== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
小隊・鷹は、宿場町を目指して森の中を移動している。
まだ町は遠く、移動速度もかなりのスピードを維持している。
ヤオ子がサスケに話し掛ける。
「付けられたりしていませんよね?」
「ああ。
そんな気配はない。
・
・
香燐。 どうだ?」
「近くで移動しているチャクラは、ウチらだけだ」
「よし」
ヤオ子はデイバッグに手を突っ込むと鰹節を取り出した。
第98話 ヤオ子とサスケの奪還作戦・作戦編
散々、警戒させて取り出した鰹節に全員の目が不審の目に変わる。
ヤオ子は、更に腰の後ろの道具入れからクナイを取り出すと一振りする。
薄くスライスされた鰹節を取るとマジックを取り出し、文字を書いてサスケに渡す。
「何で、わざわざ……」
サスケが鰹節に目を移す。
『発信機か盗聴器が仕掛けられている可能性があります。
マダラさんに感知されたのが気になります。
一度、チェックしてから宿場町で会議をしたいです。
会話もあまりしたくないです。
読んだら、次の人に回してね』
サスケは、尤もだと思うと鰹節を香燐に渡す。
香燐から水月へ。
水月から重吾へ。
重吾からタスケへ。
「なるほどな」
タスケは鰹節を口に放り込むと処分した。
サスケ達は鰹節を使った理由がようやく分かる。
((((あれなら証拠も残らない……))))
その後、宿場町が近づくまで終始無言。
そして、サスケの合図で木々を飛び移るのを止めて、地面に下りた。
…
早速、サスケはヤオ子に話し掛ける。
「マダラへの盗聴を気にしているんだな?」
「あの……手紙で伝えた意味ないんで、
いきなり、そういうことを口にするの止めてくれません?」
「構わない。
アイツらだって『それなりの能力』と口にしていた以上、こちらが警戒するのも承知の上だ。
だが、位置を知られるのも盗聴されるのも、今後は避けなければならない」
「はい」
「そこで確認するが、発信機を付けられたとすれば、ヤオ子以外の可能性が高いと思わないか?」
水月が相槌を打つ。
「だろうね。
ヤオ子が入ったのは偶然だからね。
だとしたら、その前に接触していたボクらと考えるべきだろうね」
「ああ。
だが、そんなものを付けられた記憶はない」
香燐が補足する。
「その通りだ。
それにチャクラを使ったものなら、ウチが感知できる」
「そうなると奴らの能力だな」
重吾が自分の予測を言う。
「発信機は兎も角、オレは、盗聴や監視は行なわれていないと思う」
「何故だ?」
「八尾が偽物と分かったのが、奴らに渡した後だからだ。
もし、奴らに監視や盗聴といった類の能力があるなら、八尾の偽物を渡す前に気付いていたはずだ。
そう考えると何らかの発信機とこ─もしくは、香燐のようにチャクラを感知する能力を持っていて、
そこに向かって現れたと考えるのが自然だ」
「なるほどな……。
そうなると盗聴や監視を気をつけるのは、奴らが現れた時だけでいいな。
・
・
香燐。
任せられるか?」
「ああ。
任せとけ」
「頼む。
・
・
ヤオ子。
これでいいか?」
ヤオ子が頷く。
「はい。
安心しました」
「行くぞ。
宿場町に着いたら──」
「お風呂に入りたい!」
「ヤオ子……お前な!」
「美味しいご飯も食べたい!
