ただ黙って、なのはの手を握る俺。
視界の端で、ユーノがずっとこっちを見上げているけど、何も反応できない…したくない。
今はただ、少しでもなのはの手があったかくなれば良いと思って。
ピリリリリリ
さっきポケットに入れた携帯が、鳴り出した。
どうしてもなのはの手を離すのが惜しくて、片手だけ離してポケットの携帯を取り出し、電話に出る。
「…もしもし」
『雄介、か?』
「恭也さん」
電話の向こうから聞こえたのは、恭也さんの声。
普段よりずっと硬い、その声音にもうすずかから聞いたのだと解って。
『これから、担架を持って森に入る…自分がどこに居るかは、解るか?』
「いえ…がむしゃらにユーノの後を追いかけてたので、解らないです」
『…ユーノ? いや、それは良いか…なら、俺たちが森の中で声を出しながら歩くから、声が聞こえたら電話でどっちの方角から聞こえたかを教えてくれ…出来るか?』
「大丈夫です…お願いします、恭也さん」
解ったすぐに行く、そう恭也さんが言って、電話は切れた。
携帯は片付けない方が良いのは解ってたけど、ポケットに入れてもう一度なのはの手を握る。
少しだけ、暖かくなったような気がして、それが嬉しくもあり悲しくもあった。
+++
その後は、恭也さんの声が聞こえてから電話でおおよその方角を伝えて、しばらくしたら恭也さんとノエルさん、それにアリサがやってきた。
恭也さんがこちらに歩み寄り、俺の傍のなのはを見て息を呑んだ。
「っ…雄介、すまないが退いてくれ。 ノエル」
「はい、恭也様」
恭也さんに言われるままに、なのはから手を離して少しだけ離れる。
離れたくは無かったけれど、今の俺に出来ること何て無いから、恭也さんとノエルさんがなのはを担架に移動させているのを見ているだけで。
「雄介…大丈夫、アンタ?」
「…アリサか」
そんな俺に、アリサが声を掛けてくる。
普段とは違い、心配そうに俺の顔を覗き込んでいて。
ふと、
「…なんで、ここに居るんだ?」
そんな、馬鹿なことを口走っていた。
何でここに居るかなんて、なのはが心配だったに決まっているのに。
すずかが居なくてアリサが居るのは、単に性格の違いでアリサが待っていられなかったからだろう。
「あのね…なのはが心配に決まってるでしょ?」
「だな…すまん」
「あと、アンタもね」
予想通りの答えに、馬鹿なことを聞いたと謝ると、意外な言葉が返ってきた。
俺が、心配?
俺なんて、別に何か怪我をした訳でも何でもないのに。
そう、思っていると
「あのね、今アンタの顔色、凄いことになってるのよ?」
「え?」
反射的に自分の顔を触ってみるけど、それで解るはずは無く。
「気絶してるっていうなのはだって心配だけど、それを見つけたアンタだってそんな衝撃的なことがあったんだから…心配するのが、当たり前でしょう?」
アリサの言葉に、何も言えなかった。
確かに、俺だってもしアリサが大怪我した人を見つけたと言ったら、同じような心配をすると思う。
そんな事にも、頭が回らないなんて。
「…今の俺、傍から見るとどうだ?」
「なのはが見たら、間違いなく寝てなきゃダメ!とか言いそうね」
それくらい、酷い顔色らしい。
そんな顔色だったら、けっこう友達思いなアリサに心配を掛けてしまうのは当たり前か。
俺はおもむろに両手を自分の頬に当てて、一度深く息を吸い思いっきり両頬を叩く。
パァンと良い音がして、手加減しなかった所為でジンジンと痛むけれど、すこしは頭も冴えてきた筈だ。
「…すっきり、した?」
「それなりに、な」
冴えた頭でアリサを見れば、俺を心配そうに見ながらも表情は硬く、視線が何度もなのはの方を向いている。
こんな状態でも俺を心配するアリサが凄いのか、こんなアリサに心配させてしまうくらい俺が駄目な状態だったのか…
そんな事を考えていたら、自然と口が動いていた。
「ありがとな」
「…何よ、急に」
俺のお礼に、口を尖らせて見せるアリサ。
若干、頬が赤いのは照れくさいのか…まぁ、それは俺もそうだけど。
お礼くらいは、ちゃんと言うべきだと思う…が。
「…何となくだ」
「あっそ」
やっぱり、照れくさい。
普段アリサとは、互いに遊びで騒ぎながら言い合うことしかしていないから、こういうやり取りがむず痒くて仕方なかった。
