== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
再び天地橋向け、ヤオ子が動き出す。
ヤオ子は温泉街の宿を出ると温泉街を抜け、森に入ると地図で位置を確認する。
「近いですね」
「ああ」
例によって、タスケはヤオ子の頭の上から確認している。
「ヤオ子。
今日は、修行はなしだ」
「どうして?」
「風に嫌な臭いが混じっている」
タスケは森の中を漂う、天地橋の方から流れてくる風に目を細めた。
第88話 ヤオ子のサスケの足跡調査・天地橋を越えて
天地橋に向けて、本格的なヤオ子とタスケの移動が始まる。
木々を飛び移りながら、ヤオ子はタスケに質問する。
「タスケさん。
さっきの嫌な臭いって、何ですか?」
「複数の忍と思われる臭いだ。
オレが忍犬なら、もう少し詳細な情報が手に入るんだがな」
「あたしは、全然分からないから、
タスケさんの感知範囲の広さがありがたいですけどね。
・
・
それで修行をしないのと、何の関係があるの?」
「忍との鉢合わせも考えられるということだ」
「戦闘になるかもしれないと?」
「ああ。
チャクラを温存して疲れを残すな」
「そうしようかな?」
今一、分かっていないヤオ子に、タスケが補足を入れる。
「ヤオ子。
お前の向かっている大蛇丸のアジトってのは、忍に取ってはお宝のあるかもしれない場所なんだ。
大蛇丸が色んな実験をしているのは有名だし、
各国の大名が目をつけて取り込もうと考えるぐらいの実力の持ち主だ。
そんな大蛇丸のアジトの一つに入れるチャンスが出来たんだ。
名の知れない盗賊まがいの忍や各国の隠れ里からの調査隊が来ていたとしても、不思議なことじゃないんだ。
事実、かなりの月日が経ったのに臭いが入り乱れている」
「なるほど」
「まあ、よっぽどのことがない限り戦闘にはならないだろうが、気を引き締めていくぞ」
「了解です」
タスケの言葉通りに気を引き締め直すと、移動中の会話はなくなっていった。
警戒する森の中には、小さな動物達の息づく声だけが響いていた。
…
森を抜け、ヤオ子達は地図にある天地橋に到着する。
一人と一匹は、目的の天地橋を見て呆然としている。
「橋が壊れてる……」
「戦闘の跡だな……」
天地橋は両端の残骸を残すして壊れていた。
ヤオ子が移動して橋を横から見る。
「木遁で壊れた橋を支えた跡があります。
きっと、ここでヤマト先生達が戦ったんです」
ヤオ子の言葉を聞いて、タスケは考える。
「一体、どうやって戦ったんだろうな?
橋が真ん中から壊れるてるぞ」
「本当だ。
何かが爆発したみたいだけど、
火薬の跡がないから、起爆札とか火遁系の術じゃないですね」
傍目からは分からない。
この惨状は暴走したナルトの九尾化で出来た跡だが、チャクラが延々と残っているわけがない。
ナルトの仕業で橋が壊れたとは思わなかった。
タスケがヤオ子を促す。
「先に進もう。
痕跡は先に続いている」
「はい」
ヤオ子はタスケと移動する。
橋を一気に飛び越え、森を抜ける。
そして、そこにあったのは……。
「クレーター……」
「……だな」
ナルトが九尾化して撃ったチャクラの圧縮弾の跡……。
地形を変え、土を抉り、広範囲に広がる。
ヤオ子は痕跡を指差す。
「何かビーム兵器でも撃った跡もありますよ?」
「ビームって、何だ?」
「荷電粒子とか中性粒子の流れで出来る兵器」
「わっからん!」
「ここで波動砲でも打ったんですかね?」
「波動砲って、何だ?」
「宇宙戦艦ヤマトに装備されている武器です。
確か初期段階の威力は、オーストラリア大陸と同程度の木星の浮遊大陸を一撃で消滅させるほど威力でした」
タスケが額に手を置くと、キレる。
「だから! さっぱり分からねーんだよ!
何だよ! オーストラリア大陸って!?
聞いたこともねーから、大きさも分からねーよ!」
「分からないですか?
じゃあ、べジータのファイナルフラッシュ」
「お前、舐めてんのか?
わっかんねーんだよ!
何だよ! ファイナルフラッシュって!?」
「べジータの必殺技。
多分、地球が消える」
「そんな危なっかしい術があるか!」
「術なんて呼び方は、ノーサンキューです!
