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No.13860の一覧
[0] 俺と彼女の天下布武 (真剣で私に恋しなさい!+オリ主)[鴉天狗](2011/04/15 22:35)
[1] オープニング[鴉天狗](2011/04/17 01:05)
[2] 一日目の邂逅[鴉天狗](2012/05/06 02:33)
[3] 二日目の決闘、前編[鴉天狗](2011/02/10 17:41)
[4] 二日目の決闘、後編[鴉天狗](2009/11/19 02:43)
[5] 二日目の決闘、そして[鴉天狗](2011/02/10 15:51)
[6] 三日目のS組[鴉天狗](2011/02/10 15:59)
[7] 四日目の騒乱、前編[鴉天狗](2011/04/17 01:17)
[8] 四日目の騒乱、中編[鴉天狗](2012/08/23 22:51)
[9] 四日目の騒乱、後編[鴉天狗](2010/08/10 10:34)
[10] 四・五日目の死線、前編[鴉天狗](2012/05/06 02:42)
[11] 四・五日目の死線、後編[鴉天狗](2013/02/17 20:24)
[12] 五日目の終宴[鴉天狗](2011/02/06 01:47)
[13] 祭りの後の日曜日[鴉天狗](2011/02/07 03:16)
[14] 折れない心、前編[鴉天狗](2011/02/10 15:15)
[15] 折れない心、後編[鴉天狗](2011/02/13 09:49)
[16] SFシンフォニー、前編[鴉天狗](2011/02/17 22:10)
[17] SFシンフォニー、中編[鴉天狗](2011/02/19 06:30)
[18] SFシンフォニー、後編[鴉天狗](2011/03/03 14:00)
[19] 犬猫ラプソディー、前編[鴉天狗](2011/04/06 14:50)
[20] 犬猫ラプソディー、中編[鴉天狗](2012/05/06 02:44)
[21] 犬猫ラプソディー、後編[鴉天狗](2012/05/06 02:48)
[22] 嘘真インタールード[鴉天狗](2011/10/10 23:28)
[23] 忠愛セレナーデ、前編[鴉天狗](2011/04/06 14:48)
[24] 忠愛セレナーデ、中編[鴉天狗](2011/03/30 09:38)
[25] 忠愛セレナーデ、後編[鴉天狗](2011/04/06 15:11)
[26] 殺風コンチェルト、前編[鴉天狗](2011/04/15 17:34)
[27] 殺風コンチェルト、中編[鴉天狗](2011/08/04 10:22)
[28] 殺風コンチェルト、後編[鴉天狗](2012/12/16 13:08)
[29] 覚醒ヒロイズム[鴉天狗](2011/08/13 03:55)
[30] 終戦アルフィーネ[鴉天狗](2011/08/19 08:45)
[31] 夢幻フィナーレ[鴉天狗](2011/08/28 23:23)
[32] 幕間・私立川神学園第一学年平常運行中、前編[鴉天狗](2011/08/31 17:39)
[33] 幕間・私立川神学園第一学年平常運行中、中編[鴉天狗](2011/09/03 13:40)
[34] 幕間・私立川神学園第一学年平常運行中、後編[鴉天狗](2011/09/04 21:22)
[35] 開幕・風雲クリス嬢、前編[鴉天狗](2011/09/18 01:12)
[36] 開幕・風雲クリス嬢、中編[鴉天狗](2011/10/06 19:43)
[37] 開幕・風雲クリス嬢、後編 Aパート[鴉天狗](2011/10/10 23:17)
[38] 開幕・風雲クリス嬢、後編 Bパート[鴉天狗](2012/02/09 19:48)
[39] 天使の土曜日、前編[鴉天狗](2011/10/22 23:53)
[40] 天使の土曜日、中編[鴉天狗](2013/11/30 23:55)
[41] 天使の土曜日、後編[鴉天狗](2011/11/26 12:44)
[42] ターニング・ポイント[鴉天狗](2011/12/03 09:56)
[43] Mr.ブシドー×Ms.キシドー、前編[鴉天狗](2012/01/16 20:45)
[44] Mr.ブシドー×Ms.キシドー、中編[鴉天狗](2012/02/08 00:53)
[45] Mr.ブシドー×Ms.キシドー、後編[鴉天狗](2012/02/10 19:28)
[46] 鬼哭の剣、前編[鴉天狗](2012/02/15 01:46)
[47] 鬼哭の剣、後編[鴉天狗](2012/02/26 21:38)
[48] 愚者と魔物と狩人と、前編[鴉天狗](2012/03/04 12:02)
[49] 愚者と魔物と狩人と、中編[鴉天狗](2013/10/20 01:32)
[50] 愚者と魔物と狩人と、後編[鴉天狗](2012/08/19 23:17)
[51] 堀之外合戦、前編[鴉天狗](2012/08/23 23:19)
[52] 堀之外合戦、中編[鴉天狗](2012/08/26 18:10)
[53] 堀之外合戦、後編[鴉天狗](2012/11/13 21:13)
[54] バーニング・ラヴ、前編[鴉天狗](2012/12/16 22:17)
[55] バーニング・ラヴ、後編[鴉天狗](2012/12/16 22:10)
[56] 黒刃のキセキ、前編[鴉天狗](2013/02/17 20:21)
[57] 黒刃のキセキ、中編[鴉天狗](2013/02/22 00:54)
[58] 黒刃のキセキ、後編[鴉天狗](2013/03/04 21:37)
[59] いつか終わる夢、前編[鴉天狗](2013/10/24 00:30)
[60] いつか終わる夢、後編[鴉天狗](2013/10/22 21:13)
[61] 俺と彼女の天下布武、前編[鴉天狗](2013/11/22 13:18)
[62] 俺と彼女の天下布武、中編[鴉天狗](2013/11/02 06:07)
[63] 俺と彼女の天下布武、後編[鴉天狗](2013/11/09 22:51)
[64] アフター・ザ・フェスティバル、前編[鴉天狗](2013/11/23 15:59)
[65] アフター・ザ・フェスティバル、後編[鴉天狗](2013/11/26 00:50)
[66] 川神の空に[鴉天狗](2013/11/30 20:23)
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[13860] 幕間・私立川神学園第一学年平常運行中、前編
Name: 鴉天狗◆4cd74e5d ID:2b0e36b7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/08/31 17:39
 川神学園には今、戦乱の嵐が吹き荒れている――とは、さる三年生の先輩の呟いた台詞であるそうだ。