だけど、こうでもしないとちょっと気持ちが落ち着きそうに無い。
わざわざ気に掛けてくれたのだし、出来る限り何時も通りを心がける。
取りあえず、アリサから視線を逸らそうと辺りに視線を向けて。
「…ん?」
視界の端に、何かが映った。
なのはの倒れている場所より、少し離れて森の色じゃない色が小さく見える。
なのはの方を見れば、ようやく恭也さん達がなのはを担架に乗せ終わったところ。
見える何かが、もしかしてなのはの物ならば拾っていった方が良いだろう。
「ちょっと、どこ行くの雄介?」
「いや、何か落ちてるから、拾っておこうと思ってな」
目ざとく俺の行動に目をつけたアリサが聞いてくるので、取りあえずそう答える。
軽く首をかしげながらも、俺の後を付いて来るアリサ。
恭也さん達が戻る時には一緒に戻るので、駆け足でその何かに駆け寄る。
と、そこにあった…居たのは。
「…アリサ、コイツは」
「アイ、よね? 多分だけど」
見下ろした先、地面に転がっているのは猫。
無論、野良猫などでは無く、すずかの飼っている猫の内の一匹。
しかもついさっき、ユーノと大騒動を引き起こした猫だ。
ソイツが、こんな所で寝て…?
「…寝てる、んじゃ無い?」
「…そうね、何か寝てるわけじゃ無いように見えるわ」
寝てるというよりも、倒れてるように感じた。
そう感じたのはアリサも一緒のようで、ふと見れば怪訝そうな顔をしている。
なぜ、倒れている?
そう思いながらアイを抱き上げると、グッタリとしている。
なのはのこともあって、取りあえず呼吸を確認すると、一応呼吸はしているようだ。
「…起きない、って事は」
「ただ、寝てるわけじゃなさそうね」
もちろん、猫ごとに違いはあるだろうけれど、人に抱き上げられてそのまま寝続ける猫なんて居るのだろうか?
居てもおかしくは無いけれど、それは家の中とかであって、こんな外でそこまで熟睡する猫なんて居ないだろう。
なら何で、と考えたところで。
「二人とも! どうかしたのか?」
掛けられた声に振り返れば、恭也さんが担架を持ち上げた状態でこっちを見ていた。
いざなのはを運ぼうとした時に、俺たちが居ないのに気づいたんだろう。
「何でもないです、すぐそっちに行きます! …アリサ?」
「そうね、アイの方はすずかに任せるしかないもの」
アイを抱えて、恭也さんの方へと小走りで移動する。
ここに置いて行く訳には行かないが、なのはの担架には乗せるスペースが無いので俺が抱えていくことにする。
俺とアリサが合流して、ゆっくりだが足早にすずかの家のほうに向かい始める。
担架の上のなのはは、やはり苦しそうでは無いけれど、一向に起きる気配は無い。
そんななのはと、猫のアイを見ていてふと。
(…なのはとアイが気を失ってるのには、何か関係あるのか…?)
そんな考えが頭に浮かぶけれど、今はそんな事を考えている場合では無い。
ただ黙って、恭也さんの後を追って一心に足を動かした。
+++
その後、なのはが目覚めたのは陽も暮れかけ、空が赤く染まった頃だった。
すずかの家に運ばれてすぐに、ファリンさんとすずかの用意していた部屋に運ばれたなのは。
病院に連れて行くのかと考えていたけれど、ノエルさんによればなのはには外傷も無く脈拍も正常だと言う事で、もう少し様子を見ようという話になってしまった。
俺としては何かがあっては遅いので、すぐにも病院に運ぶべきだと思ったけれど、恭也さんがそれで納得したので、俺が言える事は何も無くなった。
猫のアイの方は、すずかの家にちょうど着いた辺りで眼を覚ましていた。
だが元気が無いのか、俺の腕から逃げることも無く収まっていたので、なのはが寝ている部屋に着いてからすずかへと引き渡した。
すずかが見た所でもアイの方にも怪我などはやはり無く、しばらくすずかが面倒を見た後は元気に部屋から出て行っていた。
なのはが目覚めるまでの間は、部屋の中はとても重苦しい雰囲気だった。
誰も殆ど喋らず、ただなのはの眼が覚めるのを待っているだけの時間。
なのはの眼が覚めた瞬間に、誰からとも無く安堵の息が漏れたのは仕方ないことだろう。
アリサとすずかがベッドの脇でなのはに話し掛けている間、俺は二人の後ろに立ってただ見ているだけだったけれど。
