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No.13860の一覧
[0] 俺と彼女の天下布武 (真剣で私に恋しなさい!+オリ主)[鴉天狗](2011/04/15 22:35)
[1] オープニング[鴉天狗](2011/04/17 01:05)
[2] 一日目の邂逅[鴉天狗](2012/05/06 02:33)
[3] 二日目の決闘、前編[鴉天狗](2011/02/10 17:41)
[4] 二日目の決闘、後編[鴉天狗](2009/11/19 02:43)
[5] 二日目の決闘、そして[鴉天狗](2011/02/10 15:51)
[6] 三日目のS組[鴉天狗](2011/02/10 15:59)
[7] 四日目の騒乱、前編[鴉天狗](2011/04/17 01:17)
[8] 四日目の騒乱、中編[鴉天狗](2012/08/23 22:51)
[9] 四日目の騒乱、後編[鴉天狗](2010/08/10 10:34)
[10] 四・五日目の死線、前編[鴉天狗](2012/05/06 02:42)
[11] 四・五日目の死線、後編[鴉天狗](2013/02/17 20:24)
[12] 五日目の終宴[鴉天狗](2011/02/06 01:47)
[13] 祭りの後の日曜日[鴉天狗](2011/02/07 03:16)
[14] 折れない心、前編[鴉天狗](2011/02/10 15:15)
[15] 折れない心、後編[鴉天狗](2011/02/13 09:49)
[16] SFシンフォニー、前編[鴉天狗](2011/02/17 22:10)
[17] SFシンフォニー、中編[鴉天狗](2011/02/19 06:30)
[18] SFシンフォニー、後編[鴉天狗](2011/03/03 14:00)
[19] 犬猫ラプソディー、前編[鴉天狗](2011/04/06 14:50)
[20] 犬猫ラプソディー、中編[鴉天狗](2012/05/06 02:44)
[21] 犬猫ラプソディー、後編[鴉天狗](2012/05/06 02:48)
[22] 嘘真インタールード[鴉天狗](2011/10/10 23:28)
[23] 忠愛セレナーデ、前編[鴉天狗](2011/04/06 14:48)
[24] 忠愛セレナーデ、中編[鴉天狗](2011/03/30 09:38)
[25] 忠愛セレナーデ、後編[鴉天狗](2011/04/06 15:11)
[26] 殺風コンチェルト、前編[鴉天狗](2011/04/15 17:34)
[27] 殺風コンチェルト、中編[鴉天狗](2011/08/04 10:22)
[28] 殺風コンチェルト、後編[鴉天狗](2012/12/16 13:08)
[29] 覚醒ヒロイズム[鴉天狗](2011/08/13 03:55)
[30] 終戦アルフィーネ[鴉天狗](2011/08/19 08:45)
[31] 夢幻フィナーレ[鴉天狗](2011/08/28 23:23)
[32] 幕間・私立川神学園第一学年平常運行中、前編[鴉天狗](2011/08/31 17:39)
[33] 幕間・私立川神学園第一学年平常運行中、中編[鴉天狗](2011/09/03 13:40)
[34] 幕間・私立川神学園第一学年平常運行中、後編[鴉天狗](2011/09/04 21:22)
[35] 開幕・風雲クリス嬢、前編[鴉天狗](2011/09/18 01:12)
[36] 開幕・風雲クリス嬢、中編[鴉天狗](2011/10/06 19:43)
[37] 開幕・風雲クリス嬢、後編 Aパート[鴉天狗](2011/10/10 23:17)
[38] 開幕・風雲クリス嬢、後編 Bパート[鴉天狗](2012/02/09 19:48)
[39] 天使の土曜日、前編[鴉天狗](2011/10/22 23:53)
[40] 天使の土曜日、中編[鴉天狗](2013/11/30 23:55)
[41] 天使の土曜日、後編[鴉天狗](2011/11/26 12:44)
[42] ターニング・ポイント[鴉天狗](2011/12/03 09:56)
[43] Mr.ブシドー×Ms.キシドー、前編[鴉天狗](2012/01/16 20:45)
[44] Mr.ブシドー×Ms.キシドー、中編[鴉天狗](2012/02/08 00:53)
[45] Mr.ブシドー×Ms.キシドー、後編[鴉天狗](2012/02/10 19:28)
[46] 鬼哭の剣、前編[鴉天狗](2012/02/15 01:46)
[47] 鬼哭の剣、後編[鴉天狗](2012/02/26 21:38)
[48] 愚者と魔物と狩人と、前編[鴉天狗](2012/03/04 12:02)
[49] 愚者と魔物と狩人と、中編[鴉天狗](2013/10/20 01:32)
[50] 愚者と魔物と狩人と、後編[鴉天狗](2012/08/19 23:17)
[51] 堀之外合戦、前編[鴉天狗](2012/08/23 23:19)
[52] 堀之外合戦、中編[鴉天狗](2012/08/26 18:10)
[53] 堀之外合戦、後編[鴉天狗](2012/11/13 21:13)
[54] バーニング・ラヴ、前編[鴉天狗](2012/12/16 22:17)
[55] バーニング・ラヴ、後編[鴉天狗](2012/12/16 22:10)
[56] 黒刃のキセキ、前編[鴉天狗](2013/02/17 20:21)
[57] 黒刃のキセキ、中編[鴉天狗](2013/02/22 00:54)
[58] 黒刃のキセキ、後編[鴉天狗](2013/03/04 21:37)
[59] いつか終わる夢、前編[鴉天狗](2013/10/24 00:30)
[60] いつか終わる夢、後編[鴉天狗](2013/10/22 21:13)
[61] 俺と彼女の天下布武、前編[鴉天狗](2013/11/22 13:18)
[62] 俺と彼女の天下布武、中編[鴉天狗](2013/11/02 06:07)
[63] 俺と彼女の天下布武、後編[鴉天狗](2013/11/09 22:51)
[64] アフター・ザ・フェスティバル、前編[鴉天狗](2013/11/23 15:59)
[65] アフター・ザ・フェスティバル、後編[鴉天狗](2013/11/26 00:50)
[66] 川神の空に[鴉天狗](2013/11/30 20:23)
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[13860] SFシンフォニー、中編
Name: 鴉天狗◆4cd74e5d ID:d4775c47 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/02/19 06:30
 Q.世界から争いが無くならないのは何故?
 A.そこに貧富の格差があるから。