 言い回しが無駄に大仰なところを気にしなければ、概ね的を射た表現だと思う。流石は言霊部部長、現状を形容するのに相応しい言葉を拾い上げるのが上手い。確かに今現在、私立川神学園にて巻き起こっている幾多の闘争は、戦乱と呼ぶのが最も適切だろう。

 それに異を唱える人は、一度でいいから今年の四月に入ってから勃発した“決闘”の回数を調べてみると良い。大小併せて実に三十七件――いくら競争を推進する川神学園でも、僅か一月の間にこれほどの回数に及ぶ決闘が頻発した例はほとんど見受けられない。しかも四月がまだ残り一週間を残しており、始業式が四月七日に執り行われた事実を考慮すれば、尚更その異常性は浮き彫りになる。……という旨の事を、我らが担任の先生は愚痴っぽい口調で漏らしていた。

 何やら他人事のように語ってしまったが、何を隠そう私こと、川神学園1-S所属のプレミアムな超新星・武蔵小杉もまた、この“戦乱”の拡大の一端を担っている張本人なのであった。何せ一年生制覇を目標に掲げ、入学一日目から目標を達成すべく活動を始めていたのだから、まさに嵐の先駆けと言っても何も間違いではないだろう。少なくとも三十七件中の六件までは、私の手柄(?)だ。

 あくまでも先駆けであって、嵐の“中心”になれなかったのは私のプライドをいたく傷付ける結果ではあるけれども、しかしまあ今回ばかりは流石に相手が悪い。常に争乱の嵐の中心に存在し、闘いを周囲に振り撒いている男と張り合うのは、流石に今の私には荷が重かった。プレミアムな私の観察眼を以ってすれば、その程度の自己判断は余裕なのだ。

 織田信長――それが、二年生最強にして最凶の男の名である。四月七日の始業式に合わせて2-Sに編入して以来、彼は絶えず全校生徒の話題と注目の的だった。色々な意味で誰もが一目置く九鬼財閥の御曹司との決闘を皮切りに、日本三大名家・不死川家の息女を僅か一撃の下に打ち負かし、そして確実に後々の語り種となるであろう、2-F代表チームとの激烈な三本勝負を繰り広げる。主にこれらの闘いを以って、織田信長は想像を絶する実力と共にその名を全校に知らしめた。川神学園に籍を置いている限り、今や誰一人として彼の名を知らない者は居ないだろう。何せ今現在も、彼は学年制覇(何とも親近感の湧く響き)に向けて動き続けている最中だ。私はもしかすると、生ける伝説の誕生に立ち会えたのかもしれない。

 さて、そうなると俄然、プレミアムな武蔵一族の娘たる私も負けていられないと、いよいよ発奮するべき状況なのだが。

 実を言うと少しばかり、ほんのちょっとだけだが、自信喪失中である。

 川神学園の平均レベルの高さは、ぶっちゃけ私の想像を遥かに超えていた。三年生及び学園そのものの頂点に君臨する武神・川神百代……彼女はまあそもそも私達と同じ人類かどうかも疑わしいので別枠としてもだ。2-Sの不死川心、忍足あずみ、言わずもがなの織田信長に、その従者の森谷蘭。2-Fには武神の妹・川神一子に、弓道部の先輩たる椎名京――ざっと数えただけでもこれほど多くの実力者が、二年生の生徒名簿には名を連ねている。しかもこの面々はあくまで有名処。偶々四月の決闘の中で実力を披露する機会を得た、二年生の中でも一部の生徒に過ぎない。或いは彼女らと同等の武力を有する者も、学年全体にはまだまだ隠れていると考えるべきなのだろう。……そして、私こと武蔵小杉の現在の実力では、先程挙げた先輩達には到底太刀打ち出来ないのが現実だ。