その後、なのはからどうしてあんな事になったのかを聞いたところ、どうやらユーノを探している間に、転んで気絶してしまったと言うことらしい。
俺は、なのはがそう言ったのだからそうに違いない筈なのに、何故だかそれが本当だとは思えなかった。
なのはに嘘をつく理由も無いのに、どうしても本当だとは思えなかった。
別に、嘘だと断言できる理由があったわけでも無いのだけれど。
なのははそのまま自分の家に帰り、何かがあればすぐにでも病院に行くと約束してその日は別れた。
そしてまた学校が始まり、俺たちは三人揃ってまた頭を抱えることになった。
あの日でもう大丈夫だと思ったのに、またなのはの様子が変だったのだ。
時折元気が無いように見え、さらには深く考え込んでしまうこともあって。
三人揃って、次はどうしようと考えていたある日。
+++
「ねぇ、アリサちゃんすずかちゃん、雄介くん? ちょっと良いかな?」
「何よ? そんな急に改まったりして?」
何時も通り屋上でお弁当を食べていると、なのはが話を切り出した。
実は、今日は朝から何だかなのはが上機嫌だったので、何かあるのかとは思っていたけど。
「あのね、皆今度の連休は何か予定とかある?」
「今度の? んー、私は別に無いわね。 雄介は?」
「俺も特には、まだ聞いてないけどあるとしたら、サッカーの練習があるかくらいだな」
「私も、特に無いよなのはちゃん」
三人とも何も用事が無いのを(俺は一応、あるかもと言う話だけど)確認すると、なのはは嬉しそうに。
「雄介くんも、多分その日は大丈夫だと思うよ」
「?そうなのか?」
うん、となのはが言い切る。
自分の事じゃないことを、なのはが言い切るのは珍しい。
士郎さんが、なのはにそう言ったのだろうか?
いや、それならそれで俺が聞いてないのはおかしい。
俺、一応『翠屋JFC』のレギュラー何だけど。
と、そんな事を考えていたら、
「あのね、今度の連休に皆で温泉に行こっ!」
…はい? 温泉?
つまり、旅館に小学生四人で行くのか? 流石に無理だと思うけど?
+++後書きとコメレス
インターバルな今回のお話、次回は個人的に楽しみな温泉の部分ww 楽しみっていっても、邪なものは一切ありませんww ここ数話の本編内容は、あまり書いてて楽しくなかったのではっちゃけたいなと思ってたりしますけどww
>オヤジ3さん
むしろ、勝つ確立は作者補正抜くと雄介が低い気のする十和でしたww
対立関係が避けえぬかどうか、話をここまで書く前までは対立しなかったんですが、書いていたら雄介の性格が変わってきたので、もしかすると対立する可能性も、という感じです。
必要以上の雄介びいきにならぬよう、フェアな展開を頑張ります!
>つっちゃさん
そ、そうだったんですか…っ!? ありがとうございました、間は空きましたけど本日修正させていただきました。
魔法の事を知ったら、雄介は悩むんでしょうねぇ…どうするんでしょうか、大筋は決めてますけど、まだ作中時間でも半年は先なので、変わる可能性は高いですし。 ここで雄介がどんな男か決まりそうな気がしますね、将来。
ぶっちゃけ、ユーノに対するなのはへのアドバンテージはそれだけです。 ですが、ユーノの方も『魔法』についてしかアドバンテージは持ってないので一応、互角?
>たるさん
仲が良いと言いますか、雄介が話しやすいかそうでないか何ですよねww純情ボーイです、雄介はww
出来ることなら、恋敵同士でありながらも親友とも言える関係で、十和も書きたいのでどうにかそうしようとは思ってます。なので妥協は厳禁!十和もそこまで行ったときには、それまで話の流れしだいでは、対立も已む無し!とは考えていますけれど、そうはならないように書いていこうと思ってます。
に、人気がでるなんて…ありがとうございます!
でもぶっちゃけこの小説は、そんな小説なんです。野郎を見守る小説…なんか嫌な響きww
なのはがもの凄く鈍感だと思って書いてますので、きっと進展はなのはが精神的にもっと大人になってからですね。雄介からのアプローチ?それは…酷でしょう多分ww 想像ですけど、なのはって直接的に「好きだっ!」とか言われないと気がつかないタイプに今は見えますしww