「いやーたまたま家の料理人が作り過ぎてしまったのでな、心の広大な此方は友にお裾分けしてやろうと思ったのじゃ。感謝するがよいぞ!にょほほほ」

 たまたまで重箱一つ分の弁当を作り過ぎてしまうようなボケ料理人はさっさとクビにしろよ、しかも特上鰻重てお前毎日こんな豪勢なモン食ってんじゃねぇだろうな、家の財源どうなってんだってそうかこいつ不死川家のお嬢様だった死ね――という血を吐くような心の声を一切表に出すことなく、俺は全力の無表情で言葉を返した。

「要らん」

「な!何故なのじゃ~!」

 俺が涙を流して受け取るとでも思っていたのか、ガーン、という擬音つきでショックを受けている心。こいつの自信の根拠はどこから来るのだろう。

 場所は川神学園B棟2-S教室、時間は腹の虫の自己主張が最高潮に達する折、昼休み。

 俺と蘭、冬馬と準と小雪の五人は最近では基本的に一グループとして行動するようになってきていたが、昼食は別で取る事にしている。会話を交わす程度ならばともかく、顔を突き合わせて仲良くランチタイム……となるとそれはもはや織田信長のキャラクターを逸脱してしまっているだろう。

 とは言っても元々の席が隣近所なので、現時点でも一緒に食べているのとさして変わらないのだが、“顔を突き合わせて”という部分は重要だ。そうするだけで仲良しレベルが一気にアップしてしまう気がする。あくまで自論だが。

 果たして俺と同じような事を考えたのかは知らないが、心は数分前から無駄に豪華な重箱を二つ提げて、俺の席の近くを所在なさげにウロウロとしていた。どう見てもツッコミどころ満載の姿だったが、人望の無さが災いしたのか、誰かに「どうしたの?」とすら聞いて貰えない彼女を見かねた蘭が俺の袖を引っ張ったのがつい先程の事。

 そして、冒頭の自問自答へと至る訳だ。

「そんな貧相な弁当は庶民にでも食わせておけばよいのじゃ。高貴なる此方の友にはこの最高級鰻重弁当こそが相応しかろう」

 恩を仇で、しかも十割増しで返すような心の偉そうな発言に、基本的に温和な蘭もさすがに表情を引き攣らせた。それはまあわざわざ早起きして用意した自作弁当を貶されれば腹も立つか、と思いながら蘭の顔を横目で見ると、気のせいか何やらじわじわと涙目になっていらっしゃるような……アレはそう、主人に見捨てられた子犬の目だ。早急に対処せねば。

 心中で焦りながら心に向き直り、悠然と言葉を紡ぐ。

「施しを受ける気はない。他者の恵みで食い繋ぐなど家畜同然。俺は人である故」

「むぅ、しかしじゃな、幾ら何でもその弁当は……」

 心は渋い顔で、プラスチック製の安っぽい弁当箱と、華やかな装飾の施された漆塗りの重箱を見比べる。勿論格が違うのは外見だけではなく、中身の品目にしてみたところで値段には数十倍の差があるだろう。

 俺個人としても豪華な食事に惹かれない訳ではないが、しかしそれが人生の全てでもあるまい。ここは我慢のし所である。

「俺は純然たる己が力で掴み取ったもの以外を認めはせん。いずれ独力で不死川家に並ぶ財力を手中に収める日も来よう。その時こそ、胸を張ってお前の眼鏡に適う食事を摂るとしよう。故に……今の俺には、至らぬ従者の用意した“これ”こそが望み得る最高の弁当よ」

 我ながら割と良い事を言ったつもりでいた俺だが、予想に反して我が従者の反応は無かった。妙だ、いつもならば馬鹿みたいに喜び勇んで床に頭を擦り付けでもしそうなものだが。そんな風に考えていた俺はどうしようもなく甘かったのだろう。

「うっ、う、ひぐっ」

「……っ!?」

 驚くべき事に、蘭は元気の良い声を上げる代わりに立ったままポロポロと涙を流していたのだった。

 正直言って思わずキャラが跡形もなく崩れそうになるほど仰天したが、様子を見る限りはどうやら別に悲しんでいる訳ではないらしいと一安心。なるほど、人間は感激の極みに到ると本当に感涙するものなのか。