 いやまあ、決闘を観た感じでは不死川センパイだけは私でもどうにかなりそうな気がするが、それにしたところで勝ちを確信できる程ではない。誰だってあんな化物みたいな殺気を垂れ流している男を前にしたら動けなくなって当然だと思うし。彼女に罵声を飛ばしていた観客達は、その辺りがちっとも分かっていないと思う。無責任なギャラリーなど所詮はそんなものなのだろうが、武の知識が無いなら大人しく黙っていればいいのに、とあの時は醒めた頭で思ったものだ。

 閑話休題。幾多の決闘を観戦する中で、立ち塞がる学年の壁の厚さを感じた私は、やはり当初の予定通り、まずは一年生の制覇から始めようと意気込んでいた訳であるが――それすらも、のっけから躓いた。意外過ぎる伏兵が、私の隣に堂々と潜んでいやがったのだ。

 伏兵の名は、明智音子。名家・明智家の令嬢で、私のクラスメートだ。ちなみに1-Sのクラス委員長でもある。

 同じ1-S所属で同じく武家出身、同じく武道に関わる者同士という事もあって、私とねねは入学式の日に知り合って以来、ずっとつるんで行動していた。まだ化けの皮が剥がれていなかったあの頃、彼女はまさしく絵に描いたようなお嬢様で、雰囲気に性格、言動から挙措に到るまで、全てが香り立つような名家の気品に満ち溢れていた。だからこそクラス投票の結果、ねねがプレミアムな私を差し置いて委員長に選ばれた時も、まあコイツになら負けても仕方ないかな、と広い心で大人しく引き下がってやったのだ。

 だがしかし、入学から二週間を経た頃、遂に現した本性は―――

「あー、キミ、えーっと……名前が思い出せないから子分Aでいいや。ねぇ子分A、今日は私、チョコスティックパンとミルクの奏でるまろやかなハーモニーを心ゆくまで楽しみたい気分なんだよ。ってなワケで、三分以内によろしくね」

「あ、子分Aってやっぱ自分ッスか……?でも購買って今から行ったら混みまくりで三分じゃとても――イヤ何でもないッスハイ。あのボス、ところでお代は……」

「え?んん、んんん~?まさかとは思うけれども、キミはもしかしてもしかすると、この私に代金を払わせようだなんて爆笑必至なセリフを吐こうとしているのかな?いやぁそうだとしたら面白過ぎてついうっかり誰かの両脚の付け根を蹴り上げちゃうかもしれないね。でも仮にそんな不幸な事態になっちゃったとしても、それは不用意に人を笑わせたキミが悪いのであって、私に責任は無いと考える次第だよ。さてさて、キミはどう思う?」

「喜んで行かせて頂きまッス!四の五の言ってゴメンなさいッス!」

「やだなぁそんなにビクビクしないでよ、私はただクラスメートと仲良くしたいだけなんだからさ。ねぇ子分A?くふふ、あははははっ」

 コレである。もはや猫を被っていたとかそういう生易しい表現で片付けられるレベルではない気がする豹変っぷりだった。

 時刻は十二時十五分、昼休み。

 明智ねねはちみっこい身体を椅子の上で限界までふんぞり返らせて、ニヤニヤと邪悪極まりない笑みを浮かべながら教室の中央に陣取っている。その周囲では数人の生徒(実を言うと私も名前を覚えていないので子分A、B、C、Dとでもしよう)が一様に卑屈な笑顔を浮かべて、必死のご機嫌取りを行っていた。我侭王女とその下僕たち――そんなイメージが頭を過ぎる中、やれやれコイツらは全く、と溜息を吐きながら、私は今にも走り出そうとしていた子分Aに声を掛けた。

「私はプレミアムに焼きそばパン一択ね。飲み物は気分的にカフェオレってとこかしら」

「あ、別にボスの横暴を止めてくれたりとかそういうのはないんスね武蔵の姐さん……」

「姐さん言うなっつってんでしょうが。さっさと行かないと腎臓に正拳一発追加するわよ」

「イエスマムッ!」

 パシれメロス。子分Aは自分の財布を引っ掴むと、脱兎の如く教室を飛び出していった。思わず目を見張る程のスピードだ。S組所属のエリートの癖に下っ端根性が染み付いているというか……類を見ないレベルで小物な性格といい、パシリの才能をひしひしと感じた。

