャラ紹介も更新しました。