次の日の朝、学校へ行くのにいつも乗るバスに乗って。
「あ、雄介くーん」
一番後ろの席に座っているなのはが、声を掛けてきた。
それに手をあげて答えながら、このやり取りも久しぶりだなぁと思う。
アリサやすずかが居ないのを確認しつつ、なのはの隣に座って。
「おはよう、なのは」
「うん、おはよう雄介くん」
昨日会った時は私服だったから、制服姿のなのはを見るのも久しぶりだなぁ。
「今日は、アリサ達居ないな?」
「うん、そうみたいだね…あ、そうだ雄介くん、昨日のメールの続き何だけど、今日はアリサちゃんのお家何だよね?」
「あぁ、そうだってさ。 何でも、昨日また怪我した犬を拾ったって話だ」
「そっか、アリサちゃんらしいね?」
「それは、確かにな」
こんなやり取りが、本当に久しぶりな気がした。
期間的にはたったの十日くらいだけだけど、それまで毎日あったやり取りが無くなったのは、思ったより懐かしく感じる。
なのはと二人で会話しながら、そんな事をつらつらと思う俺だった。
+++
学校へと着いて、二人で教室に行ったらアリサとすずかが先に来ていた。
俺たちが声を掛ける前にすずかが気づいて、アリサへと声を掛けながらこっちに手を振っていた。
なのはも手を振りながら、取り合えず自分の席へと向かう。
俺がなのはの斜め後ろの自分の席に荷物を置いていると、すずかとアリサがなのはの席へと近寄ってきていて。
「なのはちゃん、久しぶり」
「うん、すずかちゃん。 アリサちゃんも、ごめんね? 心配かけて」
すずかが笑顔で嬉しそうに言うと、なのはも笑顔でそう返して。
アリサにはちょっと申し訳無さそうな顔を向けたが、アリサは腕組みして何でか俺を見つつ。
「別に良いわよ、私が勝手に心配してたんだから…それより、どっかの誰かさんの方がよっぽど心配してたみたいよ?」
っておい!? だから! そういう事を言うなアリサ!?
そしてすずか、何をなのはに耳打ちしている!?
ちょ…な、何だなのは?
何でそんな、ちょっと恥ずかしそうなんだ!?
何を言ったんだ、すずかぁ!?
俺が内心で慌てているのを余所に、すずかは笑顔だしアリサも何だか肩をすくめているし。
何だこの空間!?
しばし、そんな妙な雰囲気だったが、すずかが次の話題を振ってくれた。
「そういえばなのはちゃん、今日は夕方までは大丈夫なんだよね?」
「え…う、うん、今日は大丈夫だよ。 明日からはちょっと…また、出かけないといけないんだけど」
「まぁ、学校十日も休んだんだし、しっかりと最後まで頑張りなさいよ?」
「…そういえば、そう考えるとけっこうな大仕事みたいな感じだな」
俺の言葉に、そういえばそうだねとすずかが言って、なのはも微笑む。
四人での会話も、また十日ぶりくらいなのに、こっちはあんまり懐かしく感じないのは何故だろうか?
そうやって話していると何時の間にか、俺以外の三人は座って俺が立っているといういつもの状態になっていた。
「そういえば、最近新しくゲーム買ったから、今日はそれやりましょうか?」
「それは良いな、でもレースゲームだと、またなのはの一人負けだぞ?」
「ゆ、雄介くん! 私だって、たまには勝ってるよ!?」
「でも、一番負けてるのもなのはちゃんだよね?」
すずかの言葉に、がっくりと肩を落としてみせるなのは。
そんな風に会話に参加しながらリアクションも取りつつ、荷物の片づけを続けるなのは。
そういえば、とアリサが言いながら
「アンタもなのはも、レースゲームやると面白いわよね? こう、体ごと動いてるし?」
わざわざ、コントローラーを持った姿勢での動きを再現してみせるアリサ。
アリサとすずか曰く、俺となのははレースゲームをやると、ほぼ間違いなく体ごと動いているらしい。
ちなみに自覚は無い、自分の体の動きなんて分かるもんか。
「それは知らん、間違いなく勝手に動くんだよ」
「そ、そうだよアリサちゃん? こう、手を動かしたら一緒に体も…そうだよね? 雄介くん?」
なのはの言葉に、無言で深く頷いてみせる。
何でそこでニヤニヤしてるか、アリサとすずかは。
って言うか、今更だけど面白いって何だよ?
