== NARUTO ~うちはサスケと八百屋のヤオ子~ ==
天地橋へ向け、ヤオ子街道を通らずに森の中を直進して進む。
障害物の多い地面での移動を避け、成長した大木の枝しかない最短距離を飛び移る。
忍者ならではの身体能力があって、初めて可能になる移動方法だ。
目的地はナルト達も泊まった温泉街。
そして、例によって移動中でありながらも修行は継続される。
木々を飛び移るタスケの横では、ヤオ子が息を切らしていた。
「少し休むか?」
「っ! まだまだ!」
(コイツ……ドMだよな)
一緒に行動をしてから一日も欠かさず、それどころか修行の濃度は濃くなる一方である。
血に目覚めて、追っていた人達の背中が見え始めた。
その人達が持っている力が、何を担保に入れて手に入れたかも分かる。
ヤオ子は動かずには居られなかった。
そして、そんなヤオ子を見て、タスケは呆れるのであった。
第87話 ヤオ子の復活・出入り禁止になった訳
本体のヤオ子は移動しながらチャクラ吸着で木を登ったり、手裏剣を投げつける修行をしていた。
数に限りのある手裏剣を無駄にしないように投げては瞬身の術で回収、投げてはチャクラ糸で回収を繰り返す。
そして、基本動作にも磨きを掛けるべく、動物の動きを取り入れて行動を読まれないようにタスケの師事を受ける。
「よし!
今度は、空中で捻りを入れて勢いを殺す!
目標は、次の枝に止まる2メートル前で捻って、一瞬、止まったように見せるんだ!」
「了解!」
ヤオ子の頭にタスケが飛び乗り、ヤオ子と感覚を共有する。
ヤオ子が一段と高く踏み込み、一気に枝までの距離を詰めると、枝に止まる前に体を捻って慣性を散らす。
着地は、余裕を持って決まった。
「OKだ。
大分、猫らしくなって来たぞ」
「その言い方だと、あたしが人間を捨てて行ってるみたいですよ……」
「気にするな。
・
・
しかし……。
また、変なことをするなぁ。
影分身で修行の経験値が入るんだろ?」
ヤオ子は枝の上で息を整えると訂正をする。
「タスケさん。
影分身の修行って、何でもかんでも経験値が還元されると思っていませんか?」
「違うのか?」
「はい」
ヤオ子が頭の上のタスケを見ながら指を立てる。
「いいですか?
影分身は、ダメージが術者に還元されないんです」
「当たり前だろう。
そんなもんが還って来たら、使いもんにならんだろう」
「その通りです。
では、筋力のアップとは何でしょう?」
「ん?」
タスケが髭をヒクつかせた。
「一般的に筋肉が発達するのは筋肉に損傷が発生し、
それを回復させる時に強靭な筋肉に作り変えるところにあります。
・
・
あたしの知識は、アイシールド21のデスマーチによる超回復の知識しかありませんが」
「で?」
ヤオ子は続ける。
「筋肉の損傷を筋肉痛。
そして、それが回復して筋力のアップと考えます。
・
・
筋肉の損傷ってダメージですよね?
それが還らないと肉体のパワーアップなんてないんですよ」
「ああ、なるほど。
・
・
ん?
そうなると、お前の影分身でのチャクラ吸着と手裏剣術の修行は意味なくないか?」
「いいえ。
意味はあります。
・
・
いいですか?
チャクラの性質変化の修行は意味があったんです。
これは体の使い方の経験値──つまり、知識の経験値が還元されたんです」
「ふむ」
「チャクラの使い方の経験値が木登り修行で還って、手裏剣の使い方が投擲修行で還ってきます」
「なるほど」
「でも、これだとスタミナ面と筋力面が強化できないんです。
影分身が使えても、泥臭いことはしないといけないんです。
本体で頑張らないと、スタミナが落ちて筋力が落ちるんです」
「じゃあ、影分身で意味があるのは、知識で蓄えられることだけなんだな。
体の使い方とか、情報得るとか、本を読んで知識を得るとかの」
「そうです。
元々、敵地に侵入したりして、情報を取得するための術とも聞いていますから」
「そのための経験値還元か……」
タスケが納得する。
「ただのドM的行動じゃなかったんだな」
「は?」
「何でもない」
「?」
一息ついてヤオ子達は移動を開始し、それに影分身達が続く。
風遁、雷遁の性質変化の質の向上に一体ずつ。
火遁→水遁→土遁の切り替えに三体。
移動中の修行は、一人で行なっているはずが集団で続いた。
…
温泉街……。
到着すると同時に影分身達が煙と共に消え、泥臭い修行で疲労する体に精神的負担も加わる。
ヤオ子は空を仰いで頭と体の調子を整え、しっかりと自分の経験として刻み込んでから大きく息を吐く。
そして、まず向かう先……。
「銀行です」
「何でだよ」
例によってタスケはヤオ子の頭に乗っかったまま。
ヤオ子は視線を上へと向ける。
「だって、働いてないんだから、お金を下ろさないと」
「そうか……。
じゃあ、生活費稼ぐために賞金付きの悪党退治でもするか?」
「通帳のお金を確認してからにします」
「ん?