 うん、何にせよ友達想いのクラスメートを持った私は幸せ者である。周囲の取り巻きBCDが揃って笑顔を引き攣らせているが、理由は分からない。

「おやおやムサコッス、私の大事なトモダチを使いっ走りに使うなんて酷いことするね。使うなら使うで、ちゃんと私の許可を取って貰わないと困るんだけど」

「あーもう煩いわね、それくらい黙って貸しなさいよ。アレは一応私の戦利品でもあるんだから。てかムサコッスゆーなネコ」

「ネコゆーなムサコッス。あーあ、仕方ないなぁ……何と言っても私はもともと真っ青な太平洋も真っ青に染まっちゃうくらい広大な、まさしく聖母の如き慈愛に溢れた心の持ち主だから許してあげるよ。うふふ、それにしても1-Sのトップ2に奪い合われるなんて、子分Aさんったらなんて幸せ者なのでしょうか。ねぇ、貴方達もそうお思いになる事でしょう?」

 ねねが不気味に甘ったるい猫撫で声を上げると、BCDは青褪めた表情でブンブンブンと首を縦に振った。一体全体何をされたのかは知らないが、どうも完全に反抗心を叩き折られているらしい。ほんの少し前まではあれほど血気盛んに食って掛かっていたと言うのに……ねねの奴に決闘で完膚なきまでの惨敗を喫して以来、ずっとこの調子である。

 さて、私が嵐の先駆けで、織田信長が嵐の中心とするならば、明智ねねは今まさに学園を吹き荒れている風そのものと云えるだろう。何せ学園を騒がせた三十七件の決闘の内、実に十三件までがこの腹黒娘の所業であり、しかも決闘の頻度は徐々に上がってきている。これはねねが本性を現すと同時に、一年生全体への宣戦布告などという派手な事をやらかした所為だった。プレミアムな私のように競争意識の強い生徒の集まる川神学園でそんな挑発的な真似をすれば、当然の如く砂糖に群がるアリよろしく挑戦者が殺到する。それはクラスメートであっても例外ではなく、つまるところこの場にいるねねの子分BCDはそういう連中だった。しかも真っ当に挑むのではなく、ねねが負傷中のところを狙ったり、誰から見ても卑怯千万な手段を用いたり、或いはセクハラ紛いの発言で挑発したりと、全く以ってプレミアムではない戦い方をした挙句、それでも一方的に負けているのだから同情の余地はない。こうして下僕扱いされているのも、まあ言ってみれば自業自得であった。パシリ真っ最中の子分Aに関して言えば、少しばかり例外の様だが。

 しかし、それにしても。

「ねぇ子分B。当然、私が任せた仕事はもう終わってるんだよね?1-D内の主要なメンバーのプロフィールと、クラス内部における人間関係についての調査報告、まだ受け取っていないんだけど……どうしたのかな?」

「も、申し訳ありませんボス、それがまだ……、あと一日!一日で終わらせますから、どうか延髄斬りは勘弁して下さいッ!」

「う~ん、……やれやれ、仕方ないなぁ全く。じゃあ特別に一日だけ待ってあげるよ。幾ら愚図の無能とは言っても、キミだって私と同じSクラスの、選ばれた人間なんだからさ。一日あればそれくらいは出来るよね?ああ、ちなみにもし万が一にでもサボタージュしてるんだったら……今すぐ態度を改める事を推奨するよ。私はね、“使えない部下”って奴がとってもキライなんだ。それはもう、今すぐにでもぶっ壊してやりたいくらいに、ね」

「――ッ!」

 コイツ、こういうポジションに慣れ過ぎていやしないか?

 ニコニコと愛想よく笑っている口元とは裏腹な、冷酷さを宿した鋭い目を以って子分達を震え上がらせているねねを観察しながら、私は改めてそう思わざるを得なかった。お上品な性格やら何やらは猫被りの演技だったとしても、ねねが明智家の令嬢であるという事実は変わらないのだ。しかし、今のこの姿は、どう見てもお嬢様というよりは……どこぞの組長の跡取り娘である。姐さん呼ばわりされるなら絶対に私よりもコイツの方が似合っているだろう。見た目は思いっきりお子様だが。

 とまあそんな感じなので、明智音子は1-Sクラスでは今や恐怖の象徴、手の付けられない暴君として君臨している。主に子分BCDの無惨な敗北っぷりとその末路を存分に見せ付けられた事で、傍若無人なねねの振舞いに文句を付けようとする者は誰もいなくなっていた。男子も女子もクラスメートは皆同様、機嫌を損ねないように、目を付けられないように戦々恐々と日々を過ごしている。曲がりなりにも友人という対等な立場でまともに会話を交わしているのは、1-Sでは私くらいのものではないだろうか。

「くふふ、キミ達も子分Aを少しは見習うべきかもね、BCD。担当していた1-Cの情報収集、アレはなんとたったの一日で終わらせたよ。今のところは特に失敗もしてないし、何より購買と教室間の往復タイムがぶっちぎりで早いのは大きなプラスポイントだね。そろそろ名前を覚えてあげても良い頃かな」