「ねぇアリサちゃん? そういえば今回はなんてゲームを買ったの?」
「ん? あれよ…どらチャレの最新作、『どらごんチャレンジ9』よ」
「ほほう、さすがはアリサ、最新作でもなんなく手に入れてるな」
「…何か語弊のある言い方ねぇ、言っておくけど普通に予約してたのよ?」
無論、それは分かってる。
アリサがこう…ズルっぽい事をしないのは、ある意味当然の事だしな。
まぁそれを差し引いても、新作が出るときに備えてしっかりとお金を貯めているのが、さすがなわけだが。
そういえば、このゲームがある意味では俺の転生の証拠なんだよなぁ。
『どらごんチャレンジ』なんてゲームは、前世では見なかったし…酷似したゲームなら、存在してたけど。
その酷似したゲームのタイトルがまた、本当に似てるんだよな…『チャレンジ』じゃなくて、『クエスト』ってなってるだけだし。
あと『どらごん』じゃなくて、そこはカタカナだったりもするけど。
ちなみに比較するのも間違っているとは思うけれど、前世のほうと比べると『どらごんチャレンジ』は雰囲気的に大分ポップな感じだ。
いやまぁ、別のゲームなのだから当たり前だけど。
敵キャラクターの名前や姿も、多少なりとも違う…けれど、けっこう土台部分で一緒なので、どうしても比較してしまう。
キャラクターどころか、ストーリーやら地名云々もだけど。
前世ではⅦまではやっていて、こっちでのどらチャレ8が出た際には、思わず向こうだとどんなストーリーになるのかと想像してしまうくらくらいには、よーく似てるホントに。
まぁ、向こうと完全に同じゲームだってたくさんあるんだし、それと比べると…むしろ一部違うのが目立つな。
落ちもの系のゲームは、ほとんど同じだったりするし。
ともあれ今回アリサの買った9では、主人公をキャラクリエイト出来るらしいけれど…うん、キャラクターの表現も3Dになったから、期待半分不安半分。
まぁでもアリサの家に行けばやれるのだから、それを楽しみにするとしよう。
取り合えず、今日もしっかり授業を受けますか。
+++
今日の授業も滞りなく終わり、四人でアリサの家へと向かう。
ちなみに、鮫島さんに迎えに来てもらった上に、なのはの要望でユーノも迎えに行った。
いつもご苦労様です、鮫島さん。
途中の車の中では会話が途切れる間も無く続いて、あっという間にアリサの家へと付いてしまった。
やっぱり、しばらく話していないと話したいことも一杯ある。
そうして車を降りて、ふとなのはが
「そういえば、その…昨日アリサちゃんが拾ったって言う子は、どこに居るの?」
そんな事を言い出したため、一度全員で見に行くことになった。
アリサの案内で、玄関から少し離れた場所へと向かう。
そうして見えてきたのは、金属製の大きな檻(ケージ)
「あの中に居るのか?」
「そうよ、怪我してても…って言うか、怪我してるからこそ、ああいう所に居てもらってるのよ」
それもそうかと思いながら、アリサの後に続く。
近づくとようやく中のほうも見えて、檻の中には一匹のかなり大きい犬。
茜色というのだろうか、そんな色の毛並みには大きく包帯が巻かれている。
「けっこう、酷い怪我だったのか?」
「そんなに、酷くは無かったみたいよ? 鮫島に任せてるし、詳しいことは分からないんだけど」
と、そんな事を言いつつもアリサの横顔は本当に心配そうだ。
そしてなのはも…あれ?