必殺技と呼んでください!」
タスケのグーが、ヤオ子に炸裂した。
「お前、馬鹿だろ!?
本物の馬鹿だろ!?
何処から得た知識なんだよ!」
「漫画」
タスケのグーが、ヤオ子に炸裂した。
「漫画じゃねーか!
そんなもんをここに持って来んな!」
「だって~。
他にしっくりと来る例がないんだもん」
タスケは項垂れている。
「もう、いいよ……。
大蛇丸のところに着くまでに聞かせてくれ……。
その波動砲とかファイナルフラッシュとか……」
「気を引き締めて行くんじゃないの?」
「もう、いいんじゃね?
お前なら、大丈夫だよ。
死なねーよ。
デフォルトで緩んでんだから、これ以上、落ちねーよ」
「投げ槍ですね?」
「馬鹿らしくなって来た……。
お前にシリアスなんて合わねーんだよ。
お前、だらけてても危険察知できるようになれよ」
「見捨てないでくださいよ。
そんなの達人か仙人みたいな状態じゃないですか。
あたしは下忍で未熟者なんですよ」
「最近、少し真面目に忍者してるから安心てしたけど、
お前、根っ子はどうしようもない性格だもんな。
そのどうしようもないお前に正常なことを要求するのは間違いだったよ。
どうしようもないお前がどうしようもないことをするのは当然だし、
どうしようもないお前はどうしようもないままなんだ」
「…………」
ヤオ子が額に手を当てる。
「ここまで痛烈に否定されたのは初めてです。
あたしって、そんなにどうしようもないですか?」
「ああ、どうしようもない」
「即答ですか……。
たかが漫画を読んでいるだけで、
ここまでどうしようもない奴の烙印を押されるとは思いませんでした。
例がないから、漫画で知ってる知識をひけらかしただけなのに……」
「もう、いいだろう。
ここを調べるのか?
先に進むのか?」
ヤオ子が先を見つめる。
「進みましょう」
「……分かった」
ヤオ子とタスケは移動を開始すると、一瞬で姿を消した。
…
クレーターを抜けて、直ぐに森へと入る。
ヤオ子は少し真剣な声で、タスケに話し掛ける。
「……タスケさん」
「何だ?」
「少し重要なことなんですけど……」
「何か気付いたか?」
「そうじゃなくて……。
宇宙戦艦ヤマトとべジータの話……どっちが聞きたいですか?」
タスケがこけて、移動中の枝から落下しそうになる。
それを見たヤオ子は指からチャクラ糸を伸ばし、タスケをキャッチして引き戻す。
タスケは反動を利用して宙返りすると、ヤオ子の頭に着地してグーを炸裂させた。
「真剣に何を聞いているんだ!?」
「聞きたがってたじゃないですか……。
あたしは、語る気満々なんですけど」
「お前な……」
「あたしとしては、タスケさんは宇宙戦艦ヤマトの方が好みかと思うんですけど」
タスケが項垂れている。
「本当に……どうしようもない奴だな」
「話していい?」
「ああ……。
話せ話せ……」
「じゃあ、早速。
沖田十三が『バカめ』と相手に返信するところから──」
~ 十五分後 ~
「その真田って奴は凄いな」
「ええ。
あたしは宇宙戦艦ヤマトの中では、技師長が一番好きです」
「技師長って肩書きもいいよな」
「はい」
思いの他、宇宙戦艦ヤマトは好評だった。
…
宇宙戦艦ヤマトの話が延々と続き、最後の戦いの話が終わった頃、ヤオ子とタスケは大蛇丸のアジトに辿り着いた。
「…………」
サスケとサイの戦いで出来た大穴を確認すると、ヤオ子は少し緊張する。
これから隔離された場所で、他の忍と接触するかもしれない。
「なぁ。
古代と雪は、その後、どうなるんだ?」
「…………」
ヤオ子は額に手を置いて項垂れる。
「タスケさん……。
さっき、あたしをどうしようもない奴って言ってたの覚えてる?」
「撤回してやる。
それで、どうなんだ?」
ヤオ子が片眉を歪める。
「興味津々ですね!
そんなに気になりますか!?」
「いいから話せ!