・
・
何で、入ってる額を知らないんだ?」
「木ノ葉で生活している時は、初任給を確認してから、お金を下ろしていません」
「また変なことを言っているぞ。
何で、金を下ろさずに生活が出来るんだ?」
「あたし、自給自足みたいなことをしてたし……。
それに実家は貧乏だったから、とことん切り詰めるのがデフォルトでした。
任務先でも、色んなお土産を貰うから食費も掛かりません。
拾った電化製品を直した側から入れ替えるんで、
入れ替えたものは知り合いの方に安く譲って、現金払いで買い取って貰ってました。
・
・
簡単に言うと……給料いらなかった?」
「お前、どんな生活してたんだ!」
「さあ?」
「何なの!?
お前、何で、忍者やってるの!?」
「さあ?」
「生活するためじゃないの!?」
「いや、仕事するとただで生きていけるというか……。
そもそも忍者もノリでなったというか……」
「ノリで忍者になった奴が、何で、あんなに真面目に修行するんだよ……」
「あたしは、とことん突き詰める性分なんで」
頭を掻いて笑っているヤオ子を見て、タスケは項垂れる。
「何だろう……。
酷く虚しい……」
「兎に角、銀行に行きましょう」
「ああ……」
ヤオ子は旅の資金を下ろすため、銀行へと向かった。
…
ヤオ子がお金を下ろす理由は旅の資金を得ることも理由だったが、実のところ、木の葉が破壊されてしまったことが大きい。
支援物資の配給などがあるにしても、お金を使わないわけにはいかない。
仮設住宅の家族との生活の中で、違法改造で無事だった家の蓄えはどんどん減っていった。
寧ろ、あの家の中にあったものは、全て放出してしまったと言っていいだろう。
サスケの情報を得るための旅は、手荷物少な目の現地調達が決まっていたのだ。
到着した銀行でヤオ子が通帳を開くとタスケがヤオ子の頭の上から通帳を覗く。
「凄いな。
初任給の入った四年前の一万五千両から、一切、記載がないぞ」
「だって、自分で入金も引き出しもしてないもん」
「だから、光熱費とかの引き落としも書いてないのか」
「ええ。
じゃあ、窓口に行きましょう」
タスケが銀行に設置されているATMを指差す。
「機械があるぞ?
あっちの方が楽なんじゃないか?」
「イヤです。
使いません。
窓口にお姉さんが居るのに、何で機械なんて使う必要があるんですか!
機械は使わない!」
「…………」
頭の上で項垂れるタスケを無視して、ヤオ子は窓口に向かう。
そして、だらしなく口が歪む。
「ナイスバディのお姉さん♪
通帳の履歴の更新をお願いします♪」
「は?」
窓口のお姉さんは目をパチクリとしぱたいていたが、やがて笑みを浮かべてヤオ子の通帳を受け取った。
「四年前から使っていないのね」
「はい。
一応、入金や引き落としがあったと思うので、
記帳の方をして貰ってから、引き落としをしたいんです」
「ちょっと待ってね。
・
・
いけない。
お客様なのに……。
暫くお待ちください」
「気にしてないですよ。
では、よろしくお願いします」
ヤオ子は通帳をお姉さんに任せ、待合室の椅子に座る。
そして、間もなくして、ヤオ子の目の前で行員がバタバタと慌ただしく動き始めた。
「何があったんですかね?」
「さあな」
ヤオ子とタスケは人事のように見ているが、原因はヤオ子にあった。
『何なの!