面倒ごとは、それから!」
サスケが手で額を覆う。
「ウチも賛成!」
「ボクも!」
「任せる」
(重吾以外は、どうしてこんなに扱いづらいんだ……。
本来、殺人衝動を持っている重吾が、一番手が掛かるはずなのに……)
小隊・鷹のリーダーの役割は、精神的負担が大きい役目のようだった。
…
宿場町に着くと早速、各々、宿屋に設けられている露天風呂へと向かった。
そして、珍しくヤオ子は騒ぎを起こさず、皆より先に風呂を上がっていた。
風呂上りに手に持っているのは、全員分の服である。
タスケが服を持つヤオ子に近寄る。
「匂いで分かりますか?」
「ああ。
変な匂いがあればな」
ヤオ子が板の間に服を置くと、タスケが慎重に嗅ぎ分ける。
「分からないな……。
特に何かを付けられたような感じはしない。
特殊な忍術で炙り出さないと分からないのかもしれんな」
「特殊な忍術?」
「ああ。
例えば、自分以外を完全に見分ける忍術とかな」
「何それ?」
「瞳術なんかでありそうだな。
チャクラを見分ける瞳術があるんだから、真か偽かを見分ける瞳術とか」
「でも、今は手持ちに、そんな都合のいい術はないんでしょ?」
「ああ」
ヤオ子は諦めて溜息を吐く。
「重吾さんの予想を信じるしかありませんね」
ヤオ子は再び服を持つと洗面所に向かう。
「何するんだ?」
「洗濯」
(マメな奴……)
ヤオ子は全員分の服を綺麗に手洗いすると、宿の人に断りを入れて服を干した。
…
ヤオ子が部屋に戻り、全員が揃うことになる。
服を干しているため、全員浴衣姿。
今後の話をするため、輪を作って囲むと、ヤオ子は途中で購入した服の生地に少しマーキングして鋏で切り始める。
サスケから、突っ込みが入る。
「会議をするのに、何をしているんだ?」
「会議は口でするものです。
手は、何をしていてもいいでしょう。
・
・
始めてください」
サスケは溜息を吐くと、カーテンを締めて部屋を覗かれないようにする。
そして、香燐に警戒を再度頼むと話し出す。
「まず、ヤオ子のことから話す。
コイツは、木ノ葉に居た時の知り合いだ。
オレが少し修行をつけてやった。
期間は極めて短い……。
そんな短い期間の関係しかないのに、
コイツは木ノ葉でオレの抹殺命令が出たから、心配してここまで来てくれた」
香燐が意外そうにヤオ子を見る。
「お前、情に厚いんだな……」
「はい」
サスケが続ける。
「まあ、そんな感じの仲だ。
そして、コイツは、ある可能性を示してくれた。
・
・
オレは……復讐よりも優先すべきことを見つけることが出来た」
「それがイタチの体を奪還することなのか?」
香燐の問い掛けに、サスケが頷く。
「そうだ……。
イタチを汚した人物にイタチの体を預けておくわけにはいかない」
サスケの瞳には、今までにない意思が宿っている。
恨みや憎しみではないもの……兄への想い。
ヤオ子は微笑む。
きっと、これがヤオ子に会う前のサスケ……。
兄弟が仲良く過ごしていた頃のサスケ……。
(こっちの方がいいですね……)
サスケがヤオ子を見ると、話し掛ける。
「さっきのマダラとの会話……。
意図があるんだろう?」
「はい。
・
・
サスケさんも気付いてるんでしょ?」
「多分な。
だが、お前の予想はいい意味でも悪い意味でも、時々、斜め上を行くからな。
お前が説明しろ」
「何で、いつも命令口調なの?」
その質問には水月が答える。
「サスケは、誰に対してもこんな感じだよ」
「やっぱり?」
「「ああ」」
そして、肯定には香燐も加わった。
(水月……。
香燐……。
随分とヤオ子と打ち解けたじゃねーか……)
サスケの機嫌が悪くなったのを微妙に感じ取ると、ヤオ子が咳払いを入れて、切り終えた生地を縫いながら説明する。
「では、説明します。
え~と……。
ダンゾウさんは、ぶっちゃけるとどうでもいいんです。
あの会話の意図は、マダラさんを五影会談に釘付けにするのが目的です。
マダラさんが五影会談で何かをしている隙に、
マダラさんのアジトから、イタチさんの体を取り返そうと考えたんです」
「やっぱりか……。
だが、それだとオレ達が居ない時点でバレるぞ」
「はい。
小隊を二分します。
マダラさんを監視する意味でも、香燐さんはマダラさんの側に置きたいです。
そして、護衛を考えて水月さんと重吾さん」
香燐が反論する。
「何で、その分け方なんだ!?」
「サスケさんは、マダラさんのアジトに行くのを外せないでしょ?