 と、そんな風にねねが口元を吊り上げた瞬間、教室のドアが外側から勢いよく開け放たれた。

「うおおおおっ!三分ジャストォッ!間に合いましたよボス、ご所望のチョコスティックパンとミルクのセットッス!」

 ぱたぱたと親分の机に駆け寄りながら、何かをやり遂げた快心の笑顔で戦利品を掲げて見せる子分Aは、最高にパシリだった。パシリとはかくあるべしだと私は思った。いや、私だけではない――きっと1-Sの皆はこの瞬間、心を同じにした事だろう。何故かいつも口に咥えている青々しい笹の葉をピョコピョコと上下させながら、今度はこちらに駆け寄ってくる。

「へっへっへ、ちなみに勿論、武蔵の姐さんご所望の焼きそばパンとカフェオレもバッチリですぜ」

「だから姐さんはやめろっつってんでしょーが。まったく、どいつもこいつも人の名前をまともに呼ぶ事も出来ないとは嘆かわしいわ。いい?いずれ世界に遍く響き渡る私の名前は武蔵小杉!プッレ~ミアムに記憶しなさい!」

「うるさいからちょっと永遠に黙っててくれないかなムサコッス。うん、でも、ちょうど良い機会だね。確かに名前は大事だ。という訳で、子分A。特別にキミの名前を覚えてあげる事にするとしよう。いいパシリっぷりを見せて貰った褒美ってところかな」

「おおっ?真剣ッスか!へっへっへ、これで遂に自分にも立ち絵が貰えるんスね!」

「キミが何を言ってるのかは全然さっぱり判らないけど多分きっと間違いなく絶対にそれは無理だね。で、さっさと言わないと私の気が変わっちゃうけど、良いのかな?」

「駄目ッス!この千載一遇のチャンスを逃すワケにはいかないッス。という訳で、いざ名乗りを!自分の名前は……可児!可児鎌慧(かに かまえ)ッス!」

 よほど子分Aからの脱却が嬉しいのか、目を輝かせながら満面の笑みで名乗りを上げる。一瞬、後ろで尻尾がパタパタ揺れているような幻覚が見えた。

「……。へーカニカマかぁ、随分と美味しそうな名前だねー。うん、面白いと思う、よ?」

「昔から言われ飽きてるッス……その笑うべきなのか分からないって感じの微妙な反応すらも慣れっこッスよ、自分。今でも割と真剣で親を恨んでるッス……。いくらボスでもそればっかりは譲れないッスよ、出来るならどうか他の案をヨロシクッス!」

「やれやれ、何ともまあ我侭な子分だなぁ。仕方ないな、もう少しだけ考えてあげるよ。名前で苦労する気持ちは分からないでもないし。……じゃあ、う~ん―――“カニ”で」

「それはそれで普通にイヤな上に何やらとんでもなくマズイような気が!そこはかとなくどっかの誰かとモロ被りな気がするッス!」

「えーと、じゃあ“カマ”が良いのかな?ちなみにキミがそれを望んだとしても、私の方から断固拒否させて貰うよ。名は体を表すって言うし、もしホントだったら洒落にならないしね」

「望まないッス!カマじゃないッス!このばいんばいんのないすばでぃがボスには見えないんスか!?」

「生憎とナイスバディは見えないね」

 きょにゅーと読んで、虚乳と書く。

 目の前に突き出された、控え目に言って控え目な胸を冷たい目で見ながら、ねねは全力で投げ遣りな調子で口を開いた。

「あーもう面倒くさいなぁ。カニもカマもカニカマも駄目なら無事なパーツがエの一文字しか残ってないじゃないか。もうそれならいっそ長音符でも付けてエーとでも呼ぶしかないね。よし決まった、これからキミのことは子分Aと呼ぶとしよう。うんうん、素敵な渾名が貰えて嬉しいでしょ?」

「嬉しくないッス!一周してるッス!……うぅ、自分はゼッタイ、子供にちゃんとした名前を付けてあげるッス……この哀しみの連鎖は自分の代で断ち切るべきッス」

 哀愁漂う呟きの内容は、全力で同意せざるを得ないものだった。私もまた、親の気分に人生を否応無く歪められた被害者の一人なのだから。大体、小杉って。姓が武蔵だから小杉って。出オチにしかならない駄洒落で一生付き合わなければならない名前を決められる私の気持ちを想像した事があるのだろうか。見ればねねも神妙な顔で物思いに耽っている。そういえばコイツも名前のお陰で“ご主人”に延々とネコ呼ばわりされている様だし、何か思う所があるのだろうか。全く、業が深い。

 私達が揃って暗い顔で沈み込み、1-S教室の中央に魔の三角地帯を形成していると、再び教室の戸が開け放たれた。先程よりも乱暴な開け方だった所為か、教室中の注意が一斉にそちらへと向いた。私とねね、そして子分Aも詮の無い思考をどうにか打ち切って、視線を動かす。