この通帳!』
『機械が読み取れないって!』
『どうして!?』
『異常な量の入金の数だぞ!』
『じゃあ、通帳を新しいのと換えて!』
『また機械が換えろって!』
・
・
…
~ 二時間が過ぎた ~
ヤオ子が呼び出されると、目の前のお姉さんが二時間前より老けていた。
「お、お待たせしました……」
ヤオ子の前にズン!と、通帳の山が積み上げられた。
その山の高さは30センチを軽く超えていた。
「何これ?」
「お客様の振込みと振り落としを記帳をした結果です」
ヤオ子が一番上に積まれている通帳を手に取り、ヤオ子とタスケが通帳を見る。
「ああ……。
こんな任務もしてましたね」
四年前にこなした懐かしい任務の形跡が、電気、水道、ガスの支払いと木の葉からの振込みに紛れてちらほらと確認できる。
雑務の振込みによって、ヤオ子の経歴が垣間見えた。
「これ変だぞ。
任務した日が複数に渡ってる」
「一日、三十件以上請け負う時もありますよ。
影分身を使えるんで、人の何倍も働けるんですよ」
「それにしたって……。
それに普通、木の葉からの一括支払いじゃないのか?」
ヤオ子は難しい顔で付け加える。
「何か、税金の支払い関係で、個人と事業主でやって貰った方がいいとかいうのがあったり、
依頼主に気に入られて個人契約を結んだのもあるんです。
あと、木の葉を通さないでアルバイトまがいの雑務も……。
他にも、あたしだけの特別手当がついたり……」
「何やってたんだ? お前?」
「まあ、いいや。
一番新しいのだけあればいいから、これ要らない」
「あ!」
思わず窓口のお姉さんが声をあげた。
二時間掛けて記帳された通帳の山を、ヤオ子は側のゴミ箱に最新の一冊を残して全部捨てた。
結局、確認したのは最初の一冊だけだった。
(容赦ないな……)
タスケも呆れる。
そして、その横では、新しい通帳をヤオ子が確認する。
「え~と……。
幾ら貯まってんのかな?
・
・
一、十、百……ん?」
ヤオ子が目を擦る。
「タスケさん。
見間違いですかね?
桁が千萬両単位なんですけど……」
「は?
ガキが、そんなに稼ぐかよ。
・
・
……桁が千萬両単位だな」
「ですよね。
見間違いじゃなけりゃ、
七千七百七拾七萬七千七百七拾七両です」
タスケが吹いた。
「何だ! その額は!?」
「さあ?
道理で、記帳に時間が掛かるわけですよ。
・
・
まあ、お金いらないしなぁ。
すいません。
このお金を別の口座に入れたいんですけど」
「今度は、何を……」
窓口のお姉さんが警戒して聞く。
「え~と。
一千萬両を実家に入れて、
あたしには七百七拾七萬七千七百七拾七両残して、
六千萬両は、シズネさんの口座にでも放り込んでください。
里の復興に使ってくれるでしょう」
「とんでもない額が動いてる……」
窓口のお姉さんは乾いた笑いを浮かべている。
「あ、そうだ。
一萬両は財布に入れて置きたいので、引き出しで」
「か、かしこまりました。
額が大きいのでこちらの用紙に記入をお願いします」
「は~い」
やはり、ここでもヤオ子は一騒動を起こした。
…
銀行を出て温泉街の町中を歩きながら、ヤオ子がタスケに話し掛ける。
「大金を持ってしまいましたね」
「悪い……。
さっき、適当に振り込んだ額が大き過ぎて、
お前の手の中の金がはした金に見える」
「そうですか?
一萬両もあれば十分だと思いますよ」
「もう、いい……。
何かお前の金銭感覚についていけん」
「そうですか?
まあ、いいや。
今日は、少しいい宿に泊まりましょうね」
ヤオ子は、今晩の宿を求めて温泉街に姿を消した。
そして、数日後、出先で通帳を見たシズネが悲鳴をあげることになる。
実家の方は、ヤオ子と同じく貧乏性で通帳の確認などしない。
気付くのは、数ヵ月後になる。
ちなみに、シズネの口座番号は経理関係の任務で記憶していた。
…
ヤオ子は何件かの宿を訪れ、ようやく宿を決める。
猫と一緒に泊まれるかを聞いたら、断わられ続けたからだ。
お金を支払い指定された部屋へ向かいながら、タスケが舌打ちする。
「オレをペットとか言ってる時点で死刑だよな」
「物騒ですねぇ」
「お前も、そう思うだろ?」
「まあ……。
そういうことに……」
「大体、オレが親分でヤオ子が子分なんだから、
オレが飼い主でヤオ子がペットだろう」
「それも違う……」
ヤオ子が項垂れながら部屋の扉を開ける。
部屋は、和室。
一人部屋にしては広めである。
その部屋で荷物を降ろし、金庫に貴重品を放り込むと、早速、ヤオ子は備え付けの浴衣を手に持った。
「行きます!」
「何に気合いを入れているんだ?」
ヤオ子が鼻から息を吐き出し、手を力強く握る。
「露天風呂・女湯編です!」
「何だ? それ?」
「この時間帯にババアはいません!