「あ゛る゛じぃ~、ら゛んはしあわぜものにございまする゛~」

「ふん」

 泣きながら平伏しながら笑いながら喋るな馬鹿め、クラスの連中が何事かと見ているではないか。俺にだって人並みの羞恥心というものがある。ついでに世間体も問題だ。幼馴染で従者とは言え、仮にも女の子を泣かせるような鬼畜野郎と思われでもしたら……織田信長としては別に困らない気はするが、俺の繊細なハートは間違いなく傷付く。

 あ、川神一子を泣かせた時点で手遅れか。……まあ気にするまい。

「見苦しい。さっさと顔を拭け」

「ははーっ、失礼をば。ら゛んは顔を洗ってまい゛りまず……」

 すんすんと鼻を啜りながら教室を去っていく。その様子を見送ってから、やれやれあいつは本当に馬鹿だなと内心で溜息を吐きつつ振り返ると、心は口をポカンと開けて突っ立っていた。日曜日の従者第二号の反応を彷彿とさせる呆然っぷりである。そういえば心はこれまで俺達との関わりが薄かったので、蘭の変人っぷりについても詳しい事は知らなかったのか。

 冬馬・準・小雪の三人組などはもはや完全に慣れた模様で、こちらを一瞥する事すらなく談笑を続けている。連中を見習えとは言わないが、あのスルースキルは賞賛に値するレベルだ。それから十秒ほど経って、ようやく心は我に返ったらしい。

「……はっ!?な、何だったのじゃアレは一体」

「些細な事だ。気に留める価値もない」

「いや、どう考えても些細ではないじゃろう。大丈夫なのかアレは」

「考えるだけ無駄な話よ。それで、先も云った通り、俺は弁当は要らん。恵むなら他の輩にくれてやるが良かろう」

「むぅ……わ、分かったのじゃ……」

 心はしょんぼりと肩を落として自分の席へと戻っていった。両手に提げた重箱弁当がどこか物悲しい。

 口ではああ言ったが、俺とて別に心の機微の分からぬ馬鹿ではない。弁当が余ったなどというベタベタな言い訳をしている辺り、彼女が友達認定した俺と交流する切っ掛けを欲しがってはいるものの、高貴な自分が素直に声を掛けるのも癪だ――とか思っている事くらいは予想できる。それは分かっているが、しかし例え表面的にでもそういう捻くれた態度を取るなら、俺としては素っ気無く返す他ない。相手の意を汲み取って気を遣うなど、織田信長のキャラ的に考えられない事態だ。

 これに関しては、彼女が一日でも早く素直に友情を表現してくれる事を祈っておくとしよう。

「あー、ギャルゲならあれだ、フラグバッキバキに折ったな。BADエンド直行だ」

「お前は何を言っているんだ」

「ま、俺的には不死川はギリギリアウトって所だし興味ねぇけど。イイ線いってるんだが、2-F委員長と比べちまうとどうしても、な」

 だからお前は何を言っているんだ、井上準。

 転入当初こそ周囲に振り回される常識人だと思っていたが、一週間も学園生活を共にすれば嫌でも分かる。

 こいつもまた、立派で大変な変態だった。

 具体的にはロリコンである。先程例に挙げた2-F委員長(見た目小学生)の写真を眺めながらハァハァしているところを俺に目撃されて以来、こいつは俺の前で体裁を取り繕う事を止めた。そして蘭から露骨に避けられるようになった。当人が準のターゲットとなるほどロリィな見た目をしている訳ではないが、我が従者はその辺り、割と潔癖なのだ。

「やれやれ。女心が分かっていませんね、信長。不死川さんも可哀相に」

「ふん、そう思うならお前が慰めにでも行けば良かろう。伊達に四天王などと呼ばれている訳でもあるまい」

「はは、遠慮しておきます。それよりも私は信長に興味があるんですよ。是非もっと親睦を深めましょう」

「寄るな殺すぞ」

 不気味な笑顔で迫る冬馬を殺気混じりの目で追い払う。竜兵といいコイツといい、俺の周囲には何故いちいちアブノーマルな輩ばかりが現れるのか。何かの呪いなのだとしたら金を払ってでも祓って欲しいものだ。

 己の不憫な運命を嘆きながら蘭お手製の安っぽい弁当に箸を伸ばした時であった。

「ノォブナガあぁぁァァァッ!!」

 教室中と言わず校舎中に響き渡りそうな大声で、人様のあまり好きでもない名前を叫びながら、引き戸を破壊せんばかりの勢いで教室に飛び込んできた馬鹿が一人。ここまで騒がしく傍迷惑な男は2-Sはおろか学園中を探してもそうはいまい。

 周囲の視線が集まる中、九鬼英雄は足音も荒々しく俺の机まで歩み寄ると、仁王立ちでこちらを睨み付けた。何だかんだと言ってもさすがに世界の九鬼、並みの一般生徒なら泣き出すほどの眼光と迫力だ。