「ギャハハハッ、お邪魔しちゃいますよぉ~っと!」

 ゴリラが戸口に立っていた。

 というのは勿論のこと比喩表現であって、現実はゴリラと見紛うような色黒でデカくて筋骨隆々の女子生徒が立っていた、と形容するのが正しい。流石に本物のゴリラが登校している高校など有り得ないだろう。仮にそんな事が有り得るなら、着ぐるみやロボットと一緒に登校する羽目になってしまってもおかしくない。いかに川神学園に奇人変人の類が多いとはいえ、一応は生徒全員が暦とした人である。うん、多分。

 ゴリラのような女子生徒(もうゴリラでいいや)は戸口からジロジロと1-S教室内を睥睨して、そして中央にふんぞり返って陣取るねねの姿を捉えると、ニタリと獰猛な笑みを浮かべながら机の前へと歩み寄った。更にゴリラの後ろから続けて教室に入ってきたお供らしき二人の女子生徒(猿似)が追従して、ねねを取り囲むように立つ。

 その段階に到って、ようやくねねは動きを見せた。動いたと言っても、いかにも気怠そうな表情でゴリラ達の姿を一瞥しただけだったが。

「大体見れば分かるけどさ、私に何か用かな?ひとまず、私は自分の領地(クラス)に無断で踏み入られるのは非常に遺憾だって事だけは先に伝えておくよ」

「あ?あぁなるほど……ってぇ事はやっぱりテメェが1-S委員長の明智っつーワケ?へっ、色々とオモシレー噂が流れてるからどんなヤツかと思ったけどよ、まるでガキじゃんか。ぎゃはは、こんな貧弱なクソチビが一年シメようとかマジウケルんデスけど!」

 ゴリラが野太い笑い声を教室に響かせると、取り巻き二名も不快な笑い声で唱和する。ふと見れば、一歩引いて様子を見守っていたねねの子分ABCDは全員が揃って天井を仰ぎ、ああこいつら終わったな、と早くも彼女たちの冥福を祈っていた。かくいう私もまあ、同じような気分である。ねねはと言えば、感情の読み取り辛い薄ら笑いを浮かべながらゴリラ一行を見ているが、その目の温度はどう考えても人間に対するモノと言うよりは、屠殺場の豚を見るそれに似通っていた。

「生憎だけどね、私は“S組”っていう選ばれたエリートが集うクラスのリーダーであって、キミ達みたいに下等で無能で無価値な、哀れむべき人種と交わすような言葉なんて持たないんだ。という訳で、用件があるなら手短に頼むよ。チョコスティックパンとミルクの織り成す心地良い旋律が今か今かと私を待ってるんだから、時間をドブに捨てる真似はしたくないんだよね」

「……上ッ等じゃねぇかよクソチビが!真剣で“キレ”ちまったよ……そこまで言うからにはトーゼン受けて立つんだろうなぁ――決闘だゴルァ!」

「はいは~い。ほいっ、とな」

 威嚇するように猛烈な勢いで机にワッペンを叩き付けたゴリラとは対照的に、ねねはいかにもやる気の欠けた掛け声と共に無造作に放り投げる。

 そして、二つの校章が机の上で交差し――両者の温度差はどうあれ、今ここにまた一つ、新たな決闘が成立した。

「で、決闘ルールはどうするのさ。直接戦闘だったらまた学長を呼んでこなきゃだけど、そろそろ決闘自体にストップ掛けられそうでイヤなんだよね。この前呼び出した時も微妙に説教食らっちゃったしさぁ」

「へっ、心配いらねぇっての。アタイがこれから提案するのは戦闘じゃねーからな」

「ほうほう、それはなかなか興味深いね。その見た目でまさかまさかの頭脳戦を仕掛けてくる、っていう奇を衒った展開だったら私もそれなりに燃えてくるものがあるよ、ゴリラの如き外見に内包された精密なる頭脳!いいね、これぞギャップ燃えってヤツだ」

「誰がゴリラだゴルァ!アームレスリングで勝負しろっつってんだアタイはァ!」

 キレ気味の怒鳴り声を受けて、ねねは露骨に白けた顔で、ぐでり、と背もたれに身を預けた。

「あ、うん、腕相撲ね……やっぱ見た目通りの脳筋か。いやぁ、キミって見事なまでに意外性も面白味も皆無だね。そんなので生きてて楽しいの?」

「さっきから黙ってりゃグチャグチャうるっせーんだよてめぇ!何だエリートさんよぉ、まさかアタイにビビっちまってんのか、あぁ?ぎゃははは、別に逃げたきゃぁ逃げてもいいんだぜぇ?」

「あーはいはい、腕相撲でしょ?ルールが決まったならさっさと済ませようよホント。ま、その点で言えば、キミはいい選択をしたね。腕相撲なら勝負に時間を食わないし、学長も呼び出さずに済む。うんうん、キミには分不相応なくらい賢い案だ。さて、早く座りなよ」