観光目当ての若いお姉さんで、目の保養をします!」
「…………」
沈黙するタスケの首根っこを掴むと、ヤオ子が走る。
「オレ、こんな風に移動させられるの、
子供の頃に親猫に首根っこを口で咥えられて以来だ……」
ヤオ子は露天風呂へと走った。
…
タスケは呆れている。
ヤオ子の目がマジだ。
一分一秒を無駄にしないと物語っている。
露天風呂の脱衣所を力強く開け、一瞬で服を脱ぎポンになる。
タスケを脇に抱え、髪を下ろし、反対の手で力強くお風呂セットを抱えると準備OKだ。
「いざ!」
タスケは、もう呆れて何も言えない。
…
桃源郷……。
理想郷……。
言い方は、幾らでもある。
「あはぁ~♪
ここは、遥か遠き理想郷~♪」
目の飛び込む、裸! 裸!! 裸!!!
この時間は、ヤオ子の予想通りだった。
ヤオ子はタスケを抱いたまま、だらしなく口を緩める。
「もう、勝手にしろ……」
タスケが溜息を吐くと、そのタスケの頭に雫が落ちる。
「ん? 湯気か?
天井から? ダラ~リと?
・
・
ダラ~リ? 露天風呂で?」
湯気からなる雫に粘着性など、一切、含まれない。
おかしな感触に、タスケは上を見る。
直後、タスケの顔にダクダクと涎が……。
「ぎゃ~~~ッ!」
タスケが絶叫し、ヤオ子の腕をタップする。
「ん?
どうしたの?」
「涎! 涎! 涎!
よ・だ・れ~~~っ!」
ヤオ子は口から零れ落ちる涎に気づくと、口を拭って舌で涎を舐め取る。
「失敬」
「ぎゃ~~~ッ!」
「今度は、何?」
タスケがヤオ子を指差す。
「涎は、止まりましたよ?」
「それ!」
「それ?」
「髪!」
「髪?」
ヤオ子が荷物とタスケを置いて、自分の長い髪を取る。
「何じゃこりゃぁぁぁ!?」
ヤオ子の髪が、元の茶色に戻っていた。
「や、やっぱりエロパワーですかねぇ……。
久々の女湯ですから……」
「頭が痛い……。
しかも、訳の分からない現象が……」
「何から紐解きたいですか?」
「そうだな……」
考え込むタスケに合わせて、ヤオ子もしゃがみ込んでいるが若い女性客からは注目の的だ。
登場僅か数秒での大絶叫し、全員の目が集まった瞬間に大量の涎が滝のように流し、徐々に色が変わる髪(エロパワー充電)。
そんな奇異の目を向けられる中で、タスケが質問する。
「まず、何で、変態のお前が大好物の女湯に入れないんだ?」
「あたしは、木ノ葉の温泉街の出入り禁止です。
度重なる大絶叫と温泉客へのセクハラ……。
決め手は、シズネさんを天国に逝かせてしまったことですね」
「天国? 何した?」
「何? 何ですね~。
リアルに語ったら、XXX板に移行です」
「…………」
タスケは額に手を置いて、頭が痛そうな顔をしている。
「で、髪が変わったのは?」
「露天風呂で美女の裸を凝視し、
徐々に失われたエロパワーが充電されたから」
「そんなんで納得するかーっ!」
「いや、しかし……でも、ねぇ」
「何なんだ! お前は!?
初めて会った時は、もっと人間らしかったぞ!」
「こんなもんですよ……昔から。
寧ろ、タスケさんと会った時は抑え気味というか……」
「大体、ちょくちょく出てくるエロパワーって、何だ!?」
「真の変態に備わるミラクルパワーです。
大抵の不可思議なことは、これのせいです」
「納得しねーよ?
そんなんじゃ納得しねーからな!」
「あん♪
タスケさんのオマセさん♪」
ヤオ子がタスケの顎下をゴロゴロと撫でると、タスケはヤオ子の指に噛み付いた。
「痛っ!
何すんの!」
「お前こそ!
あんな説明で納得できるか!」
「納得納得と了見の狭い……。
あたしは、タスケさんは、もっと器の大きい猫だと思っていました」
「ふざけるな!