 問題はそれが何故俺に向けられているか、その点なのだが。

「……」

 我が身を振り返ってみたが、生憎と身に覚えが無い。取り敢えず沈黙を保ったまま様子を見ていると、英雄は息を整えてから喚くように口を開いた。

「信長、キサマ!我が愛しの一子殿を泣かせたという噂は真実か!場合によってはタダではおかんぞっ!」

「――という訳ですので、英雄さまを納得させられなかった場合、どうかお覚悟下さいねっ☆」

 怒りの形相で怒鳴る英雄と、逆に嬉しそうな表情を隠そうともせず小太刀を抜き放つ猟犬メイド・あずみ。

 さて落ち着け、状況を整理しよう。とは言っても考えるまでもないか……自ら解説してくれたように、英雄の激昂の理由は至極シンプルである。愛しの一子殿、と来たものだ。

 川神一子、人気があるとは聞いていたが、俺の狭い人間関係の中ですらも既に二人の男を陥落させているとは恐ろしい少女と言う他ない。この分だと川神学園内ではアイドル扱いなのか?だとすれば、風間ファミリー内における恫喝対象として彼女を選んだのは間違いだったかもしれない。

 敵を作るのは構わないが、敵を作り過ぎるのはあまり良くない事だ。

「うぬぬ、聞いておるのか、信長!」

「騒ぐな。喧しい」

「何だとキサマ!」

 さてどうしたものか。俺が彼女を脅して泣かせたのは紛れもない事実である。実際にその現場に居合わせたのは風間ファミリーと俺と蘭のみだが、その後の一連の流れに関しては多数のギャラリーに目撃されてしまっている。ここで俺が下手に嘘を吐いたとしても誤魔化しきれるものではあるまい。ならばいっそ開き直ってみるのもまた一興、だ。

「ふん。勝手に泣いただけだ。俺の知った事ではない」

「く、やはり真であったか!一子殿は我にとって燦然と輝く太陽の如き方、それをよくも――」

「それで。お前はここで何をしている?太陽に翳りが見えたなら、疾く晴らしに往くのがお前の役目ではないのか」

「ぬ?」

「俺に八つ当たりをしている暇があるとは思えんがな。川神一子に惹かれる者は数多い。小娘の傷心に付け込む輩は幾らでもいそうなものだが、お前はそれを良しとする間抜けか?……くく、九鬼の御曹司は愛する女一人射止められぬ、と噂される日も近いな」

 嘲笑うように意地悪く言ってやると、最悪の事態を予想したのか、英雄の顔色が瞬く間に変わった。

「うぬぬ……!いかん、麗しき一子殿の魅力を思えば考慮して然るべき事態であった!こうしてはおれん、今すぐ2-Fへ赴くぞあずみ!九鬼財閥の総力を挙げて一子殿をお慰めするのだ!」

「了解しました英雄さまっ!今すぐエンターテイメント部門のプロ達に召集を掛けますね」

 居ても立ってもいられなくたったらしく、英雄は怒涛の如き勢いで再び教室から飛び出していった。

 そして、あずみも素早くその後に続いたのだが、彼女が立ち去り際にこちらに向けた目は、何と言うか俺ですら戦慄するほどの“殺る気”に満ち溢れていた気がする。恋敵(?)のために扱き使われる彼女には少しは申し訳ないと思うが、しかし恨むなら英雄の単純さを恨んで欲しい。いや、ここはあえて純情さ、と言っておこうか。

 台風が去ったように静けさが戻り、平穏の尊さを噛み締めながら俺が改めて弁当に箸を伸ばしていると、既に食べ終えたらしい準と小雪が席ごとこちらを向いた。

「いつもながら騒がしいね、お前の周りは。いやぁ同情するぜ」

「吸引力の変わらないただ一つのノブナガ!ギュイーン!」

 お前らも騒がしさを形成する立派な要因なんだがな、と心の底から言い返したくなる二人である。全く、このクラスの連中はどいつもこいつも個性が濃過ぎる。俺のように至極まともな一般人は肩身の狭い限りだ。

 誰か一人でもいい、心の清涼剤となるような素敵な人材は現れてくれないものだろうか。

―――そんな俺の祈りが天に届いたのか、新たな登場人物が2-Sを訪れる。

「失礼致しますわ」

 不意に教室の外から響き渡った、鈴を転がしたような澄んだ声は、クラスメートの注意をやけに強く惹き付けた。

 英雄の時とは打って変わって音も立てずにドアが開き、一人の少女が慎ましやかな挙動で教室へと足を踏み入れる。

「お初にお目に掛かります、先輩方。本当はもっと早くご挨拶に伺うつもりでしたが、恥ずかしながら先日は機を逃してしまいまして」

 少女の印象を一言で表現するなら、そのものズバリお嬢様、である。それも一代二代の成金ではなく、由緒正しい血統の良家で純粋培養された、生粋の姫といった趣。周囲と同じ制服姿でも明確に伝わってくる、生まれと育ちの埋め難い差異。

 高校生にしては小柄だが、ピンと真っ直ぐに張った背筋と、全身から発せられる凛とした雰囲気、そして銀縁眼鏡の奥に光る意思の強そうな双眸が、彼女の体躯の子供っぽさを打ち消している。ふわふわとボリュームのある髪は先端まで手入れが施されており、どこか作り物めいた美しさを演出していた。