ボディガードをして貰うのに、あたしとそっちの二人とどっちがいい?」
「ヤオ子か……水月と重吾?」
香燐が見比べる。
「ヤオ子の能力の詳細が分からない以上、仕方ないか……」
「そういう訳です。
ただ、これだと問題もあります。
マダラさんに返り討ちにあう可能性があります」
水月が不満顔でヤオ子に問い掛ける。
「ヤオ子。
ボクを信用していないのか?」
「いいえ。
例え、サスケさんを向かわせても不安は消えません。
マダラさんの能力の得体が知れません。
突然、現れて消える。
説明できますか?」
「それは……」
サスケも意見を加える。
「それだけじゃない。
アイツは、すり抜けた」
「「「すり抜けた?」」」
「恐らく奴の能力だ。
以前、奴に仕掛けてそのまますり抜けたんだ。
得体が知れないのは確かだ。
この謎を解かないと倒せない」
サスケの意見に、ヤオ子が頷く。
「あたしも、そう思います。
そして、そこに送り込むというのは自殺行為です」
「お前、矛盾したことを言ってないか?
それじゃあ、ウチは監視できないだろう?」
ヤオ子は半分縫い終わった服を置いて、タスケを抱く。
「そこでタスケさんの出番です」
「は?」
タスケが思わず素っ頓狂な声をあげる。
「タスケさん。
口寄せの契約をお願いします」
「ん?
・
・
何っ!?」
「ちょうど、四人分空いていましたよね?」
「待て!
オレは自分の認めた忍としか契約しない!
会って間もないコイツらを、どうやって認められる!」
「困りましたね。
タスケさんが契約しないことには作戦が立ちません」
タスケはヤオ子をジト目で見る。
「……お前、何を考えた?」
「時空間忍術によるネットワーク」
「試しに聞いてやる。
どういうことだ?」
「五影会談にはタスケさん一人で行って貰います」
「?」
全員の顔に疑問符が浮かぶ。
「マダラに聞かれたら、こう答えてください。
『ダンゾウを確認したら、時空間忍術でサスケ達を呼び出す』って」
「そういうことか……」
タスケは理解した。
「侵入だけなら、オレ一匹の方が確実だ。
そして、ダンゾウを確認してからが作戦の開始。
アジト付近で……香燐だっけか?
そいつらをオレの逆口寄せで呼び出したら、ヤオ子達がアジトに侵入。
五影会談で、香燐はマダラを監視。
水月と重吾は香燐の護衛、兼、暴れて時間稼ぎ」
「さすがタスケさん。
長い付き合いです。
・
・
そういう訳で、契約をしてくれませんか?」
タスケは溜息を吐く。
「仕方ないか……。
ただ、巻物の順番は決めさせて貰うぞ。
一番目の空欄は、サスケだ。
・
・
それ以外は、好きにしろ」
タスケは首に下がる巻物をサスケに投げる。
サスケは巻物を受け取ると、開いて中を確認する。
「ヤオ子は、契約済みなのか。
・
・
何で、順番が関係あるんだ?」
タスケは耳をピクピクと動かし、サスケに視線を向ける。
「あとで、お前には話がある」
「ああ……」
(何故、見知らぬ猫がオレに……。
ヤオ子の飼い猫だからか?)