ふと、なのはに目をやって見れば、なんだかなのはの雰囲気が普段とは違った。
ただじっと、目の前の犬を見つめるなのは。
犬のほうも、なぜかなのはをじっと見ていて、まるで目と目で会話してるみたいな。
もちろん、そんな訳は無いのだし、単なる勘違いなのは間違いないのだけど。
しばらく、そんな風に皆で犬を眺めていると、その犬が急に俺たちに背中を向けてしまった。
檻の前でしゃがみこんで見ていたアリサが、心配そうに声を掛ける。
「あららら、急にどうしたの?」
「傷が、痛むのかな? そっとしておいてあげる?」
「…うん、そうしよっか。 雄介くんも、それで良い?」
「俺は、良いぞ別に。 人が居ると、コイツも落ち着かないかも知れな…おっ?」
俺がなのはに答えていると、急に俺の肩に乗っていたユーノが飛び降りた。
軽やかに着地したユーノは、檻に駆け寄り中には入らず立ち止まる。
おいおい、いくら檻の外でもそこは危ないぞユーノ。
「ちょっとユーノ? ねぇ、なのは? あれは危ないんじゃない?」
「そうだね、もしかしたらユーノくんが襲われるかも知れないし」
「え、あ、えっと…だ、大丈夫だよ。 ユーノくん、賢いから」
アリサとすずかに内心で同意していたら、なのはの言葉にちょっとビックリ。
いやいやなのは? いくら賢いとは言え、ユーノはただのフェレットだぞ?
フェレットを怪我した犬の傍に置いておくなんて、何かあったらもの凄くヤバいと思うんだけど…
「…なぁなのは? ユーノが賢いのは認めるけど、危ないんじゃないか? 体の大きさとか全然違うんだから、もしかしたらも有り得るぞ?」
「う…え、えっと」
俺がそう言うと、何でか言葉に詰まるなのは。
何だろうか、ユーノをあそこに置いておきたい理由でもあるのか?
…いやでも、流石にユーノが危ないすぎるから、見過ごすわけには行かない。
そう考えて、ユーノに手を伸ばしたら
「きゅー!」
「あ、おい!?」
俺の手をすり抜けて、檻の中へと駆け込んでしまった。
うわぁなんて思いながら、ユーノを視線で追いかけると、ユーノはそのまま怪我した犬の方へと…って!?
それはマジで危ないっ…はず、何だけど…?
「きゅー」
「…あれ?」
ユーノは現在、怪我をした犬の頭の上。
…いや、本当に。
駆け出したユーノは勢いもそのままに、一気に犬の背中を駆け上がり頭の上に鎮座している。
乗られている方の犬は、まったく身じろぎもせずユーノを気にも留めていない様子だ。
思わず、俺も含めてみんな無言。
「…ほ、ほら! ユーノくんも大丈夫そうだから、中に行こっか!?」
「え、あ…うん、まぁそうね?」
なのはが声を張り上げて、思わずアリサが同意。
内心首を傾げつつ、それでも確かになのはの言うとおりにユーノは大丈夫そうだ。
何でか犬のほうもユーノに興味を示さないし、大丈夫…かも知れない。
なのはに背中を押されているアリサでは無く、すずかに視線を向けるとすずかもかなり不思議そう。
「…まぁ、行くか?」
「そうだね…不思議だけど、危なくないのは確かみたいだし」
本当に不思議だ、しばらく前にはすずかの家で猫に追い回されていたというのに。
…犬とは相性が良いのだろうか?