「な、な、お、お前はっ!なぜお前がここにおるのじゃ!」

 教室の最後列の席にて、一人黙々と最高級鰻重をつついていた心が、少女の登場に驚いたように泡を食った声を上げる。この反応からすると知り合いなのだろう。
 
 ふむ。不死川の知人でこの佇まい、どこかの有力者の令嬢か?事前に調べた限りでは、今年の入学者リストにそこまで有力な子息は居なかったと思うが……否、“黛”がいたか。高名な剣聖十一段・黛大成の娘が入学している筈。彼女がそうなのか。

「あらあら、お久し振りでございますね、不死川様。懐かしいですわ、こうしてまたお会いできるなんて夢のようです。うふふ、貴女はご両親から伺っていないのですね」

「な、何をじゃ?」

 心はどうやらこの少女を苦手としているらしい。いまいち普段の調子が出ていない様子だ。そんな心を慈しむ様に微笑んでみせながら、少女は言葉を続けた。

「わたくし、今年の四月よりこの川神学園に籍を置いていますの。1-Sクラスですのよ、うふふ、つまり不死川様の後輩という訳ですわ。これからよしなにお願い致します」

「う、うむ……。そうか、お前が後輩か。おお、それはつまり先輩である此方の命令には絶対服従という訳じゃな?」

「うふふ。まあ、相変わらず不死川様のご冗談は面白くていらっしゃいますわ」

 上品な笑顔でエグい事を言うお嬢様だった。毎度の如く調子に乗りかけた心を一瞬でバッサリ切り捨てると、彼女は何故かこちらに向き直る。

 真正面から視線が合って、結果としてより詳細に彼女の全身像を見る事になる訳だが――違和感。初対面の相手の筈なのに、この既視感は一体どうしたことか。

 俺は、この少女に、どこかで……?

「うふふ。学園では、初めまして、ですわね」

 そんな俺の疑問に答えるかの如く、少女は口元を吊り上げた。

 ニヤリと、邪悪で気侭な、お嬢様には全く似つかわしくない笑み。まるで意地の悪いチェシャ猫のような笑顔。

 それはまるで猫のような。

「ふん」

 なるほど、今になれば良く分かる。他の誰と間違えよう筈もない。

 曲がった背筋は真っ直ぐ伸ばして、特徴的な猫目は眼鏡で誤魔化して、ショートの髪型はウィッグで弄って、清楚な声音は意図的に変えて、上品な言葉遣いはキャラ作りで、優雅な物腰は教育の賜物で、怠惰な雰囲気は全てを演じて。

 ものの見事に猫を被っていた訳だ。

「―――第二の直臣、明智ねね。遅ればせながら、只今参上致しましたわ、御主人様」




 
 さて。明智ねねという従者の登場に関しては、俺に蘭という従者がいる事を皆が既に承知している事もあり、クラス内でそれほど大袈裟に騒ぎ立てられる事はなかった。変化と言えば、あの明智家のご令嬢が主人と呼ぶ織田信長とは一体、と畏敬の念を新たにされたくらいのものか。

 ただ、一部の人間に限ってはそれだけでは済まなかった。そしてその一部というのが悉く俺と関係のある人間だった辺りが実に悲しむべき所だと思うのだが、どうだろう。

「なぁ信長よ。俺は一発お前を殴っていいと思う。というか殴らせろ」

「死にたければ好きにすれば良かろう。自殺志願とは感心せんが」

「ご主人さま、だと……?あんな小さくて可愛らしいお嬢さんが恭しく膝をついて、ご主人さま、だと……?それなんてギャルゲ、チクショウ俺と代われ羨まし過ぎて死にそうだ」

「死ねばいいと思います」

 普段は温厚な蘭が致死性の毒を吐いた。準はその言葉でついに力尽きたのか、祈るようなポーズを取ったまま床に倒れ込む。最期の言葉は「神は死んだ」だった。なら祈るなよ、死んだのはてめぇの髪だろうがハゲ、などとイメージを著しく損なうような罵倒は流石に蘭は口にしなかったが、代わりに無言のままゴミを見るような目でノックダウンした準を見て、ゴミを片付けるような見事な手際で壁際まで転がしていった。

「それにしても驚きました。ねねさん、まさか同じ学校だったなんて」

「あらあら、蘭様。御主人様から伺っていなかったのですか?」

「……」

 ご存知だったのですか、と蘭は恨みがましい目を俺に向けた。それはまあ主人なのだから、従者の動向くらいは把握していて当然である。ねねが現在進行形で川神学園1-Sに所属している事は承知していた。もっとも、あそこまで見事に擬態しているとは想定の範囲外だったが。

 数分前、ようやっと涙の跡を洗い流して教室に帰還した蘭は、案の定というかねねの正体に気付かず、しばらく戸惑いを隠せない様子だった。そして勘違いに空回りに暴走と、色々と笑える姿を衆目に晒してくれたのだが、ここで俺がそのエピソードを詳らかに語るのはさすがに気の毒なので割愛しよう。