サスケは巻物に自分の名前を書き込み、血判を押すと水月に巻物を渡した。
巻物は、次々にメンバーに回る。
「あの……。
勝手に巻物渡して契約してるけど……。
・
・
あたしの作戦で決定なの?」
「「「「え?」」」」
「いや、説明もまだ途中なんだけど」
サスケが少し固まった後に口を開く。
「その猫が巻物を投げて寄こしただろう……。
だから……つい」
「どうします? タスケさん?」
後の祭りだった。
タスケは、両手で頭を押さえている。
「勢いでやっちまった……。
続きを説明してくれ……」
「そうですね。
もう、話すしかないですね。
・
・
え~と……。
マダラさんのアジトでイタチさんの体を見つけたら、あたしかサスケさんがタスケさんを口寄せします。
そうしたら、香燐さん達が逆口寄せを『解』してください。
あとは、マダラさんのアジトの近くの作戦開始地点で落ち合って、逃走開始です」
サスケは腕組みをして考えている。
他のメンバーも、それぞれ頭の中でおさらいをする。
そして、サスケが話す。
「悪くない……。
あとは、逃走経路さえ確保できれば……だな」
「ボクも少しいいかな?」
水月が軽く手を上げる。
「ボクらは、囮でもあるけどさ。
誘導するのも有りだと思うんだ。
・
・
マダラの奴は、ダンゾウをボク達にやらせたがっているように感じただろ?
つまり、ダンゾウを殺すことが目的のはずだ。
ダンゾウをマダラに仕留めさせれば、更に時間が稼げるはずだよ」
「なるほどな。
その作戦も使える。
土壇場で水月達が戦いを放棄すれば、マダラは戦わざるを得ない」
「そういうこと」
重吾が残った問題を口にする。
「問題は逃走経路だけか……。
・
・
これも時空間忍術で何とかならないか?」
全員の視線がサスケに集まる。
「編成を三つに分ける。
オレは、マダラのアジトでイタチの体を取り返す。
香燐達が五影会談。
そして、ヤオ子。
お前は、安全な場所で待機。
・
・
流れは、ほとんど同じだ。
タスケが香燐達を呼び出す。
五影会談の場所で時間稼ぎの作戦開始。
↓
オレがイタチの体を取り返す。
この時、ヤオ子の影分身と行動を共にする。
影分身を解いて、ヤオ子に情報が入る。
↓
ヤオ子がタスケを口寄せ。
タスケがオレ達を逆口寄せ。
ヤオ子の居場所が安全地帯なら逃走成功だ」
「「さすが、サスケ(さん)」」
「なるほどね」
「いい考えだ」
しかし、今度は、ヤオ子が腕を組む。
「でも、安全地帯って?」
「結界忍術を使った、オレ達のアジトだ。
大蛇丸のアジトをお前に教える。
そこに結界忍術を張って行方をくらます」
「なるほど……。
でも、一時的でしかないですね?」
「ああ。
だが、次の行動を考える時間を確保できる。
結界内なら感知されないからな。
結界内を出て必要物資を揃える時は、発信機を付けられていないと思われるヤオ子を使う」
「作戦は、決まりましたね」
全員が頷く。
「ただ、用心は怠るな。
ヤオ子が、既に発信機の類を付けられた可能性もあるし、
マダラが香燐のようにチャクラを感知して時空間忍術で飛んで現れているなら、
オレ達の作戦は終了して、戦闘に移行だ。
情報の少ないマダラとの戦いになる」
再び、全員が頷く。
「作戦会議は、以上だ。
以降は、なるべく余計な会話は慎め」
サスケは立ち上がるとカーテンを開ける。
そして、ヤオ子の手の中でいつの間にか服が一着出来上がっていた。
ヤオ子は、それを重吾に渡す。
「お洗濯したんですけど、上の方がなかったんで。
合わせてみてください」
「オレにか?」
「はい」
重吾は服に袖を通す。
しかし、かなりぶかぶかだ。
「おかしいなぁ。
ズボンの大きさからすると、これぐらいだと思ったんだけど」
鷹のメンバーは思い出す。
「「「いつ元に戻るんだ?」」」
「分からない……。
材料が足りないのでな」
「元って、何?」
ヤオ子だけが首を傾げる。
重吾の体は、八尾と戦ってサスケを助けて以来、元に戻っていなかった。
とはいえ、小隊・鷹はイタチの体を取り戻すために動き出した。