お前の変態性の全てを理解できる器の持ち主なんぞ、存在するか!」
「ふ~んだ。
あたしのお母さんは理解してくれるも~ん」
「どうせ! お前に輪を掛けたような変態だろうが!」
「よく分かりましたね?」
「そうなのか!?」
「適当に言ったの?」
「ったりめーだ!」
「もう、いいでしょ。
あたしは、もっとエロパワーを充電しないといけないんだから」
ヤオ子はタスケとの会話を止め、露天風呂に振り返る。
しかし、そこには居なかった。
ヤオ子達の会話は筒抜けていた。
「なぜ!?」
当然の結果だった。
…
一人と一匹しか居なくなった露天風呂……。
タスケは水を被って涎を流し、器用に前足を使って石鹸を使って泡だらけになる。
「何で風呂来て、汚れなきゃならないんだ」
再び水を被って泡を流すと、タスケは温泉の中にダイブして優雅に泳ぎ出した。
「は~……。
何か充電が不完全な感じ……」
一方のヤオ子も、誰もいなくなった露天風呂で体を洗い始める。
木ノ葉の温泉街でも、大体、こんな騒動が起きて出入り禁止になった。
決してシズネを天国に逝かせたからだけではない。
決定打になったのは確かだが……。
ヤオ子は、温泉に浸かりながら息を吐く。
「貸し切りみたいですね~」
営業妨害以外の何者でもない。
「若い子、入って来ないかな~」
何が目的なのか?
のんびりと浸かるヤオ子にタスケが平泳ぎで近づいて来る。
(猫って、ああいう泳ぎ方するんだっけ?)
違和感バリバリだ。
「なぁ、そんなに女体に興味あるなら、
自分の見てればいいじゃないか?」
ヤオ子は大げさに溜息を吐いて見せる。
「タスケさんは分かってない……分かってない!
そもそも自分の裸になんかに欲情できるか!
自分以外の女体だからいいんでしょ!
セクハラだって、されるんじゃなくてするからこそ意味があるんです!
あたしの体はエロいことしたい時に相手を魅惑できれば十分!
あたしがあたしの体に欲情しても意味がない!」
「さっぱり分からん……。
男には興味ないのか?」
「ありまくりです!
見たい触りたい弄りたい!」
「お前、どっちでもいけるんだな?」
「いけます!
いってみせます!
例え、この道が茨の道でも進み切ってみせます!」
「嫌な道だな……。
それ以上、進むなよ……」
「ふ……。
忍者とは忍び耐える者なのです」
「……お前、絶対に他の場面でも、それを例えているだろう?」
「…………」
ヤオ子が笑って誤魔化すと、タスケは何度目かの溜息を吐く。
「お前、恋愛なんて出来ないだろうな」
「どうですかね?
うちのお母さんみたいに欲しい男を無理やり捕食するのも手ですしね」
「誰だよ。
そのかわいそうな男は?」
「あたしのお父さんで、木ノ葉一の馬鹿ですね」
タスケがこけた。
「お前、家庭から崩壊しているんだな……」
「ええ。
でも、お父さんもお母さんも大好きです」
ヤオ子の疑いのない笑顔。
タスケは苦笑いを浮かべる。
「変な奴だ……」
タスケが目落とすと、お湯の中でヤオ子の茶色の髪が揺れている。
「髪……元に戻ったな」
「はい……。
完全復活という感じです」
ヤオ子の目に少し真剣さが浮かぶ。
「サスケさんの情報……。
手に入ればいいですけどね」
「そうだな……」
「あたし……。
木ノ葉でサスケさんと任務したいな。
サスケさんの居ない間に成長したあたしを見て欲しいな。
・
・
サスケさんが変わってしまったなんて信じたくないです」
「その変わった原因を調べるんだろ?」
「はい……」
「真実は辛いかもしれないぞ?」
「はい……。
変わった原因に納得できれば諦めもつくんですけどね」
「納得できなければ?」
「……いつも通りに壊そうかな?」
タスケが笑う。
「ああ、それでいい。
それがお前らしい。
・
・
そのサスケって奴が変わっちまったんなら、
何も変わらないお前を見せ付けて思い出させてやれ」
「いいですね。
そうしましょう」
ヤオ子は温泉をあがると、髪を絞る
それにタスケが続き、何かに気付く。
「お前……。
背中にうちはの家紋が浮いているぞ?」
「……怪我の痕です。
傷口は綺麗に治して貰ったんですけど、体温が上がると浮かび上がるんです。
お母さんが気付きました」
「そうか……。
刺青にしては荒いもんな。
酷い怪我だったんだな」
「人生で一番の大怪我ですね。
ま、人に見せるもんでもないし……行きましょう」
「ああ」
ヤオ子とタスケが露天風呂を後にする。
そして、その日は、豪華な食事に舌鼓を打ち、ゆっくりと眠って英気を養った。