「どういう訳なのじゃ、織田。なにゆえ明智の小娘がお前を主人呼ばわりしておる?意味が分からんぞ」

 先程から不機嫌顔の心が、食って掛かるような調子で問い掛ける。

「俺の家臣が俺を主と呼ぶ。何も不可思議な点はあるまい」

「そんな事は訊いておらんわ!此方が分からんのは、明智のがお前の下に付いた理由じゃ。“明智”じゃぞ?それはまあ此方の不死川家とは比べるまでもない家柄じゃが、高貴なる血筋には違いないのじゃ。それが御主人様などと……御主人様?――まさか」

「うふふ、不死川様は聡明でいらっしゃいますわ。そう、わたくし明智音子は、御主人様と契りを交わしましたの。――生涯を捧げるという、夫婦の契りを」

 器用に頬を染めてみせながら放り投げた言葉の爆弾に、教室の空気が氷点下にまで落ち込んで、一瞬で凍結した。

 教室の隅で死んでいたハゲが蘇生し、「ロリな女の子と婚約、だと……契りってなんだお兄さんに具体的に教えてみなさいよオルァ」などと呟きながら暗黒のオーラを放出している。

 心は衝撃的事実を叩きつけられたショックでポカンとしており、蘭の顔は見るのが怖いのでスルーして、俺は溜息混じりに莫迦従者二号を睨んだ。

「ネコ。控えろ」

「御主人様、その呼び方はどうかお止しになって下さいませ」

 外ならばともかく、お嬢様の皮を被っている学園内で「ネコ」呼ばわりはさすがに心外だったのだろう。ヒクヒクと顔を引き攣らせるねねだったが、何かを思いついたように再び邪悪な笑みを浮かべる。

 そして、両手の指をもじもじと絡ませながら、拗ねたような調子で甘ったるい猫撫で声を発した。

「恥ずかしいですわ。――二人きりの時だけ、何時ものようにそう呼んで下さいな」

「調子に乗るな」

「うふふふ勿論冗談でございますわ皆さま誤解なさらないようお願い致しますね本当に」

 殺意を込めて睨むと、ねねはダラダラと冷や汗を流しながら薄ら寒い芝居を打ち切った。最初に会った時から思っていたが、こいつはどうにも調子に乗り易くて困る。しかも演技が無駄に上手いのもまた面倒なポイントだ。本性を知らなければ俺もあっさり騙されていたかもしれない。

「本当の所を申し上げますと、御主人様には危うい所を救って頂きまして。それで――」

 S組の面々に改めて事情(捏造済み)を説明しているねねを眺めながら思う。本体そのものの武力が高くSクラスに在籍できる程度の学力を持つ上、明智家の後ろ盾で権力を有し、それでいてこの傍若無人な性格。厄介者にも程がある。

 幸いにして俺の得意技は、伝説ポケモンですら高レベルになるまで習得出来ないほどのスキル、「にらみつける」なので何とか手綱を取れるのだが、一般人からしてみればこいつは本当に手に負えない類の輩なのではなかろうか。

 そういう意味では、こいつを野放しにせず飼っている俺は世の為人の為に貢献しているとまで言って良い気がする。

「可愛いロリータが暴漢に襲われている所に颯爽と現れて助ける……?本当にギャルゲ主人公じゃねぇか信長テメェ。恨むぜ神よ、なぜそこに俺は居合わせなかった?」

「居合わせておったらお前が暴漢になりそうじゃがな、ハゲ」

「やれやれ、分かってないな不死川よ。イエスロリータ・ノータッチ!幼女は慈しむもんだ、手折るもんじゃねぇ。いいか、俺は紳士だ。という訳でどうですか麗しいお嬢さん、俺と一緒に新しく開園した遊園地に行きませんか?」

「あらあらうふふ、口説かれてしまいましたわ。けれどもごめんなさい、わたくし家訓で頭部から太陽光線を放つことのできる方とは遊びに行かないように言い聞かせられていますの、危険ですから」