いや、うん自分で思って全くそうとは思えないけど。
「すずかちゃん、雄介くんも早く行こう!」
なのはに呼ばれて、考えるのを止めて歩き出す。
気にはなるけれど、考えても分かるものでも無いしな。
最後にもう一回、檻の中の犬とユーノを見てから、改めてなのはの方へと向かった。
+++
「うわ、アリサが混乱した」
「ホントだ、こっちに攻撃来るかなぁ…あ」
「あぁ!? アリサちゃん、酷いよ…」
「し、仕方ないでしょ混乱中だったんだから」
現在、横並びにソファーに腰掛けて、ゲームをプレイ中。
やってるのは学校でもアリサが言っていた、どらチャレ9だ。
ジャンル的にはRPGなので操作できるのは一人だけど、キャラクターメイキングが出来るのでそれぞれに似せたキャラクターを作って代表者がプレイ中。
ちなみに代表者、俺。
「次のターンで回復しないと、なのはは死にそうだなコレ」
「うぅ、アリサちゃんが強すぎるんだもん」
「ち、違うわよ。 職業的に攻撃力が高いんだから、仕方ないでしょ!?」
「素早さも高いから、またなのはちゃんが狙われたら大変だね」
ちなみに職業、俺は主人公で勇者。
さっきから散々に言われてるアリサは、素早さと攻撃力が売りの格闘家。
すずかが将来的に殲滅役になってくれるだろう魔法使いに、なのはは回復役の神官だったりする。
それぞれの職業は、パーティーのバランスと各々のイメージとの相談の結果だ。
個人的には、これでピッタリだと思う。
…いや、俺が勇者にピッタリだとはまったく思わないが。
こういうのはアリサがやりそうなのに、自分だけのデータを作ったから俺に譲ると言われたのでそのままである。
まぁ、他に俺に合いそうなのといえば俺としては魔法使いくらいだし、そうなったら被るのでこれで良かったかも知れない。
ちなみに、勇者以外だったら俺はどれだろうと三人に聞いたところ、すずかは商売人でなのはは魔物使い、そしてアリサは盗賊だった。
ものの見事に補助系統とも言える職業ばかりなのは、何なのだろうか?
「それじゃあ、なのはは回復で、俺とすずかで攻撃と…」
「あ、炎の魔法が効きそうだよ雄介君」
「そうだな、じゃあそうして…よし、と」
「外れても良いから、敵に攻撃しなさいよ私…」
「って、俺じゃないかよ…よりにもよって、そこでクリティカル!?」
なのはじゃなくて良かったと安堵した瞬間、まさかの滅多に出ないクリティカル…しかも味方に。
満タンだったHPが、一気に減って真っ赤になった…ってか死んだ。
そして次の順番だったなのはが、自分に回復の魔法を掛けて回復。
ちょっとだけ、無言の時間。
「わ、私じゃなくて良かったけど、今度は雄介くんのHPが無くなっちゃったね…」
「…おいこらアリサ、よりにもよってクリティカルだすかフツー味方に!!」
「し、知らないわよそんなの!! アンタの日ごろの行いが悪いんでしょ!?」
どういう理屈だ、それは!
と言うか、それを言ったらお前だって日ごろの行いが悪いから、仲間を殺したと言うことだぞ!?