気になって仕方ないんだよ!」
「……タスケさんこそ、
どうしようもない奴じゃないですか。
・
・
はぁ……。
あたしの蒔いた種です。
緊張感も何もなくなりますが話します」
~ 十五分後 ~
「スッキリだな」
「そうですか……」
タスケは気分爽快。
ヤオ子はテンションダウン。
そんな感じで大蛇丸のアジトへの潜入は始まった。
…
大穴からアジトへ入ると、中は通路を照らす蝋燭が消えて薄暗い。
奥に続く通路は深く、奥へ奥へと続いている。
「広いな……」
「ええ
・
・
臭いで分かりませんか?」
「結構、入り乱れているからな」
タスケは地面へと目を移す。
「臭いよりも足跡を追うぞ」
「ん?」
ヤオ子も下に目を移すと幾人もの足跡が見えた。
「同じ方向に続いているのが多いですね?」
「そこが盗掘屋の目的地だ」
「なるほど。
あたし達の知りたい情報も、当然、そこにあるはずですね」
「ああ」
ヤオ子とタスケが移動を開始する。
足跡を頼りに右折左折を繰り返し、やがて一つの部屋に行き当たる。
部屋の中に気配はない。
タスケが気配と臭いを嗅ぎ分ける。
「大丈夫だ」
「じゃあ、行きますか」
部屋の扉は破壊されて何もない。
ゆっくりと中を覗くと徹底的に荒らされた後だった。
資料や本が散乱し、棚からは幾つもの何かが持ち出されている。
「遅過ぎたな……。
何も分からない……」
「諦めるのは早いですよ」
ようやく辿り着いた手がかりがあるかもしれない場所。
ここで情報を得られなければ、サスケの情報を得る取っ掛かりすら見つからない。
欲しいのは、サスケが何をしていたかの情報なのだ。
ヤオ子は散乱した書類を丁寧に集め始め、脇にある机の上に資料や書類と一緒に積み上げていく。
決して量は多くない。
(これだけの情報では、何も引き出せないかもしれない……)
しかし、諦めるには、まだ早過ぎる。
ヤオ子がそれらに一つずつ目を通し始めると、タスケも机の上に座って一緒に目を通す。
「どうだ?」
「これらの資料は、物品の納入リストですね。
薬草や毒草や薬品……」
「使えないな」
「いえ……」
ヤオ子はデイバッグの中からノートと鉛筆を取り出し、残された物品の納入リストから何かを書き出し始めた。
「何を書いているんだ?」
「地名です」
書き出していたのは納入される物品の地名先。
物品がここへ運び込まれる経路だ。
根気強く経路を洗い出して地名を書き出し続ける。
そして、全ての納入リストを洗い出してリストが完成すると、今度はそれを上から下へと繰り返し読み続ける。
すると、ある傾向が出てくることにヤオ子は気付いた。
納入される物品が経由する地名に偏りがあるのだ。
ヤオ子の手が止まる。
「恐らくこの五ヶ所が重要なアジトか仕入れ先です」
納入リストを確認して分かった経由するポイントは五つ。
それらの地名に丸を付け、ヤオ子はデイバッグから地図を取り出して確認する。
(大したもんだな)
机の上の地図を覗く。
「四ヶ所は近いな」
「ええ。
だけど、五ヶ所のうち、この一ヶ所だけが離れています。
海の上にポツンとあります」
「怪しいな……」
「はい」
ヤオ子とタスケは知らないが、そこは重吾の居た北アジトの場所だった。
ヤオ子の見つけた資料は、重吾の体液の納入リストが含まれていたのだ。
「ここを第一候補にしましょう」
「何でだ?
他に四つも固まっているんだから、
情報が集まるのはそっちじゃないのか?」
「理由はないんです……。
ただの勘ですから」
「…………」
タスケは溜息を吐く。
「まあ、どっちに行くかは最終的に勘だしな。
大別すれば行き先は二つで、二分の一だ。
・
・
でも、もう少し調べよう。
何か裏づけが取れるかもしれない」
「そうですね」
ヤオ子とタスケが部屋を出て、別の部屋にも何かないかを探すことにした。
ヤオ子は奥へ延々と続く廊下を見て呟く。
「サスケさん……。
こんなところに居たの……」
何もない多くの部屋に、暗く長く続く廊下……。
そこには生活の営みが感じられず寂しい。
ヤオ子は振り返ると、タスケの後を追う。
しかし、これと言った情報は何も見つけられなかった。
見つかったのは、サスケがナルト達と戦った際に残した千鳥流しで放電させた焦げ跡だけだった。
そして、ヤオ子は自分の勘に従い、二択の行き先のうち、北アジトへの移動を決めた。