「ユキ……俺は今ほど俺の髪を綺麗サッパリ剃り落としてくれやがったお前を恨んだ事はないぜ」

「いや明らかにそれ以前の問題じゃろうが」

 ねねを前に普段と比べてイキイキしている準はナチュラルに犯罪臭がした。さしもの心もやや引き気味である。

 改めて思うが、野放しにするのは危険な人間がやけに多い学園もあったものだ。
 
 さて手綱を取るべき幼馴染二名、冬馬と小雪は何をしているのかと目で追えば、教室の端で我関せずとばかりに戯れていた。

「……?」

 そこで、少し違和感を覚える。気まぐれの権化の如き小雪が興味を示さないのは分かるが、冬馬がねねに注意を向けないのは妙な気がする。

 猫被りの賜物とは言え、現在のねねはどう見ても清楚な美少女。否応なく周囲の目を惹く存在だ。美男美女問わずに見境なく目がない冬馬ならば声の一つも掛けそうなものだが。

 まあ、単純に好みではないだけの話なのかもしれないが……引っ掛かるものがある。

「御主人様。わたくしはそろそろお暇させて頂きますわ」

 いまだに聞き慣れない控えめな声音が俺の思索を打ち切った。

 ねねは俺の足元に跪いて、周囲に見えないように邪悪なニヤリ笑いを浮かべながら口を開く。

「引き続き、一年生の方に関しては全てわたくしにお任せを。――それでは、御主人様、皆様方。ごきげんよう」

 綺麗な姿勢で深々とお辞儀を決めると、ねねは背筋をピンと張りながら2-S教室を去っていった。どうやら本人の言う通り、今回は挨拶に来ただけらしい。

「主。ねねさんは一体……」

「ふん。真に食う寝るだけの穀潰しならば、俺の従者を名乗らせる筈も無い」

―――1-S所属、明智ねね。織田信長の指令を受けて、絶賛暗躍中であった。









 そして時は加速し、場面は瞬く間に放課後に移る。

「織田よ、友として高貴なる此方に手を貸す栄誉を与えようぞ!光栄に思うがよいのじゃ」

「……」

「そ、そうか言葉も出ぬほど感激しておるか。殊勝な心がけじゃぞ」

「……」

「た、助けてオダえも~ん!」

「永久に黙らせてやろうか?」

「ひぃっ!調子に乗ってごめんなさいなのじゃ!」

 転入当初の敵対関係が終わっても、態度が尊大な割に臆病な辺りは相変わらずだった。不死川心が馬鹿である事は俺の中ではもはや疑いようのない事実だが、さてこいつは愛すべき馬鹿なのか愛すべきでない馬鹿なのか。なかなか判断の難しいところだ。

 午後のHRの後、どこかへ姿を消していた心が足取りも荒々しく2-S教室に戻ってきたのは、全校生徒が一日七限の教育カリキュラムを終え、下校準備の真っ最中というタイミングであった。基本的に平日の放課後は予定がみっしり詰まっている俺としては、利にならない事柄に時間を取られたくない所である。それでも心の無駄に居丈高な頼みに耳を傾けてやっている俺は、正直に言って賞賛に値するほどの寛大さだと思う。

「さっさと用件を言え莫迦め。俺は暇ではない」

「う、うむ。実はじゃな……Fのサル共が調子に乗っておるのじゃ」

 説明しよう―――この川神学園には、各学年ごとに都合十のクラスが存在する。クラス分けの基準は単純明快、成績だ。試験の結果に従って、好成績の者から順にS~Iに振り分けられる事になる。

 ただし、本人が希望すれば成績に見合わないクラスに在籍する事も可能だ。冬馬が言うには、成績的にSの在籍資格を有しながらも他クラスに残る生徒はそれなりにいるらしい。あくまで実力主義、競争社会を旨とするS組の気風が肌に合わないという人間が多いのは無理もない話である。

 そういった例からも予想できるように、Sクラスは基本的に他クラスとは険悪な関係にあった。

 その中でも2-Sと最も仲が悪いと言えるのが、2-Fである。例の風間ファミリーの面子は、学年の異なる百代を除く全員が揃ってこのクラスに籍を置いていた。この2-F、エリート集団の2-Sとは逆に、学年の問題児達を意図的に一箇所に集めたクラスだとすら噂されている。ただでさえ相性の悪い組み合わせである上、互いの教室が隣同士であることも要因となって、両クラスは事あるごとに反目し合っているそうだ。

「織田がFの川神一子を懲らしめたと聞いたゆえ、此方は奴の情けない泣きっ面を拝みに赴いてやったのじゃ」

 こんな感じで。特に選民街道まっしぐらの心はF組を心底見下し嫌っているので、何かにつけて喧嘩を吹っ掛けているらしい。

 もっとも、風間ファミリーによってやり込められて涙目で逃げ帰るという展開が半ばお約束になっているようだが。お前はどこのバイキン男だ、とツッコミたくなる俺は間違っているだろうか。

「それをあのサル共め、あろうことか数を頼んで高貴なる此方を教室から追い出しおった!この屈辱、断じて許せぬ。そう思うであろう?」

 憤懣やる方ないといった表情で俺の同意を求める心は、どうやら今回もきっちりとお約束に則って敗走してきたらしい。下らない上にどう考えても自業自得であった。どちらが悪いかと言えば間違いなく心の方だし、誰が見てもそう判断するだろう。

「ふん。成程な」
 
 しかし、織田信長にとって善悪の所在など意味を持たない。問題はそこに己の利があるか否かだ。心の持ち込んだ話を切っ掛けとして何を得られるか。俺の頭が打算を巡らせ始める。

「それで。俺の手を借りて、お前は何を為す心算だ」

「無論、復讐よ。下賎な山猿の分際で思い上がったあの連中に、高貴なる鉄槌を下すのじゃ。ほほほ、お前が助力してくれればあのような連中、此方の敵ではないわ」

 つまるところ思いっきり人任せ、虎の威を借る狐という諺のこれ以上ない好例を演じようとしている訳だが、いまいちその辺りは自覚していないらしかった。心は恥じ入った様子もなく実に堂々としている。脳内では憎き2-Fを既に叩きのめした映像でも浮かべているのか、ニヤニヤと頭の緩そうな笑みが口元に浮かんでいた。

 そんな人生そのものが楽しそうなお嬢様はとりあえず放置して、俺は真面目な思考に沈む。

 2-Fか。件の風間ファミリーの拠点であり、自身の属する2-Sの隣人でもある。

 俺がこのクラスに転入してから一週間。決闘を通じて英雄や心等の有力者に認められる事で、クラス内における立場を確固たるものとする事に成功した。S組内部では織田信長に対するこれ以上の反抗はないだろう。最初の関門は突破できたと考えてもいい。ただし、それはあくまで1stステージをクリアしただけに過ぎない事を意味していた。何せ川神学園には十ものクラスが存在し、単純計算で俺は未だその十分の一を制覇した段階でしかない。先はまだまだ長かった。