 言いながらアイコンタクトを飛ばすと、子分Aが無駄に素早い反応速度で適当な椅子を見繕って、ねねの机の向かい側に設置した。そこに傲然と腰掛けながら、ゴリラはニタリとほくそ笑んでいる。不躾な視線の向かう先には、ブレザーに隠されていても一目で分かる細腕があった。なるほど、ねねの得意とする足技の出る幕の無い、卓上の格闘技というステージでの勝負ならば自分に有利と踏んだのか。姑息というか何と言うか。自分の圧倒的優位を疑ってもいないらしいゴリラの勝ち誇った表情を傍目に眺めながら、私は黙々と焼きそばパンを噛み千切った。うん、美味い。

「審判は自分が務めるッス!合図と同時に始めて下さいッス」

 机を挟んで対峙する二人は黙って頷くと、それぞれの右腕を机上に載せた。ゴリラが脅しつけるようにバキボキと指を鳴らしてみせているが、ねねは完全に無反応だった。先の宣言通り、もはや語る言葉は尽きたという事だろう。そもそもゴリラの方を見てすらいない。そんな相手を見下しきった態度が当然お気に召す筈もなく、ゴリラは怒りを抑えようともせず表情を歪め、ギリギリと歯を軋らせた。

「カクゴしなよボスネコちゃぁん、もし一ヶ月くらい腕が使えなくなっても文句言ってくれんなよお?決闘中の不幸な事故ってヤツだ、ぎゃははっ」

「はいはい、子分A。ハリーハリー」

「了解~ッス。――それでは両者、構えッ!!」

 弛緩した空気を一瞬で引き締める、凛々しい声音を張り上げた子分Aに、教室中から驚きの視線が集まった。クラスの誰もが皆、アレのことはただのパシリだと思っていたのだろう。うん、他でもない私がそうなのだから間違いない。俄かに教室が厳粛な雰囲気に包まれる中、ねねとゴリラは手を組み合った。こうして重ねて比べてみるとサイズの差は明らかで、ねねの手はほとんどゴリラの掌中に覆い隠されるような形になっている。

 さーて何秒で終わるかな、と口の中で紅ショウガを噛み締めながらぼんやり考えていると、

「―――はじめっ!」

「ぎゃあああああああああああっ!?」

 紅ショウガを胃袋へ落とすよりも先に、勝負は終わっていた。

 子分Aが語気鋭く告げた開始の合図と同時、手の甲が凄まじい勢いで机に叩きつけられ、ごきゃり、と猛烈に嫌な音を教室中に響かせる。それはまさしく一瞬の出来事で、周囲のギャラリーを見る限り、何が起きたのか認識できていない者もそこそこいるようだ。全く、仮にも私と同じS組生だろうに、情けない事だ。

 まあ過程が分からずとも、結果は誰の目にも明らかである。無事な左手で右手を抑えながら、床を転がり回って悲鳴を上げながら悶絶しているゴリラと、嗜虐的な笑みを浮かべながら冷然とそれを見下しているねねの姿が、そのまま勝者と敗者の間を隔つ絶対的な壁を示している。

「ごめんねぇ。一ヶ月と言わず二・三ヶ月は腕が使えないかもしれないけど、文句は言わないでね?決闘中の不幸な事故ってヤツなんだからさ。くふふ、あははははっ!」

 激痛に悶え苦しんでいるゴリラを眺めながら存分に愉しげな笑い声を上げると、不意にねねは醒めた表情に戻った。そして、オロオロとゴリラの傍で右往左往している取り巻き二名に冷酷な目を向ける。次は自分か、と悲惨な未来図を頭に描いたのか、二人組は瞬く間に顔色を青褪めさせた。

「身の程知らずの雑魚が無様に這い蹲る姿を観賞するのも、もう飽きちゃった。ギャーギャー喚いて煩いからさっさと片付けてよ」

「ひっ……!」

「どうしたのかな?心優しい私はお友達を一刻も早く保健室にでも連れてってあげなさいって言ってるだけなんだけど。ああ、もしかして保健室の場所がまだ分からないとか?まあまだ入学一月目だし、仕方ないかもね。それじゃ――子分BCD、出番だよ。さぁ皆さん、これよりお客様がお帰りになられますので、丁重にお送りして差し上げて下さいな。うふふふふっ」

 甘ったるい声音の命令を受けて、BCDは普段以上の恐怖に駆られた面持ちで迅速に動いた。ゴリラ一行を取り囲み、追い立てるようにして1-S教室から叩き出す。その様子を口元を吊り上げながら見遣って、ねねは心の底から愉快そうに哄笑した。

「あはははは、畜生は自分の巣に引っ込んでるのがお似合いだよ!下等な獣の分際で私達と対等に口を利こうってだけでも十分すぎるほど図々しいのに、あまつさえ決闘だなんて――思い上がりにも程があるね。全く信じられない愚劣さだ。類人猿が人間の群れに混じってるとしか思えないよ。うふふふ、キミ達もそうは思わない?」