「二人とも? 取り合えず、戦闘終わったよ?」
「ほ、ほら? 早く町に戻って、雄介くんを生き返らせないとね?」
言われて画面に目を戻してみれば、すずかの炎の魔法が効いたのか戦闘は終了していた。
確かに、早々と町に戻って俺を生き返らせないと。
フィールド画面に戻ったので、一目散に町へと戻る。
死んだらパーティーの最後尾に、薄青く半透明な幽霊姿で着いてくるので、なんかこう…自分ということもあって空しいなコレ。
「まさか一発で死ぬとは思わなかったわ…」
「それを言ったら、まさか味方にクリティカルだすと誰が思うんだよ?」
「ある意味、奇跡的な確率だったね」
「雄介くんを一撃で倒しちゃうなんて、凄いねアリサちゃん」
なのはがしみじみとそう言うが、なんかそのしみじみとした言い方は逆に…
「な、なんかその言い方だと、私がもの凄い力があるみたいなんだけど?」
「え!? そ、そんなつもりは無いよ!?」
内心、アリサに同意。
だってなぁなのは、今俺たちがゲームやってるのを知らない人が聞いたら、本当にそうとしか取れない言い方だったぞ。
「まぁ実際、アリサだったら俺を一発で倒せそうなんだけどっ!?」
左の脇腹への衝撃に、思わず体を折ってしまう。
思わずコントローラーを落としそうになったが、借り物ってかアリサのなので我慢。
いやでも、この脇腹への衝撃の原因は間違いなくアリサ何だけど。
だって今のソファへの座り方、俺から見て左からアリサ、俺、なのは、すずかだし。
「こ、この野郎何をっ…!?」
「あぁゴメン、手が滑ったわ」
白々しすぎる…!
不満があったんだろうが、今この状態でそれが事実だと自分で示したぞお前…!
ただし、黙ってやられる俺では無い!
なのはにコントローラーを渡して、しばしアリサと無言で肘を使い攻撃しあう。
そのまま、しばらく。
肘で攻撃しあっているが、あんまり痛くないので中々終わらない。
たまに、ビリッと来るがそれくらいだし…なのはもすずかも見てるだけで、止める機会が見当たらないと言う状態になってしまった。
アリサの目を見れば、何となくアリサも同じような事を思っている感じ。
どうしよ?
「…ねぇ、すずかちゃん? ちょっと良い?」
「ん? どうかしたの、なのはちゃん?」
そんな事を考えていると、背後で何かなのはとすずかが密談中。
アリサとほぼ惰性で攻撃しあいつつ、聞き耳を立てるが聞こえない。
と、なのはがソファから離れて部屋を出て行ってしまった…一体どこに?
そんな事を考えながらも、今だに止め時が見つからない。
またしばらく、そのまま静かにアリサと争っていたら。
「ねぇ、雄介君アリサちゃん」
ぽつりとすずかが呟いたのを契機に、取り合えず止める俺たち。
そうしてすずかの方を見れば、すずか何か考えるような顔をしていて。
そんなすずかに、アリサが軽く腕を振りながら
「どうかしたの、すずか?」
「うん、今更なんだけど…」
アリサの問い掛けに、すずかはそう前置きしてから。
「なのはちゃんって、何をしてるのかなって」
そうすずかが言って、俺もアリサも何も言わない。
少しの間、誰も何も言わない時間があってから。
「なのはちゃん、今は帰ってきて…でも、また行くんだよ? それって、変…だとは思わない?」
「変って、それは…思うけど」
すずかに答えるようにアリサが言い、そのまま俺を見る。
アリサに倣って腕を振って、さっきのビリっとした感覚を振りはらいながら。
「変は、変だろ…でも、一応桃子さんたちが認めてる。 俺たちが、どうこう言えるものじゃないぞ?」
「…それは、そうだけど」
俺がそう言うと、ちょっと不満そうなすずか。
俺たちは子供なんだから、大人の決めたことには逆らえないんだぞ…一応な。
でも、それよりも、だ。
「変だけど、でもなのはがそれをやるって言ってるんだから、しょうがないだろう? …何やってるか、知らないけどさ」
「…何かアンタが言うと、変に重みがあるわね」
しみじみ言うなよアリサ、なんか俺が凄い年寄りみたい…って二人からすればそうなのか、そういえば。
すずか、そう納得しないで、今の俺はメチャクチャな事言ったよ?