 勿論、太師校時代ように学園支配を実行する気など端から無いが、だからと言って何もせずにいれば、俺にとって不愉快な動きをする連中も出てくるだろう。元々、“織田信長”は大衆に受け入れられる存在ではない。いついかなる時であれ、社会の中で異端者は迫害される。事前に適度な恐怖の楔を打ち込み、畏敬の鎖で縛っておかなければ、排斥されるのはこちらの方なのだ。

 故に、一時の安息に甘んじてはならない。俺は常に攻めの姿勢を貫く。

 それに、これは他ならぬ不死川心の頼みだ。御三家と直接的に接触し、ましてや恩を売る機会など願っても得られるものでもない。将来を考えるならばここは動くべきタイミングである。都合良く俺の目的にも重なる事だし、彼女の期待に応えてやるのも良いだろう。

「……ふん。良かろう」

「おお、引き受けてくれるか!いやーやはり持つべきものは友じゃの。ほほほ、此方の目に狂いは無かったようじゃ」

 俺の返事がよほど嬉しかったのか、心はパァッと明るい笑顔を浮かべた。

 普段は鼻持ちならない位に高慢で意地悪な癖に、こういう時の表情だけは年不相応に無垢で、見ているこちらとしても何だか調子が狂ってしまう。彼女の求める友情に対し打算を以って返している自分に、否が応でも嫌悪の念が湧き上がった。所詮、下らない感傷でしかないが。

 “夢”を目指し、朽ち果てるまで駆け抜けると決めたあの日から、既に俺の生き方は定まっている。利用出来るものは全て利用し、不要なものは全て切り捨てる。情が邪魔になると言うなら、捨て去る事に躊躇などない。手段を選んでいる余裕など望めない程に、俺の目標は遠いところにある。

 悩んで立ち止まる位なら、一歩でも前に進むべきだろう。川神一子の言葉を借りるなら、勇往邁進、だ。

「くく。2-F……果たしてこの俺の障害と成り得るか。確かめさせて貰うとしよう」

 脳裏に浮かぶのは風間ファミリーの六人、そして我が親友の源忠勝。

 総じてプライドの高いS組の面々は認めないだろうが、話に聞く限りにおいては、2-Fは間違いなく2-Sのライバルと呼ぶべき存在だ。心の言うように、猿と人間ではそもそも勝負が成立しない。優秀な人材を揃えた現2-Sと正面から張り合っているという事実が、そのまま彼等の力量を証明している。

 恐らく一筋縄ではいかないだろう。計も無しに動けば足元を掬われる可能性が高い。まずは軽く当たって様子を見るのが定石か。

「蘭」

「ははっ」

 油断はしない。そして遠慮も容赦もしない。

 表向きは余裕綽々と手を抜いて、その裏側では常に全力全開。いつも通りの織田信長のスタンスで、新たな局面に臨むとしよう。

「ネコに伝えるがいい。――此度の戦、明智音子を一番槍に任ず、とな」









~おまけの風間ファミリー~


「うーん。今朝の一件、何だか学校中に広まってるみたいだね……」

「通学路であれだけ目立ってたんだ、当然だな。あの転入生は注目の的だし、ワン子だって密かに人気あるし。話題性は十分すぎる」

「はっ、この豆柴が人気ねぇ。やっぱり俺様いまいち実感が湧かねぇぜ。九鬼の奴もわざわざあんなモン用意して慰めに来るしよ」

「あ~、アレは凄かったね。学校であんなモノが見れるなんて、さすがは天下の九鬼財閥って感じだよ」

「つまりワン子が誰かに泣かされる度にアレが見れるという衝撃の事実。ふむ、仲介料を取れば中々いい商売になりそうだ……」

「乙女の涙を利用するとは血も涙もない鬼畜っぷり。でもそんな所も素敵!」

「ぐぬぬ、アンタたちぃ……好き勝手言ってるんじゃないわよ、泣かされたなんて不名誉な噂が広まってアタシはナーバナスな気分なんだから!まったく」

「それがどんな気分なのか未熟な俺にはちょっと想像出来ないけど、まあ実際、さっきみたいに色々と寄ってくるし、面倒なのは確かだな」

「ああ、不死川のヤローか。あの織田って奴にボコられてちったぁ凹んでると思ってたんだが、相変わらずだったぜ」

「むしろ何だかいつもより強気だったよね。逃げ出す時も余裕そうだったし。……何だろう、嫌な予感がする」

「今はキャップも不在だし、2-Sの動向には普段以上に注意しておかないと。……さて、何事も無ければいいんだけど」














 ステージ2・開始。
 そんな感じで、今回は色々な繋ぎとなる回でした。
 ハゲがこれまでよりもはっちゃけているのは、まあ信長という人間に慣れたからと思って下さい。
 何だかんだ言っても初対面の相手には素は見せにくいですよね、という話。それでは、次回の更新で。


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