 ねねが教室を見渡しながら問い掛けると、追従するような笑声が一斉に湧き起こった。絶対的権力者たるクラス委員長への恐怖で、自分の意思とは関係なく笑っているのが半分。そして普通に共鳴して笑っているのが半分、といったところか。

 ちなみに私は後者である。これは差別ではなく、区別だ。知恵を用いない人間など、畜生扱いされても文句は言えないだろう。ねねの力量を見定める機会はこれまで幾らでもあったと言うのに、それを確かめる事すらせず決闘を挑むなんて、あまりに馬鹿過ぎて言葉もない。アイツを相手に足技を封じた程度でどうにかなると、そこまで思い上がれる根拠はどこにあるのだろうか。ねねの奴が学園内でどのように認識されているのか、少し調べてみれば分かるだろうに。

――二年生最強は確実で、三年生の川神百代と肩を並べるとすら目されている転入生、織田信長。

 明智音子は、そんな怪物じみた存在の“手足”を任じられている女だ。一年生全体を征圧するという任を受けて、信長の代理として動いている。織田信長が地下世界を支配する大魔王ならば、明智音子は地上世界に派遣された魔王、といった所なのである。1-Sのクラスメートがねねを怖れる理由の半分近くは、背景に悪名高い先輩の存在がある事に由来していた。

 ちなみにねねの具体的な実力はと言えば、二年生のトップクラスとも真正面から張り合えるレベルで、このプレミアムな私ですら勝てなかった程だ。入学当初に比べて私が自信をほんのちょっとだけ失っているのは、まあ主にその所為である。例え二年生には及ばずとも、少なくとも一年生の中では最強だ、という自負を粉々に蹴り砕かれて、最近の私は些かブルー気味なのだ。ライバル認定したねねを除けば全ての決闘で余裕の勝利を収めてはいるのだが、しかし上を目指すならばこのままではいけない。

 やはりここは……私のプレミアム・プランを、何としても実現させなければ。

「――ああ、ところで子分A。全身から溢れ出るあまりの雑魚っぽさのお陰でプロフィールを確認する気も起きなかったけど、さっきの類人猿さんは何処のどなただったのかな?」

 騒がしさの去った教室にて、もそもそとチョコスティックパンを貪りながらねねが訊くと、子分Aはおもむろに制服のポケットから折り畳んだレポート用紙を取り出して、びっしりと書き連ねられた文字を目で追いながら口を開く。

「えーと確か、アレは1-Cの太田って奴ッスねぇ。見た目がアレなんであっちじゃ割と恐がられてたみたいッスよ。トレーニングジムに通うのが日課で、腕力には大層な自信があったみたいッスけど、へっへっへ、ボスに挑むとは命知らずの身の程知らずもいいとこッスね!」

「ふぅん。1-C、1-Cかぁ。……確か“黛”の娘が籍を置いてるのも、1-Cだよね?」

「ああ、有名な剣聖十一段の娘ッスね。1-C所属、黛由紀江。どうも入学式以来、クラスの誰ともつるまずに孤高を貫いているみたいッス。いつでも物凄い気迫で人を周囲に寄せ付けないって評判ッスよ。下手に近付いたら斬られそうだとか。いや~流石は剣聖の娘、有象無象とは馴れ合わないって事なんスかね」

「成程ね。成程。……黛由紀江、かぁ……どう転ぶにしても直接の視察が必要、だろうね。……まあ丁度いいか、これも私の仕事だし。よしっ」

 何やら考え込んでぶつぶつと呟いていたかと思うと、ねねは唐突に勢い良く立ち上がった。あまりの突然さに、対面に座っていた子分Aが「のおおおっ!?」という謎の奇声を発しながらビクッと仰け反ってそのまま椅子から転がり落ちていたが、薄情にもねねはそんな身体を張ったリアクションには一切反応せず、何故か私の方に向き直った。チョコスティックパンを咥えたままの立ち姿がやけにシュールだな、と焼きそばパンを咥えながら私は思う。

 数秒ほど黙々とパンを咀嚼して、嚥下して、パックのミルクで喉を潤すという三段階の行程を踏んでから、ようやくねねは口を開いた。

 ニタァ、と誰の目にも邪悪な形に歪んだ口元は、私に嫌な予感を与えるには十分なものであった。


「――そうだ、1-C、行こう。……ちょーっと付き合ってよ、小杉ちゃん」












 
 という訳で、次回に続きます。幕間なのに前後編とはこれいかに。
 ムサコッスが語り手の割に終始空気ですが、たぶんきっと次回で八面六臂の活躍をするんじゃ……ない、かな……?
 まじこいSに関してですが、色々なご意見ありがとうございました。皆様のご意見を参考に、取り敢えず幕間を書き終えて新章に入る前に結論を出したいと思います。それでは、次回の更新で。


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