「おいおい、納得するなよ二人とも?」
「…でも、雄介君の言うとおりかなって」
そう言って、手に持っていたコントローラーを俺に渡してくるすずか。
「結局は、なのはちゃんがやるって言っちゃったんだもんね…何してるかは、言ってくれないけれど」
「…言ってくれないのは、そのやってる事の方の都合みたいだけどな」
「え、そうなの?」
声を出したのはアリサだけど、すずかも驚いたような顔をしている。
そういえば、ハラオウンさんに会ったのは俺だけか。
「昨日、俺がなのはの引率みたいな人に会ったって、アリサには言ったよな?」
「…そういえば、そんな事も言ってたわね」
アリサが思い出して頷き、すずかはそれでと言う様な視線を送ってくる。
コントローラーが戻ってきたので、気まぐれにフィールドのモンスターと戦いながら。
「それで会って少し話をしたんだけどな…なのはは自分で話さない事に決めたってその人に言ってたけど、その人はそれもこっちの都合があるからでしょう?みたいな事を言ってたんだよ」
「…ふーん」
アリサもすずかも、二人揃って考え込んでいる。
何がなのはに起こってるかなんて、俺たちに分かりようは無いけれど。
それでも、考えて。
それで、どうするかを決めるのが、友達として正しいのかなぁ、なんて思いながら。
一人で黙々と、経験値とお金を貯めていると
「あ、そろそろ戻って私の武器買い換えましょうよ」
「…また混乱されて襲い掛かられたら、瞬殺確定かと思うんだがどうだ?」
「それで攻撃の要を失っても、良いのかしら?」
アリサが普通にゲームへと復帰して、
「それより、私の防御力をあげたいなぁって思うんだけど」
「…それもそうね、最後列でもけっこう攻撃されるし」
「一応、今防具では一番お金掛けてるだろ? ここは健気に、拾った武器で我慢してる俺じゃないか?」
すずかも、そのままゲームへと復帰した。
何にも言わず、態度だけでどうするのか決めたのを二人が伝えてくるので、俺もそれに倣って答える。
三人で元通りにゲームを進めながら、
「そういえば、なのははどこに行ったんだ?」
「…雄介君、それを聞くのはデリカシーが無いよ?」
「え?…あ!? 今のは無しだ、ノーカウント!」
「どう考えても遅いわね…なのはが居ないから、一応セーフかしら? 後、アンタはしばらくそれね? お店で売ってるのより、ほんのちょっと弱いだけじゃない」
勇者なのに肩身が狭いのコレ如何に!?
+++
しばらく三人でフィールドを徘徊して敵を狩っていると、ようやくなのはが戻ってきた。
そしてその状態で話しあった結果、次の買い替えはなのはの杖に決定した。
お店まで戻ってみてみれば、なのはの杖は攻撃魔法付きだったので、攻撃手段を増やそうとの判断である。
そうやって、四人で日が暮れるまで遊んで。
何時もどおりに過ごして、解散して。
特に何か…最近のなのはの行動について話したりする事も無い。
でもまぁ、これで良いのだと思う。
俺もアリサもすずかも、気にはなっているけれど…全部を、俺たちに言わなきゃいけないわけじゃ無いんだから。
言える事と言えない事と、そういうのが例えあっても、気にしないで居ることも友達なんじゃないかと、俺はそう思ったりもするわけだけど。
恥ずかしいから、誰にも言わないが。
昨日のは口が滑っただけなので、ノーカウントです。
そんな事をつらつらと一人で考えていたら、夜に俺の携帯電話に着信があった。
電話に出ようと携帯を開けば、そこに出たのはちょうど今考えていた人の名前で。
『高町なのは』と、そう表示されていた。
+++後書き
類まれなる絶不調、本気で投稿しようか悩んだけれど、これはこれで糧になると判断して投稿。
最後が今までに無い終わり方ですが、特に意味はありません。
次は閑話な訳ですが、本編無印部分があと少しで終わりそうです。
なるべく分かりやすく終わらせたいと思いますが、微妙に難しそうなので終わったット判断したら、簡易的なキャラ紹介でもくっつけておこうと思ってます。
次の閑話で、どうにか調子を取り戻さないとな…
※いさんの指摘により、誤字を修正しました 確立→確率